【実施例】
【0028】
図5は、本発明の多施設統合文書管理システムの全体構成の内、一施設内の構成を示す。施設毎に、その施設を利用している利用者のIDを管理する施設毎利用者ID管理手段がある。病院であれば、入院患者リストや外来患者リストであり、施設では、入所者リスト、訪問系サービスでは、訪問先リストなどである。各リストは、利用しやすいように、部屋番号順、五十音順、ID番号順等々がある。
【0029】
前記施設毎利用者ID管理手段において、利用者IDは、従来のように個々の施設毎に定義しても良いが、その場合、施設間で利用者IDの対応表を作成管理するなどして、他の施設の利用者IDと同一人物であることを、施設間で、紐づけて管理する必要がある(施設間利用者ID紐づけ手段)。他方、現在検討されている(仮称)医療IDであれば、全国共通の固有番号であるので、全ての施設とも共通となる。従って、前記施設間利用者ID紐づけ手段が不要となるので、最も好ましい。次善の策としては、同一法人内の各施設で共通の利用者IDを用いることとし、法人外の施設に関して、前記の施設間利用者ID紐づけ手段を用いて利用者IDを紐づけることとなる。
【0030】
また、各施設には、個々の施設で提供されているサービスに応じて、施設毎の文書カテゴリーと、文書カテゴリー毎の項目建て(書式定義)がある。この文書カテゴリー名のリストと、文書カテゴリー毎の項目建ての情報を、施設毎文書カテゴリー管理手段で記録し管理している。指定された文書カテゴリーの文書は、前記文書カテゴリー毎の項目建ての情報に基づいて作成、編集される。作成、編集された文書は、当該文書カテゴリーの施設毎文書カテゴリー毎記録手段によって記録される。
【0031】
各施設において、スタッフの所属や職種によって、作成、編集できる文書カテゴリー、参照のみできる文書カテゴリー、参照も許さない文書カテゴリーなど、文書カテゴリー毎のアクセス権限の組合せが異なっている。施設毎文書カテゴリー毎アクセス権限管理手段において、
図4に示すような管理テーブルを作成し、スタッフ毎、文書カテゴリー毎に、アクセス権限を管理している。ここでは、作成、編集、参照もできる○、参照のみ可能な△、一切参照できない×、で表示している。例えば当該施設に勤務している医師は、医師関連記事文書、医療上の作業指示文書や処方箋(オーダー文書)の作成、編集、参照が可能であるが、他職種である看護師や介護士の記事は参照しかできない。なお、たとえ医師であっても、勤務していない施設の医師記事やオーダー文書に関しては、当該施設の許可(アクセス権限付与)があれば、許可された範囲の文書カテゴリーに関して参照は可能であるが、文書の作成や編集は不可である。
【0032】
端末からスタッフIDとパスワードあるいは生体認証等を入力することにより、スタッフの認証が得られる(スタッフログイン認証手段)。スタッフの認証が得られれば、前記施設毎文書カテゴリー毎アクセス権限管理手段によって、当該スタッフの文書カテゴリー毎のアクセス権限が明確になる。当該スタッフが指定した文書カテゴリーの作成、編集、或は参照のアクセス要求に対して、権限があれば当該アクセスを許可し、無ければ拒絶する。
ここでは説明の便宜上、施設毎利用者ID管理手段、施設間利用者ID紐づけ手段、施設毎文書カテゴリー管理手段、施設毎文書カテゴリー毎記録手段、施設毎文書カテゴリー毎アクセス権限管理手段、スタッフログイン認証手段は、施設内にあるサーバーなどに実装されているとしているが、状況に応じて、その一部ないし全部を中央サーバーに集約し、インターネットなどの通信回線で接続しても良い。中央サーバーにおいて、各施設システムの実装は物理サーバーごとに別々に割り当てても、同一物理サーバーを論理的に分割した仮想サーバーとしても良い。さらには、サーバー実体を保有せず、クラウドサービスをSaaSの形態で利用しても良い。
【0033】
医療や介護の施設は、施設毎に従業員名簿などの形で、スタッフのリストを管理している。スタッフの行った医療や介護の行為、情報収集や計画立案も含めて、全ての記録は、施設毎に管理されている。 患者は、病期に応じて、急性期病院、回復期病院、介護施設、在宅などへ移動してゆく。医療や介護に関して作成される文書は、患者の移動先(主たる施設)において作成、編集、削除され、保存、管理されなければならない。当該患者の医療や介護に従事するスタッフは、前記主たる施設において文書を作成、編集、削除する権限を有し、その権限下に文書を作成、編集、削除する必要がある。
【0034】
