【文献】
C.Deng, G.Rong, H.Tian, Z.Tang, X.Chen, X.Jing,Synthesis and characterization of poly(ethylene glucol)-b-poly(L-lactide)-b-poly(L-glutamic acid) triblock copolymer,Polymer,2005年 1月26日,Vol.46, No.3,653-659
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凍結乾燥用添加剤が、ラクトース、マンニトール、スクロース、トレハロース、フルクトース、グルコース、アルギン酸ナトリウム及びゼラチンのうちの少なくとも一種であることを特徴とする、請求項2に記載のミセル状薬物内包システム。
前記抗腫瘍薬が、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、ラロタキセル、クルクミン、ドキソルビシン及びエピルビシンのうちの少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のミセル状薬物内包システム。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、先行技術における上記問題に対処するための両親媒性ブロック共重合体を提供することである。安全性が認められたメトキシポリエチレングリコール(又はポリエチレングリコール)−ポリエステルブロック共重合体が、本発明の両親媒性ブロック共重合体の基本材料として使用され、大きな空間構造を持つ疎水基、例えば、t−ブトキシカルボニル基、フェニルを有するアミノ酸又はその誘導体の導入によりポリエステルセグメントの末端ヒドロキシル基が疎水基で修飾され、そのため、薬物分子とブロック共重合体の疎水性セグメントとの相溶性が向上しており、その間の相互作用が増強されている。大きな空間構造を持つ疎水基の導入は、薬物分子がミセルコアに入り込むためのより大きな空間を提供する。従って、薬物がミセルコアから溶け出すことはより困難であり、そのため、安定性の高い薬物内包ミセルが得られる。本発明の最も重要な意義は、ミセルの溶液中での安定性、とりわけ、in vivoでの安定性を向上させてミセルのEPR効果を確実なものとし、薬物のより良好な生物学的利用率及び治療効果を実現することにある。
【0011】
本発明の技術的解決法は、以下の通り提供される。
【0012】
両親媒性ブロック共重合体であって、その親水性セグメントが400〜20000の範囲の数平均分子量を持つポリエチレングリコール(PEG)又はメトキシポリエチレングリコール(mPEG)であり;その疎水性セグメントがポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカーボナート(PTMC)及びその誘導体、並びにポリジオキサノン(PPDO)及びその誘導体からなる群から選択され、各々が500〜100000の範囲の数平均分子量を有し、t−ブチルアシル、t−ブチルアセチル、アミノ酸残基及びアミノ酸誘導体残基からなる群から選択される疎水基で末端キャップされていることを特徴とする、上記両親媒性ブロック共重合体。
【0013】
好適な実施形態においては、前記アミノ酸誘導体が、好ましくはγ−ベンジルグルタミン酸、β−ベンジルアスパラギン酸及びアミノ保護アミノ酸誘導体から選択される。
【0014】
好適な実施形態においては、前記アミノ酸誘導体が更に好ましくはベンジル又はt−ブトキシカルボニル(Boc)で保護されたアミノ酸から選択される。
【0015】
好適な実施形態においては、前記アミノ酸誘導体が、好ましくはt−ブトキシカルボニルフェニルアラニンである。
【0016】
本発明においては、前記疎水性セグメントが、好ましくはポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA),ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカーボナート(PTMC)及びその誘導体、並びにポリジオキサノン(PPDO)及びその誘導体からなる群から選択され、各々が1,000〜50,000の範囲の数平均分子量を有し;前記親水性セグメントが、好ましくは数平均分子量が750〜5,000の範囲のポリエチレングリコール及びメトキシポリエチレングリコールから選択される。
【0017】
本発明のもう一つの目的は、前記両親媒性ブロック共重合体を調製する方法を提供することである。
【0018】
本発明によって提供される技術的解決法は、以下の通り記載される。
前記両親媒性ブロック共重合体を調製する方法は、以下のステップを含む:
1)数平均分子量が400〜20000の範囲の親水性セグメントを重合用フラスコに添加し;100℃〜130℃に加熱して真空下で2時間〜4時間脱水し;次いで、疎水性セグメントのモノマーと、触媒として前記モノマーの0.3‰〜1‰の重量のオクタン酸第一スズを添加し;フラスコを真空下で密封して上記反応物質との反応を100℃〜150℃で12時間〜24時間行い;次いで、ジクロロメタン、エタノール、テトラヒドロフラン、メタノール、酢酸エチル又はアセトンに溶解させ;ジエチルエーテルを添加して重合体を完全に沈殿させた後、ろ過及び真空下の乾燥によりポリエチレングリコール(PEG)又はメトキシポリエチレングリコール(mPEG)である親水性セグメントと疎水性セグメントとで構成されるブロック共重合体を得るステップ;
2)親水性セグメントと疎水性セグメントとで構成されるブロック共重合体を酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、酢酸エチル又は再蒸留水に溶解させ;次いで、t−ブチルアシル、t−ブチルアセチル、アミノ酸残基又はアミノ酸誘導体残基を添加して末端ヒドロキシル基を疎水基に変換するための反応を行い;ろ過して不溶性物質を除去し、十分な量のジエチルエーテルを添加して重合体を沈殿させ;ろ過及び真空下での乾燥により目的の共重合体を得るステップ。
【0019】
本発明のもう一つの目的は、前記両親媒性ブロック共重合体と抗腫瘍薬とによって形成されたミセル状薬物内包システムを提供することである。
【0020】
本発明の技術的解決法は、以下の通り提供される。
前記両親媒性ブロック共重合体と抗腫瘍薬とで形成されたミセル状薬物内包システムであって、前記両親媒性ブロック共重合体の少なくとも一種、治療有効量の抗腫瘍薬の少なくとも一種、及び薬学的に許容される医薬助剤を含む上記ミセル状薬物内包システム。
【0021】
好適な実施形態においては、前記医薬助剤が凍結乾燥用添加剤である。
【0022】
好適な実施形態においては、前記凍結乾燥用添加剤が、ラクトース、マンニトール、スクロース、トレハロース、フルクトース、グルコース、アルギン酸ナトリウム及びゼラチンのうちの少なくとも一種である。
