(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記蛍光体層上に形成され、前記発光素子及び前記蛍光体層からの紫外光及び可視光を透過せず、前記蛍光体層からの赤外光のみを透過するフィルタを具備する請求項2に記載のメタンガスセンサ用光源。
【背景技術】
【0002】
メタンガス濃度を測定する第1の従来のメタンガスセンサは、金属線、セラミックの抵抗加熱を用いたフィラメントあるいはヒータよりなる光源よりなる。この光源はメタンガスの吸収波長1654nmを含む黒体輻射に従った広帯域の発光スペクトルを有するので、この光源を所定の光透過フィルタと組み合わせることによりメタンガス濃度を測定できる。すなわち、メタンガスが吸収する吸収波長1654nmを含む赤外線を被測定のメタンガスに照射し、このメタンガスによる吸収波長1654nm の光吸収量からランベルトーベール法則を用いてメタンガス濃度を算出する。
【0003】
しかしながら、上述の第1の従来のメタンガスセンサにおいては、大部分の光を熱として捨ててしまうので、エネルギー利用効率が低く、従って、消費電力が高かった。また、断線が起こり易く、従って、信頼性が低かった。このように消費電力が高くかつ信頼性が低いので、リアルタイム性でメンテナンスフリーのセンサシステムを構築できなかった。
【0004】
メタンガス濃度を測定する第2の従来のメタンガスセンサは光源としてメタンガスが吸収する吸収波長1654nmを有するInGaAsP半導体レーザを用いる(参照:特許文献1)。この場合、メタンガスの吸収波長1654nmを発光波長とするので、メタンガスの幅広い濃度を精度よく測定できる。
【0005】
しかしながら、上述の第2の従来のメタンガスセンサは、周囲温度の影響を受けて半導体レーザの発光波長、発光強度が変化するので、半導体レーザをペルチェ素子で一定に制御する必要があり、この結果、製造コストが高くなると共に、消費電力が大きかった。従って、やはり、リアルタイム性でメンテナンスフリーのセンサシステムを構築できなかった。
【0006】
メタンガス濃度を測定する第3の従来のメタンガスセンサは、1.4〜1.7μm帯の発光波長を有する発光ダイオード(LED)たとえばGaN系化合物半導体青色LEDよりなる光源と、メタンガスの吸収波長1654nmを含む赤外線発光を示すY
3Al
5O
12:Ce
3+、Er
3+蛍光体(YAG:Ce、Er蛍光体)とを組み合わせることにより構成されていた(参照:特許文献2)。従って、LEDの蛍光体と共に温度特性が比較的良好であり、温度を一定に制御する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明者は、YAG:Ce,Er蛍光体をその母体のAlの一部をGaに置換したY
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体(YAGaG:Ce,Er蛍光体)とすることにより発光スペクトルの発光ピークをメタンガスの吸収波長1654nm側にシフトさせることに成功したものである。
【0016】
すなわち、YAG:Ce,Er蛍光体においては、発光中心イオンのうちCeイオンが光源から青色光を吸収して得たエネルギーがErイオンに移動してErイオンを励起する。この結果、Erイオンが励起状態から基底状態へエネルギー緩和する際に赤外領域の発光スペクトルの発光を示す。
【0017】
上述の発光スペクトルをシフトさせるには、Erイオンの励起エネルギー準位を変化させる必要があるが、このErイオンは励起された際には4f軌道のエネルギー準位にある電子が同一の4f軌道内の高いエネルギー準位に励起された後に赤外光を発して再度4f軌道の低いエネルギー準位に遷移するという4f-4f遷移と呼ばれる過程を得る。尚、ランタノイドイオンでは、4f軌道は最外殻ではないので、結晶内で隣接する原子、イオンの影響を受けず、従って、エネルギー準位は一定であり、この結果、その発光スペクトルは変化しないものと考えられていた。また、仮に、エネルギー準位が変化した場合には、CeイオンからErイオンへのエネルギー移動の確率も変化する可能性があり、その発光スペクトルの発光強度を予想することは不可能であった。
【0018】
次に、Y
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体のAl、Ga組成比の最適mol%について説明する。
【0019】
初期条件としてY, Ce, Erを94 mol%、3 mol%、3 mol%として、
