(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工作物に放電加工された前記傾斜加工面は,前記工作物に形成される加工形状に沿って上ヘッドを下ヘッドに先行させて前記ワイヤ電極を傾斜状態にして放電加工することによって形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法。
前記工作物に放電加工された前記傾斜加工面は,互いに交差して前記工作物に形成され,前記工作物の中央部の未加工部分が凸形状に形成され,前記溶着部は凸形状の前記未加工部分に形成されることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法。
前記ワイヤ電極の姿勢を前記傾斜状態に設定するには,前記ワイヤ電極を繰り出す上ヘッドを前記工作物に形成した加工軌跡に沿って下ヘッドに対して相対的に後退させることによって前記ワイヤ電極を傾斜させることができることを特徴とする請求項6に記載のワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法。
前記垂直加工面に沿う前記溶着加工において,前記ワイヤ電極の前記工作物の前記上下面に対する傾斜角を前記溶着加工の進展に従って増大させるため,前記ワイヤ電極を繰り出す上ヘッドに対して下ヘッドを相対的に前進させることによって,前記ワイヤ電極の前記傾斜角を変化させつつ前記垂直加工面に沿って前記溶着部を形成することを特徴とする請求項6に記載のワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法。
前記加工面に形成される前記溶着部は,前記工作物の荒加工した前記加工面の長手方向に沿って1箇所又は複数箇所であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,工作物を予め決められた加工形状に放電加工する場合に,工作物から加工部材を落下させないため,工作物の加工形状を切り残して,後で加工部材を工作物から切り落としたり,加工部材の回収装置を必要とし,工作物から中子等の加工部材を分離させる手間が加工時間として長くかかり,ワイヤ放電加工機の稼働率を低下させるという問題があった。そこで,本出願人は,上記の問題点を解決するため,定性的に長間隙の放電現象が絶縁体(気体)中に金属電極を配置した絶縁破壊を生じさせると,コロナ放電に始まり,火花放電,次いでアーク放電の現象を通って絶縁破壊が終了することに着目し,これらの現象の「電圧−電流の特性」を適正に制御して,火花放電で放電加工を行ってワイヤ電極と工作物との間でアーク放電でアーク溶接(プラズマ溶接)を行って,加工部材を工作物に所定の箇所で溶着させ,加工部材を工作物に一時的に保持させるという発明を開発し,先に特許出願した。即ち,本出願人は,ワイヤ電極を用いて工作物から切り抜き物の加工部材を放電加工し,ワイヤ放電加工時に工作物に加工部材を一時的に溶着させて保持するという技術的思想を開発し,先に特許出願した(例えば,特開2012−166332号公報参照)。
【0007】
ところで,上記の工作物切り残し加工方法,即ち加工部材溶着方法では,加工形状の一部に工作物と加工部材とを溶着サイクルで溶着させるという加工方法であるが,加工部材(中子)が工作物の上部の一部のみで溶着されるという現象であるので,例えば,工作物を厚さ方向に複数枚重ねて放電加工をして所定の箇所を溶着加工した場合には,下方に位置する工作物から放電加工された加工部材は溶着されておらず,落下したり,或いは工作物が厚く,加工部材の重量が大きい場合には,溶着部の強度が加工部材の重量を支えられずに加工部材が落下するという問題があった。上記工作物切り残し加工方法において,上記の加工部材が落下するという問題を避けるため,工作物に加工部材を工作物の厚さ方向のいずれの箇所,例えば,厚さ方向の下部や中間部,又は工作物の厚さ方向の複数箇所,また,複数枚重ねの下方に位置する加工部材の領域において,加工部材を工作物に溶着することができないかの課題があった。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,本出願人に係る先願発明の加工部材溶着方法においては,工作物の上面及びその近傍で工作物から放電加工されて分離される中子等の加工部材が工作物に溶着されていたことを考慮して,加工部材の工作物への溶着現象が発生するのはワイヤ電極の工作物への進入側の工作物の上面及びその近傍であることに着眼し,工作物に予め荒加工で加工面を形成しておき,該加工面に沿って工作物の厚さ方向の予め決められた領域で所定の長さにわたって又は厚さ方向に複数箇所で加工部材を工作物に溶着させて溶着部を形成させ,該溶着部で加工部材を工作物に一時的に保持させ,また,複数枚重ねの工作物の放電加工においても下方に位置する加工部材を工作物に確実に溶着させ,加工部材の工作物からの落下を防止することを特徴とするワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,ワイヤ電極と該ワイヤ電極に対向する工作物との間に極間電圧を印加して発生する放電エネルギーによって前記工作物を放電加工して前記工作物から加工部材を分離さ
せる放電加工
を行う際に,前記加工部材の予め決められた箇所で前記ワイヤ電極と前記工作物との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更して前記ワイヤ電極の一部を溶融させて前記加工部材を前記工作物に溶着部で溶着させて前記加工部材を前記工作物に保持させることから成るワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,
前記加工部材を前記工作物に溶着する予め決められた所定の位置で前記電気加工条件を前記加工サイクルにして前記工作物の加工形状に沿って前記工作物の厚さ方向に荒加工の放電加工を行って前記工作物に加工面を形成し,次いで,前記ワイヤ電極の姿勢を前記荒加工された前記工作物の厚さ方向の前記加工面に対して傾斜させ,前記電気加工条件を前記加工サイクルから前記溶着サイクルに切り換えて前記工作物に前記加工面に沿って溶着加工を行って,前記ワイヤ電極の前記工作物の進入側の前記加工面に沿って前記加工部材を前記工作物に溶着する前記溶着部を前記工作物の厚さ方向の前記加工面に沿って予め決められた領域で所定の長さにわたって形成し,前記溶着部によって前記加工部材を前記工作物に保持させることを特徴とするワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法に関する。ここで,本願発明では,ワイヤ電極及び工作物に対して用いている技術用語である「垂直」は,平板状の工作物の上下面に対して,90°(直角)である垂直及び90°近傍の略垂直やほぼ垂直及び実質的に垂直を含むことを意図しており,また,ワイヤ電極及び工作物に対して用いている技術用語である「傾斜」は,平板状の工作物の上下面に対して実質的に傾斜していることを意図したものとする。
