特許第5893947号(P5893947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893947
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】ブラシレスモータおよび送風機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/16 20060101AFI20160310BHJP
   H02K 5/16 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   H02K21/16 M
   H02K5/16 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-28655(P2012-28655)
(22)【出願日】2012年2月13日
(65)【公開番号】特開2013-165620(P2013-165620A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】川井 洋一
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−229468(JP,A)
【文献】 特開2009−303473(JP,A)
【文献】 特開2005−137144(JP,A)
【文献】 特開2006−067652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/00−21/48
H02K 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の構造を有する軸受ハウジングと、
複数のティースを有するステータコアと、
前記ステータコアの一端を覆う上側インシュレータと、
前記ステータコアの他端を覆う下側インシュレータと、
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータを介して前記ステータコアに巻回されたステータコイルと
を備えたブラシレスモータであって、
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの少なくとも一方が、前記軸受ハウジングにしまりばめされており、
前記ステータコアと前記軸受ハウジングとは、該ステータコアと該軸受ハウジングとの間に設けられた隙間に充填される接着剤により固定され、
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの前記しまりばめがされた部分の内周面には、該内周面の全面が前記軸受ハウジングの外周面に接触しないようにする逃げ部が前記隙間に連通する状態に設けられていることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項2】
円筒状の構造を有する軸受ハウジングと、
複数のティースを有するステータコアと、
前記ステータコアの一端を覆う上側インシュレータと、
前記ステータコアの他端を覆う下側インシュレータと、
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータを介して前記ステータコアに巻回されたステータコイルと
を備えたブラシレスモータであって、
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの少なくとも一方が、前記軸受ハウジングにしまりばめされており、
前記ステータコアと前記軸受ハウジングとは、該ステータコアと該軸受ハウジングとの間に設けられた隙間に充填される接着剤により固定され、
前記軸受ハウジングの前記しまりばめがされた部分の外周面には、該外周面の全面が前記上側インシュレータまたは前記下側インシュレータの内周面に接触しないようにする逃げ部が前記隙間に連通する状態に設けられていることを特徴とするブラシレスモータ。
【請求項3】
前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータが前記しまりばめされている前記軸受ハウジングの部分の内側に、軸受がしまりばめにより固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のブラシレスモータ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブラシレスモータを備え、
ロータと、
前記ロータが備えた羽根車と
