特許第5894038号(P5894038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894038
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】ワイパーブレード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/38 20060101AFI20160310BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20160310BHJP
   B29C 47/00 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   B60S1/38 B
   C08J7/04 ZCFH
   B29C47/00
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-189565(P2012-189565)
(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公開番号】特開2014-46734(P2014-46734A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 喜則
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】菅野 渉
(72)【発明者】
【氏名】関口 好彦
【審査官】 柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/102939(WO,A1)
【文献】 特表2013−520368(JP,A)
【文献】 特開2004−331831(JP,A)
【文献】 特開2000−118361(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0234489(US,A1)
【文献】 特開2000−016253(JP,A)
【文献】 特開2004−50974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/38
B29C 47/00
C08J 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加加硫型シリコーンゴムを含有し、シリコーンオイルを実質的に無含有の基体と、前記基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に配置され、シリコーンポリマー100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有する表面層とを有するワイパーブレード。
【請求項2】
前記表面層は、前記シリコーンポリマーの前駆体100質量部、前記シリコーンオイル5〜60質量部及び前記潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を前記部分に塗布硬化してなる請求項1に記載のワイパーブレード。
【請求項3】
前記潤滑剤は、グラファイトである請求項1又は2に記載のワイパーブレード。
【請求項4】
シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製し、
基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に、シリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成するワイパーブレードの製造方法。
【請求項5】
前記潤滑剤は、グラファイトである請求項4に記載のワイパーブレードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイパーブレード及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持するワイパーブレード、及び、このワイパーブレードを作業性よく製造できるワイパーブレードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車及び電車等の車両、船舶、航空機等の乗物には、通常、ウインドガラス、風防ガラス(以下、単にガラスと称することがある。)の表面に付着した雨水、泥水、雪、みぞれ、ほこり等を払拭して取り除き、運転者等の視界を確保するためのワイパー装置が装着されている。このワイパー装置は、ガラスの表面に圧接され雨水等を払拭するワイパーブレードを装着し、ガラスの表面上を揺動作動又は反復運動するワイパーアームと、ワイパーアームを揺動作動又は反復運動させる駆動機構とを有している。
【0003】
このワイパーアームに装着されるワイパーブレードには、ワイパー装置の目的を達成するために、通常、ガラス上を円滑に動作する摺動性、雨滴等を拭き取って良好な視界を確保する払拭性、長期間安定した摺動性及び払拭性を維持する耐久性の3つの特性が要求される。
【0004】
これらの要求特性を満足させるワイパーブレードとして、例えば、特許文献1には「少なくともガラス面を払拭する部分が、シリコーンゴムとの接着性がJIS K 5400の碁盤目テープ法に準拠した方法で評価した場合、評価点数が少なくとも6点以上となるようにする樹脂成分を配合したフッ素樹脂の皮膜で被覆され、加硫後の硬度がJIS K 6253のAタイプ・デュロメーターによる硬度で50〜90°であるシリコーンゴムからなることを特徴とするワイパーブレード」が記載されている。
【0005】
ところで、ガラスに付着した雨水又は雨滴を効果的に除去するのに、ガラスの表面に撥水膜を形成して雨水を除去又はワイパーブレードによる雨水の払拭を補助する技術が知られている。しかし、この技術は通常、降雨前に撥水膜を形成する材料をガラスの表面に塗布して撥水膜を形成しておく必要があり、作業性等に問題がある。
【0006】
そこで、揺動作動又は反復運動によって撥水膜を形成できるワイパーブレードがいくつか提案されている。例えば、特許文献2には「シリコン系撥水剤を内部に分散させたシリコンゴムからなることを特徴とするワイパーブレード」が記載されている。また、特許文献3には、「シリコーンゴム100部に対し0.1〜10部のシリコーンオイルを含有しているシリコーンゴム組成物の成形体でなり、上記成形体の表面に、摩擦係数を低下させるための表面処理又はコーティングが施されていることを特徴とする機能性ワイパーブレード」が記載されている(請求項4、実施例等。)。
