(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサはアルミニウム、タンタルおよびニオブ等の弁金属と呼ばれる金属を電極に使用して、陽極酸化することで得られる酸化皮膜層を誘電体として利用するコンデンサである。
【0003】
アルミニウムを電極に使用したアルミニウム電解コンデンサは、エッチング処理および酸化皮膜形成処理が施された陽極箔と陰極箔とがセパレータ(電解紙)を介して巻回され、素子止めテープによって固定されてコンデンサ素子が形成されている。このコンデンサ素子は駆動用電解液が含浸された後、有底筒状外装ケースに収納される。
【0004】
さらに、外装ケースの開口部には封口体が装着され、該開口部は、絞り加工により密閉された構成を有する。
【0005】
基板自立タイプのアルミニウム電解コンデンサは、この封口体の外端面に陽極端子および陰極端子が形成され、これらの端子の下端部は、コンデンサ素子から引き出された陽極タブ端子および陰極タブ端子が電気的に接続されている。
また、リード線タイプのアルミニウム電解コンデンサは、コンデンサ素子から引き出された陽極タブ端子および陰極タブ端子と電気的に接続されたリード端子が、封口体に設けられた挿通孔を通して外部に引き出されている。
【0006】
オーディオ機器において、アルミニウムを電極に使用した音響用電解コンデンサは電源回路フィルタ、各回路ブロックのカップリング、デカップリングの用途に使用されており、使用する材料や製造方法によって再生される音質が変化する現象は公知の事実である。
【0007】
ところで、アルミニウム電解コンデンサのセパレータとして、ガラスビーズを添加したものも考えられている(特許文献1参照)。ガラスビーズを添加する目的は、ショート不良率の低減、漏れ電流値と高周波におけるインピーダンス値の抑制、および電気特性の改善である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来のガラスビーズを添加したセパレータは、当該セパレータを用いたアルミニウム電解コンデンサの電気特性を改善することを目的とするものであり、アルミニウム電解コンデンサをオーディオ機器に使用した場合における音質改善を目的とするものではなかった。
【0010】
本発明は、オーディオ機器に使用した際に、音質の高い音を得ることができる音響用電解コンデンサ
の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の
音響用電解コンデンサの製造方法は、電解紙を介して弁金属の陽極箔と陰極箔とを重ね合わせて巻回してなる
オーディオ機器に利用される音響用電解コンデンサの製造方法であって、前記電解紙の表面に、
平均粒子径が0.02〜20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を散布する工程と、前記ケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末が散布された前記電解紙を介して前記陽極箔および前記陰極箔を巻回する工程とを備え
、前記電解紙における前記ケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末の量は、前記電解紙の重量に対して0.01〜30.0重量%であることを特徴とする。
【0016】
この製造方法によれば、電解紙の表面にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を散布するという簡易な方法によって、ケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を含んだ電解紙を有する電解コンデンサを製造することができる。
また、電解紙にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を散布する工程だけで、電解紙にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末が含まれるようにすることができるため、電解紙メーカに特注依頼することなく、この電解紙を得ることができる。これにより、電解コンデンサの製造工程において容易に製造することができ、電解コンデンサの製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の
音響用電解コンデン
サの製造方法によると、オーディオ機器に使用した際に、音質の高い音を得ることができる音響用電解コンデンサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る電解コンデンサのコンデンサ素子を示す斜視図であり、
図2は、電解コンデンサの構成を示す断面図である。
図1に示すように、電解コンデンサにおいては、エッチング処理および酸化皮膜形成処理が施された陽極箔1と陰極箔2とが電解紙(セパレータ)3を介して巻回され、素子止めテープ6で固定されてコンデンサ素子7が形成されている。
このコンデンサ素子7は、駆動用電解液が含浸された後、有底筒状の外装ケース12(
図2)に収納される。
【0021】
外装ケース12の開口部には封口体が装着され、該開口部は絞り加工により密閉された構造を有する。封口体は、ベークライト10に弾性部材11を貼り合わせたものが用いられる。なお、外装ケース12には、コンデンサ素子7を固定する素子固定剤15が配されていてもよい。
【0022】
封口体(ベークライト10および弾性部材11)の外端面には、陽極端子8および陰極端子9が形成され、これらの端子8、9の下端部は、コンデンサ素子7から引き出された陽極引き出しリード4および陰極引き出しリード5が加締部(または溶接部)13A、13Bを介して電気的に接続されている。
【0023】
ここで、陽極引き出しリード4については、化成処理が施されたものが使用されるが、陰極引き出しリード5については、一般的には化成処理が施されていないものが使用される。いずれの引き出しリード(陽極引き出しリード4、陰極引き出しリード5)についても、表面加工の施されていない弁金属箔が一般的には用いられる。
【0024】
さらに、基板自立タイプのアルミニウム電解コンデンサの封止は、封口体の弾性部材11と、外装ケース12をカーリングした部分とでなされている。
【0025】
この電解コンデンサにおいてセパレータとして用いられる電解紙3は、一般用電解紙(クラフト系)が用いられ、この電解紙にはケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末が散布されている。なお、電解紙としては、クラフト系に限らず、マニラ系、クラフト/マニラ麻の混抄等種々のものを用いることができる。
【0026】
本実施形態の場合、一般用電解紙(クラフト系)に所定平均粒子径のケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を所定の重量%の割合で散布したものを用いる。このケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末に関し、平均粒子径および重量%として種々のものを作製して特性試験を行った。その試験結果は後述する。
【0027】
次に、本実施形態に係る電解コンデンサの製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る電解コンデンサの製造工程を示すフローチャートである。
【0028】
(ケイ酸アルミニウムマグネシウム粉末散布工程)
電解紙(セパレータ)3(
図1)として用いられる電解紙3の紙面を水平にして、当該電解紙3を矢印a方向に移動させながら、ストロー状のパイプ31から電解紙表面にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末40を散布する。(
図4)これにより、電解紙3の表面には、ケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末40が散布される。
