【実施例】
【0093】
(実施例1)
ヒト心臓組織由来細胞の単離
材料及び方法−消化酵素混合液の調製:ヒトの心臓から心臓組織由来細胞を単離するために本発明で使用した消化酵素混合液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Gibco、インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド)中で2倍の混合保存溶液として調製した。その濃度は、0.2U/mL又は2U/mLのコラゲナーゼ(セルバ・エレクトロフォレシス社(Serva Electrophoresis GmbH)、ハイデルベルグ、ドイツ)及び10U/mLのディスパーゼII(ロシュ・アプライド・サイエンス社(Roche Applied Science)、インディアナ州インディアナポリス)である。これらの酵素混合保存溶液を−40℃で保存した。消化に先立って、酵素混合液を0.22μmの真空フィルターシステム(コーニング社(Corning Incorporated)、マサチューセッツ州アクトン)により濾過した。ヒトの心臓を消化するため、消化手順において2U/mLのコラゲナーゼ保存溶液を使用した。消化酵素の最終濃度は、1U/mLのコラゲナーゼ及び5U/mLのディスパーゼである。ヒトの全心臓の消化、及びヒト心臓組織由来細胞(hCTC)の単離のプロセスを
図1にまとめて示す。
【0094】
材料及び方法−ヒト心臓:廃棄処分となった移植用全心臓を、NDRI(National Development and Research Institutes、ニューヨーク州ニューヨーク)より入手した。廃棄処分となった移植用心臓の調達時間は40〜98時間であった。臓器全体を増殖培地(DMEM+10%ウシ胎児血清)中に浸漬し、細胞単離の処理を行うまで4℃で保存した。
【0095】
材料及び方法−ヒト心臓組織の処理:全心臓組織を安全キャビネットに移し、四角いバイオアッセイ皿内に置いた(コーニング社(Corning Inc.)、マサチューセッツ州アクトン)。余分な脂肪組織を滅菌メス(Bard Parker、ベクトンディキンソン社(Becton Dickinson)、ニューヨーク州ハンコック)を用いて除去した。第1の全心臓は小片(2〜3cm
3)に切断した。この小さな組織片の3/4を、手で細片(1〜2mm
3の大きさ)に切り刻んだ。この手順を終えるのに2時間を要した。組織片の1/4は、PRO250ホモジナイザーチャンバ(プロ・サイエンティフィック社(Pro Scientific)、コネティカット州オックスフォード)に移した。チャンバに蓋をして、PRO250ジェネレーターの速度を3に設定して取り付けた。緩衝液を一切加えずに組織片を室温で10秒間ホモジナイズし、組織を目視にて検査した。組織が細片化された(1mm
3のサイズの細片となった)時点で、ホモジナイズを終了した。
【0096】
材料及び方法−ヒト組織の消化:手動で処理したものとホモジナイズしたものの両方の組織片を、別々の250mLのコニカルチューブに移した(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)。100mLの室温のPBSを加え、チューブを5回逆さにすることによって、各チューブ内の組織を3回洗浄した。次いで、チューブを直立させて置いて組織を沈殿させた。2mLの吸引ピペット(BD falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)を使用して上清を吸引した。消化酵素混合液の保存溶液(2倍)を、酵素:組織の比が1:1となるように250mLチューブに加えた。各酵素の最終濃度は、1U/mLのコラゲナーゼ及び5U/mLのディスパーゼIIとした。組織及び酵素の入ったチューブを、225rpmに設定した37℃のオービタルシェーカー(バーンステッドラブ社(Barnstead Lab)、イリノイ州メルローズパーク)に移し、2.5時間インキュベートした。インキュベート後、チューブを再び安全キャビネットに移した。この細胞懸濁液を室温のPBSでチューブを満たすことによって希釈した。残留する未消化の組織をすべて除去するため、細胞懸濁液を直径20.3cm(8インチ)の250μm標準試験用シーブ(シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、ミズーリ州セントルイス)に通して、500mLガラスビーカー内に濾過した。この工程の後、ガラスビーカー内の細胞懸濁液を、100μmのセルストレーナー(BD Falcon)に通して複数の50mLコニカルチューブ(BD Falcon)内に更に濾過した。次いで、細胞懸濁液をSorvall Legend T遠心機(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific,Inc)マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して室温で338Gで5分間遠心することによって洗い、細胞をペレット化した。上清を吸引除去し、細胞のペレットをPBSに再懸濁して、手による細片化処理及びホモジナイズ処理について各1本ずつの別々の50mLチューブにプールした。この細胞懸濁液を40mLの室温のPBSで更に3回洗浄した。洗浄後、ペレットを20mLのACK溶解バッファー(ロンザ社(Lonza)、メリーランド州ウォーカーズビル)に再懸濁し、室温で10分間インキュベートすることによって残留する赤血球をすべて溶解した。インキュベート後、細胞懸濁液を40mLの室温のPBSで更に2回洗浄した。最終的な遠心の後、ペレットを20mLの室温の増殖培地(DMEM、1,000mg/LのD−グルコース、L−グルタミン、及び110mg/Lのピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清、ペニシリン50U/mL、ストレプトマイシン50ug/mL)に再懸濁し、カウントした。
【0097】
材料及び方法−細胞のカウント:Vi−Cell(商標)XR(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter)、カリフォルニア州フラートン)を使用して全体の生細胞密度及び生存率の分析を行った。Vi−Cell(商標)細胞生存率分析装置は、フローセル内の細胞の最大で100個の画像についてビデオキャプチャー技術及び画像解析を用いて、細胞生存率の評価のためのトリパンブルー色素排除試験法を自動化するものである。Vi−Cellは±6%のカウント精度を有する。製造者の指示(参照マニュアルPN 383674 Rev.A)に従って、試料を調製及び分析した。簡単に述べると、赤血球溶解後に得られる最終細胞懸濁液の500μLの一定分量をVi−Cell(商標)の4mL試料バイアルに移し、Vi−Cell(商標)XR細胞生存率分析装置により分析した。以下のデフォルトの細胞型のプロファイルを用いた。
【0098】
【表1】
【0099】
