【実施例1】
【0017】
図2には、本発明の実施例1である光量調節装置としての絞り装置を搭載した光学機器としてのビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の撮像装置の構成を示している。なお、本実施例では、絞り装置を撮像装置に搭載する場合について説明するが、本発明の実施例としての絞り装置は、交換レンズ等の他の光学機器に搭載することもできる。
【0018】
撮像装置1は、レンズ11,13,14,15と、レンズ11,13の間に配置された絞り装置12とにより構成される撮像光学系を有する。16はローパスおよび赤外カットフィルタであり、17はCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子である。
【0019】
不図示の被写体からの光束は、撮像光学系に入射し、撮像光学系の結像作用によって撮像素子17上に被写体像を形成する。撮像素子17は、被写体像を光電変換して電気信号を出力する。撮像装置1は、不図示の画像処理回路により撮像素子17から出力された電気信号を処理して、撮影画像を生成する。撮影画像は、撮像装置1に設けられた不図示のモニタに表示されたり、撮像装置1に着脱可能に挿入された半導体メモリ等の記録媒体に記録されたりする。
【0020】
図3には、絞り装置12を撮影光学系の光軸方向から見て示している。18は絞り地板であり、光束を通過させる固定開口18aが形成されている。絞り地板18には、2枚の遮光羽根である絞り羽根19a,19bが、光軸方向に対して直交する面内で互いに反対方向(図では上下方向)に移動可能に取り付けられている。絞り羽根19a,19bは、それらの組み合わせによって、絞り開口Sを形成する。
【0021】
2枚の絞り羽根19a,19bにはそれぞれガイド溝穴部19c,19dが形成されており、これらガイド溝穴部19c,19dに絞り地板18に形成されたガイドピン18bが係合することで、絞り羽根19a,19bはその可動方向にガイドされる。また、絞り羽根19a,19bにはそれぞれ、長穴部19e,19fが形成されており、これら長穴部19e,19fには、駆動レバー21の両端に設けられた駆動ピン21a,21bが挿入されている。駆動レバー21は、ステッピングモータ等により構成される絞りアクチュエータ22によって回動され、駆動ピン21a,21bを介して絞り羽根19a,19bをその可動方向に駆動する。これにより、絞り羽根19a,19bが形成する絞り開口Sの開口径(絞り開口径)が変化し、固定開口18aを通過する光束の光量、つまりは撮影光学系を通過して撮像素子17に到達する光量が調節される。
【0022】
2枚の絞り羽根19a,19bのうち一方の絞り羽根19bには、絞り開口Sを通過する光束を遮る、具体的には光束の光量を調整する光学フィルタの一例として、光量を減少させる光学フィルタとしてのND(減光)フィルタ20が貼り付けられている。NDフィルタ20は、
図3に示すほぼ開放状態からこれよりも絞り開口径が小さい中間絞り状態までの絞り開口Sの一部を覆い、さらに絞り開口径が小さい小絞り状態になると絞り開口Sの全部を覆う。つまり、ND(減光)フィルタ20は、大きさ(絞り開口径)が可変である絞り開口Sの少なくとも一部を覆い、被写体像を形成する光束のうち少なくとも一部を通過させる。
【0023】
図1には、NDフィルタ20を抽出して示しており、さらにその一部を拡大して示している。
図3に示すように、フィルタ本体(フィルタ基材)の縁部、具体的には、被写体像を形成する光束がNDフィルタ20を通過する領域と通過しない領域との境界になるフィルタ縁部20aは、該境界が延びる方向(図の左右方向)に凸部20bと凹部20cが交互に連なる凹凸形状を有する。「被写体像を形成する光束がNDフィルタ20を通過する領域と通過しない領域との境界」は、NDフィルタ20のうち絞り開口Sを覆っている部分と覆っていない部分との境界ということもできる。このような境界が形成されるようにNDフィルタ20が絞り開口Sの一部を覆う状態を、以下の説明では「フィルタ縁部20aが絞り開口S内に入る」ともいう。
【0024】
そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例では、凸部20bと凹部20cの縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧形状(中心角θcが120°以上の円弧形状)を有するように形成されている。「連続する曲線により形成され」ているとは、直線の部分を含まないで曲線のみで形成されているという意味である。したがって、本実施例では、それぞれ中心角θcが180度の凸の円弧と凹の円弧を交互に繋いだ形状の縁外形を有することになる。