患者の移動先(次の「主たる施設」)が決まっている場合、移動後の未来日付の医療、介護に関する文書の作成は、現在の主たる施設ではなく、移動先である次の主たる施設において作成しなければならない。このような理由から、現在はもちろん未来の主たる施設において文書を作成、編集、削除などを行うには、スタッフログイン認証手段に際し、主たる施設を併せて指定し、当該施設における文書を作成、編集、削除する権限の認証を受けるようにすれば良い。
【0035】
スタッフログイン認証は、主たる施設に対して直接行うだけでなく、一旦主たる施設にログインした状態から、必要な別の主たる施設に追加ログイン認証を受けても良い。もし、スタッフのIDとパスワードが同一なら、前記追加ログイン認証は自動的に行われるが、セキュリティが少し甘くなる可能性があるので、運用ポリシーによっては、同一スタッフであっても、主たる施設毎にスタッフIDやパスワードを異なるものにしても良い。当該主たる施設におけるスタッフログイン認証が行われたならば、
図4にしたがって文書カテゴリー毎のアクセス権限が付与される。
【0036】
文書を作成、編集、削除する際に、主たる施設をその都度指定し、必要に応じて当該施設のスタッフログイン認証を行っても良い。しかし、現在、さらには移動先の主たる施設のその都度のログイン作業は、場合によっては煩雑なことも多い。これを避けるため、利用者ごとに、現在、必要に応じて未来日付の主たる施設を管理するテーブルを作成しておくと、利用者IDと文書を作成、編集、削除したい日付を指定すれば、該当する主たる施設を特定できる。当該の主たる施設のスタッフログイン認証が未だ得られてなければ、追加のスタッフログイン認証を行うことで、スムーズな文書の作成、編集、削除が可能となる。
【0037】
従来は、サービスを提供する場としての施設(例えば、病院、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど)と、そこでサービスを提供するスタッフは一体のものであった。従って、施設の中で作成される文書は、全て当該施設のスタッフが作成していた。このため、スタッフへの文書カテゴリー毎のアクセス権限付与は
図1に示すように比較的単純であった。
しかし現在は、高齢者要介護者の増加に伴い、有料老人ホームや自宅で訪問診療、訪問看護、訪問介護などの在宅サービスを受ける人が増加してきた。これらの在宅サービスは、在宅支援クリニック、訪問看護ステーション、訪問介護ステーションなど、有料老人ホームや自宅などの場としての施設とは別個のサービス提供機関に所属するスタッフが提供する。これらのサービス提供機関は、複数の場としての施設にサービスを提供している。サービス提供に伴い作成された文書は、一義的には当該サービス提供機関に管理義務があるが、併せて、複数のサービスを受ける利用者ごと、施設ごとに、提供されている複数のサービスで作成された文書群を通覧できることが必要である。
【0038】
他方、前述のように、在宅などの施設では、複数の施設のスタッフが常時出入りし、医療や介護を行っているが、スタッフの視点から見ると、複数の施設での作業に関与していることになる。例えば医師の場合、ある病院の常勤医師であり、患者の自宅に往診に行くと同時に、別の在宅専門クリニックの非常勤医であり、当該クリニックから介護施設に訪問診療に行くなどがある。
このように、地域包括ケアを行うにあたっての文書アクセスの権限管理は、従来のやり方では、極めて複雑なものとなり、混乱や個人情報漏洩などの事故につながりやすい。
【0039】
図2は、サービスを提供する場としての施設と、各施設で作成される文書カテゴリーを樹状構造で示したものである(文書カテゴリー樹状配置表現手段)。樹状構造のデータは、本発明では、XMLタグの入れ子構造で作成しているが、同じ樹状構造が表現できれば、XMLに限定されるものではない。文書カテゴリーが多数に上る際は、
図9に示すように、同様の扱いとなる文書カテゴリーをまとめて「医師記事系」や「医師オーダー系」などのように、サブカテゴリーを設けても良い。
【0040】
図3は、サービスを提供する機関と、各サービス提供機関に所属するスタッフを樹状構造で示したものである(スタッフ樹状配置表現手段)。樹状構造のデータは、同様にXMLタグの入れ子構造で作成しているが、同じ樹状構造が表現できれば、XMLに限定されるものではない。所属スタッフが多数に上る際は、同様の扱いとなる職種のスタッフをまとめて「医師」や「看護師」、「介護士」などのように、サブカテゴリーを設けても良い。
【0041】
図6、
図7では、
図2で示した文書カテゴリーの樹状構造と、
図3で示したサービス提供機関所属スタッフの樹状構造の両樹状配置表現を、相互に対応させる両樹状配置表現対応設定手段の例を示す。
