特許第5893971号(P5893971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱製紙株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000006
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000007
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000008
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000009
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000010
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000011
  • 特許5893971-半透膜支持体の製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893971
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】半透膜支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/10 20060101AFI20160310BHJP
【FI】
   B01D69/10
【請求項の数】1
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-57944(P2012-57944)
(22)【出願日】2012年3月14日
(65)【公開番号】特開2013-188712(P2013-188712A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】緑川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】高山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】志水 祐介
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/049231(WO,A1)
【文献】 特開2012−040546(JP,A)
【文献】 特開2013−071106(JP,A)
【文献】 特開平10−168780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜の塗布面と非塗布面とを有する半透膜支持体の製造方法において、
該塗布面表面におけるJIS P 8140−1976に準拠し、純水を試料として5sec接触させたときのコブ法吸水度が3.0g/m以上、11.0g/m未満であり、半透膜支持体の主体繊維の平均繊維径が7.0〜15.0μmの範囲にあり、かつ、半透膜支持体が主体繊維の融点に対して±0℃〜−20℃の融点を有するバインダー繊維を60質量%以下から30質量%を超えて含有し、
湿式抄造法で製造されたシートを、ロールの少なくとも一方が、主体繊維の融点に対して−30℃〜−50℃に加熱された熱圧加工処理装置にて、熱圧加工処理することを特徴とする半透膜支持体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半透膜支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で、半透膜が広く用いられている。半透膜は、セルロース系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の合成樹脂で構成されている。しかしながら、半透膜単体では機械的強度に劣るため、不織布や織布などの繊維基材からなる半透膜支持体の片面(以下、「塗布面」と記す場合がある)に半透膜が設けられた形態で使用されている。
【0003】
半透膜支持体に半透膜に設けられた形態は、上述したポリスルホン系樹脂等の合成樹脂を有機溶媒に溶解し、半透膜溶液を調製した後、この半透膜溶液を半透膜支持体上に塗布する方法が広く用いられている。そして、効率的に濾過を行うために、スパイラル型半透膜エレメントに組み立てられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
良好な濾過性能を得るためには半透膜と半透膜支持体とが強固に接着する必要があり、そのためには半透膜溶液の一部が半透膜支持体内部に浸透することが好ましい。しかしながら、半透膜支持体の吸液性が低く、半透膜溶液を保持する能力が低い場合、浸透した半透膜溶液が支持体裏面(以下、「非塗布面」と記す場合がある)まで達してしまい(以下、「裏抜け」という)、非塗布面である支持体裏面に皮膜を形成して濾過性能を低下させるおそれがあった。また、スパイラル型半透膜エレメントでは、半透膜を介して供給側流路材と透過水流路材を重ねユニットとし、集水管に巻き付けて製造するのが一般的である。このようなエレメントでは、供給液体と透過液体の混合を防ぐため、半透膜と透過側流路材は三辺を接着剤で封止する必要があり、封止のための接着剤は半透膜が形成されていない半透膜支持体の非塗布面に塗布される。半透膜支持体の吸液性が高すぎると、接着剤が半透膜支持体側に過剰に浸透することにより偏在し、透過側流路材側の接着剤量が不足することにより封止が不十分となり、高圧下で使用される場合には透過水が漏れ出す(以下、「微小リーク」と記す場合がある)おそれがあった。すなわち、半透膜支持体では半透膜溶液や接着剤の吸液性を最適な領域にあわせることが重要であった。
【0005】
半透膜支持体として、主体繊維とバインダー繊維とを含有してなり、湿式抄造法で製造され、熱圧処理された不織布が提案されている。例えば、太い繊維を使用した表面粗度の大きな表面層(太い繊維層)と細い繊維を使用した緻密な構造の裏面層(細い繊維層)との二重構造を基本とした多層構造の不織布よりなる半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。具体的には、太い繊維層を塗布面とし、細い繊維層を非塗布面とした半透膜支持体、細い繊維層を太い繊維層で挟み込み、塗布面と非塗布面の両方を太い繊維層とした半透膜支持体が記載されている。しかしながら、塗布面において、太い繊維を使用しているため、半透膜と半透膜支持体との接着性は向上するものの、太い繊維層と細い繊維層のトータルの平均繊維径が大きすぎるため、裏抜けしやすいという問題があった。
【0006】
引張応力が掛かった際の寸法安定性を向上させ、塗布面が平滑で、裏抜けがなく、半透膜の接着性に優れた半透膜支持体として、特定の複屈折と熱収縮応力とを持つポリエステル系繊維を用いた不織布からなる半透膜支持体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3の半透膜支持体は、引張応力や熱による繊維の部分的な伸縮不均一による不織布の不均一性を改良するには効果があるが、半透膜溶液や接着剤の吸液性にはさらなる改良が必要である。
