(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーカス折り返し端部のタイヤ幅方向外側に、有機繊維コードをゴム材で被覆した少なくとも2層の有機繊維補強層と、少なくとも前記カーカス折り返し端部と前記有機繊維補強層のタイヤ幅方向内側との間に配設されたリムクッション層とを備える空気入りラジアルタイヤであって、
正規リムに装着し、正規内圧を充填した無負荷状態におけるタイヤ子午線断面視で、ビードコアの重心からカーカス折り返し端部までのタイヤ径方向距離をHcとするときに、
隣接する2層の有機繊維補強層が積層された領域かつビードコアの重心から少なくとも0.9×Hc以上1.1×Hc以下の領域で、前記リムクッション層と前記有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みを緩和するために、前記隣接する2層の有機繊維補強層のうちタイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E2とが、E1≦0.9×E2を満たすことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ2とが、θ1≦θ2−5°を満たす請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている重荷重用空気入りラジアルタイヤは、有機繊維補強層を含むことからビード部剛性が高く、カーカス折り返し端部における歪みの分散が可能である。しかしながら、複数の有機繊維補強層が、コードが交差するように配設されており、また、有機繊維補強層のタイヤ径方向外側部分ではコードの密度が高く、高剛性となっている。このため、リムクッション層と有機繊維補強層との間にせん断歪みが生ずるおそれがある。その結果、当該せん断歪みに起因して、応力が集中するカーカス折り返し端部において歪みの発生が助長され、ひいてはカーカス折り返し端部が故障の起点となるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障を抑制した空気入りラジアルタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、カーカス折り返し端部のタイヤ幅方向外側に、有機繊維コードをゴム材で被覆した少なくとも2層の有機繊維補強層を備え、正規リムに装着し、正規内圧を充填した無負荷状態におけるタイヤ子午線断面視で、ビードコアの重心からカーカス折り返し端部までのタイヤ径方向距離をHcとするときに、隣接する2層の有機繊維補強層が積層された領域かつビードコアの重心から少なくとも0.9×Hc以上1.1×Hc以下の領域で、前記隣接する2層の有機繊維補強層のうちタイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E2とが、E1<E2を満たすことを特徴としている。
【0008】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、カーカス折り返し端部のタイヤ幅方向外側の、隣接する2層の有機繊維補強層が積層された領域かつビードコアの重心から少なくとも0.9×Hc以上1.1×Hc以下の領域において、有機繊維補強層同士の有機繊維コード密度が異なっている。即ち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、少なくとも上記領域において、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度が、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度よりも小さい。このため、少なくともこの所定領域において、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層から、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層を経て、リムクッション層に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができ、ひいてはリムクッション層と有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みを緩和することができる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部で助長されるせん断歪みを緩和することができる。従って、本発明の空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障を抑制することができる。
【0009】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、ビードコアの重心からHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E2とが、E1≦0.9×E2を満たすことが望ましい。この空気入りラジアルタイヤは、タイヤ径方向の所定領域において、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度が、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度の0.9倍以下である。このため、この所定領域において、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層から、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層を経て、リムクッション層に至るまで、急激な剛性変化をさらに抑制することができ、ひいてはリムクッション層と有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みをさらに緩和することができる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部で助長されるせん断歪みをさらに緩和することができる。従って、この空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障をさらに抑制することができる。
【0010】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード径D1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード径D2とが、D1<D2を満たすことが可能である。上述の2層の有機繊維補強層が積層された領域かつビードコアの重心から少なくとも0.9×Hc以上1.1×Hc以下の領域においてE1<E2を実現する場合、及び上述のビードコアの重心からHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側においてE1≦0.9×E2を実現する場合のいずれの場合であっても、D1<D2とすることができる。このように、少なくともこれらの所定領域において有機繊維補強層同士の有機繊維コード密度を異ならせることで、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層から、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層を経て、リムクッション層に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができ、ひいてはリムクッション層と有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みを緩和することができる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部で助長されるせん断歪みを緩和することができる。従って、この空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障を抑制することができる。
