(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893650
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】モータ故障の検出のための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20160310BHJP
【FI】
A61M16/00 370Z
A61M16/00 305A
【請求項の数】31
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-6621(P2014-6621)
(22)【出願日】2014年1月17日
(62)【分割の表示】特願2008-103795(P2008-103795)の分割
【原出願日】2008年4月11日
(65)【公開番号】特開2014-87699(P2014-87699A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2014年2月14日
(31)【優先権主張番号】60/907,717
(32)【優先日】2007年4月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500046450
【氏名又は名称】レスメド・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ResMed Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・ピーター・アーミットステッド
(72)【発明者】
【氏名】ディオン・チャールズ・チュー・マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム・マクインズ・ソマーヴィル
【審査官】
藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−529154(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0252205(US,A1)
【文献】
特開2005−328691(JP,A)
【文献】
特表2007−501072(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/047826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ発生装置内に存在する欠陥又は前記流れ発生装置内で悪化している欠陥の検知方法であって、
前記流れ発生装置は、前記流れ発生装置の治療的使用中に自動制御の下でモータによって動かされるインペラを有する、方法において、
前記流れ発生装置によって発生した加圧された呼吸に適したガスの流れを供給するステップと、
前記流れ発生装置が前記加圧された呼吸に適したガスの流れを発生させる場合に、前記モータに供給されたモータ電流を測定するステップと、
前記モータによって発生された入力モータトルク値を、少なくとも部分的に前記モータ電流に基づいて決定するステップと、
出力モータトルク値を決定するステップと、
前記出力モータトルク値と前記入力モータトルク値との間の差を計算するステップと、
少なくとも部分的に前記差に基づいて欠陥が前記流れ発生装置内に存在するかどうか又は前記流れ発生装置内で悪化しているかどうかを判断するステップと、
を備える方法。
【請求項2】
前記入力モータトルク値を決定するステップは、モータ制御システムのモデルからの推測にさらに基づくことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記入力モータトルク値を決定するステップは、モータ制御システムの参照表にさらに基づくことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記欠陥が存在する又は悪化していると判断された場合に、警報を起動させるステップ、及び/又は流れ発生装置を保守を必要とするモードにするステップをさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記差を所定の閾値と比較するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記差が所定の閾値を特定の時間量超えている場合に、欠陥が存在する又は悪化していることを表示するステップをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記差をローパスフィルタによってフィルタするステップをさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ローパスフィルタは、一時的な誤差を削減するように構成されていることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
