(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0006】
よって、本発明は、癌に罹患している疑いのある被験者のサンプルにおいて癌を診断する方法であって、
a)BRAFポリペプチドにおいて配列番号:1により特徴付けられるエピトープに特異的に結合する抗体に該サンプルを、該抗体のエピトープへの結合を可能にする条件下で接触させ、
b)エピトープに対する抗体の結合を決定し、それによって癌が診断される、
ことを含む方法に関する。
【0007】
本発明の方法の好ましい実施態様では、前記抗体はモノクローナル抗体である。
【0008】
本発明の方法の他の好ましい実施態様では、前記抗体は、受託番号DSM ACC3091で寄託されている抗体である。
【0009】
本発明の方法の好ましい実施態様では、前記癌の診断は、癌細胞の有無を決定することを含む。
【0010】
本発明の上述の方法の好ましい実施態様では、前記癌細胞は組織サンプル内に存在する。
【0011】
上述した本発明の方法の好ましい実施態様では、前記組織サンプルは組織切片サンプルである。
【0012】
本発明の方法の好ましい実施態様では、前記方法は、工程b)で得られた診断に基づいて抗癌療法を推奨する工程をさらに含む。
【0013】
本発明の上述した方法の好ましい実施態様では、前記抗癌療法は、抗BRAFアンチセンスRNA、siRNA又はミクロ
RNA剤、抗BRAF抗体、ソラフェニブ、セツキシマブ、RAF-265、PLX-4032及びGDC-0879からなる群から選択される。
【0014】
また本発明は、BRAFポリペプチドにおける配列番号:1により特徴付けられるエピトープに特異的に結合する抗体に関する。
【0015】
本発明の抗体の好ましい実施態様では、前記抗体はモノクローナル抗体である。
【0016】
本発明は、さらに、「Deutsches Krebsforschungszentrum」, Heidelberg, GERMANYによるブダペスト条約に従い2010年9月8日の「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH」, 38124 Braunschweig, GERMANYに受託番号DSM ACC3091で寄託されている抗体に関する。
【0017】
本発明は、
a)本発明の抗体を含む分析ユニットであって、該分析ユニットに適用されるサンプル中のBRAFポリペプチドにおいて配列番号:1により特徴付けられるエピトープへの抗体の特異的結合の決定を可能にする分析ユニットと;
b)分析ユニットにより決定される結合を評価し、診断を確立するための実行ルールを含む評価ユニット
を含む癌の診断装置に関する。
【0018】
本発明の装置の好ましい実施態様では、前記サンプルは組織サンプルである。
【0019】
本発明の上述した装置の好ましい実施態様では、前記組織サンプルは組織切片サンプルである。
【0020】
また本発明は、本発明の抗体を含む癌の診断キットに関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、癌に罹患している疑いのある被験者のサンプルにおいて癌を診断する方法であって、
a)B-Rafポリペプチドにおいて配列番号:1により特徴付けられるエピトープに特異的に結合する抗体に該サンプルを、該抗体のエピトープへの結合を可能にする条件下で接触させ、
b)エピトープに対する抗体の結合を決定し、それによって癌が診断される、
ことを含む方法に関する。
【0023】
ここで使用される「診断」なる用語は、被験者が癌に罹患しているかどうかを評価することを意味する。当業者には理解されるように、このような評価は、通常、同定される被験者の全て(すなわち100%)に対して正確であることが意図されるものではない。しかしながら、本用語は、被験者の統計的に有意な部分を同定することができる(例えば、コホート研究におけるコホート)ことを必要とするものである。部分が統計的に有意であるかどうかは、様々なよく知られている統計的な評価ツール、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントt検定、マンホイットニー検定等を使用し、当業者により、さらなる手間をかけることなく決定することができる。詳細は、Dowdy及びWearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。
【0024】
より好ましくは、集団の被験者の少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%が、本発明の方法により適切に同定されうる。本発明に係る診断は、関連する癌のモニタリング、確認及び細分類における本方法の利用を含む。
【0025】