表面にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末40が散布された電解紙3は、その後陽極箔1および陰極箔2(
図1)を介して巻き取られる。この巻取りによって、電解紙表面のガラス粉末40は、電解紙3の表面に定着する。
【0029】
(加締・巻取工程)
電解紙表面にガラス粉末40を散布した後、両電極箔間に当該電解紙3を介して円筒形のコンデンサ素子7(
図1)に巻取りながら、電極引き出しリード材を陽極箔1および陰極箔2の各々に接続する。
この巻取りを行う際に、上述したケイ酸アルミニウムマグネシウム粉末散布工程(ステップS103)が実行され、これにより、電解紙表面にケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末40が散布されながら巻取りが行われる。
最後に、巻き終わりを素子止めテープ6で止めると共に、
図2に示すようにコンデンサ素子7の下端部外周面に素子固定部材15を嵌め込む(ステップS101)。
電極引き出しリード材と電極箔との接続方法としては、針穴加締方法やコールド加締(冷間圧着)等を例示することができる。
【0030】
(含浸工程)
減圧や加圧等によりコンデンサ素子7に駆動用電解液を含浸させる(ステップS102)。この時の含浸時間は、コンデンサ素子7のサイズや駆動用電解液の種類によって異なるが、一般的に素子サイズが大きくなるほど含浸時間も長くなる。その後、過剰な駆動用電解液を遠心分離機にて、ある一定量取り除く。
【0031】
(組立工程)
駆動用電解液を含浸済みのコンデンサ素子7と封口体(ベークライト10と弾性部材11)とを接合させた後、外装ケース12に入れ、封止して気密を保持する。その後、外装スリーブ16(
図2)で被覆する(ステップS103)。
【0032】
(エージング工程)
高温下で本電解コンデンサ(製品)に直流電圧を印加し、箔の切断や巻取りによって損傷した酸化皮膜の修復を行う(ステップS104)。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0034】
電解紙を介して陽極箔と陰極箔を重ね合わせ、巻回した基板自立タイプのアルミニウム電解コンデンサ素子7に駆動用電解液を含浸した後、遠心分離機にて余剰な駆動用電解液を取り除いた。
このコンデンサ素子7を外装ケース12内に封口体と共に挿入し、直径35mm、長さ50mm、定格電圧50V、静電容量10,000μFの電解コンデンサを作製し、エージング処理を行った。
【0035】
(実施例1)
本実施例1は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径0.02μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して0.01重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0036】
(実施例2)
本実施例2は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径0.02μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して1.00重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0037】
(実施例3)
本実施例3は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径0.02μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して30.0重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0038】
(実施例4)
本実施例4は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して0.01重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0039】
(実施例5)
本実施例5は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して1.00重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0040】
(実施例6)
本実施例6は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して30.0重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0041】
(実施例7)
本実施例7は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径30.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して30.0重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0042】
(実施例8)
本実施例8は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径0.01μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して30.0重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0043】
(実施例9)
本実施例9は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して0.005重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0044】
(実施例10)
本実施例10は一般用電解紙(クラフト系)に平均粒子径20.0μmのケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を電解紙に対して40.0重量%の割合で電解紙の表面に散布した電解コンデンサである。
【0045】
(従来例)
従来例はケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末が散布されていない一般用電解紙(クラフト系)を電解紙として使用したアルミニウム電解コンデンサである。
【0046】
上記の実施例1〜10の電解コンデンサ、および比較例、従来例のアルミニウム電解コンデンサをプリメインアンプの電源フィルタに実装し、その再生音質を評価した。試聴者は3名で、各項目共に10点満点で評価して3名の評価点の平均値とした。
また、総合評価点は10項目の評価点の合計値で示し100点満点とし、再生音質の評価結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から以下のことが分かる。本発明の実施例1〜6のケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末を表面に散布した電解紙3を用いた電解コンデンサは、従来例の電解コンデンサと比べると総合評価点が高く、高い音質を再生することができた。
そして、散布するケイ酸アルミニウムマグネシウムの粉末は、平均粒子径が0.02〜20.0μm、添加量が0.01〜30.0重量%の範囲とした実施例1〜6が、上記範囲外の実施例7〜10より総合評価点が高く、さらに高い音質を再生することができた。
【0049】
なお、上述の実施例においては、本発明を基板自立タイプの電解コンデンサに適用したが、リード線形やチップ形の電解コンデンサに適用しても同様の効果が得られる。
【0050】
また、上述の実施例においては、電解コンデンサをプリメインアンプの電源フィルタに実装する場合について述べたが、これに限られるものではなく、その他の各回路ブロックのカップリング、デカップリング等の用途において使用する電解コンデンサにおいても、本発明を適用すると、好結果が得られる。