を有することを特徴とする送風機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受ハウジングにステータコアを固定する構造に特徴のあるアウターロータ型のブラシレスモータおよび送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アウターロータ型のブラシレスモータにおいて、アルミニウム合金等の金属により構成された軸側のフレームにステータコアを固定する構造において、フレームに大径部と小径部を設け、大径部にステータコアが軽圧入され、小径部とステータコアとの間の隙間に接着剤を充填し、フレームにステータコアを固定する構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−228465号公報
【特許文献2】特開2001−186742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、フレームがアルミニウム合金等の金属により構成され、そこにステータコアを軽圧入することで、フレームにステータコアを固定する構造が開示されている。しかしながら、OA機器等に使用される送風機には、コストダウンのために、特許文献2に記載のように、モータベースの中央から軸受を収容する軸受ハウジングが立設されている構造を樹脂によって一体成型したものがよく知られている。そして、軸受ハウジングの周囲にはステータが取り付けられている。ここで樹脂製の軸受ハウジングにステータを嵌合した場合、電磁鋼板等の硬質の材料で構成されたステータコアから受ける圧力による軸受ハウジングの変形や磨耗(軽圧入時に軸受ハウジングの外周面が削れて磨耗する)が生じる。軸受ハウジングの変形や磨耗が生じると、ロータの回転中心に対するステータコアの位置のずれが発生し、ロータの滑らかな回転が阻害される可能性が増大する。
【0005】
この問題に対処する構造として、軸受ハウジングに対する軽圧入構造を採用せず、軸受ハウジングとステータコア内周面との間に隙間を設け、この隙間に接着剤を充填することで軸受ハウジングにステータコアを接着により固定する構造が挙げられる。しかしながら、この構造は、接着剤が硬化するまでステータコアと軸受ハウジングとを相対的に固定しておくための押さえ治具を必要とし、またそのための工程が必要なため、製造コストが増加する。
【0006】
なお、特許文献1に示す構造は、ステータコア内周面の一部を接着に利用し、他の一部を軽圧入のためのスペースとして利用している。このため、軸受ハウジングとステータコアとの接着面積が制限され、寸法によっては、接着強度を充分に確保できない場合が生じる。
【0007】
このような背景において、本発明は、軸受ハウジングにステータコアを固定する構造において、接着剤が完全に硬化していなくてもロータの回転中心に対するステータコアの位置のズレが抑えられ、且つ、仮固定のための押え冶具が不要となる構造のブラシレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、円筒状の構造を有する軸受ハウジングと、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアの一端を覆う上側インシュレータと、前記ステータコアの他端を覆う下側インシュレータと、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータを介して前記ステータコアに巻回されたステータコイルとを備えたブラシレスモータであって、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの少なくとも一方が、前記軸受ハウジングにしまりばめされており、前記ステータコアと前記軸受ハウジングとは、該ステータコアと該軸受ハウジングとの間に設けられた隙間に充填される接着剤により固定され、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの前記しまりばめがされた部分の内周面には、該内周面の全面が前記軸受ハウジングの外周面に接触しないようにする逃げ部が前記隙間に連通する状態に設けられていることを特徴とするブラシレスモータである。
また、請求項2に記載の発明は、円筒状の構造を有する軸受ハウジングと、複数のティースを有するステータコアと、前記ステータコアの一端を覆う上側インシュレータと、
前記ステータコアの他端を覆う下側インシュレータと、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータを介して前記ステータコアに巻回されたステータコイルとを備えたブラシレスモータであって、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータの少なくとも一方が、前記軸受ハウジングにしまりばめされており、前記ステータコアと前記軸受ハウジングとは、該ステータコアと該軸受ハウジングとの間に設けられた隙間に充填される接着剤により固定され、前記軸受ハウジングの前記しまりばめがされた部分の外周面には、該外周面の全面が前記上側インシュレータまたは前記下側インシュレータの内周面に接触しないようにする逃げ部が前記隙間に連通する状態に設けられていることを特徴とするブラシレスモータである。
