(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の切起し片は、対をなす切起し片の先端部同士が前記鉄心抜板の周方向に向かい合い、又は対をなす切起し片の先端部同士が前記鉄心抜板の周方向に逆を向いて基端部側で対向することを特徴とする請求項1記載の積層鉄心。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
以下、インナーロータ型の電動機(回転電機)の固定子に用いられる固定子鉄心に適用した第1実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
図2に示す固定子鉄心11は、内周側に図示しない回転子が配置される空間が形成された略円筒状をなす。固定子鉄心11の内周部には、巻線を収容するためのスロット12が周方向に等間隔に複数個形成されている。固定子鉄心11は、後述する固定用の耳部13を有し、当該耳部13に挿通される図示しないボルトにより前記電動機の筺体内に固定される。固定子鉄心11は、鉄心抜板15を複数枚積層した積層鉄心である。この固定子鉄心11の製造方法の詳細は後述する。
【0011】
鉄心抜板15は、例えば
図3に示す電磁鋼板19を打ち抜くことにより形成したものであり、円環状のヨーク部16と、その内周部に位置する前記スロット12と、ヨーク部16の外周部に位置する耳部13と、ヨーク部16に形成されたかしめ部としての切起し片20,21とを備える(
図2における最上層の鉄心抜板15参照)。耳部13は、ヨーク部16外周から径方向外側へ張出す円弧状をなす。この場合、耳部13は、ヨーク部16の周方向に等間隔をなして複数個(例えば120度間隔で3個)設けられている。耳部13の中心部には、前記ボルトが挿通される貫通孔としてのボルト用孔13aが形成されている。
【0012】
前記切起し片20,21は、電磁鋼板19(鉄心抜板15)に対する切り起しにより対をなすように設けられている。即ち、切起し片20,21は、一枚の鉄心抜板15において2n個(nは整数(対数))設けられており、一対の切起し片20,21を、例えばヨーク部16の周方向において耳部13を挟む位置に夫々設けた環状配置とされている。また、これら6個の切起し片20,21は、周方向に相互に隣り合う当該切起し片20,21同士が対向して対をなすように形成される。ここで、
図4(a)は
図3のIVa−IVaに沿う一方の切起し片20部分、
図4(b)は
図3のIVb−IVbに沿う他方の切起し片21部分の縦断面図である。尚、
図3では説明の便宜上、各切起し片20,21を大きめに誇張して示している。
【0013】
切起し片20,21は、板厚方向つまり固定子鉄心11の軸方向から見て帯状をなすと共に、その板厚t1の分、当該軸方向へ窪む凹状に形成されている。このうち、
図4(a)に示す切起し片20は、基端部側が鉄心抜板15(ヨーク部16)に対して傾斜した傾斜部20aとされ、先端部側が鉄心抜板15に対して平行な平坦部20bとされている。また、切起し片20は、傾斜部20aと平坦部20bとの間の屈曲部が基端寄りであることから、全体として扁平な舌形状をなす。ここで、切起し片20の先端部20cは、
図4(a)で右方、つまり他方の切起し片21を指向するように形成されている。同図に示す符号20zは、当該切起し片20の切り起しにより形成された切り起こし跡の開口である。当該開口20zには、次に積層される鉄心抜板15の切起し片20が上側から挿入されて嵌合するようになっている。
【0014】
他方の切起し片21は、
図3に示す中心点Oから放射状に延びる仮想線L1を対称軸として一方の切起し片20と線対称となる形状に形成されている。従って、
図3、
図4(a)(b)の対比から明らかなように、切起し片21の傾斜部21a及び平坦部21bは、切起し片21の傾斜部21a及び平坦部21bと対称的に構成され、これら切起し片20,21の先端部20c,21c同士がヨーク部16の周方向に向かい合う。他の2箇所の耳部13に夫々対応する一対の切起し片20,21についても、
図3の仮想線L2,L3を夫々挟むようにして相互に対向するように設けられている。
【0015】
続いて、鉄心抜板15、及び積層鉄心たる固定子鉄心11の製造方法について説明する。