結果−全心臓消化から得られた細胞収率:第1の全心臓からは消化後、手による細片化処理による収率は、解離及び酵素的消化後に4300万個の生細胞を生じた。生存率は65%であった。機械的ホモジナイズ処理は1200万個の生細胞を生じ、生存率は63%であった。手による処理では3倍多くの組織を処理したため、2つの処理の間に収率及び生存率の差はなかった。この結果に基づき、これに続くヒト心臓は機械的ホモジナイズ処理によって処理した。消化後の全収率は、一般的に心臓1個当たり3400万〜6400万個の生細胞であった。表2に示されるように、生存率は55〜81%であった。
【0100】
(実施例2)
本発明のヒト心臓組織由来細胞の選択及びインビトロ培養
ヒト心臓の解離及び酵素的消化後に得られる細胞懸濁液を更なる実験分析用に増殖させた。
【0101】
ヒト心臓の解離及び酵素的消化により得られた細胞の初期播種:実施例1で述べた方法に従って、ヒト心臓の解離及び酵素的消化により得られた細胞懸濁液をT225組織培養フラスコ(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)に加えた。10mLの細胞懸濁液を50mLの増殖培地(DMEM、1,000mg/LのD−グルコース、584mg/LのL−グルタミン、及び110mg/Lのピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清、ペニシリン50U/mL、ストレプトマイシン50μg/mL(インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド))が入った各フラスコに加えた。初期培養の最終体積を60mLとした。細胞を、20% O
2及び5% CO
2を含む大気中で37℃で2日間インキュベートした。この時間の後、不均質な細胞培養物が観察された。非接着性の、フェーズブライトな細胞が観察され(本明細書においてhCTC(S)細胞と呼ぶ)、更に接着性細胞が観察された(本明細書においてhCTC(A1)細胞と呼ぶ)。
図4を参照されたい。
【0102】
初期培養工程後に得られたhCTC(S)細胞は、アンバーサ(Anversa)によって心臓幹細胞として述べられた細胞(Beltrami,Barlucchiら、2003;Cell 114(6):763〜76))と同様の形態を有していた。
図4aを参照されたい。更に、
図4bに示されるような、メッシーナ(Messina)らによって述べられるもの(Messina,De Angelisら、2004;Circulation Research 95(9):911〜21)と同様の細胞塊も観察された。
【0103】
hCTC(S)集団の増殖:1つの実験では、最初の2日間の培養期間の後、培養フラスコからhCTC(S)細胞を取り出した。このhCTC(S)細胞を50mLのコニカルチューブに移した。hCTC(S)細胞を338Gで5分間、室温で遠心した。上清を捨て、細胞のペレットを20mLの新鮮な増殖培地に再懸濁した。再懸濁後、hCTC(S)細胞をカウントした。初期培養工程から得られたhCTC(S)細胞の全数は、全体で約1000万〜1400万個の細胞であった。hCTC(S)細胞の一部を、100万〜150万個/mLで保存培地中に凍結保存し、−140℃で保存した。残りを培養中で増殖させた。このhCTC(S)細胞を、5,000細胞/cm
2の播種密度で再びフラスコに播いた。培養2日後にhCTC(S)細胞は接着性となり、本明細書においてhCTC(A2)集団又はhCTC(A2)細胞と呼ぶ均質な接着性の細胞集団を形成した。本発明のhCTC(A2)細胞が、hCTC(S)の播種の約10〜14日後に80%コンフルエンスに達した時点で、増殖培地を吸引除去し、60mLの室温のPBSで洗浄した後、4mLのトリプシン−EDTA(インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド)を各フラスコに加えることによって細胞をトリプシン処理した。hCTC(A2)細胞を、細胞が剥離するまで室温で約5分間インキュベートした。各フラスコに6mLの増殖培地を加え、その細胞懸濁液を新しい50mLのコニカルチューブ(BD falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)に移した。500μLの一定分量を取り出し、実施例1において述べたようにVi−Cell(商標)細胞生存率分析装置を使用してカウントするためにVi−Cell試料カップに移した。これらの細胞を5,000細胞/cm
2又は3,000細胞/cm
2で再び播いた。
【0104】
hCTC(S)細胞の増殖を凍結保存した細胞を用いて更に行った。S細胞の凍結バイアルを37℃で解凍し、PBSで1回洗浄した。次いで細胞をカウントし、培養フラスコ中、増殖培地に5,000細胞/cm
2で播いた。細胞の増殖及びコンフルエンスを毎日観察した。
【0105】
目視による観察によれば、非接着性のhCTC(S)細胞は培養中で2日後に大幅に減少し、非接着性のhCTC(S)の数は、培養中で10〜14日間にわたって増加しなかった。培養中のhCTC(S)細胞は培養2日後にフラスコに付着しはじめ、接着性細胞として増殖した。細胞は、hCTC(S)細胞の播種10〜14日後に80%コンフルエンスに達した。培養中ではある程度のhCTC(S)細胞が依然観察されたものの、この非接着性細胞の集団の数が培養中で増加することはなかった。これは、恐らくは培養中での非接着性のhCTC(S)から接着性のhCTC(A2)への形態の変化によるものと思われた。2日後にhCTC(S)細胞がフラスコに付着したことにより、非接着性細胞の数は極めて低く、カウントされなかった。
【0106】
これに対して、hCTC(S)細胞から誘導された接着性のhCTC(A2)細胞は、
図5aに示されるように最大で10PDLの一定の増殖能力を示した。この集団の増殖速度は、hCTC(A2)細胞を5,000細胞/cm
2又は3,000細胞/cm
2で播種した場合、9〜10PDLのプラトーに達するまで1〜3PDL/継代の間であった。しかしながら、PDLの計算は、培養中に播かれた最初の細胞数(すなわちhCTC(S)細胞の数)に基づいたものであり、PDLの推定値は完全に正確ではない可能性がある。
【0107】
hCTC(A1)集団の増殖:hCTC(S)細胞を含む培地を、最初の2日間の培養からの細胞が入ったフラスコから取り去った後、60mLの新鮮な増殖培地をフラスコ中に存在する残りの接着性細胞に加えた。このhCTC(A1)細胞を、細胞が80%コンフルエンスに達するまで培養した。この時間の後、増殖培地を吸引除去し、60mLの室温のPBSで洗浄してから、4mLのトリプシン−EDTA(インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド)を加えることによって細胞をトリプシン処理した。細胞を、細胞が剥離するまで室温で約5分間インキュベートした。各フラスコに6mLの増殖培地を加え、その細胞懸濁液を新しい50mLのコニカルチューブ(BD falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)に移した。500μLの一定分量を取り出し、Vi−Cell(商標)細胞生存率分析装置を使用してカウントするためにVi−Cell試料カップに移した。次いで細胞の一部を凍結保存用培地(90% FBS及び10% DMSO)に再懸濁し、100万〜150万細胞/mLで保存し、−140℃で保存した。残りの細胞を、3,000細胞/cm