【0007】
ところが、特許文献2のワイパーブレード及び特許文献3の機能性ワイパーブレードは、初期はともかく、未使用時間が比較的長くなると、所期の機能を発揮せず、撥水膜が形成されにくくなることがある。そもそも、特許文献2のワイパーブレードは「内部に分散させた撥水剤が長時間懸けて溶出し・・・ワイパー揺動時に瞬間的に撥水膜を形成させることがきる」と記載されているものの(特許文献2の第2頁右下欄第14行〜同欄第17行)、シリコンゴムで形成されているのでシリコン系撥水剤を含有していても摺動性に劣り、ビビリ振動やビビリ音等の鳴きが発生することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−138879号公報
【特許文献2】特開平1−247253号公報
【特許文献3】特開2000−118361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持し、ガラス表面に撥水膜を短時間で形成するワイパーブレードを提供することを、目的とする。
【0010】
また、この発明は、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持するワイパーブレードを作業性よく製造できるワイパーブレードの製造方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の発明者らは、ワイパーブレードの要求特性と揺動作動又は反復運動によって撥水膜を形成できる撥水膜形成能とを検討したところ、基体の表面に配置される表面層にシリコーンオイルを含有させれば要求特性と撥水膜形成能とを両立できるのではないかと考えた。ところが、基体を形成するシリコーンゴムについて種々検討したところ、このシリコーンゴムとして過酸化物硬化型シリコーンゴムを採用すると、製造直後の撥水膜形成能は十分に満足できるものの、この撥水膜形成能が経時的に低下し、特に製造後から使用開始までの時間が長くなると製造直後の優れた撥水膜形成能が低下する傾向にあることを見出した。このような撥水膜形成能が低下する傾向は、表面層に含有されるシリコーンオイルが基体を形成するシリコーンゴムにも拡散して、ガラスの表面に撥水膜を形成するのに十分な量のシリコーンオイルをガラスの表面に供給できなくなるのではないかと推測した。そこで、この発明の発明者らは、この推測に基づいて、シリコーンオイルの拡散状況に関連して基体を形成するゴム成分及び表面層を形成する成分等について更なる検討を進めたところ、化学的に結合するのではなく互いに物理的に密着する付加加硫型シリコーンゴム及びシリコーンポリマーを基体及び表面層を形成する材料として選択し、さらにシリコーンオイルを付加加硫型シリコーンゴムではなくシリコーンポリマー中に特定量含有させると、摺動性、払拭性及び耐久性の要求特性を保持すると共に、基体と表面層とがそれらの界面で十分に密着するにもかかわらず、この界面でシリコーンオイルの移行が抑えられてシリコーンオイルが表面層から基体に拡散しにくくなることを見出した。また、基体を形成する材料として付加加硫型シリコーンゴムを選択すると、成形された基体が強力な粘着力を発揮することなく、その後の製造工程における取扱性が格段に優れることも見出した。
【0012】
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、付加加硫型シリコーンゴムを含有し、シリコーンオイルを実質的に無含有の基体と、前記基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に配置され、シリコーンポリマー100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有する表面層とを有するワイパーブレードであり、
請求項2は、前記表面層は前記シリコーンポリマーの前駆体100質量部、前記シリコーンオイル5〜60質量部及び前記潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を前記部分に塗布硬化してなる請求項1に記載のワイパーブレードであり、
請求項3は、前記潤滑剤はグラファイトである請求項1又は2に記載のワイパーブレードであり、
請求項4は、シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製し、
基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に、シリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成するワイパーブレードの製造方法であり、
請求項5は、前記潤滑剤はグラファイトである請求項4に記載のワイパーブレードの製造方法ある。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係るワイパーブレードは、付加加硫型シリコーンゴムを含有し、シリコーンオイルを実質的に無含有の基体と、前記基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に配置され、シリコーンポリマー100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有する表面層とを有しているから、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に、実使用に十分に耐え得る密着性で表面層が基体に密着しているうえ使用までに長時間を要したとしてもシリコーンオイルの拡散を防止してガラスの表面に撥水膜を形成するのに十分な量のシリコーンオイルをガラスの表面に供給してガラスの表面に例えば13分以下の短時間で撥水膜を形成できる。したがって、この発明によれば、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持し、ガラス表面に撥水膜を短時間で形成するワイパーブレードを提供できる。
【0014】
