【実施例】
【0051】
以下に発明例及び比較例により、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1<発明例1〜10及び比較例1〜8>)
この実施例は、本発明に係る非水電解質二次電池用正極に用いる多孔質アルミニウム集電体に関するものである。
アルミニウム粉末として、粒径の異なる下記純アルミニウム粉末(A1〜A3)を用いた。支持粉末として、粒径の異なる塩化ナトリウム粉末(B1〜B3)、ならびに、粒径605μmの塩化カリウム(C1)を用いた。表1、2に示すように各粉末を混合し、混合粉末を調製した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
<純アルミニウム粉末(アルミニウム純度99.7mass%以上)
A1:メジアン径3μm(融点:660℃)
A2:メジアン径7μm(融点:660℃)
A3:メジアン径17μm(融点:660℃)
【0056】
<塩化ナトリウム粉末>
B1:粒径605μm(ふるい目開き中央値)(融点:800℃)
B2:粒径400μm(ふるい目開き中央値)(融点:800℃)
B3:粒径120μm(ふるい目開き中央値)(融点:800℃)
<塩化カリウム粉末>
C1:粒径605μm(ふるい目開き中央値)(融点:776℃)
【0057】
アルミニウム板として太陽金網株式会社製精密エキスパンドメタル(4AL8−4/0)を用いて、混合粉末と複合化した。混合粉末を12mm×30mmの穴を有する金型に充填し、混合粉末の厚さ方向の中央にエキスパンドメタルが位置するように配置して混合粉末とアルミニウム板を複合化した。表1、2に示す成形圧力で加圧成形した。混合物の充填量は加圧成形体の厚さが1mmとなる重量とした。この加圧成形体を最大到達圧力が1×10
−2Pa以下の雰囲気下において表1、2に示す温度と時間で熱処理することで接合体を作製し、得られた接合体を20℃の流水(水道水)中に6時間浸漬して支持粉末を溶出させ、多孔質アルミニウム集電体試料(幅12mm×長さ30mm×厚さ1mm)を作製した。なお、比較例1及び2では、混合粉末のみでエキスパンドメタルを使用せずに多孔質アルミニウム集電体試料作製した。作製した多孔質アルミニウム集電体試料については、支持粉末除去後の重量と寸法から気孔率を求めた。
【0058】
上記のようにして作製した多孔質アルミニウム試料を用いて、以下の評価を行った。
(支持粉末の残留性)
支持粉末を除去した後の重量を測定し、この重量が原料として使用したアルミニウム粉末とエキスパンドメタルの重量の合計より重い場合は支持粉末が残留しているとして不合格(×)とした。一方、軽い場合には支持粉末の残留が無いものとして合格(○)とした。支持粉末の残留が無い多孔質アルミニウムは、全ての孔が外部と連通を持ったオープンセル型の多孔体であることが分かる。
【0059】
(外観性)
熱処理時において、融解したアルミニウムの滲み出しの有無を目視観察により評価した。滲み出しが生じなかったものを合格(○)、生じたものを不合格(×)とした。
【0060】
(形状性)
支持粉末を除去した際に結合金属粉末壁が崩壊したか否かを、多孔質アルミニウム集電体試料の形状変化の目視観察により評価した。形状が変化しなかったものを合格(○)、変化したものを不合格(×)とした。
【0061】
(荷重維持性)
上記支持粉末の残留性、外観性及び形状性の評価に合格した多孔質アルミニウム試料に対し、
図1に示す強度測定用治具を用いてその荷重維持性を調べた。図に示すように、支持用ローラ2、2(ローラ間の長さL=25.0±0.2mm)上に載置した多孔質アルミニウム試料3の上に、荷重用ローラ1を押し付けて一定速度で降下させた際の荷重を測定した。折れ易い試料は、荷重が最大値に達した後に急激に荷重が低下する。そこで、最大荷重に達した点から更に荷重用ローラ1を2mm降下させた時点における荷重が最大荷重の80%以上だったものを合格(○)、80%未満であったものを不合格(×)とした。荷重用ローラ1の降下速度は1mm/minとした。
【0062】
評価結果を、表1及び2に示す。表1及び2に示すように、発明例1〜10ではいずれの評価も合格であった。
【0063】
比較例1、2では、エキスパンドメタルを使用しなかったために、荷重維持性が不合格であった。
比較例3では、アルミニウム粉末の体積割合が多過ぎたために独立して存在する支持粉末が生じて除去が困難となり、支持粉末の残留性が不合格であった。
比較例4では、アルミニウム粉末の体積割合が少な過ぎたために多孔質アルミニウムの結合金属粉末壁が非常に薄くなって崩壊し、形状性が不合格であった。
比較例5では、アルミニウム粉末の体積割合が少な過ぎたと共に被覆面積割合Cの値が低かったために多孔質アルミニウムの結合金属粉末壁が非常に薄くなって崩壊し、形状性が不合格であった。
比較例6では、加圧成形圧力が低過ぎたためにアルミニウム粉末の新生面の露出が不十分となり、熱処理時に融解アルミニウムの滲み出しが生じて外観性が不合格であった。
比較例7では、熱処理温度が高過ぎたために、融解アルミニウムの滲み出しが生じて外観性が不合格であった。
比較例8では、熱処理温度が低過ぎたためアルミニウム粉末同士およびアルミニウム粉末とエキスパンドメタルとの接合が十分に進行せず、荷重維持性が不合格であった。
【0064】
(実施例2<発明例11〜15及び比較例9〜12>)
この実施例は、本発明に係る非水電解質二次電池用正極及びこれを用いた非水電解質二次電池に関するものである。
【0065】
<発明例11>
(正極の作製)
