(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化されて図示されている場合がある。また、
図1および以降の各図においては、方向の説明のために、XYZ直交座標系が付されている場合がある。なお、本実施形態では、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面としている。
【0021】
<1. 第1実施形態>
<1.1. 構成および機能>
図1は、画像形成装置100の構成を示す概略構成図である。また、
図2は、記録用紙1側から見た標準状態のインクジェットヘッド17を示す概略平面図である。また、
図3は、記録用紙1側から見た回転後のインクジェットヘッド17を示す概略平面図である。なお、
図3では、インクジェットヘッド17は
図2に示される標準状態から回転軸Q周りに角度α回転している。
【0022】
画像形成装置100は、記録用紙1(基材)に対してインクジェット方式によりインクの液滴を吐出して、画像(視覚的情報)を記録用紙1上に形成する装置である。記録用紙1としては、例えば、オフセット印刷用の印刷用紙、該印刷用紙などの用紙上に光沢を有するコート層を形成するためのコート剤が塗布された、いわゆる写真用紙、マット紙などのコート紙などが想定されるが、普通紙であってもよい。
【0023】
画像形成装置100は、インクジェット部41、画像取得部42、搬送系駆動部44、排紙部45、給紙部46、搬送ローラ51、52、搬送ベルト55および制御部8を備えている。
【0024】
<排紙部45、給紙部46、および搬送ベルト55>
給紙部46には、複数枚の記録用紙1が備えられており、記録用紙1は、枚様式により給紙部46から搬送ベルト55上に給紙される。搬送ベルト55上に給紙された記録用紙1は、搬送ベルト55によって矢印に示される方向(移動方向R1、−Y方向)に搬送される。そして、搬送された記録用紙1は、排紙部45によって、例えば、吸引されることなどにより搬送ベルト55から引き離されて排紙部45内の排紙トレイに収納される。
【0025】
<搬送系駆動部44、搬送ローラ51、52>
搬送系駆動部44は、モータなどの不図示のアクチュエータおよび動力伝達系などを備えている。搬送系駆動部44は、制御部8からの制御に応じて搬送ローラ51(52)を駆動して回転させることにより、搬送ベルト55を移動させる。
【0026】
すなわち、搬送系駆動部44、搬送ローラ51(52)、および搬送ベルト55は、規定の処理ラインに沿って記録用紙1をインクジェット部41に対して−Y方向に相対的に搬送する搬送機構として動作する。なお、制御部8は、記憶部に予め格納されたソフトウェアプログラムに従って、画像形成装置100の各部を所定のタイミングで制御することにより画像形成装置100全体の動作制御を司る。
【0027】
<インクジェット部41>
インクジェット部41は、4種類のインクジェットヘッド17を備えている。4種類のインクジェットヘッド17は、例えば、ピエゾ式、サーマル式、または電磁バルブ式などにより実現されるインクジェット方式により、異なる色のインク9をそれぞれ吐出する。具体的には、K(ブラック)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の各色のインク9が、各インクジェットヘッド17から吐出される。
【0028】
各インクジェットヘッド17には、モータおよび動力伝達系などで構成される回転駆動部18が設けられている。回転駆動部18は、各インクジェットヘッド17を、記録用紙1の記録面に交差する方向(ここではZ軸方向)に延びる回転軸Q周りに回転させる。この回転軸Qは、インクジェットヘッド17における、記録用紙1と対向する対向面17Sを通っている。回転駆動部18は、この対向面17Sに形成された記録用紙1に向けて開口する吐出口21(
図2参照)からのインクの吐出方向(ここでは、−Z方向)を維持しつつ、インクジェットヘッド17全体を回転させる。
【0029】
