特許第5893957号(P5893957)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893957
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20160310BHJP
   F04C 28/06 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   F04C18/344 361G
   F04C28/06 A
   F04C18/344 351Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-41339(P2012-41339)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-177835(P2013-177835A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】カルソニックカンセイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】神川 正寛
(72)【発明者】
【氏名】島口 博匡
【審査官】 田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−041470(JP,A)
【文献】 実開昭56−105690(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 28/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸(10)を有するモータ部(8)と、このモータ部(8)の回転駆動力が前記駆動軸(10)を介して伝達され圧縮行程で回転し冷媒を圧縮する圧縮部(5)とを備え、
前記圧縮部(5)はシリンダ室(21)が形成されたシリンダブロック(14)と、このシリンダブロック(14)の両端部に固定されてシリンダ室(21)を閉じ空間とする一対のサイドブロック(16,17)と、前記シリンダ室(21)内に回転自在に設けられ前記駆動軸(10)と一体に形成されてシリンダ室(21)内で回転するとともにベーン溝(32)と該ベーン溝(32)の底部に形成されたベーン背圧室(38)とを有する回転ロータ(12)と、該回転ロータ(12)の前記ベーン溝(32)に出没自在に配置されてベーン背圧室(38)から背圧を受けて突出し回転ロータ(12)の回転により冷媒を圧縮するベーン(34)とを有するベーン型圧縮機(1)であって、
背圧付与工程時に圧縮したオイル(18)を前記ベーン背圧室(38)内に供給して前記ベーン溝(32)内のベーン(34)に背圧を付与するオイルポンプ(6)を備え、
前記ベーン型圧縮機(1)の起動時に、前記背圧付与工程を行い、次に圧縮行程を行い、
前記オイルポンプ(6)は、前記モータ部(8)の駆動軸(10)と連結されて、背圧付与工程でモータ部(8)の回転駆動力でオイル(18)を圧縮し前記ベーン背圧室(38)内に供給することを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【請求項2】
請求項1記載のベーン型圧縮機(1)であって、
前記ベーン型圧縮機(1)の起動時に前記駆動軸(10)が圧縮行程時の回転方向と逆方向に回転して前記オイルポンプ(6)を駆動し、オイル(18)を圧縮し前記ベーン背圧室(38)内に供給することを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【請求項3】
請求項2記載のベーン型圧縮機(1)であって、
前記圧縮行程時の前記駆動軸(10)の回転時に前記オイルポンプ(6)と非連結状態となり、前記背圧付与行程の前記駆動軸(10)の回転時に前記オイルポンプ(6)と連結状態となるワンウェイクラッチ(30)を介して前記駆動軸(10)と前記オイルポンプ(6)とが連結されていることを特徴とするベーン型圧縮機(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関するものであって、特に、ロータから突出するベーンによって冷媒を圧縮するベーン型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、従来のベーン型圧縮機は、ロータの回転により、ロータとシリンダと両サイドブロックとベーンとにより構成された複数個の圧縮室の容積をそれぞれ変化させて、圧縮室の内部の気体を圧縮し、ベーンに対する所定の油圧の供給通路に加えて、圧縮室が圧縮行程にあるときのベーンに対して所定の油圧よりも高圧の油圧を供給する高圧供給通路が形成され、ベーン溝に高圧供給通路を開口することにより通常の背圧以外の油圧をベーンに作用させ、この油圧によってベーンの移動を行うと共にチャタリングの発生を防止するという従来技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−100602