図1の(A)に示すごとく、Alに対するGaの置換範囲を0 mol%〜100 mol%の範囲で調整し、従来試料、試料1、試料2、試料3、試料4、試料5を作成した。尚、
図1の(B)は、従来試料、試料1、試料2、試料3、試料4、試料5の実際の酸化物、フラックスの仕込み量を示す。
【0020】
従来試料、試料1、試料2、試料3、試料4を蛍光体層として
図7のメタンガスセンサに用いた場合、従来試料のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度を100とすれば、試料1、試料2、試料3、試料4のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度は137、145、128、87であった。尚、試料5の発光強度は検出できなかった。分光放射計を用いて測定した従来試料、試料1、試料2、試料3、試料4の発光スペクトルを
図2に示す。このように、Alに対するGaの置換範囲は20mol%以上60mol%以下が好ましく、最適値は40mol%である。つまり、Gaの置換が20mol%未満では、発光ピークが十分シフトしないからであり、他方、Gaの置換が80mol%を超えると、結晶構造が変化してCeイオンが青色光を吸収できず、従って、メタンガス吸収波長1654nmの発光強度を上げることができないからである。
【0021】
次に、Y
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体のY、Erに対する組成Ceの最適mol%について説明する。
【0022】
初期条件としてErを3 mol%とし、既に決定したAl、Gaの最適mol%を60 mol%、40 mol%として、
図3の(A)に示すごとく、Yに対するCeの濃度を0.1 mol%〜5 mol%の範囲で調整して、試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12を作成した。尚、
図3の(B)は、試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12の実際の酸化物、フラックスの仕込み量を示す。
【0023】
試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12を蛍光体層として
図7のメタンガスセンサに用いた場合、従来試料のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度を100とすれば、試料6、試料7、試料8、試料9、試料10、試料11、試料12のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度は104、129、137、146、145、137、126であった。このように、Yに対するCeの濃度は0.1mol%以上5mol%以下が好ましく、最適値は2mol%である。つまり、Ceの濃度が0.1mol%未満では、Ceイオンの数が少なく、Ceイオンが青色光を吸収できず、従って、メタンガス吸収波長1654nmの発光強度を上げることができないからであり、他方、Ceの濃度が5mol%を超えると、濃度消光により発光効率が低下するので、やはり、メタンガス吸収波長1654nmの発光強度を上げることができないからである。
【0024】
次に、Y
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体のY、Ceに対する組成Erの最適mol%について説明する。
【0025】
既に決定したAl、Ga、Ceの最適mol%を60 mol%、40 mol%、2 mol%として、
図4の(A)に示すごとく、Yに対するErの濃度を0.1 mol%〜5 mol%の範囲で調整して、試料13、試料14、試料15、試料16、試料17を作成した。尚、
図4の(B)は、試料13、試料14、試料15、試料16、試料17の実際の酸化物、フラックスの仕込み量を示す。
【0026】
試料13、試料14、試料15、試料16、試料17を蛍光体層として
図7のメタンガスセンサに用いた場合、従来試料のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度を100とすれば、試料13、試料14、試料15、試料16、試料17のメタンガス吸収波長1654nmでの発光強度は