さらに、診断はまた被験者の予後の確立を含む。本発明の方法に従って癌に罹患していると診断された被験者は、BRAF V600Eポリペプチドを発現する癌細胞を有しているであろう。BRAF V600Eの存在は、被験者における可能な予後不良の予測指標である。よって、本発明の方法は、また、リスク層別化アプローチに対して、よって、癌に罹患している個々の被験者に対して必要とされるであろう集中治療及び入院の程度を決定するために適用されうる。
【0026】
ここで使用される「癌」なる用語は、任意の悪性腫瘍を意味する。悪性腫瘍は、所望されない増殖、浸潤、及びある種の条件下での、生物の障害のある細胞の転移から生じる疾患を意味する。癌を引き起こす細胞は、遺伝的に障害があり、通常、細胞分裂、細胞遊走挙動、分化状態及び/又は細胞死機構をコントロールする能力を喪失している。ほとんどの癌は腫瘍を形成するが、いくつかの造血性癌、例えば白血病はそうではない。本発明の癌は、ここで他で特定されるように、BRAF V600E変異ポリペプチドを発現する癌細胞を含むであろう。癌の好ましいタイプは、メラノーマ、乳頭状甲状腺癌、結腸癌、卵巣癌及び乳癌からなる群から選択される。最も好ましくは、癌は、それらの癌において、BRAF V600E変異が50%以上と非常に高い割合であるため、メラノーマ又は乳頭状甲状腺癌である。また好ましくは、本発明に係る癌は、造血性癌、好ましくは成熟B細胞の腫瘍を含む白血病である。より好ましくは、前記癌はヘアリー細胞白血病である。種々の癌の症状及びステージ分類システムは当該技術分野でよく知られており、病理学の標準的なテキストに記載されている。ここで使用される癌は、癌又は癌に罹患した組織又は器官の任意のステージ、等級、形態的特徴、侵襲性、攻撃性又は悪性度を包含する。
【0027】
「サンプル」なる用語は、分離された細胞のサンプル、又は組織又は器官からのサンプルを意味する。組織又は器官のサンプルは、例えばバイオプシーにより、任意の組織又は器官から得ることができる。分離された細胞は、体液、例えばリンパ、血液、血漿、血清、髄液等から、又は組織又は器官から、分離技術、例えば遠心分離又は細胞選別により得ることができる。好ましくは、細胞、組織又は器官サンプルは、ここで言及されるペプチドを発現し又は生成する細胞、組織又は器官から得られる。サンプルは、被験者から組織又は細胞物質を吸引することを含む切開バイオプシー等、当業者によく知られている常套的な技術により、被験者から得ることができる。切開バイオプシーを介して容易に到達できない領域については、外科手術、好ましくは最小侵襲手術を実施することができる。
【0028】
ここで使用される「被験者」なる用語は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。好ましくは、本発明の方法は、臨床的に明らかな症状に鑑みて癌に罹患している疑いのある被験者か、又は潜在的に増加した素因のため癌に罹患している疑いのある被験者に適用されるであろう。
【0029】
「抗体」なる用語は、BRAF V600Eポリペプチドに特異的に結合する全てのタイプの抗体を意味する。本発明の抗体は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列により特徴付けられるエピトープに特異的に結合する。好ましくは、本発明の抗体はモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、又はBRAF V600Eポリペプチド、特に配列番号:1に示すエピトープに結合可能なこのような抗体の任意の断片又は誘導体である。ここで使用される抗体なる用語に含まれるこのような断片及び誘導体は、二重特異性抗体、合成抗体、Fab、F(ab)2Fv、又はscFv断片、又はこれらの抗体の任意の化学的修飾された誘導体を含む。好ましくは、本発明で考慮される化学的修飾は、この明細書で特定されるように、検出可能なマーカーに抗体をカップリングさせることを目的とするものが含まれる。本発明の抗体で使用される特異的結合は、抗体が、BRAF V600E変異ポリペプチド以外の野生型BRAF又はBRAFムテインを含む他のポリペプチドを交差反応しないか、又はさらにより好ましくは配列番号:1に示されるエピトープ以外の如何なるエピトープとも交差反応しないことを意味する。特異的結合は、様々なよく知られている技術により試験することができる。好ましくは、特異的結合は、付随する実施例に記載されたように試験することができる。抗体又はその断片は、一般的に、例えばHarlow 及び Lane 「Antibodies, A Laboratory Manual」, CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載の方法を使用して得ることができる。
【0030】