2で凍結バイアルに細胞を再び播種することによって増殖させた。使用済みの培地は再播種の3日後に交換し、細胞を7日目に継代した。これらの細胞を、トリプシン処理を用い、3日目に培地を交換し、7日毎に継代した。
【0108】
hCTC(A3)集団の増殖:1バイアルのhCTC(A1)細胞と1バイアルのhCTC(S)細胞を洗浄した後、50mLのコニカルチューブ(BD Falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)中で合わせた。合わせた細胞懸濁液の5,000細胞/cm
2又は3,000細胞/cm
2の混合物を、別々のT225フラスコに加えた。各フラスコを各フラスコ当たり60mLにまで新鮮な増殖培地で満たし、細胞を37℃、20%大気O
2下で2日間インキュベートした。この時間の後、細胞の大部分が、本明細書においてhCTC(A3)集団又はhCTC(A3)細胞と呼ぶ接着性の細胞集団を形成した。細胞が80%コンフルエンスに達した時点で、適当な播種密度を特定するために細胞をトリプシン処理し、5,000細胞/cm
2又は3,000細胞/cm
2の播種密度で再播種することによって継代し、37℃、20%大気O
2下でインキュベートした。hCTC(A3)細胞は通常、播種7日後に80%コンフルエンスに達した。非接着性のhCTC(S)細胞を毎日目視で観察したところ、培養2日後で大幅に減少し、このためhCTC(A3)細胞は均質な細胞集団となった。これには平均で約2日間を要した。このhCTC(A3)細胞は、1〜3PDL/継代の速度で増殖することが可能であった。hCTC(A3)細胞は、5,000細胞/cm
2の密度で播種した場合、老化に到る前に9〜10PDLに達することが可能であった。これに対して、hCTC(A3)細胞は、3,000細胞/cm
2の密度で播種した場合には、老化に到る前に24PDLに達することが可能であった。これについては、
図5bを参照されたい。
【0109】
本発明のヒト心臓組織由来細胞の特性評価:hCTC(A2)細胞及びhCTC(A3)細胞は、各継代において1〜3PDLの同様の増殖速度を示した。これらの細胞はいずれも、細胞が継代に必要な80〜90%コンフルエンスに達するのに約7日間を要した。2つの細胞集団の間で認められた全PDLの差は、hCTC(A2)細胞がhCTC(S)細胞集団から誘導される際に、hCTC(A2)細胞のPDLが最初に実際よりも低く想定されていることによるものと考えられる。
【0110】
本発明の方法によって単離されたヒト心臓組織由来細胞のすべての集団において、細胞表面マーカー又は遺伝子の発現に差異は認められなかった。hCTC(A1)、hCTC(S)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)細胞はテロメラーゼを発現していなかった。本発明のヒト心臓組織由来細胞、及び当該技術分野における心臓前駆細胞において発現する遺伝子のリストについては、表1を参照されたい。本発明の方法に従って単離されたすべての細胞集団が、GATA4及びNkx2.5の遺伝子発現について陽性であった。ミオシン重鎖の発現は認められなかった。幹細胞マーカーであるc−kitが、本発明のすべての細胞集団において遺伝子発現によって検出された。これについては、表8を参照されたい。フローサイトメトリーによれば、本発明のヒト心臓組織由来細胞はCD105及びCD90について陽性であった。本発明の細胞は、CD31、CD45、及びCD16を発現していなかった。これについては、表8を参照されたい。
【0111】
本発明のヒト心臓組織由来細胞の各集団の特性に顕著な差は認められなかった。更なる特性評価を行うためにhCTC(A3)集団を選択した。
【0112】
(実施例3)
ヒト心臓組織由来細胞のインビトロ細胞培養
細胞密度及び低酸素状態は細胞の増殖に影響する(Tavaluc Rら、Cell Cycle 6:20、2554〜2562、15 October 2007)。細胞−細胞間の接触は、細胞増殖の潜在能力を低下させうるものであり、低い播種密度によって細胞の接触の機会が低下して増殖の潜在能力が高められる。低酸素状態又は低O
2圧は、細胞増殖の接触阻害を低減させることが示されている(Nonomura Y.ら、The Journal of Rheumatology April 1,2009 vol.36 no.4 698〜705)。本発明では、3,000細胞/cm
2の播種密度が、5,000細胞/cm
2と比較してより高い増殖の潜在能力を示した。
【0113】
細胞増殖に対するO
2濃度の影響を比較するため、hCTC(A3)細胞をT225フラスコ中での各継代後に3,000細胞/cm
2で播種した。細胞を20% O
2又は5% O
2のいずれかの雰囲気中でインキュベートした。3日目に、使用済み培地を60mLの新鮮な増殖培地と交換した。7日目に、hCTC(A3)細胞を、実施例2に述べられる方法に従って収穫した。増殖速度を、老化に到るまでの累積の全PDLを調べることによって求めた。この実験の全期間は100日よりも長く、その間に細胞を16〜17回継代した。正常な酸素条件下(20% O
2)で培養されたhCTC(A3)細胞では、増殖曲線はPDL 24でプラトーに達した。しかしながら、PDL 12のhCTC(A3)細胞を低酸素条件下(5% O
2)で培養した場合には、増殖曲線は
図6に示されるようにPDL 28でプラトーに達した。
【0114】
(実施例4)
ラット心臓組織由来細胞の単離
8〜12週齢のSprague−Dawleyラットをイソフルランによって麻酔し、腹腔を開いた。腸をずらして、大動脈を切断した。27ゲージの注射針を胸部大静脈に挿入し、5U/mLヘパリンを含む10mLのPBSで心臓を灌流した。次いで、5U/mLのヘパリンを含む10mLのPBSを胸部大動脈に注入することによって、心臓の逆行性灌流を行った。この処置の全体を通じて確実に心臓が拍動しつづけるように注意を払った。次いで胸腔から全心臓を取り出し、氷冷ハンクスの緩衝液に入れた。5個の単離したラット心臓を、解離及び酵素的消化用に合わせた。
【0115】
次いで、単離したラット心臓を20mLの室温のPBSで2回洗浄し、上清を捨てた。次いで心臓を室温で外科用メスにより手で細片化し、細片化した組織を3本の50mLチューブに移した。次いで細片化組織を25mLのPBSで3回洗浄し、チューブを5回逆さにした。
【0116】
