特許第5894022号(P5894022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5894022不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤および不飽和ポリエステル樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894022
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤および不飽和ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 283/01 20060101AFI20160310BHJP
   C08G 63/676 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   C08F283/01
   C08G63/676
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-143640(P2012-143640)
(22)【出願日】2012年6月27日
(65)【公開番号】特開2014-5413(P2014-5413A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】神谷 宗一郎
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−201362(JP,A)
【文献】 特開平05−186572(JP,A)
【文献】 特開2004−210814(JP,A)
【文献】 特開2006−206863(JP,A)
【文献】 特開2013−159680(JP,A)
【文献】 特開2013−129743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 283/01
C08G 63/676
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二塩基酸(A成分)、飽和二塩基酸(B成分)、下記式(1)で表されるジオール(C成分)および下記式(2)で表されるジオール(D成分)を含む原料組成物を重縮合反応させて得られる不飽和ポリエステルであることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤。
[化1]
HO−R1−OH (1)

但し、式(1)中のR1は、炭素数1以上5以下の分岐または直鎖状のアルカンである。

[化2]
H−(−O−CH2−CH2−)n−O−R2−O−(−CH2−CH2−O−)m−H (2)

但し、式(2)中のR2は、炭素数5以上22以下の炭化水素であり、nとmはそれぞれ1以上99以下の整数であり、且つn+mは10以上100以下である。
【請求項2】
請求項1の不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤を含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂用の親水化剤および不飽和ポリエステル樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、該親水化剤を添加した不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化した硬化体の表面に親水性を付与することができる親水化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、床や外壁のコーティング、レジャーボート、タンクなどのFRP用の樹脂には、不
飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を主とする組成物を硬化・成形して用いている。これらの樹脂組成物を硬化した硬化体の表面は疎水性であるため、上記のような用途では樹脂組成物硬化体表面で水を弾き水滴ができやすく、水滴が乾燥する際に水玉状の乾燥痕が残り汚れの原因となる。そこで、該樹脂組成物硬化体の表面の親水性を高めることにより水弾きを抑制して水滴をでき難くすることが求められている。
【0003】
不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の表面の親水性を付与する従来技術としては、不飽和ポリエステル樹脂成形体にポリエチレングリコール又はそのアルキルエーテルをグラフト重合して表面の親水化を施してなることを特徴とする防汚性建築用不飽和ポリエステル成形体(特許文献1参照)、不飽和ポリエルテルに対し、超微粒子状無水シリカ、重量平均分子量1,000〜5,000,000のポリエチレングリコール又はポリエチレンオキサイドが特定量設定される親水化剤(特許文献2参照)などが開示されている。
しかし、特許文献1の技術では、不飽和ポリエステル樹脂を硬化させて成形体を得た後に、さらに成形体の表面にポリエチレングリコールをグラフト重合するので、2度の工程が必要となり手間であり特別な設備が必要となるという問題点がある。また、特許文献2の技術では、親水性が不十分であり、さらに親水性を向上させるため、不飽和ポリエステル樹脂に不相溶である親水化剤の添加量を多くすると、得られた硬化体の硬化性が低下し、硬化体表面にべとつきが発生したり、親水性機能を長期間維持することができないなどの問題がある。そこで、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の表面に親水性を付与するよりよい方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−298985号公報