モノクローナル抗体は、免疫化した哺乳動物、好ましくは免疫化したマウスから誘導された脾臓細胞にマウス骨髄腫細胞を融合させることを含む技術により調製することができる(Kohler 1975, Nature 256, 495, and Galfire 1981, Meth. Enzymol. 73, 3)。好ましくは、配列番号:1に示されるエピトープを有する免疫原性ペプチドが哺乳動物に適用される。配列番号:1に示される配列を有するペプチドは、好ましくは担体タンパク質、例えばウシ血清アルブミン、サイログロブリン、及びキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)にコンジュゲートしている。宿主種に応じて、様々なアジュバントを使用して免疫学的応答を増加させることができる。そのようなアジュバントは、好ましくはフロイントアジュバント、ミネラルゲル、例えば水酸化アルミニウム、及び界面活性剤、例えばリゾレシチン、プルロニックポリオール類、ポリアニオン類、ペプチド類、油性エマルション、キーホールリンペットへモシアニン、及びジニトロフェノールを含む。BRAF V600Eにおいて配列番号:1を有するエピトープに特異的に結合するモノクローナル抗体は、ついで、よく知られているハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、及びEBVハイブリドーマ技術を使用して調製することができる。好ましくは、本発明の抗体は、以下に付随する実施例に記載の方法で得ることができる。好ましくは、抗体はモノクローナル抗体か又は上述したようなその誘導体である。より好ましくは、抗体は、「Deutsches Krebsfor-schungszentrum」, Heidelberg, GERMANYによるブダペスト条約に従い、2010年9月8日の「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH」, 38124 Braunschweig, GERMANYに受託番号DSM ACC3091で寄託されている抗体である。
【0031】
ここで使用される「BRAFポリペプチド」なる用語は、v-Rafマウス肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログB1癌遺伝子によりコードされるポリペプチドを意味する。BRAFポリペプチドは、細胞増殖に関与しているRAS/RAF/MEK/ERKシグナル伝達経路に作用するセリン/スレオニンキナーゼである。この経路の活性化により悪性形質転換が促進される。BRAF癌遺伝子の構造及びBRAFポリペプチドは当該技術分野でよく知られている。好ましくは、BRAFポリペプチドは、Sithanandam 1990, Oncogene 5 (12): 1775-80に開示のヒトBRAFポリペプチド、及び対立遺伝子変異体、オルソログ及びホモログを含む前記特定のBRAFポリペプチドの変異体を意味する。他の生物、例えば齧歯動物におけるヒトBRAFのオルソログも当該技術分野でよく知られている。本発明の方法において言及されるBRAFポリペプチドは、配列番号:1に示されるエピトープを含み、よって、アミノ酸位置600又はそれに対応するアミノ酸位置で、バリン(V)がグルタミン酸(E)に交換される。
【0032】
ここで言及されるサンプルを接触させるとは、抗体とサンプルを物理的に接触させ、それによって、サンプルに含まれているならばBRAF V600Eポリペプチドにおける配列番号:1に示されるようなエピトープに抗体を特異的に結合させることを可能にすることを意味する。ここで意味される接触は、抗体を、BRAF V600Eポリペプチドに特異的に結合させるのに十分な時間及び条件下で実施されることが理解される。サンプルの性質に応じて、BRAF V600Eを放出させるため、又はBRAF V600Eポリペプチドにおいてエピトープを破蔽するために、抗体がそこにアクセスし、特異的に結合できるように、前処理工程が必要であるかもしれない。さらに、サンプルの種類に応じて、操作性が異なるかもしれない。例えば、BRAF V600Eポリペプチドの有無が分析される組織サンプルは、好ましくはホモジナイズされ、組織からなるタンパク質は、例えばSDSPAGE又は他のタンパク質分離方法により、単離又は分離される。分離されたタンパク質は、免疫学的方法、例えば、ここで定められる抗体を使用するウエスタンブロットにより、BRAF V600Eポリペプチドの有無について分析される。これらの方法は、BRAF V600Eポリペプチドに抗体を特異的に結合させることを可能にするインキュベート工程をまた含む。特異性を増加させるために、洗浄工程が実施されることになる。このような処置を実施するための方法は当業者によく知られている。サンプルとして組織切片(すなわち、組織切片サンプル)が使用される場合、BRAF V600Eポリペプチドポリペプチドの有無についてばかりでなく、その細胞又は細胞下位置もまた分析することが考慮されると理解されるであろう。従って、組織はインタクトのままに維持され、また抗体結合の前後で、組織化学染色技術により染色されてもよい。組織切片の免疫染色を可能にする適切な技術は当業者によく知られている。組織切片サンプルが包埋媒体、例えばパラフィンに包埋されているかどうかに応じて、該包埋媒体の除去が必要となるかもしれない。関連技術もまた当該技術分野でよく知られている。
