特許第5893946号(P5893946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893946
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20160310BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   F02F3/00 R
   F02F3/00 B
   F02F3/00 M
   F02F5/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-27533(P2012-27533)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164022(P2013-164022A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】桑山 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】石垣 豊
(72)【発明者】
【氏名】小山 秀行
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 学
(72)【発明者】
【氏名】田中 良憲
(72)【発明者】
【氏名】内藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】森永 秀隆
【審査官】 山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第01246105(GB,A)
【文献】 実開平04−087062(JP,U)
【文献】 実開昭58−165238(JP,U)
【文献】 特開2000−282950(JP,A)
【文献】 特開昭60−259752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン周壁(1)に、ピストンヘッド(2)側から順に、第1ランド(3)、第1リング溝(4)、第2ランド(5)、第2リング溝(6)、第3ランド(7)、第3リング溝(8)、ピストンスカート(9)を設け、第1リング溝(4)に第1圧力リング(10)を、第2リング溝(6)に第2圧力リング(11)を、第3リング溝(8)にオイルリング(12)をそれぞれ嵌め、第2ランド(5)に窪み(13)を設けた、エンジンにおいて、
第2ランド(5)の外周面(5a)と第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)との境界を第2リング溝(6)に向けて縮径するテーパ面(14)で面取りし、このテーパ面(14)で前記第2ランド(5)の窪み(13)を形成し、
第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)のシリンダ側仮想延長線(6b)に対するテーパ面(14)の角度(Θ)が30°〜60°、テーパ面(14)のピストン径方向の深さ寸法(C)を第2リング溝(6)のピストン径方向の深さ寸法(D)で除した値(C/D)の百分率が20%〜30%となるようにした、ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載したエンジンにおいて、
第2ランド(5)の幅寸法(W2)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W2/B)の百分率が6%〜11%となるようにした、ことを特徴とするエンジン。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したエンジンにおいて、
第3ランド(7)の外周面(7a)と第3リング溝(8)の第3ランド側端面(8a)との境界に第3ランド(7)の窪み(15)を設けた、ことを特徴とするエンジン。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載したエンジンにおいて、
ピストンスカート(9)の外周面(9a)と第3リング溝(8)のピストンスカート側端面(8b)との境界にピストンスカート(9)の窪み(16)を設けた、ことを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに関し、詳しくは、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を低減させることができるエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとして、ピストン周壁に、ピストンヘッド側から順に、第1ランド、第1リング溝、第2ランド、第2リング溝、第3ランド、第3リング溝、ピストンスカートを設け、第1リング溝に第1圧力リングを、第2リング溝に第2圧力リングを、第3リング溝にオイルリングをそれぞれ嵌め、第2ランドに窪みを設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
この種のエンジンによれば、第2ランド対向空間の容積が第2ランドの窪みの分だけ増加し、ピストン昇降時の第2ランド対向空間のガス圧の変動を抑制することができる利点がある。
しかし、この従来技術では、第2ランドの外周面の中間部に溝を設け、この溝で第2ランドの窪みを形成しているため、問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−54297号公報(図2図4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題》 長時間運転後、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量が多くなる。
第2ランドの外周面の中間部に溝を設け、この溝で第2ランドの窪みを形成しているため、第2ランドの剛性が大きく低下し、ピストンが振動して第1リング溝と第2リング溝が変形・異常磨耗しやすい。
