特許第5893048号(P5893048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5893048光学フィルタ、光量調節装置およびそれを有する撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893048
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】光学フィルタ、光量調節装置およびそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20160310BHJP
   G03B 11/00 20060101ALI20160310BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20160310BHJP
   H04N 5/238 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   G02B5/00 A
   G03B11/00
   H04N5/225 D
   H04N5/238 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-549104(P2013-549104)
(86)(22)【出願日】2012年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2012007784
(87)【国際公開番号】WO2013088675
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-271785(P2011-271785)
(32)【優先日】2011年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 良子
(72)【発明者】
【氏名】堀内 昭永
(72)【発明者】
【氏名】安部 大史
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 伸幸
【審査官】 最首 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−065109(JP,A)
【文献】 特開2007−090656(JP,A)
【文献】 特開2003−004916(JP,A)
【文献】 特開平5−281590(JP,A)
【文献】 特開2007−178823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00
G03B 11/00
H04N 5/225
H04N 5/238
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光量を調整する光学フィルタであって、
光束が通過する領域と通過しない領域との境界となるフィルタ縁部は、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有し、
前記曲線上における1つの前記凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの前記凹部の底点との間の任意点の接線が前記頂点の接線となす角度であって、前記任意点が前記頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、前記曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、
前記縁外形のうち前記凸部に対応する部分と前記凹部に対応する部分がともに円弧形状を有しており、
前記各円弧形状の中心角θcが、
θc≧120°
なる条件を満足することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
光量を調整する光学フィルタであって、
光束が通過する領域と通過しない領域との境界となるフィルタ縁部は、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有し、
前記曲線上における1つの前記凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの前記凹部の底点との間の任意点の接線が前記頂点の接線となす角度であって、前記任意点が前記頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、前記曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、
前記凹凸形状は、前記1つの凸部を含むとともに前記1つの凹部を挟んで互いに隣り合う2つの前記凸部の頂点間の距離をAとし、該光学フィルタを含み、被写体像を形成する撮像光学系の入射瞳径をDとするとき、
A≧0.1mm
0<A/D<1.0
なる条件を満足することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項3】