【0009】
請求項1および2に記載の発明によれば、軸受ハウジングとステータコアとの結合が、ステータコアに装着されるインシュレータを介したしまりばめ構造により行われる。このしまりばめの構造により、樹脂製の軸受ハウジングを用いても、軸受ハウジングの変形や摩耗を生じさせることなく、ロータの回転中心に対するステータコアの位置のズレが抑えられ、且つ、仮固定のための押え冶具が不要な構造が得られる。
【0010】
また、請求項1および2に記載の発明によれば、しまりばめ面に逃げ部を有した構造により、しまりばめのしめしろを確保した上で、圧入が容易となる構造が得られる。また、しまりばめ面の逃げ部を、接着剤を用いた場合における接着剤の逃げ部としても利用することができる。
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記上側インシュレータおよび前記下側インシュレータが前記しまりばめされている前記軸受ハウジングの部分の内側に、軸受がしまりばめにより固定されていることを特徴とする。請求項に記載の発明によれば、軸受によって軸受ハウジングが内側から拡径され、外側に拡げられる。このため、その部分で軸受ハウジングがインシュレータを内側から押し、軸受ハウジングとインシュレータのしまりばめの構造が更に強固となる。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項1乃至のいずれか一項に記載のブラシレスモータを備え、ロータと、前記ロータが備えた羽根車とを有することを特徴とする送風機である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸受ハウジングにステータコアを固定する構造において、接着剤が完全に硬化していなくてもロータの回転中心に対するステータコアの位置のズレが抑えられ、且つ、仮固定のための押え冶具が不要な構造のブラシレスモータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の断面図である。
図2】ステータの斜視図である。
図3】軸受ハウジングとステータとの結合の状態を示す分解断面図である。
図4】実施形態の分解断面図である。
図5】ステータの斜視図である。
図6図5に示す構造の断面図である。
図7】軸受ハウジングとステータとの結合の状態を示す分解断面図である。
図8】ステータの断面図である。
図9】軸受ハウジングとステータとの結合の状態を示す分解断面図である。
図10図4(B)の一部を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(構成)
図1には、実施形態の送風機100の断面図が示されている。図2には、ステータコア107に上側インシュレータ109と下側インシュレータ111を装着し、更に上側インシュレータ109と下側インシュレータ111の上からステータコイル110を巻回した構造を有するステータ120の斜視図が示されている。
【0017】
送風機100は、実施形態のブラシレスモータを動力源としている。送風機100は、ケーシング101の内側にブラシレスモータにより回転する羽根車102を備えている。羽根車102には、その回転中心となる部分にシャフト103が固定されている。シャフト103は、回転する軸となる部材であり、軸受104aおよび104bにより、軸受ハウジング106の内側に回転自在な状態で保持されている。符号105は、軸受104aおよび104bに予圧を与えるためのバネである。軸受ハウジング106は、モータベース117に立設され、ケーシング101と一体に射出成形により形成された樹脂製の部材である。
【0018】
軸受ハウジング106は、略円筒状の構造を有している。図3に示すように、軸受ハウジング106は、内周に軸受取付面119aおよび119bを有している。さらに、軸受ハウジング106は、外周にステータ取付面121を有している。このステータ取付面121は、軸方向に沿って、上側対向面121a、中央対向面121b、下側対向面121cを有している。中央対向面121bには、ステータコア107が固定されている。ステータコア107は、電磁鋼板を打抜き加工したものを複数積層した構造を有し、回転中心(軸中心)から離れる方向に延在する4極のティース(極歯)を有している。ステータコア107を軸方向から見た形状は、通常のアウターロータ型のブラシレスモータのステータコアと同じである。ステータコア107の内周面と中央対向面121bとの間には、隙間108が設けられている。この隙間108に接着剤が充填されることで、ステータコア107と軸受ハウジング106との接着が行われている。