【0033】
ここで使用される抗体の結合の決定は、もしあれば、サンプルに含まれるBRAF V600Eポリペプチドに特異的に結合する抗体を検出することを意味する。抗原に特異的に結合する抗体の検出方法は、当該技術分野でよく知られている。好ましくは、本発明の方法に利用される抗体それ自体は、検出可能マーカー、例えば放射性同位体(例えば、ヨウ化テクネチウムの放射性同位体)、蛍光又は化学発光剤(例えば、FITC、ローダミン)、基質を転換させることにより検出可能なシグナルを発生させることができる酵素(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、ホタルルシフェラーゼ、又はベータガラクトシダーゼ)、蛍光タンパク質(例えば、緑、青又は赤蛍光タンパク質)とカップリングさせることができる。適切な検出可能マーカーは当該技術分野でよく知られている。また好ましくは、本発明の方法に利用される抗体は、検出剤を誘引可能な薬剤とカップリングさせることもできる。このような薬剤はビオチンでありうる。このような場合、結合抗体のビオチンの結合時に検出可能マーカーとなるアビジン又はストレプトアビジン結合検出剤を使用することができる。そのような場合の適切な検出可能マーカーは、上で言及したものであり、より好ましくは、酵素がそのような場合の検出可能マーカーとして使用されるであろう。
【0034】
さらに、第2の抗体を、第1の抗体、つまり、サンプルのBRAF V600Eポリペプチドに結合する本発明の方法に利用される抗体を検出するために使用することができる。このような第2の抗体は、上述の検出可能マーカーにカップリングされるであろう。よって、後者の場合、第2の抗体は、第1の抗体への結合時に、検出可能なシグナルを発生し、それによって結合した第1の抗体の検出を確実にする。結合した抗体を第2の抗体で検出する原理は当該技術分野でよく知られており、例えば組織切片での抗体結合を決定するのに常套的に利用されている。検出可能マーカーのタイプに応じて、検出可能マーカーにより発生させられるシグナルの読み取りシステムを使用する異なった検出方法を利用することができる。このようなシステムは、自動シグナル読み取り装置、例えばELISA又はRIAリーダーを含むが、さらには検出可能シグナルを手動又は自動で検出する顕微鏡装置を含む。さらに、読み取りシステムは、サンプルのさらなる情報を決定することができ、例えば顕微鏡システムは組織切片の細胞を光学的に表示し、又は自動シグナル読み取り機は、サンプルにさらに含有されるさらなるバイオマーカーを決定することができる。
【0035】
一般に、本発明の方法に従って記述される抗体は、ここで特定されるような癌を、その癌に罹患している疑いのある被験者からのサンプルで診断するのに有用であることが驚くべきことに見出された。本発明の方法により、被験者におけるBRAF状態の迅速、簡単で信頼性のある分析と、よって癌の診断が可能になる。予後及び臨床的ヘルスケア管理のための可能な療法の決定、及び/又は癌の適切な分類のために、臨床医又は病理学者にとって重要な基礎である診断結果をより早く作製でき、また遺伝子配列決定分析とは異なり、その他の点では目立たない組織内の個々の腫瘍細胞をまた、癌サンプルの量が乏しい場合でさえ検出できるので、信頼性が高まる。
【0036】
本発明の方法の好ましい実施態様では、前記癌の診断は、癌細胞の有無(存在又は不存在)を決定することを含む。好ましくは、前記癌細胞は組織サンプル内にあり、より好ましくは、前記組織サンプルは組織切片サンプルである。
【0037】
癌は、サンプル中の癌細胞の存在を決定することにより、好ましくは診断することができる。癌細胞がサンプル中で同定されると、確かに被験者が癌に罹患しているという疑いを確認することができる。同様に、サンプル中での癌細胞の不存在は、好ましくは、癌に罹患していないであろう被験者からのサンプルであるとの指標となる。好ましくは、後者の態様におけるサンプルは、癌に罹患している疑いがある被験者において癌の典型となるサンプルである。例えば、サンプルは癌に罹患していると思われ、被験者が癌に罹患したという疑いの基礎となっている組織から取り出されるであろう。本発明のこのような態様では、癌に罹患していないことが分かっているか又は癌に罹患していると疑われない組織からサンプルは、そのようなサンプルは擬陰性の診断結果を生じうるので、取り出されないことが理解されるであろう。