組織片を、別々の50mLコニカルチューブ(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)に移した。30mLの室温のPBSを加え、チューブを5回逆さにすることによって、各チューブ内の組織を3回洗浄した。次いでチューブを直立させて置いて、組織を沈殿させた。2mLの吸引ピペット(BD falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)を使用して、上清を吸引した。消化酵素混合液の保存溶液(2倍)を、酵素:組織の比が1:1となるように50mLチューブに加えた。混合酵素の最終濃度を、1U/mLのコラゲナーゼ及び5U/mLのディスパーゼIIとした。組織及び酵素の入ったチューブを225rpmに設定した37℃のオービタルシェーカー(バーンステッドラブ社(Barnstead Lab)、イリノイ州メルローズパーク)に移し、2.5時間インキュベートした。インキュベート後、チューブを再び安全キャビネットに移した。この細胞懸濁液を室温のPBSでチューブを満たすことによって希釈した。残存する未消化の組織をすべて除去するため、細胞懸濁液を直径20.3cm(8インチ)の100μmのセルストレーナー(BD Falcon)、次いで40μmのセルストレーナー(BD Falcon)に通して6本の50mLコニカルチューブ(BD Falcon)内に濾過した。ラットとヒトの筋細胞の大きさの差のため、ラットCTC用のフィルターサイズは、ヒト細胞用に使用されるものよりも小さいものとした。次いで、細胞懸濁液をSorvall Legend T遠心機(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific,Inc)マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して室温で338Gで5分間遠心することによって洗い、細胞をペレット化した。上清を吸引除去し、細胞のペレットを増殖培地に再懸濁し、1本の50mLチューブ内で20mLの増殖培地中にプールし、試料を取って細胞収率を決定した。得られた典型的な収率は、心臓1個当たり細胞1000万個であり、生存率は70%であった。
【0117】
ラットの心臓組織由来細胞の調製に際しては、0.1U/mL又は1U/mLのコラゲナーゼ保存溶液を使用して心臓組織を消化した。3時間のインキュベートの後、実施例1で述べたように20mLの増殖培地をそれぞれのチューブに加えた。しかしながら、0.1U/mLのコラゲナーゼで消化したラット心臓組織は、細胞を一切生じなかった。
【0118】
心臓組織の解離及び酵素的消化により得られた細胞懸濁液を、各フラスコ内に10mLを移すことによってT225組織培養フラスコ(コーニング社(Corning Inc.))内に播種した。各フラスコに35mLの増殖培地(DMEM、1,000mg/LのDグルコース、584mg/LのL−グルタミン、及び110mg/Lのピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清、ペニシリン50U/mL、ストレプトマイシン50μg/mL(インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド))を加え、各フラスコ内の最終容量を45mLとした。初期細胞培養は、37℃で20% O
2及び5% CO
2の雰囲気中で2日間行った。2日間の初期培養の後、非接着性のrCTC(S)細胞を取り出して50mLコニカルチューブに移し、室温で5分間、338Gで遠心した。上清を捨て、細胞のペレットを20mLの増殖培地に再懸濁した。細胞をカウントし、5,000細胞/cm
2の播種密度でT225フラスク内に再び播いた。このrCTC(S)細胞を増殖培地中で培養した。更に2日間の培養の後、rCTC(S)細胞は接着性となったことが確認された。接着性となったrCTC(S)細胞から形成された接着性の細胞集団を、rCTC(A2)細胞集団又はrCTC(A2)細胞と呼ぶこととした。
【0119】
実施例2に述べた方法に従ってrCTC(A2)細胞を収穫し、7日目にトリプシン処理によって継代した。rCTC(A2)細胞を、各フラスコに45mLの増殖培地が入れられたT225フラスコ内に、5,000細胞/cm
2の密度で播いた。細胞が約80%に達した時点で細胞を継代した。観察されたrCTC(A2)細胞の増殖曲線を
図7に示す。
【0120】
(実施例5)
GFP発現マウス心臓組織由来細胞の単離
5匹の8〜12週齢のFVB.Cg−Tg(ACTB−EGFP)B5Nagy/Jマウス(GFPマウス、ジャクソン・ラブ社(Jackson Lab)、メイン州バーハーバー)をイソフルランによって麻酔し、腹腔を開いた。腸をずらして、大動脈を切断した。27ゲージの注射針を胸部大静脈に挿入し、5U/mLヘパリンを含む10mLのPBSで心臓を灌流した。次いで、5U/mLのヘパリンを含む10mLのPBSを胸部大動脈に注入することによって、心臓の逆行性灌流を行った。この処置の全体を通じて確実に心臓が拍動しつづけるように注意を払った。次いで胸腔から全心臓を取り出し、氷冷ハンクスの緩衝液に入れた。
【0121】
5個の単離したGFPマウス心臓を、解離及び酵素的消化用に合わせた。次いで、単離したラット心臓を20mLの室温のPBSで2回洗浄し、上清を捨てた。次いで、心臓を室温で外科用メスにより手で細片化し、細片化した組織を3本の50mLチューブに移した。次いで細片化組織を25mLのPBSで3回洗浄し、チューブを5回逆さにした。組織片を、別々の50mLコニカルチューブ(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)に移した。30mLの室温のPBSを加え、チューブを5回逆さにすることによって、各チューブ内の組織を3回洗浄した。次いでチューブを直立させて置いて、組織を沈殿させた。2mLの吸引ピペット(BD falcon、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、カリフォルニア州サンホセ)を使用して、上清を吸引した。消化酵素混合液の保存溶液(2倍)を、酵素:組織の比が1:1となるように50mLチューブに加えた。混合酵素の最終濃度は、1U/mLのコラゲナーゼ及び5U/mLのディスパーゼIIとした。組織及び酵素の入ったチューブを225rpmに設定した37℃のオービタルシェーカー(バーンステッドラブ社(Barnstead Lab)、イリノイ州メルローズパーク)に移し、2.5時間インキュベートした。インキュベート後、チューブを再び安全キャビネットに移した。この細胞懸濁液を、室温のPBSでチューブを満たすことによって希釈した。残存する未消化の組織をすべて除去するため、細胞懸濁液を直径20.3cm(8インチ)の100μmのセルストレーナー(BD Falcon)、次いで40μmのセルストレーナー(BD Falcon)に通して6本の50mLコニカルチューブ(BD Falcon)内に濾過した。ラットとヒトの筋細胞の大きさの差のため、ラットCTC用のフィルターサイズは、ヒト細胞用に使用されるものよりも小さいものとした。次いで、細胞懸濁液をSorvall Legend T遠心機(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific,Inc)マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して室温で338Gで5分間遠心することによって洗い、細胞をペレット化した。上清を吸引除去し、細胞のペレットを増殖培地に再懸濁し、1本の50mLチューブ内で20mLの増殖培地中にプールし、試料を取って細胞収率を決定した。得られた典型的な収率は、心臓1個当たり細胞1000万個であり、生存率は70%であった。
