【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明により、この課題は、表面拡張部がスライド体上の隆起部または凹部であることによって解決される。これらは椎間板エンドプロテーゼの縦軸に対して回転対称または非回転対称に形成されていてよい。これらの表面拡張部は、射出成形に際してプラスチックで充填されるか、もしくは取り囲まれる。これによってスライド体は終板と持続的に固定されて、かつ捻れ耐性で連結されている。
【0007】
本発明による一実施形態において、表面拡張部はラフニングである。ラフニングの深さは、十分な捻れ耐性が得られるように選択されなければならない。
【0008】
本発明による他の一実施形態において、表面拡張部はスライド体における遊隙(Freiraeume)である。これらの遊隙に終板のプラスチックが入り込み、かつ、それによって固定された、かつ捻れ耐性の連結が生み出される。
【0009】
本発明による一実施形態において、遊隙はスライド体の外周上の少なくとも1つの環状溝である。円周方向の溝は簡単に作り出すことができ、そして固定された、かつ捻れ耐性の連結をもたらす。これらの溝は、焼結前または焼結後のいずれかにスライド体に取り付けられる。有利には、それらは焼結前に未加工体に取り付けられる。
【0010】
本発明による他の一実施形態において、隆起部は突起である。これらの突起も、固定された、かつ捻れ耐性の連結を生み出す。
【0011】
有利には、本発明による椎間板エンドプロテーゼは、頸部脊柱または腰部脊柱で使用される。
【0012】
有利には骨側で被覆された、例えばPEEKまたはPEKKからなるプラスチック終板が使用されることによって、MRIアーチファクトが回避され、かつ同時に骨成長が可能になる。射出成形により製造されるこれらのプラスチック終板は、セラミックスからなるスライド体を取り込む。これらが脱落することを防ぐために、および回転止めを保証するために、射出成形に際してプラスチックで充填されるか、もしくは取り囲まれるスライドパートナーの注入される部分に、粗面(ミクロ形状結合)、遊隙または別様の幾何学的要素が、例えば円周方向の溝、穿孔または隆起部、例えばスパイクの形で必要である。
【0013】
さらに本課題の解決には、極めて特別な組成を有するスライド体(以下では、焼結成形体または焼結体とも呼ぶ)を要することが見出された。安定化酸化物を含有する酸化ジルコニウムをセラミックスマトリックス中に組み入れることによって得られる転位強化以外に、本発明は第一の実施形態に従いマトリックスとして酸化アルミニウム/酸化クロムからなる混晶を提供する。さらに本発明は、マトリックス中に組み入れられた二酸化ジルコニウムと、酸化アルミニウムと一緒に混晶を形成する酸化クロムとが、互いにある一定のモル比にあることを規定する。この措置により初めて、特に良好な破断靭性を得るのに必要とされ得る二酸化ジルコニウム割合が比較的高い場合でも、相応する二酸化ジルコニウム割合ではこれまで達成可能ではなかった硬さ値を得ることが可能になる。他方では、二酸化ジルコニウム割合が低い場合、材料の脆化を抑制する、同様に比較的少量の酸化クロム含量も存在してよい。その第一の実施形態によれば、それゆえ本発明は現行の問題を解決するために請求項6に記載の焼結材料を提供する。
【0014】
安定化酸化物を含有する酸化ジルコニウムおよび酸化クロムとが、ある一定のモル比で存在すべきであるという規定は、必然的に残りの成分における特定の比ももたらす。なぜなら、例えば二酸化ジルコニウムの割合が下がるにつれて、焼結成形体に対する安定化酸化物の割合も減少する一方で、他方では酸化アルミニウムの割合が上昇するからである。焼結成形体の酸化アルミニウムに対して、酸化クロムは0.004〜6.57質量%の質量で存在し、その際、しかしながら、酸化クロムと、安定化酸化物を含有する二酸化ジルコニウムとが所定のモル比にあることに注意を怠ってはならない。安定化酸化物については、酸化セリウムが極めて有利であることが判明した。
【0015】