【0023】
前記医薬助剤は、酸化防止剤、金属イオン錯化剤、pH調節剤又は等張性調節剤等を更に含み;前記酸化防止剤が亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム又はメタ重亜硫酸ナトリウム等であり;前記金属イオン錯化剤がエデト酸2ナトリウム、エデト酸カルシウム2ナトリウム又はシクロヘキシレンジアミン四酢酸ナトリウム等であり;前記pH調節剤がクエン酸、重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウム等であり;前記等張性調節剤が塩化ナトリウム又はグルコース等である。
【0024】
好適な実施形態においては、前記抗腫瘍薬が、パクリタキセル(PTX)、ドセタキセル(DTX)、カバジタキセル及びラロタキセルを含むタキサン、クルクミン、ドキソルビシン、エピルビシン等の少なくとも一種である。
【0025】
好適な実施形態においては、両親媒性ブロック共重合体の薬物に対する重量比が99.5:0.5〜50:50の範囲、好ましくは99:1〜75:25の範囲である。
【0026】
好適な実施形態においては、前記凍結乾燥用添加剤が、重量で全システムの0〜99.9%、好ましくは10.0%〜80.0%を占める。
【0027】
本発明における抗腫瘍薬−重合体ミセル状製剤は、好ましくは、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、腸がん、肺がん、肝臓がん、頭部及び頸部がん等からなる群から選択されるがんの治療に使用できる。
【0028】
本発明において言及する治療有効量とは、前記ミセル状薬物内包システム(drug−loading system)に含有されている、がん(特に、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、腸がん、肺がん、肝臓がん、頭部及び頸部がん等)の治療に有効な抗腫瘍薬の量を意味する。
【0029】
本発明のミセル状薬物内包システムは注射によって投与してもよく、一般的には凍結乾燥粉末として調製される。加えて、当業者は、投与用量を既存の抗腫瘍薬の用量を参照することにより判断し、個々の条件に応じて調節してもよい。
【0030】
本発明は、透析法、直接溶解法、フィルム水和法、固体分散法及び高エネルギーホモ乳化法、好ましくはフィルム水和法及び固体分散法を含む、両親媒性ブロック共重合体と抗腫瘍薬とで形成された前記ミセル状薬物内包システムを調製する方法を更に提供する。
【0031】
前記フィルム水和法のステップは、重合体と薬物とを有機溶媒に溶解させるステップ;溶媒をロータリーエバポレーションによって除去するステップ;次いで、薬物内包ミセルの溶液を得るために注射用水を添加して薬物フィルムを溶解させるステップ;及びろ過滅菌及び凍結乾燥後にミセルの凍結乾燥粉末を得るステップを含む。
【0032】
前記固体分散法のステップは、薬物を溶融状態にある重合体に加熱しながら溶解させて澄明な混合物を得るステップ(このステップの間に溶解を助けるために少量の有機溶媒を添加してもよい);注射用水を添加して溶解させ、ミセルの溶液を得るステップ;及びろ過滅菌及び凍結乾燥後にミセルの凍結乾燥粉末を得るステップを含む。
【0033】
先行技術と比べ、本発明は以下の特徴を有する。
1)本発明においては、大抵の抗腫瘍薬の疎水性と大きな立体構造とを考慮し、ポリエステルセグメントの末端ヒドロキシル基を疎水基で修飾し、これにより薬物分子とブロック共重合体の疎水性セグメントとの相溶性を向上させ、その間の相互作用を増大させている。一方で、ミセルコア内の薬物分子を収容する空間を大きくし、薬物分子はミセルコア内に規制されており、溶解してミセルコアを出ることは難しい。従って、in vivo、in vitroの両方で安定性の高い一連の薬物内包ミセルが得られる。前記薬物内包ミセルは、凍結乾燥製剤として調製可能である。
2)本発明の両親媒性ブロック共重合体によって調製された抗腫瘍薬内包ミセルの凍結乾燥製剤は、還元後速やかに分散して(dispersed)青みがかったオパール色の澄明な溶液を形成することが実験で実証されている。溶液は室温で少なくとも24時間、明らかな薬物の沈殿も起こさず安定しており、注射後、in vivoで潜在的なEPR効果をもたらす。本発明は、産業上の利用への見通しが有望である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明のより深い理解のため、以下の実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、実施例は決して本発明を制限することを意図したものではない。
【0036】
(例1)両親媒性ブロック共重合体の調製
(1)t−ブチルアシルで末端キャップされたメトキシポリ(エチレングリコール)−ポリ(乳酸−co−グリコール酸)ブロック共重合体(mPEG
2000−PLGA
2000−TB)の合成
18.2gのmPEG(数平均分子量2,000)を重合用フラスコに添加し、100℃に加熱し、真空下で3時間脱水した。次いで、26mgのオクタン酸第一スズと、11.6gのグリコリド(GA)と、14.4gのD、L−ラクチド(D,L−LA)とを添加した。フラスコを真空下で密封し、130℃で15時間重合を行った。反応物質をジクロロメタンに溶解し、大量のジエチルエーテルを添加して重合体を完全に沈殿させた。ろ過及び真空下での乾燥後、mPEG
2000−PLGA
2000ブロック共重合体が得られた。
【0037】
4gのmPEG
2000−PLGA
2000を20mlのジクロロメタンに溶解させ、0.5gの炭酸カリウムを添加し、0.25gの塩化ピバロイルを撹拌下に添加した。室温で24時間反応を行った。不溶性物質をろ過によって除去した。大量のジエチルエーテルを添加して重合体を完全に沈殿させた。ろ過及び真空下での乾燥後、mPEG
2000−PLGA
2000−TBが得られた。
注記:TBはt−ブチルアシルの略語である。
【0038】
mPEG
2000−PLGA
2000−TBのゲル浸透クロマトグラムを
図1に示した。ただし、PDIは1.05である。
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMR装置を用いて重合体構造の特性を明らかにした。mPEG
2000−PLGA
2000−TBの
1H NMRデータは以下のように示された。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.56 ppm,(CH
3)
3C,CHCH
3O),δ (3.55-3.75ppm, 4H, CH
2CH
2O),δ (5.15-5.23ppm, 1H, CHCH
3O).