【0010】
また,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,前記工作物を荒加工した前記加工面は,前記ワイヤ電極を前記工作物の上下面に対して傾斜させつつ又は傾斜状態にして前記工作物を荒加工した傾斜加工面であり,
前記傾斜加工面に沿う前記溶着加工は,前記ワイヤ電極を前記傾斜加工面から前記工作物の上下面に対して実質的に垂直状態に変更して前記傾斜加工面の下部から上部へと前記傾斜加工面に沿って行い,前記溶着部は,前記ワイヤ電極の進入側である前記傾斜加工面に沿って予め決められた領域で所定の長さにわたって形成されるものである。
【0011】
また,前
記溶着部は,前記傾斜加工面の下部側から上部側に向って前記工作物の厚さ方向の予め決められた所定の箇所で所定の長さに形成されるものである。
【0012】
また,前記工作物に放電加工された前記傾斜加工面は,前記工作物に形成される加工形状に沿って上ヘッドを下ヘッドに先行させて前記ワイヤ電極を傾斜状態にして放電加工することによって形成されている。また,前記工作物に放電加工された前記傾斜加工面は,互いに交差して前記工作物に形成され,前記工作物の中央部の未加工部分が凸形状に形成され,前記溶着部は凸形状の前記未加工部分に形成されるものである。
【0013】
また,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,前記工作物に荒加工された前記加工面は,前記ワイヤ電極を前記工作物の上下面に対して実質的に垂直状態にして前記工作物を荒加工した実質的な垂直加工面であり,また,前記垂直加工面に沿う前記溶着加工は,前記ワイヤ電極を前記工作物の上下面に対して傾斜状態にして前記垂直加工面の下部から上部へと前記垂直加工面に沿って行い,前記溶着部は,前記ワイヤ電極の進入側である前記垂直加工面に沿って予め決められた領域で所定の長さにわたって形成されるものである。
【0014】
また,前記ワイヤ電極の姿勢を前記傾斜状態に設定するには,前記ワイヤ電極を繰り出す上ヘッドを前記工作物に形成した加工軌跡に沿って下ヘッドに対して相対的に後退させることによって前記ワイヤ電極を傾斜させることができるものである。
【0015】
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法は,前記垂直加工面に沿う前記溶着加工において,前記ワイヤ電極の前記工作物の前記上下面に対する傾斜角を前記溶着加工の進展に従って増大させるため,前記ワイヤ電極を繰り出す上ヘッドに対して下ヘッドを相対的に前進させることによって,前記ワイヤ電極の前記傾斜角を変化させつつ前記垂直加工面に沿って前記溶着部を形成するものである。
【0016】
また,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,前記加工面に形成される前記溶着部は,前記工作物の荒加工した前記加工面の長手方向に沿って1箇所又は複数箇所である。また,前記工作物は厚さ方向に複数枚積層して放電加工されており,前記溶着部
を少なくとも
,最下方に位置する前記工作物と
最下方に位置する前記加工部材と
の間に形成して,前記溶着部によって前記加工部材が前記工作物に保持されるものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法は,上記のように構成されているので,工作物の放電加工を行うべき加工形状の放電部位において,ワイヤ電極の工作物の進入側の実質的な傾斜加工面又は実質的な垂直加工面が仮の上面加工面となってワイヤ電極の進入側になっており,工作物の厚さ方向の予め決められた領域で所定の長さの溶着部を1以上の箇所に形成することができ,加工部材が重いものを放電加工する場合又は工作物を複数枚重ねて放電加工する場合でも,それに応じて工作物の厚さ方向に予め決められた領域で所定の長さ,或いは複数箇所に加工部材を工作物に溶着して溶着部を形成し,ワイヤ放電加工時に加工部材を工作物に一時的に保持させることができる。
即ち,工作物に加工形状の放電部位に予め仮の上面となる傾斜面や垂直面を荒加工で形成し,仮の上面に対してワイヤ電極を相対的に傾斜させて溶着工程を行えば,前記加工部材を前記工作物に溶着する溶着部は,前記ワイヤ電極の進入側の前記工作物の仮の上面に沿って形成されることになる。例えば,上ヘッドを下ヘッドに先行させて移動させると,ワイヤ電極を傾斜させることができ,その傾斜状態のワイヤ電極で工作物を放電加工して荒加工すれば,工作物への荒加工が傾斜方向に傾斜加工面として形成され,次いで,上ヘッドを下ヘッドの位置へと後退させてワイヤ電極が工作物の上下面に対して実質的に垂直状態に変更され,言い換えれば,ワイヤ電極で傾斜加工面に対して傾斜状態になり,溶着サイクルを行えば,予め決められた箇所で所定の長さで,場合によっては複数箇所で溶着部が傾斜加工面に沿って形成され,該溶着部で加工部材が工作物に溶着されて一時的に保持されることになる。
又は,上ヘッドを下ヘッドと垂直方向に位置させてワイヤ電極を実質的に垂直状態にさせて,その垂直状態のワイヤ電極で工作物を放電加工して荒加工すれば,工作物への荒加工が厚さ方向である垂直方向に垂直加工面として形成され,次いで,上ヘッドを下ヘッドに対して後退させてワイヤ電極を傾斜させてワイヤ電極を垂直加工面に対して傾斜状態に変更し,ワイヤ電極を繰り出し,工作物のワイヤ電極の進入側になる垂直加工面の下部から溶着工程を行えば,溶着部が垂直加工面の下部から垂直加工面に沿って垂直に延びるように厚さ方向に所定の長さで所定の箇所,或いは複数箇所に形成され,該溶着部で加工部材が工作物に溶着されて一時的に保持される。
また,工作物に対して荒加工と溶着加工とを複数回にわたって順次変更することによって,工作物の厚さ方向に加工部材を保持する溶着部を複数箇所に形成し,加工部材を工作物に複数箇所で適正に保持させることができる。