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、ベーン溝に高圧供給通路を開口することにより通常の背圧以外の油圧をベーンに作用させ、この油圧によってベーンの移動を行うと共にチャタリングの発生を防止しているが、圧縮開始時に油圧が十分にベーン背圧室に供給されず、ベーンがシリンダ内壁に衝突しチャタリングを起こすという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、ベーン型圧縮機の起動時にチャタリングを発生させないベーン型圧縮機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、駆動軸10を有するモータ部8と、このモータ部8の回転駆動力が前記駆動軸10を介して伝達され圧縮行程で回転し冷媒を圧縮する圧縮部5とを備え、前記圧縮部5はシリンダ室21が形成されたシリンダブロック14と、このシリンダブロック14の両端部に固定されてシリンダ室21を閉じ空間とする一対のサイドブロック16,17と、前記シリンダ室21内に回転自在に設けられ前記駆動軸10と一体に形成されてシリンダ室21内で回転するとともにベーン溝32と該ベーン溝32の底部に形成されたベーン背圧室38とを有する回転ロータ12と、該回転ロータ12の前記ベーン溝32に出没自在に配置されてベーン背圧室38から背圧を受けて突出し回転ロータ12の回転により冷媒を圧縮するベーン34とを有するベーン型圧縮機1であって、背圧付与工程時に圧縮したオイル18を前記ベーン背圧室38内に供給して前記ベーン溝32内のベーン34に背圧を付与するオイルポンプ(6)を備え、前記ベーン型圧縮機1の起動時に、前記背圧付与工程を行い、次に圧縮行程を行い、前記オイルポンプ6は、前記モータ部8の駆動軸10と連結されて、背圧付与工程でモータ部8の回転駆動力でオイル18を圧縮し前記ベーン背圧室38内に供給することを特徴とする。
【0008】
請求項に係る発明は、請求項記載のベーン型圧縮機1であって、前記ベーン型圧縮機1の起動時に前記駆動軸10が圧縮行程時の回転方向と逆方向に回転して前記オイルポンプ6を駆動し、オイル18を圧縮して前記ベーン背圧室38内に供給することを特徴とする。
【0009】
請求項に係る発明は、請求項記載のベーン型圧縮機1であって、前記圧縮行程時の前記駆動軸10の回転時に前記オイルポンプ6と非連結状態となり、前記背圧付与行程の前記駆動軸10の回転時に前記オイルポンプ6と連結状態となるワンウェイクラッチ30を介して前記駆動軸10と前記オイルポンプ6とが連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のベーン型圧縮機1は、ベーン型圧縮機1の起動時に、まず背圧付与工程を行い、次いで圧縮工程を行うことにより、駆動軸10に連結されたオイルポンプ6をモータ部8の回転によって駆動軸10を逆転させてオイルポンプ6を作動させ、オイルポンプ6で発生させた油圧をベーン背圧室38に供給する背圧付与工程によって、ベーン背圧室38にオイル18供給することができ、駆動軸10とオイルポンプ6は、ワンウェイクラッチ30を介して連結されており、駆動軸10の逆転時には駆動軸10とワンウェイクラッチ30は連結状態となり、駆動軸10の正転時には駆動軸10とワンウェイクラッチ30は非連結状態となるので、ベーン背圧室38に油圧を十分に供給することができ、ベーン型圧縮機1の起動時にチャタリングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の圧縮機の概略断面図。
図2】本発明のオイルポンプの概略図。
図3】本発明の圧縮機の圧縮行程と背圧付与行程を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜3を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1を用いて本発明のベーン型圧縮機1について説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明のベーン型圧縮機1は、有底筒状のハウジング2と、ハウジング2に固定されるインバータ部3と、ハウジング2内に収容されて冷媒を圧縮する圧縮機構4と、ハウジング2内の潤滑を保つオイル18と、圧縮機構4にオイル18を供給するオイルポンプ6と、ハウジング2内の冷媒とオイル18とを分離するオイルセパレータ20と、から構成されている。