【0025】
縁外形の一部(凸部20bや凹部20
c自体、または凸部20bと凹部20cが繋がる箇所の縁外形)が直線を含む場合は、撮影画面内に存在する高輝度被写体からの光がその直線の部分にて回折すると、該直線の部分に直交する方向に回折光が集中する。これにより、該直線の部分に直交する方向に指向性を有する直線状ゴーストが発生する。
【0026】
これに対して、フィルタ縁部20aの縁外形を本実施例のような形状に形成することにより、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部20aで回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの指向性を十分に抑えられる。
【0027】
ここで、凹凸形状は、以下の条件(1)を満足することが必要である。縁外形の曲線上における1つの凸部20bの頂点Tと該凸部20bに隣接する1つの凹部20cの底点Bとの間の任意点となる中間点Mでの接線LMが頂点Tでの接線LTとなす角度であって、該中間点(任意点)Mが頂点Tから離れるほど大きくなる角度をθaとする。このとき、該曲線は、
θa≧60° …(1)
なる条件を満足する部分を含む。本実施例では、凸部20bと凹部20cの円弧のうち中心角θcが120°以上の部分での接線LMが接線LTに対してなす角度θaが60°から90°まで変化し、(1)式の条件を満足する。
【0028】
ここで
図7および
図8に、光学フィルタ縁部で発生する光の回折によるゴーストのシミュレーション結果の画像を示す。
図7に示す0°,30°,60°および90°は、シミュレーション時に設定する光学フィルタの4種類の縁形状に対応しており、具体的には以下の縁形状に対応する。
【0029】
0°は、縁形状が直線の場合である。このため、フィルタ縁部20aの任意の点の接線と、それとは異なる任意の点の接線とがなす角度θaは、これらの点をどのように選択しても0°となる。0°では、シミュレーション画像からも分かるように、直線状の高輝度ゴーストが発生している。
【0030】
30°,60°および90°はそれぞれ、
図1における頂点Tでの接線LTと、中間点Mでの接線LMとがなす角度θaがとり得る最大値を示している。
【0031】
90°とは実施例1に示した縁形状を示しており、30°および60°はそれぞれ、凸部20bと凹部20cの円弧の中心角θcが60°および120°となるような凸部と凹部が形成された縁外形を示している。
【0032】
θaが最大で30°、すなわち中心角θcが60°の光学フィルタでは、回折光の指向性が残存している影響で、フレア状に特定の方向にゴーストが発生している。しかし、θaが最大で60°、すなわち中心角θcが120°であれば、回折光を十分に分散することができる。
【0033】
図8に示す60°,75°および90°も、
図7に示した30°,60°および90°と同様である。60°でも十分にゴーストの指向性を抑えることができるが、75°と90°では、さらにゴーストの指向性を抑えて等方的に分散させることができる。
【0034】
図7から、(1)式の条件を満足することで、効果的に直線状の高輝度ゴーストの発生を抑えることができることが分かる。さらに
図8から、θaを75度以上に設定することで、より効果的に直線状の高輝度ゴーストの発生を抑えることができることが分かる。なお、θaは、120度以下、すなわち凸部20bと凹部20cの円弧の中心角θcは240°以下であることが望ましい。これよりもθaまたはθcが大きくなると、凸部20bの根元部分が細くなりすぎ、折れ曲がり易くなる等、強度が不足するおそれがあるためである。
【0035】
また、縁外形を形成する「連続する曲線」は、円弧だけでなく、楕円弧、放物線、その他の関数で表される曲線および任意の点列を滑らかにつないだ曲線等であってもよい。この場合も、上記(1)式を満足する必要がある。
【0036】
ただし、フィルタ縁部20aでの回折方向の分散による高輝度ゴーストの抑制効果とNDフィルタ20の製作のし易さおよび強度等を考慮すると、凸部20bと
凹部20
cの外形縁をいずれも中心角が120°以上の円弧としてこれらを連続して繋ぐことが最も望ましい。
【0037】
また、フィルタ縁部20aのうち絞り開口S内に入る部分は、必ずしもその全体が前述した凹凸形状を有しなくてもよい。すなわち、上述した回折による高輝度ゴーストが目立たない範囲で、フィルタ縁部20aのうち絞り開口S内に入る部分全体のうち5割以上、より望ましくは8割以上が、前述した凹凸形状を有していればよい。