フィルタされた前記差を所定の閾値と比較するステップをさらに備える請求項7〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記差が前記所定の閾値を特定の時間量超えている場合に、欠陥が存在する又は悪化していることを表示するステップをさらに備えていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記差を計算するステップは、密度、粘度、及び温度のうちの1つ以上の変化を修正するステップをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記モータのタービンからの出力を測定するステップであって、測定された出力は圧力、流量、及び/又は回転スピードを含んでいるステップにおいて、
前記出力モータトルク値の決定が少なくとも部分的に前記測定された出力に基づいていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記差に少なくとも部分的に基づいて前記流れ発生装置内で欠陥が悪化しているかどうかを判断するために、前記出力モータトルク値と前記入力モータトルク値との間の差を一定時間に亘って計算することを備える、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
加圧された呼吸に適したガスの流れを供給するためのタービンベースの換気装置において、
供給されるべき前記加圧された呼吸に適したガスの流れを発生させるために、インペラを駆動するように構成されたモータと、
前記モータが前記加圧された呼吸に適したガスの流れを発生させる間に、前記モータに供給されるモータ電流を測定する変換器と、
前記モータ/インペラのための閉ループの制御装置と、
を備えるタービンベースの換気装置であって、
前記制御装置はさらに、前記タービンベースの換気装置の治療のための使用中に、存在する又は悪化している前記タービンベースの換気装置の欠陥の存在を検出するように構成されており、
前記欠陥の存在は、入力モータトルク値と出力モータトルク値との比較に基づいて検出されており、
前記入力モータトルク値は、少なくとも部分的に前記モータ電流に基づいている、タービンベースの換気装置。
【請求項15】
患者インターフェースに接続された可撓導管をさらに備え、該可撓導管と前記患者インターフェースとは、患者に前記加圧された呼吸に適したガスの供給を行うために好適であることを特徴とする請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記変換器は、モータ電流を測定するように構成されたトランスコンダクタンス増幅器をさらに備えていることを特徴とする請求項14又は15に記載の装置。
【請求項17】
患者に供給される圧力、流量、インペラの回転速度、及びモータ電流を測定する及び/又は計算することができる少なくとも1つの変換器をさらに備えることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記入力モータトルク値の決定は、モータ電流及び/又はモータ制御システムのモデルからの推定に基づいていることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記入力モータトルク値の決定は、モータ電流及び/又はモータ制御システムの参照表に基づいていることを特徴とする請求項14〜17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記比較の値をフィルタするように構成されたローパスフィルタをさらに備えていることを特徴とする請求項14〜19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記ローパスフィルタは一時的な誤差を削減するように構成されていることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記制御装置は、前記欠陥が検出される場合に、警報を起動させるようにさらに構成されており、及び/又は前記換気装置を保守を必要とするモードにするようにさらに構成されていることを特徴とする請求項14〜21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記比較の値は、前記出力モータトルク値と前記入力モータトルク値との差であることを特徴とする請求項14〜22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記制御装置は、前記差を所定の閾値と比較するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記差が前記所定の閾値を特定の時間量超えている場合に、前記制御装置は、欠陥の存在を表示するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記制御装置は、前記差に少なくとも部分的に基づいて前記流れ発生装置内で欠陥が悪化しているかどうかを判断するために、前記出力モータトルク値と前記入力モータトルク値との間の差を一定時間に亘って計算するように構成されることを特徴とする、請求項23〜25のいずれか一項に記載の装置。