【0122】
3時間のインキュベートの後、実施例4で述べたように20mLの増殖培地をそれぞれのチューブに加えた。残存する未消化の組織をすべて除去するため、細胞懸濁液を直径20.3cm(8インチ)の100μmのセルストレーナー(BD Falcon)、次いで40μmのセルストレーナー(BD Falcon)に通して、6本の50mLコニカルチューブ(BD Falcon)内に濾過した。細胞懸濁液をSorvall Legend T遠心機(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific,Inc)マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して室温で338Gで5分間遠心することによって洗い、細胞をペレット化した。上清を吸引除去し、細胞のペレットを増殖培地に再懸濁し、1本の50mLチューブ内で20mLの増殖培地中にプールし、試料を取って細胞収率を決定した。2回の単離に基づけば、得られた典型的な収率は、心臓1個当たり細胞1000万個であり、生存率は70%であった。このmCTC(A2)細胞を後の実験で使用した。実験に先立って、細胞を2代にわたって継代して増殖させた。
【0123】
(実施例6)
細胞の凍結保存、生存率及び回復率
本発明のラット及びヒト心臓組織由来細胞を凍結保存用に調製した。簡単に述べると、hCTC(A3)又はrCTC(A2)集団からの細胞を、初期の継代で凍結保存したhCTC(A3)細胞又はrCTC(A2)細胞を増殖させることによって得た。細胞を3,000細胞/cm
2で播種し、37℃、20%大気O
2下でインキュベートし、培養3日目に培地を交換して培養7日後に継代した。細胞を12〜14PDLで回収した。
【0124】
細胞をトリプシン処理し、凍結保存用に2% DMSOを含むCRYOSTOR D−LITE(商標)(バイオライフ・ソリューションズ社(Biolife Solutions,Inc.)ワシントン州ボッセル)中に再懸濁し、DeltaTソフトウェアを用いたIntegra 750 Plusプログラム式フリーザー(プラナー社(Planer)、英国、ミドルセックス)を使用して、Nalgene 2mLポリプロピレン製滅菌雌ねじスクリューキャップ式凍結バイアル(Cryovials)(ナルジーン・ヌンク社(Nalgne Nunc)、ニューヨーク州ロチェスター)中で凍結保存した。細胞及び溶液は、15℃に維持したプログラム式フリーザーに装填する前には室温であった。試料用の温度プローブを凍結緩衝液のバイアルに入れた。凍結保存には以下のプログラムを使用した。
【0125】
【表2】
【0126】
温度が−140℃となった時点で、試料を液体窒素タンクに移して保存した。
【0127】
凍結保存後の本発明のヒト心臓組織由来細胞の生存率及び回復率:液体窒素タンク(−140℃)内での1ヶ月の保存後、CRYOSTOR D−LITE(商標)中に100万細胞/バイアルのhCTC(A3)細胞が入ったバイアルの1つを室温で解凍した。次いで、バイアルを安全キャビネットに移した。50μL(50万個の細胞を含む)の試料を、50μLのトリパンブルー溶液の入った1.8mLのマイクロチューブに移した。10μLを血球計算板に移してカウントすることにより、この細胞調製物から2重のカウントを取った。これらのカウントにより、t
0注射針通過前の回復率及び生存率を決定した。室温でのインキュベーションを行わない注射針通過後の細胞生存率及び回復率(t
0注射針通過後)を調べるため、100μLの細胞懸濁液を1mLのツベルクリン注射器(BD、カタログ番号309602)に30ゲージの注射針(BD、カタログ番号305106)から吸入した。次いで、試料を再び注射針を通じて1.8mLマイクロチューブに入れた。このチューブに、100μLのトリパンブルーを加え、上記に述べたように2重のカウントを行った。この手順を、室温で10分、20分、30分のインキュベーションの後、更に注射針を通過させないものについて30分後に行った。
【0128】
1ヶ月の保存後、hCTC(A3)細胞の解凍後の生存率は94%であった。表3及び
図8に示されるように細胞の回復率は54万であり、凍結保存前の最初の細胞数と同等であった。
【0129】
30ゲージの投与用注射針を通過させた後で試験したヒト心臓組織由来細胞の生存率は、ラットの梗塞の処置中における細胞投与に要する時間である、室温での30分間のインキュベーション後に90%を上回った。表3及び
図8に示されるように、回復率は注射針通過前の細胞数と同等であった。
【0130】
hCTC(A3)細胞をPDL 12まで増殖させ、その後のインビボ実験のために保存した。保存した細胞の試料を核型異常について調べた。結果を表4にまとめて示す。
【0131】
ラットCTCの生体適合性:200万細胞/バイアルのCRYOSTOR D−LITE(商標)中のrCTC(A2)細胞のバイアルの1つを上記に述べたようにして解凍した。次いでバイアルを安全キャビネットに移した。50μLの試料を、50μLのトリパンブルー溶液の入った1.8mLのマイクロチューブに移した。10μLを血球計算板に移してカウントすることにより、この細胞調製物から3重のカウントを取った。注射針通過後の細胞収率及び生存率のベースラインを求めるため、0、10、20、30分のインキュベーション時間で注射針通過前及び注射針通過後の両方で細胞のカウントを行った。各時点において、100μLの細胞懸濁液を1mLのツベルクリン注射器(BD、カタログ番号309602)に30ゲージの注射針(BD、カタログ番号305106)から吸入した。次いで試料を再び注射針を通じて1.8mLマイクロチューブに入れた。このチューブに、100μLのトリパンブルーを加え、上記に述べたように3重のカウントを行った。この手順を10分、20分、及び30分のインキュベーション時間後に室温で行うことによって、ラット急性心筋梗塞モデルにおける潜在的な細胞投与の処置をシミュレートした。
【0132】
液体窒素中で1ヶ月の保存の後、解凍したrCTC(A2)細胞の生存率は94%であった。細胞の回復率は140万個/mLであり、最初の細胞濃度(200万個/mL)の約70%であった。注射針を通過させた後のrCTC(A2)細胞の生存率は、ラットの梗塞の処置中における注入に要する時間枠である、30分間の室温でのインキュベーション後に90%を上回った。表5及び
図9に示されるように、回復率は注射針通過前の細胞数と同等であった。
【0133】
(実施例7)
本発明の心臓組織由来細胞の特性評価
本発明の方法によってラット及びヒトの心臓組織から得られた心臓組織由来細胞の集団で、細胞表面のタンパク質の発現を調べた。試験した細胞表面マーカーを表6に示す。ヒト皮膚線維芽細胞の集団をコントロールとして含めた。
【0134】
hCTC(A3)細胞の集団の90%よりも多くが、CD59、CD105、CD54及びCD90を発現した(別々に分析した)。hCTC(A3)細胞の集団の約30%が、内皮前駆細胞の幹細胞マーカーであるCD34を発現した。更に、約30%のhCTC(A3)細胞がc−Kitについて陽性を示した。これに対し、hCTC(A3)細胞の集団の5%未満がCD31、CD45又はCD16のいずれかを発現した。これについては、