また、図示を省略するが、各インクジェットヘッド17には、各インクジェットヘッド17を移動方向R1に直交するX軸方向にそれぞれ移動させる移動機構が設けられている。各インクジェットヘッド17は、制御部8からの制御に応じて、記録用紙1に対してX軸方向に相対的に移動しつつ、各色のインク9をそれぞれ吐出して記録用紙1に画像を形成する。なお、各インクジェットヘッド17をX軸方向に移動させる代わりに、各色のインク9を吐出する所要数のインクジェットヘッド17をX軸方向に配列してもよい。この構成が採用される際は、X軸方向に配列される複数のインクジェットヘッド17の各々について、回転駆動部18が設けられてもよいし、複数のインクジェットヘッド17が一体化されることで、回転駆動部18が複数のインクジェットヘッド17を一体的に回転させるようにしてもよい。
【0030】
図2または
図3に示されるように、インクジェットヘッド17には、複数の吐出口21が形成されている。
図2に示されるように、インクジェットヘッド17が記録用紙1に対して回転していない状態(標準状態)では、移動方向R1(−Y方向)に直交する直交方向R3(+X方向)に沿って、一列に並ぶ12個の吐出口21が形成されている。この直交方向R3に一列に並ぶ12個の吐出口を一グループとして、列状吐出口群23と称する。さらに、
図2に示されるように、対向面17Sには、移動方向R1に沿って、8個の列状吐出口群23が設けられている。
【0031】
なお、以下の説明では、各吐出口21を個々に区別するため、それぞれの位置を示す識別符号を付す場合がある。具体的に、
図2に示されるように、X軸方向における位置を示す識別符号として、−X側から+X側に向けて、順に「1」〜「12」の番号を割り当てる。また、移動方向R1における位置を示す識別符号として、移動方向R1の下流(−Y側)から移動方向R1の上流側(+Y側)に向けて、順に「A」、「B」・・・「H」のアルファベットを割り当てる。
【0032】
例えば、最も−X側にあって、かつ、移動方向R1の最下流側にある吐出口21は、吐出口21A1と標記される。また、吐出口21A1の移動方向R1の上流側にある吐出口21は、吐出口21B1と標記される。なお、標準状態において移動方向R1に並ぶ吐出口21(例えば、吐出口21A1、21B1、・・・、21H1)または直交方向R3並ぶ吐出口21(例えば、吐出口21A1、21A2、・・・、21A12)は、インクジェットヘッド17が回転した場合、厳密には、移動方向R1または直交方向R3とは異なる方向に並ぶこととなる。しかしながら、以下の説明では、インクジェットヘッド17の回転後における吐出口21の並びについて説明するときも、標準状態を基準に、移動方向R1または直交方向R3を用いて説明する場合がある。
【0033】
また、列状吐出口群23を区別する際、上述の「A」〜「H」のいずれかを併記する場合がある。例えば、移動方向R1下流側にある列状吐出口群23は、列状吐出口群23Aと標記される。また、該列状吐出口群23Aと移動方向R1上流側に隣接する列状吐出口群23は、列状吐出口群23Bと標記される。
【0034】
次に、インクジェットヘッド17を回転軸Q周りに回転させることで、解像度を向上させる点について説明する。
図2に示される状態で、各吐出口21からインク9を吐出した場合、インクジェットヘッドからは、移動方向R1に直交する直交方向R3に関して、12列分のみのインク9しか吐出することができない。これに対して、
図3に示されるように、インクジェットヘッド17を回転軸Q周りに角度α分回転させることで、移動方向R1に並ぶ複数の吐出口21(例えば、吐出口21A1、21B1、・・・、21H1)が、それぞれ直交方向R3にずらされることとなる。つまり各吐出口21からインク9を吐出したときの、該インク9の記録用紙1上における着弾位置が、直交方向R3に関してずれる。これにより、直交方向R3に関しては、吐出口21A1、21A2間に、吐出口21B1、21C1、・・・、21H1が配置されることとなる。したがって、インクジェットヘッド17を所要角度回転させることで、直交方向R3に関して、全部で96列分(=12×8)のインク9を吐出することが可能となる。すなわち、直交方向R3に関して、画像形成の解像度を、標準状態の8倍にすることができる。