さらなる好ましい実施形態に応じて、焼結成形体中のマトリックス材料の割合は少なくとも70体積%であり−かつ酸化アルミニウムに対して0.01〜2.32質量%の酸化クロム割合を有する酸化アルミニウム/酸化セリウム混晶から形成されており、その際、2〜30体積%の二酸化ジルコニウムがマトリックス中に組み入れられており、かつ該二酸化ジルコニウムは、二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとからなる混合物に対して0.27〜2.85モル%の酸化イットリウムを含有し、かつ該二酸化ジルコニウムは、2μmを超えない平均粒度において、主として正方晶変態で存在する。二酸化ジルコニウムと酸化イットリウムとからなる混合物に対する、酸化イットリウム0.27〜2.85モル%の量は、二酸化ジルコニウムに対する酸化イットリウム0.5〜5.4質量%に相当する。そのような焼結成形体の場合、酸化イットリウムを含有する二酸化ジルコニウムと酸化クロムとは370:1〜34:1のモル比で存在する。
【0016】
本発明のさらなる特に有利な実施形態によれば、マトリックス材料はアルミニウム酸化物/クロム酸化物の混晶からと、式SrAl
12-xCr
xO
19のさらなる混晶から成り、その際、xは0.0007〜0.045の値を有する。その他の点では第一の実施形態に相当するこの実施形態の場合も、靭性を高める作用は、混晶マトリックス中に組み入れられた二酸化ジルコニウムに由来し、その一方でクロム添加は、二酸化ジルコニウム割合によって引き起こされる硬さ値の降下を抑制し得る。そして酸化ストロンチウムの添加によって形成される式SrAl
12-xCr
xO
19の混晶は、比較的高い温度でもさらに改善された靭性を成形体に付与する付加的な効果を有する。高められた温度作用下でのこれらの焼結成形体の耐摩耗性も、それゆえ同様に改善されている。この実施形態の場合も、酸化セリウムが特に適していることがわかった。
【0017】
請求の範囲および明細書で用いられる混晶との用語は、単結晶の意味に解されるべきではなく、それはむしろ酸化アルミニウムもしくはストロンチウムアルミナ中の酸化クロムの固溶体を意味している。本発明による焼結成形体もしくはスライド体は多結晶質である。
【0018】
さらなる実施形態によれば、焼結成形体の耐摩耗性は、元素の周期系の第4副族および第5副族の金属の1つ以上の炭化物、窒化物または炭窒化物2〜25体積%−マトリックス材料に対して−を、これにさらに組み入れることによって改善されることができる。好ましくは、これらの硬質物質の割合は6〜15体積%である。殊に、窒化チタン、炭化チタンおよび炭窒化チタンが適している。
【0019】
本発明の特に有利なさらなる実施形態によれば、酸化クロムに対する安定化酸化物を含有する二酸化ジルコニウムのモル比は、本発明による焼結成形体中に存在する二酸化ジルコニウム割合に依存して、低い二酸化ジルコニウム割合で、同様に少量の酸化クロムが存在するように調整される。その際、二酸化ジルコニウム:酸化クロムのモル比を
2〜5体積%;二酸化ジルコニウム1,000:1〜100:1
>5〜15体積%;二酸化ジルコニウム200:1〜40:1
>15〜30体積%;二酸化ジルコニウム100:1〜20:1
>30〜40体積%;二酸化ジルコニウム40:1〜20:1
の範囲となるように調整することが極めて好ましいと判明した。
【0020】
主として正方晶変態における二酸化ジルコニウムの調整を行うために、本発明により2μmを超えない二酸化ジルコニウムの粒度の調整が必要とされる。5体積%までの量が許容される立方晶変態における二酸化ジルコニウムの割合に加えて、さらに少量の単斜晶変態も許容されており(しかし、これらも同様に最大5体積%の量を超えず、かつ好ましくは2体積%未満、極めて有利にはそれどころか1体積%未満であることが望ましい)、好ましくは90体積%より多くが正方晶変態において存在する。
【0021】
焼結成形体は、特許請求の範囲に記載される成分に加えて、本発明のさらなる好ましい実施形態によれば、0.5体積%を上回らない不可避的に連行された不純物のみを単に含有するので、焼結成形体は、単に酸化アルミニウム−酸化クロム−混晶から成るか、またはこの混晶と式SrAl
12-xCr
xO
19の混晶から−ならびに安定化酸化物を含有し、かつ上述の混晶からなるマトリックス中に組み入れられた二酸化ジルコニウムから成る。さらなる相、例えば酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムが一緒に使用される場合に形成される粒界相または、例えば従来技術から公知の、YNbOまたはYTaOのような物質の添加に際して生じ、かつ十分には高くない軟化点を有する、さらなる結晶相が、本発明に従って焼結成形体中には存在しない。従来技術から公知の、同様にさらなる相の形成をもたらすMn、Cu、Feの酸化物はまた、軟化点の低下をもたらし、かつエッジ強度を小さくする。これらの材料の使用は、それゆえ本発明では排除されている。