図10、11及び表7を参照されたい。hCTC(A1)、hCTC(A1)及びhCTC(S)細胞の集団も、同様の細胞表面マーカーの発現を示した。これについては、表8を参照されたい。更に、rCTC(A3)細胞についても同様の結果が観察された。これについては、
図12を参照されたい。CD54(細胞内接着分子1(ICAM))は、白血球上のインテグリンと結合して、血管バリアを通じて組織内へと白血球の血管外移動を媒介する(Yang Lら、Blood 106(2):584〜92、July,2005)。したがって、この分子の細胞表面での発現は、冠状動脈に投与される際の血管系から心筋へのhCTC(A3)の移行を促進しうるものである。
【0135】
(実施例8)
心臓組織由来細胞の遺伝子発現分析
以下の心臓組織由来細胞集団、すなわちhCTC(A1)、hCTC(A2)、hCTC(A3)、rCTC(A2)、及びmCTC(A2)からRNA試料を採取した(それぞれの細胞集団の100万個の細胞からRNAを採取した。)。
【0136】
採取した試料中の遺伝子のパネルの発現を、リアルタイムPCRによって調べた。リアルタイムPCR反応は表9に規定される反応ミックスに従って開始し、試験した遺伝子のプライマーを表10に示す。心臓特異的遺伝子と、幹細胞遺伝子の2つのカテゴリーの遺伝子を調べた。心臓特異的遺伝子は、ミオシン重鎖(MyHC)などの分化マーカーと、GATA−4及びNkx2.5などの未分化心臓マーカーとに更に分けられる。幹細胞遺伝子は更に、幹細胞マーカーであるc−kit、胚性心臓マーカーであるislet−1、及び細胞分裂マーカーであるテロメラーゼに分類される。各試料の発現レベルを標準化するための基準遺伝子として、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を用いた。
【0137】
試験した遺伝子の発現は、hCTC(A1)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)集団において同様であることが判明した。これについては、表10を参照されたい。幹細胞マーカーであるc−kitが発現された(Ct:27〜29)のに対して、テロメラーゼ及びislet−1の発現は、hCTC(A1)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)集団では検出不能であった。Ct値40では各遺伝子のメッセージは検出されなかった。心臓マーカーであるGATA4及びNkx2.5は、それぞれ25及び32〜34のCT値でhCTC(A1)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)集団において発現されたのに対して、ミオシン重鎖又は心臓アクチンのいずれも、hCTC(A1)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)集団のいずれにおいても発現が認められなかった。これについては、表10を参照されたい。
【0138】
これらのデータは、本発明の心臓組織由来細胞が「前駆細胞様」である、すなわち、分化細胞マーカーの発現に対する前駆細胞マーカーの発現の比が、心筋細胞(1%)及びヒト線維芽細胞(12%)と比較して、hCTC(A1)、hCTC(A2)、及びhCTC(A3)集団において50,000よりも大きいことを示唆するものである。これについては、表10、表11及び
図13を参照されたい。
【0139】
rCTC(A2)細胞も、GATA−4(Ct:28)及びNkx2.5(Ct:27)などの心臓系統の遺伝子を発現していた。しかしながら、ヒト心臓組織由来細胞と異なり、Nkx2.5は、ラット心臓組織由来細胞では、ヒト心臓組織由来細胞において観察されるよりも高いレベルで発現していた。rCTC(A2)細胞においては、マーカーであるc−kit、Islet−1及びテロメラーゼも発現していた。これについては、表12を参照されたい。ラット心臓より得られた心臓組織由来細胞と同様、マウス心臓組織由来細胞もNkx2.5、c−kit、Islet−1及びテロメラーゼを発現していた。これについては、表13を参照されたい。
【0140】
(実施例9)
心臓組織由来細胞は心筋細胞に分化可能である。
実施例5で述べた方法に従って得られたmCTC(A2)細胞(20万個)を、増殖培地中で最初に2日間培養し、トリプシン処理により回収してカウントした後、ラット心筋細胞(100万個、カタログ番号R357、セル・アプリケーション社(Cell Application, Inc.)、テキサス州オースチン)と1:5の比で混合した。ラット心筋細胞は5日間培養してからトリプシン処理及びカウントし、mCTC(A2)細胞と混合した。この細胞混合物を、ラミニン処理した6穴プレート(カタログ番号354595、ビー・ディー・バイオサイエンス社(BD Biosciences)、ニュージャージー州)上に5日間播種した。mCTC(A2)細胞の分化能を、DMEM−F12(1:1)+10%ウマ血清を含む組織培養培地(シグマ社(Sigma)、以下、分化培地と呼ぶ)中で細胞混合物を培養することによって試験した。細胞は、分化培地中で5日間、20% O
2の雰囲気中、37℃で培養した。この時間の後、細胞を収穫し、RNAを抽出した。mCTC(A2)細胞とラット心筋細胞との共培養から得た全RNA、及びmCTC(A2)細胞の並行培養から得た全RNAを、マウスミオシン重鎖の遺伝子発現について試験した。以下のマウスミオシン重鎖のプライマーを使用した。
【0141】
【表3】
【0142】
mCTC(A2)細胞とラット心筋細胞との共培養により、mCTC(A2)細胞単独の並行培養と比較して、マウスミオシン重鎖の発現は9倍に増加した。これについては、
図14を参照されたい。これらのデータは、本発明の心臓組織由来細胞が心筋細胞に分化することが可能であり、本発明の細胞を心筋細胞と共培養することによって分化が促進されうることを示唆するものである。
【0143】
(実施例10)
ブタ心臓組織由来細胞の単離、増殖、及び特性評価
8〜12週齢のゲッチンゲンミニブタから1個の心臓を、毎回の単離を行う際に(マーシャル・バイオリソース社(Marshall Bioresources)、ニューヨーク州ノースローズ)より得た。心臓は、採取に先立って灌流して血液を抜き、輸送時には臓器全体を氷上でDMEM+10% FBS中に浸漬した。調達から組織消化までの時間は48〜96時間であった。以下に述べる手順に従って4回の別々の単離を行った。
【0144】
心臓を小片(約2〜3cm
3の大きさ)に切断した。これらの組織片を、実施例1で述べたような機械的ホモジナイズ処理によってホモジナイズすることによって、1mm