光量を調整する光学フィルタであって、
光束が通過する領域と通過しない領域との境界となるフィルタ縁部は、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有し、
前記曲線上における1つの前記凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの前記凹部の底点との間の任意点の接線が前記頂点の接線となす角度であって、前記任意点が前記頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、前記曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、
前記凹凸形状は、前記1つの凸部の頂点から該凸部に隣接する前記1つの凹部の底点までの凹凸方向での距離をHとし、前記1つの凸部を含むとともに前記1つの凹部を挟んで互いに隣り合う2つの前記凸部の頂点間の距離をAとするとき、
0.1<H/A<1.0
なる条件を満足することを特徴とする光学フィルタ。
【請求項4】
被写体からの光束に被写体像を形成させる撮像光学系内に、前記光束の少なくとも一部を覆うように配置されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記凸部と前記凹部の大きさが、前記境界が延びる方向において変化していることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
絞り開口の大きさが可変であり、請求項1からのいずれか1項に記載の光学フィルタが前記絞り開口の少なくとも一部を覆うように配置されていることを特徴とする光量調節装置。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の光学フィルタを含み、被写体からの光束に被写体像を形成させる撮像光学系を有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、交換レンズ等の光学機器に関し、特に被写体像を形成する撮像光学系内に配置されるND(減光)フィルタ等の光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
被写体像を形成する撮像光学系内には、いわゆる小絞り開口での光の回折による光学性能の劣化を回避するために、透過光量を低減するND(Neutral Density)フィルタや、特定波長の光の透過を制限するカラーフィルタや、近赤外線や紫外線の透過を制限する赤外線又は紫外線カットフィルタ等、平板状の光学フィルタを備えたものが多い。
【0003】
ただし、そのような光学フィルタが、被写体像を形成する光束に対して進入したり退避したりする際に、被写体から像面に到達する光線が該光学フィルタの縁部(端面)に当たると光の回折が生じ、光の進行方向に対する広がり方が変化する。光学フィルタの端面の各点(入射点)に当たる光は、該入射点での接線に対して直交する方向に広がりながら像面に向かって進む。これにより、光学フィルタの端面の少なくとも一部が直線により形成された外形を有すると、光の回折がその直線に対して直交する方向に集中的に発生する。この結果、高輝度被写体からの光が、特定の方向に直線状に伸びるように見える高輝度かつ高コントラストのゴーストが発生し、撮影の妨げとなる。
【0004】
さらに、近年のカメラでは、高輝度被写体が存在しても上下方向にスミアが発生しない撮像素子を採用するようになったため、光学フィルタの縁部での回折を原因とする高輝度・高コントラストのゴーストが、特に画面の上下方向に延びるように発生しないことが求められている。
【0005】
特許文献1では、光学フィルタ(NDフィルタ)の縁部に光の吸収性と反射防止性を有する被膜を形成した光量調節装置が開示されている。また、特許文献2では、絞り羽根や光学フィルタの縁部に、微小な鋸歯状の非周期凸凹を付加する光量調節装置が開示されている。さらに、特許文献3には、光学フィルタの縁部を、その左右の端から中央まで延びる凸曲線または凹曲線で構成し、該中央では縁部の傾斜角度が不連続に変化するとともに、中央が左右の端よりも光軸から遠くなる形状に形成した光量調節装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−065109号公報
【0007】
【特許文献2】特開2007−178823号公報
【0008】
【特許文献3】特開2009−186673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1にて開示された光量調節装置では、光学フィルタの縁部に当たって反射する反射光を低減することはできるが、該縁部による光の回折を抑えることはできない。したがって、光の回折により発生する直線状のゴーストに対しては効果が無い。一方、特許文献2にて開示された光量調節装置では、不規則な微小凸凹は、0.5〜10um程度の高低の凸凹としているが、このような微小凸凹では、反射光を散乱する効果はあっても、光の回折によるゴーストの指向性を分散するには効果が不十分である。