98、112、140、146、128であった。このように、Yに対するErの濃度は2mol%以上4mol%以下が好ましく、最適値は3mol%である。つまり、Erの濃度が0.1mol%未満では、Erイオンの数が少なく、Ceイオンが青色光を吸収できず、従って、メタンガス吸収波長1654nmの発光強度を上げることができないからであり、他方、Erの濃度が5mol%を超えると、濃度消光により発光効率が低下するので、やはり、メタンガス吸収波長1654nmの発光強度を上げることができないからである。
【0027】
このように、YAG:Ce,Er蛍光体をその母体のAlの一部をGaに置換したY
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体によれば、メタンガスの吸収波長1654nmでの発光強度は増加する。特に、Alに対するGaの置換範囲は20 mol%以上60 mol%以下が好ましく、最適値は40mol%であり、また、Yに対するCeイオンの濃度は0.1mol%以上5mol%以下が好ましく、最適値は2mol%であり、さらに、Yに対するErイオンの濃度は2mol%以上4mol%以下が好ましく、最適値は3mol%である。
【0028】
次に、Y
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体の製造方法について
図5を参照して説明する。
【0029】
始めに、秤量ステップ501を参照すると、YAGaG:Ce,Er蛍光体の構成元素Y, Ce, Er, Al, Gaの酸化物Y
2O
3, CeO
2, Er
2O
3, Al
2O
3, Ga
2O
3とフラックスとしてのBaF
2とを用い、たとえば
図4の試料16のmol比となるように秤量する。たとえば、酸化イットリウムY
2O
3は純度99.99%の信越化学工業製を用い、酸化アルミナAl
2O
3は純度99.9%の関東化学製を用い、酸化ガリウムGa
2O
3は純度99.99%のフルウチ化学製を用い、酸化セリウムCeO
2は純度99.99%の信越化学工業製を用い、酸化エルビウムEr
2O
3は純度99.99%の信越化学工業製を用い、フッ化バリウムBaF
2は純度99%の関東化学製を用いる。尚、酸化物の代りに、加熱によって酸化物となる炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物、フッ化物等でもよい。
【0030】
次に、混合ステップ502を参照すると、秤量ステップ501での材料を十分に混合する。混合方法は特に限定されず、乾式混合でも、エタノールで代表されるアルコール類、アセトン等の有機溶媒を加えた湿式混合でもよい。混合時は、乳鉢を用いた手作業でもよく、ボールミル、V型ブレンダ等の装置を用いてもよい。たとえば、アルミナボールと一緒に5時間のボールミル混合を行う。湿式混合を行った場合には、吸引ろ過して乾燥工程を実施する。また、乾燥後はたとえば#100メッシュのふるいにかけて粒度を整えた粉末をルツボに移す。また、この場合、ルツボは材質が酸化物、特にアルミナ製のものを用いるのが一般的であるが、グラファイト製、窒化ホウ素製、モリブデン等の金属製のものを用いることも可能である。
【0031】
次に、焼成ステップ503を参照すると、焼成を非酸化雰囲気下たとえば96%窒素4%水素の還元雰囲気下で行う。通常はこのような窒素と水素の混合ガス雰囲気であるが、簡便には窒素や活性炭を使った還元雰囲気でもよい。焼成温度は1400〜1800℃、焼成時間は2〜6時間で焼成可能である。
【0032】
次に、洗浄ステップ504を参照すると、焼成後にはフラックス成分が残っているので、硝酸を用いて洗浄を実施する。さらに、イオン交換水で洗浄後に乾燥する。
【0033】
最後に、粒度均一化ステップ505を参照すると、#200メッシュのふるいにかけ粒度をそろえて目的の蛍光体を得る。
【0034】
このようにして製造されたY
3(Al,Ga)
5O
12:Ce
3+,Er
3+蛍光体をX線回折装置で結晶相を観察して同定した結果、YAGaGの単一相であることが確認できた。また、上述の仕込み量からの組成ずれもないことが確認できた。
【0035】
図6は本発明に係るYAGaG:Ce,Er蛍光体を用いたメタンガスセンサ用光源10を示す図である。
【0036】
図6において、基板1上の枠基体2の凹部3の底面に発光ダイオード(LED)素子4が設けられている。LED素子4の電極はボンディングワイヤ5によって基板1の配線パターン(リードフレーム)1aに電気的に接続されている。また、凹部3内には、本発明に係るYAGaG:Ce,Er蛍光体を含む蛍光体層6が形成されている。さらに、凹部3の開口にはフィルタ7が蛍光体層6を覆うように形成されている。