【0019】
図示する視点から見たステータコア107の軸方向上側には、樹脂製の上側インシュレータ109が取り付けられ、ステータコア107の一端(この場合は、上側の端部)が上側インシュレータ109によって覆われた構造とされている。この上側インシュレータ109には、ステータコイル110が巻回され、上述したステータコア107のティース(極歯)に絶縁物を介してステータコイル110が巻回された構造が得られている。すなわち、ステータコイル110は、上側インシュレータ109を間に介してステータコア107のティースに巻回されている。上側インシュレータ109を用いることで、ステータコイル110の巻線(マグネットワイヤ)とステータコア107とが直接接触しない状態とされ、ステータコイル110の巻線とステータコア107との電気的なショートが防止されている。この機能は、後述する下側インシュレータ111も同じである。なお、図2において、ステータコア107の内周面とステータコア107のティースの外周面以外の部分は、上側インシュレータ109の影に隠れている。
【0020】
上側インシュレータ109は、全体が略環状の形状を有し、軸中心側に位置する円筒部109aと、外周側に立設する4箇所の出部109bを有している。円筒部109aと突出部109bとの間にステータコイル110を構成する巻線が巻回されている。上側インシュレータ109の円筒部109aの内周面に軸受ハウジング106の上側対向面121aがしまりばめされている。ここでは、上側対向面121aの径を、上側インシュレータ109の内径(円筒部109aの内径)よりも大きな寸法とすることで、上側インシュレータ109の内側に軸受ハウジング106をしまりばめにより固定する構造を得ている。
【0021】
ステータコア107の下側には、樹脂製の下側インシュレータ111が取り付けられ、ステータコア107の他端(この場合は、下側の端部)が下側インシュレータ111によって覆われた構造とされている。下側インシュレータ111は、全体が略環状の形状を有し、軸中心側に位置する円筒部111aと、外周に立設する4箇所の突出部111bを有している。円筒部111aと突出部111bとの間にステータコイル110を構成する巻線が巻回されている。下側インシュレータ111の円筒部111aの内径は、軸受ハウジング106の下側対向面の径よりも大きく、円筒部111aの内周面と下側対向面121cとの間には、隙間112が設けられている。
【0022】
下側インシュレータ111の突出部111bには、図1に示すように金属製の接続ピン113が埋め込まれている。接続ピン113にプリント基板114が半田付けにより固定されている。接続ピン113には、ステータコイル110の巻線の端部が接続される。また、接続ピン113は、プリント基板114の導体パターン(図示省略)に電気的に接続され、この導体パターンに外部からの配線(図示省略)が接続される。
【0023】
羽根車102の内側には、空間が設けられており、その内周面には、電磁鋼板により構成されたロータヨーク115と永久磁石により構成されたロータマグネット116が取り付けられている。ロータマグネット116は、隙間を隔ててステータコア107の外周面に対向している。シャフト103とロータヨーク115とロータマグネット107と羽根車102とでロータ118が構成される。ロータ118は、ステータコア107に対して、その外側で回転することが可能である。
【0024】
(組み立て手順)
ステータコア107に上側インシュレータ109、下側インシュレータ111およびステータコイル110が組み付けられたステータ120を軸受ハウジング106に固定する工程の一例を、図3を参照して説明する。まず、ステータコア107を用意する。そして、ステータコア107に上側インシュレータ109と下側インシュレータ111を取り付け、さらにステータコイル110を巻回することで、ステータ120を得る(図3(A))。なお、図3において、接続ピン113およびプリント基板114は図示省略されている。
【0025】
次に、図3(A)に示す状態の軸受ハウジング106を用意し、軸受ハウジング106の中央対向面121bおよびステータコア107の内周面の一方または両方に接着剤を塗布する。次いで、図3(A)に示すように軸受ハウジング106をステータ120の内側の空洞部分122に挿入し、図3(B)の状態を得る。
【0026】