3未満の大きさの心臓組織片を得た後、これを1本の250mLコニカルチューブ(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)に移して3回洗浄した。消化酵素混合液の保存溶液(2倍)を、酵素:組織の比が1:1となるように250mLチューブに加えた。各酵素の最終濃度は、1U/mLのコラゲナーゼ及び5U/mLのディスパーゼIIとした。組織及び酵素の入ったチューブを225rpmに設定した37℃のオービタルシェーカー(バーンステッドラブ社(Barnstead Lab)、イリノイ州メルローズパーク)に移し、2.5時間インキュベートした。インキュベーション後、残留する未消化の組織をすべて取り除くため、細胞懸濁液を直径20.3cm(8インチ)の250μm標準試験用シーブ(シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)、ミズーリ州セントルイス)に通して濾過することによって未消化の結合組織及び脂肪組織を除去した後、更に100μmのセルストレーナー(BD Falcon)に通して濾過することにより心筋細胞を除去した。フィルターを通過した細胞を含む培地を、複数の50mLコニカルチューブ(BD Falcon)に移した。次いで、細胞懸濁液を洗浄した。洗浄後、ペレットを20mLのACK溶解バッファー(ロンザ社(Lonza)、メリーランド州ウォーカーズビル)に再懸濁し、室温で10分間インキュベートすることによって残留する赤血球をすべて溶解した。インキュベート後、細胞懸濁液を40mLの室温のPBSで更に2回洗浄した。最終的な遠心後、ペレットを20mLの室温の増殖培地に再懸濁してカウントした。解離及び酵素的消化の後、細胞の収率は20mLの体積中、2700万個の細胞が典型的であった。生存率は80%が典型的であった。
【0145】
解離及び酵素的消化により得られた細胞懸濁液を、T225組織培養フラスコ(コーニング社(Corning Inc.)、ニューヨーク州コーニング)に加えた。10mLの細胞懸濁液を、50mLの増殖培地(DMEM、1,000mg/LのDグルコース、584mg/LのL−グルタミン、及び110mg/Lのピルビン酸ナトリウム、10%ウシ胎児血清、ペニシリン50U/mL、ストレプトマイシン50μg/mL(インビトロジェン社(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド))が入った各フラスコに加えた。初期培養の最終体積を60mLとした。細胞を、20% O
2及び5% CO
2を含む大気中、37℃で2日間インキュベートした。この時間の後、不均質な細胞培養物が観察された。非接着性の、フェーズブライトな細胞が観察され(本明細書においてpCTC(S)細胞と呼ぶ)、更に接着性細胞が観察された(本明細書においてpCTC(A1)細胞と呼ぶ)。
【0146】
本発明の方法に従ったブタ心臓の解離及び酵素的消化、並びにこれに続く細胞の増殖によって以下の細胞集団が得られた。すなわち、pCTC(S)、pCTC(A1)、pCTC(A2)、及びpCTC(A3)細胞である。本発明のブタ心臓組織由来細胞の形態は、本発明のヒト心臓組織由来細胞と類似していた。更なる特性評価及びその後のインビボ実験用にpCTC(A3)集団を選択した。
【0147】
pCTC(S)細胞及びpCTC(A1)細胞を、混合物としてT225フラスコ中で培養して最初に増殖させた。各フラスコを各フラスコ当たり60mLにまで新鮮な増殖培地で満たし、細胞を37℃、20% O
2下で2日間インキュベートした。この時間の後、細胞の大部分が、本明細書においてpCTC(A3)集団又はpCTC(A3)細胞と呼ぶ接着性の細胞集団を形成した。2日間の培養後、目視による観察によれば、非接着性細胞の数が減少したことにより、pCTC(A3)細胞が均一な細胞の集団となった。これには平均で2日間を要した。pCTC(A3)細胞を、細胞が90〜100%コンフルエンスに達した時点で継代し、3000細胞/cm
2で再播種した。培養中のpCTC(A3)細胞の増殖は、ヒト心臓組織由来細胞の増殖を上回った。pCTC(A3)細胞は、3〜4日で90%コンフルエンスを超えるように増殖した。本発明のpCTC(A3)細胞について観察された増殖曲線については、
図15を参照されたい。
【0148】
リアルタイムPCRによって調べたように、pCTC(A3)細胞はテロメラーゼもミオシン重鎖も発現していなかった。しかしながら、pCTC(A3)細胞はGATA−4を発現していた。本発明のブタ心臓組織由来細胞におけるNkx2.5の発現は調べなかった。細胞表面マーカーの一重染色により、pCTC(A3)細胞の集団の90%よりも多くが、CD105及びCD90の発現について陽性であることが示された。5%未満のpCTC(A3)細胞が、CD45、CD16、又はブタ内皮細胞マーカー(カタログ番号MCA1752、セロテック社(Serotec))のいずれかを発現した。このマーカーは、ウィルソン(Wilson)らによって示された、広範囲の組織の血管内皮上において同定された組織適合性複合体クラスIIの分子である(Immunology.1996 May;88(1):98〜103)。これについては、
図16及び表14を参照されたい。pCTC(A1)又はpCTC(A2)細胞などの他の細胞集団については調べなかった。
【0149】
(実施例11)
本発明の心臓組織由来細胞による急性心筋梗塞の治療
ラット急性心筋梗塞モデル:ACEI及びβ遮断薬などの薬剤のヒトAMIの治療薬としての有効性を試験する目的で、ラット心筋梗塞モデルが効果的に使用されてきた。動物は、実験のすべての段階において、現地の研究機関用のガイドラインに従って処置した。
【0150】
ラット心筋梗塞モデルは、心筋梗塞後のヒトの病態生理及び梗塞後の心機能の更なる低下を再現するうえでよく確立されている(Pfeffer M.A.ら、Circ Res 1979;44:503〜12;Litwin S.E.ら、Circulation 1994;89:345〜54;Hodsman G.P.ら、Circulation 1988;78:376〜81)。
【0151】
雌性ヌードラット(体重250〜300g、静岡県実験動物農業協同組合、日本、静岡県)をケタミン及びキシラジン(それぞれ60及び10mg/kgを腹腔内投与)で麻酔し、気管内チューブから陽圧呼吸を行った。第4左肋間領域で胸腔を開き、心臓を体外に露出させ、心膜を切開した。この後、心臓をピンセットで押さえ、左前下行枝の起始部から約2mmの位置で6−0プロリン縫合糸を左前下行枝の下に回した。結紮糸を引っ張って動脈を永久的に閉塞することによって、心臓にAMIを誘発した。梗塞した心筋の変色が目視にて観察された。以下の細胞投与において述べるように、心臓組織由来細胞の懸濁液又は溶媒を、梗塞が誘発された約20分後に変色した領域の境界領域に注入した。注入後、胸腔を閉じ、ラットをケージに戻した。手術後の各特定の時間において、麻酔下で心臓を摘出することによりラットを屠殺した。
【0152】
−80℃で保存したhCTC(A3)細胞及びrCTC(A2)細胞の凍結保存した集団を氷上で解凍し、試験動物への投与に先立ってそれらの生存率を調べた。この研究で使用したすべての細胞集団において、細胞の生存率は95%よりも高かった。
【0153】
左前下行枝の結紮の20分後に試験動物に細胞を投与した。凍結保存されたhCTC(A3)細胞の集団を、変色した領域の境界領域に注入した。120μLのCryostor D−lite中の以下の標的用量、すなわち1×10