【0039】
(2)t−ブトキシカルボニルフェニルアラニン残基で末端キャップされたメトキシポリ(エチレングリコール)−ポリラクチドブロック共重合体(mPEG
2000−PLA
1800−BP)の合成
20gのmPEG(数平均分子量2,000)を重合用フラスコに添加し、120℃に加熱し、真空下で3時間脱水した。25mgのオクタン酸第一スズと、25gのD、L−ラクチド(D,L−LA)とを添加した。反応フラスコを真空下で密封した。重合を130℃で12時間行い、反応物質をエタノールに溶解した。大量のジエチルエーテルを添加して重合体を完全に沈殿させた。ろ過及び真空下での乾燥後、mPEG
2000−PLA
1800ブロック共重合体が得られた。
【0040】
6.65gのBoc−L−フェニルアラニンを50mlの無水酢酸エチルに溶解し、4.2mlのトリエチルアミンを添加した。上記溶液を−10℃に冷却し、3.66mlの塩化ピバロイルを添加した。撹拌下に0℃で2時間、次いで、室温で更に1時間、反応を行った。不溶性物質をろ過によって除去し、溶媒を真空下で除去して粘稠液を得た。
【0041】
25mlのジクロロメタンを溶解のために添加した。得られた溶液を、15gのmPEG
2000−PLA
1800を含有する75mlのジクロロメタン溶液に添加した。完全混合後、14mlのピリジンと160mgのテトラメチルアミノピリジンとを添加した。混合物を0℃で2時間、次いで、室温で更に24時間反応させた。ろ過及び溶媒の除去後、得られた重合体を100mlのエタノールに再溶解させ、−20℃で1時間冷却した。ろ過及び真空下での乾燥後、mPEG
2000−PLA
1800−BPが得られた。
注記:BPは、t−ブトキシカルボニルフェニルアラニン残基の略語である。
【0042】
mPEG
2000−PLA
1800−BPのゲル浸透クロマトグラムを
図2に示した。ただし、PDIは1.05である。
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMR装置を用いて重合体構造の特性評価を行った。mPEG
2000−PLA
1800−BPの
1H NMRスペクトルを
図3に示した。
1H NMRデータは以下の通りであった。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.38-1.41ppm, 9H, (CH
3)
3C,), δ (1.51-1.60ppm, 3H, CHCH
3O), δ(3.38ppm, 2H, CH
2C
6H
5), δ (3.63-3.70ppm, 4H, CH
2CH
2O), δ (4.60-4.66ppm, 1H, CHCH
2C
6H
5), δ (5.15-5.17ppm, 1H, CHCH
3O).
【0043】
(3)β−ベンジル−アスパラギン酸残基で末端キャップされたメトキシポリ(エチレングリコール)−ポリラクチドブロック共重合体(mPEG
2000−PLA
1800−Asp)の合成
mPEG
2000−PLA
1800の合成は、例1(2)と同じである。
【0044】
100mlの脱イオン水と100mlのジオキサンとを(混合溶媒として)22.3gのL−アスパラギン酸ベンジルに添加して撹拌し、次いで、30mlの4NのNaOHを添加し、ベンジルエステルが溶解するまで撹拌した。反応フラスコを氷浴で冷却し、温度を4℃未満に制御した。これとは別に、8.7mlの臭化ブロモアセチルを、35mlの精製ジオキサンと約25mlの4NのNaOHに溶解させた。激しい撹拌下、二つの溶液を二つの滴下漏斗を通じて同時に滴加した。pH値を8と9の間に制御した(添加には約30分かかった)。添加完了後、反応を5分間継続し、濃塩酸を用いてpH値を2に調節した。200mlのジエチルエーテルを抽出に用いた。混合物は、有機層に含有されていた。有機層を飽和NaCl溶液で5回洗浄した。最後に、乾燥のため有機層に無水硫酸マグネシウムを48時間添加した。真空下での濃縮によって黄色の粘稠油が得られ、ペトリ皿に入れ、25gのL−アスパラギン酸ブロモアセチルベンジルを結晶として得た。
【0045】
10gのmPEG
2000−PLA
1800を50mlのジクロロメタンに溶解させ、5mlのトリエチルアミンと2.5gのL−アスパラギン酸ブロモアセチルベンジルとを添加した。反応物質を室温で24時間撹拌し、ジエチルエーテルを用いて沈殿させ、真空下で乾燥すると、mPEG
2000−PLA
1800−Aspが得られた。
注記:Aspは、ベンジルアスパラギン酸残基の略語である。
【0046】
mPEG
2000−PLA
1800−Aspのゲル浸透クロマトグラムを
図4に示した。ただし、PDIは1.05である。
【0047】
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMRを用いて重合体構造の特性を明らかにした。mPEG
2000−PLA
1800−Aspの
1H NMRデータは以下の通りであった。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.51-1.60ppm, 3H, CHCH
3O),δ (2.90-3.15ppm, 2H, OCOCH
2),δ(3.63-3.70ppm, 4H, CH
2CH
2O),δ(5.13-5.15ppm, 2H, CH
2C
6H
5),δ (5.15-5.17ppm, 1H, CHCH
3O),δ(7.34ppm, 5H, C
6H
5).