【0035】
ただし、インクジェットヘッド17の回転角度ずれた場合、直交方向R3における複数の吐出口21の配置間隔が不均一となり、濃度ムラなどが発生する虞がある。この問題を回避するため、本実施形態では、後述するように、インクジェットヘッド17の回転角度が回転角度特定部83により具体的に特定される。
【0036】
<画像取得部42>
図1に戻って、画像取得部42は、不図示のラインセンサーまたはエリアセンサを備えており、記録用紙1に形成された画像を撮像して、画像の濃度値が多階調で表現される画像データを取得する。なお、この画像データは、R(レッド)G(グリーン)B(ブルー)で表現されるフルカラーの画像データとされてもよいし、モノクロの画像データに適宜変換されたものでもよい。取得された画像データは制御部8に送信され、不図示の記憶部(RAMなどの一時記憶部またはハードディスクなどのストレージ)に適宜保存される。
【0037】
<制御部8>
制御部8は、着弾位置特定部81および回転角度特定部83を備えている。着弾位置特定部81および回転角度特定部83は、制御部8が備えるCPUが所定のソフトウェアプログラムにしたがって動作することにより実現される機能である。ただし、着弾位置特定部81および回転角度特定部83は、制御部8に接続された他のコンピュータ上で実現される機能であってもよいし、あるいは、専用回路によってハードウェア的に実現されてもよい。
【0038】
着弾位置特定部81は、画像取得部42によって取得された画像データに基づき、吐出口21から吐出されたインク9の着弾位置を特定する。また、回転角度特定部83は、2つの吐出口21から吐出されたインク9の着弾位置間の距離に基づき、インクジェットヘッド17の回転角度を特定する。この着弾位置の特定、および回転角度の特定の詳細については、後述する。
【0039】
<1.2. 回転角度の特定>
次に、画像形成装置100における、インクジェットヘッド17の回転角度θの特定方法について具体的に説明する。
【0040】
図4は、インクジェットヘッド17の回転前後における、記録用紙1側から見た複数の吐出口21を示す概念図である。
図4では、−X側から数えて、n列目(ただし、nは1〜11の整数)にある吐出口21(吐出口21An、21Bn、・・・、21Hn)と、n+1列目にある吐出口21(吐出口21A(n+1)、21B(n+1)、・・・、21H(n+1))とが代表的に図示されている。また、同図では、
図2に示される標準状態の吐出口21が、破線で図示されている。さらに、同図では、理解容易のため、回転前後における吐出口21Anの位置が一致するように図示されている。
【0041】
ここでは、
図4に示されるように、標準状態における吐出口21Anと吐出口21Hnと間の、移動方向R1の距離をaとし、吐出口21Anと吐出口21A(n+1)との間の、直交方向R3の距離をbとする。インクジェットヘッド17がθ回転したとすると、回転前後における、吐出口21Hnの移動距離の直交方向成分は、a・sinθとなる。吐出口21An〜21Hnは、等間隔で設けられているため、吐出口21Bnの移動距離の直交方向成分は、a/7・sinθとなる。つまり、吐出口21Anと吐出口21Bn間の距離の直交方向成分(以下、直交方向距離とも称する。)は、a/7・sinθとなる。ここで、吐出口21An、21Bn間の直交方向距離(以下、この距離を[AnBn]と標記とする。)と、移動方向R1に関して、隣接している他の吐出口21間についての直交方向距離についても、(a/7)sinθとなる。この距離をxとおくと、以下の式が成立する。
【0042】
x=[AnBn]=[BnCn]=[CnDn]=[DnEn]=[EnFn]=[GnHn]=(a/7)sinθ・・・式(1)
【0043】
一方、回転前後における吐出口21Anについての、移動距離の直交方向成分の理論値は、b・cosθである。また、回転後における[AnHn]は、a・sinθである。したがって、吐出口21Hn,21A(n+1)間の直交方向距離(=[HnA(n+1)])をyとおくと、以下の式が成立する。