【0022】
好ましくは、二酸化ジルコニウムは30体積%を上回らない量で存在する。好ましくは、二酸化ジルコニウムはまた15体積%未満の量では存在しない。15〜30体積%の間で二酸化ジルコニウムが存在する場合、安定化酸化物を含有する二酸化ジルコニウムと酸化クロムとのモル比は、極めて有利には40:1〜25:1である。
【0023】
さらなる極めて有利な実施形態によれば、正方晶変態において存在する二酸化ジルコニウムの割合は95体積%を上回っており、その際、単に5体積%までが全体で立方晶変態および/または単斜晶変態において存在する。極めて有利なのは、組み入れられた二酸化ジルコニウムの0.2〜1.5μmの範囲における粒度を遵守することである。それに対して、酸化アルミニウム−/酸化クロム−混晶の0.8〜1.5μmの範囲における平均粒度が特に適していることが判明した。付加的にさらに元素の周期系の第4副族および第5副族の金属の炭化物、窒化物および炭窒化物が使用される場合、これらは0.8〜3μmの粒度において使用される。式SrAl
12-xCr
xO
19の混晶の粒子は、5:1〜15:1の範囲の長さ/厚さ比を有する。その最大長さは、その際、12μmであり、その最大厚さは1.5μmである。
【0024】
本発明による焼結成形体のビッカース硬さは、1,750[HV
0.5]より大きく、しかし、好ましくは1,800[HV
0.5]を上回る。
【0025】
本発明による焼結成形体の微細構造は微細な亀裂を含んでおらず、かつ1.0%を上回らない空隙率を有する。そのうえ焼結成形体は、さらにウィスカー(しかしながら、炭化ケイ素からのものではない)を含有してよい。
【0026】
焼結成形体は、例えば酸化マグネシウムのような、多方面で粒成長抑制剤として使用される物質のいずれも含有しない。
【0027】
焼結に際して、安定化酸化物はZrO
2格子中で溶解し、かつ該格子の正方晶変態を安定化させる。焼結成形体の製造のために、そしてさらなる不所望の相を含まない組織構造を得るために、好ましくは高純度の原料、すなわち、99%を上回る純度を有する酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムが使用される。好ましくは、そのうえ不純物の度合いはずっと低い。殊に、完成した焼結成形体に対して0.5体積%を上回るSiO
2割合は所望されていない。この規定から除外されているのは、二酸化ジルコニウム内で2質量%までの少量で酸化ハフニウムが不可避的に存在することである。
【0028】
本発明による焼結成形体の製造は、酸化アルミニウム/二酸化ジルコニウム/酸化クロムと安定化酸化物とからなる混合物の無圧焼結またはホットプレスによって行われるか、もしくはこれらの成分に、付加的にさらに酸化ストロンチウムおよび/または元素の周期系の第4副族および第5副族の1つ以上の窒化物、炭化物および炭窒化物が加えられている混合物が使用される。酸化イットリウムおよび酸化クロムの添加は、酸化イットリウムクロム(YCrO
3)の形態でも行ってよく、その一方で酸化ストロンチウム添加は、好ましくはストロンチウム塩の形態でも、殊に炭酸ストロンチウム(SrCO
3)として行ってよい。無圧焼結との用語は、この場合、大気条件下での焼結のみならず、保護ガス下または真空中での焼結も包含する。好ましくは、成形体はまず90〜95%の理論密度に無圧で予備焼結され、かつ引き続き熱間等方圧プレスまたはガス圧焼結によって後高密度化される。理論密度は、それによって99.5%を上回る値にまで上昇されることができる。
【0029】
種々のセラミックス混合物を混合粉砕によって製造した。粉砕混合物に一時的結合剤を添加し、かつ該混合物を引き続き噴霧乾燥した。引き続き、噴霧乾燥した混合物から未加工体をプレスして作り出し、かつこれらを無圧焼結または予備焼結し、そしてアルゴン下でガス圧焼結プロセスに供した。
【0030】
本発明による焼結体、もしくはスライド体により、これの摩耗はほぼ皆無である。それに加えて患者のアレルギーリスクもしくはアレルギー性反応ならびに感染の危険が減少される。