【請求項27】
前記制御装置は、フィルタされた比較の値を所定の閾値と比較するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項20又は21に記載の装置。
【請求項28】
前記フィルタされた比較の値が所定の閾値を特定の時間量超える場合に、前記制御装置は、前記欠陥の存在を表示するようにさらに構成されていることを特徴とする請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記制御装置は、前記モータに指令して、前記入力モータトルク値及び前記出力モータトルク値を比較する場合に密度、粘度、及び温度のうちの少なくとも1つにおける変化を修正するように構成されていることを特徴とする請求項14〜28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
タービンベースの換気装置は、流量設定型、容量設定型、及び/又は圧力設定型の装置であることを特徴とする請求項14〜29のいずれか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記タービンベースの換気装置は、PAP装置であることを特徴とする請求項14〜30のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここで開示される実施形態例は、例えば呼吸不全/障害及び/又は睡眠時呼吸疾患(SDB)を治療するのに好適な装置のような、機械的装置におけるモータ故障の検出のためのシステム、及び/又は方法に関し、このような装置は、例えば非侵襲的技術(例えば、マスクシステム、流量発生装置若しくは換気装置、気道陽圧(PAP)装置、等)及び/又は侵襲的換気、容積モード、機械的換気、及び/又はその他のこの種の技術を提供する。より具体的には、ここに開示される実施形態例は、悪化するモータ障害を流量発生装置/換気装置の入力トルクと出力トルクとを比較することによって検出するシステム及び/又は方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この出願は、2007年4月13日に出願された特許出願第60/907717号の利益を伴い、その全ての内容がここに参照によって組み込まれている。
【0003】
閉鎖性睡眠中無呼吸(OSA)及び他の危険な睡眠時呼吸疾患(SDB)状態は世界中の多くの人に影響を与えている。例えば、通常は3〜20cm水柱の範囲の大気圧より高い圧力で、加圧空気又は呼吸に適した他のガスを、患者インターフェース(例えばマスク)を介して患者の気道の入口に継続して供給する持続性気道陽圧(CPAP)装置の使用を含む、多くの技術がSDBを治療するために出現してきた。通常は、SDBに罹患していると考えられる患者は、睡眠技術者が患者に多くのデータ収集装置を取り付け、所定の期間に亘って睡眠活動をモニターする公認の睡眠研究所に登録する。患者が診断された後、通常は治療計画が展開され、1つの治療装置(又は複数の治療装置)及び治療装置に対する使用のプログラムの双方が認定される。
【0004】
図1は、典型的なCPAP治療装置の単純化された図を示している。インペラ1は、マイクロプロセッサをベースとしたコントローラ4の命令の下で自動制御装置3を使用した電気式モータ2によって動かされている。呼吸に適したガスの供給は、可撓導管6を通じてマスク5に運ばれる。装置は様々なスイッチ7、表示装置8、及び多くの変換器(transducer)を有している。変換器は、例えば(例えば流れ経路の所定の位置における)体積流量10、(例えば流れ発生装置の出口若しくはマスクの下流の所定の点における)圧力11、いびき12、流れ発生装置の回転速度13、及び/又はモータのパラメータ14のような多くの処理をモニターすることができる。
【0005】
治療装置における故障を検知することは、故障が送風機の操作中に生じるので有利である。モータのベアリング及び/又はタービンのひどい故障は、患者に治療を受けられなくする。しかし、モータのベアリング及び/又はタービンが故障し始める場合、患者は故障の出始めと故障が起こってしまったときとの間の期間、準最適な治療を受けることができる。故障したモータは低い(若しくは期待値より低い)気圧出力をもたらす。故障の発生を認識できないと、ベアリングをオーバーヒートさせる場合があり、続いて潜在的な危険となる場合がある。