【特許文献2】特開2005−29586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、不飽和ポリエステル樹脂に親水化剤を配合した不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化することにより、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体表面の親水性を改善する硬化性樹脂用親水化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決する為に鋭意研究を重ねた結果、不飽和二塩基酸、飽和二塩基酸、およびジオール類を重縮合反応させて得られた不飽和ポリエステルが、上記課題を解決すること見出した。本発明者は、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)不飽和二塩基酸(A成分)、飽和二塩基酸(B成分)、下記式(1)で表されるジ
オール(C成分)および下記式(2)で表されるジオール(D成分)を含む原料組成物を重縮合反応させて得られる不飽和ポリエステルであることを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤、
[化1]
HO−R1−OH (1)
但し、式(1)中のR1は、炭素数1以上5以下の分岐または直鎖状のアルカンである。[化2]
H−(−O−CH2−CH2−)n−O−R2−O−(−CH2−CH2−O−)m−H (2)
但し、式(2)中のR2は、炭素数5以上22以下の炭化水素であり、nとmはそれぞれ1以上99以下の整数であり、且つn+mは10以上100以下である。
(2)上記(1)の不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤を含有することを特徴とする不飽和ポリエステル樹脂組成物、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤は、不飽和ポリエステル樹脂に添加して硬化することにより得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体表面の親水性を改善し、その親水性機能を長く維持することが可能である。また、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の硬化性に悪影響を与えることがない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いる不飽和二塩基酸(A成分)は、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体を指し、具体的には、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、ハロマレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水ハロマレイン酸などが挙げられ、好ましくはマレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸である。これら不飽和二塩基酸は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
本発明に用いる飽和二塩基酸(B成分)は、飽和ジカルボン酸およびその誘導体を指し、具体的には、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、無水フタル酸、無水コハク酸などが挙げられ、好ましくは無水フタル酸、イソフタル酸である。これら飽和二塩基酸は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
本発明に用いるジオール(C成分)は、式(1)「HO−R1−OH」で表され、式中のR1は炭素数1以上5以下の分岐または直鎖状のアルカンである。上記R1としては、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンテン、イソペンテン、ネオペンテンなどが挙げられる。
【0011】
C成分としては、具体的にはエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、好ましくはプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールである。
上記R1の炭素数が6以上の場合、重縮合の反応性が低下してポリエステル化が困難となる場合がある。
【0012】
本発明に用いるジオール(D成分)は、式(2)「H−(−O−CH2−CH2−)n−O−R2−O−(−CH2−CH2−O−)m−H」で表され、式中のR2は炭素数5以上22以下の炭化水素である。
式中のnおよびmは1以上99以下の整数であり、好ましくは1〜50、より好ましくは1〜25である。式中のn+mは10以上100以下であり、好ましくは10〜80、
より好ましくは10〜50である。nおよびmが上記範囲より大きい場合は、重縮合の反応性が低下し、ポリエステル化が困難となる場合がある。また、nおよびmの和が、上記範囲より小さい場合は十分な親水性が発現できない場合があり、上記範囲より大きい場合は、重縮合の反応性が低下し、ポリエステル化が困難となる場合がある。
【0013】