更に,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法では,工作物と加工部材との溶着工程が終了すれば,工作物の加工形状の放電加工が終了していなければ,工作物の加工形状に従って引き続き,電気加工条件を溶着サイクルから加工サイクルに切り換えて工作物に対して放電加工をすればよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成できるワイヤ放電加工機を示す説明図である。
【
図2】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成するための基本回路を示す電気回路図である。
【
図3】
図2の電気回路において,スイッチS1及びスイッチS2のON・OFF制御による上側に電圧波形と下側に電流波形とを示す波形図であり,(A)は
図2の基本回路による通常加工である加工サイクルの電圧電流波形を示し,また,(B)は
図2の基本回路による工作物と加工部材とを溶着させる溶着サイクルの電圧電流波形を示している。
【
図4】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成するための基本的な技術的思想を具現する電気回路を示す電気回路図である。
【
図5】
図4の電気回路において,スイッチS1,スイッチS2及びスイッチS3のON・OFF制御による上側に電圧波形と下側に電流波形とを示す波形図であり,(A)は
図4の電気回路による通常加工である加工サイクルの電圧電流波形を示し,また,(B)は
図4の電気回路による工作物と加工部材とを溶着させる溶着サイクルの電圧電流波形を示している。
【
図6】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成するための具体的な電気回路の一実施例を示す電気回路図である。
【
図7】このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法における工作物と加工部材との関係を示し,(A)は工作物をスタートホールから四角形の加工形状に加工して加工部材を2箇所で溶着した状態を示し,(B)は(A)での工作物の放電加工の加工軌跡を点線で示した誇張した拡大斜視図である。
【
図8】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,工作物と加工部材との溶着部を破壊する耐静荷重の結果を示すグラフである。
【
図9】この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法の概略を説明する平面図である。
【
図10】このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法において,ワイヤ電極を工作物の上下面に対して実質的に垂直状態にして工作物を荒加工した状態を示す説明図である。
【
図11】
図9の符号C部分を拡大した状態を示す平面図である。
【
図12】ワイヤ電極による工作物を傾斜状態に荒加工した傾斜加工面を示す断面図である。
【
図13】工作物に対して実質的に垂直に荒加工した垂直加工面にワイヤ電極を実質的に垂直にして溶着サイクルを行って工作物の上部に溶着部を形成した状態を示す断面図である。
【
図14】ワイヤ電極を工作物の上下面に対して実質的に垂直状態にして工作物の傾斜加工面に沿って溶着サイクルを行って工作物の下部に溶着部を形成した状態を示す断面図である。
【
図15】ワイヤ電極を実質的に垂直状態にして工作物の傾斜加工面の予め決められた領域に沿って溶着サイクルを行って工作物の下部に溶着部を複数箇所に形成した状態を示す断面図である。
【
図16】ワイヤ電極を傾斜状態にして工作物に交差した傾斜加工面を形成し,次いでワイヤ電極を実質的に垂直状態に変更して工作物の未加工の凸領域に溶着サイクルを行って工作物の中央部に溶着部を形成した状態を示す断面図である。
【
図17】ワイヤ電極を実質的に垂直状態にして工作物に垂直加工面を形成し,次いで,ワイヤ電極を傾斜状態にして工作物の下部から溶着サイクルを行って,工作物の上下面に対して実質的に垂直な溶着部を形成した状態を示す断面図である。
【
図18】ワイヤ電極を傾斜状態にして工作物の実質的な垂直加工面の予め決められた領域に沿って溶着サイクルを行って工作物の下部及び中央部に溶着部を複数箇所に形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,
図1を参照して,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成するためのワイヤ放電加工機について説明する。
このワイヤ放電加工機は,概して,機械本体15に取り付けられ且つワイヤ電極5を巻き上げているソースボビン7,ソースボビン7から送り出されるワイヤ送り系でのワイヤ電極5の方向を転換する複数の方向転換ローラ8,ワイヤ電極5が良好に繰り出されるようにワイヤ電極5にブレーキをかけるブレーキローラ9,送り出されるワイヤ電極5にテンションを付与するテンションローラ12,ワイヤ電極5を供給パイプ13へとガイドするガイドローラ32等を備えている。ワイヤ電極5は,ワイヤ供給系における方向転換ローラ8,ガイドローラ32を通過して,本体ヘッド1に設けられた一対のアニールローラであるワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極送りユニット24に支持された供給パイプ13内を通って一対のコモンローラ11を通過した後に,そこで,ワイヤ電極5は一対のワイヤ供給ローラ10と一対のコモンローラ11とで挟持され,それらの間で給電子18(
図2,
図4)を通じて加工電源からの電流がワイヤ供給ローラ10,ワイヤ電極5,及びコモンローラ11に通電され,ワイヤ供給ローラ10とコモンローラ11との間のワイヤ電極5がアニールされて曲がり等の癖取りされ,次いで,ワイヤ電極5のアニールされていない先端部がカッタ14で切断して排除され,ワイヤ電極5を真っ直ぐな状態にする。その後,アニールされたワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の送り出しに従ってワイヤ電極送りユニット24である供給パイプホルダに支持された供給パイプ13の降下に従って供給パイプ13にガイドされて上ヘッド2へと達して挿通される。また,放電加工される工作物6は,加工槽等に設けられたワークテーブル23にクランプ25で固定されている(
図9)。
【0020】
