(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のマイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備え、水に対して少なくとも90°の静的接触角を有する、疎水性マイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面であって、
1)DIN EN ISO 527−2に従って測定したときの、少なくとも10%の破断点での伸長率と、
2)ASTM D 412−98a(2002)に従って測定したときの、2%未満の不可逆的相対塑性変形(永久歪率)と、
3)DIN EN ISO 527−1に従って測定したときの、少なくとも5MPaの引張強度と、を有する高分子材料を備え、
前記高分子材料が、
a)少なくとも60重量%の、ポリウレタン、ポリアクリレート、エポキシアクリレート、シリコーンアクリレート、及びポリエーテルアクリレートを含む群から選択される、1つ以上の架橋可能なオリゴマー化合物及び/又は高分子化合物と、
b)2〜40重量%の、1つ以上のアクリレート基、メタクリレート基、又はビニル基を含有する紫外線硬化性モノマーの群から選択される、1つ以上の反応性希釈剤と、
c)0.05〜10重量%の、シリコーン、フルオロケミカル、及び長鎖アルキル化合物を含む添加剤の群から選択される、1つ以上の疎水性添加剤と、
d)0〜5重量%の1つ以上の光開始剤と、を含む、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られる、表面。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の第1の好ましい実施形態は、複数のマイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える耐スクラッチ性構造化表面であって、綿布及び総スタンプ重量300gを用いて、A.A.T.C.C.試験方法8−1972に従って10回の摩擦サイクルに供したときに本質的に変化しないように選択される、高分子材料を備える、表面に関する。
【0026】
本発明の別の好ましい実施形態は、複数のマイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備え、水に対して少なくとも90°の静的接触角を有し、好ましい機械的特性を有する本質的にエラストマー性の高分子材料を備える、疎水性構造化表面に関する。
【0027】
マイクロスケールの表面要素及びナノスケールの表面要素という用語はそれぞれ、上記及び下記において使用するとき、表面要素のそれぞれ長さ、幅、サイズ、又は高さ(若しくは深さ)のうちの少なくとも1つが、それぞれμmスケール又はnmスケールである、表面に配置された別個の表面要素を指す。
【0028】
複数の前記マイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える表面は、上記及び下記において、マイクロスケールの表面要素を有するか、若しくはマイクロスケールの表面要素及びナノスケールの表面要素を両方有する表面を備えるマイクロ構造化表面、又はナノスケールの表面要素を備えるが、マイクロスケールの表面要素を備えないナノ構造化表面と称される。マイクロ構造化表面又はナノ構造化表面は、通常は、巨視的な長さ及び幅をそれぞれ有する。巨視的又はマクロスケールという用語は、それぞれ、上記及び下記において、1mmを上回る構造化表面又は表面要素それぞれの延出部を特徴付けるために使用する。
【0029】
特定のマイクロスケール又はナノスケールの表面要素それぞれのサイズは、表面と平行な任意の方向のその最大延出部と定義される。即ち、例えば、円筒状表面要素の直径、又は角錘状表面要素の底部面の対角線と定義される。表面内に(又は表面と平行して)、1つ以上の方向にマクロスケールの延出部を有し、表面内に1つ以上の他の方向にマクロスケール又はナノスケールの延出部を有する表面要素の場合、表面要素のサイズという用語は、かかる表面要素のマクロスケール及び/又はナノスケールの延出部を指す。
【0030】
特定のマイクロスケール又はナノスケールの表面要素それぞれの長さは、構造化表面の長さの方向のその延出部と定義される。同様に、特定のマイクロスケール又はナノスケールの表面要素それぞれの幅は、構造化表面の幅の方向のその延出部と定義される。
【0031】
突出する(又は上昇する)表面要素の高さは、隣接する底面であって、その上にそれぞれの突出する表面要素がかかる底面に対して直角の方向に配置される、底面から測定されるそのそれぞれの延出部によって定義される。同様に、隣接する露出した上面から下向きに延出する表面要素の深さは、隣接する上面であって、そこからくぼみがかかる上面に対して直角の方向に延出する、上面から測定されるそのそれぞれの下向き延出部によって定義される。
【0032】
2つの隣接する表面要素間の距離は、かかる表面要素間の構造化表面内のある方向の2つの最大値又は極大値それぞれの間の距離と定義される。
【0033】
表面と平行する1つ以上の所定の方向に規則的な配列の表面要素を有する構造化表面は、かかる方向の1つ以上のピッチ長さによって特徴付けることができる。表面と平行する特定の方向において、ピッチ長さという用語は、2つの隣接する規則的に繰り返す表面要素の対応する点間の距離を意味する。これは、チャネル表面要素及びレール型表面要素であって、双方が第1の長手方向に互いに本質的に平行に巨視的に延出し、それぞれ前記長手方向に垂直にマイクロスケールの断面、及び必要に応じてナノスケールの断面を有する、チャネル表面要素及びレール型表面要素の交互配列を備える構造化表面について説明することができる(
図1a及び
図2aを参照)。長手方向に垂直なかかる構造化表面のピッチ長さは、かかる法線方向のチャネル型表面要素の幅とレール型表面要素の幅との合計である。
【0034】
本発明の構造化表面は、複数のマクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える。マイクロスケール及びナノスケールの両表面要素を備える構造化表面が好ましい。
【0035】
明確に異なるスケールの少なくとも2つの異なる表面要素を呈する構造化表面は特に好ましい。表面構造はランダムであって、例えば、多様なサイズ及び形状を呈してもよいナノスケール及びマイクロスケールの表面要素のランダム分布を備えてもよい。米国特許第6,641,767号の蒸着された構造化表面及び対応するネガ又はポジそれぞれのレプリカ表面は、マイクロスケール及びナノスケールの両表面要素を有するランダム表面を開示している。
【0036】
更に、露出した上面を有する複数の突出するより大きいスケールの表面要素を備え、突出部の露出した上面上、及び/又は突出部間それぞれのくぼみの表面上に複数のより小さいスケールの表面要素を担持する構造化表面は特に好ましい。このような構造は、上記及び下記において、SonS型構造(構造上構造)とも称される。
【0037】
好ましくはマイクロスケールの延出部を有するより大きいスケールの表面要素は、本質的に規則的に配置してもよく、及び/又は本質的に規則的な形状を呈してもよい。かかる微視的に規則的なSonS構造は、例えば、下記の
図2a及び
図2bに図示されるが、レール型表面要素(
図2a)はマイクロスケールであり、これは
図2bに示すランダムに配置された多数のナノスケールの表面要素を担持する。SonS構造の別の有用な例は、例えば、欧州特許第0,933,388号の
図1に開示されている。SonS構造化表面は、大スケール又は低スケールの表面要素のみをそれぞれ有する表面と比較して、水に対してより高い接触角を呈する傾向があることが判明した。
【0038】
本発明において有用なマイクロスケールの構造化表面要素の長さ、幅、サイズ、又は高さ(深さ)のうちの少なくとも1つは、1〜1,000μm、より好ましくは2〜500μm、特に好ましくは2〜250μmである。
【0039】
本発明において有用なナノスケールの構造化表面要素の長さ、幅、サイズ、又は高さ(深さ)のうちの少なくとも1つは、10nm〜1,000nm、より好ましくは20nm〜500nm、特に好ましくは50nm〜400nmである。
【0040】
本発明において有用な表面要素の高さ及び深さは、それぞれ、好ましくは10nm〜500μm、より好ましくは25nm〜300μm、特に好ましくは50nm〜250μmの間で異なる。
【0041】
本発明の構造化表面中に存在する2つの隣接する表面要素間の距離は、好ましくは10nm〜500μm、より好ましくは50nm〜500μm、特に好ましくは100nm〜350μmの間で異なる。好ましくは、2つの隣接するマイクロスケールの表面要素間の距離は、少なくとも50nm、とりわけ100nm〜500μmである。2つの隣接するナノスケールの表面要素間の距離は、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、とりわけ5nm〜250nmである。
【0042】
本発明において有用なマイクロスケールの表面要素のサイズ、深さ、及び/又は高さの平均値のうちの少なくとも1つは、好ましくは2〜200μm、より好ましくは2〜150μmである。マイクロスケールの表面要素の平均寸法は、例えば、SEM顕微鏡写真を撮影し、それを評価することによって測定することができる。
【0043】
本発明において有用なナノスケールの表面要素のサイズ、深さ、及び/又は高さの平均値のうちの少なくとも1つは、好ましくは10〜500nm、より好ましくは10〜250nmである。ナノスケールの表面要素の平均寸法は、例えば、SEM顕微鏡写真を撮影し、それを評価することによって測定することができる。
【0044】
2つの隣接する表面要素又は表面構造間の平均距離は、それぞれ、好ましくは少なくとも約10nm、より好ましくは少なくとも約25nm、特に好ましくは少なくとも約30nmである。2つの隣接する表面要素間の距離の平均寸法は、例えば、SEM顕微鏡写真を撮影し、それを評価することによって測定することができる。
【0045】
本発明において、マイクロ構造化成形型表面又はナノ構造化成形型表面と、前記成形型表面から複製によって得ることができるマイクロ構造化表面又はナノ構造化表面とは区別される。所望であれば、最初に成形型表面から複製されたマイクロ構造化表面又はナノ構造化表面を、後の加工で成形型表面として使用してもよい。
【0046】
マイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素は、構造化表面上に、規則的なパターン又はランダムパターンで配置することができる。また、成形型表面又は構造化表面それぞれのマクロスケールの表面要素、及び存在するのであればナノスケールの表面要素の形状及び断面は、大きく異なってもよい。表面要素は、幾何学的に規則的な形状及び断面を呈してもよく、又は形状及び断面は、不規則若しくはランダムであってもよい。幾何学的に規則的な断面の例には、例えば、三角形、長四角形、多角形、半円形、又は半楕円形の断面が挙げられる。幾何学的に規則的な形状の例は、プリズム状又は円筒状の構造、線形の溝又はチャネルなどを含む。規則的な表面要素を規則的なパターンで備える構造化表面は、規則的構造化表面と称され、一方その他の構造化表面は、ランダムであると称される。
【0047】
不規則なマイクロ構造化表面、及び必要に応じてナノ構造化表面は、例えば、米国特許第6,641,767号に開示される化学蒸着過程によって得ることができる。この方法によって得られる成形型表面は、複数のランダムに位置付けられた多様な形状及びサイズの表面要素を含む。この表面は、次いで、蒸着された表面のネガである構造化表面に複製される。所望であれば、かかる複製された構造化表面は、蒸着された成形型表面のポジレプリカに更に複製可能な成形型表面として使用することができる。蒸着された成形型表面のそれぞれネガレプリカ(
図6)及びポジレプリカ(
図7)を示す米国特許第6,641,767号の
図6及び
図7それぞれは、双方とも、本質的に円錐形状、管形状、環形状、又は角のある形状を含む、様々な幾何学形状を有する表面要素を示す。表面要素は、更に、ランダムに配置される。
【0048】