【0010】
更に、特許文献3では、回折現象による高輝度ゴーストの指向性を、ある程度は分散できるが、直線状だったゴーストが扇状に広がることで、フレア状のゴーストが目立つようになる。
【0011】
そこで、本発明は、直線状の高輝度ゴーストの指向性を十分に分散し、撮影の妨げとならないようにした光学フィルタおよびそれを有する撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、光量を調整する光学フィルタに関するものである。具体的には、被写体からの光束に被写体像を形成させる撮像光学系内に、該光束の少なくとも一部を覆うように配置される光学フィルタに関する。また、本発明にかかる光学フィルタは、上記光束が該光学フィルタを通過する領域と通過しない領域との境界になるフィルタ縁部に、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有する。そして、該曲線上における1つの凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの凹部の底点との間の任意点の接線が頂点の接線となす角度であって、任意点が頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、該曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、縁外形のうち凸部に対応する部分と凹部に対応する部分がともに円弧形状を有しており、
各円弧形状の中心角θcが、
θc≧120°
なる条件を満足することを特徴する。
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記光束が該光学フィルタを通過する領域と通過しない領域との境界になるフィルタ縁部に、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有する。そして、該曲線上における1つの凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの凹部の底点との間の任意点の接線が頂点の接線となす角度であって、任意点が頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、該曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、
凹凸形状は、該1つの凸部を含むとともに該1つの凹部を挟んで互いに隣り合う2つの凸部の頂点間の距離をAとし、該光学フィルタを含み、被写体像を形成する撮像光学系の入射瞳径をDとするとき、
A≧0.1mm
0<A/D<1.0
なる条件を満足することを特徴とする。
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記光束が該光学フィルタを通過する領域と通過しない領域との境界になるフィルタ縁部に、該境界が延びる方向に凸部と凹部が交互に連なる連続した曲線により形成された縁外形を有する凹凸形状を有する。そして、該曲線上における1つの凸部の頂点と該凸部に隣接する1つの凹部の底点との間の任意点の接線が頂点の接線となす角度であって、任意点が頂点から離れるほど大きくなる角度をθaとするとき、該曲線は、
θa≧60°
なる条件を満足する部分を有し、
凹凸形状は、1つの凸部の頂点から該凸部に隣接する1つの凹部の底点までの凹凸方向での距離をHとし、該1つの凸部を含むとともに該1つの凹部を挟んで互いに隣り合う2つの凸部の頂点間の距離をAとするとき、
0.1<H/A<1.0
なる条件を満足することを特徴とする。
【0013】
なお、上記光学フィルタを撮像光学系内に備えた撮像装置も、本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学フィルタの縁部が、θa≧60°を満足する連続した凹凸曲線により形成された縁外形を有するので、該縁部で発生する回折の方向を効果的に分散することができ、ゴーストの強度を抑えることができる。このため、高輝度被写体を撮影する場合でも、光学フィルタの縁部での回折を原因とする直線状の高輝度ゴーストの発生を抑えることができ、高い画質の撮影画像を得ることを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1のNDフィルタの正面図および拡大図。
図2】実施例1の絞り装置を備えた撮像装置の構成を示す図。
図3】実施例1のNDフィルタを備えた絞り装置の構成を示す図。
図4】本発明の実施例2のNDフィルタの正面図。
図5】本発明の実施例3のNDフィルタの正面図。
図6】本発明の実施例4のNDフィルタの正面図。
図7】θa=0度,30度,60度,90度のときに光学フィルタの縁部で発生する光の回折によるゴーストのシミュレーション結果を示す図。
図8】θa=60度,75度,90度のときに光学フィルタの縁部で発生する光の回折によるゴーストのシミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0017】