上記R2は炭素数5以上22以下のアルカン類、アルケン類、アルキン類、シクロアルカン類、シクロアルケン類、アレーン類などの炭化水素である。本発明に用いることができるR2としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ヘンイコサン、ドコサンなどのアルカン類、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デケン、ウンデケン、ドデケン、トリデケン、テトラデケン、ペンタデケン、ヘキサデケン、ヘプタデケン、オクタデケン、ノナデケン、イコセン、ヘンイコセン、ドコセン、ペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、デカジエン、ウンデカジエン、ドデカジエン、トリデカジエン、テトラデカジエン、ペンタデカジエン、ヘキサデカジエン、ヘプタデカジエン、オクタデカジエン、ノナデカジエン、イコサジエン、ヘンイコサジエン、ドコサジエン、ヘキサトリエン、ヘプタトリエン、オクタトリエン、ノナトリエン、デカトリエン、ウンデカトリエン、ドデカトリエン、テトラデカトリエン、ペンタデカトリエン、ヘキサデカトリエン、ヘプタデカトリエン、オクタデカトリエン、ノナデカトリエン、イコサトリエン、ヘンイコサトリエン、ドコサトリエン、オクタテトラエン、ノナテトラエン、デカテトラエン、ウンデカテトラエン、ドデカテトラエン、トリデカテトラエン、テトラデカテトラエン、ペンタデカテトラエン、ヘキサデカテトラエン、ヘプタデカテトラエン、オクタデカテトラエン、ノナデカテトラエン、イコサデカテトラエン、ヘンイコサデカテトラエン、ドコサテトラエン、デカペンタエン、ウンデカペンタエン、ドデカペンタエン、テトラデカペンタエン、ペンタデカペンタエン、ヘキサデカペンタエン、ヘプタデカペンタエン、オクタデカペンタエン、ノナデカペンタエン、イコサペンタエン、ヘンイコサペンタエン、ドコサペンタエン、ドデカヘキサエン、トリデカヘキサエン、テトラデカヘキサエン、ペンタデカヘキサエン、ヘキサデカヘキサエン、ヘプタデカヘキサエン、オクタデカヘキサエン、ノナデカヘキサエン、イコサヘキサエン、ヘンイコサヘキサエン、ドコサヘキサエンなどのアルケン類、ペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン、ノニン、デキン、ウンデキン、ドデキン、トリデキン、テトラデキン、ペンタデキン、ヘキサデキン、ヘプタデキン、オクタデキン、ノナデキン、イコシン、ヘンイコシン、ドコシンなどのアルキン類、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン、シクロウンデカン、シクロドデカン、シクロトリデカン、シクロテトラデカン、シクロペンタデカン、シクロヘキサデカン、シクロヘプタデカン、シクロオクタデカン、シクロノナデカン、シクロイコサン、シクロヘンイコサン、シクロドコサン、ビスシクロヘキシルメタン、ビスシクロヘキシルエタン、ビスシクロヘキシルプロパン、ビスシクロヘキシルブタン、ビスシクロヘキシルペンタン、ビスシクロヘキシルヘキサン、トリシクロヘキシルメタン、トリシクロヘキシルエタン、ノルボルナン、デカリンなどのシクロアルカン類、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデケン、シクロウンデシレン、シクロドデシレン、シクロトリデシレン、シクロテトラデシレン、シクロペンタデシレン、シクロヘキサデシレン、シクロヘプタデシレン、シクロオクタデシレン、シクロノナデシレン、シクロイコセン、シクロヘンイコセン、シクロドコセン、ビスシクロヘキセニルメタン、ビスシクロヘキセニルエタン、ビスシクロヘキセニルプロパン、ビスシクロヘキセニルブタン、ビスシクロヘキセニルペンタン、ビスシクロヘキセニルヘキサン、トリシクロヘキセニルメタン、トリシクロヘキセニルエタン、ノルボルネンなどのシクロアルケン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメン、スチレン、ナフタレン、ビフェニル、アズレン、アントラセン、フルオレン、トリフェニレン、ピレン、テトラセン、クリセン、ビスフェニルメタン、ビスフェニルエタン、ビスフェニルプロパン、ビスフェニルブ
タン、ビスフェニルペンタン、ビスフェニルヘキサン、トリフェニルメタン、トリフェニルエタンなどのアレーン類が挙げられる。
【0014】
ジオール(D成分)を表す式(2)はR2で表される炭化水素の異なる2ヶ所の水素原子がポリエトキシ基により置換されたジオールである。また、R2は本発明の効果を阻害しない範囲内で窒素、硫黄原子などのヘテロ原子を含んでいても良い。
【0015】
D成分としては、具体的にはネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールSエチレンオキサイド付加物、
水添ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物が挙げられ、好ましくはビスフェノールAエチレンオキサイド付加物である。
【0016】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤(以下、「親水化剤」という。)は、不飽和二塩基酸(A成分)、飽和二塩基酸(B成分)、式(1)で表されるジオール(C成分)および式(2)で表されるジオール(D成分)を含む原料組成物を重縮合することによって得られる不飽和ポリエステルである。
【0017】
親水化剤を構成する不飽和二塩基酸(A成分)と飽和二塩基酸(B成分)の配合モル比(A成分:B成分)は、好ましくは約2:8〜8:2であり、より好ましくは約3:7〜7:3である。上記範囲外であると不飽和ポリエステル樹脂に親水化剤を添加して硬化した不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の硬化性が保たれない場合があり、さらに十分な親水性が発現できなくなる場合がある。
【0018】
親水化剤を構成する式(1)で表されるジオール(C成分)と式(2)で表されるジオール(D成分)の配合モル比(C成分:D成分)は、好ましくは約2:8〜8:2であり、より好ましくは約3:7〜7:3である。上記範囲外であると親水化剤作製時の重縮合反応が十分に進まない場合があり、また、十分な親水性が発現できなくなる場合がある。
【0019】