規則的なマイクロスケールの成形型表面、及び必要に応じてナノスケールの成形型表面は、銅又はニッケルめっきしたスチール表面などの金属表面を、例えばダイヤモンド切断工具で切断することによって得ることができる。ダイヤモンド切断工具法は、例えば、米国特許第7,140,812号に開示されている。また、規則的なマイクロスケールの成形型表面、及び必要に応じてナノスケールの成形型表面は、例えば、写真処理又は半導体材料の加工技術から公知のエッチング手順によって得ることができる。
【0049】
本発明のマイクロ構造化表面、及び必要に応じてナノ構造化表面は、好ましくは規則的な成形型表面から複製される。したがって、本発明のマイクロ構造化表面、及び必要に応じてナノ構造化表面は、好ましくは規則的である。
【0050】
好ましい実施形態において、本発明のマイクロ構造化表面又はナノ構造化表面は、ぞれぞれ、第1の長手方向に巨視的に延出するチャネル又はレールなどの表面要素を備える。かかる表面の例は、下記の
図1〜3に示される。長手方向に垂直なかかる表面要素の断面は、長手方向と直行する2つの方向のうちの少なくとも1つの方向に、マクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を呈する。表面要素は、例えば、本質的に一直線に、又は波状若しくはジグザグ状に長手方向に延出してもよい。長手方向に垂直な表面要素の断面は、例えば、三角形、長四角形、台形、半円形、又はその他のいかなる規則的な多角形若しくは曲線形状であってもよい。
【0051】
別の好ましい実施形態において、本発明の構造化表面は、長手方向及び長手方向に対して垂直に、若しくは傾斜した角度でそれぞれ配置された方向の両方向に規則的に配置された、マイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える。
【0052】
規則的な表面は、好ましくは、上記に定義したいわゆるピッチ長さによる所定の方向に特徴付けられる。
【0053】
本発明による構造化表面は、不規則なパターン、又は例えば格子パターンなどの規則的なパターンで配置することができる非構造化表面積及び構造化表面積を備えてもよい。
【0054】
上記及び下記において、複数のマイクロスケールの表面要素を呈さない本質的に平滑な表面は、非構造化表面又は平滑表面と称する。フロート・ガラスは、通常は、平滑な非構造化表面を呈する。また、平滑表面は、例えば、平滑な研磨されたスチール製ロール間のポリマーの押出しによって、又は研磨されたスチール製ロール間の押出された高分子フィルムのカレンダー処理によってそれぞれ得られた高分子フィルムによって提供することもできる。
【0055】
表面の形態は、一般的に、例えば、粗さプロファイルの縦座標の絶対値の算術平均と定義される粗さ平均値Ra、サンプリング長さ内の最も高い頂点と最も深い値との間の垂直距離と定義される単一粗さ深度Rzi、連続サンプリング長さの単一粗さ深度Rziの平均値と定義される平均粗さ深度Rz、及び評価長さ内で最も大きい単一粗さ深度と定義される最大粗さ深度Rmaxなどの表面粗さパラメーターによって特徴付けられる。これらの定義は、DIN ISO 4287及び4288からそれぞれ取り入れた。表面粗さパラメーターを測定するための試験方法は、下記の試験の項で説明する。しかしながら、この試験方法は、とりわけマイクロ構造化表面の場合に好適であり得るが、ナノ構造化表面は、分光法又は原子間力顕微鏡法(AFM)など、より高い解像度を有する表面粗さパラメーターを測定するための試験方法を要し得ることに留意すべきである。
【0056】
本発明において参照点として使用される本質的に平滑な非構造化表面は、好ましくは、通常は約0.1μm以下の低いRa値を呈する。H.Buscherら、The Effect of Surface Roughness of Polymers on Measured Contact Angles of Liquids、Colloids and Surfaces、9、319〜331頁(1984)によると、平滑表面は、粗さRaが約0.1μm又はそれ未満の平滑なPETフィルム、又は同様の表面粗さを有する平滑なガラス表面の複製を形成することによって得ることができる。しかし、低いRa値は、本質的に平滑な非構造化表面を画成するために必要であるが、十分ではないことに留意すべきである。表面形態がランダムである、即ち規則的なパターンを呈さないことも更に要求される。
【0057】
下記の実施例の項において、非構造化表面は、放射線硬化性前駆体材料を平滑ガラス表面又は特定の市販のライナーの表面に適用し、前駆体材料を放射線硬化し、得られた硬化フィルムをガラス又はライナー基材から除去することによって調製した。平滑ガラス表面又はライナー表面のそれぞれと接触していたフィルムの表面は、構造化されていないことが認められ、非構造化表面を形成する材料の、水に対する接触角を評価するために使用した。本質的に均一な表面を調製するために使用した市販のライナーには、例えば、MELINEX 505フィルム(DuPont Teijin Films Luxemboug S.A.)又はHOSTAPHAN 2SLK(Mitsubishi Polyester Film GmbH、Wiesbaden,Germany)が含まれる。
【0058】
水に対して少なくとも70°〜130°未満の静的接触角を呈する表面は、上記及び下記において、疎水性表面と称される。水に対して少なくとも130°以上の静的接触角を有する表面は、上記及び下記において、超疎水性表面と称される。本発明の疎水性構造化表面は、水に対して少なくとも90°の静的接触角を有する。
【0059】
表面の疎水性は、特徴付けるべき表面に、温度23℃で既定の容量を有する水滴を適用する測角装置で定量的に測定することができる。測角装置は、表面と水滴との間の表面接触角に関して自動的に評価される写真を撮影する。測定方法の詳細は、下記の試験方法の項に示す。第1の長手方向に互いに本質的に平行に巨視的に延出し、前記長手方向に垂直なマイクロスケールの断面、及び必要に応じてナノスケールの断面を有する、チャネル又はレールなどそれぞれの表面要素を含む構造化表面の水に対する接触角は、好ましくは以下のように評価される。水の接触角は、長手方向に相当する第1の観察方向及び前記長手方向と垂直な第2の観察方向の両方向で測定する。かかる表面について報告された水に対する接触角は、次にそれぞれ水に対する前記測定された長手方向接触角及び垂直接触角の算術平均の算術平均値として得られる。
【0060】
例えば水に対する、構造化表面の接触角は、主に、例えば材料の表面エネルギー及び表面の構造など、構造化表面を形成する材料の特性に応じて異なる。水滴と構造化表面との間の接触角、ひいては構造化表面の撥水性は、水滴と構造化表面との間の接触面積を減少させ、それにより水/空気界面を増加させ、固体構造体と水との間の界面を減少させることによって、増加させることが可能である。本発明者らは、かかる理論に縛られることは望まないが、水滴と構造化表面との間の接触面積が小さいかかる構造化表面上では、水は、吸着によって、その表面の拡張を補償するための極めて小さいエネルギーを得るため、拡散は生じないと考えられる。
【0061】
更に、本発明者らは、構造化疎水性表面の表面要素は、水滴とかかる構造化表面との間の高い静的接触角を提供するために、好ましくは、高さ5〜100μm、及び表面要素間の距離5〜200μm、より好ましくは10〜100μmを有することも発見した。構造化表面の表面要素が近接しすぎている場合、構造化表面は、水滴からは、本質的により容易に湿潤し得る「閉鎖表面」とみなされる可能性がある。例えば、突出する表面要素又は上昇部の間の距離を減少させる場合、かかる上昇部の高さも好ましくは増加する。米国特許第3,354,022号によると、固体表面の臨界空気接触(即ち、水滴と接触していない表面積の、水滴と接触している表面積に対する比率)は、約60%である。その値を超えると、表面は疎水性であり、この疎水性は、空気接触が増加するのに伴って増加する。
【0062】
B.Vielは、Technical University of Darmstadtに2007年9月5日に提出され、Darmstadt,Germany,2008に公開された、「Strukturierte Kolloidpartikel fur ultrahydrophobe,schmutzabweisende Oberflachen」(超疎水性・撥汚性表面のための構造コロイド粒子)と題する博士論文の72〜74頁に、粗面の液滴の均一なウェットアウト及び不均一なウェットアウトとそれぞれ称される、2つの理論上の極端な例が区別できることを開示している。R.N.Wenzel,Ind.Eng.Chem.,28,988(1936)によって記載されている均一なウェットアウトの場合、液滴は、粗面を本質的に完全に湿潤させ、例えば、粗面の表面要素の突出部分によって形成される小さい凹みに浸透する。A.B.D Cassie,S.Baxter,Trans.Faraday Soc.,40,546(1944)に記載されている不均一なウェットアウトの場合、液滴は、粗面を完全には湿潤させないが、液滴は、例えば粗面の小さい表面要素の突出部分上に留まり得る。したがって、表面に対向する液滴の表面の部分と表面との間にエアギャップが形成され、液滴が表面上方で「空中静止」することになる。
【0063】
Wenzelによる均一なウェットアウトの場合、水滴に対する表面の静的接触角は、通常は、表面粗さの増加に伴って増加する。Cassieによる不均一なウェットアウトの場合、水滴に対する粗面の静的接触角は、通常は、湿潤していない構造化表面の部分が増加する場合に増加する。
【0064】
Vielは、博士論文(同上)の73頁に、超疎水性表面が、不均一な表面湿潤を呈する傾向がある一方、疎水性表面は、均一な表面湿潤を呈する傾向があることを開示している。
【0065】
本発明の好ましい実施形態の構造化表面は、疎水性であり、この用語は、疎水性構造化表面及び超疎水性構造化表面の双方を含む。本発明の疎水性表面、即ち、水に対して90°〜130°の静的接触角を有する構造化表面は、ナノ構造化表面、マイクロ構造化表面、並びにマイクロ構造化表面及びナノ構造化表面をそれぞれ備える。本発明の超疎水性表面、即ち、水に対して少なくとも130°の静的接触角を呈する構造化表面は、好ましくは、マイクロ構造化表面、並びにマイクロ構造化表面及びナノ構造化表面を備え、それにより表面要素の寸法は、好ましくは高さ5〜100μm及び表面要素間の距離5〜200μm有する。
【0066】
本発明のマイクロ構造化表面、及び必要に応じてナノ構造化表面は、1)少なくとも10%の破断点での伸長率と、2)2%未満の不可逆的相対塑性変形(永久歪率)と、3)少なくとも5MPaの引張強度とを有する高分子材料を備える。
【0067】
本発明者らは、かかる材料が、機械的に耐久性があり、機械的応力を「許容」する、マイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面を提供することを可能にすることを発見した。
【0068】
本発明のマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面は、本質的にエラストマー性の高分子材料を備える。エラストマー性とは、その材料が、引き伸ばされるか、又は機械的にゆがめられた後にその元の形状を実質的に取り戻すことを意味する。本発明者らは、かかる説明に縛られることを望まないが、かかるエラストマー材料を備える本発明の表面の表面要素及び表面構造は、機械的応力を印加したときに本質的に弾性的に変形する傾向があり、それによって表面構造の機械的損傷を最小限に抑えると考えられる。
【0069】
本発明の表面に使用した材料のエラストマー特性は、2%未満、より好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.0%以下の低い永久歪率により、定量的に定義される。材料の不可逆的相対塑性変形を定量化する、材料の永久歪率は、下記の試験の項に記載する標準試験方法ASTM D 412−98a(2002)に従って測定することができる。
【0070】