【0038】
特に、組織サンプル、好ましくは組織切片サンプルが、本発明の方法に使用される場合、診断は個々の癌細胞の同定をまた包含する。従って、本発明の方法は、癌の程度及び/又は癌の均一性を測定するために、組織又は組織切片における癌細胞を画像化するために利用することができる。癌に罹患している組織内の癌の程度の決定は、薬剤ベースの治療と、また特に、癌の全部分が罹患組織又は器官から実際に切除されていることを組織バイオプシーによって確認することが必要な外科手術には重要である。いくつかの態様では、本発明の方法によって同定されないが、例えばその形態のために明らかな癌細胞である癌細胞が存在しているかもしれない。本発明の方法により同定される癌細胞に加えて、本発明の方法により同定できないこのような癌細胞を含む癌は、単一薬剤よりも薬剤の併用により治療されうる。
【0039】
本発明の方法の好ましい実施態様では、前記方法は、工程b)で得られる診断をベースにした抗癌療法を推奨する工程をさらに含む。
【0040】
ここで使用される「推奨する」なる用語は、被験者に対し、ある抗癌療法を推奨するか、又はある種の抗癌療法を排除する(すなわち推奨しない)ことを意味する。このような推奨は、場合によっては、他の情報、例えば病理組織学的研究からの情報と共に、個々の被験者に対してある種の抗癌療法を適用するか否かの、臨床医にとっての基準となる。本発明の方法の工程b)において確立された診断、すなわち「癌」又は「非癌」の診断に基づき、抗癌療法の推奨がなされるであろう。「癌」の診断が本発明の方法により確立されている場合においてのみ、ある抗癌療法の推奨がなされることが理解されるであろう。「非癌」であることが本発明の方法に基づいた診断として確立されている場合には、推奨は抗癌療法の停止である。上に記載したように、サンプルを得た被験者からのさらなる情報を、推奨を改善するために使用することができる。一態様では、例えば異なった抗癌剤との併用抗癌療法は、本発明の方法で癌細胞であると同定されたが、本発明の方法により同定されないさらなる癌細胞が、例えば組織病理学的分析により、検査した癌において検出されるならば、推奨できる。
【0041】
ここで使用される「抗癌療法」なる用語は、外科手術ベースの治療、放射線ベースの治療、薬剤ベースの治療、又はその組合せである治療を含む。前記薬剤ベースの抗癌療法は、好ましくはB-Rafポリペプチド、より好ましくは配列番号:1に示すエピトープを有するB-Rafポリペプチドに影響を与える治療法である。適切な薬剤は、B-Rafポリペプチドのタンパク活性、又はB-Raf癌遺伝子の転写又は翻訳、又はその転写物に干渉可能である。好ましくは、前記抗癌剤は、抗RafアンチセンスRNA、siRNA又はミクロ
RNA剤、抗Raf抗体、及び小分子からなる群から選択される。特に好ましい薬剤はソラフェニブ、RAF-265、PLX-4032又はGDC-0879である。
【0042】
さらに、本発明の方法における推奨は、所定の場合、ある種の治療に対するネガティブ推奨を含む。例えば、薬剤の治療標的が、BRAF V600Eのシグナル伝達カスケードの上流で作用するならば(構成的に活性であり、よって上流シグナル活性化からは独立している)、上流の治療標的を阻害することを目的とする薬剤は、BRAF V600E陽性癌の単独治療の適切な基礎とはならないと、合理的に仮定することができる。EGFレセプター(EGFR)は、BRAFの上流活性化因子として報告されている。さらに、EGFR阻害剤は癌治療に使用されている。特に関心があるのは抗EGFR抗体、例えばセツキシマブである。本発明の方法の好ましい実施態様では、推奨は、本発明の方法により癌に罹患していると診断された被験者、すなわち癌細胞にBRAF V600Eポリペプチドが発現している被験者に対し、ある種の治療を排除することをまた意味すると考えられる。好ましくは、このような療法は、BRAFポリペプチドを活性化させるシグナル伝達経路の上流成分の活性を阻害することを目的とする療法である。より好ましくは、このような成分はEGFRであり、適切な薬剤は抗EGFR抗体、例えばセツキシマブである。
【0043】
また本発明はBRAFポリペプチドにおいて配列番号:1により特徴付けられるエピトープに特異的に結合する抗体に関する。
【0044】
より好ましくは、前記抗体は、明細書の他の箇所でさらに詳細に定義されているモノクローナル抗体である。
【0045】