【0006】
このため、ここで参照によってその全体の内容が組み込まれる特許文献1は、回転摩擦の増加を測定するための技術を開示している。残念ながら、これら技術は所定期間、ファンの動力を低下させ、スピンダウンの程度をチェックする必要があるので、これら技術にはさらなる改良が必要であり、実際の使用の際には、これら技術は流れ発生装置には不適である。
【0007】
欠陥を検知するための所定の他の技術は、特許文献2、特許文献3、特許文献4、及び特許文献5に開示されており、これら文献それぞれの全体の内容がここに参照によって組み込まれている。また、このような技術を使用して検知することができない所定の欠陥が存在するので、これら技術に対するさらなる改良が有利である。例えば、このような技術は通常、「モータを停止させる」状態、又は殆どモータを停止させる状態を起こすまでには至っていない、欠陥を有するベアリングがあるかどうかを検知することはできない。例えば、低い出力トルク、ベアリング摩擦の増加、狭窄吸入口、欠陥のある又は遮断されたホール(Hall)センサなどのような他の故障を検出することは有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5621159号明細書
【特許文献2】オーストリア特許第764761号明細書
【特許文献3】米国特許第6591834号明細書
【特許文献4】米国特許第6745768号明細書
【特許文献5】米国特許第7040317号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
よって、従来技術には改良されたモータ故障の検知技術が必要であることが理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
所定の実施形態例の1つの特徴は、流れ発生装置における欠陥を検知することに対する全体的な解決法に関する。このような欠陥は、例えば、劣化したベアリング、故障したモータ、低い出力トルク、増加したベアリング摩擦、狭窄吸入口、脱落した相、遮断されたホールセンサ、こすれて緩んだ/ばらばらになったインペラ、などを含む場合がある。
【0011】
所定の実施形態例の他の特徴は、流れ発生器の期待された荷重トルクとモニターされた荷重トルクとを比較することに関し、ここで、期待される荷重トルクは前以って知られているとともに、特定の流れ発生器(又は流れ発生器の型式)に特有であり、モニターされた荷重はモデル及び/又は参照表(lookup table)から計算され、推定される。
【0012】
所定の実施形態例のまた別の特徴は、流れ発生器の作動を停止させることなく、流れ発生器の欠陥を検知するための技術に関する。
【0013】
所定の実施形態例のまた別の特徴は、流れ発生器の悪化する欠陥を検知するための技術に関する。
【0014】
所定の実施形態例の技術は、モータを有するいかなる装置にも適用することができ、例えばシステムによって生成された有用な(出力)トルクをモータによって生成された(入力)トルクと比較することによってモータ中の欠陥を検知する。これら技術は、モータが装置に組み込まれる前に、組み立てられた装置の診断機能等として、モータの試験及び/又は欠陥の検出(例えば、重大欠陥の検出、悪化する欠陥の検出、及びその種のもの)に対して使用することができる。
【0015】
所定の実施形態例においては、治療中の流れ発生装置の悪化する欠陥を検知する方法が提供されている。流れ発生装置は、自動制御の下でモータによって動かされるインペラを採用することができる。流れ荷重によってインペラにかかるトルクは、測定されたパラメータから見積もられる。これが出力(例えば有用な)トルクである。モータトルク(例えば、入力モータトルク)はモータ電流からある程度決定することができる。入力トルクと出力トルクとの間の差は計算することができる。欠陥が存在するかどうかの決定は、この差の評価に少なくとも部分的に基づくことができる。代替的に、期待されるモータトルクという用語は、例えば測定された圧力、流量、及び/又は回転速度を含む、タービンからの測定された出力から見積もられたインペラにかかるトルクを意味するように使用することができる。
【0016】
例示の別の所定の実施形態では、タービンをベースにした換気装置が設けられている。インペラは自動制御の下でモータによって動かすことができる。システムの自動制御装置はさらに、タービンをベースとした換気装置の治療目的の使用中に、(例えば測定されたパラメータに基づく)有用な出力トルクと入力(例えばモータ)トルクとの比較に基づき、タービンをベースとした換気装置の悪化する欠陥の存在を示すように構成することができる。タービンをベースとした換気装置は、所定の実施形態例において、流量設定型、容量設定型、又は圧力設定型とすることができる。また、タービンをベースとした換気装置は、所定の実施形態例においてはPAP装置とすることができる。