この発明に係るワイパーブレードの製造方法は、シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製し、基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面にシリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成するから、強力な粘着力を発揮せず、取扱性が優れた基体が作製されると共に、密着性及びシリコーンオイルの拡散防止に優れた界面で基体と表面層とが密着したワイパーブレードを製造できる。したがって、この発明によれば、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持するワイパーブレードを作業性よく製造できるワイパーブレードの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、この発明に係るワイパーブレードの一例の静止状態を示す概略側面図である。
図2図2は、この発明に係るワイパーブレードの一例における先端部を拡大した一部拡大概略図である。
図3図3は、この発明に係るワイパーブレードの一例の作動状態を示す概略側面図である。
図4図4は、この発明に係るワイパーブレードの製造方法における押出成形された基体の一例を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係るワイパーブレードは、乗物に備えるワイパー装置に装着される弾性ブレードであればよく、その形状及び寸法等は装着されるワイパー装置のワイパーアームに応じて適宜に設定される。例えば、車両が備えるワイパー装置のワイパーアームに装着されるワイパーブレード(以下、車両用ワイパーブレードとも称する。)の一例として、図1図3に示されるワイパーブレード1が挙げられる。図1には、ガラスに押圧されていない状態又はワイパーアームが揺動作動又は反復運動していない状態(これらを合せて静止状態と称する。)にあるワイパーブレード1の側面が概略的に示され、図3には、ワイパーアームが揺動作動又は反復運動している状態(作動状態と称する。)にあるワイパーブレード1の側面が概略的に示されている。
【0017】
このワイパーブレード1は、図1図3に示されるように、基体2と、表面層3が配置されていないと仮定したときに基体2のうち少なくともガラスを払拭する部分の表面に配置された表面層3とを有している。このワイパーブレード1は図示しないワイパーアームと共にガラスWの表面を揺動作動又は反復運動する。ワイパーブレード1が作動すると、基体2の後述するリップ部7にガラスWを払拭する際の摩擦抵抗が働いて、リップ部7は図3に示されるようにネック部6を基準にワイパーブレード1の作動方向(図中の矢印)と反対方向に傾き、後述する先端部8の側面がガラスWの表面を払拭する。
【0018】
基体2は、ワイパーアームに保持される保持部5と、保持部5の幅方向略中央部から突出し、保持部5の延在方向に沿って延在するネック部6と、ネック部6の端部にネック部6の延在方向に沿って延在するリップ部7とを有している。保持部5は、ワイパーアームの保持構造に適合する形状を有しており、この例においては、短冊状保持板51、52及び53を連結体54及び55で短冊状保持板の厚さ方向に所定の間隔で連結された形状になっている。リップ部7は、ネック部6に連設された板状部材71と、板状部材71の保持部5と反対側の表面に形成された尖形の台形断面を有する基部72と、基部72の延在方向に沿って基部72の端面から突出する先端部8とを有している。
【0019】
基体2は、付加加硫型シリコーンゴムを主成分、通常、含有成分のうちの最大含有量となる成分として、含有している。換言すると、基体2はその全体が付加加硫型シリコーンゴムで形成されている。この付加加硫型シリコーンゴムは、付加反応で加硫してなるシリコーンゴムであれば特に限定されず、例えば、ジアルキルシリコーンゴム、アルキルビニルシリコーンゴム、アルキルフェニルシリコーンゴム、アルキルフェニルビニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。これらシリコーンゴムにおけるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム、ジエチルシリコーンゴム、エチルビニルシリコーンゴム、エチルフェニルシリコーンゴム、エチルフェニルビニルシリコーンゴムが好適である。シリコーンゴムはこれらのうち1種のみ又は2種以上を含有している。基体2は、この発明の目的を損なわない範囲で、付加加硫型シリコーンゴムに加えて、過酸化物硬化型シリコーンゴム、他のゴム、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、EPDM、SBR等を含有していてもよい。
【0020】
基体2は、付加加硫型シリコーンゴムに加えて、ゴム組成物に通常添加される各種添加剤を含有していてもよい。例えば、白金触媒、ポリ(アルキルビニルシロキサン)、ポリ(アルキルハイドロゲンシロキサン)(アルキル基は前記の通り。)等の加硫剤、酸化鉄(ベンガラ)等の顔料又は着色剤、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、グラファイト等の充填剤、分散剤、発泡剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、可塑剤、難燃性向上剤、離型剤等が挙げられる。
【0021】
この基体2は、少なくとも製造時には後述するシリコーンオイルを実質的に無含有である。この発明において「実質的に無含有」とはシリコーンオイルを積極的に含有させないことを意味しており、例えば表面層3から拡散されたシリコーンオイルを含有していないことを意味するものではない。
【0022】
基体2は、ワイパーブレード1が優れた要求特性である摺動性、払拭性及び耐久性を発揮する点で、JIS K 6253のAタイプ・デュロメーターによる硬度が50〜90°であるのが好ましく、60〜80°であるのが特に好ましい。
【0023】