このため、第2ランドに設けた窪みで、ピストン昇降時の第2ランド対向空間のガス圧の変動を抑制することができるにも拘わらず、ピストンの振動・リング溝の変形・異常磨耗により、第1オイルリングと第2オイルリングの挙動が不安定になり、これらのシール性能の低下により、長時間運転後、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量が多くなる。
【0005】
本発明の課題は、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を安定して低減させることができるエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1(B)図2(B)に例示するように、ピストン周壁(1)に、ピストンヘッド(2)側から順に、第1ランド(3)、第1リング溝(4)、第2ランド(5)、第2リング溝(6)、第3ランド(7)、第3リング溝(8)、ピストンスカート(9)を設け、第1リング溝(4)に第1圧力リング(10)を、第2リング溝(6)に第2圧力リング(11)を、第3リング溝(8)にオイルリング(12)をそれぞれ嵌め、第2ランド(5)に窪み(13)を設けた、エンジンにおいて、
図1(B)図2(B)に例示するように、第2ランド(5)の外周面(5a)と第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)との境界を第2リング溝(6)に向けて縮径するテーパ面(14)で面取りし、このテーパ面(14)で前記第2ランド(5)の窪み(13)を形成し、
図1(B) 、図2(B)に例示するように、第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)のシリンダ側仮想延長線(6b)に対するテーパ面(14)の角度(Θ)が30°〜60°、テーパ面(14)のピストン径方向の深さ寸法(C)を第2リング溝(6)のピストン径方向の深さ寸法(D)で除した値(C/D)の百分率が20%〜30%となるようにした、ことを特徴とするエンジン。
【発明の効果】
【0007】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を低減させることができる。
図1(B)図2(B)に例示するように、テーパ面(14)で第2ランド(5)の窪み(13)を形成したので、第2ランド対向空間(17)の容積が第2ランド(5)に設けた窪み(13)の分だけ増加し、ピストン昇降時の第2ランド対向空間(17)のガス圧の変動を抑制することができる。
しかも、第2ランド(5)の外周面(5a)と第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)との境界を第2リング溝(6)に向けて縮径するテーパ面(14)で面取りし、このテーパ面(14)で前記第2ランド(5)の窪み(13)を形成したので、第2ランド(5)の剛性を大きく低下させることがなく、ピストン(18)の振動・リング溝の変形・異常磨耗も抑制することができる。
このため、第1圧力リング(10)と第2圧力リング(11)の振動を抑制し、これらのシール性能を高く維持し、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を低減させることができる。
【0008】
《効果》 長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
図1(B)図2(B)に例示するように、第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a) のシリンダ側仮想延長線(6b)に対するテーパ面(14)の角度(Θ)が30°〜60°、テーパ面(14)のピストン径方向の深さ寸法(C)を第2リング溝(6)のピストン径方向の深さ寸法(D)で除した値(C/D)の百分率が20%〜30%となるようにしたので、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
【0009】
この最適範囲を外れ、テーパ面(14)の角度(Θ)が小さ過ぎた場合や、テーパ面(14)の深さ寸法(C)に関する値(C/D)の百分率が小さ過ぎた場合には、第2ランド(5)の窪み(13)の容積が小さくなり、第2ランド対向空間(17)の容積が十分に増加せず、ピストン昇降時の第2ランド対向空間(17)のガス圧の変動を効果的に抑制することができず、第1圧力リング(10)と第2圧力リング(11)が振動しやすい。
また、前記最適範囲を外れ、テーパ面(14)の角度(Θ)が大き過ぎた場合には、テーパ面(14)で第2ランド(5)が幅寸法(W2)の広い範囲に亘って除肉され、第2ランド(5)の剛性が低下し、ピストン(18)が振動し、第1リング溝(4)と第2リング溝(6)が変形・磨耗しやすくなり、第1圧力リング(10)と第2圧力リング(11)も振動しやすくなる。
また、前記最適範囲を外れ、テーパ面(14)の深さ寸法(C)に関する値(C/D)の百分率が大き過ぎた場合には、第2リング溝(6)による第2圧力リング(11)の支持面積が小さくなり、第2圧力リング(11)が振動しやすくなる。
【0010】
このように、テーパ面(14)の角度(Θ)やテーパ面(14)の深さ寸法(C)に関する値(C/D)の百分率が前記最適範囲を外れた場合には、第1圧力リング(10)と第2圧力リング(11)の少なくとも一方が振動しやすくなり、そのシール性能の低下により、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができない場合がある。
【0011】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
図1(B)図2(B)に例示するように、第2ランド(5)の幅寸法(W2)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W2/B)の百分率が6%〜15%となるようにしたので、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