本発明は、「Deutsches Krebsforschungszentrum」, Heidelberg, GERMANYによるブダペスト条約に従い、2010年9月8日の「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zell-kulturen GmbH」, 38124 Braunschweig, GERMANYに受託番号DSM ACC3091で寄託されている抗体をさらに考慮する。
【0046】
本発明の抗体は免疫化学的アッセイ、例えばウエスタンブロット、ELISA、ラジオイムノアッセイ、免疫組織化学アッセイ、免疫沈降、又は他の当該技術分野で既知の免疫化学的アッセイに使用することができる。特に、抗体は、上述の本発明の方法を実施するために有用である。
【0047】
本発明は、
a)上で言及された本発明の抗体を含む分析ユニットであって、分析ユニットに適用されるサンプル中のBRAFポリペプチドにおいて配列番号:1により特徴付けられるエピトープに対する前記抗体の特異的結合の決定を可能にする分析ユニットと;
b)分析ユニットにより決定される結合を評価し、診断を確立する実行ルールを含む評価ユニット
を含む癌診断装置にさらに関する。
【0048】
ここで使用される「装置」なる用語は、互いに作用可能に関連した少なくとも上述した分析ユニットと評価ユニットを具備するシステムに関する。装置のユニットを操作形式に如何にして関連させるかは、装置に含まれるユニットのタイプに依存する。例えば、サンプルの自動分析用のユニットが利用される場合、前記自動操作分析ユニットにより得られるデータは、例えば、評価ユニットにより所望の結果を得るために、例えばコンピュータプログラムにより処理することができる。このような場合、好ましくは、ユニットは単一装置に含まれる。分析ユニットは、固体支持体上に固定形態で抗体を含みうる。このような分析ユニットは、特に液体サンプルに有用である。本発明の装置で検査されるサンプルは、好ましくは組織サンプル、より好ましくは組織切片サンプルである。よって、他の態様では、抗体は、分析ユニットにより、組織サンプル、例えば組織切片に適用されるであろう検出液に含まれていてもよい。検出液は分析ユニット又は別個のバイアル内に、装置外部においてさえ、保存することができる。評価ユニット、好ましくはコンピュータ又はデータプロセシング装置は、分析ユニットにより決定される結合を評価するための実行ルール、すなわちアルゴリズムを含み、それによって、結合は、シグナルのタイプ、強度、組織サンプルの場合には、組織に関するシグナルの位置に基づき、有意な結合又は非有意な結合に評価される。非有意な結合を示すと評価されたサンプルについては、「非癌」との診断がなされるであろう。評価の結果として有意な結合が得られた場合は、癌との診断がなされるであろう。
【0049】
最後に、本発明は、上で特定した本発明の抗体を含む癌診断キットに関する。
【0050】
ここで使用される「キット」なる用語は、サンプルで癌を診断するための使用準備が整った形で提供される上述の抗体と使用説明書の集合体(コレクション)を意味する。抗体及び使用説明書は、好ましくは単一容器に提供される。好ましくは、キットは診断の実施に必要なさらなる成分をまた含む。このような成分は、抗体の結合の検出に必要な補助剤、分析されるサンプルを前処理するための薬剤又は較正標準でありうる。
【0051】
この明細書に引用される全ての文献は、その全開示内容とこの明細書に特に述べられた開示内容に関して、出典明示によりここに援用される。
【実施例】
【0052】
次の実施例は単に本発明を例証するものである。それらは、なんであれ、本発明の範囲を限定すると解されてはならない。
【0053】
実施例1:BRAF V600E変異ポリペプチドを特異的に標的とする抗体の産生
596から606位のBRAFアミノ酸配列に適合し、V->E交換を抱える合成ペプチドGLATEKSRWSG(配列番号:1)を商業的に産生させた。Husarソフトウェアパッケージ(DKFZ, Heidelberg, Germany)を、適切な配列領域を選択するために使用した。ペプチドをKLH(キーホールリンペットへモシアニン)にコンジュゲートさせ、免疫原性ペプチドを形成させた。6週齢の雌のC57black sexマウス(Charles River, Sulzfeld, Germany)を使用した。常に、100μl容量を次のスケジュールに従い、マウスの後肢に注射した:
1日目:完全フロイントアジュバントを用い、1:1であることが明らかなPBSに溶解した20μgの免疫原性ペプチドを、マウスに注射した。
5日目:不完全フロイントアジュバントを用い、1:1であることが明らかなPBSに溶解した20μgの免疫原性ペプチドを、マウスに注射した。
11日目:PBSに溶解した20μgの免疫原性ペプチドを、マウスに注射した。
18日目:PBSに溶解した20μgの免疫原性ペプチドを、マウスに注射した。
【0054】