【0017】
任意的に、差を除去してノイズを削減することができる。差は、除去されるにしてもされないにしても、例えば少なくとも1つの所定の閾値との比較に基づいて、欠陥が存在するかどうかを判断するために使用することができる。ここに記載されている所定の実施形態例が、非侵襲的(例えばマスク)及び/又は気道陽圧装置を介したSDB(例えばOSA)の治療に関係していることが理解されるであろう。しかし、所定の実施形態例は、侵襲的換気技術、容量モード、及び/又はSDB以外に、機械的換気に対して一般的に使用することができる。例示の方法によって限定されること無く、このような技術は、通常の喚起に多い、酸素による安全な操作が関わる場合にはいつでも適用することができる。
【0018】
添付の図面は、本発明の様々な実施形態の理解を容易にしている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】典型的なCPAP処置装置の単純化された図面である。
【
図2】ResMedから市販されているAutoSet C52送風装置から実験的に得られた、6つの異なる一定の角速度に対するドライブ電流と供給実効電流との間の関係を示す図である。
【
図3】実効電流をドライブの非線形関数及び角速度としてモデリングした結果を示す図である。
【
図4】ニュートンメータ対時間におけるトルクの2つの図である。
【
図6】
図4と同様の図であるが、ここでは15秒〜25秒の間の負荷トルクの揺れを有している。
【
図8】4つの別々のユニットに対する、
図7のトルクバランスの線の長期間のモニターリングを示す図である。
【
図9】実施形態例に従った、欠陥検知方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.欠陥検知
所定の実施形態例は、流れ発生器における悪化する欠陥を検知する技術に関する。これは、流れ発生器の期待される負荷トルクとモニターされた負荷トルクとの間の差を計算することによって可能とすることができる。差は、除去されようと除去されなかろうと、1つ以上の所定の閾値と比較され、重大欠陥が生じているかどうか及び/又は欠陥が悪化しているかどうかを決定することができる。以下の記載は、この解決法に関して使用することができる説明に役立つ式及び説明に役立つハードウェア/ソフトウェアの構成を詳述している。
【0021】
1.1 モデルの外観
送風機はモータ2によって動かされ、モータ2は供給された流体を加速するインペラにトルクを供給する。いずれかの時点において、モータによって起こされるトルクと流体の加速のために必要とされるトルク、インペラの質量とモータのロータとの加速及びシステムにおけるいずれかの損失のために必要とされるトルクとの間のバランスが取られている。このバランスもまた動力の点から述べられることが理解される。モータによって起こされたトルクは、モータ定数kを適用することにより、消費された電流から計算することができる。多相モータに対しては、この定数は相を通して同様の定数である。モータによって与えられるトルクは、よって、
【0023】
で表わされ、ここでI
mはモータ電流である。このトルクは式
【0025】
のように上記に詳述されたトルクによってバランスされており、ここでpはパスカルであらわされた患者に供給される圧力(又は、入口の圧力がゼロでない場合のインペラの出力と入力との間の圧力における差異)であり、Qは供給されるガスのm
3・s
−1で表わされた流速(これは、直接的又は間接的に測定することができる)であり、ωは秒あたりのラジアンで表わされたインペラの回転速度であり、Jはモータが加速している全ての回転質量の慣性回転モーメントであり、T
lossは全ての損失トルクの合計である。式(2)中の最後の項は、例えば次の式を使用してモデル化することができる。
【0027】
ここで、流体の密度、粘度、及び温度は一定と仮定されることが理解されるだろう。これが真実でない場合には、所定の実施形態例は、定数がこれら及び/又は別の変数における測定された及び/又は推定された変化を考慮するように組み込まれることを可能とすることができる。この最後の式に対する理論的根拠は以下に述べるとおりである。T
consは回転する機会に典型的な「一定のトルク負荷」を示す。ωに比例するトルクは、流体充填されたボールベアリングに帰することができる粘性トルクである。インペラに亘る圧力に比例するトルクの項は、高圧領域から低圧領域への漏れを説明し、Q
2に比例するトルクは、インペラ及びハウジングの流体経路に沿った(たいていは乱流の)損失を考慮している。所定の実施形態例において、本発明がそのように限定されるわけではないが、関数fはほぼ線形であるように仮定することができる。例えば、例示の別の所定の実施形態においては、関数fは非線形、参照表、等である。好適な関数の一例は、