図3は、鉄心抜板15の各製造ステップにおける前記鋼板19の平面図を示している。尚、図示は省略するが、当該製造工程の設備として、各種の打抜き形状等に対応した打抜き刃乃至ポンチを有する複数の金型を備えたプレス装置が用いられる。
【0016】
先ず、第1ステーションS1の打抜き工程では、ロール状の鋼板19の巻回を解き、鋼板19の両側部に、プレス装置における鋼板19の位置決めに供される案内孔22を打ち抜き形成する。また、鋼板19に対して、円周上3箇所に等配される耳部相当部(耳部13が形成される部分)にボルト用孔13aを形成すると共に、回転子鉄心用の磁石挿入孔23や当該回転子の磁路を調整する孔等、複数の孔を形成する。次の第2ステーションS2の打抜き工程では、第1ステーションS1での打抜き工程を経た鋼板19に対し、スロット12と回転子鉄心用のシャフト挿入孔24とが打ち抜き形成される。
【0017】
そして、第3ステーションS3の打抜き及びかしめ部形成工程では、回転子鉄心用の鉄心抜板を図示しない環状の外径抜きポンチとダイで打ち抜くと共に、その周りの鉄心抜板15相当部分で前記切起し片20,21を
図4に示す成形ポンチ26,27により切り起こす。詳細には
図4(a)に示すように、成形ポンチ26の先端部には、切起し片20の形状に対応する傾斜面26aと平坦面26bを備える一方、前記ダイには、前記傾斜面26aに対応する傾斜面を備える。これら成形ポンチ26及びダイは、切起し片20の屈曲部における屈曲点P1とP2、P3とP4を板厚方向で夫々揃えるようにして、切起し片20の上面20Uの形状と下面20Dの形状を一致させるプレス加工を行うように構成されている。また、この場合、成形ポンチ26及びダイは、切起し片20について傾斜部20aの板厚t2を、本来の板厚t1つまり鋼板19或は平坦部20bの板厚よりも小さくなるように加圧形成する(t2<t1)。このとき、プレス成形に伴う切起し片20(特に傾斜部20a)の延びは、金型における材料の逃げ場として切起し片20自身の形状つまり自由端部20cにより担保されている。このため、当該金型内において、傾斜部20aがうねるように変形することを防止することができる。
【0018】
他方の切起し片21は、
図4(b)に示す成形ポンチ27により、上記した一方の切起し片20と同時に形成される。第3ステーションS3における6個の成形ポンチ26,27は、相互に隣り合う成形ポンチ26,27間で前記仮想線L1〜L3を夫々挟むようにして周方向に対称的に配置されている。従って、切起し片21は、前述のように周方向に隣り合う切起し片20と対向するように形成される。また、切起し片21は、切起し片20と同様に成形ポンチ27の傾斜面27a及び平坦面27b並びに前記ダイによって、その上面21Uの形状と下面21Dの形状が一致するようにプレス成形される。
【0019】
その後、第4ステーションS4の最終打抜き工程において、鋼板19を図示しない環状の外径抜きポンチとダイとで打ち抜いて円形状の鉄心抜板15を形成すると共に、その鉄心抜板15を順次積層する積層工程が行われる。この場合、
図5に示すように、先に打ち抜かれた鉄心抜板15の切り起こし跡の開口20z、21zに、上側から積層される鉄心抜板15の切起し片20,21を臨ませた状態で押込みポンチ26´,27´により押し込むようにしてかしめて積層する。これにより、複数枚の鉄心抜板15を相互に密着させて積層し、固定子鉄心11を形成する。尚、詳しくは後述するように、第4ステーションS4の前記外径抜きポンチ(
図11の符号50参照)と押込みポンチ26´,27´とは一体的に構成されているが、
図5では説明の便宜上、外径抜きポンチを省略している。
【0020】
押込みポンチ26´,27´は、例えば第3ステーションS3における成形ポンチ26,27と同じ形状で且つ同じ配置形態とされている。また、第3ステーションS3で、切起し片20,21を、その上面20U,21Uの形状と下面20D、21Dの形状とが一致するように形成した。このため、押込みポンチ26´,27´で切起し片20,21を上方から下方へ押し込む際、下側の鉄心抜板15の開口20z,21zに正確に嵌合させ、精度よく積層することができる。また、切起し片20,21が対向して対をなすように形成されているため、複数枚の鉄心抜板15は周方向にずれが生じないように積層されることとなる(