【0038】
更に、凹凸形状は、以下の条件(2)〜(4)のうち少なくとも1つを満足することが望ましい。
【0039】
まず、凹凸形状は、
図1に示すように1つの凹部20cを挟んで互いに隣り合う2つの凸部20bの頂点T間の距離をAとし、絞り装置を撮影光学系内に配置したときの絞り開口Sにおける入射瞳径をDとするとき、
A≧0.1mm …(2)
0<A/D<1.0 …(3)
なる条件を満足することが望ましい。
【0040】
(2),(3)式の条件は、NDフィルタ20のフィルタ縁部20aでの高輝度被写体からの光の回折方向をより効果的に分散させるための条件である。A/Dが(3)式の条件の上限値を超えると、入射瞳内の凸部20bと凹部20cの数が少なすぎるために、回折光の分散が不十分となり、直線状の高輝度ゴーストを十分に抑制できなくなるおそれがある。また、Aが(2)式の下限値を下回ると、NDフィルタ20の加工時おいてバリが発生し易く、バリの発生部分での局所的な反射や回折によって不自然なゴーストが発生するおそれも生ずる。
【0041】
さらに、凹凸形状は、1つの凸部20bの頂点Tから該凸部20bに隣接する凹部20cの底点Bまでの凹凸方向(図の上下方向)での距離をHとしたときに、
0.1<H/A<1.0 …(4)
なる条件を満足することが望ましい。
【0042】
(4)式の条件も、NDフィルタ20のフィルタ縁部20aでの高輝度被写体からの光の回折方向をより効果的に分散させるための条件である。H/Aが(4)式の上限値を超えると、一組の凸凹部(凸部20bとこれに隣接する凹部20c)の縁外形のうち凸部20bの頂点Tの接線方向(図の左右方向)およびこれに近い方向に延びる部分に比べて、該接線方向に対して直交する方向(図の上下方向)およびこれに近い方向に延びる部分の占める割合が大きくなりすぎる。このため、フィルタ縁部20aでの回折光が、凸部20bの頂点Tの接線方向に指向性を持ち易くなる。
【0043】
一方、H/Aが(4)式の下限値を下回ると、一組の凸凹部の縁外形のうち凸部20bの頂点Tの接線方向に対して直交する方向およびこれに近い方向に延びる部分に比べて、該接線方向およびこれに近い方向に延びる部分の占める割合が大きくなりすぎる。このため、フィルタ縁部20aでの回折光が、凸部20bの頂点Tの接線方向に対して直交する方向に指向性を持ち易くなる。
【0044】
なお、(3),(4)式の条件の数値範囲を以下のように変更することで、さらに回折光を効果的に分散することが可能となる。
0<A/D<0.5 …(3)′
0.1<H/A<0.8 …(4)′
【0045】
本実施例に対応する数値例(数値例1)を以下に示すとともに、該数値例1と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例1)
凸部20bと凹部20cの円弧の曲率半径 0.1mm
距離A 0.4mm
距離H 0.2mm
【実施例2】
【0046】
図4には、本発明の実施例2である絞り装置にて用いられるNDフィルタ30を示している。このNDフィルタ30は、実施例1にて説明した絞り装置にて、NDフィルタ20に代えて絞り羽根19bに貼り付けられる。
【0047】
本実施例のNDフィルタ30のうち絞り開口S内に入るフィルタ縁部30a,30a′は、図の左右方向(実施例1にいう境界が延びる方向)に凸部と凹部が交互に連なる凹凸形状を有する。そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例でも、実施例1と同様に、凸部と凹部の縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧により形成されている。
【0048】
ただし、本実施例におけるフィルタ縁部30a,30a
′では、凸部と凹部の大きさが、図の左右方向において変化している。具体的には、フィルタ縁部のうち左右方向の中央部30aから左右端30a′に向かって凸部と凹部の縁外形の曲率半径が徐々に(又は段階的に)増加している。このような凸部と凹部の縁外形の曲率半径の変化により、距離Aと距離Hも中央部30aから左右端30a′に向かって徐々に(又は段階的に)増加している。
【0049】
本実施例も、実施例1にて説明した(1)〜(4)式の条件を満足する。また、本実施例に対応する数値例(数値例2)を以下に示すとともに、該数値例2と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例2)
凸部と凹部の円弧の曲率半径 中央部(最小) 0.1mm
左右端(最大) 0.5mm
距離A 0.4mm〜2.0mm