また,アニールローラ10とコモンローラ11との間には,ワイヤ電極5の先端を良好にする時,ワイヤ電極5の断線時,アニール処理時等に,ワイヤ電極5の先端部を切断するためのカッタ14が設けられていると共に,カッタ14で切断されたワイヤ電極5を廃棄するための廃ワイヤクランプ(図示せず)が設けられている。カッタ14は,カッタユニットを作動することでワイヤ電極5を切断するように構成されている。ワイヤ電極5の結線時は,供給パイプ13を通ったワイヤ電極5は,ワイヤ供給ローラ10の低速回転によって,まず,上ヘッド2に供給され,上ヘッド2を通過して工作物6のスタートホールや加工軌跡の孔19に挿通された後に,上ヘッド2の下方に対向した下ヘッド4に受け取られ,ワイヤ電極5が下ヘッド4を通過した後には,ワイヤ供給ローラ10は高速回転に切り換えられ,下ヘッド4から繰り出されたワイヤ電極5は,下アーム3に設けられた方向転換ローラからワイヤガイドパイプ37,ワイヤガイドパイプ37の出口に設けた水分離部,及び水分離部の下流に設置された巻き取りローラ35を順次通過して,巻き取りローラ35で引き出され,更に,巻き取りローラ35の後流に設けた吸引装置等によって吸引され,最後に廃ワイヤホッパ36に回収される。また,ブレーキローラ9には,回転数を検出するためのエンコーダ16が設けられている。センサ17は,ワイヤ電極5の撓み,曲がり,挿通状態等を検出するため,本体ヘッド1の下部の支持体(図示せず)に取り付けられている。
【0021】
このワイヤ放電加工機では,工作物6の材質は,例えば,鉄系材料又は超硬材料である。また,ワイヤ電極5の材質は,例えば,タングステン系,銅合金系(黄銅系),ピアノ線系等の金属材料であり,更に,それらを芯材として表面を被覆した金属材料,例えば,芯材が銅合金系以外では銅合金の被覆層,芯材が銅合金系では亜鉛等の被覆層の材料で作製されている。この実施例では,工作物6は,特に,
図7に示すように平らなプレート状の形状であり,複数のスタートホール,加工軌跡等の孔19に挿通された後に,ワイヤ電極5には給電子18より電流が供給され,ワイヤ電極5と工作物6との間に電圧を印加して工作物6の放電加工が行われるが,その時,プレート,中子等の加工部材である加工部材26が発生する。また,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2から工作物6を通って下ヘッド4へと順次挿通する途中で,ワイヤ電極5の先端が上ヘッド2,工作物6,下ヘッド4等の何らかの障害物に当接し,ワイヤ電極5が撓んだり屈折して曲がると,センサ17がその状態を検出することができる。ワイヤ電極5の撓みの検出は,ワイヤ供給ローラ10と供給パイプホルダのホルダ上部,即ち,センサ17との間に電圧が印加されているので,ワイヤ電極5の撓みはセンサ17に接触することによって検出される。ワイヤ供給ローラ10には,給電子を通して給電され,ワイヤ供給ローラ10が閉じてワイヤ電極5を挟持した状態で,ワイヤ電極5に電圧が印加されるので,センサ17によってワイヤ電極5の当接状態が検出される。
【0022】
このワイヤ放電加工機を用いたワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法は,工作物6から所定の加工形状21の加工部材26を切り離すものであるが,加工部材26をワイヤ電極5の一部を溶融させて工作物6に加工軌跡上の溶着部20で溶着させて一時保持するものである。ここで,溶融されるワイヤ電極5の一部は,ワイヤ電極5の予め決められた長さのワイヤ周囲部であり,ワイヤ電極溶融物で加工部材26を工作物6に溶着させる時に,ワイヤ電極5は断線することなく,ワイヤ電極5の供給状態が維持されるものである。この加工部材溶着方法では,ワイヤ電極5中に銅合金系を含んでいることが工作物6と加工部材26との溶着が良好に行われる。この加工部材溶着方法は,本体ヘッド1に設けられたワイヤ供給ローラ10で機械本体15に設けられたソースボビン7から送り出されるワイヤ電極5を挟持し,ワイヤ供給ローラ10を駆動してワイヤ電極5を供給パイプ13を通じて上ヘッド2,上ヘッド2の下方に取り付けられる工作物6,及び工作物6の下方で上ヘッド2に対向して配置された下ヘッド4へ供給し,次いで,ワイヤ電極5を下ヘッド4の下方に配設されたガイド部材を経て巻き取りローラ35で引き出して廃棄することから成る。また,この加工部材溶着方法は,工作物6の予め決められた加工形状21の少なくとも一箇所において,ワイヤ電極5と工作物6との間に印加する電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更し,ワイヤ電極5の一部を溶融させて工作物6と加工部材26とを予め決められた所定の位置の溶着部20で溶着させ,溶着部20で加工部材26を工作物6に保持し,工作物6から加工部材26が脱落するのを防止するものである。
図7に示すように,工作物6と加工部材26との溶着部20は対向位置で2箇所に存在するので,加工部材26は工作物6にバランスよく保持されることに成る。また,この加工部材溶着方法は,加工部材26と工作物6とをワイヤ電極5の一部を溶融させて溶着させる工程において,ワイヤ電極5が断線した時には,ワイヤ電極5をワイヤ電極断線点での加工スリット22に供給し,次いで,工作物5と加工部材26とを溶着させたり,又はワイヤ電極5により工作物6の放電加工を行う加工工程を引き続き行うことができるように構成されている。また,加工部材26は,場合によっては,製品になったり,又は不必要なスクラップになったりするものである。
【0023】
この加工部材溶着方法において,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに変更するため,ワイヤ電極5に流す電流(A)は,
図3及び
図5に示すように,工作物6をワイヤ放電加工する電流に比較して,高電圧負荷HVからワイヤ電極5に流す電流ピークを,例えば,約1/4倍程度に低くし,ワイヤ電極5と工作物6との極間に印加する電圧(V)を,例えば,約1/4倍程度に低くし,更に,ワイヤ電極5に流す電流のパルスを,例えば,約2倍程度に長くし,加工放電からアーク放電に移行させて,ワイヤ電極5によるアーク溶接によって加工部材26を工作物6に溶着部20で溶着させるものである。また,溶着サイクルにおける加工条件は,工作物6を切断しながら同時に工作物6と加工部材26との対向部分の一部分を溶着部20として溶着させるものである。ここで,対向部分の一部分とは,工作物6と加工部材26とが向かい合った部分の一部分である。また,工作物6と加工部材26との溶着部20は,エッジ部(
図7では上部のみ)での存在であるので,僅かの外力で破壊できる程度であるので,工作物6の放電加工終了後に,溶着部20を外力で破壊して加工部材26を工作物6から容易に切り離す。また,工作物6と加工部材26との溶着部20は,弱い外力で破壊できるが,工作物6と加工部材26との溶着部20の破壊耐静荷重は,