図2には、本発明の実施例1である光量調節装置としての絞り装置を搭載した光学機器としてのビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の撮像装置の構成を示している。なお、本実施例では、絞り装置を撮像装置に搭載する場合について説明するが、本発明の実施例としての絞り装置は、交換レンズ等の他の光学機器に搭載することもできる。
【0018】
撮像装置1は、レンズ11,13,14,15と、レンズ11,13の間に配置された絞り装置12とにより構成される撮像光学系を有する。16はローパスおよび赤外カットフィルタであり、17はCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子である。
【0019】
不図示の被写体からの光束は、撮像光学系に入射し、撮像光学系の結像作用によって撮像素子17上に被写体像を形成する。撮像素子17は、被写体像を光電変換して電気信号を出力する。撮像装置1は、不図示の画像処理回路により撮像素子17から出力された電気信号を処理して、撮影画像を生成する。撮影画像は、撮像装置1に設けられた不図示のモニタに表示されたり、撮像装置1に着脱可能に挿入された半導体メモリ等の記録媒体に記録されたりする。
【0020】
図3には、絞り装置12を撮影光学系の光軸方向から見て示している。18は絞り地板であり、光束を通過させる固定開口18aが形成されている。絞り地板18には、2枚の遮光羽根である絞り羽根19a,19bが、光軸方向に対して直交する面内で互いに反対方向(図では上下方向)に移動可能に取り付けられている。絞り羽根19a,19bは、それらの組み合わせによって、絞り開口Sを形成する。
【0021】
2枚の絞り羽根19a,19bにはそれぞれガイド溝穴部19c,19dが形成されており、これらガイド溝穴部19c,19dに絞り地板18に形成されたガイドピン18bが係合することで、絞り羽根19a,19bはその可動方向にガイドされる。また、絞り羽根19a,19bにはそれぞれ、長穴部19e,19fが形成されており、これら長穴部19e,19fには、駆動レバー21の両端に設けられた駆動ピン21a,21bが挿入されている。駆動レバー21は、ステッピングモータ等により構成される絞りアクチュエータ22によって回動され、駆動ピン21a,21bを介して絞り羽根19a,19bをその可動方向に駆動する。これにより、絞り羽根19a,19bが形成する絞り開口Sの開口径(絞り開口径)が変化し、固定開口18aを通過する光束の光量、つまりは撮影光学系を通過して撮像素子17に到達する光量が調節される。
【0022】
2枚の絞り羽根19a,19bのうち一方の絞り羽根19bには、絞り開口Sを通過する光束を遮る、具体的には光束の光量を調整する光学フィルタの一例として、光量を減少させる光学フィルタとしてのND(減光)フィルタ20が貼り付けられている。NDフィルタ20は、図3に示すほぼ開放状態からこれよりも絞り開口径が小さい中間絞り状態までの絞り開口Sの一部を覆い、さらに絞り開口径が小さい小絞り状態になると絞り開口Sの全部を覆う。つまり、ND(減光)フィルタ20は、大きさ(絞り開口径)が可変である絞り開口Sの少なくとも一部を覆い、被写体像を形成する光束のうち少なくとも一部を通過させる。
【0023】
図1には、NDフィルタ20を抽出して示しており、さらにその一部を拡大して示している。図3に示すように、フィルタ本体(フィルタ基材)の縁部、具体的には、被写体像を形成する光束がNDフィルタ20を通過する領域と通過しない領域との境界になるフィルタ縁部20aは、該境界が延びる方向(図の左右方向)に凸部20bと凹部20cが交互に連なる凹凸形状を有する。「被写体像を形成する光束がNDフィルタ20を通過する領域と通過しない領域との境界」は、NDフィルタ20のうち絞り開口Sを覆っている部分と覆っていない部分との境界ということもできる。このような境界が形成されるようにNDフィルタ20が絞り開口Sの一部を覆う状態を、以下の説明では「フィルタ縁部20aが絞り開口S内に入る」ともいう。
【0024】
そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例では、凸部20bと凹部20cの縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧形状(中心角θcが120°以上の円弧形状)を有するように形成されている。「連続する曲線により形成され」ているとは、直線の部分を含まないで曲線のみで形成されているという意味である。したがって、本実施例では、それぞれ中心角θcが180度の凸の円弧と凹の円弧を交互に繋いだ形状の縁外形を有することになる。
【0025】
縁外形の一部(凸部20bや凹部20自体、または凸部20bと凹部20cが繋がる箇所の縁外形)が直線を含む場合は、撮影画面内に存在する高輝度被写体からの光がその直線の部分にて回折すると、該直線の部分に直交する方向に回折光が集中する。これにより、該直線の部分に直交する方向に指向性を有する直線状ゴーストが発生する。
【0026】