【0007】
半透膜と半透膜支持体の接着性を良くすること及び裏抜け防止を目的として、半透膜支持体の通気度やポアサイズを調整する方法が提示されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このJIS L1096に準拠した通気度は、半透膜支持体の片面から半透膜支持体内部を通過して別の片面へ透過する空気の量をもとに算出されており、半透膜の吸液性を正確に反映しているものではない。そのため、通気度の範囲を調整するのみでは、半透膜溶液を塗布した際に裏抜けしてしまう場合があった。
【0008】
また、特許文献4では、JIS K3832に準拠したバブルポイント法による平均ポアサイズは、表面張力既知の液体を満たした半透膜支持体の下面より気体を加圧状態で噴出させ、半透膜支持体の上面に気体が通過したときの気体の圧力変化からポアサイズを求める方法であるが、これについても、半透膜溶液の吸液性を正確に反映しているものではない。よって、特許文献4で示されている範囲のポアサイズを有する半透膜支持体に半透膜溶液を塗布した場合、裏抜けを完全に防ぐことは困難であった。
【0009】
半透膜と半透膜支持体の接着性及び、非塗布面同士の接着性を両立することを目的に、塗布面と非塗布面の平滑性の比を調整する方法も提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、JIS P8119に準拠したベック平滑度は、ガラス製の標準面を半透膜支持体表面に所定の圧力で押し当て、その間を所定の圧力差で一定の空気量が抜けるのに要する時間を測定する方法であり、これについても、塗布面の表面に塗布された半透膜溶液の吸液性を正確に反映していない可能性があった。
【0010】
微小リークを防止することを目的に、半透膜支持体のポアサイズを調整することにより、接着剤の吸液性を向上させる方法が提示されている(例えば、特許文献6参照)。しかしながら、ポアサイズは接着剤の吸液性を正確に反映しているものではなく、特許文献6で示されている範囲にポアサイズを調整するのみでは微小リークを完全に防ぐことは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−252543号公報
【特許文献2】特開平4−21526号公報
【特許文献3】特許第3153487号公報
【特許文献4】特開2002−95937号公報
【特許文献5】国際公開第2011/049231号パンフレット
【特許文献6】特開2006−68644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、半透膜との接着性に優れ、半透膜溶液の裏抜けや、透過水の微小リークを防止することに優れた半透膜支持体及び半透膜支持体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、
1)半透膜の塗布面と非塗布面とを有する半透膜支持体の製造方法において、
該塗布面表面におけるJIS P 8140−1976に準拠し、純水を試料として5sec接触させたときのコブ法吸水度が3.0g/m以上、11.0g/m未満であり、半透膜支持体の主体繊維の平均繊維径が7.0〜15.0μmの範囲にあり、かつ、半透膜支持体が主体繊維の融点に対して±0℃〜−20℃の融点を有するバインダー繊維を60質量%以下から30質量%を超えて含有し、
湿式抄造法で製造されたシートを、ロールの少なくとも一方が、主体繊維の融点に対して−30℃〜−50℃に加熱された熱圧加工処理装置にて、熱圧加工処理することを特徴とする半透膜支持体の製造方法
を見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の半透膜支持体は、塗布面と非塗布面とを有する半透膜支持体において、該塗布面表面のコブ法吸水度が3.0g/m以上であり、11.0g/m未満であることを特徴としていることから、半透膜との接着性に優れ、半透膜溶液が裏抜けや、透過水の微小リークを防止することに優れた半透膜支持体を生み出すことが可能となった。
【0015】
本発明の半透膜支持体の製造方法では、主体繊維の平均繊維径が7.0〜15.0μmの範囲にあり、主体繊維の融点に対して±0℃〜−20℃の融点を有するバインダー繊維を60質量%以下から30質量%を超えて含有したシートを湿式抄造にて作製し、ロールの少なくとも一方が、主体繊維の融点に対して−30℃〜−50℃に加熱された熱圧加工処理装置にて熱圧加工処理することにより、塗布面表面のコブ吸水度が3.0g/m以上であり、11.0g/m未満である半透膜支持体が得られ易くなる。すなわち、半透膜支持体が、好適な平均繊維径を有する主体繊維と、主体繊維に近い融点のバインダー繊維とを含有し、湿式抄造され、主体繊維の融点の近傍まで加熱した熱圧加工処理装置にて熱圧加工処理されてなることにより、バインダー繊維を皮膜化するとともに、主体繊維の一部を扁平状に変形させることによって、好適なコブ法吸水度を有する半透膜支持体が得られ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図。
図2】熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図。
図3】熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図。
図4】熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図。
図5】熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図。
図6】スパイラル型半透膜エレメント作製における一工程を示した概略図。
図7】スパイラル型半透膜エレメント作製における一工程を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の半透膜支持体におけるコブ吸水度は、JIS P 8140−1976に準拠し、純水を試料として5sec接触させたときの吸水量を測定して得られる値である。本発明における検討の結果、コブ吸水度を測定することにより、半透膜を製造する際の半透膜溶液と接着剤の吸液性をより正確に把握することが可能となり、コブ吸水度が3.0g/m以上、11.0g/m未満の範囲にある半透膜支持体は、半透膜との接着性に優れ、半透膜溶液が裏抜けや、透過水の微小リークを防止すること優れることが明らかとなった。
【0018】
本発明において、半透膜支持体塗布面のコブ吸水度は3.0g/m以上、11.0g/m未満であり、好ましくは、5.0g/m以上、9.0g/m未満である。コブ吸水度が3.0g/m未満の吸液性が低く、半透膜溶液を保持する能力の低い半透膜支持体では、浸透した半透膜溶液を半透膜支持体内に保持しきれず、半透膜溶液が半透膜支持体裏面に達し、裏抜けが発生する。一方、コブ吸水度が11.0g/m以上の吸液性が高すぎる半透膜支持体では、接着剤が過剰に浸透することにより半透膜支持体側に偏在し、透過側流路材側の接着剤量が不足して封止が不十分となり、高圧下で使用では透過水の微小リークが発生する。