前記したように、ワイパーアームを揺動作動又は反復運動させると、その1往復運動は基本位置から反転部までと反転部から基本位置までの2つに分けられ、ワイパーアームに装着されたワイパーブレード1はそれぞれの作動方向に対して先端部8の両側面81及び82、ワイパーブレード1のガラスWに対する押付圧力によっては先端部8の先端面83と両側面81及び82との端縁近傍が1回ずつガラスWを払拭する。したがって、表面層3は、図2及び図3に明確に示されるように、ガラスWを払拭する部分、少なくとも前記端縁近傍の両側面81及び82に、この例においては、具体的には、先端部8の延在方向に対する両側面81及び82の全面に配置され、先端面83には配置されていない。
【0024】
この表面層3は、長期間にわたって初期の撥水膜形成能を維持できる点で、厚さが3〜50μmであるのが好ましく、15〜40μmであるのが特に好ましい。
【0025】
表面層3は、シリコーンポリマー100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有している。この表面層3は、ワイパーブレード1の使用に伴ってシリコーンオイルの含有量が徐々にごく微量減少するものの、少なくとも製造直後又は未使用状態において前記含有量で、また長期間の使用例えば合計作動時間が180日であっても基本的には前記含有量で、シリコーンオイルを含有している。このような表面層は、シリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を塗布後に硬化して形成でできる。
【0026】
シリコーンポリマーは、潤滑剤を保持可能で基体2に密着するシリコーンポリマーであればよく、通常、3官能のシロキサン単位(T単位)又は4官能のシロキサン単位(Q単位)を主成分とする3次元網目構造のシリコーンレジンが挙げられる。このようなシリコーンレジン(シリコーン樹脂とも称する。)としては、ジアルキルシリコーン樹脂、アルキルビニルシリコーン樹脂、アルキルフェニルシリコーン樹脂、アルキルフェニルビニルシリコーン樹脂、フロロシリコーン樹脂等が挙げられる。これらシリコーン樹脂におけるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルシリコーン樹脂、メチルビニルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、メチルフェニルビニルシリコーン樹脂、ジエチルシリコーン樹脂、エチルビニルシリコーン樹脂、エチルフェニルシリコーン樹脂、エチルフェニルビニルシリコーン樹脂が好適である。
【0027】
シリコーンオイルは、液状のシリコーンポリマーであれば特に限定されず、通常、2官能のシロキサン単位(D単位)を主成分とする鎖状のポリマーが挙げられる。シリコーンオイルとしては、例えば、ジアルキルシリコーンオイル、アルキルビニルシリコーンオイル、アルキルフェニルビニルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、及びこれらのアルキル基の一部が有機基で置換された変成シリコーンオイル等が挙げられる。これらシリコーンオイルにおけるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルシリコーンオイル、メチルビニルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルフェニルビニルシリコーンオイル、ジエチルシリコーンオイル、エチルビニルシリコーンオイル、エチルフェニルシリコーンオイル、エチルフェニルビニルシリコーンオイルが好適である。シリコーンオイルはこれらのうち1種のみ又は2種以上を含有している。シリコーンオイルは、表面層3の表面に適度に滲出する点で、その粘度(25℃)が1〜10MPa・sであるのが好ましく、その数平均分子量が500〜1500であるのが好ましい。なお、数平均分子量はGPCによる標準ポリスチレン換算分子量である。
【0028】
シリコーンオイルの表面層3中の含有量は、ワイパーブレード1の使用に伴い徐々に減少するが、製造直後又は未使用状態において、シリコーンポリマー100質量部に対して5〜60質量部である。製造直後又は未使用状態におけるシリコーンオイルの含有量が5質量部未満であると初期の撥水膜形成能を長期間維持できないことがあり、一方、60質量部を越えると初期の撥水膜形成能を長期間維持できるもののビビリ振動、ビビリ音等が発生して十分な摺動性を発揮しないことがある。製造直後又は未使用状態においてシリコーンオイルの含有量は、長期間にわたって初期の撥水膜形成能を維持できる点で、シリコーンポリマー100質量部に対して10〜55質量部であるのが好ましく、15〜50質量部であるのが特に好ましい。
【0029】
潤滑剤は、ワイパーブレード1の優れた摺動性を確保できるものであればよく、例えば、球状シリカ、多孔質球状シリカ、マイカ、テトラフロロエチレン樹脂を代表とするフッ素樹脂、グラファイト、炭酸カルシウム、珪藻土、二硫化モリブデン、窒化ホウ素等が挙げられる。これらの中でもグラファイトが好ましい。潤滑剤の表面層3中の含有量は、潤滑剤が所期の機能を発揮してワイパーブレード1の優れた摺動性を確保できる量であればよく、例えば、シリコーンポリマー100質量部に対して10〜80質量部であるのが好ましく、20〜70質量部であるのが特に好ましい。
【0030】
表面層3は、シリコーンポリマー、シリコーンオイル及び潤滑剤に加えて各種添加剤を含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、分散剤、発泡剤、加硫剤又は硬化剤、老化防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料、着色剤、加工助剤、可塑剤、難燃性向上剤、離型剤等が挙げられる。
【0031】
このワイパーブレード1は、基体2と、基体2の先端部8の両側面81及び82に配置された表面層3とを有しているから、図3に示されるように、表面層3はガラスWの表面を摺動しつつガラスWの表面に撥水膜を形成するのに十分な量のシリコーンオイルを供給できる。したがって、このワイパーブレード1は、揺動作動又は反復運動を開始した後から膜厚の均一な撥水膜が形成されるまでの時間が短く、高い撥水膜形成能(自己撥水速度とも称する。)を発揮する。そして、ワイパーブレード1においては、表面層3に含有されるシリコーンオイルは基体2との界面で基体2中への拡散が防止されるから、表面層3はガラスWの表面に撥水膜を形成するのに十分な量のシリコーンオイルを長期間にわたって継続的又は断続的に供給できる。
【0032】