19日目に、マウスから血液を抽出し、血清を分離し、BRAF V600E又はBRAF野生型タンパク質のいずれかを有する腫瘍タンパク質に対してウエスタンブロット試験を実施した。46日目に、PBSに溶解した20μgの免疫原性ペプチドをマウスに注射した。47日目に、マウスから血液を抽出し、血清を分離し、BRAF V600E又はBRAF野生型タンパク質のいずれかを有する腫瘍タンパク質に対してウエスタンブロット試験を実施した。48日目にマウスを屠殺した。膝窩リンパ節を除去し、細胞を分離し、株SP2/0の腫瘍細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を生じさせた。最後に、ハイブリドーマ細胞を増殖させ、単一細胞を取り上げ、純粋なクローンを作製するために分離した。クローンの上清をウエスタンブロットで分析し、BRAF V600E特異的抗体を産生するクローンを検出した。
【0055】
変異体(V600E)及び野生型(wt)BRAFを発現する細胞株からのタンパク質抽出物を使用するウエスタンブロットによる分析により、BRAF V600Eに対するハイブリドーマクローン53、62、449及び263の結合が示される。よって、これらの抗体は、ウエスタンブロットによるBRAF V600E変異の検出に非常に有用である。クローン263は、「Deutsches Krebsforschungszentrum」, Heidelberg, GERMANYによるブダペスト条約に従い、2010年9月8日の「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH」, 38124 Braunschweig, GERMANYに受託番号DSM ACC3091で寄託した。
【0056】
実施例2:クローン263の抗体は組織切片においてBRAF V600E変異ポリペプチドを発現する腫瘍細胞を特異的に標的とする
ホルマリン固定されパラフィン包埋された切片を、電気冷却対物クランプ(クールカット(Cool-Cut)
TM;Thermo Fisher Scientific)を具備したミクロムHM355C
TMミクロトーム(Thermo Fisher Scientific,Waltham, MA, USA)を用いて4μmに切断した。その後、切片を80℃で15分乾燥させ、ベンタナベンチマーク(Ventana BenchMark)XT(登録商標)免疫染色器(Ventana Medical Systems, Tucson, AZ, USA)で抗BRAF V600E抗体(クローン263)を染色した。ベンタナ染色手順は、60分、細胞コンディショナー1(pH8)を用いた前処理を含み、ついで、37℃で32分、希釈しないBRAF V600Eハイブリドーマ上清と共にインキュベートした。抗体のインキュベートに続いて、ベンタナ増幅キット、ウルトラウォッシュ(UltraWash)を含むベンタナ標準シグナル増幅をし、1滴のヘマトキシリンで4分、1滴の青化試薬で4分、対比染色させた。発色検出のために、ウルトラビュー(ultraView)
TMユニバーサルレッドv3検出キット(Ventana Medical Systems)を使用した。続いて、免疫染色器からスライドを取り除き、皿洗い用洗浄剤を用いて水で洗浄し、取り付けた。一次抗体BRAF V600E(クローン263)を取り除いても、色素原は検出されなかった。腫瘍細胞がBRAF V600Eに対して強い細胞質染色を示した場合に、免疫反応はポジティブであるとスコアリングされた。弱い拡散染色及びマクロファージの染色は、ポジティブとスコアリングされなかった。
【0057】
予め決定された配列状態を有する腫瘍からの、ホルマリン固定されパラフィン包埋された組織切片に対する免疫組織化学によるBRAF V600E変異の分析により、ハイブリドーマクローン263はBRAF V600E変異メラノーマに排他的に結合する(
図2を参照)が、野生型BRAFのメラノーマへは結合しないことが示された。重要なことには、ウエスタンブロットによりBRAF V600Eにまた結合することが
図1に示されたクローン53、62及び449は、ホルマリン固定されパラフィン包埋された組織切片上のこの変異を認識しない。しかしながら、特異的結合が特定のマウスクローン263についてのみ観察された(
図2と、
図3の拡大図を参照)。
【0058】
クローン263は、「Deutsches Krebsfor-schungszentrum」, Heidelberg, GERMANYによるブダペスト条約に従い、2010年9月8日の「DSMZ - Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH」, 38124 Braunschweig, GERMANYに受託番号DSM ACC3091で寄託されている。
【0059】