図6の左下のアクセス権限設定モード△は、対応設定が、参照のみ可能の設定を行うことを示す。OO法人の全スタッフは、法人傘下の全施設の文書参照を可能とする設定を行うには、サービス機関所属スタッフの樹状構造でOO法人のオブジェクトを、文書カテゴリーの樹状構造のOO法人のオブジェクト上にドラグ&ドロップすればよい。樹状構造の上位(根方向)にドロップされたアクセス可能権限属性は、樹状構造の下位(葉方向)に継承される(両樹状配置表現対応設定手段の一例)。
【0042】
続いて、
図7で左下のアクセス権限設定モードを○に変え、サービス提供機関ごとに所属する「医師」のサブカテゴリーオブジェクトを、サービスの提供先の施設の「医師記事」、「医師オーダー」のサブカテゴリーオブジェクトにドラグ&ドロップすることで、医師の前記文書サブカテゴリーのアクセス権限として、当初の△が○で上書きされ、作成、編集、削除権限が割り当てわれることになる。当該医師が勤務しておらず、サービス提供を行っていない施設では、アクセス権限は、当初の△のままである。同様にして、看護師はサービス提供先の施設の看護記事系、介護士はサービス提供先の施設の介護記事系に○を割り当ててゆく。
【0043】
OO法人からA病院訪問診療とC訪問看護ステーション、介護については法人外のF訪問介護ステーションが訪問している患者有村自宅については、まず、△のアクセス権限設定モードで、OO法人のA病院訪問診療部、訪問看護ステーション、ならびに法人外のF訪問介護ステーションの各オブジェクトを、患者有村自宅オブジェクトにドラグ&ドロップする。これで、患者有村自宅に関する文書は、OO法人のA病院訪問診療部、C訪問看護ステーション、ならびに法人外のF訪問介護ステーションのスタッフ間で参照可能となる。次いでアクセス権限設定モードを○に変え、OO法人のA病院訪問診療部、C訪問看護ステーション、ならびに法人外のF訪問介護ステーションの各オブジェクトを、それぞれ患者有村自宅の医師記事および医師オーダー、看護記事系、介護記事系のオブジェクト上にそれぞれドラグ&ドロップすれば、職種に対応した文書の作成、編集、削除権限が得られる。どのスタッフにどのようなアクセス権限を与えるかは、運用上の方針で任意に設定できる。
【0044】
例えば、極秘を要する患者の文書に関しては、特別の任務を与えられたスタッフを除き、一切参照できなくしたりするなども可能である。この際は、文書カテゴリーの樹状構造で、特別室に関しては別個の施設として分離したオブジェクトを作成し、すべての文書カテゴリーを枝葉に展開する。アクセス権限設定モードをXにして、一旦すべてのスタッフに全ての文書カテゴリーについてアクセス不可とした上で、各々の特定スタッフについて、特別室の文書全体に対して参照を可能とし(△モード)、次いで、職種に応じて文書カテゴリーに作成、編集、削除を付与してゆく(○モード)ことで可能となる。逆に、監査を担当する特定スタッフに関しては、通常では与えられていない施設文書の参照権限を与えることも可能である。
【0045】
前記の樹状配置表現によるアクセス権限管理手段において、樹状配置表現のままで、アクセス要求に応じて、その都度、アクセス可能権限属性の継承を利用して、当該スタッフの当該文書カテゴリーへのアクセス権限を認証しても良いが、計算量が多く、時間がかかる。これを防ぐためには、両樹状配置表現対応設定手段を実行するたびに、
図4に示すような、スタッフ毎に文書カテゴリー毎アクセス権限を一覧するアクセス権限管理テーブルを更新しておけば、アクセス要求に際して、前記アクセス権限管理テーブルを参照することで、迅速にアクセスの可否を判断できる。なお、場合によっては、両樹状配置表現対応設定手段による設定が完了した後、一気に前記アクセス権限管理テーブルを更新しても良い。また、アクセス権限テーブルは、前記のスタッフ毎文書カテゴリー毎アクセス権限一覧のみならず、文書カテゴリー毎にアクセス可能スタッフ一覧とすることも可能である。両者を適宜併用しても良い。
【0046】
ここでは、両樹状配置表現対応設定手段の例として、スタッフオブジェクトの文書カテゴリーオブジェクトへのドラグ&ドロップで実現しているが、逆に、文書カテゴリーオブジェクトをスタッフオブジェクトの上にドラグ&ドロップしても良い。また、操作性は劣るが、オブジェクト操作を用いずに、ファンクションキーやプルダウンメニューなどのキーボード操作で同様に対応を設定しても良い。
【0047】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では病院や介護施設を例として説明したが、それに限らず、企業や組織が、プロジェクトの進行に必要な指示書や記録文書へのアクセスの可否を管理する多施設間アクセス権限管理システムを備えて、それを企業や組織間で運用することも可能である。