【0044】
y=[HnA(n+1)]=b・cosθ−a・sinθ・・・式(2)
【0045】
図5は、回転角度θと、距離x、yとの関係を示すグラフである。
図5では、横軸が回転角度を示し、縦軸が距離を示している。また、同図では、距離xが破線で示されており、距離yが実線で示されている。
図5を参照すると、回転角度θが漸増するにつれて、距離xは漸増するのに対し、距離yは漸減することが判る。なお、
図5に示されるグラフにおいて、距離x、yのグラフが交差するとき、理論的には、全96個の吐出口21が、直交方向R3に関して、等間隔で配列されることとなる。
【0046】
ここで、実際にインク9の液滴吐出を各吐出口21から行い、距離x(または距離y)に対応する着弾位置間の距離を測定すれば、上記式(1)(または式(2))に基づいて、回転角度θを求めることが可能である。距離x(または距離y)を取得するためには、直交方向R3において、着弾位置が隣接することとなる2つの吐出口21、21(例えば、吐出口21A1、21B1(または、吐出口21H1、21A2))から実際に記録用紙1にインク9の液滴を吐出して、着弾位置間の直交方向距離を測定すればよい。しかしながら、距離xおよび距離yは、極めて微小であるために、着弾した液体が記録用紙1上で重なってしまい、着弾位置間の距離を特定することは困難である。また、2つの吐出口21、21からの吐出タイミングをずらすことで、記録用紙1上の移動方向R1において異なる位置にそれぞれ着弾させたとしても、これらの着弾位置間の直交方向距離を正確に測定することは困難である。
【0047】
そこで、本実施形態では、インク9の液滴を吐出する2以上の吐出口21は、着弾位置が直交方向R3に関して相互に隣接しない吐出口21とされる。つまり、着弾位置間の距離が測定されることとなる2つの吐出口21,21間には、その2つの着弾位置の間にインク9の液滴を着弾させ得る他の吐出口21が介在することとなる。そして、実測された各着弾位置間の直交方向成分の長さに基づいて、インクジェットヘッド17の回転角度θが特定される。
【0048】
図6は、第1実施形態に係るインクジェットヘッド17の回転角度θを特定するために記録用紙1に形成されるチャートの一例を示す図である。上述したように、本実施形態に係るインクジェットヘッド17の場合、回転軸Q周りに回転しすると、移動方向R1に沿って並ぶ列状吐出口群23A〜23Hの位置が、それぞれ直交方向R3にずれる。このとき、回転角度θが、所定角度の範囲であれば、
図3に示されるように、各吐出口21A1〜21H12が、直交方向R3に関して、それぞれ異なる位置に配置されることとなる。換言すると、各吐出口21A1〜21H12をX軸へ投影すると、−X側から+X側にかけて、各吐出口21A1〜21H12が順番に並ぶこととなる。
図6に示されるチャートは、この順番に並ぶ全吐出口21A1〜21H12のうち、−X側から+X側にかけて8個置きに選択された吐出口21から、インク9の液滴が吐出されることにより形成される。
【0049】
より詳細には、
図2または
図3において、破線で囲まれている吐出口21A1、21B2、21C3、21D4、21E5、21F6、21G7、21H8、21A10、21B11、21C12から、それぞれインク9の液滴が吐出されることにより、
図6に示されるようなチャートが形成されている。このように、本実施形態では、着弾位置間の直交方向距離が実測されることとなる液滴を吐出する2つの吐出口21が、移動方向R1に関して隣接する列状吐出口群23、23(例えば、列状吐出口群23Aと列状吐出口群23B)にそれぞれ属しており、かつ、インクジェットヘッド17における直交方向R3に関して隣接している。
【0050】
ここで、移動方向R1に隣接する2つの列状吐出口群23A,23Bにそれぞれ属する吐出口21A1、21B2から吐出されて、記録用紙1に着弾した2つのインク9の着弾位置に着目する。この着弾位置間の直交方向距離(=[A1B2])は、理論上、距離xに相当する[A1B1]、[B1C1]、[C1D1]、[D1E1]、[E1F1]、[F1G1]、[G1H1]および[A2B2]と、理論上、距離yに相当する[H1A2]の合計(=8x+y)で表される。また、他の、移動方向方R1に隣接する2つの列状吐出群23、23にそれぞれ属する2つの吐出口21、21から吐出されたインク9の着弾位置間の直交方向距離([B2C3]、[C3D4]、[D4E5]、[E5F6]、[F6G7]および[G7H8])についても、理論上、8x+yとなる。