正極活物質として炭素被覆リン酸鉄リチウム100重量部;導電助剤としてアセチレンブラック6.8重量部;結着剤として、水分散バインダである固形分濃度40質量%のアクリル系共重合体3重量部(固形分として)、ならびに、分散剤として;水溶液中の固形分濃度2質量%のカルボキシメチルセルロース2重量部(固形分として)を、溶媒であるイオン交換水5gに分散してスラリーを調製した。
【0066】
前記浸漬法を用いて、正極活物質、導電助剤及び結着剤を溶媒に分散したスラリー中に実施例1の発明例1で作製した多孔質アルミニウム集電体を浸漬し、減圧した(−0.1MPa)。浸漬後、多孔質アルミニウム集電体表裏面に付着した余剰スラリーをヘラを用いて擦り切り落とした。
【0067】
次いで、スラリーを充填した多孔質アルミニウム集電体を乾燥装置内に配置し、80℃で2時間乾燥させ、正極試料を作製した。乾燥後の電極密度は、0.56g/cm
3であった。次いで、これを平板プレス機により圧力0.50トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は1.80g/cm
3であり、電極密度向上率は321%であった。プレス前後の電極密度と電極密度向上率、ならびに、塗工量を表3に示す。ここで、塗工量とは、多孔質アルミニウム集電体の1m
2当たりに充填された活物質、導電助剤及び結着剤の合計重量(乾燥状態)を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
(評価セルの作製)
上記のプレス処理した正極試料を作用極に用いた3極式評価セルを作製した。対極及び参照極にはリチウム金属を用いた。電解液として、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネートとの混合溶媒(体積比で2:5:3)にLiPF
6を1.3mol/L溶解させた非水電解液を用い、セパレータとして、微多孔質ポリエチレン膜を用いた。外装体には、ポリプロピレンブロックを加工した樹脂製容器を用い、作用極、対極及び参照極に設けた各端子の開放端部が外部露出するように電極群を収納封口した。
【0070】
(電池試験)
上述のように作製した電池を用いて、充放電特性の評価試験を行った。充放電試験は0.1Cの電流で4.2Vまで充電し、0.1Cの電流で2.0Vまで放電させ、このときの充放電効率を求めた。電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を、表3に示す。また、充放電曲線を
図2、3に示す。表3及び
図2、3から、発明例11はいずれの比較例よりも高い放電容量及び充放電効率を示しており、良好な電池特性である。
【0071】
(500サイクル後の活物質の脱落の観察)
前記充放電試験500サイクル後に多孔質アルミニウム集電体から電極活物質が脱落したか否かを目視観察により評価し、その結果を表3に示した。電極活物質の脱落がなかったものを○、電極活物質の脱落が若干見られたものを△、電極活物質の脱落が顕著に見られたものを×とした。発明例11では、充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落は見られなかった。
【0072】
<発明例12>
発明例11で作製した乾燥後の正極試料を、平板プレス機により圧力0.17トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は0.62g/cm
3であり、電極密度向上率は111%であった。表3に示すように、良好な電池特性である。充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落は見られなかった。
【0073】
<発明例13>
発明例11で作製した乾燥後の正極試料を、平板プレス機により圧力0.78トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は2.80g/cm
3であり、電極密度向上率は500%であった。表3に示すように、良好な電池特性である。充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落は見られなかった。
【0074】
<比較例9>
実施例1の比較例1で作製した、エキスパンドメタルを使用しない多孔質アルミニウム集電体を用いた。発明例11と同じ条件で正極試料を作製した。乾燥後の電極密度は0.57g/cm
3であった。これを平板プレス機により圧力0.52トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は1.87g/cm
3であり、電極密度向上率は328%であった。エキスパンドメタルを使用しない多孔質アルミニウム集電体を用いたため、発明例11に比べて、放電容量が3.2mAh/g、充放電効率が0.06%低下した。また、エキスパンドメタルを使用していないため、強度が不十分であり、電極作製工程で多孔質アルミニウム集電体の一部が欠落した。このため、充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落が顕著に見られた。
電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を表3に、充放電曲線を
図2に示す。
【0075】
<比較例10>