【0048】
(4)チロシン残基で末端キャップされたメトキシルポリ(エチレングリコール)−ポリ(乳酸−co−グリコール酸)ブロック共重合体(mPEG
2000−PLGA
2000−TS)の合成
mPEG
2000−PLGA
2000の合成は、例1(1)と同じである。
【0049】
10gのmPEG
2000−PLGA
2000を200mlの再蒸留水に溶解させ、次いで、1.91gの1−エチル−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩と1.8gのチロシンとを添加した。室温で48時間反応を行った後、200mlのジクロロメタンを用いて生成物を3回抽出した。一体化した有機層を飽和塩水で5回洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ジエチルエーテルを用いて沈殿させた。真空下での乾燥後、mPEG
2000−PLGA
2000−TSが得られた。
注記:TSは、チロシン残基の略語である。
【0050】
mPEG
2000−PLGA
2000−TSのゲル浸透クロマトグラムを
図5に示した。ただし、PDIは1.05である。
【0051】
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMR装置を用いて重合体構造の特性を明らかにした。mPEG
2000−PLGA
2000−TSの
1H NMRデータは以下の通りであった。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.51-1.60ppm, 3H, CHCH
3O),δ (2.94-3.00ppm, 2H, CH
2C
6H
5),δ (3.63-3.70ppm, 4H, CH
2CH
2O),δ (5.15-5.17ppm, 1H, CHCH
3O),δ(6.74-6.93ppm, 5H, C
6H
5).
【0052】
(5)チロシン残基で末端キャップされたポリ(エチレングリコール)−ポリ(乳酸−co−グリコール酸)ブロック共重合体(PEG
2000−PLGA
2000−TS)の合成
PEG
2000−PLGA
2000の合成方法は、例1(1)に記載された通りである。
【0053】
10gのPEG
2000−PLGA
2000を200mlの再蒸留水に溶解させ、次いで、1.91gの1−エチル−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩と1.8gチロシンとを添加した。室温で48時間反応を行った後、200mlのジクロロメタンを用いて生成物を3回抽出した。一体化した有機相を飽和塩水で5回洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ジエチルエーテル中で沈殿させた。真空下での乾燥後、PEG
2000−PLGA
2000−TSが得られた。
注記:TSは、チロシン残基の略語である。
【0054】
PEG
2000−PLGA
2000−TSのゲル浸透クロマトグラムを
図6に示した。ただし、PDIは1.05である。
【0055】
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMRを用いて重合体構造の特性を明らかにした。PEG
2000−PLGA
2000−TSの
1H NMRデータは以下の通りであった。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.51-1.60ppm, 3H, CHCH
3O),δ (2.94-3.00ppm, 2H, CH
2C
6H
5),δ (3.63-3.70ppm, 4H, CH
2CH
2O),δ (5.15-5.17ppm, 1H, CHCH
3O),δ(6.74-6.93ppm, 5H, C
6H
5).
【0056】
(6)t−ブトキシカルボニルフェニルアラニン残基で末端キャップされたメトキシルポリ(エチレングリコール)−ポリカプロラクトンブロック共重合体(mPEG
5000−PCL
4000−BP)の合成
20gのmPEG(数平均分子量5,000)を重合用フラスコに添加し、130℃に加熱し、真空下で4時間脱水した。20mgのオクタン酸第一スズと20gのカプロラクトン(CL)とを添加した。反応フラスコを真空下で密封した後、上記反応物質を130℃で24時間反応させ、ジクロロメタンに溶解し、大量のジエチルエーテルの添加によって完全に沈殿させた。ろ過及び真空乾燥後、mPEG
5000−PCL
4000ブロック共重合体が得られた。
【0057】
6.65gのBoc−L−フェニルアラニンを50mlの無水酢酸エチルに溶解し、4.2mlのトリエチルアミンを添加した。上記溶液を−10℃に冷却し、3.66mlの塩化ピバロイルを添加した。撹拌下に0℃で2時間、次いで、室温で更に1時間、反応を行った。不溶性物質をろ過によって除去し、溶媒を真空下で除去して粘稠液を得た。
【0058】
25mlのジクロロメタンを溶解のために添加した。得られた溶液を、30gのmPEG
2000−PLA
1800を含有する150mlのジクロロメタン溶液に添加し、完全に混合した。14mlのピリジンと160mgのテトラメチルアミノピリジンとを添加した。混合物を0℃で2時間、次いで、室温で更に24時間反応させた。ろ過後、重合体溶液を−20℃のジエチルエーテル中で沈殿させ、真空下で乾燥させるとmPEG
5000−PCL
4000−BPが得られた。
注記:BPは、t−ブトキシカルボニルフェニルアラニン残基の略語である。
【0059】
mPEG
5000−PCL
4000−BPのゲル浸透クロマトグラムを
図7に示した。ただし、PDIは1.08である。
重水素化クロロホルムを溶媒として、400MBrukerNMRを用いて重合体構造の特性を明らかにした。mPEG
2000−PLA
1800−BPの
1H NMRスペクトルを
図8に示した。
1H NMRデータは以下の通りであった。
1H NMR (CDCl
3) δ (1.38-1.43ppm,9H,(CH
3)
3C,),δ (1.53-1.64ppm, 4H, CH
2CH
2CH
2),δ(2.34ppm, 2H, COCH
2CH
2),δ(3.63-3.70ppm, 4H, CH
2CH
2O),δ(4.06-4.15ppm, 2H, OCH
2CH
2).