【0051】
これに対して、移動方向R3に関して隣接しない列状吐出口群23H,23Aに属する、吐出口21H8、21A10から吐出されたインク9の、着弾位置間の直交方向距離(=[H8A10])は、理論上、距離xに相当する[A9B9]、[B9C9]、[C9D9]、[D9E9]、[E9G9]および[G9H9]と、理論上、距離yに相当する[H8A9]および[H9A10]の合計(=7x+2y)となる。
【0052】
ここで、距離8x+yおよび距離7x+2yは、上述の式(1)および式(2)に基づき、下記のように表される。
【0053】
8x+y = (a/7)sinθ+b・cosθ・・・式(3)
7x+2y = 2b・cosθ−a・sinθ・・・式(4)
【0054】
本実施形態では、記録用紙1に、
図6に示されるようなチャートが形成されると、
図1に示されるように、記録用紙1が画像取得部42まで搬送される。そして、画像取得部42により、記録用紙1に形成されたチャートが読み取られ、チャートの画像データが生成される。
【0055】
図7は、画像取得部42によって取得された画像データにおける、直交方向R3に関する画素の濃度変化を示す図である。
図7では、横軸が直交方向R3における位置を示しており、縦軸は画素の濃度を示している。
図7に示されるように、インク9が着弾した着弾位置において、画素の濃度が濃くなる。同図では、濃度が濃い位置について、対応する吐出口21の位置を示す識別情報が表記されている。着弾位置特定部81は、この濃度値が濃くなる画素の位置を着弾位置として特定する。本実実施形態では、このようにして特定された隣どうしにある着弾位置間の距離が実測される。この実測された距離は、
図7に示されるように、上述の距離8x+yまたは距離7x+2に対応するものとなる。
【0056】
図8は、回転角度θと、着弾位置間の直交方向距離(距離8x+y、7x+2y)との相関を示すグラフである。
図8では、横軸が回転角度を示しており、縦軸が距離を示している。また、同図では、距離8x+yが実線で示されており、距離7x+2が破線で示されている。
図5にて説明したように、回転角度θが漸増すると、距離xが漸増し、距離yが漸減する。したがって、
図8に示されるように、距離8x+yは、距離7x+2yよりも傾きが大きくなっている。なお、距離8x+yおよび距離7x+2yが交差するときの回転角度θは、距離xおよび距離yが一致するときの回転角度ともいえる。
【0057】
本実施形態では、回転角度特定部83が、距離8x+y(または7x+2y)に対応する実測値を、上記式(3)(または式(4))に代入することにより、回転角度θを算出する。式(3)、(4)は、適宜図示しない記憶部(RAMなどの一時的に情報を記憶するものも含む。)に格納されており、必要に応じて、記憶部から呼び出される。
【0058】
8個置きに、インク9を吐出する吐出口21が選択された場合、
図6または
図7に示されるように、距離8x+yに対応する実測値を複数取得することができる。したがって、複数の実測値の一部または全部の平均値を、距離8x+yの実測値とするようにしてもよい。平均値を用いることにより、いくつかの吐出口21の形成位置にずれが生じていた場合においても、回転角度θの特定精度が低下することを軽減することができる。もちろん、複数の実測値のうちの1つ(例えば、中央値)のみに基づいて、回転角度θが特定されるようにしてもよい。また、距離8x+1および距離7x+2yの双方に対応する実測値を取得し、それぞれの値を上記式(3)または式(4)に代入することで、回転角度θが求められてもよい。この場合、回転角度θの特定精度を向上することができる。
【0059】
なお、