そして、このワイパーブレード1は、表面層3が基体2から剥離しない程強力な物理的密着力で基体2に密着しており、かつ潤滑剤を含有しているから、ワイパーブレードの要求特性である摺動性、払拭性及び耐久性を高い水準で兼ね備えている。したがって、このワイパーブレード1は、摺動性、払拭性及び耐久性を保持すると共に、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持できる。
【0033】
さらに、このワイパーブレード1によれば、表面層3に含有されているシリコーンオイルの基体2への拡散が防止されるから、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても膜厚の均一な撥水膜が形成されるまでに要する時間を大幅に短縮できる。ここで、「膜厚が均一」とは、膜厚が正確に一定であることに加えて、電子顕微鏡にて膜厚を観察し、膜厚が所望の厚さに対して±20%の範囲内である場合も包含する。
【0034】
以上、この発明に係るワイパーブレードとして車両用ワイパーブレードについて説明したが、この発明において、各種反応装置、炉、貯槽等のスパイグラス等に装着するワイパー装置用のワイパーブレードとしても適用することができる。また、この発明に係るワイパーブレードは、それが適用されるガラス類について、有機、無機の材質、単層、積層の構造、着色、無色の外観、平滑、凹凸の表面形状等を何ら区別することなく適用可能である。
【0035】
この発明に係るワイパーブレードを製造する、この発明に係るワイパーブレードの製造方法は、シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製し、基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面に、シリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成する方法である。この発明に係るワイパーブレードの製造方法を、ワイパーブレード1を製造する方法(以下、一製造方法と称する。)を例に挙げて、具体的に説明する。
【0036】
一製造方法においては、基体2を形成可能な、シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物、及び、表面層3を形成可能なシリコーンポリマー組成物を準備する。
【0037】
付加硬化型シリコーンゴム組成物は、主成分として加硫して付加加硫型シリコーンゴムとなるシリコーン生ゴムと、加硫剤と、各種添加剤とを含有するシリコーンゴム組成物である。したがって、この付加硬化型シリコーンゴム組成物は付加硬化型シリコーンゴム前駆体組成物と称することもできる。シリコーン生ゴムとしては、付加加硫してシリコーンゴムとなるシリコーン生ゴムが挙げられ、具体的には、ジアルキルシリコーン生ゴム、アルキルビニルシリコーン生ゴム、アルキルフェニルシリコーン生ゴム、アルキルフェニルビニルシリコーン生ゴム、フロロシリコーン生ゴム等が挙げられる。これらシリコーン生ゴムにおけるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルシリコーン生ゴム、メチルビニルシリコーン生ゴム、メチルフェニルシリコーン生ゴム、メチルフェニルビニルシリコーン生ゴム、ジエチルシリコーン生ゴム、エチルビニルシリコーン生ゴム、エチルフェニルシリコーン生ゴム、エチルフェニルビニルシリコーン生ゴムが好適である。付加硬化型シリコーンゴム組成物は、シリコーン生ゴムの1種又は2種以上を含有している。加硫剤としては、シリコーン生ゴムを付加反応させる公知の加硫剤であれば特に限定されず、例えば、白金触媒、ポリ(アルキルビニルシロキサン)、ポリ(アルキルハイドロゲンシロキサン)(アルキル基は前記の通り。)等が挙げられる。添加剤としては、前記した各種添加剤が挙げられる。この付加硬化型シリコーンゴム組成物は、この発明の目的を損なわない範囲で、過酸化物硬化型シリコーンゴム、他のゴム、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、EPDM、SBR等を含有していてもよい。この付加硬化型シリコーンゴム組成物はシリコーンオイルを実質的に無含有である。ここで、「実質的に無含有」とは前記の通りシリコーンオイルを積極的に含有させないことを意味する。
【0038】
シリコーンポリマー組成物は、シリコーンポリマーの前駆体100質量部、シリコーンオイル5〜60質量部及び潤滑剤を含有するポリマー組成物である。したがって、このシリコーンポリマー組成物は、シリコーンポリマー前駆体組成物と称することもできる。
【0039】
シリコーンポリマーの前駆体は、架橋又は硬化等によってシリコーンポリマーとなる前駆体が挙げられ、具体的には、シリコーン樹脂前駆体又はシリコーン生ゴムが挙げられる。シリコーン樹脂前駆体はシロキサン単位を有するモノマー又はオリゴマーであり、シロキサン単位としては、具体的には、ジアルキルシロキサン単位、アルキルビニルシロキサン単位、アルキルフェニルシロキサン単位、アルキルフェニルビニルシロキサン単位、フロロシロキサン単位等が挙げられる。これらシロキサン単位におけるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。シリコーン樹脂前駆体は、これらの中でも、ジメチルシロキサン単位、メチルビニルシロキサン単位、メチルフェニルシロキサン単位、メチルフェニルビニルシロキサン単位、ジエチルシロキサン単位、エチルビニルシロキサン単位、エチルフェニルシロキサン単位、エチルフェニルビニルシロキサン単位を有するモノマー又はオリゴマーが好適である。シリコーン生ゴムとしては、付加硬化型シリコーンゴム組成物に含有されるシリコーン生ゴムと同様のシリコーン生ゴムが挙げられる。
【0040】
シリコーンポリマー組成物に含有されるシリコーンオイルは前記した通りであり、シリコーンポリマー組成物中のシリコーンオイルの含有量は表面層3のシリコーンオイルと同様の理由により、シリコーンポリマーの前駆体100質量部に対して5〜60質量部であり、10〜55質量部であるのが好ましく、15〜50質量部であるのが特に好ましい。
【0041】