これに対して、フィルタ縁部20aの縁外形を本実施例のような形状に形成することにより、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部20aで回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの指向性を十分に抑えられる。
【0027】
ここで、凹凸形状は、以下の条件(1)を満足することが必要である。縁外形の曲線上における1つの凸部20bの頂点Tと該凸部20bに隣接する1つの凹部20cの底点Bとの間の任意点となる中間点Mでの接線LMが頂点Tでの接線LTとなす角度であって、該中間点(任意点)Mが頂点Tから離れるほど大きくなる角度をθaとする。このとき、該曲線は、
θa≧60° …(1)
なる条件を満足する部分を含む。本実施例では、凸部20bと凹部20cの円弧のうち中心角θcが120°以上の部分での接線LMが接線LTに対してなす角度θaが60°から90°まで変化し、(1)式の条件を満足する。
【0028】
ここで図7および図8に、光学フィルタ縁部で発生する光の回折によるゴーストのシミュレーション結果の画像を示す。図7に示す0°,30°,60°および90°は、シミュレーション時に設定する光学フィルタの4種類の縁形状に対応しており、具体的には以下の縁形状に対応する。
【0029】
0°は、縁形状が直線の場合である。このため、フィルタ縁部20aの任意の点の接線と、それとは異なる任意の点の接線とがなす角度θaは、これらの点をどのように選択しても0°となる。0°では、シミュレーション画像からも分かるように、直線状の高輝度ゴーストが発生している。
【0030】
30°,60°および90°はそれぞれ、図1における頂点Tでの接線LTと、中間点Mでの接線LMとがなす角度θaがとり得る最大値を示している。
【0031】
90°とは実施例1に示した縁形状を示しており、30°および60°はそれぞれ、凸部20bと凹部20cの円弧の中心角θcが60°および120°となるような凸部と凹部が形成された縁外形を示している。
【0032】
θaが最大で30°、すなわち中心角θcが60°の光学フィルタでは、回折光の指向性が残存している影響で、フレア状に特定の方向にゴーストが発生している。しかし、θaが最大で60°、すなわち中心角θcが120°であれば、回折光を十分に分散することができる。
【0033】
図8に示す60°,75°および90°も、図7に示した30°,60°および90°と同様である。60°でも十分にゴーストの指向性を抑えることができるが、75°と90°では、さらにゴーストの指向性を抑えて等方的に分散させることができる。
【0034】
図7から、(1)式の条件を満足することで、効果的に直線状の高輝度ゴーストの発生を抑えることができることが分かる。さらに図8から、θaを75度以上に設定することで、より効果的に直線状の高輝度ゴーストの発生を抑えることができることが分かる。なお、θaは、120度以下、すなわち凸部20bと凹部20cの円弧の中心角θcは240°以下であることが望ましい。これよりもθaまたはθcが大きくなると、凸部20bの根元部分が細くなりすぎ、折れ曲がり易くなる等、強度が不足するおそれがあるためである。
【0035】
また、縁外形を形成する「連続する曲線」は、円弧だけでなく、楕円弧、放物線、その他の関数で表される曲線および任意の点列を滑らかにつないだ曲線等であってもよい。この場合も、上記(1)式を満足する必要がある。
【0036】
ただし、フィルタ縁部20aでの回折方向の分散による高輝度ゴーストの抑制効果とNDフィルタ20の製作のし易さおよび強度等を考慮すると、凸部20bと部20の外形縁をいずれも中心角が120°以上の円弧としてこれらを連続して繋ぐことが最も望ましい。
【0037】
また、フィルタ縁部20aのうち絞り開口S内に入る部分は、必ずしもその全体が前述した凹凸形状を有しなくてもよい。すなわち、上述した回折による高輝度ゴーストが目立たない範囲で、フィルタ縁部20aのうち絞り開口S内に入る部分全体のうち5割以上、より望ましくは8割以上が、前述した凹凸形状を有していればよい。
【0038】
更に、凹凸形状は、以下の条件(2)〜(4)のうち少なくとも1つを満足することが望ましい。
【0039】
まず、凹凸形状は、図1に示すように1つの凹部20cを挟んで互いに隣り合う2つの凸部20bの頂点T間の距離をAとし、絞り装置を撮影光学系内に配置したときの絞り開口Sにおける入射瞳径をDとするとき、
A≧0.1mm …(2)
0<A/D<1.0 …(3)
なる条件を満足することが望ましい。
【0040】
(2),(3)式の条件は、NDフィルタ20のフィルタ縁部20aでの高輝度被写体からの光の回折方向をより効果的に分散させるための条件である。A/Dが(3)式の条件の上限値を超えると、入射瞳内の凸部20bと凹部20cの数が少なすぎるために、回折光の分散が不十分となり、直線状の高輝度ゴーストを十分に抑制できなくなるおそれがある。また、Aが(2)式の下限値を下回ると、NDフィルタ20の加工時おいてバリが発生し易く、バリの発生部分での局所的な反射や回折によって不自然なゴーストが発生するおそれも生ずる。