本発明のマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面に含まれる高分子材料は、更に、下記の試験の項により詳しく記載するように、DIN EN ISO 527−1及び527−2に従って測したときに、少なくとも5MPaの引張強度及び少なくとも10%の破断点での伸長率を呈する。高分子材料の引張強度は、より好ましくは少なくとも10MPa、特に好ましくは少なくとも20MPaである。少なくとも20MPaの引張強度及び少なくとも15%の破断点での伸長率を有する高分子材料はとりわけ好ましい。
【0071】
本発明者らは、少なくとも10%の破断点での伸長率、少なくとも5MPaの引張強度、及び2%未満の不可逆的相対塑性変形(永久歪率)を有する高分子材料を備える本発明の構造化表面が、とりわけ、好ましい耐スクラッチ性を呈することを発見した。かかる特性は、本発明のマイクロ構造化表面を基材又は物品に適用して、かかる基材及び物品に超疎水性及び/又は洗浄容易性効果を提供する用途では不可欠である。
【0072】
表面の耐スクラッチ性を評価するための試験方法は、下記の試験の項に明記する、いわゆるEricson試験である。この試験は、表面を異なる硬度のグラファイト鉛筆で処理することを含む(H値で測定)。より高い耐スクラッチ性の材料は、より高いH値をもたらし、したがってより高いH値を有する材料が好ましい。
【0073】
表面の耐スクラッチ性を評価するための別の試験は、A.A.T.C.C.摩擦方法8−1972に指定され、総摩擦重量300g又は920gをそれぞれ、綿布又はステンレススチールウールをそれぞれ使用する。
【0074】
好ましい実施形態において、本発明の表面は、綿布及び総スタンプ重量300gを用いて、A.A.T.C.C.試験方法8−1972に従って10回の摩擦サイクルに供したときに、本質的に変化しない。これは、例えば、光学的方法を用いて、又はSEM写真を撮影して、前記摩擦手順の前及び後のぞれぞれに表面を特徴付けることによって評価することができる。
【0075】
光学的試験方法の一例は、前記摩擦処理の前後に、表面の干渉スペクトルを記録し、かかるスペクトルを定性的に比較することを含む。可視光線で得られる干渉スペクトルの場合について、下記の試験の項で説明するこの方法は、表面から前記摩擦手順の前後それぞれに得られるかかる干渉スペクトルを比較する。
図5aは、前記摩擦処理後の実施例6Dによる本発明の構造化表面のスペクトルを示す。このスペクトルは、前記表面処理前に記録したスペクトルと本質的に一致し、即ち実施例6Dの表面のスペクトルは、前記摩擦処理の影響を本質的に受けないままであった。これとは逆に、
図5b及び
図5cは、前記摩擦手順後に、比較例6及び7それぞれの表面に関して得られた干渉スペクトルを示す。前記摩擦手順前に、比較例6及び7の表面についてそれぞれ記録された干渉スペクトルは、
図5aのものと一致した。比較例6及び7それぞれの干渉スペクトルは、前記摩擦手順によって明らかに変化し、本質的に変化しないままではなかったことがわかる。
【0076】
図5a〜5cは、構造化表面が上記の摩擦手順の影響を受けているかどうかを定性的に評価するために使用される別の方法も示している。この方法は、前記摩擦手順の前後それぞれに表面から撮影されたSEM写真を比較する。
図5aは、前記摩擦処理後の実施例6Dによる本発明の構造化表面のSEM写真を示す。このSEM写真は、前記摩擦処理前に撮影したSEM写真と本質的に一致し、即ち実施例6Dの表面のSEM写真は、表面を前記摩擦処理に供した後、本質的に変化しなかった。これとは逆に、
図5b及び
図5cは、前記摩擦手順後に、比較例6及び7それぞれの表面に関して得られたSEM写真を示す。前記摩擦手順前に、比較例6及び7の表面についてそれぞれ撮影したSEM写真は、
図5aのものと一致した。前記摩擦処理後に比較例6及び7の表面からそれぞれ撮影されたSEM写真は、摩擦処理前にこれらの表面から撮影されたSEM写真と明らかに異なった。比較例6及び7それぞれの表面は、したがって、前記摩擦手順の結果として変化し、本質的に変化しないままではなかった。
【0077】
本発明者らは、本発明のマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面に含まれる高分子材料が、好ましは、a)少なくとも60重量%の1つ以上の架橋可能なオリゴマー化合物及び/又は高分子化合物と、b)2〜40重量%の1つ以上の反応性希釈剤と、c)0.05〜10重量%の1つ以上の疎水性添加剤と、d)0〜5重量%の1つ以上の光開始剤と、を備える紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られることを発見した。
【0078】
上記及び下記において使用するオリゴマー化合物という用語は、通常は10個未満のわずかなモノマー単位からなる、比較的低分子量の化合物を指す。これらのモノマー単位は、構造的に同一であるか、若しくは類似してもよく、又はこれらは互いに異なってもよい。オリゴマー化合物は、通常は、室温及び周囲気圧で液体であり、それによりDIN EN ISO 2555(Brookfield法)に従って測定した動的粘度は、23℃で好ましくは500Pa・s未満、より好ましくは200Pa・s未満である。
【0079】
上記及び下記において使用する反応性希釈剤という用語は、高分子材料を形成するための重合反応に関与する低分子量モノマーを指す。かかるモノマー化合物の重量平均分子量Mwは、好ましくは1,000未満、より好ましくは750未満である。
【0080】
本発明のマイクロ構造化表面における使用に適した紫外線硬化性前駆体は、少なくとも60重量%、より好ましくは少なくとも80重量%の1つ以上の架橋可能なオリゴマー化合物及び/又は高分子化合物を備えるが、これは好ましくは、アクリル化オリゴマー化合物若しくは高分子化合物、例えばウレタンアクリレート、ビニルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリアクリル酸塩、ポリエーテルアクリレート、オレフィンアクリレート、アクリル化オイル、及びシリコンアクリレートを含むがこれらに限定されない材料の群から選択される。
【0081】
本発明において有用なウレタンアクリレートは、好ましくはウレタンアクリレートオリゴマーである。本発明に適したウレタンアクリレートオリゴマーは、一般に、(メタ)アクリロイル基を含有するアルコールとジイソシアネート又はポリイソシアネートとから調製することができる。好ましいウレタンアクリレートオリゴマーは、例えば、米国特許第6,465,539号に開示されている。特に好ましいウレタンアクリレートオリゴマーの群には、ヒドロキシル基を末端に持つNCO増量ポリエステル又は脂肪族若しくは芳香族であってよいポリエーテルの2官能性又はそれ以上のアクリレートエステルが含まれる。有用なウレタンアクリレートオリゴマーの例には、Henkel Corp.から、商標名PHOTOMER(例えば、PHOTOMER 6010)として、並びにUCB Radcure Inc.から、商標名EBECRYL(例えば、EBECRYL 220、284、4827、4830、6602、8400、及び8402)、RXO(例えば、RXO 1336)、及びRSX(例えば、RSX 3604、89359、92576)として市販されているものが含まれる。他の有用なウレタンアクリレートオリゴマーは、Sartomer Co.から、商標名SARTOMER(例えば、SARTOMER 9635、9645、9655、963−B80、及び966−A80)として、並びにMorton Internationalから、商標名UVITHANE(例えば、UVITHANE 782)として市販されている。別の有用なウレタンアクリレートオリゴマーは、Rahn AG(Zurich,Switzerland)から、GENOMER 4316として市販されている。ウレタンアクリレートオリゴマーは、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られる高分子材料の頑強性、とりわけ引張強度を改善する傾向がある。この前駆体は、好ましくは、それぞれ60〜98重量%、より好ましくは70〜95重量%の1つ以上のウレタンアクリレートオリゴマー又はポリマーを備える。
【0082】
本発明において有用なアクリレート類のエポキシ材料は、好ましくはアクリレートエポキシオリゴマーである。アクリル化エポキシオリゴマーには、例えば、エポキシ樹脂の2官能性又はそれ以上のアクリレートエステル、例えばビスフェノールAエポキシ樹脂のジアクリレートエステルが含まれる。有用なアクリル化エポキシの例には、UCB Radcure Inc.から、商標名EBECRYL及びRXO(例えば、EBECRYL 600、629、860、1608、及び3708、RXO 2034)として、並びにHenkel Corp.から、商標名PHOTOMER(例えば、PHOTOMER 3016、3038、及び3071)として市販されているものが含まれる。別の有用なエポキシジアクリレートオリゴマーは、Cray Valley(Paris,France)から、CN−UVE 151 Mとして市販されている。
【0083】
アクリル化エポキシ樹脂は、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られる高分子材料の引張強度及び破断点での伸長率を改善する傾向がある。
【0084】
ポリアクリレートは、その後の反応のための遊離基を形成することができる反応性の側枝若しくは末端アクリル酸基を有するアクリルオリゴマー又はポリマーである。本発明において有用なポリアクリレート材料は、好ましくはポリアクリレートポリマーである。アクリル化エポキシ材料と同様に、ポリアクリレートは、一般に、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られる材料の引張強度を改善する。
【0085】
本発明において有用なポリアクリレートポリマーの例は、UCB Radcureから、商標名EBECRYL(例えば、EBECRYL 745、754、767、1701、及び1755)として、Sartomer Co.から、商品名NTX4887(フルオロ修飾アクリルオリゴマー)として、並びにB.F.Goodrichから、商標名HYCAR(例えば、HYCAR 130X43)として市販されているものである。
【0086】
同様に、アクリル化オレフィンオリゴマー又はポリマーは、架橋又は鎖延長のための遊離基を形成することができる反応性の側枝若しくは末端アクリル酸基を有する不飽和オリゴマー若しくは高分子材料である。アクリル化オレフィンは、一般に、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られる材料の引張強度及び破断点での伸長率を改善する傾向がある。有用なアクリル化オレフィンの例には、Sartomer Co.から、商標名SARTOMER CN302として、及びRicon Resinsから、商標名FX9005として市販されているポリブタジエンアクリルオリゴマーが含まれる。
【0087】
本発明に適したポリエステルアクリレートオリゴマー又はポリマーは、一般に、アクリル酸とポリオール又はポリエステルそれぞれとの間の縮合反応によって調製することができる。有用なアクリル化ポリエステル化合物の例には、UCB Radcure Inc.から、商標名EBECRYL(例えば、EBECRYL 810、EBECRYL 813、及びEBECRYL 830)として、並びにHenkel Corp.から、商標名PHOTOMER(例えば、PHOTOMER ECX 5010 F、5429 F、及び5432)として市販されているものが含まれる。
【0088】
本発明に適したポリエーテルアクリレートオリゴマー又はポリマーは、一般に、アクリル酸とヒドロキシ官能性ポリエーテル化合物又はアルコキシル化多官能性アルコールそれぞれとの間の縮合反応によって調製することができる。有用なアクリル化ポリエーテル化合物の例には、UCB Radcure Inc.から、商標名EBECRYL(例えば、EBECRYL 12、EBECRYL 40、及びEBECRYL 160)として、並びにSartomer Co.から、商標名SARTOMER(例えば、SARTOMER SR 415及びSR 610)として市販されているものが含まれる。アクリル化ポリエーテル樹脂は、紫外線硬化性前駆体を硬化させることによって得られるエラストマー材料の可撓性及び破断点での伸長率を改善する傾向がある。本発明において好ましい紫外線硬化性前駆体は、それぞれ5〜80重量%、より好ましくは5〜40重量%の1つ以上のポリエーテルアクリレートオリゴマー又はポリマーを備える。ポリエーテルアクリレートオリゴマーは、比較的低い粘度を呈する傾向があることから(例えば、EBECRYL 160)、かかる化合物は、反応性希釈剤と称されることもある。