【0019】
本発明において、半透膜支持体のコブ吸水度を3.0g/m以上、11.0g/m未満の範囲にする方法として、
a)半透膜支持体を構成する主体繊維の繊維径を調節する、
b)主体繊維に近い融点を有するバインダー繊維を含有し、その含有率を調節する、
c)半透膜支持体を熱圧加工処理する際のロール表面温度を、主体繊維の融点に近い温度に調整する、
を挙げることができる。
【0020】
本発明において、主体繊維は、半透膜支持体の骨格を形成する繊維である。主体繊維としては、合成繊維を含有する。例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン系、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール系、フェノール系などの繊維が挙げられるが、耐熱性の高いポリエステル系の繊維がより好ましく使用される。また、半合成繊維のアセテート、トリアセテート、プロミックスや、再生繊維のレーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等は性能を阻害しない範囲で含有しても良い。
【0021】
主体繊維の平均繊維径は、7.0〜15.0μmが好ましく、9.0〜13.0μmがより好ましい。また、繊維径の異なる2種以上の主体繊維を含有することが好ましく、少なくとも1種の主体繊維の繊維径が10.0μm以下の場合、塗布面の平滑性をより高めることができ、膜の厚みが均一な半透膜が得られ易くなることからより好ましい。主体繊維の平均繊維径が7.0μm未満の場合、コブ吸水度が11.0g/m以上となる場合があり、透過水の微小リークが発生しやすくなる。一方、主体繊維の繊維径が15.0μmを超える場合、コブ吸水度が3.0g/m未満となる場合があり、半透膜溶液が裏抜けしやすくなる。
【0022】
本発明において、主体繊維の平均繊維径は以下の式で求められる。Nは、正の整数である。
【0023】
平均繊維径=(主体繊維1の繊維径(μm)×主体繊維1の質量%+主体繊維2の繊維径(μm)×主体繊維2の質量%+主体繊維3の繊維径(μm)×主体繊維3の質量%+・・・+主体繊維Nの繊維径(μm)×主体繊維Nの質量%)/(主体繊維1の質量%+主体繊維2の質量%+主体繊維3の質量%+・・・+主体繊維Nの質量%)
【0024】
主体繊維の繊維長は特に限定しないが、好ましくは1〜12mmであり、より好ましくは3〜10mmであり、さらに好ましくは4〜6mmである。繊維長が1mm未満の場合、抄紙工程にて繊維の三次元ネットワークが形成されにくく、抄紙ワイヤーからの剥離性が悪化するおそれがある。一方、繊維長が12mmを超える場合、繊維同士の絡まりや、縺れの発生により、半透膜支持体の均一性や半透膜の平滑性に悪影響を及ぼすおそれがある。主体繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、塗布面平滑性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0025】
本発明の半透膜支持体は、バインダー繊維を含有しているが、バインダー繊維の軟化点又は溶融温度(融点)以上まで温度を上げる工程を半透膜支持体の製造工程に組み入れることで、バインダー繊維が半透膜支持体の機械的強度を向上させる。例えば、半透膜支持体を湿式抄造法で製造し、その後の乾燥工程でバインダー繊維を軟化又は溶融させることができる。
【0026】
バインダー繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維などの複合繊維、未延伸繊維等が挙げられ、より具体的には、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組合せ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組合せ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組合せ、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられるが、本発明においては、コブ法吸水度を調整する上で未延伸繊維が好ましい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、半透膜支持体の乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。
【0027】
バインダー繊維の融点は、主体繊維の融点に対して±0℃〜−20℃であることが好ましく、±0℃〜−10℃がより好ましい。バインダー繊維の融点が主体繊維の融点より高い場合、主体繊維の融点に対して−30℃〜−50℃の熱圧加工処理ではバインダー繊維の溶融が進まず、コブ法吸水度が11.0g/m以上となる場合がある。一方、バインダー繊維の融点が主体繊維の融点に対して−20℃より低い場合、主体繊維の融点に対して−30℃〜−50℃の熱圧加工処理によってバインダー繊維が過剰に皮膜化し、コブ法吸水度が3.0g/m未満となる場合がある。なお、バインダー合成繊維及び主体繊維の融点は示差走査熱量測定(JIS K7122)により測定することが可能である。
【0028】
バインダー繊維の繊維径は、特に限定されないが、7.0〜15.0μmが好ましい。バインダー繊維の繊維径が7.0μm未満の場合、半透膜支持体の表面に毛羽が立ちやすく、均一な厚みの半透膜が得難くなる。バインダー繊維の繊維径が15.0μmを超える場合、金属ロールに繊維の溶融分が付着して、半透膜支持体が不均一になる場合があり、結果として、均一な厚みの半透膜が得難くなる。
【0029】
バインダー繊維の繊維長は、特に限定されないが、繊維長が20mmを超えた場合、地合が悪化する傾向がある。バインダー繊維の断面形状は円形及びT型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も含有することが可能である。
【0030】
本発明のバインダー繊維の含有率は、質量基準で60%質量以下であり、30質量%を超えていることが好ましく、55質量%以下であり、35質量%を超えていることがより好ましい。バインダー繊維の含有率が60質量%を超えると、コブ法吸水度が3.0g/m未満となりやすく、30質量%以下とすると、コブ法吸水度が11.0g/m以上となりやすい。
【0031】
本発明の半透膜支持体は、湿式抄造法によりシート化された後に、熱ロールによって熱圧加工処理される。
【0032】
湿式抄造法では、まず、主体繊維、バインダー繊維を均一に水中に分散させ、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を通り、最終の繊維濃度を0.01〜0.50質量%に調製されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0033】