シリコーンポリマー組成物に含有される潤滑剤は前記した通りであり、シリコーンポリマー組成物中の潤滑剤の含有量はワイパーブレード1の優れた摺動性を確保できる量であればよく、例えば、シリコーンポリマーの前駆体100質量部に対して10〜80質量部であるのが好ましく、20〜70質量部であるのが特に好ましい。
【0042】
シリコーンポリマー組成物は、シリコーンポリマーの前駆体、シリコーンオイル及び潤滑剤に加えて、シリコーンポリマーの前駆体を硬化させる硬化剤を含有しているのが好ましい。硬化剤はシリコーンポリマーの前駆体に応じて公知の各種硬化剤が使用できる。
【0043】
シリコーンポリマー組成物は、この発明の目的を損なわない範囲で前記した各種添加剤、塗布性を向上させるための各種溶剤等を含有していてもよい。溶剤としては、例えば、トルエンやキシレン、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン又はこれらの混合溶剤等が挙げられる。
【0044】
付加硬化型シリコーンゴム組成物及びシリコーンポリマー組成物は、各成分を均一になるまで混合して調製される。
【0045】
一製造方法においては、準備した付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製する。押出成形は、加熱圧縮成形、射出成形等も採用できるが、押出成形であるのが作業性に優れると共に、各種サイズの金型を作成しなくてもすむため、安価な費用で製造できるという効果が得られる点で好ましい。さらに、一般にワイパー用金型は2〜4ヶ月の製造期間が必要であるが、押出し用の金型は数時間で作成できるというメリットがある。付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形条件は、付加硬化型シリコーンゴム組成物が加硫する条件を選択すればよく、付加硬化型シリコーンゴム組成物に含有されるシリコーン生ゴムに応じて適宜に選択される。例えば、付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形する場合は、オーブン内での滞留時間との兼ね合いで調整する必要があるが、一般的には、加硫オーブン内温度を200〜400℃の範囲に設定すればよい。なお、付加硬化型シリコーンゴム組成物を加熱圧縮成形又は射出成形する場合は、成形性及び生産性の点から150〜190℃、より好ましくは、160〜180℃の範囲で設定することが好ましい。付加硬化型シリコーンゴム組成物は二次加硫されるのが好ましく、その条件としては、例えば、180〜210℃の範囲で1〜4時間にわたって加熱する条件が挙げられる。
【0046】
成形品の取り方は、単品(1個)取り、複数の共取り等、様々な形態が可能である。
【0047】
一製造方法においては、このように付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して、基体2が作製される。
【0048】
一製造方法においては、準備したシリコーンポリマー組成物を、作製した基体2の少なくともガラスを払拭する部分の表面に塗布硬化して表面層3を形成する。ここで、シリコーンポリマー組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、スプレー法、刷毛塗り法、浸漬法、流延法、スクリーン印刷等が挙げられる。このようにして塗布されたシリコーンポリマー組成物は硬化される。シリコーンポリマー組成物の硬化は加熱硬化、湿気硬化等、シリコーンポリマーの前駆体及び硬化剤に応じて適宜に選択される。シリコーンポリマー組成物の硬化条件は、例えば、80〜400℃の範囲で30分〜4時間にわたって加熱する加熱硬化条件が挙げられ、10〜80RH%の相対湿度で2〜24時間にわたって加湿する湿気硬化条件が挙げられる。
【0049】
この一製造方法において、付加硬化型シリコーンゴム組成物の押出成形における成形品を、図4に示されるように、リップ部7における先端部8の先端面を一体に合わせた2個の共取りとするのが好ましい。このように成形品を共取りとすると、先端部8の先端面83並びに側面81及び82を均一に形成でき、かつ先端面83と側面81及び82とが交わる端縁を鋭利に形成でき、高い払拭性を発揮するワイパーブレード1を高い作業性で製造できる。このような好ましい一製造方法においては、このようにして2個の共取りされた成形品の先端部8に前記のようにしてシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層3を形成し、一体に成形された先端部8をその中央線で鋭利な刃物によって切断して、ワイパーブレード1が製造される。2個の共取りされた成形品を切断する方法は、成形品の片側から刃物を当てて切断する方法、成形品の切断面の上下から刃物を当てて切断する方法が挙げられ、一方、切断刃の動きからみると、引き切り、押し切り、回転刃による切断等が挙げられる。すなわち、好ましい一製造方法は、付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体2を共取りし、共取りした基体2の少なくともガラスを払拭する部分の表面にシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成し、共取りされた基体2を切断する方法である。
【0050】
このようにして、一製造方法及び好ましい一製造方法においてワイパーブレード1が製造される。
【0051】
一製造方法及び好ましい一製造方法は、シリコーンオイルを実質的に無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を押出成形して基体を作製するから、過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物を成形してなる基体に比して粘着力が大幅に低く、取扱性を犠牲にするほど強力な粘着力を発揮しない。また、一製造方法及び好ましい一製造方法は、前記のようにして作製した基体の少なくともガラスを払拭する部分の表面にシリコーンポリマー組成物を塗布硬化して表面層を形成するから、密着性及びシリコーンオイルの拡散防止に優れた界面で基体2と表面層3とが密着したワイパーブレード1を製造できる。さらに、一製造方法及び好ましい一製造方法は表面層をスプレー塗装又はディッピング塗装により製造することで、表面層3が基体2から剥離しない程のより一層強力な物理的密着力で基体2に密着しており、表面層3に潤滑剤が含有されているから、ワイパーブレードの要求特性である摺動性、払拭性及び耐久性をより一層高い水準で兼ね備えている。したがって、一製造方法及び好ましい一製造方法によれば、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても製造直後の優れた撥水膜形成能を保持するワイパーブレードを作業性よく製造できる。