【0089】
本発明において有用なシリコーンアクリレートオリゴマー又はポリマーは、通常は、アクリル酸とヒドロキシ官能性シリコーン(例えば、α,ω−ポリジメチルシリコーンジオール)との間の縮合反応によって調製することができる。シリコーンアクリレートは、そのシリコーン骨格により、構造化表面の弾性及び伸長率を改善するが、その引張強度及び頑強性を損なう傾向がある。より高い官能性のシリコーンアクリレートは、その低い表面エネルギー特性により、しばしば使用される。有用なシリコーンアクリレートの例には、Sartomer Co.から、商標名SARTOMER(例えば、SARTOMER CN 9800)として、UCB Radcure Incから、商標名EBECRYL(例えば、EBECRYL 350、EBECRYL 1360)として、並びにShin−Etsu Silicones Europe B.V.から、商品名X−22(例えば、X−22−164、X−22−164A)としてメタクリレートとして市販されているものが含まれる。
【0090】
得られる本発明の構造化表面の機械的特性は、硬化性オリゴマー又はポリマーの化学組成だけでなく、それぞれの架橋密度の影響も受ける。より高い架橋密度は、通常は、より硬性でより脆性の材料をもたらし、一方より低い架橋密度は、より軟性でより柔軟性のある材料をもたらす。
【0091】
本発明の構造化表面に含まれる高分子材料の紫外線硬化性前駆体は、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは2〜25重量%、特に好ましくは4〜15重量%の1つ以上の反応性希釈剤を備える。架橋可能なオリゴマー化合物及び/又は高分子化合物は、好ましくは1つ以上の反応性希釈剤に可溶性である。好適な反応性希釈剤は、オリゴマー化合物及び/又は高分子化合物と重合可能であり、本発明の構造化表面の硬化した高分子材料の共重合エラストマーネットワークを形成する。
【0092】
好ましくは、反応性希釈剤は、フリーラジカル重合可能なモノマーであり、例えばエチレン性不飽和モノマー、例えばアクリレート、メタクリレート、スチレン、ビニルアセテートなど、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましいモノマーには、(メタ)アクリロイル官能性モノマー、例えばアルキル(メタ)アクリレート、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0093】
好適なモノマーの代表例には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルトリグリコールメタクリレート、イソボルニルアクリレート、2−(((ブチルアミノ)カルボニル)オキシ)エチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、2−メチル−2−(3−オキソ−ブチリルアミノ)−プロピルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリルアセテート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキプロピルアクリレート、2−ヒドロキエチルメタクリレート、2−ヒドロキプロピルメタクリレート、β−エトキシエチルアクリレート、2−シアノエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェノキシプロピルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェノキシプロピルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、ポリカプロラクタムアクリレート、アクリロイルオキシエチルフタレート、アクリロイルオキシスクシネート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクタムモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート、スチレン、ビニルアセテート、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、n−メチロールアクリルアミド−ブチルエーテル、n−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレートなど、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましいモノマーには、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、デシルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェニルカルビトールアクリレート、ノニルフェノキシプロピルアクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェノキシプロピルメタクリレートなど、及びそれらの混合物があり、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェノキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、及びそれらの混合物がより好ましい。
【0094】
所望であれば、多官能性エチレン性不飽和モノマー(1つの分子中に少なくとも2つの重合可能な二重結合を有する化合物、例えば、多官能性アクリレート又はメタクリレート)を使用して、架橋度を操作することができる。かかる多官能性モノマーの代表例には、エチレングリコールジアクリレート;1,2−プロピレングリコールジアクリレート;1,3−ブチレングリコールジアクリレート;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート;ネオペンチルグリコールジアクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート;ポリオキシアルキレングリコールジアクリレート、例えばジプロピレングリコールジアクリレート、メチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、及びポリエチレングリコールジアクリレート;エチレングリコールジメタクリレート;1,2−プロピレングリコールジメタクリレート;1,3−ブチレングリコールジメタクリレート;1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート;ネオペンチルグリコールジメタクリレート;ビスフェノール−A−ジメタクリレート;ジウレタンジメタクリレート;トリメチロールプロパントリメタクリレート;ポリオキシアルキレングリコールジメタクリレート、例えばジプロピレングリコールジメタクリレート、メチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、及びポリエチレングリコールジメタクリレート;N,N−メチレン−ビス−メタクリルアミド;ジアリルフタレート;トリアリルフタレート;トリアリルシアヌレート;トリアリルイソシアヌレート;アリルアクリレート;アリルメタクリレート;ジアリルフマレート;ジアリルイソフタレート;ジアリルテトラブロモフタレート;ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート;ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなど、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0095】
特に好ましい反応性希釈剤は、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラヒドロフランアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBOA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、又は2−エチルヘキシルアクリレートを含む物質の群から選択される。
【0096】
本発明の好ましい実施形態のマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面の疎水性特性は、主に、構造化表面に含まれる高分子材料の特性、例えば高分子材料の表面エネルギーなど、並びに構造化表面の幾何学的特性、例えば表面上のマクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素の密度及び配置などに依存する。本発明者らは、高分子材料の前駆体は、好ましくは、前駆体を硬化させることによって得られる高分子材料を含む硬化した非構造化表面が、水に対して少なくとも70°、より好ましくは少なくとも80°、特に好ましくは少なくとも85°の接触角を呈するように選択されることを発見した。所望であれば、非構造化表面の、水に対する接触角は、1つ以上の疎水性添加剤を前駆体に含めることによって、増加させることができる。疎水性を提供する添加剤は、通常は、放射線硬化に対して非反応性であっても反応性であってもよい、シリコーン、シリコーン系材料、フッ素化材料、又は長鎖アルキル化合物を含む群から選択される。反応性添加剤は、通常は、1つ以上のエチレン性不飽和基、例えばアクリレート基、メタクリレート基、又はビニル基を含有する。疎水性添加剤は、好ましくは、シリコンアクリレート、シリコーンポリエーテルアクリレート、ペルフルオロアルキルアクリレートを含むフッ素化及び全フッ素化アクリレート、並びにフッ素化オリゴエーテルを含む化合物の群から選択される。
【0097】
特に有用なものは、紫外線硬化性疎水性添加剤である。
【0098】
本発明の好ましい実施形態において好適なシリコーン系疎水性添加剤は、Tego Chemie Service(Essen,Germany)から、TEGO RADシリーズの名称で市販されている。特に有用なものは、TEGO RAD化合物2100、2200N、2250、2300、2500、及び2600である。本発明において有用なフッ素化疎水性添加剤には、好ましくはペルフルオロブタンスルホニルフルオリド又はペルフルオロオクタンスルホニルフルオリドから誘導された、より短いペルフルオロアルキル部分を有する全フッ素化(メタ)アクリレート化合物が含まれる。例えば米国特許第6,664,354号の実施例2のパートA & Bに調製が開示されている、N−メチル(ペルフルオロブタンスルホンアミド)−エチルアクリレート(MeFBSEA)は、本発明において有用な反応性の疎水性モノマー添加剤の一例である。MeFBSEAを重合することによって得られる全フッ素化オリゴマーは、下記の実施例の項において、F−添加剤Aとして開示する。
【0099】
本発明の構造化疎水性表面に含まれる高分子材料の紫外線硬化性前駆体は、好ましくは0.05〜10重量%、より好ましくは0.1〜7重量%、特に好ましくは0.2〜5重量%の1つ以上の疎水性添加剤を含む。
【0100】
本発明の構造化表面に含まれる高分子材料の紫外線硬化性前駆体は、0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜4重量%、特に好ましくは0.2〜3重量%の1つ以上の光開始剤を含む。
【0101】
光開始剤の選択は、例えば、放射線源、使用する架橋可能なオリゴマー又は高分子化合物の種類、及び硬化させる紫外線硬化性前駆体のフィルム又はコーティングの厚さによって決定される。光開始剤は、好ましくは、好適な表面硬化、好適なバルク材料の硬化、及び硬化後の好適な色を提供するように選択される。
【0102】