図6に示される例では、インク9が、8個置きの吐出口21から吐出されているが、1〜7個置き、または9個以上置きの吐出口21から吐出されてもよい。なお、インク9を吐出する吐出口21が、(7+8p)個置き(pは、0以上の整数)とされた場合、同一の列状吐出口群23に属する吐出口21から液滴が吐出されることとなる。しかしながら、インクジェット17の加工精度が低い場合には、同一の列状吐出口群23内で、いくつかの吐出口21が位置ズレして形成されていることが起こり得る。このような場合、上記の手法で取得される回転角度θが、実際の値から外れてしまう虞がある。したがって、インク9を吐出する吐出口21は、できるだけ、相互に異なる列状吐出口群23から選択されることが望ましい(条件1)。これにより、異なる列状吐出口群23から選択された2つの吐出口21から吐出された液滴の着弾位置間の直交方向距離を測定することができる。
【0060】
また、インク9を吐出する吐出口21が、1〜7個置きとされた場合、移動方向R1に平行な列の吐出口21(例えば、吐出口21A1〜21H1)の中から、複数の吐出口21が選択されることとなる。例えば2個置きに選択されることで、移動方向R1に沿う列にある吐出口21A1、21D1、21G1が選択されたとする。しかしながら、インクジェットヘッド17の加工精度が低い場合には、この同一列において位置ズレしている場合がある。このため、これらの吐出口21から吐出されたインク9の着弾位置間の距離から回転角度θを特定した場合、実際の値から外れてしまう虞がある。したがって、インク9を吐出する吐出口21は、できるだけ、直交方向R3に関して、相互に異なる列に属するものであることが望ましい(条件2)。
【0061】
そこで、上記(条件1)、(条件2)を満たしつつ、かつ、着弾位置間の直交方向距離が理論上一致する2つの吐出口21の組をより多く確保するためには、インク9を吐出する吐出口21が、列状吐出口群23の数量(本実施形態では8個)に合わせて選択されることが好適である。
【0062】
また、1個〜7個置きに吐出口21が選択された場合、着弾位置間の直交方向距離が、距離xのみで表される場合がある。例えば、2個置きに吐出口21が選択された場合に、着弾位置間の直交方向距離として、[A1D1]、[D1G1]、[G1B2]・・・の実測値が得られたとする。このうち、[A1D1]、[D1G1]については、理論上、3xとなる。ここで、式(1)に示されるように、距離xは、標準状態のインクジェットヘッド17における、吐出口21An、21Hn間の移動方向R1の距離a(
図4参照)に依存する値となっている。ここで、距離aは、加工精度に依存するため、この値が理想値からずれていた場合、上記[A1D1]、[D1G1]の実測値から、回転角度θを正確に求めることが困難となる。これに対して、距離yは、式(2)に示されるように、距離aだけでなく、距離b(標準状態のインクジェットヘッド17における、直交方向R3に隣接する2つの吐出口21間の距離)に依存する値となっている。したがって、距離bの精度に問題がなければ、距離aに若干のズレがあったとしても、回転角度θの特定精度の悪化が相対的に軽減される。したがって、着弾位置間の直交方向距離に、距離yが含まれるように、2つの吐出口21の組が選択されることが望ましい。
【0063】
また、本実施形態では、
図6または
図7に示されるように、記録用紙1において、直交方向R3に関して隣どうしにある着弾位置間の距離が測定されるが、隣どうしでない着弾位置間の距離が測定されるようにしてもよい。例えば、
図6に示される例において、吐出口21A1、21E3から吐出された液滴の着弾位置間距離([A1E3])が測定されるようにしてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、回転角度θを特定するために、インク9の液滴を吐出する吐出口21が一定数置きに選択されている。しかしながら、必ずしも一定数置きとされる必要はなく、不規則に選択されてもよい。
【0065】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態の場合と同様の機能を有する要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0066】