【0052】
一製造方法及び好ましい一製造方法は、この発明に係るワイパーブレード、例えばワイパーブレード1を製造できるから、摺動性、払拭性及び耐久性の要求特性を満足し、製造後から使用開始までの時間が比較的長くても膜厚の均一な撥水膜が形成されるまでに要する時間を大幅に短縮できるワイパーブレードを製造できる。
【0053】
この発明に係るワイパーブレードは、前記した例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、ワイパーブレード1において、表面層3は両側面81及び82の全面に配置されているが、この発明において、表面層は両側面の一部、例えば、先端部の延在方向全体にわたると共に先端部の先端側から基部に向かって所定の長さを有する領域に配置されてもよく、先端部の先端面、先端部の延在方向に面する端面に配置されてもよい。なお、先端部の先端面、先端部の延在方向に面する端面に表面層を配置する場合には、例えば、付加硬化型シリコーンゴム組成物を前記のようにして成形し、次いで先端部の中央線で切断した後にシリコーンポリマー組成物を塗布・硬化する方法が挙げられる。
【0054】
ワイパーブレード1は、基体2と表面層3とで構成されているが、この発明において、ワイパーブレードは、基体2と表面層3との間に接着層又はプライマー層等を有していてもよく、また基体2に内蔵された補強材又は骨材等を有していてもよい。
【0055】
ワイパーブレード1において、基体2は、その全体が加硫型シリコーンゴムを含有しているが、この発明において、基体は、少なくともリップ部が加硫型シリコーンゴムを含有していればよく、保持部等のリップ部以外の部分は加硫型シリコーンゴムを含有していてもいなくてもよい。
【0056】
ワイパーブレード1において、基体2は、加硫型シリコーンゴムを含有する一体物として構成されているが、この発明において、基体は、各部が別々に形成された後に接合されていてもよい。
【0057】
この発明において、基体はリップ部と同様のシリコーンゴムを含有し、一体に形成されているのが好ましいが、リップ部と別体に異なる材料で形成される場合には、リップ部以外に含有されるゴムとしては、例えば、成形の容易さ、成形の容易さに起因する経済性及び生産効率等を考慮すると、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0058】
この発明に係るワイパーブレードの製造方法は、前記した実施例に限定されることはなく、本願発明の目的を達成することができる範囲において、種々の変更が可能である。例えば、一製造方法においては、基体2の少なくともガラスを払拭する部分の表面に表面層3を直接形成しているが、この発明においては、表面層を形成する前に、基体と表面層との密着性を向上させる目的で、基体のガラスを払拭する部分の表面を予めUV処理、EB処理、カップリング剤、プライマー等で表面処理することもできる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
付加加硫型シリコーンゴム「KE−961」(信越化学工業株式会社、商品名)100質量部と、加硫剤「C25 A/B」(信越化学工業株式会社、商品名)3質量部と、顔料「KE−COLOR CB」(信越化学工業株式会社、商品名)0.5質量部を、2本ロールで混練して、シリコーンオイル無含有の付加硬化型シリコーンゴム組成物を作製した。この付加硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物はJIS K 6253のAタイプ・デュロメーターによる硬度が62°であった。
【0060】
また、シリコーンポリマーの前駆体「KR−401」(信越化学工業株式会社製、商品名)100質量部と、ジメチルシリコーンオイル「KE96−300」(信越化学工業株式会社製、商品名)25質量部と、潤滑剤としてのグラファイト「BF−10A」(中越黒鉛株式会社製、商品名)30質量部と、触媒「CAT―PL−2」(信越化学工業株式会社製、商品名)0.05質量部と、溶剤「トルエン」(純正化学工業株式会社製、商品名)800質量部とを混合して、シリコーンポリマー組成物を作製した。
【0061】
作製した付加硬化型シリコーンゴム組成物を、300℃、1分の条件で押出成形によって図4に示されるようにリップ部2を合せた2個の共取りで成形品を成形し、その後、200℃、2時間で二次加硫した。次にこの成型品を530mmの長さにカットした。この成形品の一体に成形された先端部8の両側面81及び82それぞれに作製したシリコーンポリマー組成物をスプレー塗装で、硬化後の膜厚が30μmとなるように1回で塗布した後、150℃で30分間にわたって加熱硬化して、表面層3を形成した。
【0062】
次いで、一体に成形された先端部8をその中央線で鋭利な刃物によって切断して、2つのワイパーブレード1を製造した。
【0063】
(実施例2〜6)
前記シリコーンポリマー組成物におけるシリコーンオイルの含有量(第1表において「オイル含有量」と表記する。)及び/又は硬化後の膜厚を第1表に示す値に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様してワイパーブレード1をそれぞれ製造した。
【0064】
(実施例7)
潤滑剤として、グラファイトに代えて窒化ホウ素「MGP」(電気化学工業株式会社製、商品名)を用いたこと以外は実施例1と基本的に同様にしてワイパーブレードを製造した。
【0065】
(実施例8)
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物にジメチルシリコーンオイル「KE96−300」3質量部をさらに添加したこと以外は実施例1と基本的に同様にしてワイパーブレードを製造した。
【0066】
(比較例1)