この際、軸受ハウジング106の上側対向面121aおよび中央対向面121bは、同じ外径bを有する円筒外周面であり、下側対向面121cは、外径bの円筒外周面である。ここで、b>bとされているので、両者の間には段差123が設けられ、この段差123にステータコア107の下端部内周縁が当接する。この状態が、図3(B)に示されている。この構造により、軸受ハウジング106に対するステータ120の軸方向における位置決めが行われる。
【0027】
ここで、aを上側インシュレータ109の内径(円筒部109aの内径)、aをステータコア107の内径、aを下側インシュレータ111の内径(円筒部111aの内径)、bを上側対向面121aおよび中央対向面121bの外径、bを下側対向面121cの外径として、a<b、a>b、a>bとなるように寸法が設定されている。例えば、b=10mmの場合に、a=(b−25μm)〜(b−50μm)と設定されている。この条件では、上側インシュレータ109と軸受ハウジング106のどちらも樹脂製なので、軽圧入程度のしまりばめとなり、軸受ハウジング106の過大な変形が防止できる。
【0028】
上記の寸法設定とすることで、図3(B)の状態において、軸受ハウジング106は上側インシュレータ109としまりばめとなり、上側対向面121aは上側インシュレータ109の円筒部109aによって回転中心の方向に締め付けられる。また、中央対向面121bは、隙間108を有した状態でステータコア107の内周面に対向する。また、この隙間108に接着剤が充填された状態となる。そして、下側対向面121cは隙間112を隔てて下側インシュレータ111の内周面に対向する。
【0029】
そして、隙間108に充填された接着剤が硬化することで、中央対向面121bがステーコア107の内周面に接着され、軸受ハウジング106とステータ120が結合する。勿論、この固定には、軸受ハウジング106と上側インシュレータ109との間のしまりばめ構造も寄与している。
【0030】
次に、軸受ハウジング106の軸受取付面119aまたは軸受104aの外周面の一方または両方に接着剤を塗布し、図4(A)→図4(B)の工程で示すように、軸受取付面119aの内側に軸受104aを挿入し固定する。ここで、軸受104aの外径は、軸受取付面119aの内径よりも小さく設定されており、軸受104aは、すきまばめにより、軸受ハウジング106に挿入され、接着剤によって固定される。
【0031】
(優位性)
樹脂製の軸受ハウジング106と電磁鋼板の積層物により構成されたステータコア107との間に隙間108が設けられ、そこに接着剤が充填される構造とすることで、軸受ハウジング106にステータコア107からの圧力が加わらない。そのため、ステータコア107が軸受ハウジング106に直接接触することに起因する軸受ハウジング106の変形や磨耗の発生が抑えられる。また、軸受ハウジング106の上側対向面121aが、外側から上側インシュレータ109によって回転中心の方向に向かって締め付けられるが、この部分の内側に軸受104aが位置するように軸受ハウジング106の軸受取付面119aを形成することで、軸受ハウジング106の変形が抑えられる。また、上側インシュレータ109も樹脂であるので、上側対向面121aと上側インシュレータ109の内周面とが接触した際に、上側対向面121aが削れて磨耗する現象が生じ難い。
【0032】
更に、上側対向面121aがしまりばめにより、上側インシュレータ109の内周面に固定されるので、隙間108が設けられていても回転中心に対するステータコア107の位置のズレの発生が抑えられる。
【0033】
また、上側対向面121aがしまりばめによって上側インシュレータ109の内周面に固定される構造が、隙間108に充填された接着剤が硬化するまでの仮固定構造となるので、接着時における仮固定のための押さえ治具が不要となる。
【0034】
すなわち、図3(A)の工程を経て、図3(B)に示す状態となった直後において、隙間108に充填された接着剤は硬化しておらず、その接着機能は低い。しかしながら、この状態において、上側インシュレータ109が上側対向面121aにしまりばめにより固定されているので、この固定構造が、上記の隙間108に充填された接着剤が硬化するまでの間における仮固定構造および位置決め構造として機能する。したがって、隙間108に充填された接着剤が硬化するまでの間における仮固定のための押さえ治具は不要であり、また、当該接着剤が完全に硬化する前の段階に図3(B)に示す状態の中間組立部材の取り扱い(例えば、次工程での取り扱い)が可能となる。
【0035】
また、ステータコア107と軸受ハウジング106との接着面積を最大限に確保できるので、ステータコア107と軸受ハウジング106とを接着により強固に固定することができる。
【0036】
2.第2の実施形態
上側インシュレータの他の例について説明する。図5は、ステータ130の斜視図である。図6は、ステータ130の断面図である。図5および図6において、図2と同じ符号の部分は、図2に関連して説明した部分と同じである。