図8に示すようになっている。
【0024】
次に,
図2及び
図3を参照して,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての基本的な原理を説明する。特に,本出願人に係る特許出願である特開2012−166332号公報に開示された加工サイクルと溶着サイクルと同様であるので,ここでは簡単に説明する。
図2に示す電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して極間状況確認用の抵抗付き低電圧負荷LVと第1スイッチS1が直列に結線された第1回路,及び放電加工用の高電圧負荷HVと第2スイッチS2が直列に結線された第2回路が並列に結線されている。第1回路は,主としてワイヤ電極5と工作物6との間の極間状況を確認する回路であって,工作物6を放電加工するのに工作物6とワイヤ電極5とが適正な位置関係にあるか否かを検出する手段であり,抵抗Rは第1回路を流れる電流を調整する機能を有している。従って,スイッチS1は,タイミング的には工作物6の放電加工の前にON・OFF制御されるものである。また,第2回路は,放電加工用であり,工作物6を放電加工する場合には,大電流を短い時間で流す必要があり,抵抗等は組み込まれていない回路である。
次に,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての加工サイクル及び溶着サイクルについて説明する。
図3の(A)に示す通常加工である加工サイクルでは,第1スイッチS1をONしてパルスを発生させると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に,例えば,低電圧負荷LVの80V程度が2μsec程度発生してワイヤ電極5と工作物6との極間状況が適正な位置であるか否かを確認し,極間状況が適正であれば,そこで極間で放電が開始する。次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONし,パルスを発生させると,ワイヤ電極5に,例えば,400A程度の電流を0.8μsec程度流して,ワイヤ電極5と工作物6との極間に高電圧負荷HVから240V程度が印加され,ワイヤ電極5で工作物6が放電加工されることになる。
また,
図3の(B)に示す工作物6と加工部材26との溶着サイクルでは,第1スイッチS1をONしてパルスを発生させると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に,例えば,低電圧負荷LVの80V程度が2μsec程度発生してワイヤ電極5と工作物6との極間状況が適正な位置であるか否かを確認し,極間状況が適正であれば,そこで放電が開始する。次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONし,パルスを発生させると,ワイヤ電極5に,例えば,110A程度の電流が3μsec程度流れて,ワイヤ電極5と工作物6との極間に高電圧負荷HVから加工時の約1/4の70V程度が印加され,アーク放電となってワイヤ電極5が溶融されて,加工部材26が工作物6にワイヤ電極溶融物で溶着される。
【0025】
次に,
図4及び
図5を参照して,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての技術的思想の基本的な構成について説明する。この加工部材溶着方法を達成する基本的な電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,極間状況確認用の抵抗R付き低電圧負荷LVと第1スイッチS1とが直列に結線された第1回路,放電加工用の高電圧負荷と第2スイッチS2とが直列に結線された第2回路,及び第1ダイオードD1と第3スイッチS3とが直列に結線された第3回路を,それぞれ並列に結線されたものである。この電気回路において,加工サイクルから溶着サイクルへの電気加工条件の変更は,第1スイッチS1,第2スイッチS2,及び第3スイッチS3のON・OFF制御によって実行されるものである。
図5では,第1スイッチS1,第2スイッチS2,第3スイッチS3,電圧波形(V),及び電流波形(A)について,具体的に数値を記載しているが,これらの数値は理解し易くするための例示であり,また,電圧波形(V)及び電流波形(A)についても,例示の波形であることは勿論である。即ち,第1スイッチS1をONする時間は,ワイヤ電極5と工作物6との極間状態(例えば,加工電源,ワイヤ電極5の材質,線径等の条件,及び工作物6の材質,厚さ等の条件で変化するパラメータ)で決まるものであり,加工条件等で決まらずに不定であって,数μsec,数十μsec程度であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では例示として,2μsecを記載している。また,第2スイッチS2をONする時間は,加工条件(パラメータ入力)で決めるON時間であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では,例示として,0.8μsecを記載している。更に,
図5の(B)における電流波形の電流の流れる時間及び電圧波形の印加時間は,加工条件等で決められずに不定であるが,下記の加工サイクル及び溶着サイクルでの説明では,例示として,3μsecを記載している。
【0026】
この加工部材溶着方法では,基本的な構成について,工作物6に対するワイヤ電極5による加工サイクルは,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを付勢し,次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONして高電圧負荷HVを付勢する制御によって実行されるものである。また,工作物6と加工部材26との溶着サイクルは,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,第3スイッチS3のONを持続して,第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを付勢し,次いで,第1スイッチS1をOFFして第2スイッチS2をONして高電圧負荷HVを付勢し,最後に,第2スイッチS2をOFFする制御によって実行されるものである。ここで,工作物6に対するワイヤ電極5による加工サイクルの電圧電流波形から工作物6と加工部材26との溶着サイクルの電圧電流波形に電気加工条件を切り換えることにより,第2スイッチS2を一定時間後にOFFにするが,第3スイッチS3がONしているため,工作物6とワイヤ電極5との極間に第1ダイオードD1 及び第3スイッチS3を通る循環電流が流れ,パルス幅の長い電流を生成でき,放電状態がアーク放電となり,ワイヤ電極5の一部が工作物6と加工部材26との間に溶着され,結果として工作物6と加工部材26とが溶着される。