【0012】
この最適範囲を外れ、 第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率が小さ過ぎた場合には、第2ランド対向空間(17)の容積が小さくなり、ピストン昇降時の第2ランド対向空間(17)のガス圧の変動を効果的に抑制することができず、第1圧力リング(10)と第2圧力リング(11)が振動しやすくなり、これらのシール性能の低下により、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができない場合がある。
また、前記適用範囲を外れ、第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率が大き過ぎた場合には、ピストン(18)の全長が適正値よりも長くなり過ぎる場合がある。
【0013】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
図1(B)図2(B)に例示するように、第3ランド(7)の外周面(7a)と第3リング溝(8)の第3ランド側端面(8a)との境界に第3ランド(7)の窪み(15)を設けたので、第3ランド対向空間(20)の容積が第3ランド(7)の窪み(15)の分だけ増加し、ピストン昇降時の第3ランド対向空間(20)のガス圧の変動を抑制し、第2圧力リング(11)とオイルリング(12)の振動を抑制し、これらのシール性能の向上により、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができる。
【0014】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 オイル消費量を十分に低減させることができる。
図1(B)図2(B)に示すように、ピストンスカート(9)の外周面(9a)と第3リング溝(8)のピストンスカート側端面(8b)との境界にピストンスカート(9)の窪み(16)を設けたので、オイル消費量を十分に低減させることができる。
【0015】
その理由は、オイルリング(12)の下部側が掻き落としたオイルの一部が、ピストンスカート(9)の窪み(16)を通ってオイル導入孔(35)と第3リング溝(8)とオイル導出孔(36)を経て、ピストン(18)の内部に導出され、エンジン下部のオイルパン(図外)に戻りやすくなり、オイルを速やかに排出できるためである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンを説明する図で、図1(A)はシリンダとピストンの模式断面図、図1(B)は要部拡大断面図である。
図2】本発明の第2実施形態に係るエンジンを説明する図で、図2(A)はシリンダとピストンの模式断面図、図2(B)は要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明の第1実施形態に係るエンジンを説明する図、図2は本発明の第2実施形態に係るエンジンを説明する図であり、各実施形態では、直接噴射式ディーゼルエンジンについて説明する。
【0018】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係るエンジンについて説明する。
図1(A)に示すように、このエンジン(21)はシリンダ(22)内にピストン(18)を昇降自在に内嵌させ、ピストン(18)にコンロッド(23)を介してクランク軸(24)を連動連結している。シリンダ(22)の上部にはシリンダヘッド(25)を組み付けている。シリンダヘッド(25)には、吸気ポート(26)と排気ポート(27)と燃料噴射ノズル(28)とを設けている。図中の符号(1a)はピストン中心軸線である。
【0019】
図1(B)に示すように、ピストン周壁(1)に、ピストンヘッド(2)側から順に、第1ランド(3)、第1リング溝(4)、第2ランド(5)、第2リング溝(6)、第3ランド(7)、第3リング溝(8)、ピストンスカート(9)を設け、第1リング溝(4)に第1圧力リング(10)を、第2リング溝(6)に第2圧力リング(11)を、第3リング溝(8)にオイルリング(12)をそれぞれ嵌め、第2ランド(5)に窪み(13)を設けている。
【0020】
図1(B)に示すように、第2ランド(5)の外周面(5a)と第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a)との境界を第2リング溝(6)に向けて縮径するテーパ面(14)で面取りし、このテーパ面(14)で前記第2ランド(5)の窪み(13)を形成している。
【0021】
図1(B)に示すように、第2リング溝(6)の第2ランド側端面(6a) のシリンダ側仮想延長線(6b)に対するテーパ面(14)の角度(Θ)が30°〜60°(より望ましくは40°〜50°)、テーパ面(14)のピストン径方向の深さ寸法(C)を第2リング溝(6)のピストン径方向の深さ寸法(D)で除した値(C/D)の百分率が20%〜30%となるようにしており、これがテーパ面(14)の角度(Θ)やテーパ面(14)の深さ寸法に関する値(C/D)の百分率の最適範囲である。
【0022】
図1(B)に示すように、第2ランド(5)の幅寸法(W2)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W2/B)の百分率が6%〜15%となるようにしており、これが第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率の最適範囲である。
【0023】
シリンダボアの直径(B)を基準として第2ランド(5)の幅寸法(W2)の割合を計算するのは、シリンダボアの直径(B)がエンジンの体格や燃焼室圧力の指標となるからである。エンジンの体格や燃焼室圧力は、エンジンのオイル消費量やブローバイガスの漏れ量に大きく影響を与える。
【0024】
図1(B)に示すように、第3ランド(7)の外周面(7a)と第3リング溝(8)の第3ランド側端面(8a)との境界に第3ランド(7)の窪み(15)を設けている。