【0041】
さらに、凹凸形状は、1つの凸部20bの頂点Tから該凸部20bに隣接する凹部20cの底点Bまでの凹凸方向(図の上下方向)での距離をHとしたときに、
0.1<H/A<1.0 …(4)
なる条件を満足することが望ましい。
【0042】
(4)式の条件も、NDフィルタ20のフィルタ縁部20aでの高輝度被写体からの光の回折方向をより効果的に分散させるための条件である。H/Aが(4)式の上限値を超えると、一組の凸凹部(凸部20bとこれに隣接する凹部20c)の縁外形のうち凸部20bの頂点Tの接線方向(図の左右方向)およびこれに近い方向に延びる部分に比べて、該接線方向に対して直交する方向(図の上下方向)およびこれに近い方向に延びる部分の占める割合が大きくなりすぎる。このため、フィルタ縁部20aでの回折光が、凸部20bの頂点Tの接線方向に指向性を持ち易くなる。
【0043】
一方、H/Aが(4)式の下限値を下回ると、一組の凸凹部の縁外形のうち凸部20bの頂点Tの接線方向に対して直交する方向およびこれに近い方向に延びる部分に比べて、該接線方向およびこれに近い方向に延びる部分の占める割合が大きくなりすぎる。このため、フィルタ縁部20aでの回折光が、凸部20bの頂点Tの接線方向に対して直交する方向に指向性を持ち易くなる。
【0044】
なお、(3),(4)式の条件の数値範囲を以下のように変更することで、さらに回折光を効果的に分散することが可能となる。
0<A/D<0.5 …(3)′
0.1<H/A<0.8 …(4)′
【0045】
本実施例に対応する数値例(数値例1)を以下に示すとともに、該数値例1と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例1)
凸部20bと凹部20cの円弧の曲率半径 0.1mm
距離A 0.4mm
距離H 0.2mm
【実施例2】
【0046】
図4には、本発明の実施例2である絞り装置にて用いられるNDフィルタ30を示している。このNDフィルタ30は、実施例1にて説明した絞り装置にて、NDフィルタ20に代えて絞り羽根19bに貼り付けられる。
【0047】
本実施例のNDフィルタ30のうち絞り開口S内に入るフィルタ縁部30a,30a′は、図の左右方向(実施例1にいう境界が延びる方向)に凸部と凹部が交互に連なる凹凸形状を有する。そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例でも、実施例1と同様に、凸部と凹部の縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧により形成されている。
【0048】
ただし、本実施例におけるフィルタ縁部30a,30aでは、凸部と凹部の大きさが、図の左右方向において変化している。具体的には、フィルタ縁部のうち左右方向の中央部30aから左右端30a′に向かって凸部と凹部の縁外形の曲率半径が徐々に(又は段階的に)増加している。このような凸部と凹部の縁外形の曲率半径の変化により、距離Aと距離Hも中央部30aから左右端30a′に向かって徐々に(又は段階的に)増加している。
【0049】
本実施例も、実施例1にて説明した(1)〜(4)式の条件を満足する。また、本実施例に対応する数値例(数値例2)を以下に示すとともに、該数値例2と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例2)
凸部と凹部の円弧の曲率半径 中央部(最小) 0.1mm
左右端(最大) 0.5mm
距離A 0.4mm〜2.0mm
距離H 0.2mm〜1.0mm
【0050】
なお、距離Aと距離Hは、任意の凸部から、1つの凹部を挟んで該凸部に隣り合う凸部では、H/A=0.5を維持しつつ中央部から左右端に向かって変化している。
【0051】
本実施例でも、実施例1と同様に、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部30a,30a′で回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの発生が抑えられる。
【0052】
しかも本実施例では、フィルタ縁部における凸部と凹部の曲率半径が、左右端30a′から中央部30aに向かって減少しているので、絞り開口径が小さくなるにつれて絞り開口内に含まれる凸部と凹部の数が大きく減少しないようにしている。このため、実施例1に比べて、より小さい絞り開口状態まで上記効果を維持することができる。
【実施例3】
【0053】
図5には、本発明の実施例2である絞り装置にて用いられるNDフィルタ40を示すとともに、その一部を拡大して示している。このNDフィルタ40も、実施例1にて説明した絞り装置にて、NDフィルタ20に代えて絞り羽根19bに貼り付けられる。
【0054】
本実施例のNDフィルタ40のうち絞り開口S内に入るフィルタ縁部40aは、図の左右方向(実施例1にいう境界が延びる方向)に凸部と凹部が交互に連なる凹凸形状を有する。そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例では、凸部と凹部の縁外形はそれぞれ、中心角θcが210度の円弧により形成されている。