【0011】
本発明の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ1と、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ2とが、θ1≦θ2−5°を満たすことが望ましい。この空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ1が、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ2よりも、5°以上小さい。このため、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層から、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層を経て、リムクッション層に至るまで、急激な剛性変化をなくすことで、リムクッション層と有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みをさらに緩和することができる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部で助長されるせん断歪みをさらに緩和することができる。従って、この空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る空気入りラジアルタイヤは、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、及びいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に開示する構成は、適宜組み合わせることができる。
【0015】
以下の説明において、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向を意味し、タイヤ幅方向外側とはタイヤ赤道面から遠ざかる側を意味し、タイヤ幅方向内側とはタイヤ赤道面に向かう側を意味する。タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸として回転する方向を意味する。タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸と直交する方向を意味し、タイヤ径方向外側とはタイヤ回転軸から遠ざかる側を意味し、タイヤ径方向内側とはタイヤ回転軸へ向かう側を意味する。タイヤ赤道面とは、タイヤ回転軸に直交するとともに、タイヤ幅の中心を通る平面を意味する。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面上にあってタイヤ径方向に沿う線を意味する。
【0016】
図1は、本実施形態の空気入りラジアルタイヤを示す子午断面図である。
図1に示す空気入りラジアルタイヤ1は、正規リムに装着し、正規内圧を充填した無負荷状態である。ここで、正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば"Measuring Rim"を意味する。また「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧を意味し、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" を意味する。
【0017】
図1に示すように、空気入りラジアルタイヤ1は、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4及びビード部5とを含んで構成されている。また、空気入りラジアルタイヤ1は、カーカス6、ビード保護層7、及びベルト層8を有するとともに、カーカス6のタイヤ幅方向外側に有機繊維補強層群9を有する。
【0018】
トレッド部2は、空気入りラジアルタイヤ1の外部に露出したものであり、その表面が空気入りラジアルタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。このトレッド面21には、タイヤ周方向に延在する複数の周方向溝22と、これら周方向溝22により区画形成された複数の陸部をなすリブ23とが形成されている。本実施形態では、トレッド部2のタイヤ幅方向の中央であってタイヤ赤道面C上となるクラウンセンターCLの位置を含み7本の周方向溝22が形成され、これら周方向溝22により8本のリブ23が形成されている。
【0019】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りラジアルタイヤ1におけるタイヤ幅方向の両外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51、硬質ビードフィラ52、及び軟質ビードフィラ53を含む。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラ52、53は、カーカス6がビードコア51の位置でタイヤ幅方向外側に折り返されることにより形成された空間に配設されている。
【0020】
カーカス6は、ゴム材で被覆された有機繊維やスチールで形成されており、コードを空気入りラジアルタイヤ1のタイヤ赤道線に直交する態様で、空気入りラジアルタイヤ1のタイヤ周方向に沿って配設されている。カーカス6は、タイヤ幅方向において、トレッド部2から、その両側のショルダー部3及びサイドウォール部4を介してビード部5のビードコア51に対してトロイド状に架け渡されている。ビード保護層7は、ゴム材で被覆された有機繊維やスチールで形成されており、コードを空気入りラジアルタイヤ1のタイヤ赤道線に直交する態様で、ビード部5においてカーカス6を包み込むように配設されている。ビード保護層7のタイヤ幅方向外側の終端部は、カーカス6のタイヤ幅方向外側の終端部よりも、タイヤ径方向内側に位置している。
【0021】
ベルト層8は、トレッド部2においてカーカス6よりもタイヤ径方向外側に設けられている。ベルト層8は、ゴム材で被覆された有機繊維やスチールで形成された複数のベルトが積層されたものであり、カーカス6をタイヤ周方向に沿って覆うものである。本実施形態におけるベルト層8は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって第1ベルト81、第2ベルト82、第3ベルト83、第4ベルト84、及び第5ベルト85の順で積層された5層構造を有している。
【0022】