図9は、記録用紙1側から見た第2実施形態に係る標準状態のインクジェットヘッド17を示す概略平面図である。また、
図10は、記録用紙1側から見た第2実施形態に係る回転後のインクジェットヘッド17aを示す概略平面図である。なお、
図10では、インクジェットヘッド17を回転軸Q周りに角度β回転している。
【0067】
インクジェットヘッド17aには、
図2に示されるインクジェットヘッド17と同様に、標準状態において、直交方向R3に沿って等間隔に形成された12個の吐出口21で構成される列状吐出口群23が、移動方向R1沿って8個(列状吐出口群23A〜23H)設けられている。しかしながら、移動方向R1の下流側(−Y側)から見て、偶数番目にある列状吐出口群23(列状吐出口群23B、23D、23F、23H)は、奇数番目にある列状吐出口群23(列状吐出口群23A、23C、23E、23G)に対して、+X側にずれている。具体的には、偶数番目の列状吐出口群23が、直交方向R3に関して隣どうしに位置する吐出口21、21間の距離bの半分(=b/2)だけ、+X側にずらされており、例えば、直交方向R3において、吐出口21B1が、吐出口21A1と吐出口21A2との間の位置に配置されている。
【0068】
このようなインクジェットヘッド17aを所要角度回転させた場合、
図10に示されるように、全吐出口21が、−X側から+X側にかけて、順に、吐出口21A1、21C1、21E1、21G1、21B1、21G1、21F1、21H1、21A2・・・というように配置される。つまり、
図2に示されるインクジェットヘッド17と同様に、インクジェットヘッド17aについても、回転軸Q周りに回転させることで、直交方向R3に関して、画像形成の解像度を向上することができる。
【0069】
このようなインクジェットヘッド17aの回転角度θについても、上記第1実施形態で説明した手法と同様の手法により、特定することが可能である。つまり、直交方向R3に関して、着弾位置が隣接しない2以上の吐出口21から、インク9の液滴を吐出させて、記録用紙1に着弾させる。そして、その着弾位置間の直交方向距離に基づいて、回転角度θが特定される。
【0070】
ここで、回転後のインクジェット17aにおける、各吐出口21間の直交方向距離について考察する。吐出口21A1、21C1、21E1、21G1、および、吐出口21B1、21G1、21F1、21G1は、移動方向R1に関して等間隔に形成されている。このため、回転後における、吐出口21間の直交方向距離[A1C1]、[C1E1]、[E1G1]、[B1D1]、[D1F1]および[F1H1]は、理論上、同一の値となる。以下、これらの直交方向距離をx’とおく。これに対して、着弾位置は隣接するものの、所属する列状吐出口群23が隣接していない2つの吐出口21、21(例えば、吐出口21G1、21B1または吐出口21H1、21A2)については、直交方向距離([G1B1]、[H1A2])は、それぞれ距離x’とは異なる場合がある。以下、これら距離を、それぞれy’、z’とする。これの距離x’、y’、z’は、詳細を省略するが、第1実施形態に係る距離x、yと同様に、いずれも、各吐出口21間の距離a、bや回転角度θを用いて表すことができる。
【0071】
図11は、回転角度θと、距離x’、y’、z’の関係を示すグラフである。
図11では、横軸が回転角度を示し、縦軸が距離を示している。また、同図では、距離x’が破線で示されており、距離y’が実線で示されており、距離z’が一点鎖線で示されている。
図11によると、回転角度θが漸増するにつれて、距離x’は漸増するのに対し、距離y’および距離z’は漸減することが判る。
【0072】
図12は、第2実施形態に係るインクジェットヘッド17aの回転角度θを特定するために記録用紙1に形成されるチャートの一例である。