抄紙機としては、例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機を用いることができる。これらの抄紙機は、単独でも使用できるし、同種又は異種の2機以上の抄紙機がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用しても良い。また、半透膜支持体が2層以上の多層構造の場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する抄き合わせ法や、一方のシートを形成した後に、該シートの上に繊維を分散したスラリーを流延する方法のいずれでも良い。
【0034】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することにより、シートを得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることをいう。熱ロールの表面温度は、100〜180℃が好ましく、100〜160℃がより好ましく、110〜160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50〜1000N/cm、より好ましくは100〜800N/cmである。
【0035】
本発明の半透膜支持体は、熱圧加工処理装置のロール間をニップしながら、湿式抄紙法で製造されたシートを通過させて熱圧加工を行う。ロールの組合せとしては、2本の金属ロール、金属ロールと樹脂ロール、金属ロールとコットンロール等が挙げられ、一方あるいは両方のロールを加熱する。さらに、必要に応じて、シートの表裏を逆にして、ニップへの通過回数を2回以上にしても良い。
【0036】
図1図5は、本発明において、熱圧加工で使用されるロールの組合せ及び配置並びにシートの通紙状態を表した概略図である。図1図5は、一例であり、これらに限定されるものではない。図1図5において、金属ロールは横縞模様、コットン又は弾性ロールは点模様、金属、コットン、弾性のいずれのロールでも良い場合は斜線模様である。金属ロール、弾性ロール、コットンロールのいずれも加熱ロールとして使用できるが、好ましくは、金属ロール、弾性ロールを加熱ロールとして使用する。より好ましくは、金属ロールを加熱ロールとして使用する。
【0037】
図1(A)は、2本の金属ロールの組合せである。図1(B)も、2本の金属ロールの組合せであるが、ロールニップの前後で通過するシートが金属ロールに接するように通紙されている。図1(C)は、3本の金属ロールが垂直方向に組み合わされており、シートは、上のロールに抱かれるようにして、上と真ん中のロールとの間の第一のロールニップを通過した後、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第二のロールニップを通過している。図1の(D)は、金属ロール、コットン又は弾性ロール、金属ロールが垂直方向に組み合わせられており、シートは、上のロールに抱かれるようにして、上と真ん中のロールとの間の第一のロールニップを通過した後、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第二のロールニップを通過している。
【0038】
図2の(E)では、2本の金属ロールからなる第一及び第二のロールニップが連続して設置されている。図2(F)は、2本の金属ロールからなる第一のロールニップと金属ロールとコットン又は弾性ロールからなる第二のロールニップとが連続で設置されている。図2(G)は、金属ロールとコットン又は弾性ロールからなる第一及び第二のロールニップが連続で設置されていて、第一のロールニップで金属ロールに接した面が、第二のロールニップではコットン又は弾性ロールに接するように、通紙されている。
【0039】
図3(H)及び図3(I)は、2本の金属ロールからなる第一のロールニップと金属ロールとコットン又は弾性ロールからなる第二のロールニップとが連続で設置されている。図3(H)では、第一のロールニップを通過したシートは、コットン又は弾性ロールに添った状態で第二のロールニップを通過し、その後、金属ロールを抱くように通紙されている。図3(I)では、第一のロールニップを通過したシートは、金属ロールに添った状態で第二のロールニップを通過し、その後、コットン又は弾性ロールを抱くように通紙されている。図3(J)及び図3(K)は、金属ロールとコットン又は弾性ロールからなる第一及び第二のロールニップが連続で設置されている。図3(J)では、第一のロールニップを通過したシートは、コットン又は弾性ロールに添った状態で第二のロールニップを通過し、その後、金属ロールを抱くように通紙されている。また、第一のロールニップで金属ロールに接した面が、第二のロールニップでも金属ロールに接するように、通紙されている。図3(K)では、第一のロールニップを通過したシートは、金属ロールに添った状態で第二のロールニップを通過し、その後、コットン又は弾性ロールを抱くように通紙されている。また、第一のロールニップで金属ロールに接した面が、第二のロールニップではコットン又は弾性ロールに接するように、通紙されている。
【0040】
図4(L)及び図4(M)では、金属ロール、金属、コットン又は弾性ロールからなる第一及び第二のロールニップが連続で設置されている。図4(L)では、上の金属ロールに添った状態で第一のロールニップを通過したシートは、下の金属、コットン又は弾性ロールを抱くように通紙され、その後、第二のロールニップを通過している。図4(M)では、上の金属ロールに添った状態で第一のロールニップを通過したシートは、下の金属、コットン又は弾性ロールを抱くように通紙され、その後、金属、コットン又は弾性ロールに添った状態で第二のロールニップを通過し、その後、金属ロールを抱くように通紙されている。
【0041】
図5(N)では、金属ロール、金属、コットン又は弾性ロール及び金属、コットン又は弾性ロールが垂直方向に組み合わせられた第一の装置と、金属、コットン又は弾性ロール、コットン又は弾性ロール及び金属、コットン又は弾性ロールが垂直方向に組み合わせられた第二の装置とが、連続で設置されている。シートは、第一の装置において、上と真ん中のロールとの間の第一のロールニップを通過した後、第二の装置において、上と真ん中のロールとの間の第二のロールニップを通過し、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第三のロールニップを通過し、下のロールに抱かれるように、通紙されている。図5(O)及び(P)では、金属、コットン又は弾性ロール、金属ロール及び金属、コットン又は弾性ロールが垂直方向に組み合わせられた第一及び第二の装置が、連続で設置されている。図5(O)では、シートは、第一の装置において、上のロールに抱かれるようにして、上と真ん中のロールとの間の第一のロールニップを通過し、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第二のロールニップを通過した後、第二の装置において、ニップ圧力のかかっていない上と真ん中のロールとの間を通過し、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第三のロールニップを通過し、下のロールに抱かれるように、通紙されている。図5(P)では、シートは、第一の装置において、上のロールに抱かれるようにして、上と真ん中のロールとの間の第一のロールニップを通過し、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第二のロールニップを通過した後、第二の装置において、上と真ん中のロールとの間の第三のロールニップを通過し、真ん中のロールに抱かれ、真ん中と下のロールとの間の第四のロールニップを通過し、下のロールに抱かれるように、通紙されている。