このような硬化を可能にする物質の例は、紫外線硬化に使用される光開始剤、例えばDAROCUR 1173−2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン;CAS番号7473−98−5、又はIRGACURE 819−フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド;CAS番号162881−26−7、又はベンゾフェノン(全てCiba Specialty Chemicals(Basel,Switzerland)から入手可能)である。
【0103】
耐久性のあるマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面に含まれる高分子材料に特定の所望の特性を提供し得る、又はより容易な処理を可能にし得る、他の添加剤を高分子材料の硬化性前駆体に添加してもよい。かかる添加剤の例には、着色剤、レオロジー剤、均染剤、皮張り防止剤、紫外線安定剤、抗酸化剤、及び消泡添加剤がある。
【0104】
紫外線硬化性前駆体は、好ましくは、例えば23℃で300〜20,000cps(Brookfield)などのコーティング可能な粘度のシロップを形成する。
【0105】
既知の硬化方法には、紫外線硬化及び電子ビーム硬化などの放射線硬化が含まれる。紫外線硬化方法は、好ましくは、例えばHバルブスペクトルを有する高強度紫外線ランプ(例えば、Fusion System GmbH(Chemnitz)若しくはDr.Hoenle AG(Munich)から市販されている)、又は例えばSylvania Phosphorランプ若しくはOsram UVB 40Wランプとして市販されている低強度ランプを使用する。
【0106】
複数のマイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える本発明の疎水性構造化表面は、好ましくは、
(i)構造化表面のネガを形成する複数のマイクロ構造化表面要素及び/又はナノ構造化表面要素を備える成形型表面を提供する工程と、
(ii)高分子材料の紫外線又は電子ビーム硬化性前駆体を成形型表面上に適用し、前駆体を放射線硬化し、成形型表面から複製された構造化表面を取り外すことによって、成形型表面から構造化表面を複製する工程と、を含み、
前駆体は、硬化時に、1)少なくとも10%の破断点での伸長率と、2)2%未満の不可逆的塑性変形(永久歪率)と、3)少なくとも5MPaの引張強度と、を有する高分子材料を提供するように選択され、構造化表面は、水に対して少なくとも90°の静的接触角を有する、方法によって調製される。
【0107】
複数のマイクロスケール及び/又はナノスケールの表面要素を備える本発明の耐スクラッチ性構造化表面は、好ましくは、
(i)構造化表面のネガを形成する複数のマイクロ構造化表面要素及び/又はナノ構造化表面要素を備える成形型表面を提供する工程と、
(ii)高分子材料の紫外線又は電子ビーム硬化性前駆体を成形型表面上に適用し、前駆体を放射線硬化し、成形型表面から複製された構造化表面を取り外すことによって、成形型表面から構造化表面を複製する工程と、を含み、
前駆体は、硬化時に、1)少なくとも10%の破断点での伸長率と、2)2%未満の不可逆的塑性変形(永久歪率)と、3)少なくとも5MPaの引張強度と、を有する高分子材料を提供するように選択され、構造化表面は、綿布及び総スタンプ重量300gを使用して、A.A.T.C.C.試験方法8−1972に従って、10回の摩擦サイクルに供したときに、本質的に変化しない、方法によって調整される。
【0108】
本発明において好適な成形型表面の調製は、例えば、米国特許出願第1999/055537A号(Ylitalo)又は米国特許第6,641,767号(Zhang)に開示されている。
【0109】
成形型の表面は、好ましくは、繰り返される複製工程に機械的に耐えることが可能であり、また本発明によるマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面を作製するために使用される前駆体材料と化学的に反応しない、耐久性のある材料を備える。成形型表面は、好ましくは、ニッケル電鋳品又はニッケルめっきした固体材料を含む。また、成形型表面は、高分子材料、例えばポリシリコーン又はポリオレフィンも備えるが、ただしかかる高分子材料は、化学的に十分に不活性であり、また成形型表面に適用される前駆体と化学的に相互作用しない。
【0110】
成形型の表面は、例えば、非構造化金属表面の超微細加工によって得ることができる。好適な超微細加工技術の例には、微細エンボス加工又は微細研削加工が含まれる。構造化表面の調製に適した方法には、更に、化学的方法、例えば、米国特許第6,641,762号に開示されているような化学蒸着、又は例えば、国際公開第1999/055,537A号(Ylitalo)において開示されているような、より大きいスケールの構造上により小さいスケールの構造をもたらす化学エッチングが含まれる。
【0111】
成形型表面を複製することによって得られるマイクロ構造化表面、及び必要に応じてナノ構造化表面は、成形型表面のネガである。しかしながら、ネガレプリカ表面を成形型表面として使用し、それを次の工程で複製することによって、成形型表面のポジレプリカを得ることも可能である。
【0112】
前駆体は、例えば鋳造によって、成形型の表面に適用することができる。鋳造温度(前駆体材料の温度及び成形型の表面の温度によって判断する)は、有利には、前駆体材料の粘度を調節し、それにより適当な時間内で前駆体材料が流れ、成形型表面の表面形成部を湿潤させるように選択する。前駆体材料は、硬化して固まる。
【0113】
前駆体材料は、成形型から取り外す前に部分的にのみ硬化させ、部分的に硬化した前駆体材料を成形型の構造化表面から分離した後、硬化を再開して完全に硬化した高分子材料にすることは有利となり得る。
【0114】
不活性条件下で前駆体を硬化させることも、特に成形型の表面がシリコーンポリマーを含む場合に有利となり得る。
【0115】
本発明の構造化表面は、例えば、高分子フィルムの露出面として提供することもできる。フィルムの厚さは、好ましくは1μm〜10mm、より好ましくは10μm〜200μmである。かかるフィルムの露出主要面の両側が、本発明のマイクロ構造化表面及び/又はナノ構造化表面であることも可能である。
【0116】
また、本発明の構造化表面は、例えば自動車のタイヤの露出面など、3次元物品の1つ以上の表面を形成することもできる。
【0117】
本願による耐久性のある耐スクラッチ性構造化疎水性表面は、いかなる巨視的形状を有してもよい。これは例えば、2次元又は3次元の平面又は曲面であってよく、異なる配向を有する本質的に平面の部分からなってもよい。
【0118】
また、本発明の耐久性のある耐スクラッチ性構造化疎水性表面を備える物品を基材に付着して、それにより物品と基材とが複合品を形成してもよい。この付着は、任意の好適な方法で、例えば、接着剤によって、又は物品と基材との間の静電誘引によって、又は機械的付着によって、又は磁力によって提供することができる。
【0119】
基材は、剛性基材又は可撓性基材であってよく、これは例えば、ガラス、ポリマー、金属、木材、石、コンクリート、又はそれらの任意の組み合わせから作製された基材から選択される。
【0120】
(図面の詳細な説明)
図1a及び
図1bは、底面のレール間に配置されるナノスケールの表面要素を有するSonS型構造化表面として特徴付けることができる、本発明のマイクロスケール及びナノスケールの表面の実施形態の顕微鏡写真像である。
【0121】
図1aは、互いに平行に等距離に配置された複数のレールを備えるマイクロスケール構造体を示す。レールの高さはおよそ170μmであり、底部におけるその幅はおよそ55μmであり、頂部におけるその幅はおよそ23μmである。レールの縦伸びに垂直な方向のピッチ長さは、214μmである。レールは、したがって、マイクロスケールの表面要素に相当する。長手方向のレールの延出部は巨視的である。
【0122】
図1bは、底面のレール間に存在する低スケールの構造体を示す。例えば暗い部分のようなナノスケールの表面要素の典型的なサイズは、約150〜250nmである。
図1a及び
図1bのマイクロ構造化表面及びナノ構造化表面は、上記及び下記において「成形型表面2」と称されるマイクロスケール及びナノスケールの成形型表面からの複製によって得ることができる。
【0123】
図2a及び
図2bは、露出されたナノスケールの表面要素を有するSonS型構造化表面として特徴付けることができる、本発明のマイクロスケール及びナノスケールの構造化表面の実施形態の顕微鏡写真像である。
【0124】
図2aは、互いに平行に等距離に配置された複数のチャネル型表面要素を備えるマイクロスケール構造体を示す。チャネルの深さはおよそ170μmであり、底部におけるその幅はおよそ23μmであり、頂部におけるその幅はおよそ55μmである。チャネルの縦伸びに垂直な方向のピッチ長さは214μmである。チャネルは、したがって、マイクロスケールの表面要素に相当する。長手方向のチャネルの延出部は巨視的である。
【0125】
図2bは、チャネル間のレール型表面要素の露出面上に存在する低スケールの構造体を示す。例えば明るい部分のようなナノスケールの表面要素の典型的なサイズは、約150〜250nmである。
【0126】
図2a及び
図2bのマイクロ構造化表面及びナノ構造化表面は、上記及び下記において「成形型表面1」と称されるマイクロスケール及びナノスケールの成形型表面からの複製によって得ることができる。
【0127】
図3a及び
図3bは、3M Co.からBrightness Enhancement Film BEF II 90/24として入手可能な光学フィルム製品の表面構造を示している。本発明で成形型表面3として使用するこのフィルムは、長手方向に延出するマイクロスケールのプリズム状レール型表面要素を備える。BEF II 90/24の表面は、本発明の表面ではなく、これはむしろ成形型表面3として使用して、それから本発明のマイクロ構造化表面を複製することができる。
【0128】
図3aは、構造化成形型表面3の顕微鏡写真平面図であり、線形プリズムの形状を有するレール型表面要素の端部からの反射を示している。レール型表面要素は、長手方向に巨視的に延出する。プリズムの端部は、この平面図が構造化表面の法線に対してわずかに傾斜していて、プリズム状レールのそれぞれの前面からの反射が観察されるため、いくぶん広めに見える。
【0129】
図3bは、長手方向に垂直な
図3aの構造化成形型表面3(参照番号1で示す)の概略断面図を示す。レール型表面要素は、高さ12μmの三角形の断面2を有し、隣接するレールの端部は、24μmの距離で離れている。レール型表面要素の断面は、したがって、マイクロスケールの表面要素に相当する。
図3a及び
図3bの構造化成形型表面3は、重なったナノスケールの表面要素を備えない。
【0130】
図4a及び
図4bは、下記の試験の項で説明するA.A.T.C.C.摩擦手順RP−300及びRP−920を実施するのに適した、アルミニウムで作製されたスタンプツールの概略図である。
図4a及び4bは、それぞれ、ツールの概略側面図及び概略底面図を提供する。このツールは、綿布で覆われ、摩擦手順の実施時に構造化表面と接触させるフィン10を呈する。試験手順の更なる詳細は、下記の実施例の項に示す。
【0131】
図5a〜5cは、綿布を用いたRP−300試験手順に供した後のナノスケールの構造化表面の実施形態を示す。
図5aの表面は、本発明のナノ構造化表面であるが、
図5b及び
図5cの表面は、比較例で得られる表面である。
【0132】
図5aは、綿布(10回の摩擦サイクル)を用いた摩擦手順RP−300の表面処理に供した後の実施例6Dによる本発明の構造化表面のSEM写真(上の写真)及び光学カメラで撮影した写真(下の写真)を示す。摩擦処理後の構造化表面を撮影したSEM及び光学写真の両方は、かかる処理前に撮影したSEM及び光学写真と本質的に一致した。したがって、実施例6Dの構造化表面は、摩擦手順の影響を本質的に受けなかった。
【0133】
このSEM写真は、互いに平行に等距離に配置され、その長手方向に巨視的に延出する、明るく見える複数のレール型表面要素を備える表面構造を示す。このレール型表面要素は、同様に互いに平行に等距離に配置され、その長手方向に巨視的に延出するチャネル型表面要素によって分離される。チャネル型表面要素は、暗く見える。このSEM写真は、摩擦処理後の表面から撮影した。摩擦処理前に前記表面から撮影したSEM写真は、実施例6Dの表面の構造が、摩擦手順の結果、本質的に変化しなかったことを示した。