【0060】
(例2)抗腫瘍薬内包高分子ミセルの凍結乾燥製剤の調製
(1)mPEG
5000−PCL
4000−BP/パクリタキセルミセル及びその凍結乾燥製剤の調製
例1において調製したmPEG
5000−PCL
4000−BPを150mgと、30mgのパクリタキセルとを2mlのテトラヒドロフランに溶解させた。5mlの超純水を撹拌下に滴加した。添加後、溶液を室温で一晩撹拌し、次いで、有機溶媒を除去して明らかな青オパール色のパクリタキセルミセルの澄明な溶液を得た。120mgのマンニトールを添加し、得られた溶液を0.22μmメンブレンフィルターに通して滅菌し、凍結乾燥してパクリタキセルミセルの凍結乾燥粉末を得た。LC−MS/MSによる分析により、パクリタキセルミセルの薬物被包効率(drug encapsulation efficiency)は98.6%であり、薬物内包効率は11.2%を超えていた。粒子径測定の結果を
図9に示した。ミセルの平均粒子径は33.8nmであり、多分散性指数(PDI)は0.1であった。
【0061】
凍結乾燥粉末を生理食塩水中で還元し、5mg/mLの溶液を得た。溶液は、7日よりも長く室温で安定を保った。これは、アセトキシル又はベンゾイルで末端キャップされた重合体のミセルの場合より有意に長かった。
【0062】
(2)mPEG
2000−PLA
1800−BP/ドセタキセルミセル及びその凍結乾燥製剤の調製
100mgのドセタキセルと例1において調製したmPEG
2000−PLA
1800−BP1.9gとを、25mlの無水エタノールに溶解させた。有機溶媒を45℃でロータリーエバポレーションによって除去し、25mlの生理食塩水を添加して薬物を含有する薄膜を溶解させた。400mgのラクトースを添加し、次いで、溶液を0.22μmメンブレンフィルターに通して滅菌し、凍結乾燥してドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末を得た。LC−MS/MS分析により、ミセルの薬物被包効率が95.8%であり、薬物内包効率が4.76%であることが示された。粒子径測定の結果を
図10に示した。平均粒子径は23.3nmであり、多分散性指数(PDI)は0.02であった。
【0063】
凍結乾燥粉末を生理食塩水中で還元して5mg/mLの溶液を得、室温で90日間保管した。溶液中に溶解しているドセタキセルの含有量は、90%を超えていた。
【0064】
(3)mPEG
2000−PLGA
2000−TB/カバジタキセルミセル及びその凍結乾燥製剤の調製
例1において調製したmPEG
2000−PLGA
2000−TBを1.9g、溶融するまで50℃に加熱した。100mgのカバジタキセルを溶融した重合体に撹拌下に添加して溶解させると、澄明で透明な混合物が得られた。次いで、25mlの50℃生理食塩水を添加して重合体/薬物の混合物を溶解させてミセル溶液を得た。400mgのスクロースを添加し、溶液を0.22μmメンブレンフィルターでろ過して滅菌し、凍結乾燥してカバジタキセルミセルの凍結乾燥粉末を得た。LC−MS/MS分析により、薬物被包効率が96.2%であり、薬物内包効率が4.82%を超えていることが示された。粒子径測定の結果を
図11に示した。平均粒子径は24.2nmであり、多分散性指数(PDI)は0.02であった。
【0065】
前記凍結乾燥粉末を生理食塩水中で還元して5mg/mLの溶液を得、室温で90日間保管した。溶液中に溶解したカバジタキセルの含有量は、90%を超えていた。
【0066】
(4)mPEG
2000−PLA
1800−BP/クルクミン及びその凍結乾燥製剤の調製
100mgのクルクミンと例1において調製したmPEG
2000−PLA
1800−BP1.9gとを、25mlの無水エタノールに溶解させた。50℃でロータリーエバポレーションにより有機溶媒を除去した。25mlの生理食塩水を添加して薬物を含有する薄膜を溶解させた。400mgのアルギン酸ナトリウムを添加し、溶液を0.22μmメンブレンフィルターに通して滅菌し、凍結乾燥してクルクミンミセルの凍結乾燥粉末を得た。LC−MS/MS分析により、薬物被包効率が98.9%であり、薬物内包効率が4.88%であることが示された。平均粒子径は15.3nmであり、多分散性指数(PDI)は0.02であった。
【0067】
前記凍結乾燥粉末を生理食塩水中で還元して5mg/mLの溶液を得、室温で7日間保管した。溶液に溶解しているクルクミンの含有量は、90%を超えていた。
【0068】
(5)mPEG
2000−PLGA
2000−TB/ドキソルビシン及びその凍結乾燥製剤の調製
例1において調製したmPEG
2000−PLGA
2000−TBを300mgと、40mgの塩酸ドキソルビシンとを40℃でクロロホルムに溶解させた。0.1mlのトリエチルアミンを添加し、室温で1時間撹拌した。有機溶媒をロータリーエバポレーションによって除去し、50mlの10mMのHBS緩衝液を添加して薬物を含有する薄膜を溶解させた。トリエチルアミン塩酸塩を透析又は限外ろ過によって除去し、次いで、250mgのゼラチンを添加した。溶液を0.22μmメンブレンフィルターに通して滅菌し、凍結乾燥してドキソルビシンミセルの凍結乾燥粉末を得た。LC−MS/MS分析により、薬物被包効率が94.7%であり、薬物内包効率が22.47%を超えていることが示された。平均粒子径は19.4nmであり、多分散性指数(PDI)は0.04であった。
【0069】
前記凍結乾燥粉末を生理食塩水中で還元して2mg/mLの溶液を得、室温で24時間保管した。溶液中に溶解したドキソルビシンの含有量は、90%を超えていた。
【0070】
(例3)安定性試験
(1)mPEG
2000−PLA
1800−BP/ドセタキセルミセルの安定性試験
mPEG
2000−PLA
1800−BP/ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末を還元し(ドセタキセル濃度:6mg/ml)、25℃の定温器で一定期間保管した。10,000rpmで10分間遠心分離した後、上清の薬物含有量をHPLCによって測定した。
【0071】
溶解状態での薬物の含有量の経時変化を
図12に示した。mPEG
2000−PLA
1800−BP/ドセタキセルミセルの溶液中に溶解した薬物の含有量は、最初の15日間にある程度減少した。その後、薬物の放出は、ずっと遅くなった。溶解状態での薬物の含有量は、90日にわたり90%を超えたままであった。