【0042】
熱圧加工に用いるロールの表面温度は、示差熱分析によって測定した主体繊維の融点に対して−50℃〜−30℃であることが好ましく、−45℃〜−35℃がより好ましい。ロール温度の表面温度を、主体繊維の融点より−50℃を超えて低くすると、主体繊維が扁平状に変形しにくく、コブ法吸水度が11.0g/m以上となる場合がある。一方、ロールの表面温度を、主体繊維の融点に対して−30℃を超えて高くすると、主体繊維が劣化しやすく、熱圧加工の際に紙切れが頻発するおそれがある。
【0043】
ロールのニップ圧力は、好ましくは190〜2000N/cmであり、より好ましくは390〜2000N/cmである。加工速度は、好ましくは5〜200m/minであり、より好ましくは10〜100m/minである。
【0044】
ロールニップを構成する2本のロールの半径は同一でも、異なっていても良い。ロール半径は50〜2000mmが好ましく、より好ましくは100〜1500mmである。ロール半径が50mm未満の場合、所望の厚みが得られにくくなり、一方、ロール半径が2000mmを超えると、表面温度のコントロールが困難になる場合がある。
【0045】
本発明の半透膜支持体は、各層の繊維配合が同一である多層構造であっても良く、繊維配合の異なる層が積層されてなる多層構造であっても良い。この場合、各層の坪量が下がることにより、スラリーの繊維濃度を下げることができるため、シートの地合が良くなり、その結果、塗布面の平滑性や均一性が向上する。また、各層の地合が不均一であった場合でも、積層することで補填できる。さらに、抄紙速度を上げることができ、操業性が向上する。
【0046】
半透膜支持体の坪量は、特に限定しないが、20〜150g/mが好ましく、より好ましくは50〜100g/mである。20g/m未満の場合は、十分な引張強度が得られない場合がある。また、150g/mを超えた場合、通液抵抗が高くなる場合や厚みが増してユニットやモジュール内に規定量の半透膜を収納できない場合がある。
【0047】
また、半透膜支持体の密度は、0.50〜1.10g/cmであることが好ましく、より好ましくは0.60〜0.95g/cmである。半透膜支持体の密度が0.50g/cm未満の場合は、厚みが厚くなるため、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜のライフが短くなってしまうことがある。一方、1.10g/cmを超える場合は、通液性が低くなることがあり、半透膜のライフが短くなる場合がある。
【0048】
半透膜支持体の厚みは、60〜150μmであることが好ましく、70〜130μmであることがより好ましく、80〜120μmであることがさらに好ましい。半透膜支持体の厚みが150μmを超えると、ユニットに組み込める半透膜の面積が小さくなってしまい、結果として、半透膜のライフが短くなってしまうことがある。一方、60μm未満の場合、十分な引張強度が得られない場合や通液性が低くなって、半透膜のライフが短くなる場合がある。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下、特にことわりのないかぎり、実施例に記載される部及び比率は質量を基準とする。
【0050】
<主体繊維A>
繊維径5.3μm、繊維長5mm、融点260℃の延伸ポリエステル系繊維を主体繊維Aとした。
【0051】
<主体繊維B>
繊維径7.9μm、繊維長5mm、融点260℃の延伸ポリエステル系繊維を主体繊維Bとした。
【0052】
<主体繊維C>
繊維径12.1μm、繊維長5mm、融点260℃の延伸ポリエステル系繊維を主体繊維Cとした。
【0053】
<主体繊維D>
繊維径17.5μm、繊維長5mm、融点260℃の延伸ポリエステル系繊維を主体繊維Dとした。
【0054】
<主体繊維E>
繊維径20.2μm、繊維長5mm、融点260℃の延伸ポリエステル系繊維を主体繊維Eとした。
【0055】
<バインダー繊維A>
繊維径10.5μm、繊維長5mm、融点260℃の未延伸ポリエステル系バインダー繊維をバインダー繊維Aとした。
【0056】
<バインダー繊維B>
繊維径10.5μm、繊維長5mm、融点240℃の未延伸ポリエステル系バインダー繊維をバインダー繊維Bとした。
【0057】
<バインダー繊維C>
繊維径10.5μm、繊維長5mm、融点250℃の未延伸ポリエステル系バインダー繊維をバインダー繊維Cとした。
【0058】
<バインダー繊維D>
繊維径10.5μm、繊維長5mm、融点230℃の未延伸ポリエステル系バインダー繊維をバインダー繊維Dとした。
【0059】
<バインダー繊維E>
繊維径10.5μm、繊維長5mm、融点265℃の未延伸ポリエステル系バインダー繊維をバインダー繊維Eとした。
【0060】
(実施例1)
主体繊維Bを30質量%、主体繊維Cを30質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径10.0μmのシートを得た。
【0061】
得られたシートを、図1(A)に示すように、2本の金属ロールからなるカレンダー装置を用いて、両金属ロールの表面温度を210℃とし、ニップ圧力800N/cm、加工速度40m/minの条件で加工し、実施例1の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0062】
(実施例2)
金属ロールの表面温度を230℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0063】
(比較例1)
金属ロールの表面温度を205℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0064】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で得られたシートを、図1(A)に示すように、2本の金属ロールからなるカレンダー装置を用いて、両金属ロールの表面温度を235℃とし、ニップ圧力800N/cm、加工速度40m/minの条件で加工したところ、紙切れが頻発し、半透膜支持体を得ることができなかった。
【0065】
(実施例3)