【0134】
撮影された光学写真は、摩擦手順後に、スペクトルの可視域で白色光を放出する光源で、実施例6Dの構造化表面を照射したときに観察される連続的干渉スペクトルを示している。構造化表面の照射された主な側の上方にカメラを配置することにより、反射条件下で構造化表面を観察する。干渉スペクトルは、光と、いずれも長手方向に垂直なナノスケールの断面を有するレール型表面要素及びチャネル型表面要素との相互作用の結果生じる。
【0135】
観察された干渉スペクトルは、連続的でゆがみのない青から赤の範囲の可視スペクトルであり、実施例6Dの構造化表面が摩擦手順の影響を受けたなったことを示している。
【0136】
図5b及び
図5cはそれぞれ、綿布(10回の摩擦サイクル)を用いた摩擦手順RP−300の表面処理に供した後の比較例6の構造化表面及び比較例7の構造化表面の、対応するSEM及び光学写真をそれぞれ示す。
【0137】
図5bのSEM写真と
図5aのSEM写真(摩擦処理後に実施例6Dの表面を撮影したものであるが、かかる摩擦処理の前に撮影した表面のSEM写真と一致した)との比較は、比較例6の構造化表面が、摩擦手順によって重度の損傷を受けたことを示している。レール型表面要素が磨耗し、摩擦範囲の表面は平らになった。光学写真の干渉スペクトルにおいても損傷を認めることができる。
【0138】
図5cのSEM写真は、比較例7の構造化表面が、同様に重度の損傷を受けたことを示している。レール型表面要素が折り畳まれ、隣接するチャネル型表面要素に押し込まれた。光学写真の干渉スペクトルにおいても損傷を認めることができる。
【0139】
図6a〜6bは、異なる倍率での成形型表面4Bの顕微鏡写真を示す。突出する表面要素の高さ、及びかかる要素の上部平坦部の幅は、それぞれ300nmである。谷部分の幅は、同様に300nmであり、その結果ピッチ長さは300nmになる。
【0140】
以下の実施例は、本発明の具体的な実施形態を説明する。これらは、本発明の範囲を何ら限定するものと理解すべきではない。
【実施例】
【0141】
実施例で使用した材料
A.架橋可能なオリゴマー及び/又は高分子化合物
−GENOMER 4316、脂肪族三官能性ポリウレタンアクリレート、25℃における粘度58,000mPas(ミリパスカル秒)、ガラス転移温度T
g=4℃(Rahn AG(Zurich,Switzerland)から市販されている)
−EBECRYL 1608、ビスフェノールAエポキシジアクリレート、MW 500、60℃における粘度1,000mPas(UCB Chemicals(Brussels,Belgium)から市販されている)
−EBECRYL P115、共重合可能な三級アミン共開始剤(UCB Chemicals(Brussels,Belgium)から市販されている)
−CN−UVE 151 M、エポキシジアクリレートオリゴマー、T
g=51℃、40℃における粘度150,000mPas(Cray Valley(Paris,France)から市販されている)
−SARTOMER 399、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(Cray Valley(Paris,France)から市販されている)
−VTR 750、100部のVTV750及び10部の触媒CAT 750を含む二成分シリコーン樹脂(MCP HEK Tooling GmbH(Lubeck,Germany)から市販されている)
−樹脂6130、50部の6130Aポリエーテルポリオール及び50部の6100Bメチレンジフェニルジイソシアネートを含む二成分ポリウレタン樹脂(MCP HEK Tooling GmbH(Lubeck,Germany)から市販されている)
−SYLGARD 184、二成分シリコーンエラストマー(混合比A:B 10:1)であり、成分Aはシリコーンであり、成分Bは2%テトラメチルテトラビニルシクロシロキサンを含有するシリコーン樹脂溶液(Dow Corning(Seneffe,Belgium)から市販されている)
【0142】
B.反応性希釈剤
−HDDA−ヘキサンジオールジアクリレート
−SR 285、テトラヒドロフランアクリレート(THFアクリレートと短縮される)(Cray Valley(Paris,France)から市販されている)
【0143】
C.光開始剤
−DAROCUR 1173、2,2−ジメチル−2−ヒドロキシアセトフェノン;CAS番号7473−98−5(Ciba Specialty Chemicals(Basel,Switzerland))
−IRGACURE 819、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド;CAS番号162881−26−7(Ciba Specialty Chemicals(Basel,Switzerland))
−ベンゾフェノン(Sigma−Aldrich Chemie GmbH(Steinheim,Germany)から市販されている)
【0144】
D.疎水性添加剤
−RAD 2300、シリコーンポリエーテルアクリレート(TEGO Chemie Service GmbH(Essen,Germany)から市販されている)
−全フッ素化添加剤A(以下、FAD Aとする):N−メチル−(ペルフルオロブタンスルホンアミド)エチルアクリレート(MeFBSEA)の、2−メルカプトエタノール(HSCH2CH2OH)存在下でのラジカル重合をモル比4:1で実施することによって調製される、全フッ素化オリゴマー。フリーラジカル開始剤を使用してエチルアセテート中で重合を実施して、モノOH官能性オリゴマーを得た。反応生成物の1モルの遊離OH基を溶媒中で1モルのイソホロンジイソシアネート(IPDI)と反応させて、モノイソシアネート官能性を得た。次に、HOEA(ヒドロキシエチルアクリレート)をイソシアネートと反応させて、アクリレート末端保護材料を形成した。
【0145】
E.基本配合物
−基本配合物A
GENOMER 4316(94重量%)(「wt%」)、THF−アクリレート(5wt%)、及びDAROCUR 1173(1wt%)を配合して、基本配合物Aを作成した。
−基本配合物B
GENOMER 4316(92.5wt%)、THF−アクリレート(5wt%)、DAROCUR 1173(2wt%)、及びIRGACURE 819(0.5wt%)を配合して、基本配合物Bを作成した。
−基本配合物C
SARTOMER 399(39.4wt%)、EBECRYL 1608(23.3wt%)、EBECRYL P115(3wt%)、HDDA(28.3wt%)、DAROCUR 1173(4.5wt%)、及びベンゾフェノン(1.5wt%)を配合して、基本配合物Cを作成した。
−基本配合物D
CN−UVE 151 M(82.5wt%)、THFアクリレート(15wt%)、DAROCUR 1173(2wt%)、及びIRGACURE 819(0.5wt%)を配合して、基本配合物Dを作成した。
−基本配合物E
シリコーン樹脂VTV 750(100重量部)及びCAT 750(10重量部)を混合し、一晩硬化させて、基本配合物Eを作成した。
−基本配合物F
二成分ポリウレタン樹脂(50部の6130Aポリエーテルポリオール、50部の6100Bメチレンジフェニルジイソシアネート)を混合し、一晩硬化させて、基本配合物Fを形成する真空鋳造樹脂6130を作成した。
−基本配合物G
シリコーンエラストマーSYLGARD 184の2つの成分を混合比A:B=10:1で混合して、基本配合物Gを作成した。
【0146】
本発明の構造化表面を作成するために実施例で使用した成形型表面
−成形型表面1
第1の工程において、ナノスケールの表面要素及びマイクロスケールの表面要素の両方を備える構造化表面を有するロールを、国際公開第2007/011671号の12頁18行目〜13頁16行目に開示されている方法を適用して得たが、まず銅めっきスチールロールにNiめっきを施し、その後研削工程を用いた点が異なった。このように、ナノスケールのNi表面構造をまず銅めっきスチールロール上に作成した。次いで、このロールをダイヤモンド工具で機械加工して、以下のサイズで表面上にチャネルを切削した。チャネルの頂部幅は55マイクロメートル、底部幅は23マイクロメートル、高さは170マイクロメートルとした。チャネルのピッチは、214マイクロメートルとした。
【0147】
得られた構造体はマイクロチャネルを呈し、レールの頂部表面はチャネルの頂部幅間に延出し、それぞれがナノスケールのNiめっき構造体を呈した。
【0148】
国際公開第2007/011,671号の12頁18行目〜13頁16行目の一節は、参照により本明細書に援用される。
【0149】
第2の工程において、上記のエンボスロールをステンレススチールニップロールと共に、Randcastle Extrusion System,Inc.(Cedar Grove,New Jersey)製のRCP 1.0押出成形機に取り付け、可撓性リップダイを装着した。押出成形機の3つの調節可能な加熱帯の温度を232℃に設定し、押出ダイ温度を243℃に設定した。ロールの回転速度は、7rpmとした。上部冷却流量を38〜76リットル/分(1分当たり10〜20ガロン(gpm))に、下部冷却流量を約25gpm(95リットル/分)に設定した。Exxon Chemical(Houston,Texas)から商品名「POLYPROPYLENE 3155」として入手したポリプロピレンをこのロール上に押出して、構造化高分子フィルムを作成した。上記の第1の工程で得たエンボスロールの表面構造のネガレプリカである、構造化高分子フィルムの表面構造は、
図1a及び
図1bに示す表面に相当する。
図1aから、成形型表面1が複数のマイクロスケールのレール型表面要素を有することが認められる。レールの縦伸びは、ロールの面長(幅)に沿って巨視的であった。
図1aの断面図は、レールが幅と垂直に顕微鏡スケールを有することを示す。レールの高さは、およそ170μmであった。レールは、底部(およそ55μm幅)から頂部(およそ23μm幅)へと先細になった。レールは、そのそれぞれの底部で、約214μmの距離で離れていた(いわゆるピッチ又はピッチ長さ)。
【0150】
図1aの表面の構造を有する高分子レプリカフィルム(=成形型表面1)は、レールのそれぞれの底部間に延出するその底面上のナノスケールの表面要素を更に呈する。レールの底部間の高分子レプリカフィルムの表面構造は、
図1bに示す構造に相当する。
【0151】
このようにして得た高分子レプリカフィルムを下記の実施例で成形型表面1として使用して、本発明の構造化表面を調製した。成形型表面1から得られた対応する本発明の構造化表面は、したがって、エンボスロールの表面のポジレプリカであり、
図2a及び
図2bに示す構造を有した。
【0152】
−成形型表面2
熱硬化性シリコーン材料(NCP Tooling Technologies(Lubeck,Germany)製のVTV 750二成分シリコーン樹脂)を上記の成形型表面1上に流し込み、室温で一晩硬化させた。
図2a及び
図2bに示す表面に相当する、このようにして得たシリコーン表面は、1つの方向に巨視的に延出するマイクロスケールのレール型要素を分離する、マイクロスケールのチャネルを備える。チャネルの頂部幅はおよそ55μm、底部幅はおよそ23μm、深さはおよそ170μmであった。チャネルのピッチ長さと一致するレール型表面要素の底部幅は、約214μmであった。レール型表面要素の露出面は、
図2bに示す構造に相当するナノスケールの表面構造を備えていた。
【0153】
このようにして得たシリコーン表面を下記の実施例で成形型表面2として使用して、本発明の構造化表面を調製した。対応する本発明の構造化表面は、したがってエンボスロールのネガレプリカであり、
図1a及び
図1bに示す構造を有した。
【0154】
−成形型表面3
3M Company(St.Paul,Minnesota,U.S.A.)から商品名Brightness Enhancement Film BEF II 90/24として市販されている光学フィルムのマイクロ構造化表面が、本発明において使用する成形型表面3を形成した。
【0155】
この市販の光学フィルムのマイクロ構造化表面は、