【0055】
本実施例では、凸部40bと凹部40cの円弧のうち中心角θcが140°以上の部分での接線LMが接線LTに対してなす角度θaが60°から105°の間で変化し、(1)式の条件を満足する。このように、凸部40bと凹部40cが、θaが90度を超える部分を有する形状に形成されている場合でも、フィルタ縁部40aの凹凸形状が連続する曲線により形成された縁外形を有する限り、実施例1と同様な効果を得ることができる。なお、実施例1でも説明したように、θaは120度以下であることが望ましい。
【0056】
本実施例も、実施例1にて説明した(1)〜(4)式の条件を満足する。また、本実施例に対応する数値例(数値例3)を以下に示すとともに、該数値例3と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例3)
凸部と凹部の円弧の曲率半径 0.1mm
距離A 0.386mm
距離H 0.252mm
【実施例4】
【0057】
図6には、本発明の実施例4である絞り装置にて用いられるNDフィルタ50を示している。このNDフィルタ50も、実施例1にて説明した絞り装置にて、NDフィルタ20に代えて絞り羽根19bに貼り付けられる。
【0058】
本実施例のNDフィルタ50のうち絞り開口S内に入るフィルタ縁部50aは、図の左右方向(実施例1にいう境界が延びる方向)に凸部と凹部が交互に連なる凹凸形状を有する。そして、該凹凸形状は、連続する曲線により形成された縁外形を有する。具体的には、本実施例でも、実施例1と同様に、凸部と凹部の縁外形はそれぞれ、中心角θcが180度の円弧により形成されている。
【0059】
ただし、本実施例におけるフィルタ縁部50aでは、凸部と凹部の大きさが、図の左右方向において不規則に変化している。すなわち、フィルタ縁部50aに含まれる凸部と凹部の縁外形の曲率半径が、左右端のうち一方から他方へと規則性なく増減している。このような凸部と凹部の縁外形の曲率半径の変化により、距離Aと距離Hも左右端のうち一方から他方へと規則性なく増減している。
【0060】
本実施例も、実施例1にて説明した(1)〜(4)式の条件を満足する。また、本実施例に対応する数値例(数値例4)を以下に示すとともに、該数値例4と(3),(4)式の条件との関係を表1に示す。
(数値例4)
凸部と凹部の円弧の曲率半径 0.1mm〜0.5mm
距離A 0.4mm〜2.0mm
距離H 0.2mm〜1.0mm
【0061】
本実施例でも、実施例1と同様に、高輝度被写体からの光がフィルタ縁部50aで回折しても、その回折方向が分散され、特定の方向に回折光が集中することによる直線状の高輝度ゴーストの発生が抑えられる。
【0062】
上記各実施例では、光量調節装置に配置される絞り羽根に貼り付けられたNDフィルタについて説明したが、光量調節装置内で絞り羽根とNDフィルタとが別々に設けられて互いに独立して駆動される構成においても本発明を実施することができる。さらに、光量調節装置内でなくとも、撮像光学系内であれば、NDフィルタ以外の、例えば特定波長の光の透過を制限するカラーフィルタや、近赤外線や紫外線の透過を制限する赤外線または紫外線カットフィルタ等であっても本発明を実施することができる。
【0063】
また、上記各実施例では、絞り羽根が2枚設けられた光量調節装置について説明したが、3枚以上の絞り羽根を有する光量調節装置においても本発明を実施することができる。
【0064】
また、上記実施例1,2,4では、フィルタ縁部の全ての凸部と凹部の曲率半径の中心が直線上に配置されている場合について説明したが、全ての凸部と凹部の曲率半径の中心を結ぶ線が円弧や放物線等の曲線であってもよい。
【0065】
さらに、実施例3では、凸部の曲率半径の中心のみを結んだ線と凹部の曲率半径の中心のみを結んだ線とが、互いに平行な直線となっている場合について説明したが、凸部の曲率半径の中心のみを結んだ線と凹部の曲率半径の中心のみを結んだ線とが円弧や放物線等の曲線であってもよい。
【0066】
また、上記各実施例では、撮像光学系内に入り、かつ被写体像を形成する光路中に縁部が入る光学フィルタが、光量調節装置内のNDフィルタの1枚である場合について説明したが、2枚以上の光学フィルタが撮像光学系内に入る撮像装置も本発明の実施例に含まれる。
【表1】
【0067】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
高輝度被写体を撮影する場合でも、高輝度ゴーストの発生を抑えて高画質の画像が得られる光学フィルタおよびそれを有する撮像装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0069】
17 撮像素子
19a,19b 絞り羽根
20,30,40,50 NDフィルタ
20a,30a,30a′40a,50a フィルタ縁部
20b,40b 凸部
20c,40c 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図6