発明例11で作製した乾燥後の正極試料を用いたが、プレス処理を行わなかった。従って、電極密度向上率は100%であった。正極試料にプレス処理を実施しなかったため、発明例11に比べて、放電容量が1.6mAh/g、充放電効率が0.52%低下した。また、この比較例では充電カーブが緩やかであり、分極が見られた。これは、プレス処理をしていないため、集電体と活物質との接触が不十分であることから、電気抵抗が大きくなったと考えられる。充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落が顕著に見られた。これは、プレス処理をしなかったためと考えられる。
電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を表3に、充放電曲線を
図2に示す。
【0076】
<発明例14>
発明例11で作製した乾燥後の正極試料を、平板プレス機により圧力0.16トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は0.59g/cm
3であり、電極密度向上率は105%であった。正極試料の電極密度向上率が低過ぎたため、発明例11に比べて、放電容量が1.3mAh/g、充放電効率が0.43%低下した。また、この発明例では充電カーブが緩やかであり、分極が見られた。これは、プレス処理が過小であるため、集電体と活物質との接触が不十分であることから、電気抵抗が大きくなったと考えられる。充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落が若干見られた。これは、プレス処理による電極密度向上率が過小であったためと考えられる。
電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を表3に示す。
【0077】
<発明例15>
発明例11で作製した乾燥後の正極試料を、平板プレス機により圧力0.79トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は2.85g/cm
3であり、電極密度向上率は509%であった。正極試料の電極密度向上率が高過ぎたため、発明例11に比べて、放電容量が2.2mAh/g、充放電効率が0.45%低下した。放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落が若干見られた。これは、プレス処理による電極密度向上率が過大であったため考えられる。
電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を表3に示す。
【0078】
<比較例11>
発明例11において、多孔質アルミニウム集電体に代えて厚さ20μmのアルミニウム箔を集電体に用い、この集電体上にスラリーを塗布して乾燥させた。アルミニウム箔の1m
2当たりに塗布した活物質、導電助剤及び結着剤の合計重量は、乾燥状態で600g/m
2であった。
この比較例では、正極試料に多孔質アルミニウム集電体を用いなかったため、乾燥後の集電体表面がひび割れてアルミニウム箔から剥離してしまい電池特性の評価ができなかった。そのため、放電試験500サイクル後の電極状態を観察できなかった。
【0079】
<比較例12>
発明例11において、多孔質アルミニウム集電体に代えて厚さ20μmのアルミニウム箔を集電体に用い、この集電体上にスラリーを塗布して乾燥させた。アルミニウム箔の1m
2当たりに塗布した活物質、導電助剤及び結着剤の合計重量は、乾燥状態においてひび割れや剥離が生じない154g/m
2とした。
このようにして作製した乾燥後の正極試料の電極密度は1.20g/cm
3であった。次いで、これを平板プレス機により圧力0.24トン/cm
2でプレス処理した。プレス処理後の電極密度は1.81g/cm
3であり、電極密度向上率は151%であった。この比較例では、正極試料に多孔質アルミニウム集電体を用いなかったため、発明例11に比べて、放電容量が2.0mAh/g、充放電効率が1.17%低下した。充放電試験500サイクル後の電極に活物質の脱落は見られなかった。
電極容量、放電容量及び充放電効率の結果を表3に、充放電曲線を
図3に示す。
【0080】
表3及び
図2、3の結果から明らかなように、本発明11〜15に係る非水電解質二次電池は、アルミニウム箔を用いたいずれの比較例11、比較例12の電池よりも、電極容量、放電容量及び充放電効率に優れているまた、本発明11〜15はエキスパンドメタルを使用していない比較例9、プレス処理を行っていない比較例10の電池と電極容量、放電容量及び充放電効率においては大差ないものの、500サイクル後の活物質脱落が少なく、良好であった。
更に、本発明の電池は電極作製工程において多孔質アルミニウム集電体が欠落することはなく、十分な電池機能を発揮できる強度を有している。このように、本発明に係る非水電解質二次電池用正極を用いることにより、高強度かつ高容量の非水電解質二次電池が得られる。
【0081】
本発明に係る非水電解質二次電池において、電極容量及び放電容量が大きい理由は、本発明において多孔質のアルミニウム集電体を用いることで正極活物質が充填され易くなるためである。更に、多孔質アルミニウム集電体を混合粉末とアルミニウム板との複合体とすることにより、正極材料(正極活物質、導電助剤及び結着剤)の膨張や脱落が抑制されるためである。比較例9の電池のように、アルミニウム板を用いない場合には、電極強度が劣り十分な電池機能が発揮できない。
【0082】
なお、本発明に用いた正極スラリーは正極活物質、導電助剤、結着剤及び分散剤を溶媒に分散したスラリーであるが、少なくとも正極活物質を溶媒に分散したスラリーを用いても電極作製は可能である。この場合、プレス処理を通常よりも過度に行うことにより、多孔質アルミニウム集電体との接着性を向上させ、活物質の脱落を防止する。