また、ピストンスカート(9)の外周面(9a)と第3リング溝(8)のピストンスカート側端面(8b)との境界にピストンスカート(9)の窪み(16)を設けている。
【0025】
第3ランド(7)の窪み(15)は、ピストン中心軸線(1a)に沿う断面図上、直角L字形の溝(29)で形成され、その奥端面(30)はピストン中心軸線(1a)と平行な向きで、そのピストンヘッド(2)側の面(31)はピストン中心軸線(1a)と直交する向きになっている。
ピストンスカート(9)の窪み(16)は、ピストン中心軸線(1a)に沿う断面図上、鈍角L字形の溝(32)で形成し、その奥端面(33)はピストン中心軸線(1a)と平行な向きで、そのピストンヘッド(2)と反対側の面(34)は奥端面(33)に向けて縮径するテーパ状に形成されている。
【0026】
図1(B)に示すように、オイルリング(12)にピストン径方向に沿ってオイルリング(12)を貫通するオイル導入孔(35)を設け、第3リング溝(8)の奥端にピストン径方向に沿ってピストン周壁(1)を貫通するオイル導出孔(36)を設けている。オイルリング(12)でシリンダ(22)から掻き取ったオイルは、オイル導入孔(35)と第3リング溝(8)とオイル導出孔(36)を経て、ピストン(18)の内部に導出され、エンジン下部のオイルパン(図外)に戻る。
【0027】
第1実施形態に係る前記最適範囲内の実施例エンジンは、前記最適範囲を外れた比較例エンジンに比べ、いずれもオイル消費量やブローバイガスの漏れ量に関し、次の有効な実験結果が得られた。
【0028】
第1の実験は、20°Cで、シリンダボアの直径(B)が87mm、ピストンヘッド(2)の最大直径(P)が86.5mm、最小直径が86.46mm、ピストンの軸長寸法(L)が80mm、ピストンのストロークが102.4mmの立形水冷の直列4気筒直接噴射式ディーゼルエンジンを用い、エンジン回転数2700rpm、負荷率80%でエンジンを200時間運転して行った。尚、負荷率は、最大出力が得られる定格回転数での定格負荷を負荷率100%として計算した。
【0029】
実施例エンジンとして、前記最適範囲の各最小値を用いた最小値実施例エンジンと、各最大値を用いた最大値実施例エンジンと、各中間値を用いた中間値実施例エンジンとを作製した。
比較例エンジンとして、上記各実施例エンジンのテーパ面(14)が無いエンジンを作製した。
これらを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が30%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が35%程度減少することが確認された。また、200時間運転後も大きな性能低下は確認されなかった。
【0030】
最小値実施例エンジンは、テーパ面(14)の角度(Θ)が30°、ピストン径方向の深さ寸法(D)に関する値(C/D)の百分率が20%、第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率が6%である。
最大値実施例エンジンは、テーパ面(14)の角度(Θ)が60°、ピストン径方向の深さ寸法(D)に関する値(C/D)の百分率が30%、第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率が11%である。
中間値実施例エンジンは、テーパ面(14)の角度(Θ)が45°、ピストン径方向の深さ寸法(D)に関する値(C/D)の百分率が25%、第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率が8.5%である。
なお、各エンジンの第1ランド(3)の幅寸法(W1)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W1/B)の百分率は13%とした。また、第3ランド(7)の幅寸法(W3)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W3/B)の百分率は、4%とした。
【0031】
前記各実施例エンジンのテーパ角度(Θ)のみを前記適正範囲の下限値30°未満となる25°に変更した比較例エンジンを作製した。
前記各実施例エンジンと上記各比較例エンジンとを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が15%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が17%程度減少することが確認された。
前記各実施例エンジンのテーパ角度(Θ)のみを前記適正範囲の上限値60°を超える65°に変更した比較例エンジンを作製した。
前記各実施例エンジンと上記各比較例エンジンとを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が15%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が17%程度減少することが確認された。
【0032】
前記各実施例エンジンのテーパ面(14)の深さ寸法(C)に関する値(C/D)の百分率のみを前記適正範囲の下限値20%未満となる10%に変更した比較例エンジンを作製した。
前記各実施例エンジンと上記各比較例エンジンとを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が20%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が23%程度減少することが確認された。
前記実施例エンジンのテーパ面(14)の深さ寸法(C)に関する値(C/D)の百分率のみを前記適正範囲の上限値30%を超える40%に変更した比較例エンジンを作製した。
前記各実施例エンジンと上記各比較例エンジンとを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が20%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が23%程度減少することが確認された。