図3a及び
図3bに示す。このマイクロ構造化表面は、平面上に互いに平行にマクロスケールで延出する複数の線形プリズム状列を備える。2つの隣接する平行線形プリズムの頂点間の間隔は、およそ24μmであり、プリズムの高さはおよそ12μmであった。成形型表面3は、重なったナノメートルサイズの表面形成部を有さなかった。
【0156】
−成形型表面4A〜4D
4つのパターンのそれぞれのための銅めっきスチール基材(寸法350μm×150mm×およそ800mm)を精密機械加工して、粗さRaが100nm未満の平滑表面を得た。スチール基材に石油ナフサ(Brenntag Great Lakes Company(St.Paul,Minnesota)から入手)を1分間噴霧し、その後アセトンを1分間噴霧した。基材を水ですすぎ、次いでイソプロパノールを噴霧した。表面を圧縮空気で送風乾燥した後、50グラム/リットルの硫酸銅と、80グラム/リットルの硫酸と、2グラム/リットルのポリエチレンオキシドとから構成される浴中で、このプレートをめっきした。19℃で0.5分間、54アンペアの電流を印加した。この基材を脱イオン水ですすぎ、圧縮空気で乾燥させた。均一な表面構造が形成された。この構造を得た後、基材をダイヤモンド工具で機械加工して、それぞれ長四角形断面を有する線形ナノスケールチャネルを表面上に切削した。4つの異なるダイヤモンド工具を使用して、4つの異なるダイヤモンド工具切削形状を作成し、その結果4つの異なる構造化表面を得た。各ダイヤモンド工具は、それぞれの構造化表面上に、それぞれ互いに平行に配置された線形ナノスケールチャネルをもたらした。これらのチャネルは、それぞれ、線形延出部に垂直に長四角形断面形状を呈した。ダイヤモンド工具は、例えば、Y.N.Picardら;Precis.Eng.27(2003)の59〜69頁に開示されている、集束イオンビームミリングプロセスを用いて作製した。
【0157】
ダイヤモンド工具切削によって得た4つの構造化表面を、電解ニッケルで厚さおよそ25ミル(0.64mm)にめっきした。ニッケルめっきは、ニッケルの均一の層が構築されることを確実にするための低蒸着速度による6時間の予備めっきと、25ミル(0.64mm)の目標の厚さ値を実現するためのその後のより迅速な蒸着からなる2工程で実行された。電鋳は、互いに平行に配置された多数の線形チャネルをそれぞれが有する成形型表面4A〜4Dをもたらし、チャネルはそれぞれチャネルの線形延出部と垂直に、以下の寸法の断面形状を呈する。
【0158】
【表1】
【0159】
成形型表面4A〜4Dを使用して、下記に説明するように、本発明の構造化表面を調製した。
【0160】
図6a及びbは、異なる倍率での成形型表面4Bの顕微鏡写真を示す。
【0161】
試験方法
A.バルク材料特性
1.引張強度及び破断点での伸長率
Deutsche Industrie Norm(DIN EN ISO 527−1及び527−3)に従い、以下の変更点で、引張強度及び破断点での伸長率を測定した。試料の厚さは、およそ150μmとした。試料は、ダンベルダイ「C」を用いて作成した。
試料は、距離80mmで掴持した。測定した試料の長さは、30mmであった。クロスヘッド速度は、50mm/分とした。試験は5回繰り返し、毎回新しい試料を用いた。
【0162】
2.永久歪率(%)
American Society of Testing and Materials(ASTM)の方法D 412−98a(2002年)に従って、以下の変更点で、永久歪率を測定した。試料調製:試料の厚さは、およそ150μmとした。試料は、ダンベルダイ「C」を用いて作成した。
【0163】
測定:試料を距離80mmで掴持した。測定する試料の距離L(0)の初期長さは、50.8mmであった(試料に互いから50.8mmの距離で2つのマークを付けた)。
【0164】
伸長時のクロスヘッド速度は、50mm/分とした。各伸長サイクル時の伸長量は、クランプ間の距離の20%とした。試料を伸長させてから、その伸張位置で5分間保持した。次にクロスヘッドを50mm/分の速度で元の位置に戻した。器具で掴持したまま、試料を5分間弛緩させた。次いで、この手順をもう一度繰り返した。したがって、2回の完全な伸張及び弛緩サイクルを行った。次いで、4つの追加試料に対してこの試験全体を繰り返し、結果の平均を求めた。
【0165】
計算は、試験方法ASTM D 412−98a;13.5の等式5を用いて行った。
E=100[L−L(0)]/L(0)
式中、
Eは、永久歪率(%)であり、
Lは、2回の伸張サイクル後の試料の2つのマーク間の最終長さ(mm)であり、
L(0)は、試料の2つのマーク間の初期長さ(mm)であり、これは50.8mmに設定された。
【0166】
B.非構造化表面の試験
1.静的接触角(水)
国際規格ISO 15989に従って、以下の変更点で、試験を実施した。
Goniometer ERMA Contact Angle Meter G−1を用いて、接触角を測定した。23℃で10μLの液滴を表面に適用した。20秒後に接触角を測定した。5回測定を行い、結果の平均を求めた。
【0167】
2.鉛筆硬度(Ericson試験)
この試験は、American Society of Testing and Materials(ASTM)D 3363−5に従って、非構造化表面に対して実施した。
非構造化表面を様々な硬度を有する鉛筆で引っ掻いた。ASTM基準に記載されている角度及び重量を用いて、各試料を一度引っ掻いた。表面を引っ掻いた後、試料を試験装置から取り外し、軟らかい布で拭いて全ての残留グラファイトを取り除いた。表面を目で観察して、筋が見えるかどうか、又は表面が物理的に破損しているかどうかを判定した。6B(最も軟らかい)から9H(最も硬い)の硬度を有する鉛筆を使用し、最も軟らかいものから開始した。試験結果は、永久的な目に見える損傷が記録されなかった最も高い硬度の鉛筆を挙げることによって提示する。
【0168】
3.非構造化表面に適用した摩耗試験
a)綿布又はステンレススチールウールをそれぞれ使用する摩擦手順「RP−300」
露出した非構造化表面を有するフィルムの試料を、両面接着テープを用いてガラスプレートに接着した。試料は、寸法4.0cm×12.8cmであった。Atlas Electric Devices Co(Chicago,Ill,USA)からModel CM5として市販されている、American Association of Textile Chemists and Colorists(A.A.T.C.C.)のCrockmeterに、このプレートを取り付けた。
A.A.T.C.C.試験方法8−1972に従って、以下の変更点で、摩擦試験を実施した。綿布又はステンレススチールウールグレード# 0000をそれぞれ、摩擦布として使用した。このステンレススチールウールグレード# 0000は、www.hutproducts.comから、名称「1113−Magic Sand」として市販されていた。スタンプの設計は、損耗条件下で観察され得る引っ掻き傷とのより良好な相関を可能にするために変更した。このスタンプをCrockmeterに設置して、フィンが試験を行う表面と接触するようにした。スタンプのフィン10の位置を合わせて、フィン10の長軸が摩擦方向に対して直角になるようにした。
図5a及び
図5bは、フィン10を担持するスタンプの形状を示す。
フィンは、幅4mm、高さ5mmとした。試験表面に対向するフィンの部分は半円形形状として、表面が半円の最上部に接触するようにした。フィンの長さは、25.4mmとした。フィンを含むスタンプの端部は、試験時に、綿布又はステンレススチールウールグレード# 0000でそれぞれ覆った。スタンプの重量は、47.5gであった。総荷重(レバーアーム及びスタンプ)は、300gであった。
摩擦サイクルは、前進と後退の完全サイクルから構成された。
【0169】
4.非構造化表面の表面粗さの測定
露出した非構造化表面を有するフィルムの試料を、両面接着テープを用いてガラスプレート上に設置した。試料の寸法は、4.0cm×8cmであった。
測定は、Hommelwerke GmbH(Germany)から入手できるTester T 500を用いて、周囲条件下で実施した。測定は、既定の試験距離4.8mmを用いて、DIN 4772に従って実施した。
各試料に対して、フィルム上の5つの異なる位置で、Ra、Rmax、及びRzを測定した。第1の方向に巨視的に延出し、その第1の方向に垂直の方向にナノ又はマイクロメートルスケールで延出する表面要素を備える構造化表面の場合、粗さ値Ra、Rmax、及びRzは、第1の方向及び第1の方向に垂直の方向の両方向で測定した。
【0170】
C.構造化表面の試験
1.静的接触角(水)
国際規格ISO 15989に従って、以下の変更点で、試験を実施した。
Goniometer ERMA Contact Angle Meter G−1を用いて、接触角を測定した。23℃で10μLの液滴を表面に適用した。20秒後に接触角を測定した。5回測定を行い、結果の平均を求めた。
第1の方向に巨視的に延出し、その第1の方向に垂直の方向にナノ又はマイクロメートルスケールで延出する表面要素を備える構造化表面の場合、接触角は、第1の方向及び第1の方向に垂直の方向の両方向で測定した。第1の方向及び第1の方向に垂直の方向の両方向で、5回測定を行い、結果の平均を求めた。第1の方向及びそれに垂直な方向でそれぞれ測定した静的接触角の値の算術平均として、静的接触角を得た。
【0171】
2.構造化表面の表面粗さの測定
露出した構造化表面を有するフィルムの試料を、両面接着テープを用いてガラスプレート上に設置した。試料の寸法は、4.0cm×8cmであった。上記の試験の項B.4で説明したように、表面粗さ値Ra、Rmax、及びRzを測定した。
【0172】
3.構造化表面に適用した摩耗試験
a)綿布又はステンレススチールウールをそれぞれ使用する摩擦手順「RP−300」
露出した本発明の構造化表面を有するフィルムの試料を、両面接着テープを用いてガラスプレートに接着した。試料は、寸法4.0cm×12.8cmであった。Atlas Electric Devices Co(Chicago,Ill,USA)からModel CM5として市販されている、American Association of Textile Chemists and Colorists(A.A.T.C.C.)のCrockmeterに、このプレートを取り付けた。
A.A.T.C.C.試験方法8−1972に従って、以下の変更点で、摩擦試験を実施した。綿布又はステンレススチールウールグレード# 0000をそれぞれ、摩擦布として使用した。このステンレススチールウールグレード# 0000は、www.hutproducts.comから、名称「1113−Magic Sand」として市販されていた。上記の試験の項B.3で説明し、かつ
図5a及び
図5bに示すスタンプを使用した。
摩擦サイクルは、前進と後退の完全サイクルから構成された。第1の方向に巨視的に延出する表面要素を備える線形構造体の場合、摩擦方向は好ましくは、かかる第1の方向に垂直である。これは、構造化表面の耐スクラッチ性が、第1の方向では、それと垂直な方向よりも高い傾向があり、そのため第1の方向に垂直な方向で主に摩擦を実施することは、より過酷である傾向があるためである。
【0173】
b)摩擦手順「RP−920」
この摩擦手順は、以下の2つの変更点以外は、上記の手順RP−300と同一とした。
総荷重(レバーアーム及びスタンプ)は、920gであり、フィンを含むスタンプの端部は、3M Company(St.Paul,Minnesota,U.S.A.)から、名称「Microfiber Multipurpose Cloth 2030」として入手可能なHigh−Performance Microfiber布で覆った。
【0174】
4.磨耗した構造化表面に実施した試験
上記の項C.2で説明した摩耗試験に供した構造化表面を、以下の試験方法を用いて試験した。
4.1磨耗した構造化表面の静的接触角(水)
上記の項C.1で説明した方法を用いて接触角を測定し、結果の平均を求めた。
【0175】
4.2液滴転落試験