【0015】
このハウジング2は、有底筒状に形成されており、ハウジング2の外周面には図示しない冷媒がハウジング2内に吸入する冷媒吸入口と冷媒をハウジング2内から吐出する冷媒吐出口が設けられ、ハウジング2の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構4とハウジング2内の潤滑を行うオイル18とが収容されている。この有底筒状のハウジング2の開口端部50は、開口端部50を閉塞するようにキャップ部28が図示しないボルト等によって固定され吸入室22を形成している。
【0016】
このキャップ部28を介してハウジング2に固定されるインバータケース54は、冷媒を圧縮する圧縮機構4の制御を行うインバータ部3を収容している。このインバータ部3では、後述する背圧付与行程および圧縮行程の制御を行っている。
【0017】
インバータ部3によって駆動を制御される圧縮機構4は、駆動軸10を有するモータ部8と、このモータ部8の回転駆動力が駆動軸10を介して伝達され圧縮行程で回転し冷媒を圧縮する圧縮部5とから構成されている。
【0018】
圧縮部5は、冷媒を圧縮するシリンダ室21が形成されたシリンダブロック14と、このシリンダブロック14の両端部に固定されてシリンダ室21を閉じ空間とする一対のサイドブロック16,17と、シリンダ室21内に回転自在に設けられ圧縮機構4の駆動軸10と一体に形成され、シリンダ室21内で回転するとともにベーン溝32と該ベーン溝32の底部に形成されたベーン背圧室38とを有する回転ロータ12と、回転ロータ12のベーン溝32に出没自在に配置されてベーン背圧室38から背圧を受けて突出し回転ロータ12の回転により冷媒を圧縮するベーン34とを有している。
【0019】
一対のサイドブロック16,17は、シリンダブロック14を狭持するように配置され、一方のサイドブロック16は、ハウジング2の内壁にボルト40によって固定されており、他方のサイドブロック17は、ハウジング2の内壁に嵌合している。この一対のサイドブロック16,17がハウジング2と嵌合することによって、ハウジング2内を冷媒の吐出室23と吸入室22とに分割している。
【0020】
他方のサイドブロック17には、吐出室23側へ突出する突出部42と、ベーン34が収容されるベーン背圧室38に連通するサライ溝46が設けられ、この突出部42には、一定方向のみに回転し、回転動力を伝達するワンウェイクラッチ30を収容するクラッチ収容凹部44が設けられ、サライ溝46と後述するオイルポンプ6とを連通するオイル供給通路48が設けられている。ワンウェイクラッチ30は、圧縮行程時の駆動軸10の回転時にオイルポンプ6と非連結状態となり、背圧付与行程の駆動軸10の回転時にオイルポンプ6と連結状態となる。このワンウェイクラッチ30を介して駆動軸10と前記オイルポンプ6とが連結されている。
【0021】
このワンウェイクラッチ30が収容されるクラッチ収容凹部44には、後述するオイルポンプ6を駆動させるワンウェイクラッチ30が駆動軸10の逆回転方向のみに回転自在に配置されている。
【0022】
モータ部8の駆動軸10と連結されているオイルポンプ6は、図2に示すように、ポンプハウジング7と、時計回りに回転するセンターロータ9と、センターロータ9と同方向に回転するアウターロータ11と、から構成されている。ポンプハウジング7には、ハウジング2内に貯留するオイルを吸い上げオイルポンプ6内にオイル18を吸入するオイル吸入口13と、センターロータ9及びアウターロータ11によってオイル吸入口13から吸入されたオイル18を圧縮するポンプ室19と、ポンプ室19で圧縮されたオイル18をサイドブロック17に形成されたオイル供給通路48へ吐出するオイル吐出口15と、が形成されている。
【0023】
オイルポンプ6によって圧縮されたオイル18は、サイドブロック17に形成されたオイル供給通路48、サライ溝46の順に供給される。サライ溝46に供給されたオイル18は、サライ溝46と連通するベーン背圧室38に供給され、ベーン34をベーン溝32から押し出す。
【0024】
次に、図3を用いてベーン型圧縮機1の動作について説明する。
【0025】