【0037】
図5および図6には、ステータコア107の上部に取り付けられた上側インシュレータ131が示されている。上側インシュレータ131は、全体が略環状の形状を有し、軸中心側に位置する円筒部131aと、外周側に立設する4箇所の突出部131bを有している。この例では、円筒部131aの内周面に、軸方向の溝からなる凹部133が周方向に沿って設けられている。凹部133は、円筒部131aの内周面の全面が軸受ハウジング106の外周面に接触しないようにするための逃げ部である。これにより、円筒部131aの内周面には軸受ハウジングとしまりばめになる凸部132と、凹部(逃げ部)133とが周方向に沿って交互に設けられた凹凸構造が付与される。
【0038】
図7は、ステータ130と軸受ハウジング106との結合の状態を示す分解断面図である。図7において、図3と同じ部分は、同じ符号で示されている。この例の場合、凸部132によって規定される内径(言い換えると複数の凸部132の内側に嵌る円筒の外径)をa、軸受ハウジング106の上側対向面121aの径をbとすると、a<bの寸法関係に設定されている。他の寸法関係は、第1の実施形態の場合と同じである。本実施形態の構造によれば、上側インシュレータ131の円筒部131aの内周面は、しまりばめによって上側対向面121aに固定される。
【0039】
この構造では、凸部132が凹部133の側に変形することが可能であり、少ない力で挿入が可能になる。したがって、しまりばめのしめしろを十分確保した上で、軽圧入によって固定可能な構造を容易に得ることができる。なお、隙間108の部分に接着剤が充填され、それにより軸受ハウジング106に上側インシュレータ131が接着により固定される点は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0040】
図8には、ステータ140が示されている。ステータ140は、上側インシュレータ131における円筒部131aの内周面に、複数の凸部134が形成されるように凹部135を設けた形状を有している。凸部134は、軸方向寸法が図6の場合よりも短く設定されている。他の部分は、図6のステータ130の場合と同じである。このように、円筒部131aの内周面に設けられる凹部の範囲は任意に設定することができる。
【0041】
これらの凹部133や凹部135を利用した構造は、凹部(例えば凹部133)が隙間108に充填される接着剤の逃げ部ともなるので、接着剤の塗布量の管理が容易となる。すなわち、多めに接着剤を塗布しても、例えば凹部133が接着剤の逃げ部となり、隙間108において接着剤の行き場がなくなることに起因して、ステータ140の軸受ハウジング106への装着が困難になる問題が発生しない。
【0042】
3.第3の実施形態
第1の実施形態において、上側対向面121aに、複数の凸部が形成されるように凹部(逃げ部)を設け、この凸部の頂部が上側インシュレータ131の円筒部131aの内周面に接触する形態も可能である。この場合も第2の実施形態と同様の優位性が得られる。
【0043】
4.第4の実施形態
図9に他の実施形態を示す。この例では、ステータの構造が第1〜第4の実施形態の場合と異なっている。図9には、ステータ150が示されている。なお、ステータ150と結合する軸受ハウジング106は、図1および図3に示す第1の実施形態の場合のものと同じである。
【0044】
ステータ150は、ステータコア107の上側に上側インシュレータ151を装着し、ステータコア107の下側に下側インシュレータ152を装着した構造を有している。上側インシュレータ151は、全体が略環状の形状を有し、軸中心側に位置する円筒部151aと、外周側に立設する4箇所の突出部151bを有している。また、下側インシュレータ152は、全体が略環状の形状を有し、軸中心側に位置する円筒部152aと、外周側に立設する4箇所の突出部152bを有している。
【0045】
ここで、上側インシュレータ151における円筒部151aの内径a’は、軸受ハウジング106の上側対向面121aの径bよりも大きい寸法に設定されている(a’>b)。よって、図9(B)に示す結合状態において、円筒部151aの内周面と上側対向面121aとの間には、隙間153が形成される。
【0046】
一方において、下側インシュレータ152の円筒部152aの内径a’は、軸受ハウジング106の下側対向面121cの径bよりも小さい寸法に設定(a’<b)され、円筒部152aの内側に下側対向面121cを挿入した際に、しまりばめ構造が形成されるように調整されている。なお、ステータコア107の内周面と軸受ハウジング106の中央対向面121bとの間に隙間108が形成され、そこに接着剤が充填される構造は、第1の実施形態の場合と同じである。