有機繊維補強層群9は、第1有機繊維補強層91及び第1有機繊維補強層91のタイヤ幅方向外側に位置する第2有機繊維補強層92を含む。有機繊維補強層91、92は、カーカス6の折り返し部のタイヤ幅方向外側に設けられており、有機繊維補強層91、92のタイヤ径方向外側の終端部は、カーカス6のタイヤ径方向終端部(折り返し端部6a)よりも、タイヤ径方向外側に位置している。第1有機繊維補強層91及び第2有機繊維補強層92は、複数の有機繊維コードを配列して圧延加工し、ゴム材で被覆したコード層である。第2有機繊維補強層92のタイヤ径方向外側の終端部は、第1有機繊維補強層91のタイヤ径方向外側の終端部よりも、タイヤ径方向外側に位置している。第2有機繊維補強層92のタイヤ径方向内側の終端部は、第1有機繊維補強層91のタイヤ径方向内側の終端部よりも、タイヤ径方向外側に位置している。
【0023】
第1有機繊維補強層91及び第2有機繊維補強層92の有機繊維コードは、ビード部剛性を高めるために、互いに交差させることが好ましい。しかしながら、本実施形態における第1有機繊維補強層91及び第2有機繊維補強層92は、このような態様に限られず、有機繊維コードが互いに交差していない態様も含む。
【0024】
以上のように構成される空気入りラジアルタイヤ1は、そのビード部5が次のように構成されている。
図2は、本実施形態の空気入りラジアルタイヤのビード部を拡大して示す子午断面図である。
図2に示す例では、カーカス折り返し端部6aの近傍であって、かつ、第1有機繊維補強層91のタイヤ幅方向内側領域には、リムクッション層10が配設されている。
【0025】
カーカス折り返し端部とは、単数又は複数のカーカスのうち、タイヤ径方向の最も外側まで延在するカーカスの折り返し端部を意味し、
図2に示す例においては、カーカス6の折り返し端部6aを意味する。
【0026】
カーカス折り返し端部6aの近傍とは、有機繊維補強層91、92が積層された領域かつビードコアの重心51aから少なくとも0.9×Hc以上1.1×Hc以下の領域(
図2の少なくとも位置Xから位置Yまでの領域)を意味する。本実施形態では、カーカス折り返し端部6aの近傍は、有機繊維補強層91、92が積層された領域かつビードコアの重心51aから0.5×Hc以上であって有機繊維補強層91のタイヤ径方向外側端部以下の領域にまで拡大することができる。
【0027】
本実施形態では、このようなカーカス折り返し端部6aの近傍において、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード密度E2とが、E1<E2を満たす。
【0028】
即ち、本実施形態の空気入りラジアルタイヤ1は、少なくともこの領域において、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード密度E1が、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード密度E2よりも小さい。有機繊維補強層91、92の有機繊維コード密度E1、E2とは、タイヤ子午断面視で、有機繊維補強層91、92のタイヤ径方向の単位長さ当たりの、各有機繊維コード径の総和を意味する。
【0029】
このような構成によれば、少なくともカーカス折り返し端部6aの近傍において、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、リムクッション層10に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができ、ひいてはリムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みを緩和することができる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部6aで助長されるせん断歪みを緩和することができる。従って、
図2に示す空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障を抑制することが可能となる。
【0030】
図2に示す例では、カーカス折り返し端部6aの近傍だけでなく、タイヤ径方向高さが位置Xよりもタイヤ径方向内側の領域、及び位置Yよりもタイヤ径方向外側の領域のいずれにおいても、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード密度E1を、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード密度E2よりも小さくしている。このような構成によれば、位置Xよりもタイヤ径方向内側領域では、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、ビード保護層7に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができ、ひいてはビード保護層7と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みを緩和することができる。また、位置Yよりもタイヤ径方向外側領域では、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、軟質ビードフィラ53に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができ、ひいては軟質ビードフィラ53と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みを緩和することができる。
【0031】
従って、
図2に示すように、有機繊維補強層91、92の配設領域の全てにわたってE1<E2とした場合には、当該配設領域の全てにわたり、第1有機繊維補強層91とそのタイヤ幅方向内側に配設された部材(リムクッション層10、ビード保護層7、軟質ビードフィラ53)との間において生ずるせん断歪みをそれぞれ緩和することがきる。その結果、有機繊維補強層91、92の配設されたタイヤ径方向領域の全てにわたって故障を抑制することが可能となる。
【0032】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード密度E2とが、E1≦0.9×E2を満たすことが好ましい。
【0033】
ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側においてE1≦0.9×E2とした場合には、この所定領域において、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、リムクッション層10に至るまで、急激な剛性変化をさらに抑制することができる。これにより、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みをさらに緩和することが可能となる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部6aで助長されるせん断歪みをさらに緩和することが可能となる。従って、このような構成の空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障をさらに抑制することが可能となる。なお、上記したビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置を、ビードコアの重心51aからHcの0.8倍の位置とすることが、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みをさらに一層緩和することができる点でより好ましい。また、当該位置を、ビードコアの重心51aからHcの0.7倍の位置とすることが、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みを著しく緩和することができる点で極めて好ましい。