【0027】
この加工部材溶着方法における加工サイクル及び溶着サイクルの詳細については,特に,本出願人に係る特許出願である特開2012−166332号公報に開示しており,これと同様な加工サイクルと溶着サイクルであるので,ここでは簡単に説明する。
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法における加工サイクルの一例を,
図4及び
図5の(A)を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを,ある時間,例えば,2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第2スイッチS2をONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加されて電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工が行われる。
第3工程:ワイヤ電極5と工作物6との極間の放電時間は,工作物6の加工条件で決められているが,例えば,0.8μsec程度が放電される。
第4工程:一旦,第1スイッチS1,第2スイッチS2,及び第3スイッチS3をOFFして,ワイヤ電極5と工作物6との極間に掛かる電圧を無負荷として,休止時間をとる。ワイヤ電極5による工作物6の加工形状21の加工時は,上記のサイクルを125k〜2000kHzの周期で繰り返すことによって達成される。
また,この加工部材溶着方法における溶着サイクルの一例を,
図4及び
図5の(B)を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを所定時間,例えば2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第2スイッチS2をONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加された電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工を行う。
第3工程:加工サイクルである通常サイクルから溶着サイクルに切り換える時に,第2スイッチS2のONを一定時間経過後にOFFにするが,第3スイッチS3がONしているため,工作物6とワイヤ電極5との間に循環電流が流れ,パルス幅の長い電流を生成でき,この時,ワイヤ電極5が溶融して工作物6と加工部材26とに溶着し,結果として工作物6に加工部材26が溶着する。
第4工程:循環電流が流れきったところで,第3スイッチS3がOFFして休止時間を取ることになる。
【0028】
この加工部材溶着方法における加工サイクルの別の例を,
図6を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを所定時間,例えば2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第1スイッチS1をOFFし,第4スイッチS4と第5スイッチS5とをONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加されて電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工が行われる。
第3工程:第4スイッチS4と第5スイッチS5とをON状態に持続し,ワイヤ電極5と工作物6との極間の放電時間は,工作物6の加工条件で決められているが,例えば,0.8μsec程度が放電される。
第4工程:第5スイッチS5をON状態に持続し,第4スイッチS4をOFFにした後,サブμsecだけ第5スイッチ5をONして高電圧負荷HVの付勢状態を解放し,電流波形を台形に近づける。
第5工程:一旦,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5をOFFして,ワイヤ電極5と工作物6との極間に掛かる電圧を無負荷として,休止時間をとる。ワイヤ電極5による工作物6の加工形状21の加工時は,上記のサイクルを125k〜2000kHzの周期で繰り返すことによって達成される。
【0029】
また,この加工部材溶着方法における溶着サイクルの別の例を,
図6を参照して説明すると,次のとおりである。
第1工程:第1スイッチS1をONして低電圧負荷LVを,ある時間,例えば,
2μsec程度が経過すると,ワイヤ電極5と工作物6との極間に放電が開始する。
第2工程:第4スイッチS4と第5スイッチS5をONして,電圧降下をトリッガーとして高電圧負荷HVが印加された電流が上昇し,ワイヤ電極5による工作物6の放電加工を行う。
第3工程:第4スイッチS4と第5スイッチS5をON状態を持続して,放電時間は加工条件で決め,例えば,0.8μsec程度だけ放置する。
第4工程:第4スイッチS4を一定時間後OFFにするが,第5スイッチS5がONしているため,ワイヤ電極5と工作物6との極間に循環電流が流れ,高電圧負荷HVの付勢が解放され,パルス幅の長い電流が生成できるため,この時,工作物6と加工部材26との間にアーク溶接が発生して両者が溶着される。
第5工程:循環電流が流れきったところで,第5スイッチS5がOFFして休止時間を取ることになる。
【0030】
次に,
図6を参照して,このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法についての具体的な電気回路図について説明する。なお,ここでは,
図6の電気回路図について,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって発生する電圧波形及び電流波形の図面については省略することとする。