親水化剤を構成する不飽和二塩基酸(A成分)および飽和二塩基酸(B成分)と、式(1)で表されるジオール(C成分)および式(2)で表されるジオール(D成分)の配合モル比(A成分+B成分:C成分+D成分)は、好ましくは約9:11〜11:9、より好ましくは約1:1である。上記範囲外であると、親水化剤作製時の重縮合反応が十分に進まない場合がある。
【0020】
親水化剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の原料を重縮合することができる。例えば本発明で用いる式(1)または式(2)で表されるジオール(C成分およびD成分:二価アルコール)以外の多価アルコールなどが挙げられる。
上記多価アルコールとしては、1,6−ヘキサンジオール、トリエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ペンタエリスリトールなどの四価アルコールなどが挙げられる。
【0021】
重縮合によって得られる本発明に係る親水化剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の原料を配合することができる。例えば、親水性モノマーなどが挙げられる。
上記親水性モノマーとしては、スチレンスルホン酸ナトリウム、イソプレンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、高級アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェ
ニルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビス(ポリエチレングリコール)マレート、ビス(メトキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(ブトキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(高級アルコキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(ノニルフェニルポリエチレングリコール)マレート、ビス(ポリエチレングリコール)フマレート、ビス(メトキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(ブトキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(高級アルコキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(ノニルフェニルポリエチレングリコール)フマレート、ポリオキシエチレンアリルエーテルおよびそのエステル、ポリオキシエチレンペンテニルエーテルおよびそのエステル、ポリオキシエチレンウンデシレニルエーテルおよびそのエステルなどが挙げられる。
【0022】
親水化剤は、不飽和二塩基酸、飽和二塩基酸、式(1)で表されるジオールおよび式(2)で表されるジオールを公知の方法で重縮合することにより製造することができる。例えば、窒素気流下、不飽和二塩基酸、飽和二塩基酸、式(1)で表されるジオールおよび式(2)で表されるジオールを撹拌しながら約120〜210℃になるように加熱し、脱水重縮合することにより得られる。
【0023】
親水化剤は、平均分子量が約1500〜20000が好ましく、約2000〜10000がより好ましい。上記範囲外であると、不飽和ポリエステル樹脂に親水化剤を配合した不飽和ポリエステル樹脂組成物の粘度が不適であり作業性が悪くなる場合があり、また該組成物を硬化・成形加工する際、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の機械的強度が不適となる場合がある。
【0024】
親水化剤は、不飽和ポリエステル樹脂に添加して用いられ、親水化剤を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物に硬化剤を添加し、硬化して得られる硬化体表面の親水性を改善することができる。詳しくは、本発明の親水化剤は、分岐状または直鎖状のアルカンを有する式(1)で表されるジオールおよびアルカン類、アルケン類、アルキン類、シクロアルカン類、シクロアルケン類、アレーン類などとポリエトキシレートを有する式(2)で表されるジオールが用いられているため、対象となる不飽和ポリエチレン樹脂と適度な相溶性を持ち、また、該樹脂が硬化する際、親水化剤が該樹脂と架橋することで対象となる不飽和ポリエステル樹脂の硬化体の特性である物性や耐水性を損なうことなく、長期にわたって親水性機能を維持することができる。
【0025】
親水化剤と不飽和ポリエステル樹脂を含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物も本発明のもう1つの形態である。
【0026】
上記不飽和ポリエステル樹脂組成物は、親水化剤と不飽和ポリエステルを重合性単量体に溶解して得られる。不飽和ポリエステル樹脂組成物中の親水化剤の配合量は、好ましくは約5〜50質量%、より好ましくは約10〜40質量%である。上記範囲外であると、本発明の目的が達成されない場合がある。
【0027】
不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる不飽和ポリエステルは、不飽和二塩基酸、所望によりその他の多塩基酸を含む酸成分と、アルコール成分とを公知の方法で重縮合反応して得られるものである。
【0028】
上記不飽和二塩基酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水フマル酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
所望により用いられる他の多塩基酸は、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、コハク酸、アゼラインヘキサヒドロフ