【0034】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード密度E1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード密度E2とが、0.4×E2≦E1を満たすことがより好ましい。ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において、0.4×E2≦E1とした場合には、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果を十分に発揮することが可能となる。その結果、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障をさらに抑制することが可能となる。なお、上記したビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置を、ビードコアの重心51aからHcの0.8倍の位置とすることが、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果をさらに一層発揮することができる点でより好ましい。また、当該位置を、ビードコアの重心51aからHcの0.7倍の位置とすることが、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果を著しく発揮することができる点で極めて好ましい。
【0035】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード径D1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード径D2とが、D1<D2を満たすことが可能である。
【0036】
図3は、本実施形態の空気入りラジアルタイヤの2層の有機繊維補強層の有機繊維コードのコード径及びコード延在方向を示す概念図である。同図に示す例では、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード91aと、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード92aとが、互いに交差するように配設されている。また、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード径D1を、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード径D2よりも小さくし、これにより、有機繊維補強層91、92同士の有機繊維コード密度を異ならせている。
【0037】
このような有機繊維コード径D1、D2の関係が、少なくともカーカス折り返し端部6aの近傍において満たされる場合には、少なくともこの所定領域において、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、リムクッション層10に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができる。また、このような有機繊維コード径D1、Dの関係が、ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において満たされる場合には、少なくともこの所定領域において、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、リムクッション層10に至るまで、急激な剛性変化を抑制することができる。このため、上記いずれの場合においても、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みを緩和することが可能となる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部6aで助長されるせん断歪みを緩和することができる。従って、このような構成の空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障を抑制することが可能となる。
【0038】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード径D1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード径D2とが、0.5×D2≦D1を満たすことがより好ましい。このような有機繊維コード径D1、D2の関係が、少なくともカーカス折り返し端部6aの近傍において満たされる場合には、少なくともこの所定領域において、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果を十分に発揮することが可能となる。また、このような有機繊維コード径D1、D2の関係が、ビードコアの重心51aからHcの0.9倍の位置よりもタイヤ径方向外側において満たされる場合には、少なくともこの所定領域において、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果を十分に発揮することが可能となる。その結果、上記いずれの場合においても、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障をさらに抑制することが可能となる。
【0039】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード91aがタイヤ周方向に対してなす角θ1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード92aがタイヤ周方向に対してなす角θ2とが、θ1≦θ2−5°を満たすことが好ましい。
【0040】
有機繊維補強層91、92の有機繊維コード91a、92aがタイヤ周方向に対してなす角θ1、θ2が小さい場合には、有機繊維補強層91、92のタイヤ径方向の剛性は小さい。これに対し、有機繊維補強層91、92の有機繊維コード91a、92aがタイヤ周方向に対してなす角θ1、θ2が大きい場合には、有機繊維補強層91、92のタイヤ径方向の剛性は大きい。
【0041】
図3に示す例では、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード91aがタイヤ周方向に対してなす角θ1が、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード92aがタイヤ周方向に対してなす角θ2よりも、5°以上小さい。このため、第1有機繊維補強層91のタイヤ径方向剛性は、第2有機繊維補強層92のタイヤ径方向剛性よりも小さい。
【0042】
このため、このような角θ1と角θ2との関係が、例えば、カーカス折り返し端部6aの近傍において満たされる場合には、この所定領域において、
図2に示すタイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92から、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91を経て、リムクッション層10に至るまで、急激な剛性変化をさらに抑制することができる。このため、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間に生じるせん断歪みをさらに緩和することが可能となる。その結果、当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部6aで助長されるせん断歪みをさらに緩和することができる。従って、このような構成の空気入りラジアルタイヤによれば、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障をさらに抑制することが可能となる。