実施例3:クローン263の抗体はBRAF V600E変異ポリペプチドを発現するヘアリー細胞白血病を特異的に同定する
全てのヒトの材料は、National Center for Tumor Diseases (NCT) and the Department of General Pathology, Institute for Pathology, HeidelbergのTissue Bankから得た。形質細胞腫 (n=26)、濾胞性リンパ腫(n=34)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(n=41)、縦隔原発B細胞性大細胞型リンパ腫(n=25)、マントル細胞リンパ腫(n=17)、節外周辺帯B細胞リンパ腫(n=16)、ヘアリー細胞リンパ腫(n=3)及びホジキンリンパ腫(n=46)を含む成熟B細胞腫瘍の208の症例を含むパラフィン包埋組織から構築された組織マイクロアレイ(TMA)を分析した。さらなる実験のために、ヘアリー細胞白血病(全n=35)を有する骨髄(n=34)又は脾臓(n=1)、及び脾臓周辺帯リンパ腫(SMZL)(n=4)を有する骨髄からの付加的な完全切片を評価した。
【0060】
免疫組織化学は以下のようにして実施した:TMA及び骨髄又は脾臓からの切片を、4ミクロンに切断し、80℃で15分乾燥させ、ベンタナから提供された標準試薬を使用し、自動免疫染色器(Ventana BenchMark XT, Ventana Medical Systems, Tucson, Arizona, USA)において、BRAF V600E特異的マウスモノクローナル抗体(クローンVE1)に暴露した。細胞コンディショナー1を用いた前処理の後に、37℃で32分、VE1ハイブリドーマ上清と共にインキュベートし、増幅キット、ウルトラウォッシュにより連続シグナルを高め、ウルトラビューユニバーサルDAB検出キットを用いて色素原を検出し、ヘマトキシリン及び青化試薬でそれぞれ4分、対比染色させた。免疫染色されたスライドは、変異状態の知識なしに、3人の病理学者(DC、AvD、MA)により評価された。
【0061】
また、BRAF V600Eを、直接DNA配列決定により検出した。HCL及びSMZL(n=39)を患っている患者のDNAをホルマリン固定されパラフィン包埋された(FFPE)ものから、DNAを抽出した。プライマー配列及び直接配列決定手順は以前に記載されている(Schindler 2011, Acta Neuropathol 121: 397-405)。
【0062】
BRAF V600E-特異性抗体を用いたBRAF V600E変異の活性化に対して、208の成人成熟細胞リンパ腫のスクリーニングにより、HCLの3つの症例において、2つのポジティブサンプルが同定された。全ての他のリンパ腫の症例はネガティブであった。さらに、最初の組織マイクロアレイ分析には含まれない34のHCLの骨髄のバイオプシー及び1つの脾臓のバイオプシーの分析により、35の症例のうち31で、変異したBRAF V600Eタンパク質の強い細胞質発現が示された(87%)。ゲノムDNAの直接配列決定により、31の免疫組織化学ポジティブのHCLの症例の24で、BRAF−V600E交換の存在が確認された(77%)。7つのBRAF V600E発現骨髄バイオプシーにおいて、BRAF変異は直接配列決定で検出されなかった。これら7つの症例の2つで、腫瘍細胞量が15%以下であった。代表的な症例を
図4に示す。しかしながら、残った5つの症例では、50%以上の細胞がHCLであった。FFPE物質からのDNAのプロセシングに関連した問題は、誤ったネガティブな直接配列決定結果に一因があるかもしれなかった。重要なことに、BRAF-V600E変異は4つの免疫的ネガティブな症例では検出されなかった。さらに、他のBRAFコドン600変異も同定されなかった。これらのデータは、活性化BRAF-V600E変異が、HCLにおける非常に頻出な事象であることを示している。このことは、変異BRAFが構造的なERK活性化に至らしめる重要な分子メカニズムであり、HCLの癌遺伝子形質転換における必須の分子事象を表しうることを強く示唆している。さらに、本発見は、BRAF V600E変異-特異性抗体を用いる免疫組織化学が、低腫瘍細胞の負荷リンパ腫においてBRAF V600E変異を検出するための直接DNA配列決定よりも、より敏感であることを示している。よって、BRAF V600E特異性抗体は、HCL診断を確認し、最小残存病変をモニターするための、重要な新規マーカーである。さらに、本結果は、HCLが、BRAF V600E活性を特異的に阻害する分子化合物の新規創製に対応しうることを暗示している。まとめると、これらの発見は、BRAF-V600E変異が、HCLの病変形成における重要な分子事象であり、VE1を用いた免疫組織化学により容易に検出されることを示している。