主体繊維Bを40質量%、主体繊維Cを20質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径9.3μmのシートを得た。
【0066】
得られたシートを、図1(B)に示すように、2本の金属ロールからなるカレンダー装置を用いて、両金属ロールの表面温度を220℃とし、ニップ圧力800N/cm、加工速度40m/minの条件で加工し、実施例3の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0067】
(実施例4)
バインダー繊維Bに変更した以外は実施例3と同様の方法で、実施例4の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0068】
(実施例5)
バインダー繊維Cに変更した以外は実施例3と同様の方法で、実施例5の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0069】
(比較例3)
バインダー繊維Dに変更した以外は実施例3と同様の方法でシートを得た。シートを、金属ロールの表面温度を210℃とした以外は実施例3と同様の条件で加工し、比較例3の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0070】
(比較例4)
バインダー繊維Eに変更した以外は実施例3と同様の方法でシートを得た。シートを、金属ロールの表面温度を230℃とした以外は実施例3と同様の条件で加工し、比較例4の半透膜支持体を得た。なお、下の金属ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0071】
(実施例6)
主体繊維Cを40質量%、主体繊維Eを20質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径14.8μmのシートを得た。
【0072】
得られたシートを、図2(G)に示すように、金属ロールと樹脂ロールからなる第一及び第二ロールニップが連続して設置されているカレンダー装置を用いて、第一及び第二ロールニップとも、金属ロールの表面温度を220℃とし、ニップ圧力800N/cm、加工速度40m/minの条件で加工し、実施例6の半透膜支持体を得た。なお、第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0073】
(実施例7)
主体繊維Aを15質量%、主体繊維Bを45質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径7.3μmのシートを得た。
【0074】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、実施例7の半透膜支持体を得た。なお、第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0075】
(実施例8)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Bを30質量%、主体繊維Cを30質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Cを25質量%、主体繊維Dを35質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.6μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0076】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、実施例8の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0077】
(実施例9)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Bを30質量%、主体繊維Cを30質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Aを40質量%、主体繊維Bを20質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径8.1μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0078】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、実施例9の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0079】
(実施例10)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Cを25質量%、主体繊維Dを35質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Aを40質量%、主体繊維Bを20質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径10.7μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0080】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、実施例10の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0081】
(比較例5)
主体繊維Cを25質量%、主体繊維Dを35質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径15.3μmのシートを得た。
【0082】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、比較例5の半透膜支持体を得た。なお、第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜塗布面とした。
【0083】
(比較例6)
主体繊維Aを40質量%、主体繊維Bを20質量%、バインダー繊維Aを40質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径6.2μmのシートを得た。
【0084】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、比較例6の半透膜支持体を得た。なお、第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0085】
(比較例7)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Cを55質量%、バインダー繊維Aを45質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Eを55質量%、バインダー繊維Aを45質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径16.2μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0086】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、比較例7の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0087】