圧縮機運転状態が起動直前の時、つまり背圧付与行程の時、モータ部8がインバータ部3から通常の駆動軸10が正回転する時と逆の電流が流され、モータ部8が通常と逆方向に回転する。このモータ部8の逆回転により、モータ部8と一体に形成された駆動軸10が逆回転し、駆動軸10に固定されたワンウェイクラッチ30が連結状態となり、オイルポンプ6を駆動させベーン背圧室38に油圧を十分に供給することができる。
【0026】
また、圧縮機運転状態が通常運転時、つまり圧縮行程の時は、インバータ部3からモータ部8を正回転させる電流が流され、モータ部8が通常の正回転方向に回転する。この時、駆動軸10に固定されたワンウェイクラッチ30は非連結状態となり、ワンウェイクラッチ30が空転するため、オイルポンプ6を駆動させることがない。
【0027】
すなわち、操作者が圧縮機の運転状態が起動直前の時、エアコン等のスイッチをオンにすると、背圧付与工程として、インバータケース54内のインバータ部3に駆動開始の信号が送られ、インバータ部3からモータ部8に電流が流れる。モータ部8に電流が流れることにより、モータ部8に磁力が発生し、この磁力によって駆動軸10が回転する。この際、通常流す電流と反対の電流をモータ部8に流すことによって駆動軸10を逆回転をさせる。
【0028】
ベーン型圧縮機1の起動時に駆動軸10が圧縮行程時の回転方向と逆方向に回転して駆動軸10に固定されたワンウェイクラッチ30が連結され、この駆動力をワンウェイクラッチ30によってオイルポンプ6に伝達することでオイルポンプ6が駆動する。
【0029】
駆動力が伝達されたオイルポンプ6は、ハウジング2の下方に貯留しているハウジング2内の潤滑のためのオイル18をオイル吸入口13から吸い上げ、ポンプ室19でオイル18を圧縮しオイル吐出口15からサイドブロック17に形成されたオイル供給通路48に吐出する。オイル供給通路48へ供給されたオイル18がサイドブロック17に形成されたサライ溝46を通り、サライ溝46と連通するベーン背圧室38に供給され、ベーン34をベーン溝32から押し出して、シリンダ室21の内壁に当接する。
【0030】
なお、このような背圧付与行程は、ベーン34がベーン溝32から突出すれば良く、回転ロータ12を約1〜2秒程度逆回転させれば良い。また、駆動軸10を逆回転させる際には、正回転と逆の信号をインバータ部3からモータ部8へ送り、かつ、100rpm以下でゆっくりと駆動軸10が回転するようにインバータ部3で制御している。
【0031】
ベーン34がベーン溝32から押し出されてシリンダ室21の内壁に当接した後、圧縮工程として、駆動軸10を逆回転させる制御信号であるインバータ部3からのモータ部8への電流を遮断し、モータ部8が通常の正回転方向へ回転する電流をモータ部8に流すことによって駆動軸10を正回転させる。
【0032】
駆動軸10を正回転させることにより、回転ロータ12が回転し、背圧付与工程によってベーン溝32から押し出されたベーン34とシリンダ室21の内壁との間でシリンダ室21に吸入された冷媒を圧縮する。
【0033】
このような構成とすることにより、ベーン型圧縮機1の起動時に、駆動軸10に連結されたオイルポンプ6をモータ部8の回転によって駆動軸10を逆転させてオイルポンプ6を作動させ、オイルポンプ6で発生させた油圧をベーン背圧室38に供給する背圧付与工程によって、ベーン背圧室38にオイル18を供給することができる。
【0034】
また、駆動軸10とオイルポンプ6は、ワンウェイクラッチ30を介して連結されており、駆動軸10の逆回転時には駆動軸10とワンウェイクラッチ30は連結状態となり、駆動軸10の正転時には駆動軸10とワンウェイクラッチ30は非連結状態となるので、ベーン背圧室38に油圧を十分に供給することができ、ベーン型圧縮機1の起動時にチャタリングを防止することができる。
【0035】
また、通常の正転時には、ワンウェイクラッチ30が連結せず、逆回転時にのみワンウェイクラッチ30が連結してオイルポンプ6を駆動させるので、オイルポンプ6を過剰に回転させることなく、ベーン背圧室38にオイル18を供給することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、圧縮機に利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ベーン型圧縮機
5 圧縮部
8 モータ部
10 駆動軸
12 回転ロータ
14 シリンダブロック
16 サイドブロック
17 サイドブロック
18 オイル
21 シリンダ室
32 ベーン溝
34 ベーン
38 ベーン背圧室
図1
図2
図3