【0072】
(2)mPEG
2000−PLGA
2000−TB/カバジタキセルミセルの安定性試験
mPEG
2000−PLGA
2000−TB/カバジタキセルミセルの凍結乾燥粉末を還元し(カバジタキセル濃度:6mg/ml)、25℃の定温器で一定期間保管した。10,000rpmで10分間遠心分離した後、上清の薬物含有量をHPLCによって測定した。
【0073】
溶解状態での薬物の含有量の経時変化を
図13に示した。mPEG
2000−PLGA
2000−TB/カバジタキセルミセルの溶液中に溶解した薬物の含有量は、最初の3日間にある程度減少した。その後、薬物の放出は、ずっと遅くなった。溶解状態での薬物の含有量は、90日にわたり90%を超えたままであった。
【0074】
(例4)薬力学試験
(1)ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のヌードマウスにおけるヒト肺がんH460腫瘍に対する抑制
A.薬物及び試薬:
0.9%生理食塩水に溶解させた、例2において調製したものと同じShandong Target Drug Research Co.,Ltd.が供給するドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末
ドセタキセル注射液、チューブ一本当たり0.5ml:20mg、Qilu Pharmaceutical Co.,Ltd.製造
0.9%生理食塩水に溶解させた、Shandong Target Drug Research Co.,Ltd.が供給する溶媒対照(ブランクミセル、10mg/kg)
【0075】
B.実験動物:
BALB/c nuマウス、4〜6週齢、どちらかの性(腫瘍により、各試験で同性のものを使用)は、Beijing HFK Bioscience Co.,Ltd.、証明書番号:SCXK(Beijing)2009−0004から供給された。
【0076】
C.飼育施設:
Laboratory Animal Center,Institute of Materia Medica,Chinese Academy of Medical Sciencesのバリア飼育施設。登録番号:SYXK(Beijing)2009−0004;有効期間:2009年2月25日〜2014年2月25日。
【0077】
D.腫瘍細胞株:
ATCCからのヒト肺がんH460細胞を我々の実験室にてin vitroで培養し、ヌードマウスに接種して腫瘍を形成し、継代培養して保存した。
【0078】
E.試験方法
良好な状態にあり、十分に成長したH460腫瘍を持つ担腫瘍動物を選択し、頸椎脱臼によって屠殺した。滅菌状態下で腫瘍を摘出し、外科用メスで直径2〜3mmに細かく切断し、ヌードマウスの腋窩の皮下にトロカールを用いて接種した。接種から7〜8日後、担腫瘍マウスの腫瘍の平均体積は約110〜120mm
3であった。動物は腫瘍サイズに基づき、マウス8匹ずつの群にグループ分けした。
【0079】
陰性対照群、溶媒対照群、ドセタキセル注射液群(10mg/kg/回)、及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(ドセタキセル基準で10mg/kg/回)を設定した。ただし、陰性対照群の動物の腫瘍は自然に成長し、溶媒対照群に用いた溶媒は、ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群と同じ体積とした。ドセタキセル注射液は希釈してドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群と同じ体積とした。各群の動物には、同時に静脈注射した。
【0080】
グループ分けした日から、各群の動物には予定通り3日おきに、合計で3回静脈内投与した。陰性対照群の平均腫瘍体積が約2,000mm
3に達した時点で観察を終了した。
【0081】
実験統計及び評価方法:
(A)腫瘍体積計算式:V=a×b
2/2(式中、a及びbは、それぞれ長さ及び幅を表す)
(B)相対腫瘍体積(RTV)を式Vt/Voによって計算した(式中、Voはグループ分けの日に測定したTV、Vtはその後に測定したTVである)
TVは腫瘍体積を表す。
(C)相対腫瘍増殖速度(T/C(%))を、抗腫瘍活性を評価するための基準として使用し、以下の式によって計算した:
T/C(%)=治療群のRTV(T)/陰性対照群のRTV(C)×100
(D)薬物の腫瘍成長に対する抑制率を、以下の式によって計算した:
腫瘍抑制率(%)=(対照群の平均腫瘍重量−治療群の平均腫瘍重量)/対照群の平均腫瘍重量×100
(E)腫瘍重量、腫瘍体積、RTV及び他の基準に関する群間の差についての統計的有意性を、t−検定によって計算した。
(F)評価基準:T/C(%)>40を効果なしと判定し、T/C(%)≦40且つP<0.05を効果ありと判定した。
【0082】
F.結果及び結論:
ドセタキセル注射液群(10mg/kg/回)とドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(10mg/kg/回)のいずれも、ヌードマウスのH460腫瘍の成長に対して有意な抑制効果を示し、腫瘍体積は有意に減少した。ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(10mg/kg/回)では、腫瘍体積は投与期間中徐々に減少し、腫瘍体積は、ほぼ10日間、投与前の平均体積未満に維持された。ドセタキセル注射液群(10mg/kg/回)と比較すると、同じ用量で静脈内注射されたドセタキセルミセルの腫瘍に対する抑制効果は有意に向上し、腫瘍重量に対する抑制率は、前者の群では68.35%、後者の群では97.5%であり、相対腫瘍増殖速度は、前者の群では25.25%、後者の群では3.78%と、有効性が増強されたことを示唆している。
【0083】
ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のH460腫瘍に対する抑制効果を、
図14及び
図15に示した。
【0084】
ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のH460腫瘍に対する抑制率と、相対腫瘍増殖速度を、表1及び表2に示した。
【表1】
【表2】
【0085】
(2)ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のヌードマウスにおけるヒト乳がんMDA−MB−231腫瘍に対する抑制