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を達成する具体的な電気回路は,ワイヤ電極5と工作物6との極間に対して,極間状況確認用の抵抗付き低電圧負荷と第1スイッチS1とが直列に結線された第1回路,放電加工用の高電圧負荷と第4スイッチS4と第5スイッチS5とが直列に結線された第2回路,第2ダイオードD2と第5スイッチS5とが直列に結線された第3回路,及び第3ダイオードD3と第4スイッチS4とが直列に結線された第4回路を,それぞれ並列に結線したものである。この電気回路において,第4スイッチS4及び第5スイッチS5をONすれば,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して高電圧負荷HVを付勢することができる。
また,加工サイクルから溶着サイクルへの電気加工条件の変更は,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって実行されるものである。第5スイッチS5がONの時,第4スイッチS4をOFFした後には,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して第2ダイオードD2と第5スイッチS5とを通る第1循環電流が流れる。また,第4スイッチS4がONの時,第5スイッチS5をOFFした後には,ワイヤ電極5と工作物6との間の極間に対して第3ダイオードD3と第4スイッチS4とを通る第2循環電流が流れる。即ち,この電気回路では,第1スイッチS1,第4スイッチS4,及び第5スイッチS5のON・OFF制御によって,第1循環電流と第2循環電流とが交互に流れることになる。この発明によるワイヤ放電加工における工作物切り残し加工方法は,ダイオードD2及びダイオードD3を組み込んだ具体的な電気回路を用いて行えば,2つの循環電流を発生させるので,放電加工の電流波形が台形状に近くなり,交互に循環電流を発生させることによってスイッチングによる発熱の問題を緩和することができる。このワイヤ放電加工における工作物切り残し加工方法は,循環電流を利用して工作物6と加工部材26とを溶着させるため,工作物6の放電加工に比較して,電流波形をゆっくり下げることができる。なお,第4スイッチS4と第5スイッチS5とは,ON,OFFタイミングは,逆でもよいことは勿論である。
【0031】
このワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法について,工作物6に対して金型製造時として,パンチ加工を行なう場合と,ダイプレート加工を行なう場合とについて説明する。ここで,この工作物切り残し加工方法における加工サイクル,及び溶着サイクルの詳細については,本出願人に係る特許出願である特開2012−166332号公報に開示されているので,必要に応じて参照できるので,ここでは説明を省略する。ところで,ワイヤ放電加工機におけるパンチ加工では,工作物6から所定の形状の加工部材26を切り出す場合であって加工部材30が製品としての素材になるものであって,スタートホール19は,加工部材26以外の工作物6に穿孔されているか,又はその場所に新たに穿孔する。これに対して,ダイプレート加工は,工作物6に所定の形状の加工部材26を切り抜き加工し,切り抜かれた加工部材26を中子と呼んで不用品になり,切り抜かれた工作物6が製品としての素材になるものであって,スタートホール19は中子である加工部材26に穿孔されているか,又はその場所に新たに穿孔する。
【0032】
次に,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法の実施例について,特に,
図9〜
図18を参照して,具体的な各実施例としてダイプレート加工を説明する。以下において記載されているワイヤ電極5及び工作物6に対して用いている技術用語である「垂直」は,本願発明では,平板状の工作物6の上下面33,34に対して,90°(直角)である垂直及び90°近傍の略垂直,ほぼ垂直及び実質的に垂直を含むことを意図したものである。また,ワイヤ電極5及び工作物6に対して用いている技術用語である「傾斜」は,平板状の工作物6の上下面33,34に対して実質的に傾斜していることを意図したものである。
【0033】
図9には,上ヘッド2と下ヘッド4との間に配設されたワークテーブル23上に工作物6が設置され,工作物6がワークテーブル23にクランプ25で固定されている。工作物6は,板材の2枚重ねであり,点線で示す加工形状21に沿って放電加工される。工作物6は,スタートホールの孔19から実線で示す加工軌跡27のように放電加工され,加工軌跡27の先端にワイヤ電極5が位置している。ここで,ワイヤ電極5は,加工部材26を工作物6に溶着するべき位置に到達しており,工作物6の傾斜加工面30が形成されることになる。
【0034】
また,
図10には,工作物6に放電加工された実質的に垂直加工面29は,上ヘッド2と下ヘッド4とが工作物6の厚さ方向,即ち,上面33と下面34に対して実質的に垂直方向に延びており,ワイヤ電極5は,工作物6の厚さ方向に実質的に垂直に延びた状態であり,進行方向Pに相対的に進んで工作物6を放電加工している。工作物6のPS領域が既に放電加工された放電加工後の加工軌跡27の面を示す領域であり,RS領域がまだ放電加工されていない未加工の領域を示している。ワイヤ電極5は,工作物6を工作物6の上下面33,34に対して実質的に垂直に延びて放電加工が進行している。また,上ヘッド2と下ヘッド4からは,工作物6に対する加工は,矢印のように水流Wが噴出されている状態である。
【0035】
更に,
図11には,
図9の二点鎖線で示す符号C領域の拡大図が示されている。ワイヤ電極5は,
図10に示すように工作物6の上下面に垂直に延びて工作物6の予め決められた加工形状21に沿って所定の距離にわたって工作物6を放電加工し,そこで,工作物6と加工部材26とを溶着するべき領域の前に位置する状態が示されている。次いで,ワイヤ電極5は,工作物6を傾斜加工して傾斜加工面30を形成することになる。特に,
図12には,工作物6に傾斜加工面30を形成するため,下ヘッド4に対して上ヘッド2を加工形状21に沿って進行方向に突出させてワイヤ電極5を傾斜させて工作物6を放電加工して,その時,例えば,下ヘッド4は上ヘッド2に対して相対的に静止状態であってワイヤ電極5を受け取っている。ワイヤ放電加工機において,電気加工条件を加工サイクルにして工作物6に対して所定の傾斜方向に延びるワイヤ電極5によって工作物6に荒加工の放電加工を行い,予め決められた距離だけ上ヘッド2が下ヘッド4に対して前進すると,工作物6には傾斜加工面30が形成されることになる。
【0036】