図1、
図2参照)。
【0021】
積層された複数枚(例えば200枚)の鉄心抜板15は、
図2に示すように当該積層鉄心の外周縁部において板厚方向たる軸方向に溶接が施される。この溶接部位29は、鉄心抜板15の外周縁部において、例えば各耳部13から周方向へ30度離間した位置に夫々形成されることで等間隔(60度間隔)となる。これにより、複数枚の鉄心抜板15が一体となった固定子鉄心11が得られる。尚、鉄心抜板15の積層数、耳部13或は溶接部位29の数は、適宜変更してもよい。
【0022】
図示は省略するが、第3ステーションS3で打ち抜いた回転子鉄心用の鉄心抜板を複数枚積層して一体にすることで回転子鉄心が得られる。この回転子鉄心の磁石挿入孔23に永久磁石を設け、シャフト挿入孔24にシャフトを設けることにより回転子が得られる。さらに、固定子鉄心11のスロット12にコイルを設けることにより、固定子が得られる。そして、回転子と、固定子とから回転電機が得られる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の切起し片20,21は、一枚の鉄心抜板15において相互に隣り合う切起し片20,21同士が対向して対をなすように形成されている。このため、前記積層工程において、プレス装置の鋼板19の送り精度や鉄心抜板15のたわみ等に起因して、鉄心抜板15間で切起し片20,21に僅かなずれが生じて鉄心抜板15が傾き或は当該鉄心抜板15をずらすような力(
図5中、左右方向の力)が作用したとしても、その力は鉄心抜板15の両切起し片20,21における可撓性により、当該切起し片20,21での嵌合に伴い前記のずれが吸収されることで相殺される。即ち、当該切起し片20,21は、その鉄心抜板15の積層に際し、下側の鉄心抜板15に対する周方向のずれを吸収すると共に、当該周方向の位置決めを行うように機能する。このため、鉄心抜板15相互間にずれが生じないように切起し片20,21にて嵌合させることができ、鉄心抜板15相互間に隙間が生じないように積層して所望の密着性を得ることができる。従って、かしめ部たる切起し片20,21で確実に結束して信頼性を高めることができると共に、固定子鉄心11の寸法精度を向上させることができる。
【0024】
尚、前記溶接部位29は溶接の際、溶融して凝固することに伴い、その近傍部における局所的な熱歪や残留応力が生じるだけでなく、鉄心抜板全体に熱歪の影響を及ぼすこともある。この点、切起し片20,21は、溶接部位29から周方向に離間した位置に設けたため、その熱歪等の直接的な影響を回避することができると共に、鉄心抜板15の全体的な僅かな熱歪も切起し片20,21の可撓性により吸収することができる。
【0025】
一枚の鉄心抜板15における6個の切起し片20,21は、対をなす切起し片20,21の先端部20c,21c同士が鉄心抜板15の周方向に向かい合う。これによれば、切起し片20,21によって、鉄心抜板15相互間における周方向のずれを確実に抑制することができる。従って、鉄心抜板15相互間で、スロット12や耳部13等の周方向のずれが抑制され、より積層鉄心の精度を高めることができる。
【0026】
各切起し片20,21は、基端部側が鉄心抜板15に対して傾斜した傾斜部20a,21aと、先端部側が鉄心抜板15に対して平行な平坦部20b,21bとからなる。これによれば、比較的簡単な金型構造(成形ポンチ26,27)で切起し片20,21を形成することができ、成形精度を高めることができる。
鉄心抜板15の周縁部に、ボルト用孔13aを有して径方向に張出す耳部13を設け、複数の切起し片20,21は、鉄心抜板15の周方向において耳部13に対応する位置に設けた。これによれば、固定子鉄心11の固定に供される耳部13近傍を、鉄心抜板15がばらけないように切起し片20,21部分のかしめ作用により強固に結束することができる。
【0027】
切起し片20,21は、傾斜部20a,21aの板厚t2を本来の板厚t1よりも小さくなるように加圧形成し、上面20Uの形状と下面20Dの形状を一致させるように構成した。換言すれば、切起し片20,21は、傾斜部20a,21aの板厚t2を鉄心抜板15の板厚t1よりも小さく設定することにより、上面20Uの形状と下面20Dの形状とが積層鉄心の軸方向に揃うように構成されている。これにより、積層した鉄心抜板15間に軸方向と直交する方向のずれや前述した隙間Sの発生を防止することができ、高精度の積層鉄心とすることができる。