距離H 0.2mm〜1.0mm
【0050】
なお、距離Aと距離Hは、任意の凸部から、1つの凹部を挟んで該凸部に隣り合う凸部では、H/A=0.5を維持しつつ中央部から左右端に向かって変化している。
【0051】
本実施例でも、実施例1と同様に、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部30a,30a′で回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの発生が抑えられる。
【0052】
しかも本実施例では、フィルタ縁部における凸部と凹部の曲率半径が、左右端30a′から中央部30aに向かって減少しているので、絞り開口径が小さくなるにつれて絞り開口内に含まれる凸部と凹部の数が大きく減少しないようにしている。このため、実施例1に比べて、より小さい絞り開口状態まで上記効果を維持することができる。
【実施例4】
【0057】
図6には、本発明の実施例4である絞り装置にて用いられるNDフィルタ50を示している。このNDフィルタ50も、実施例1にて説明した絞り装置にて、NDフィルタ20に代えて絞り羽根19bに貼り付けられる。
【0058】
本実施例のNDフィルタ50のうち絞り開口S内に入るフィルタ縁部50aは、図の左右方向(実施例1にいう境界が延びる方向)に凸部と凹部が交互に連なる凹凸形状を有する。そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例でも、実施例1と同様に、凸部と凹部の縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧により形成されている。
【0059】
ただし、本実施例におけるフィルタ縁部50aでは、凸部と凹部の大きさが、図の左右方向において不規則に変化している。すなわち、フィルタ縁部50aに含まれる凸部と凹部の縁外形の曲率半径が、左右端のうち一方から他方へと規則性なく増減している。このような凸部と凹部の縁外形の曲率半径の変化により、距離Aと距離Hも左右端のうち一方から他方へと規則性なく増減している。
【0060】
本実施例も、実施例1にて説明した(1)〜(4)式の条件を満足する。また、本実施例に対応する数値例(数値例4)を以下に示すとともに、該数値例4と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例4)
凸部と凹部の円弧の曲率半径 0.1mm〜0.5mm
距離A 0.4mm〜2.0mm
距離H 0.2mm〜1.0mm
【0061】
本実施例でも、実施例1と同様に、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部50aで回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの発生が抑えられる。
【0062】
上記各実施例では、光量調節装置に配置される絞り羽根に貼り付けられたNDフィルタについて説明したが、光量調節装置内で絞り羽根とNDフィルタとが別々に設けられて互いに独立して駆動される構成においても本発明を実施することができる。さらに、光量調節装置内でなくとも、撮像光学系内であれば、NDフィルタ以外の、例えば特定波長の光の透過を制限するカラーフィルタや、近赤外線や紫外線の透過を制限する赤外線または紫外線カットフィルタ等であっても本発明を実施することができる。
【0063】
また、上記各実施例では、絞り羽根が2枚設けられた光量調節装置について説明したが、3枚以上の絞り羽根を有する光量調節装置においても本発明を実施することができる。
【0064】
また、上記実施例1,2,4では、フィルタ縁部の全ての凸部と凹部の曲率半径の中心が直線上に配置されている場合について説明したが、全ての凸部と凹部の曲率半径の中心を結ぶ線が円弧や放物線等の曲線であってもよい。
【0065】
さらに、実施例3では、凸部の曲率半径の中心のみを結んだ線と凹部の曲率半径の中心のみを結んだ線とが、互いに平行な直線となっている場合について説明したが、凸部の曲率半径の中心のみを結んだ線と凹部の曲率半径の中心のみを結んだ線とが円弧や放物線等の曲線であってもよい。
【0066】
また、上記各実施例では、撮像光学系内に入り、かつ被写体像を形成する光路中に縁部が入る光学フィルタが、光量調節装置内のNDフィルタの1枚である場合について説明したが、2枚以上の光学フィルタが撮像光学系内に入る撮像装置も本発明の実施例に含まれる。
【表1】
【0067】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。