【0030】
ここでの論議に対してはSI単位系が使用されており、トルクはニュートン‐メータで測定されている。もちろん、別の単位系の測定を別の実施形態例において使用することができる。
【0031】
所定の実施形態例は、上述のようなモータ及びインペラと、p、Q、ω、I
mを測定する、及び/又は計算するために好適な変換器とを有する治療装置に関する。このような能力は、式(2)におけるトルクバランスのモニターを可能としている。例えば、左側の項と右側の項の合計との間の差が所定の閾値を超える場合に、所定の信号が生成されて保守が必要である(例えば、聴覚的アラーム及び/又は視覚的アラームを駆動させる、流れ発生器が「保守を要する」モードになる、等)ことを示す。別の例として、バランスはずっとトラッキングされて予期される残りの使用寿命又は「健康状態」が表示される。回転の慣性(J・∂ω/∂t)は、トルクバランスが、加速されていない間にのみチェックされる場合には、無視することができるということが理解されるだろう。
【0032】
よって、所定の実施形態例においては所定の閾値は重大故障を意味する値を示すことができ、所定の閾値は所定の別の実施形態例においては相対的な(例えば悪化する)故障を示すことができる。所定の実施形態は、重大故障(例えば1つの差が所定の閾値の上にある)及び相対的故障(例えばモニターされたトルクと期待されるトルクとの間の増加する差が、許容できる増加を示す閾値を越える)の双方を表示することができる。所定の閾値は、絶対値、増加若しくは減少のパーセント、などの形で示すことができる。
【0033】
1.2 T
mの計算
式(1)は、モータによって提供されるトルクがモータ電流とモータトルク定数との積として計算できることを示している。通常、モータトルク定数はモータ製造者によって提供される。よって、モータ供給電流のみがこの式への入力を完成するために必要とされる。したがって、小さい値のレジスタが電源とモータとの間の回路に配置される場合、このレジスタにかかる電圧はほぼ線形に、モータにかけられる電流に比例する。また、モータがスイッチモードの技術を使用して制御される場合、レジスタにかかる電圧は、供給電流のほぼノイズのない値を提供するためにフィルタをかけられる必要がある。
【0034】
また、モータ供給電流は、モータ電流の閉ループ制御に含まれる別のパラメータから推定することができる。例えば、トランスコンダクタンス増幅器を閉ループの形でモータ電流を制御するために使用することができる。ここで、「ドライブ」として知られている制御電圧は、スイッチモードの技術を使用してモータに供給される電流を制御する、トランスコンダクタンス増幅器への入力である。モータのほぼ一定の角速度においては、制御電圧「ドライブ」とモータ供給電流との間には略線形の関係がある。
図2は、AutoSet CS2 送風機から実験的に得られた6つの異なる一定の角速度に対するドライブと実効供給電流との間の関係を示している。プロットは、左から右へ、5000;8000;10,000;15,000;20,000;および23,000RPMに対応している。
【0035】
ドライブと供給電流との間の関係における角速度による変化は、必要とされる動作範囲を含むモデル又は参照表によって処理することができる。トランスコンダクタンス増幅器のループが非常に速い速度(例えば約20kHz)で動作するので、モデル又は参照表は静的試験(例えば、実質的に一定の速度での試験)を使用して作ることができるが、結果は動的に変化するシステム(例えば、モータが加速している場合)に対しても一般的に有効である。
図3は、ドライブの非線形関数としての実効電流と角速度とのモデリングの結果を示している。プロットは
図2においてプロットされたのと同じデータを示しており、モデル化された実効電流と実際の実効電流との間のほぼ線形の関係を示している。線の傾斜はほぼ1であり、y切片は約0であり、相関係数は約0.998である。このモデルが参照表によってもまた満足されることが理解されるだろう。
【0036】
1.3 呼吸に適したガスを加速するために必要とされるトルクの計算
ポンプによって生じた動力はp・Qに等しく、ここでpはパスカルで測定され、Qはm
3・s
−1で計算され、結果的にワットの単位を有する。ポンプによって生じた動力が秒あたりのラジアンで表わされる角速度で割られた場合、結果はニュートン‐メータで表わされるトルクとなる。ポンプが100%の効率である(例えば流体損失若しくは機械的損失がない)場合、このトルクは、ポンプが一定の角速度で回転している場合のモータの必要とされるトルクである。
【0037】
1.4 ポンプ、モータ及びシャフトの回転質量を加速するために必要とされるトルクの計算
モータ及びポンプが加速されている(例えば、各速度が一定ではない)場合、トルクは下式の総合体としての回転質量を加速する必要がある。
【0039】