【0037】
LED素子4からのたとえば青色光は蛍光体層6のYAGaG:Ce,Er蛍光体を励起する。この結果、蛍光体層6はメタンガス吸収波長1654nmの発光ピークを含む赤外光を発し、この赤外光はフィルタ9を介して外部へ放出される。他方、LED素子4からの青色光のうち蛍光体層6のYAGaG:Ce,Er蛍光体を励起せずに透過した青色光及び蛍光体層6が発した可視光領域の蛍光はフィルタ9によって吸収もしくは枠基体2の凹部3内で反射されて外部へ放出されることはない。
【0038】
また、蛍光体層6のYAGaG:Ce,Er蛍光体における励起−蛍光放出の過程において、ストークスシフトによって蛍光体自身による発熱が生じる。このような熱は蛍光体層6が接しているフィルタ9を通じて外部へ放出される。尚、LED素子4及び蛍光体層6において発熱した熱は、上述のフィルタ9に加えて、放熱性の基板1及び枠基体2を介して放熱されると共に、図示しないヒートシンク等の放熱体によっても放熱させることができる。
【0039】
基板1はパッケージ部材としての樹脂、セラミックあるいは金属よりなる。特に、熱伝導性、放熱性の点から、シリコンあるいは金属が好ましい。尚、基板1と枠基体2とを一体的に構成してもよい。
【0040】
枠基体2の材料によっては、LED素子4及び蛍光体層6からの紫外線及びまたは可視光が枠基体2を介して外部へグレアとして放出される場合がある。このグレア光を防止するために、枠基体2の凹部3の内面あるいは外面に紫外線及び/または可視光を遮敵するための黒色塗層、金属層等を形成してもよい。特に、凹部3の内面に金属層を形成すると、赤外線を効率的に反射してフィルタ9の方向に導くと共に、可視光等を外部へ漏れることを防止でき、高出力の点で好ましい。
【0041】
LED素子4はたとえば直接遷移型化合物半導体によるp型層、n型層及びこれらの層によって挟まれた発光層よりなり、また、p型層、n型層に電流を供給するための2つの電極を有する。これらの電極はボンディングワイヤ5によって基板1上の配線パターン1aに接続され、電流を供給することによって発光層のバンドギャップに相当する光を発する。尚、上述の直接遷移型化合物半導体は好ましくは紫外線から緑色領域の光を発する発光ピーク波長450nmの窒素ガリウム(GaN)系化合物半導体であり、このGaN系化合物半導体は温度変換に対する出力変動あるいは波長の変動が比較的少なく、温度特性が良い。
【0042】
また、蛍光体層6は
図5の製造方法によって製造されたYAGaG:Ce、Er蛍光体をシリコーン樹脂のバインダ樹脂に混合して凹部6に充填して樹脂硬化させることによって形成される。たとえば、樹脂硬化条件は、80℃、1時間の加熱を行い、その後、150℃、4時間の加熱を行う。この結果、蛍光体層6と基板1とが密着し、基板1と枠基体2とが固定される。しかし、蛍光体層6はフィルタ9の内面に薄膜状に形成し、凹部6内に空洞を含んでも良い。
【0043】
フィルタ9はメタンガスの吸収波長1654nmを含む所望の赤外線以外のグレアの原因となる上述のLED素子4及び蛍光層6からの紫外線及びまたは可視光を遮敵する作用を有する。フィルタ9はこの作用に加えてストークシフトによって蛍光体層6自身が発した熱を外部へ放出する作用をも有する。これにより蛍光体層6の温度消光による出力低下を抑止する。フィルタ9の材料としては、赤外線に対して透明である上、ある程度熱伝導性を有するシリコンを用いる。
【0044】
図7は
図6の光源を用いたメタルガスセンサを示す図である。
【0045】
図7において、メタルガスのガス導入口21a、ガス排出口21bを有するセル21の上流側、下流側に、
図6の光源10及び受光素子22たとえばフォトトランジスタを設ける。また、23はメタンガスの吸収波長1654nmの近傍の光のみを通過させるフィルタ、24は光源10から受光素子22への光Lをオン、オフするチョッパ、25は光源10、受光素子22及びチョッパ24を制御する制御回路たとえばCPU,ROM,RAM,I/O等よりなるマイクロコンピュータである。
【0046】
図7において制御回路25は光源10をオン、オフすると共に、チョッパ24をオープンにして受光素子22から出力Ioを受信する。この結果、制御回路25はランベルト−バール法則を用いてセル21内のメタンガス濃度を算出する。必要に応じて制御回路25は測定されたメタンガス濃度をリアルタイムでセンタへ送信する。