A.薬物及び試薬:例4(1)に同じ。
【0088】
D.腫瘍細胞株:
ATCCから得たヒト乳がんMAD−MB−231細胞を我々の実験室にてin vitroで培養し、ヌードマウスに接種して腫瘍を形成し、継代培養して保存した。
【0089】
E.試験方法
良好な状態にあり、十分に成長したMDA−MB−231腫瘍を持つ担腫瘍動物を選択し、頸椎脱臼によって屠殺した。滅菌状態下で腫瘍を摘出し、外科用メスで直径2〜3mmに細かく切断し、ヌードマウスの腋窩の皮下にトロカールを用いて接種した。接種から11日後、担腫瘍マウスの腫瘍の平均体積は約110〜120mm
3であった。動物は腫瘍サイズに基づき、マウス8〜9匹ずつの群にグループ分けした。
【0090】
陰性対照群、溶媒対照群、ドセタキセル注射液群(10mg/kg/回)、及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(ドセタキセル基準で10mg/kg/回)を設定した。ただし、陰性対照群の動物の腫瘍は自然に成長し、溶媒対照群に用いた溶媒は、ドセタキセルミセル群(10mg/kg用量)と同じ体積とした。ドセタキセル注射液は希釈してドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群と同じ体積とした。各群の動物には、同時に静脈注射した。
【0091】
グループ分けした日から、各群の動物には予定通り3日おきに、合計で3回静脈内投与した。陰性対照群の平均腫瘍体積が約2,000mm
3に達した時点で観察を終了した。
【0092】
実験統計及び評価方法:
(A)腫瘍体積計算式:V=a×b
2/2(式中、a及びbは、それぞれ長さ及び幅を表す)
(B)相対腫瘍体積(RTV)を式Vt/Voによって計算した(式中、Voはグループ分けの日に測定したTV、Vtはその後に測定したTVである)
(C)相対腫瘍増殖速度(T/C(%))を、抗腫瘍活性を評価するための基準として使用し、以下の式によって計算した:
T/C(%)=治療群のRTV(T)/陰性対照群のRTV(C)×100
(D)薬物の腫瘍成長に対する抑制率を、以下の式によって計算した:
腫瘍抑制率(%)=(対照群の平均腫瘍重量−治療群の平均腫瘍重量)/対照群の平均腫瘍重量×100
(E)腫瘍重量、腫瘍体積、RTV及び他の基準に関する群間の差についての統計的有意性を、t−検定によって計算した。
(F)評価基準:T/C(%)>40を効果なしと判定し、T/C(%)≦40且つP<0.05を効果ありと判定した。
【0093】
F.結果及び結論:
ドセタキセル注射液群(10mg/kg/回)及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(10mg/kg/回)の乳がんMDA−MB−231腫瘍を持つマウスには、間欠的に3回静脈内注射した。ヌードマウスにおける腫瘍成長は、薬物によって有意に抑制された。3回の投与後、腫瘍体積は、投与前の体積と比較して次第に減少した。ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群(10mg/kg/回)では、腫瘍成長はほぼ停止した。ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群のMDA−MB−231腫瘍に対する抑制効果は、同じ用量のドセタキセル注射液群と比べて良好であった。
【0094】
ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のMDA−MB−231腫瘍に対する抑制効果を、
図16及び
図17に示した。
【0095】
ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末のMDA−MB−231腫瘍に対する抑制率と、相対腫瘍増殖速度を、表3及び表4に示した。
【表3】
【表4】
【0096】
(例5)薬物動態研究
(1)ラットにおける血漿薬物動態比較研究
A.実験動物:
体重240±20gの雄のSDラットを、各群6匹ずつ4つの群(I、II、III及びIV)にランダムに分けた。
【0097】
B.実験用調製物:
ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末(a)を、例2(2)の手順で調製した;バッチ番号:20120907;規格:20mgドセタキセル/ボトル;
カバジタキセルミセルの凍結乾燥粉末(b)を、例2(3)の手順で調製した;バッチ番号:20120830;規格:20mgカバジタキセル/ボトル;
Dopafei(ドセタキセル注射液、c)は、Qilu Pharmaceutical Co.,Ltd.の製品である;バッチ番号:1120312TA:規格:0.5ml、20mg;
カバジタキセルの凍結乾燥粉末(d)を、Tween−80を可溶化剤として調製した。
【0098】
C.投与及びサンプル採集:
実験用調製物を、使用直前に適切な濃度に溶解又は希釈した。5mg/kgのドセタキセルミセル(a)と、カバジタキセルミセル(b)(それぞれドセタキセル及びカバジタキセルの含有量基準)を、それぞれI群及びII群のラットに尾静脈から注射し、5mg/kgのドセタキセル注射液(c)及びカバジタキセルの凍結乾燥粉末(d)を、それぞれIII群及びIV群のラットに尾静脈から注射した。投与後の異なる時点で血液サンプルをラットの眼窩静脈叢から採取し、ヘパリンが入った抗凝固遠心分離管に入れて遠心分離し、血漿を得た。将来の使用に備え、血漿サンプルを−80℃の超低温フリーザーで保管した。
【0099】
D.血漿中濃度−時間曲線及び薬物動態パラメーター:
メタノールで沈殿させてタンパク質を除去した後、血漿サンプルをLC−MS/MSによって分析し、ドセタキセル又はカバジタキセル(cabazitaxe)の全薬物濃度を判定した。各治療群の血漿中薬物濃度対時間曲線を
図18(ラットに静脈内投与したドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末(a)及びドセタキセル注射液(c)の血漿中濃度対時間曲線)、及び
図19(ラットに静脈内投与したカバジタキセルの凍結乾燥粉末ミセル(b)及びカバジタキセルの凍結乾燥粉末(d)の血漿中濃度−時間曲線)に示した。
【0100】