【0047】
本実施形態によれば、下側インシュレータ152がしまりばめにより、軸受ハウジング106と結合する。このしまりばめ構造が得られることで、隙間108に充填した接着剤が硬化するまでの間、ステータ150が軸受ハウジング106に仮固定され、位置固定用の治具を用いなくても接着剤が硬化する間にステータ150と軸受ハウジング106との相対位置がずれることがない構造が得られる。
【0048】
5.第5の実施形態
図4に示す構造において、軸受104aの外径を軸受ハウジング106の軸受取付面119aの径よりも大きくし、図4(A)に示す状態を得た後に、軸受104aを軸受取付面119aに圧入固定してもよい。この場合、軸受104aを挿入することで、軸受取付面119aに対応する上側対向面121aの径が拡げられ、上側インシュレータ109の円筒部109aが外側に拡げられる。これにより、軸受ハウジング106の上側対向面121aと円筒部109aの内周面との間のしまりばめがよりきつくなり、軸受ハウジング106と上側インシュレータ109との結合が更に強固となる。この構造によれば、しまりばめの構造がより強固となるので、隙間108に充填される接着剤を省くことも可能である。勿論、接着剤を併用してもよい。
【0049】
上記結合構造を採用する場合、図10に示すように、上側インシュレータ109の円筒部109aと軸受ハウジング106の間のしまりばめ部の軸方向範囲Lと、軸受104aと軸受ハウジング106の軸受取付面119aとの間のしまりばめ部の軸方向範囲Lとの重なりが少なくとも一部で生じていることが必要である。勿論、この重なりは極力大きい方が好ましい。例えば、図10の示すようにLの範囲の中にLの範囲が含まれている場合、より効果的な結合の構造が得られる。
【0050】
6.第6の実施形態
図3の構造と図9の構造を組み合わせても良い。すなわち、上側インシュレータと下側インシュレータの両方の部分において、軸受ハウジングを締め付けた状態のしまりばめの構造を採用することもできる。この構造によれば、上下の2箇所の部分で軸受ハウジングとステータとがしまりばめによって結合するので、ステータが軸受ハウジングにより強固な構造で固定される。
【0051】
(その他)
図9に示す構造において、下側インシュレータ152の円筒部152aの内周面に図5の場合と同様な凹部を形成した構造とすることも可能である。また、図9に示す構造において、円筒部152aと接触する軸受ハウジング106の下側対向面121cに、凹部を形成した構造とすることも可能である。また、上側インシュレータ151と下側インシュレータ152の両方において、しまりばめの構造を採用した場合に、その両方において、インシュレータ側または軸受ハウジング側に凹部を形成した構造を付与する構造も可能である。また、上側インシュレータ151と下側インシュレータ152の両方において、しまりばめの構造を採用した場合に、その一方において、インシュレータ側の内周面を凹部を形成した構造とし、その他方において、軸受ハウジング側の外周面を凹部を形成した構造とすることも可能である。
【0052】
図9に示す構造において、軸受ハウジング106の軸受取付面119bに軸受104bをしまりばめにより固定する構造としてもよい。この場合、第5の実施形態と同様の優位性を得ることができる。本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、アウターロータ型のブラシレスモータに利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100…送風機、101…ケーシング、102…羽根車、103…シャフト、104a…軸受、104b…軸受、105…バネ、106…軸受ハウジング、107…ステータコア、108…隙間、109…上側インシュレータ、109a…円筒部、109b…突出部、110…ステータコイル、111…下側インシュレータ、111a…円筒部、111b…突出部、112…隙間、113…接続ピン、114…プリント基板、115…ロータヨーク、116…ロータマグネット、117…モータベース、118…ロータ、119a…軸受取付面、119b…軸受取付面、120…ステータ、121…ステータ取付面、121a…上側対向面、121b…中央対向面、121c…下側対向面、122…空洞部分、123…段差、130…ステータ、131…上側インシュレータ、131a…円筒部、131b…突出部、133…凹部(逃げ部)、135…凹部(逃げ部)、140…ステータ、150…ステータ、151…上側インシュレータ、151a…円筒部、151b…突出部、152…下側インシュレータ、152a…円筒部、152b…突出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10