ここで、Jはkg・m
2のSI単位を有し、T
inertiaはニュートン‐メータの単位を有し、∂ω/∂tは(ラジアン)・s
−2の単位を有する。
【0040】
AutoSet CS2送風機に対しては、Jの値は、2・1.13E
−6(2つのインペラ)+1.26E
−7(モータ)=2.386E
−6kg・m
2である。
【0041】
1.5 ベアリングとポンプとの非効率性によって消費されるトルクの計算
上述のように、ポンプの非効率性及びベアリングに関する損失は、経験的に、しかし尚、音響物理の原理の所定の実施形態例の機能的原理に基づきモデル化することができる。このようなモデルの1つは、
【0043】
ここで、T
consはベアリングの静的摩擦又はクーロン摩擦を表わし、k
1はグリース充填されたベアリングの典型的な粘性摩擦を表わしている。k
2は、ポンプハウジング内の(主に乱流の)流体損失を表わし、k
3は高圧領域から低圧領域への漏れに関する損失を表わしている。
【0044】
AutoSet CS2送風機に対する上述の定数の典型的な値は、
T
cons=5.4721E
−4N・m
k
1=1.8838E
−6N・m(ラジアン
−1)・s
k
2=1.2585E
2N・m(ラジアン
−1)・s
2
k
3=1.0493E
−7N・m・Pa
−1
である。これら値は「良品として既知の」ユニットと最小二乗法とを使用して計算されたものである。別のユニットに対する定数は同一の又は同様の方法を使用して計算することができる。
【0045】
1.6 動的に計算されたトルク差の例
図4はニュートン‐メータ対時間でのトルクの2つのプロットを示し、点線の曲線はモータによって供給されたトルクを示し、実線の曲線は総合体としての負荷に関するトルクである。AutoSet CS2送風機は、対象となる呼吸の間の固定された周期長さで、単純な2段階形式において圧力を供給している。モータトルクは、静的試験によって作られた下式のモデルを使用して計算された。
【0047】
モータ電流もまたドライブ(モータ制御装置によって出力された[0、1]信号を表わす)と、モータスピンドルの速度との関数として、式T
m=f(ドライブ、RPM)によってモデル化されたように、計算することができることが理解されよう。
【0048】
図5は、
図4の1周期の詳細を示し、2つの信号の間の良好な対応(すなわち、トルクバランス)を示している。
図6は、同一の詳細を示しており、ここでは15秒〜25秒の間の負荷トルクの摂動を有している。
【0049】
摂動は、インペラ表面に欠けられた少量の摩擦を含んでいた。
図6からわかるように、モータトルクの曲線は摂動の間、上方にシフトする、すなわち、モータは幾分かの期待される負荷に合致しない「過剰な」トルクを供給している。
図7は、期待されるトルク差を示し、ここでもまた、摂動の間にバランスにおける顕著な差がある。
【0050】
2.送風機の「健康」状態の長期モニターリングの例
図8は、4つの別々のユニットに対する、
図7のトルクバランスのトレースの長期モニターリングを示している。
図8においては、示されたトレースは100秒の時定数でフィルタされ、一時的なノイズを除去している。3つの「良好な」ユニット(曲線810、820、及び830)が一時間あまり作動され、同様な殆どゼロのトルク差を示した。4番目の欠陥を有するユニット(曲線840)は、ベアリング故障まで約3時間作動された。このユニットは、時間ゼロにおいてそのベアリングからグリースを除去されており、1時間の時点で多少のごみがベアリングの中に導入された。欠陥のあるユニットは明瞭に大幅に増加されたトルク差を示しており、モータが「期待されない」負荷に対するトルク(又は動力)を供給していることを示唆している。このユニットは、フィルタされた大幅なトルク差の検知に少なくとも部分的に基づいて、制御ソフトウェアによって壊滅的な故障のずっと前に停止することができたことが理解できるであろう。
【0051】
3.欠陥検知の例示的方法を示す図示的なフローチャート
図9は、実施形態例に従った欠陥検知方法を示す図的フローチャートである。ステップS902において、モータ電流が測定され、モータトルクが決定される。モータトルクは、例えば式(2)を使用して計算することができる。代替的に、モータトルクは、モデル及び/又はモータ制御システムの参照表、例えば式(7)を使用して推定することができる。ステップS904において、送風機のトルクバランス(例えば、モータが供給しているものと期待される負荷との間のバランス)が、例えば式(2)を使用してモニターされる。期待される負荷と、モニターされた(実際の)負荷との間の差がステップS906において計算される。この差は、下式のようにモデル化することができる。
【0053】
ここで、T
loadは、式(2)の右側の項である。
【0054】
ステップS908において、Δは、適切なローパスフィルタによってフィルタされ、αを生成する重要でない一時的な誤差を削減することができる。ここで、