この試験は、構造化表面に対して、それらの初期状態で、及び上記の項C.2で説明したように適用した様々な回数のCrockmeter摩擦サイクルそれぞれの後に実施した。試験を実施する露出した構造化表面を有するフィルムの試料を支持体上に置き、角度10°に傾けた。3種類のサイズの水滴を順に表面に適用した(0.035mL、0.050mL、及び0.070mL)。これらの液滴は、0.035mL=「小型」、0.050mL=「中型」、0.070mL=「大型」と指定した。液滴が大きい程、その重量により、液滴が表面から転落する可能性が高い。
構造化表面の特性は、以下のように評価した。
撥水性評価1(最高評価):
小型、中型、及び大型の滴が、構造化表面からはじかれて転落した。
撥水性評価2:
中型及び大型の滴が、はじかれて転落し、小型の滴は構造化表面上に残った。
撥水性評価3:
大型の滴のみが転落し、小型及び中型の滴は構造化表面上に残った。
【0176】
4.3干渉スペクトル
この試験は、構造化表面に対して、それらの初期状態で、及び上記の項C.2で説明したように適用した様々な回数のCrockmeter摩擦サイクルの後に実施した。
構造化表面の試料をつや消しの黒い表面上に設置し、試料上2mの距離に配置したCCFLタイプの光源(Osram Coolwhite L36W/21−840)で照射した。これらの条件下で、未磨耗構造化表面、即ち初期状態の構造化表面は、可視域で連続干渉スペクトルを示した(反射モード)。上記の項C.2で説明したように適用した様々な回数のCrockmeter摩擦サイクル後に構造化表面に生じた損傷は、構造化表面が初期状態又は磨耗状態それぞれで示した干渉スペクトルを比較することによって、定性的に評価することができた。
Panasonic DMC−FX12digitalカメラを用いて、およそ30cmの距離で、干渉スペクトルの写真を撮影した。
【0177】
4.4SEM顕微鏡写真
構造化表面から、初期状態又は磨耗状態それぞれで、SEM写真を撮影した。SEM写真は、FEI Comp.(Hilsboro,Oregon,U.S.A.)製のQuanta 400走査型電子顕微鏡で撮影した。使用した倍率は、それぞれ撮影したSEM顕微鏡写真上に示す。
(実施例)
【0178】
比較例1
DuPont Teijin Films(Luxembourg S.A)から入手したPETフィルムMELINEX 505フィルム基材上に、表1に示す濃度で基本配合物及び疎水性添加剤を含む前駆体をコーティングした。このコーティング層は、厚さ50μmであり、平滑な非構造化外面を呈した。
コーティングした前駆体を窒素下、UV−Hバルブを用いて紫外線線量約900mJ/cm
2で照射することによって硬化させた。続いて、前駆体フィルムの本質的に完全な硬化を確実にするために、紫外線管型電球Osram UVB(40W)を用いて、この前駆体を5分間紫外線に露光した。
硬化したフィルムの露出面を非構造化表面として使用して、その外観及びその水に対する静的接触角に関して評価した。結果を以下の表1にまとめる。
ステンレススチールウール布を用いる、非構造化表面について試験の項B.3で説明した摩擦手順で、表1に指定する硬化した非構造化フィルムのうち3種の露出面をそれぞれ処理した。かかる処理後の表面の外観を定性的に評価した。結果を以下の表10にまとめる。
表1に指定する硬化した非構造化フィルムのうち2種について、表面粗さを測定した。粗さ測定の結果を下記の表11にまとめる。
【0179】
(実施例1)
基本配合物A(98重量%)を2重量%全フッ素化添加剤A(FAD A)と混合し、攪拌時にやや濁った均一前駆体を形成した。
この前駆体をガラス基材又はMELINEX 505などの高分子シート基材上に、ドクターブレードを用いて厚さ100〜150μmにコーティングした。総紫外線照射線量900mJ/cm
2でUV−H光に露光することによって、この前駆体層を硬化させた。完全な表面硬化を確実にするために、窒素ブランケット下、紫外線管形電球Osram UVB(40W)で5分間更なる硬化を行った。硬化したフィルムの露出面を非構造化表面として使用し、上記に指定する試験方法を用いて試験した。
適当な量の前駆体を室温で上記のシリコーン成形型表面2上に注ぎ、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、即ち、DuPont Teijin Films(Luxembourg SA)製のMELINEX 505で被覆した。このフィルムをゴムでコーティングしたハンドローラーで延ばして、この混合物を鋳肌全体に厚さ約300〜400μmで均一に分配した。総紫外線照射線量900mJ/cm
2でUV−H光に露光することによって、この完成したフィルムをポリエステルフィルムを通して硬化させた。完全な硬化を確実にするために、窒素ブランケット下、紫外線管形電球Osram UVB(40W)で5分間更なる硬化を行った。次に、本発明による構造化表面を担持するPETフィルムをシリコーン成形型から剥離した。このフィルムは無色であったが、わずかに濁っていた。このフィルムの露出面が本発明の構造化表面に相当し、これを、上記に指定する試験方法を用いて試験した。この構造化構造のレール型のマイクロスケールの表面要素は、肉眼で見ることができた。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0180】
(実施例2)
前駆体が98重量%の基本配合物B及び2重量%の全フッ素化添加剤A(FAD A)からなる点以外は、実施例を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0181】
(実施例3)
前駆体が98重量%の基本配合物A及び2重量%の疎水性添加剤Rad 2300からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0182】
(実施例4)
前駆体が98重量%の基本配合物B及び2重量%の疎水性添加剤Rad 2300からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
【0183】
比較例2
前駆体が98重量%の基本配合物C及び2重量%の全フッ素化添加剤A(FAD A)からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0184】
比較例3
前駆体が98重量%の基本配合物D及び2重量%の全フッ素化添加剤A(FAD A)からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0185】
比較例4
前駆体が100重量%の基本配合物Fからなり、疎水性添加剤を添加しない点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0186】
比較例5
前駆体が100重量%の基本配合物Gからなり、疎水性添加剤を添加しない点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0187】
(実施例5)
前駆体が98重量%の基本配合物A及び2重量%の全フッ素化添加剤A(FAD A)からなり、成形型表面1を使用した点以外は、実施例1を繰り返した。
試験結果を表2〜7にまとめる。
【0188】
(実施例6A〜6D)
成形型表面2の代わりに成形型表面4A〜4Dをそれぞれ使用し、前駆体が98重量%の基本配合物A及び2重量%の疎水性添加剤RAD 2300からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
試験方法の項C.1で説明したように、静的接触角(水)を測定した。結果を表8にまとめる。
実施例6Dの構造化表面を摩擦手順RP−300に供した後、肉眼で外観を観察し、試験方法の項C.3.3で説明したように写真を撮影し、試験方法の項C.3.4で説明したようにSEM写真を撮影することによって、処理した構造化表面を定性的に評価した。
図5aは、綿布を用いた摩擦手順RP−300の10回の摩擦サイクルで処理した後の実施例6Dの構造化表面のSEM写真(上の写真)及び光学カメラで撮影した写真(下の写真)を示す。これらの写真は、摩擦処理前に撮影したSEM写真及び干渉スペクトルの写真と本質的に一致する。したがって、この摩擦手順は、実施例6Dの構造化表面を本質的に変化させなかった。
また、実施例6Dの構造化表面の外観は、綿布を用いた摩擦手順RP−300の100回及び1000回の摩擦サイクル後にも評価した。結果を表9にまとめる。
更に、実施例6Dの構造化表面の外観は、ステンレススチールウールグレード# 0000を用いた摩擦手順RP−300の10回の摩擦サイクル後にも評価した。この摩擦手順は、実施例6Dの構造化表面上にいかなる目に見える損傷も本質的に与えなかった。
【0189】
比較例6
前駆体が98重量%の基本配合物C及び2重量%の疎水性添加剤RAD 2300からなる点以外は、実施例6Dを繰り返した。
このようにして得た構造化表面を綿布を用いた摩擦手順RP−300に供した後、目視検査し、試験方法の項C.3.3で説明したように写真を撮影し、試験方法の項C.3.4で説明したようにSEM写真を撮影することによって、これを定性的に評価した。
図5bは、綿布を用いた摩擦手順RP−300の10回又は100回の摩擦サイクルにそれぞれ供した後の比較例6の構造化表面のSEM写真(上の写真)及び光学カメラで撮影した写真(下の写真)を示す。
図5a(表面処理前の
図5bの表面に相当する)との比較により、この摩擦手順が、比較例6の構造化表面を著しく変形させたことが認められる。
上記の摩擦処理後の比較例6の構造化表面の外観も表9で報告する。
【0190】
比較例7
前駆体が98重量%の基本配合物D及び2重量%の疎水性添加剤RAD 2300からなる点以外は、実施例6Dを繰り返した。このようにして得た構造化表面を綿布を用いた摩擦手順RP−300に供した後、目視検査し、試験方法の項C.3.3で説明したように写真を撮影し、試験方法の項C.3.4で説明したようにSEM写真を撮影することによって、これを定性的に評価した。
図5cは、綿布を用いた摩擦手順RP−300の10回又は100回の摩擦サイクルにそれぞれ供した後の比較例7の構造化表面のSEM写真(上の写真)及び光学カメラで撮影した写真(下の写真)を示す。
図5a(表面処理前の
図5cの表面に相当する)との比較により、この摩擦手順が、比較例7の構造化表面を著しく変形させることが認められる。
上記の摩擦処理後の比較例7の構造化表面の外観も表9で報告する。
【0191】
(実施例7)
成形型表面2の代わりに成形型表面1を使用し、前駆体が98重量%の基本配合物A及び2重量%の疎水性添加剤RAD 2300からなる点以外は、実施例1を繰り返した。
得られたマイクロ構造化表面及びナノ構造化表面は、突出したマイクロスケールの表面要素上にナノスケールの表面要素を有するSonS表面である。得られた構造化表面のSEM写真を
図2a及び
図2bに示す。
試験方法の項C.1で説明したように、静的接触角(水)を測定した。結果を表8にまとめる。
実施例7で使用したSonS表面について、レール型表面要素の巨視的延出の方向に平行な方向、及びそれに垂直な方向の両方向で、表面粗さ値Ra、Rmax、及びRzを測定した。粗さ測定の結果を下記の表11にまとめる。
【0192】
(実施例8)
成形型表面3について、プリズム状表面要素の巨視的延出の方向に平行な方向、及びそれに垂直な方向の両方向で、表面粗さ値Ra、Rmax、及びRzを測定した。成形型表面3(本発明の表面ではない)の粗さ測定の結果を下記の表11にまとめる。
【0193】
【表2】
【0194】
【表3】
* ISO R527による(製品試料から)
*** 製品試料からの値
−− 測定されず
n.m. 試料が脆性であり過ぎるため測定不可能
【0195】
【表4】
【0196】
【表5】
−− 測定されず
【0197】
【表6】
−− 測定されず
【0198】
【表7】
−− 測定されず
【0199】
【表8】
−− 測定されず
【0200】
【表9】
【0201】
【表10】
*) 測定されず
++ 引っ掻き傷が付いていない表面、即ち肉眼で見える引っ掻き傷がない
+ わずかに引っ掻き傷が付いた表面
− 強く引っ掻き傷が付いた表面
−− 極めて強く引っ掻き傷が付いた表面
【0202】
【表11】
++ 引っ掻き傷が付いていない表面、即ち肉眼で見える引っ掻き傷がない
+ わずかに引っ掻き傷が付いた表面
− 強く引っ掻き傷が付いた表面
−− 極めて強く引っ掻き傷が付いた表面
【0203】
【表12】