タル酸、酸、アジピン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、アントラセン−無水マレイン酸付加物、ロジン−無水マレイン酸付加物、ヘット酸、無水ヘット酸、テトラクロロ無水フタル酸などの塩素化多塩基酸、テトラブロモフタル酸、テトラブモロ無水フタル酸などのハロゲン化多塩基酸などが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ペンタエリスリトールなどの四価アルコールなどが用いられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
上記不飽和ポリエステル樹脂組成物に用いられる重合性単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらは、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。重合性単量体の配合量は、不飽和ポリエステル100質量部に対し、約50〜120質量部、好ましくは約60〜100質量部の範囲である。
【0031】
上記不飽和ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で他の原料を配合することができる。例えば、重合禁止剤(例えばハイドロキノン、ピロカテコール、2,6−ジ−ターシャリーブチルパラクレゾールなど。)、染料、可塑剤、紫外線吸収剤、揺変剤(例えばシリカ粉、アスベスト粉、水素化ヒマシ油、脂肪酸アマイドなど。)、充填剤、安定剤、消泡剤、レベリング剤などが挙げられる。
【0032】
上記の不飽和ポリエステル樹脂組成物を硬化させる硬化剤は有機過酸化物が挙げられる。具体的には、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの硬化触媒である。有機過酸化物は、不飽和ポリエステル樹脂組成物に対して約0 .5 〜 3 .0質量%の割合で配合されることが好ましい。
【0033】
有機過酸化物などの硬化剤の他に、所望により硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルトなどの金属石けん類、ジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、アセチルアセトンなどのβ − ジケトン類、ジメチルアニリン、N−エチル−メタトルイジン、トリエタノールアミンなどのアミン類などが挙げられる。この硬化促進剤の配合割合には特に制限はなく、要求される硬化性に応じて適宜決定される。
【0034】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
<不飽和ポリエステル樹脂用親水化剤の作製>
(1)原材料
A成分:
無水マレイン酸(商品名:無水マレイン酸;和光純薬社製)
B成分:
無水フタル酸(商品名:無水フタル酸;和光純薬社製)
イソフタル酸(商品名:イソフタル酸;和光純薬社製)
無水コハク酸(商品名:リカシッドSA:新日本理化社製)
C成分:
ネオペンチルグリコール(商品名:ネオペンチルグリコール;三菱ガス化学社製 R1に該当する炭素数は5である。)
プロピレングリコール(商品名:プロピレングリコール;ADEKA社製 R1に該当する炭素数は3である。)
D成分の比較:
ビスフェノールAエチレンオキサイド4モル付加物(商品名:ビスオール4EN;東邦化学社製 R2に該当する炭素数は15であり、n+mは4である。)
D成分:
ビスフェノールAエチレンオキサイド18モル付加物(商品名:ビスオール18EN;東邦化学社製 R2に該当する炭素数は15であり、n+mは18である。)
ビスフェノールAエチレンオキサイド30モル付加物(商品名:ビスオール30EN;東邦化学社製 R2に該当する炭素数は15であり、n+mは30である。)
ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド20モル付加物(下記製造方法1にて作製
R2に該当する炭素数は5であり、n+mは20である。)
ビスフェノールSエチレンオキサイド20モル付加物(下記製造方法2にて作製 R2に
該当する炭素数は12であり、n+mは20である。)
【0036】
(2)ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド20モル付加物の作製
1リットルオートクレーブ中にネオペンチルグリコール52g(0.50モル)および水酸化カリウム0.5gを仕込み、オートクレーブ内を窒素パージして密封し、攪拌しながら150℃まで昇温した。次に、エチレンオキサイド458g(10モル)をオートクレーブ中に導入し、付加反応を行った。オートクレーブの圧力が一定になり反応が充分進んだところで、温度を120℃まで下げ、オートクレーブ中に窒素パージして常圧にした。リン酸を加えて触媒を中和した後、減圧濾過にて中和塩を除去して、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド20モル付加物500gを得た。
【0037】
(3)ビスフェノールSエチレンオキサイド20モル付加物の作製
1リットルオートクレーブ中にビスフェノールS 125g(0.50モル)および脂水酸化カリウム0.5gを仕込み、オートクレーブ内を窒素パージして密封し、攪拌しながら150℃まで昇温した。次に、エチレンオキサイド458g(10モル)をオートクレーブ中に導入し、付加反応を行った。オートクレーブの圧力が一定になり反応が充分進んだところで、温度を120℃まで下げ、オートクレーブ中に窒素パージして常圧にした。リン酸を加えて触媒を中和した後、減圧濾過にて中和塩を除去して、ビスフェノールSエチレンオキサイド20モル付加物565gを得た。
【0038】
(4)原材料配合