【0033】
前記実施例エンジンの第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率のみを前記適正範囲の下限値6%未満である5%に変更した比較例エンジンを作製した。
前記各実施例エンジンと上記各比較例エンジンとを比較した結果、各実施例エンジンは各比較例エンジンに比べ、オイル消費量が15%程度減少し、ブローバイガスの漏れ量が17%程度減少することが確認された。
また、前記各実施例エンジンの第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率のみを前記適正範囲の上限値11%を超える12%に変更しようとしたところ、ピストン(18)の全長が適正値よりも長くなりすぎることが確認された。
【0034】
第1ランド(3)の幅寸法(W1)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W1/B)の百分率は、8%以上に設定し、第3ランド(7)の幅寸法(W3)をシリンダボアの直径(B)で除した値(W3/B)の百分率は、2%以上に設定するのが望ましい。この百分率を下回ると、第1ランド対向空間(19)や第3ランド対向空間(20)の容積が小さくなり、第1ランド対向空間(19)や第3ランド対向空間(20)をオイルやブローバイガスが通過しやすくなり、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を効果的に低減させることができなくなる場合がある。
第1ランド(3)の幅寸法(W1)に関する値(W1/B)の百分率と、第2ランド(5)の幅寸法(W2)に関する値(W2/B)の百分率と、第3ランド(7)の幅寸法(W3)に関する値(W3/B)の百分率は、その合計が28%以下となるようにするのが望ましい。合計がこの百分率を上回ると、ピストン(18)の全長が適正値よりも長くなり過ぎる場合がある。
【0035】
第2の実験は、20°Cで、シリンダボアの直径(B)が78mm、ピストンヘッド(2)の最大直径(P)が77.5mm、最小直径が77.46mm、ピストンの軸長寸法(L)が70mm、ピストンのストロークが78.4mmの立形水冷の直列4気筒間接噴射式ディーゼルエンジンを用い、エンジン回転数3000rpm、負荷率80%でエンジンを200時間運転して行った。
この第2の実験も第1の実験と同じ寸法比率で調節した実施例エンジンと比較例エンジンを用いて行ったところ、第1の実験と同等の実験結果が確認された。
【0036】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るエンジンについて説明する。
図2(B)に示すように、第2実施形態に係るエンジンは、第3ランド(7)の外周面(7a)と第3リング溝(8)の第3ランド側端面(8a)との境界を第3リング溝(8)に向けて縮径するテーパ面(37)で面取りし、このテーパ面(37)で前記第3ランド(7)の窪み(15)を形成している。
【0037】
図2(B)に示すように、第3リング溝(8)の第3ランド側端面(8a) のシリンダ側仮想延長線(8b)に対するテーパ面(37)の角度(α)が30°〜60°(より望ましくは40°〜50°)、テーパ面(37)のピストン径方向の深さ寸法(E)を第3リング溝(8)のピストン径方向の深さ寸法(F)で除した値(E/F)の百分率が20%〜30%となるようにしており、これがテーパ面(37)の角度(α)やテーパ面(37)の深さ寸法に関する値(E/F)の百分率の最適範囲である。
【0038】
第2ランド(5)のテーパ面(14)の場合と同様、この第3ランド(7)のテーパ面(37)も、この最適範囲内であれば、長時間運転後も安定して、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができ、この最適範囲を外れた場合には、第2圧力リング(11)やオイルリング(12)が振動しやすくなり、そのシール性能の低下により、オイル消費量やブローバイガスの漏れ量を十分に低減させることができない場合がある。
【0039】
また、この第2実施形態に係るエンジンは、第1実施形態と同様、ピストンスカート(9)の外周面(9a)と第3リング溝(8)のピストンスカート側端面(8b)との境界にピストンスカート(9)の窪み(16)を設けているが、このピストンスカート(9)の窪み(16)の形状は、第1実施形態と異なり、ピストン中心軸線(1a)に沿う断面図上、直角L字形の溝(38)で形成され、その奥端面(33)はピストン中心軸線(1a)と平行な向きで、そのピストンヘッド(2)と反対側の面(34)はピストン中心軸線(1a)と直交する向きになっている。
他は、第1実施形態と同じ構造であり、図2中、第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付しておく。
この第2実施形態に係るエンジンも、第1の実施形態に係るエンジンと同様にして実験を行ったところ、第1実施形態と同等結果が得られた。
【符号の説明】
【0040】
(1) ピストン周壁
(2) ピストンヘッド
(3) 第1ランド
(4) 第1リング溝
(5) 第2ランド
(5a) 外周面
(6) 第2リング溝
(6a) 第2ランド側端面
(6b) シリンダ側仮想延長線
(7) 第3ランド
(7a) 外周面
(8) 第3リング溝
(8a) 第3ランド側端面
(8b) ピストンスカート側端面
(9) ピストンスカート
(10) 第1圧力リング
(11) 第2圧力リング
(12) オイルリング
(13) 第2ランドの窪み
(14) テーパ面
(15) 第3ランドの窪み
(16) ピストンスカートの窪み
(Θ) テーパ面の角度
(C) テーパ面の深さ寸法
(D) 第2リング溝の深さ寸法
(C/D) テーパ面の深さ寸法に関する値
(B) シリンダボアの直径
(W2) 第2ランドの幅寸法
(W2/B) 第2ランドの幅寸法に関する値
図1
図2