(比較例8)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Aを55質量%、バインダー繊維Aを45質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Bを55質量%、バインダー繊維Aを45質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径6.6μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0088】
得られたシートを、実施例6と同様の条件で加工し、比較例8の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第一ロールニップで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0089】
(実施例11)
主体繊維Bを10質量%、主体繊維Cを30質量%、バインダー繊維Aを60質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径11.1μmのシートを得た。
【0090】
得られたシートを、図4(M)に示すように、2本の金属ロールからなる第一ロールニップと、金属ロールと樹脂ロールからなる第二ロールニップが連続して設置されているカレンダー装置を用いて、第一及び第二ロールニップとも、金属ロールの表面温度を220℃とし、ニップ圧力800N/cm、加工速度40m/minの条件で加工し、実施例11の半透膜支持体を得た。なお、第二ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0091】
(実施例12)
主体繊維Bを35質量%、主体繊維Dを30質量%、バインダー繊維Aを35質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.3μmのシートを得た。
【0092】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、実施例12の半透膜支持体を得た。なお、第二ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0093】
(実施例13)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Bを10質量%、主体繊維Cを10質量%、主体繊維Dを50質量%、バインダー繊維Aを30質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Bを40質量%、主体繊維Cを10質量%、バインダー繊維Aを50質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.6μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0094】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、実施例13の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第二ニップロールで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0095】
(実施例14)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Bを15質量%、主体繊維Cを10質量%、主体繊維Dを40質量%、バインダー繊維Aを35質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Bを25質量%、主体繊維Cを10質量%、バインダー繊維Aを65質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.6μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0096】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、実施例14の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第二ニップロールで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0097】
(実施例15)
傾斜ワイヤー式抄紙機と円網抄紙機のコンビネーションマシンを用いて、2層構造のシートを製造した。主体繊維Bを15質量%、主体繊維Cを10質量%、主体繊維Dを45質量%、バインダー繊維Aを30質量%、水に混合分散し、傾斜ワイヤー式抄紙機で1系層の湿紙を形成した。主体繊維Bを25質量%、主体繊維Cを10質量%、主体繊維Dを10質量%、バインダー繊維Aを65質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で2系層の湿紙を形成した後、二つの湿紙を抄き合わせ、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、1系層と2系層の坪量比が1:1で、総坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.8μmのシートを得た。なお、1系層の面がヤンキードライヤーに接するように熱圧乾燥した。
【0098】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、実施例15の半透膜支持体を得た。なお、2系層の面を第二ニップロールで樹脂ロールに触れる面とし、半透膜溶液塗布面とした。
【0099】
(比較例9)
主体繊維Bを5質量%、主体繊維Cを30質量%、バインダー繊維Aを65質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径11.5μmのシートを得た。
【0100】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、比較例9の半透膜支持体を得た。なお、第二ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0101】
(比較例10)
主体繊維Bを40質量%、主体繊維Dを30質量%、バインダー繊維Aを30質量%、水に混合分散し、円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度130℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、坪量80g/m、主体繊維の質量平均繊維径12.0μmのシートを得た。