【0043】
本実施形態の空気入りラジアルタイヤは、タイヤ幅方向内側の第1有機繊維補強層91の有機繊維コード91aがタイヤ周方向に対してなす角θ1と、タイヤ幅方向外側の第2有機繊維補強層92の有機繊維コード92aがタイヤ周方向に対してなす角θ2とが、θ1+θ2≧45°を満たすことがより好ましい。このような角θ1と角θ2との関係が、例えば、カーカス折り返し端部6aの近傍において満たされる場合には、この所定領域において、ビード部の剛性をさらに向上させることが可能となる。その結果、カーカス折り返し端部6a及び有機繊維補強層91、92間の故障をさらに抑制することが可能となる。
【0044】
以上の説明は、有機繊維補強層群9が2層の有機繊維補強層91、92からなる場合を示したが、本実施形態はこのような場合に限られない。有機繊維補強層群9は3層の有機繊維補強層から構成されていてもよいし、4層以上の有機繊維補強層から構成されていてもよい。これらの場合にも、隣接する有機繊維補強層同士がE1<E2の関係を満たすことで、3層以上の有機繊維補強層のうちタイヤ幅方向最外部の有機繊維補強層からタイヤ幅方向最内部の有機繊維補強層まで、急激な剛性変化を抑制することができる。このため、リムクッション層と有機繊維補強層との間に生じるせん断歪みを緩和することができ、これにより当該せん断歪みに起因してカーカス折り返し端部で助長されるせん断歪みを緩和することができる。従って、有機繊維補強層群9が3層以上の有機繊維補強層から構成されている場合においても、カーカス折り返し端部及び有機繊維補強層間の故障を抑制することができる。
【実施例】
【0045】
本実施形態、及び従来例に係る空気入りラジアルタイヤを製造し、評価した。なお、本実施形態によるものが実施例である。
【0046】
図4は、本発明の実施例に係る空気入りラジアルタイヤの性能試験の結果を示す図表である。タイヤサイズを11R22.5で共通にし、
図1に示す構成の空気入りラジアルタイヤにおいて、
図4に示す諸事項(タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E1、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード密度E2、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード径D1、タイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コード径D2、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ1、及びタイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コードがタイヤ周方向に対してなす角θ2)を満たす、従来例1、比較例1、及び実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤをそれぞれ製造した。なお、タイヤ幅方向内側の有機繊維補強層の有機繊維コード及びタイヤ幅方向外側の有機繊維補強層の有機繊維コードは、コード径を同一とした。
【0047】
これら各試験タイヤをリムサイズ8.25×22.5のリムに装着し、規定空気圧の80%の低空気圧条件下、かつ、荷重を29.42kNとした条件下で、ドラム試験を実施し、タイヤが故障するまでの走行距離を指数化した。その結果を
図4に併記する。当該指数は、その値が大きいほど優れた結果を示すものである。
【0048】
ドラム試験においてタイヤが故障した際に、タイヤのいずれの箇所が故障したかを調査した。特に、
図2に示すカーカス6の折り返し端部6aでの故障(カーカス端部故障)、及び有機繊維補強層91、92間での故障(有機繊維補強層間故障)についての有無を
図4に併記する。
【0049】
図4から明らかなように、実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、従来例1の空気入りラジアルタイヤに比べて、タイヤが故障するまでの走行距離が伸びている。これは、実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、少なくともカーカス折り返し端部近傍において、E1<E2の関係を満たすためであると考えられる。これに対し、比較例1の空気入りラジアルタイヤは、従来例1の空気入りラジアルタイヤに比べて、タイヤが故障するまでの走行距離が伸びていない。これは、比較例1の空気入りラジアルタイヤは、上記E1<E2の関係を満たさないことから、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間の剛性差によるせん断歪みが緩和されず、有機繊維補強層91、92間に故障が発生するからであると考えられる。
【0050】
実施例1〜6の空気入りラジアルタイヤを個別にみると、実施例2〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、実施例1の空気入りラジアルタイヤに比べて、タイヤが故障するまでの走行距離が伸びている。これは、実施例2〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、0.4≦E1/E2≦0.9を満たすため、2層の有機繊維補強層91、92による箍効果を十分に発揮することができ、カーカス折り返し端部6aにおける径方向の剛性を向上させて当該端部6aでの故障を抑制できるからであると考えられる。
【0051】
実施例4、6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、実施例2、3の空気入りラジアルタイヤに比べて、タイヤが故障するまでの走行距離が伸びている。これは、実施例4、6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、D1/D2<1を満たすため、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間の剛性差によるせん断歪みを緩和することができるためであると考えられる。実施例4、6の空気入りラジアルタイヤを比較すると、0.5≦D1/D2を満たす実施例6の方が、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間の剛性差によるせん断歪みをより緩和することができるため、当該走行距離がさらに伸びているものと考えられる。
【0052】
実施例4〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、実施例1〜3の空気入りラジアルタイヤに比べて、タイヤが故障するまでの走行距離が伸びている。これは、実施例4〜6の空気入りラジアルタイヤはいずれも、θ2−θ1≧5°を満たし、かつ、θ1+θ2≧45°を満たすため、リムクッション層10と第1有機繊維補強層91との間の剛性差によるせん断歪みを緩和することができるとともに、有機繊維補強層91、92の径方向剛性を向上させることができ、カーカス折返し端部6aの故障を抑制できるためであると考えられる。