【0056】
ステップS910において、αは、流れ発生器の「健康」を反映して、保守の質問として(例えば、制御装置4及び1以上の表示機8を介した出力によって)報告され得る。ステップS912に示されるように、αが特定の時間量に対する所定の閾値より大きい場合、流れ発生器は停止され、「保守モード」にされ、及び/又は別様に欠陥が検知された及び/又は予想されるという警告を使用者に出すことができる。所定の閾値及び/又は時間量は、使用される流れ発生器の型式に特有である場合があることが理解されるであろう。
【0057】
工程をモニターすること及び/又は計算することが、実行され、及び/又はより長時間に亘って総計される。このデータは(例えばメモリに)記憶され、より長期間のトレンドを知る目的のために比較され、流れ発生器の全体的な健康を測定し、及び/又は流れ発生器の全体的な健康に変化する。例えば、実際の性能はより長時間に亘る理想化された性能と比較することができる。理想化された性能からの顕著な差は、流れ発生器及び/又はモニター装置の問題の指標とすることができる。
【0058】
所定の実施形態例がCPAP装置及び/又はResMedのAutoSet CS2型の送風機に関して記載されてきたが、本発明はこれに限られるわけではないことが理解されるであろう。代わりに、ここに記載された実施形態例は、いずれかの製造者から潜在的に入手可能な別の型式の流れ発生器(例えば、一般にPAP装置、2段階装置、AutoSetアルゴリズム装置等)に関連させて使用することができる。また、ここに記載されたハードウェアの構成部品はいずれかの特定の構成に限られることはない。例えば、変換器は所定の特定の流れ発生器の一部分とすることができ、所定の特定の流れ発生器の中に一体化される別々のモジュールの部分とすることができ、所定の特定の流れ発生器から分離することもできることが理解されるであろう。さらに、ここに記載されたハードウェア及び/ソフトウェアの構成部品は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又は好適な機能を提供するその種のものを備えることができるということが理解されよう。例えば、計算は実行可能なソフトウェアアルゴリズムによって実行されるか、及び/又は制御装置4の中に埋め込むことができる。
【0059】
所定の実施形態例の1つの利点は、高められた安全性と起こりそうな故障の知識とから得られる利益に関している。所定の実施形態例の別の利点は、例えば治療装置のハードウェア要素によって既にモニターされたデータを変換するソフトウェアアルゴリズムによって可能となるような、温度及び/又は別のセンサを必要としない、悪化する欠陥の検知に関する。検知可能な欠陥は、例えば劣化したベアリング、故障したモータ、低い出力トルク、増加したベアリング摩擦、狭窄吸入口、脱落した相、遮断されたホールセンサ、インペラの故障、等を含むことができる。
【0060】
所定の実施形態例がPAP装置及び/又は流れ発生器に関して記載されてきたが、本発明はこれに限られるわけではないことが理解されるであろう。例えば、ここに記載された実施形態例はいずれの好適なタービンベースの換気装置と関連させて使用することができる。このようなタービンベースの換気装置は、例えば流量設定、容量設定、及び/又は圧力設定ベースの装置を含むことができる。また、このようなタービンベースの換気装置は、伝統的な機械式換気装置、CPAP装置、高流量鼻カニューレベースの装置、等を含むことができる。
【0061】
本発明は、現在最も実践的であり、好ましい実施形態と考えられているものに関連して記載されてきたが、本発明は開示された実施形態に限られるべきではなく、逆に本発明の精神及び技術的範囲の中に含まれる様々な変形及び同等の構成を含むように意図されている。また、上述の様々な実施形態は別の実施形態に関連して実施することができ、例えば、1つの実施形態の特徴は別の実施形態の特徴と組み合わせて、また別の実施形態を実現することができる。
【0062】
また、上述の様々な実施形態は、別の実施形態と関連させて実行することができ、例えば1つの実施形態の特徴は、侵襲的換気技術、容量モード、機械的換気、などに関連する治療を提供するために組み合わせることができる。さらに、本発明はOSAに罹患している患者への特定の応用を有するが、別の病気(換気不全若しくは換気障害、うっ血性心臓障害、糖尿病、肥満症、卒中、肥満手術(bariatric surgery)、等)に罹患している患者が上述の教唆から利益を受けられることが理解されるであろう。さらに、上述の教唆は患者及び医療用とではない患者ではないものへの適用可能性を有している。
【符号の説明】
【0063】
1・・・インペラ
2・・・モータ
4・・・制御装置
5・・・マスク
6・・・可撓導管
7・・・スイッチ
8・・・表示装置