【0028】
従来技術の例で述べたかしめ部2は、自由端部が存在しない単なる凹状をなすことから、プレス成形の際に成形型内における傾斜部2aの材料の逃げ場がなく、その加圧成形に伴い傾斜部2aがうねるように変形することとなる。この点、本実施形態の切起し片20,21は、その自由端部20c,21c側が金型における材料の逃げ場となり、傾斜部20aの変形を抑制することができる。このため、鉄心抜板15間の隙間Sの発生を極力防止してより高精度の積層鉄心とすることができる。
【0029】
<その他の実施形態>
図6〜
図15は、その他の実施形態を示すものであり、既述の部分と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる点につき説明する。
【0030】
図6は、第2実施形態における積層工程を示す
図5相当図である。本第2実施形態の積層工程で用いられる押込みポンチ36,37は、第1実施形態の押込みポンチ26´,27´と以下の点で相違する。即ち、押込みポンチ36,37は、切起し片20,21の先端部20c,21c側に傾斜部20d,21dを屈曲形成するための傾斜面26d、27dを有し、全体として先端26b、27b側が窄む台形状をなす。従って、積層工程では、切起し片20,21は、その中間部(平坦部20b,21b)が押込みポンチ36,37の先端26b、27bによりスムーズに押し込まれて、下側の鉄心抜板15の開口20z、21zから嵌合する。この場合、切起し片20,21は、下側が凸となる台形状(山形状)をなして、下側の鉄心抜板15における切起し片20,21の上面側に滑り込むようにして密着して嵌合する。
【0031】
以上のように、本第2実施形態では、前記かしめ部形成工程で切り起こした切起し片20,21を、積層工程において、台形状の押込みポンチ36,37によって当該切起し片20,21の平坦部20b,21bを屈曲させて台形状に形成した。これによれば、比較的小さな成形圧で平坦部20b,21bを屈曲させて(新たな屈曲部を形成して)、その先端から容易に滑り込ませるようにして積層することができる。また、このように成形ポンチ26,27と押込みポンチ36,37の形状を異ならせることで、切起し片20,21部分の歪を少なくし、かしめ強度を高めて良好な結束状態を得ることができると共に、積層する鉄心抜板15相互間の密着性を高めることができる。
【0032】
図7は、第3実施形態における切起し片30,31の構造を示している。
図示は省略するが、本第3実施形態では、先端部がV字状に形成された成形ポンチと押込みポンチが用いられる点で第1実施形態と相違する。即ち、本第3実施形態のかしめ部形成工程でV字状の成形ポンチにより、V字状の切起し片30,31が切り起こされる。また、積層工程では、V字状の押込みポンチが用いられ、切起し片30,31の下端部30e,31eを、下側の鉄心抜板15における切起し片30,31の谷部(上面側)に滑り込ませるようにして嵌合させることができる。尚、成形ポンチや押込みポンチの形状は上記した形状に限らず、例えば先端が円弧状に形成されたポンチを用いて、下側に凸となる円弧状の切起し片を形成するようにしてもよい。
【0033】
図8は、第4実施形態における切起し片40,41を成形ポンチ46,47と共に示している。
第3ステーションS3において、相互に対をなす成形ポンチ46,47の先端部には、周方向に向かい合う位置に形成された傾斜面46a,47aと、平坦面46b,47bを備える。この成形ポンチ46,47によって、一対の切起し片40,41は、その先端部40c、41c同士が鉄心抜板15の周方向に逆を向いて基端側の傾斜部(基端部)40a,41aで対向するように切り起こされる。従って、第4実施形態の切起し片40,41によっても、鉄心抜板15相互間における周方向のずれを確実に抑制することができる等、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0034】