一方で、限外ろ過によって遊離薬物を除去した後、血漿サンプルをLC−MS/MSによって分析し、被包されたドセタキセル又はカバジタキセルの濃度を判定した。ドセタキセルミセル及びカバジタキセルミセルを静脈内投与されたラットの血漿中の全薬物及び被包された薬物の濃度−時間曲線を描き、
図20(ドセタキセルミセル、静脈内投与5mg/kg),及び
図21(カバジタキセルミセル、静脈内投与5mg/kg)に示した。
【0101】
E.結果:
結果は、ドセタキセルミセル群とカバジタキセルミセル群のいずれも、対応する注射液群と比較して、有意に薬物の血漿中濃度が高く、排出半減期が長いことを示唆している。特に、ドセタキセルミセル及びドセタキセル注射液(静脈内投与5mg/kg、ドセタキセル基準)の血漿AUCは、それぞれ3,732ng/ml h及び436ng/ml hであり、t
1/2は、それぞれ1.9h及び0.1hであった。カバジタキセルミセル及びカバジタキセル注射液(静脈内投与5mg/kg、カバジタキセル基準)の血漿AUCは、それぞれ4,295ng/ml h及び482ng/ml hであり、t
1/2は、それぞれ2.7h及び0.3hであった。ドセタキセルミセル群及びカバジタキセルミセル群の血漿AUCは、対応する注射液群のそれぞれ8.56倍及び8.91倍であった。加えて、
図20及び
図21に示すように、静脈内投与から24時間後、血漿中のドセタキセルミセル及びカバジタキセルミセルはいずれも、主に被包されたミセルの形態であった。ミセル投与の血漿薬物動態特性は、本発明によって調製されたミセルの優れた安定性と、独特なin vivo放出特性を示唆している。
【0102】
(2)担腫瘍マウスの腫瘍組織における薬物分布の比較研究
A.実験動物:
腋窩に5×10
6の密度でMX−1ヒト乳がん細胞を接種した雌のヌードマウスを、腫瘍が体積約500mm
3に成長した後、ランダムに2つの群に分けた(I群:ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末用の群、II群:ドセタキセル注射液の群)。2群のマウスの体重は、それぞれ24.9±1.2g及び25.0±1.3gであり、有意な差はなかった(P>0.05)。各群は次いで、担腫瘍マウス10匹ずつの7つの下位群に均等に分けた。
【0103】
B.実験用調製物:
ドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末を、例2(2)の手順で調製した;バッチ番号:20120907;規格:20mg/ボトル;
Dopafei(ドセタキセル注射液)は、Qilu Pharmaceutical Co.,Ltd.の製品である;バッチ番号:1120312TA:規格:0.5ml,20mg。
【0104】
C.投与及びサンプル採集:
ドセタキセル注射液及びドセタキセルミセルの凍結乾燥粉末を使用直前に適切な濃度に溶解又は希釈し、10mg/kgの用量(ドセタキセル基準)でそれぞれI群及びII群の動物に尾静脈から注射した。各群のマウスを、投与してから5分、15分、30分、1時間、3時間、8時間、及び24時間後に屠殺し、腫瘍組織をこすり取り(scrapped)、計量し、将来の使用に備え、−80℃の超低温フリーザーで保管した。
【0105】
D.腫瘍組織における薬物分布:
ホモジネート後、腫瘍組織をLC−MS/MSによって分析し、ドセタキセルの濃度を判定した。各治療群からの腫瘍組織における薬物の濃度−時間曲線を
図22に示した。同じ用量(10mg/kg)では、投与後24時間以内のヌードマウスの腫瘍組織内のドセタキセルのAUCは、注射液群(I群)では45.528mg/L h、ミセル群(II群)では57.089mg/L hであった。これらの結果は、ドセタキセルミセル群の腫瘍組織における薬物分布は、ドセタキセル注射液群よりも有意に高く、(P<0.01)、その差は25.4%であったことを示している。
【0106】
上記の実施例は本発明の好適な実施形態である。しかし、本発明の実施形態は上記の実施例によって限定されるものではない。本発明の精神又は原理を逸脱しない限り、本発明に対するいかなる変形、変更、置換、組合せ及び単純化も、本発明の均等物であり、本発明の範囲に含まれる。
【0107】
(例6)Boc−フェニルアラニンで末端キャップされたmPEG
2000−PLA
1800共重合体/パクリタキセルミセル、及びベンゾイルで末端キャップされたmPEG
2000−PLA
1800共重合体/パクリタキセルミセルのin vivo及びin vitro安定性についての比較研究
(1)共重合体の調製:ベンゾイルで末端キャップされたmPEG
2000−PLA
1800共重合体を、CN01809632.8に記載の方法で合成した。mPEG
2000−PLA
1800−BPを、本出願の例1(2)に記載の方法で合成した。2つの共重合体のうちのいずれかを添加剤として用い、パクリタキセルを薬物として用いてパクリタキセルミセルを調製した。
【0108】
(2)ミセルの調製:150mgの共重合体と、30mgのパクリタキセルとを5mlのエタノールに溶解させた。溶媒を45℃でロータリーエバポレーションによって除去した。次いで、5mlの生理食塩水を添加し、薬物を溶解させた。得られた溶液を0.22μmメンブレンに通してろ過し、37
oCで保管して安定性を観察した。
【0109】
(3)安定性試験方法:ミセル溶液を尾静脈からラットの血液中に注射し、血液サンプルを異なる時点に採取して高速液体クロマトグラフィーにかけ、血液中のパクリタキセル含有量を判定した。
【0110】
(4)結果及び結論:二種類のミセルの血漿中薬物濃度−時間曲線を
図23に示した。mPEG
2000−PLA
1800−BP/パクリタキセルミセル群の血漿中濃度は、ベンゾイルでキャップされたmPEG
2000−PLA
1800共重合体/パクリタキセルミセル群よりも有意に高く、80%を超える薬物がミセルに被包されており、優れたin vivo安定性を示唆している。mPEG
2000−PLA
1800−BP/パクリタキセルミセルの場合は、少なくとも48時間にわたり、薬物の沈殿は観察されなかったが、ベンゾイルでキャップされたmPEG
2000−PLA
1800共重合体/パクリタキセルミセルでは、17時間後に著しい薬物の沈殿が発生し、mPEG
2000−PLA
1800−BP/パクリタキセルミセルの安定性は、ベンゾイルでキャップされたmPEG
2000−PLA
1800/パクリタキセルミセルよりも有意に高いことを示唆している。