【0102】
得られたシートを、実施例11と同様の条件で加工し、比較例10の半透膜支持体を得た。なお、第二ロールニップで樹脂ロールに触れる面を半透膜溶液塗布面とした。
【0103】
<半透膜の作製>
一定のクリアランスを有する定速塗工装置(商品名:Automatic FilmApplicator、安田精機社製)を用いて、実施例1〜15及び比較例1〜10の半透膜支持体の塗布面にポリスルホン(SIGMA−ALDRICH Corporation製、質量平均分子量M<35,000、数平均分子量M<16,000、商品番号428302)のDMF溶液(濃度:18質量%)を塗工し、水洗、乾燥を行い、半透膜支持体の塗布面に厚み50μmのポリスルホンからなる膜を形成させて半透膜を得た。
【0104】
ポリスルホン半透膜を作製した半透膜支持体を、メタフェニレンジアミン0.85%とトリアミノベンゼン1.15%を含有する水溶液に浸漬し、余分な水溶液を除去した後、トリメシン酸クロライド0.05%とテレフタル酸クロライド0.08%を混合した溶液に浸漬した。ついで、余分な水溶液を除去した後、温水で十分洗浄し、架橋芳香族ポリアミドからなる厚み約0.15μmのポリアミド半透膜をポリスルホン半透膜上に製膜した。
【0105】
<スパイラル型半透膜エレメントの作製>
半透膜を作製した半透膜支持体1を、図6に示すように、塗布面が内側になるように二つ折りにし、供給側流路材2を間に挟み込むように配置し、ついで、半透膜支持体1面上に透過側流路材3を重ね、集水管4に巻き付け、スパイラル型半透膜エレメントを作製した。半透膜支持体1面上に透過側流路材3を重ねる際、供給側液体と透過側液体の混合を防ぐため、図7に示すように、半透膜支持体1面に接着剤5を塗布し、封止部を設けた。なお、供給側流路材2としては厚み0.7mm、網目ピッチ4mm、網目角度70♯のメッシュスペーサを用い、透過側流路材3としては厚み0.25mmのポリエステル製ダブルトリコットを用いた。
【0106】
実施例及び比較例で得られた半透膜支持体、及びスパイラル型半透膜エレメントに対して、以下の評価を行い、結果を表1〜4に示した。
【0107】
試験1(坪量)
JIS P 8124に準拠して、坪量を測定した。
【0108】
試験2(厚さ)
JIS P 8118に準拠して、厚さを測定した。
【0109】
試験3(コブ吸水度)
JIS P 8140−1976に準拠して、コブ吸水度を測定した。なお、純水を試料とし、試料との接触時間は5secとした。
【0110】
試験4(引張強度)
25mm幅の短冊状に切り揃えた。試験片を卓上型材料試験機(商品名:STA−1150、(株)オリエンテック製)の試料ツカミで、試料の両端を100mm間隔あけて挟み、上端を20mm/minの一定速度で切断するまで引き上げて、このときの最大荷重(kg)を計測し、これを引張強度とした。
【0111】
試験5(通気度)
通気性試験機(カトーテック株式会社製、商品名:KES−F8−AP1)を使用して、JIS L1096に示す方法で測定を行った。
【0112】
試験6(ポア径)
PMI社製、商品名:パームポロメーターCFP−1500Aを用いて、JIS K 3832、ASTM F316−86、ASTM E1294−89に準拠して測定を行い、最大ポア径及び平均ポア径を測定した。
【0113】
試験7(半透膜接着性)
ポリスルホン半透膜と半透膜支持体間の接着度合いを、剥離するときの抵抗度合いで判断した。
【0114】
○:半透膜と半透膜支持体の接着性が非常に高く、剥離できない。非常に良好なレベル。
△:半透膜と半透膜支持体とが接着はしているが、全体的に剥離しやすい。実用上、下限レベル。
×:半透膜塗工後の水洗又は乾燥工程で剥離が発生する。使用不可レベル
【0115】
試験8(半透膜溶液裏抜け)
半透膜の断面SEM写真を撮影して、ポリスルホンの半透膜支持体への滲み込み度合いを評価した。
【0116】
○:ポリスルホンが半透膜支持体の中心付近までしか滲み込んでいない。非常に良好なレベル。
△:ポリスルホンが半透膜支持体の非塗布面に一部滲み出ている。実用上、使用可能レベル。
×:ポリスルホンが半透膜支持体の非塗布面に滲み出ている。実用上、使用不可レベル。
【0117】
試験9(微小リーク)
スパイラル型半透膜エレメント40本を用いて、NaCl濃度が20,000ppmのNaCl水溶液に水溶性赤インクを1,000ppm添加した溶液を用いて、それぞれ分離操作を行った。運転条件として、運転圧力を4.0MPaとし、回収率を8%とした。スパイラル型半透膜エレメントを破壊し、リークに起因する赤色を目視で観察し、リークした本数を調べた。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
実施例1〜15の半透膜支持体は、塗布面表面のコブ法吸水度が3.0g/m以上、11.0g/m未満であり、半透膜溶液裏抜け、半透膜接着性、微小リークの評価において、実用上使用可能なレベルを達成した。熱圧加工に用いるロール表面温度が、主体繊維の融点より−45℃を超えて低い実施例1、主体繊維の平均繊維径が9.0μm未満の実施例7及び9、バインダー繊維の含有率が35質量%以下である実施例12では、コブ吸水度が9.0g/m以上であり、微小リーク評価でやや劣る結果となった。また、熱圧加工に用いるロール表面温度が主体繊維の融点より−35℃を超えて高い実施例2、バインダーの融点が主体繊維の融点に対して−10℃超えて低い実施例4、主体繊維の平均繊維径が13.0μmを超えている実施例6、バインダー繊維の含有率が55質量%超の実施例11では、コブ吸水度が5.0g/m未満となり、半透膜溶液裏抜けがやや劣る結果となった。
【0123】
これに対して、塗布面表面のコブ法吸水度が3.0g/m未満又は11.0g/m以上である比較例1〜10の半透膜支持体は、半透膜溶液裏抜け、半透膜接着性、機械的強度、微小リーク評価を同時に満たすものではなかった。コブ吸水度が11.0g/mを超える比較例1、4、6、8及び10では、微小リークの発生が多く、実用に耐えられないものであった。コブ吸水度が3.0g/m未満の比較例3、5、7及び9では、半透膜溶液の裏抜けが著しく劣る結果となった。また、熱圧加工に用いるロールの表面温度を、主体繊維の融点より−30℃を超えて高くした比較例2では、熱圧加工の際に紙切れが頻発し、半透膜支持体を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の半透膜支持体は、海水の淡水化、浄水器、食品の濃縮、廃水処理、血液濾過に代表される医療用、半導体洗浄用の超純水製造等の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0125】
1 半透膜支持体
2 供給側流路材
3 透過側流路材
4 集水管
5 接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7