尚、一対の切起し片について、その先端部同士が互いに逆を向く構成は、上記した台形状、V字状、円弧状等、各形状の切起し片に適用することができる。例えば、切起し片40,41は、その平坦部40b,41bを押込みポンチ36,37により屈曲させて台形状に形成する等、適宜変更してもよい。
【0035】
図9及び
図10は、第5及び第6実施形態における切起し片20,21の位置関係を示している。
図9に示すように、第5実施形態の切起し片は、6箇所の溶接部位29に対応する位置に設けられた合計12個の切起し片20,21から構成される。一対の切起し片20,21は、夫々溶接部位29を挟んでヨーク部16の周方向に向かい合うように形成されている。この一対の切起し片20,21によれば、溶接部位29の近傍で前述した熱歪や残留応力に起因する鉄心抜板15相互間の周方向のずれや変形を抑制することができる。
【0036】
図10に示すように、第6実施形態の切起し片は、ヨーク部16の周方向に例えば90度間隔で設けられた合計4個の切起し片20,21から構成される。これら切起し片20,21は、何れも周方向に隣り合う切起し片20,21同士が対向して対をなす。即ち、4個の切起し片20,21は、対をなす切起し片20,21の先端部20c,21c同士が鉄心抜板15の周方向に向かい合い、又は対をなす切起し片20,21の先端部20c,21c同士が鉄心抜板15の周方向に逆を向いて基端部(傾斜部20a,21a)側で対向する関係にある。従って、第1実施形態或は第4実施形態と同様、鉄心抜板15相互間における周方向のずれを抑制することができる。
【0037】
図11に示すように、上記実施形態における第4ステーションS4の外径抜きポンチ50と押込みポンチ26´とは一体的に構成されている。他の押込みポンチ27´,36,37も、押込みポンチ26´と同様、外径抜きポンチ50と一体に動作する構成であるが、説明の便宜上、
図11では押込みポンチ26´のみを模式的に例示する。
図11(b)は、
図11(a)を押込みポンチ26´の正面図とした場合における側面図である。
【0038】
前述したように、外径抜きポンチ50とダイ51とで外径抜きされた鉄心抜板15は、当該外径抜きポンチ50及び押込みポンチ26´,27´によりダイ51の下方へ押し込まれる。このとき、鉄心抜板15は、その外周でダイ51と当接ないし接触しながら押し込まれることにより外周側から外力を受けて僅かな歪が発生することがある。ここで、
図11(c)に示す下側の鉄心抜板15は中央側が下方に窪み、全体として凹状をなす場合の歪を誇張して例示している。この場合、積層された鉄心抜板15,15に僅かな隙間Saが発生する。
【0039】
そこで、第7実施形態における第4ステーションS4の押込みポンチは、第3ステーションS3の成形ポンチ26,27と同じ配置形態であるが、成形ポンチ26,27(或は押込みポンチ26´,27´)と形状を異ならせてある。即ち、
図12は、第7実施形態の対をなす押込みポンチのうちの一方を符号56で示しており、外径抜きポンチ50に対する押込みポンチ56の下方への突出量は、押込みポンチ26´,27´の下方への突出量よりHだけ大きく設定されている。また、押込みポンチ56の幅寸法(
図12中、左右方向の寸法)は、押込みポンチ26´,27´の幅寸法よりδだけ小さく設定されている。
【0040】
第7実施形態の押込みポンチ56及びこれと対をなす他方の押込みポンチ(以下、単に第7実施形態の押込みポンチと記す)によって、第3ステーションS3の成形ポンチ26,27による切起し片20,21の切り起こし量(鉄心抜板15の板厚方向の押し込み量)より、更に切起し片20,21を板厚方向へHだけ押し込むようにして変形させる。つまり、第7実施形態の押込みポンチによる切起し片20,21に対する前記板厚方向への押し込み量は、成形ポンチ26,27により切起し片20,21を切り起すときの前記板厚方向への押し込み量よりも大きくなるように設定されている。
【0041】
よって、第4ステーションS4のダイ51内で鉄心抜板15に前記歪が発生した場合でも、第7実施形態の押込みポンチによって、鉄心抜板15の切起し片20,21を、下側の鉄心抜板15における切起し片20,21上に密着するように重畳して確実に嵌合させる充分な押し込み量を得ることができる。これにより、切起し片20,21部分で確実にかしめて密着性を高めることができると共に、そのかしめ作用による結束力を一層向上させることができる。