図13には,溶着工程の基本的な実施例が示されている。ワイヤ電極5が工作物6の上下面33,34に対して実質的に垂直な状態で,ワイヤ放電加工機の電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて加工部材26を工作物6に溶着して溶着部20が形成された状態が示されている。即ち,工作物6に対して溶着工程を行えば,溶着部20は工作物6の上面33から僅かな深さに形成され,その下は加工で切り離されている状態である。従って,
図13に示すワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法は,工作物6の厚さ方向の中央部,下部等の複数箇所に溶着部を形成することができない。
【0037】
図14には,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を示す実施例が示されている。工作物6には,ワイヤ電極5により予め決められた所定の角度αに荒加工されて傾斜加工面30の加工面が形成される。ワイヤ電極5は,
図12に示す傾斜姿勢から
図14に示す工作物6の上下面33,34に対して実質的に垂直な姿勢に変更され,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換え,工作物6に対して溶着工程が行われるものである。この場合に,工作物6に形成された傾斜加工面30そのものが,ワイヤ電極5の進入側の工作物6の仮の傾斜上面31となるので,ワイヤ電極5を傾斜上面31の下端から溶着工程を行えば,傾斜加工面30に沿って下から上に向って加工部材26が工作物6に溶着して溶着部20が形成されることになる。
【0038】
図15には,この発明によるワイヤ放電加工時における加工部材溶着方法を説明するための図である。工作物6には,ワイヤ電極5により予め決められた所定の角度αに荒加工されて傾斜加工面30が形成されている。工作物6の傾斜加工面30の最初の位置P1から中間のP2の位置までの領域は加工部材26を工作物6に溶着させた領域であって,位置P1で電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて,工作物6に対して溶着工程を行う。次いで,P2の位置からP3の位置では工作物6を放電加工する領域であって位置P2で電気加工条件を溶着サイクルから加工サイクルに切り換えて,工作物6に対して放電加工を行えば,工作物6は加工形状21に従って放電加工される。次いで,位置P3で電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて,工作物6に対して溶着工程を行う状態になっている。従って,ワイヤ電極5は,位置P3から再び工作物6の傾斜加工面30に沿って溶着サイクルとなって加工部材26を工作物6に溶着させることになる。
【0039】
図16には,工作物6に放電加工された傾斜加工面30は,上ヘッド2を下ヘッド4に対して進めた状態と引っ込めた状態とで工作物6に対して2箇所放電加工されて,工作物6の上下面33,34に対して傾斜角度α,βを成す互いに交差する傾斜加工面30が形成されている。ワイヤ電極5は,
図16に点線で示す傾斜姿勢から工作物6の上下面33,34に対して実線で示す実質的に垂直な姿勢に変更され,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換え,工作物6の中央部が凸状になった位置から交差する仮の傾斜上面31に沿って工作物6に対して溶着工程が行われるものである。工作物6の中央部の未加工部分が凸形状になり,交差する仮の傾斜上面31に沿って加工部材26が工作物6に溶着されて,溶着部20が凸形状の部分に形成されるものである。即ち,上ヘッド2と下ヘッド4とを工作物6の上下面33,34に対してワイヤ電極5を垂直に延ばして,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて,工作物6に対して溶着工程を行って溶着部20を形成する。
【0040】
図17には,ワイヤ電極5を上ヘッド2を下ヘッド4に対して工作物6の上下面33,34に実質的に垂直状態になる位置に設定して,工作物6を上下面33,34に垂直方向に荒加工の放電加工をし,工作物6に垂直加工面29を形成する。垂直加工面29は,工作物6の加工を行う場合には,工作物6の仮の垂直上面28になる。そこで,下ヘッド4を上ヘッド2に対して相対的に進めるように作動させることで,ワイヤ電極5を傾斜させつつ,又は上ヘッド2を下ヘッド4に対して相対的に後退させることで,ワイヤ電極を傾斜状態に設定して,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて,工作物6に対してその下面34側から溶着工程を行う。この時に,工作物6について,ワイヤ電極6の進入側の垂直上面28が垂直加工面29になり,垂直加工面29の下部側から垂直加工面29に沿って工作物6の厚さ方向に溶着部20が下から上へと形成されることになる。具体的には,ワイヤ放電加工機におけるワイヤ電極5の傾斜角度が変化して溶着サイクルを行う場合や,又はワイヤ電極5の傾斜角度が一定で溶着サイクルを行う場合があるが,ワイヤ放電加工機では,ワークテーブル23が動くX−Y軸と上ヘッド2が動くU−V軸とによって,ワイヤ電極5の工作物6に対して所望な相対運動は,適正に制御されるように構成されている。
【0041】
更に,
図18には,
図17と同様に,ワイヤ電極5を上ヘッド2を下ヘッド4に対して工作物6の上下面33,34に垂直状態になる位置に設定して,工作物6を上下面33,34に垂直方向に荒加工の放電加工を行い,工作物6に垂直加工面29を形成して,工作物6に加工を行う場合の仮の垂直上面28を形成する。そこで,下ヘッド4を上ヘッド2に対して相対的に進めることで,ワイヤ電極5を傾斜させつつ,又は上ヘッド2を下ヘッド4に対して相対的に後退させることでワイヤ電極5を傾斜状態に設定して,電気加工条件を加工サイクルから溶着サイクルに切り換えて,工作物6に対してその下面34側から溶着工程を行う。この時に,工作物6について,ワイヤ電極6の進入側の垂直上面28が垂直加工面29になり,垂直加工面29の下部側から垂直加工面29に沿って工作物6の厚さ方向に溶着部20が下から上へと形成され,途中で電気加工条件を溶着サイクルから加工サイクルに切り換えて工作物6を放電加工し,再び溶着サイクルに切り換えて加工を行えば,垂直加工面29に沿って複数箇所に溶着部20を形成することができる。即ち,工作物6に対して溶着サイクル即ち溶着工程と加工サイクル即ち放電加工とを順次行えば,工作物6の厚さ方向に下から数箇所(
図18では2箇所)の溶着部20を形成することができる。