前記付加硬化型シリコーンゴム組成物に代えて、シリコーンオイル無含有の下記過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物を用いたこと以外は実施例1と基本的に同様してワイパーブレードを製造した。
【0067】
前記過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物は、シリコーンゴム「KE−961」(信越化学工業株式会社、商品名)100質量部と、加硫剤「C8」(信越化学工業株式会社、商品名)2.5質量部と、顔料「KE-COLOR CB」(信越化学工業株式会社製、商品名)0.5質量部とを、2本ロールで混練して作製した。この過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物はJIS K 6253のAタイプ・デュロメーターによる硬度は61°であった。
【0068】
(比較例2及び3)
前記シリコーンポリマー組成物におけるシリコーンオイルの含有量を第1表に示す値に変更したこと以外は実施例1と基本的に同様してワイパーブレードを製造した。
【0069】
(撥水膜の形成時間)
製造した各ワイパーブレードの撥水膜形成能(第1表において「初期撥水性」と表記する。)を以下のようにして評価した。具体的には、マーチ(日産自動車株式会社製、98年式)のフロントガラスを洗剤でよく洗浄し、JISD5710に準拠した方法にて評価した。ワイパーアームのスプリングを可変できるようにし、ワイパーブレードのフロントガラスへの圧力が12g/cm(Total荷重636g)となるように調整した。ワイパーの評価には運転席側のみを使用した。ワイパーブレードのフレームは、エアロツインワイパー AM53A(ボッシュ株式会社製)を使用した。次いで、マーチのフロントガラスに散水せずにワイパーを作動させた後に散水器によってフロントガラスに水を散布し、水をはじくか否かを所定時間毎に観察した。フロントガラスに撥水膜が均一の膜厚に形成され、散布した水がはじかれるまでに要した時間(第1表において「撥水膜の形成時間」と表記する。)で評価した。具体的には、膜形成時間が5分以内であった場合を「○」、5分を超え15分以内であった場合を「△」、15分を超えた場合を「×」とした。撥水膜の形成時間及びその評価結果を第1表に示す。
【0070】
(促進試験での撥水膜の形成時間)
製造した各ワイパーブレードを80℃の環境下に30日間静置した後の撥水膜形成能(第1表において「促進撥水性」と表記する。)を、前記撥水膜形成能1と同様にして評価した。その結果を第1表に示す。
【0071】
(ワイパーブレードの特性評価)
実施例及び比較例で製造したワイパーブレードの要求特性を以下のようにして評価した。評価は、室温環境下で取り扱われ、80℃の環境下に置かれていない未使用の各ワイパーブレードの要求特性(第1表において「初期」と表記する。)と、洗剤でよく洗浄したフロントガラスに対して16g/cmの圧力(Total荷重848g)で取り付け、ワイパーブレード動作電圧13.5V、フロントガラスへの散水量30L/hとし、10万回(10万往復)揺動作動(耐久性試験)させた後の各ワイパーブレードの要求特性(第1表において、「耐久試験後」と表記する。)とを実施した。なお、通常、ワイパーブレードは1年間で約10万回揺動作動し、ワイパーブレードの交換サイクルは約半年であるから、耐久性試験における「10万回の揺動作動」は実際の使用状況を考慮すると十分な揺動回数である。
【0072】
初期の摺動性及び払拭性は、具体的には、マーチ(日産自動車株式会社製、98年式)に前記未使用の各ワイパーブレードを装着して、ワイパーブレード動作電圧13.5Vの条件で10回揺動作動させた後に、最初の反転位置でワイパーブレードを止めて、ワイパーアームを初期位置に戻した。このときの10回搖動作動中における摺動性を下記基準で評価した。次いで、再度ガラス面全面に水をかけて初期位置に復帰させたワイパーアームをさらに1回搖動作動させた後に停止させ、下記基準で払拭状態を確認した。
【0073】
「摺動性」の評価はワイパーブレードの搖動作動中にビビリ振動及びビビリ音が発生しなかった場合を「○」(合格)とし、ビビリ振動又はビビリ音が発生したものの実用上十分に許容できる程度であった場合を「△」(合格)、ビビリ振動又はビビリ音が実用上許容できない程度に発生した場合を「×」とした。その結果を第1表に示す。
【0074】
また「払拭性」の評価はワイパーブレードを停止させた後のフロントガラスに残っている「水」の拭き残しの量を目視にて観察し、スジ状の拭き残しがなかった場合を「○」(合格)、JISD5710に規定されているSゾーン又はMゾーンにスジ状の拭き残しが見られたものの運転に影響がない程度であった場合を「△」(合格)、帯状の拭き残しが多数見られ、視界が見えにくく運転に支障ある場合を「×」とした。その結果を第1表に示す。ここで、「Sゾーン」及び「Mゾーン」とは、JISD5710に規定されている領域であって、ブレードラバーの長さをLとした時、ワイパーブレード両端からL/4の部分で払拭する領域をSゾーンと呼び、ワイパーブレード中心部L/2の部分で払拭する領域をMゾーンとした。
【0075】
耐久試験後の摺動性及び払拭性は、具体的には、マーチ(日産自動車株式会社製、98年式)に10万回(10万往復)揺動作動させた後の前記各ワイパーブレードを装着して、初期の摺動性及び払拭性と基本的に同様にして評価した。摺動性及び払拭性の評価基準は初期の摺動性及び払拭性と基本的に同様である。その結果を第1表に示す。
【0076】
ワイパーブレードの耐久性は、耐久試験後の摺動性及び払拭性で評価した。具体的には、「耐久性」の評価は耐久試験後の摺動性及び払拭性の評価が共に合格であった場合を「○」(合格)とし、いずれか一方が不合格であった場合を「×」(不合格)とした。
【0077】
(総合評価)
総合評価は、前記「撥水膜の形成時間」、前記「促進試験での撥水膜の形成時間」及び前記「ワイパーブレードの特性評価」がすべて「○」であった場合を「○」、ひとつでも「△」があった場合を「△」、ひとつでも「×」があった場合を「×」とした。その結果を第1表に示す。
【0078】
【表1】
【符号の説明】
【0079】
1 ワイパーブレード
2 基体
3 表面層
5 保持部
51、52、53 短冊状保持板
54、55 連結体
6 ネック部
7 リップ部
71 板状部材
72 基部
8 先端部
81、82 側面
83 先端面
W ガラス
図1
図2
図3
図4