図11に示されるチャートは、全吐出口21のうち、−X側から+X側にかけて、8個置きの吐出口21からインク9の液滴が吐出されることにより形成されている。より詳細には、吐出口21A1,21C2、21E3、21G4、21B5、21D6、21F7、21H8、21A10、21C11、21E12から、それぞれインク9の液滴が吐出されることによって、
図12に示されるチャートが形成されている。
【0073】
ここで、2つの吐出口21A1、21C1から吐出されて、記録用紙1に着弾した2つのインク9の着弾位置に着目すると、この着弾位置間の直交方向距離(=[A1C2])は、着弾位置が隣接する2つの吐出口21,21間の距離([A1C1]、[C1E1]、[E1G1]、[G1B1]、[B1D1]、[D1F1]、[F1H1]、[H1A2]および[A2C2])の総和となる。ここで、[A1C1]、[C1E1]、[E1G1]、[B1D1]、[D1F1]、[F1H1]、[A2C2]は上述した距離x’であり、[G1B1]は距離y’、[H1A2]は距離z’である。したがって、[A1C2]は、理論上、7x’+y’+z’となる。
【0074】
チャート上において、隣接する2つのドット間の距離のうち、[G4B5]および[H8A10]以外は、理論上、7x’+y’+z’となる。したがって、この7x’+y’+z’に対応するドット間距離を実測し、該実測値を7x’+y’+z’に代入することで、回転角度θを算出することができる。
【0075】
以上のように、インクジェットヘッド17aのような複数の吐出口21がジグザグ状に配置されているような場合であっても、着弾位置間の直交方向距離を取得することによって、回転角度θを特定することができる。
【0076】
<3. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0077】
例えば上記実施形態では、
図6または
図12に示されるように、回転角度θ特定用のチャートは、同一の組合せの2以上の吐出口21からインク9が所定回数吐出することによって形成されている。しかしながら、記録用紙1における移動方向R1の各位置で、インク9を吐出する吐出口21の組合せが変更されてもよい。これにより、様々な組の2つの吐出口21間の直交方向距離を実測することができるため、回転角度θの特定精度をさらに向上させることができる。
【0078】
また、上記実施形態では、
図6または
図12に示されるように、インク9の液滴によりドットが描画されたチャートが記録用紙1に形成されている。しかしながら、各吐出口21から連続的に液滴を吐出することで、ラインが描画されたチャートが記録用紙1に1形成されてもよい。この場合、着弾位置の特定が、ドットのときよりも検出しやすくなるとともに、着弾位置間の距離を、ライン間の距離とすることができる。
【0079】
また、上記実施形態では、複数の吐出口21が、移動方向R1およびこれに直交する直交方向R3に広がるエリアに、分散配置されている。しかしながら、移動方向または直交方向に一列に配列されていてもよい。また、複数の吐出口が、必ずしも一列に配列されている必要は無く、ランダムに並べられていてもよい。この場合においても、各吐出口の相対的な位置関係が既知であれば、吐出された液滴の着弾位置間の距離に基づいて、ノズルヘッドの回転角度を特定することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、インクジェットヘッド17、17aに対して記録用紙1を移動方向R1に移動させているが、インクジェットヘッド17、17aを移動方向R1に移動させてもよい。
【0081】
また、上記実施形態に係る画像形成装置100は、記録用紙1に直接インクを吐出するように構成されているが、例えば版胴にインクを吐出して、該版胴から記録用紙1に転写する装置として構成されていてもよい。また、画像形成装置が、インク以外の処理液を吐出するように構成されていてもよい。例えば、画像形成装置が液晶表示装置の製造工程において用いられる、ガラス基板などに吐出されるスペーサ粒子分散液をインクジェット方式で吐出する装置として構成されることも考えられる。
【0082】
なお、上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。