上記原材料を用いて作製した親水化剤の配合組成を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
(5)親水化剤の作製
[実施例1]
表1に記載の原材料の1倍量を1リットル四つ口フラスコに投入し、ゆっくり攪拌しながらマントルヒーターにて1 時間をかけ210℃に昇温した。縮合水を除去しながら2
10℃を8時間維持し、常温まで冷却して親水化剤(実施例品1)を615g得た。下記方法で平均分子量を測定したところ、5000以上であった。
【0041】
[親水化剤の平均分子量の測定方法]
平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、下記の測定条件で行ったポリスチン換算のピークトップ分子量である。
<測定条件>
カラム:shodex GPC KF−801+shodex GPC KF−802
カラム温度:400℃
検出器:RI
溶離液:THF
流速:1.0mL/min
サンプル濃度:1mg/mL
注入量:0.02mL
換算標準:ポリスチレン
【0042】
[実施例2〜6]
実施例1の親水化剤の作製において、原材料を表1の配合に替えた以外は同様に操作を行い、親水化剤(実施例品2〜6)を855g、601g、678g、880g、760g得た。平均分子量を測定したところ、何れも5000以上であった。
【0043】
[比較例1〜5]
実施例1の親水化剤の作製において、原材料を表1の配合に替えた以外は同様に操作を行い、親水化剤(比較例品1〜5)を855g、815g、778g、180g、335g得た。平均分子量を測定したところ、5000以上、5000以上、2100、3500、4400であった。
【0044】
<不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の作製>
得られた親水化剤(実施例品1〜6、比較例品1〜5)の親水性を評価するために、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体を下記方法で作製した。
(1)原材料
不飽和ポリエステル樹脂(商品名:トマテック3Z−006PI;東罐マテリアル・テクノロジー社製、ゲルコート)
硬化剤(商品名:パーメックN;日本油脂社製)
親水化剤(実施例品1〜6、比較例品1〜5)
【0045】
(2)不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の配合
上記原材料を用いて作製した不飽和ポリステル樹脂組成物硬化体の配合を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
(3)不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の作製
[試作品1〜13]
表2に記載の1倍量の原材料を加えて撹拌し、PETフィルム(幅100mm×奥行100mm×厚み25μm)上に10gを刷毛で塗布し、常温で24時間硬化を行った後、60
℃60分間の条件で乾燥し、90℃で1.5hrアフターキュアを行った後にPETフィルムを隔離して不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体(試作品1〜13)を得た。
【0048】
<不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の評価>
(1)硬化性の評価
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の表面を手で触れて硬化状態を評価した。評価は、下記評価基準で行った。結果を表3に示す。
(評価基準)
硬化体表面は、べたつきがなく、しっかりと硬化している。 : ○
硬化体表面は、ごくわずかにべたつきがあり、やや硬化が不十分である。: △
硬化体表面は、べたつきがあり、硬化が不十分である。 : ×
【0049】
(2)親水性の評価1:浸漬処理前の接触角の測定
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体表面(PETフィルムを剥離した面)の接触角を、接触角計(型式:FACE接触角CA−X型;協和界面科学社製)を用いて測定した。接触角の数値が小さいほど親水性が良いことを示す。各不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の評価結果を表3に示す。
【0050】
(3)親水性の評価2:浸漬処理後の接触角の測定
得られた不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の親水性機能を長期間維持することを確認するために、不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体を、90℃の温水中で24時間浸漬処理した後に乾燥してから、「親水性の評価1」と同じ方法で接触角を測定した。接触角
の数値が、熱水中への浸漬処理前の接触角と大きな差がない場合、親水性機能を長く維持するといえる。各不飽和ポリエステル樹脂組成物硬化体の評価結果を表3に示す。
【0051】
【表3】
結果より、実施例品の親水化剤を用いた試作品1〜7は、硬化性が良く、且つ親水性は、親水化剤を無添加の試作品13より接触角が小さく親水性が改善されていた。また、浸漬処理した後も接触角が大きく変化せず、親水性機能を長く維持することができた。
一方、比較の親水化剤(比較例品1)を用いた試作品8は、硬化性に劣り、浸漬処理後の接触角が著しく悪化していた。また、親水化剤(比較例2)を用いた試作品9は、硬化性はよいが、親水性の改善が不十分であった。親水化剤(比較例品3)を用いた試作品10は、硬化性に劣り、浸漬処理後の接触角が著しく悪化していた。親水化剤(比較例品4)を用いた試作品11は、親水性の改善が全くみられなかった。親水化剤(比較例品5)を用いた試作品12は、ほとんど親水性の改善がみられなかった。