【0042】
第7実施形態の押込みポンチは、切起し片20,21の長さ寸法(
図12中、左右方向の寸法)に応じて前記δを変更する等、適宜変更することができる。
上記した切起し片を形成する際、当該切起し片は成形時の加圧力を解除することにより僅かにスプリングバックが生じる。
図14は、切起し片100のスプリングバックを2点鎖線で誇張して示す説明図である。ここで、
図14(a)に示す切起し片100の屈曲部100a部分と、(b)に示すその途中の屈曲部100b部分とが相互に同じ形状の構成の下、同じ条件で加工するものと仮定した場合、両屈曲部100a,100bにおける夫々の戻り角度θ1,θ2は一致する(θ1=θ2)。もっとも、実際のスプリングバックは、
図14(a)では切起し片100の基端部で発生する一方、(b)ではその途中部で発生することから、合成された戻り角度は(c)に示すθ3となる(θ1>θ2)。
【0043】
そこで、
図13、
図15に示す第8実施形態における切起し片60は、基端側の内側曲げ半径R1よりも途中部の内側曲げ半径R2を充分に大きく設定することで(R1<R2)、全体として下方へ傾斜するように構成されている。即ち、第3ステーションS3のかしめ部形成工程における前記成形ポンチとダイは、例えば切起し片60の各屈曲部に対応する夫々の角部が、基端側の曲げ半径R1と途中部の曲げ半径R2とに対応させた形状(角R)とされている。ここで、当該成形ポンチとダイによって、切起し片60の両屈曲部分(R1,R2の部分)における加工時の曲げ角度が同じ条件に設定されていても、曲げ半径R2を大きくすることで、スプリングバック量も両屈曲部分のち曲げ半径R2に対応する屈曲部分の方が大きくなる。これにより、第8実施形態の切起し片60における基端側の第1傾斜部60aと先端側の第2傾斜部60bとのうち、第2傾斜部60bは、上記した曲げ半径R2とスプリングバック量との関係を利用して先端が下方へ傾斜するように構成されている。鉄心抜板15に対する第2傾斜部60bの傾斜角θは、第1傾斜部60aの傾斜角よりも小さく設定されている。
図13、
図15では、第8実施形態の対をなす切起し片のうちの一方を示しており、
図13では、夫々の傾斜部60a、60bの傾斜を誇張して示している。
【0044】
また、
図15では、対をなす押込みポンチのうちの一方を符号66で示しており、以下では、一方の押込みポンチ66或は切起し片60に着目して説明する。押込みポンチ66は、その先端部に切起し片60の第1傾斜部60a及び第2傾斜部60bに夫々対応する第1傾斜面66a及び第2傾斜面66bを備えている。尚、第8実施形態の成形ポンチは、同図の切起し片60が得られる構成であればよく、上記のように曲げ半径R1,R2を設定する他、押込みポンチ66と同様のものを用いてもよい。
【0045】
切起し片60の先端部60cは、基端側よりも剛性が低く
図13中、矢印D1,D2方向にも撓みやすい。また、切起し片60は、先端部60cが鉄心抜板15の積層方向の最下部となるように傾斜している。従って、前記積層工程において、先に打ち抜かれた下側の鉄心抜板15の開口20zに対し、次に積層する鉄心抜板15の切起し片60が先端部60cから挿入される。このとき、前記の送り精度や切起し片60の形状に僅かな誤差があったとしても、切起し片60は、自身の可撓性により先端側の側部60eが下側の開口20zに案内されるようにして接触しながら、先の切起し片60上に密着するようになじむこととなる。
【0046】
このように、押込みポンチ66の先端側に鉄心抜板15に対する傾斜角θをつけ、切起し片60は、先端が最下端となるように傾斜している。これにより、先行する鉄心抜板15の開口20zに、次に積層する鉄心抜板15の切起し片60を嵌合するに際して、切起し片60を確実且つ容易に滑り込ませることができる。従って、積層工程においてスムーズに効率よくかしめることができる。
【0047】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略,置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0048】
例えば、本実施形態の積層鉄心は、固定子用に限らず回転子にも適用する等、種々の変更を行うことができる。