4細胞(低用量)、1×10
5細胞(中用量)、又は1×10
6細胞(高用量)の1つを試験動物に投与した(1つの標的用量につき15匹)。これと並行して、凍結保存したrCTC(A2)細胞の集団を、変色した領域の境界領域に注入した。120μLのCryostor D−lite中の以下の標的用量、すなわち1×10
6細胞の1つを試験動物に投与した(1つの標的用量につき15匹)。
【0154】
すべての試験動物において、凍結保存細胞は、120μLの全容量の凍結保存培地中であった。1つの標的用量の細胞を、心臓の変色した領域の周囲の別々の5箇所に注入した。凍結保存した培地(120μL)を注入したコントロール群も実験に含めた。
【0155】
経胸壁心エコー法(SONOS 5500、フィリップス・メディカル・システムズ社(Philips Medical Systems))を行って、AMIの誘発の5日後及び28日後の左心室(LV)の機能を評価した。心エコー法を行う間、ラットはケタミン及びキシラジンで麻酔した。左室拡張末期径及び左室収縮末期径(それぞれLVEDD及びLVESD)、並びに左室内径短縮率(FS)を中位乳頭筋レベルで測定した。FSは、収縮期径(収縮の末期)との拡張期径(充填の末期)との間の差(%)を測定することにより心臓のポンプ作用を反映したものである。以下の公表されている基準に従って局所壁運動スコア(RWMS)を評価した。すなわち、スコア1:正常な壁の運動及び肥厚、スコア2:壁の運動及び肥厚の低下、スコア3:壁の運動及び肥厚の消失、スコア4:外側への運動又は膨らみ(例えば、Schiller,Shahら、(Journal of American Society of Echocardiography vol 2:358〜367;1989)を参照)。
【0156】
簡単に述べると、17個の連続した断面画像を心エコーにより得て、各断面に表15の定義に基づいた壁運動スコアを与えた。17個のセグメントのすべてのスコアの合計を、壁の収縮性の指標として用いた。RWMSは収縮の直接的な測定値である。RMWSの低下は収縮力の改善を示し、心筋の機能の改善を反映している。表15は各スコアの基準を示している。
【0157】
この実験で観察された死亡率は16%であった。表16に示されるように各群間で死亡率に有意な差は認められなかった。
【0158】
結果
図17は、プフェファー(Pffeffer)らによるAtlas of Heart Failure(1999)より転載したものであり、梗塞後の心臓において観察される病理的変化を示している。ヒト患者におけるAMI及び慢性心不全を再現するためにラット急性心筋梗塞モデルが確立されている。ヒトにおけるような梗塞の後、心室には、梗塞領域において心筋が線維性組織によって置き換わることで始まる一連の病態生理学的変化が生じる。心室の収縮及び圧力によって梗塞が拡大し、次第に心室腔が拡張し、最終的には、楕円形から球形への心室腔の形状変化及び心筋肥大としての細胞の変化によって示されるような左心室のリモデリングにつながる。
【0159】
凍結保存されたhCTC(A3)細胞の集団によって、それぞれ左室内径短縮率(FS)及び局所壁運動スコア(RWMS)によって測定される全体的な心機能及び心筋収縮性が改善した。全体的な心機能及び心筋収縮性の改善は、hCTC(A3)細胞のすべての標的用量で認められた。これについては、
図18及び19を参照されたい。
【0160】
投与5日後、rCTC(A2)細胞又は1×10
6個のhCTC(A3)細胞の標的用量を投与した動物は、溶媒で処理した動物と比較して3.3%(hCTC(A3))及び3.8%(rCTC(A2))低いFSを示した。細胞投与4週間後に、左室内径短縮率の絶対値(28日目に観察されたFS値から5日目に観察されたFS値を引くことによって計算した)の改善が認められた。これについては、
図18、並びに表17及び18を参照されたい。1×10
4個のhCTC(A3)細胞で処理した動物のFSの絶対値は、9.687±1.329%(n=12,P<0.001)であった。1×10
5個のhCTC(A3)細胞で処理した動物のFSの絶対値は、10.9±1.6%(n=11,P<0.001)であった。1×10
6個のhCTC(A3)細胞で処理した動物のFSの絶対値は、12.9±1.8%(n=10,P<0.001)であった。本発明において用いた実験モデルにおいてrCTC細胞が有効性を示さなかったことは、幾つかの可能な理由によって説明されうる。ヌードラットは免疫力が低下しているが、外来細胞に対する拒絶反応は完全に失われていなかった。今回の研究では、rCTCはヒト細胞よりもヌードラットによる免疫拒絶反応をより受けやすいと考えられる。心筋中のrCTCの保持率は免疫反応によって低下しており、したがって心筋に対するその作用に影響しうる。
【0161】
hCTC(A3)細胞で処理した動物では、細胞投与の4週後にRWMSの低下も観察された。1×10
4個のhCTC(A3)細胞で処理した動物におけるRWMSスコアは、梗塞及び細胞投与の5日後には24.42±1.4であったが、梗塞及び細胞投与の4週後には21.08±1.7(n=12,P<0.001)にまで低下した。1×10
5個のhCTC(A3)細胞で処理した動物におけるRWMSスコアは、梗塞及び細胞投与の5日後には25.58±1.4であり、21.08±1.9(n=11,P<0.001)にまで低下した。1×10
6個のhCTC(A3)細胞で処理した動物におけるRWMSスコアは、梗塞及び細胞投与の5日後には25.91±1.6であり、梗塞及び細胞投与の4週後には20±1.7(n=10,P<0.001)にまで低下した。rCTC(A2)による処理では左室内径短縮率は低下しないようであったが、RWMSのわずかな低下が認められた。1×10
6個のrCTC(A2)細胞で処理した動物におけるRWMSスコアは、梗塞及び細胞投与の5日後には25.29±1.9であり、細胞投与の4週後には23.86±2.3(n=12,P=0.09)にまで低下した。これについては、
図19、並びに表17及び19を参照されたい。rCTC(A2)で処理した動物において観察されたデータは、rCTC(A2)細胞が全体の機能は改善しなかったものの、RWMSによって示されるように心筋収縮性を改善したことを示唆している。
【0162】
これに対し、hCTC(A3)細胞で処理した動物において観察されたデータは、ヒト心臓組織由来細胞が全体の心機能及び心筋収縮性を改善したことを示唆している。
【0163】
hCTC(A3)細胞を投与した動物では、心臓リモデリングも防止された。心臓リモデリングとは、例えば心筋梗塞などの虚血性傷害後に観察される心臓の大きさ、形状及び機能における変化のことを指す。観察される変化としては、心筋細胞の死、及び梗塞領域における房室壁が過度に薄くなることなどが挙げられる。薄い房室壁は、心臓にかかる圧力及び容積負荷に耐えることができない。その結果、梗塞領域より房室の拡張が生じて、補償的な非梗塞性の心筋に拡がることになる。時間の経過とともに心臓の拡張が進行するに従って、心エコー検査における径の増大によって示されるように心室のサイズが拡大し、その形状が楕円形からより球状となる。心室の質量及び容積の増大は、心機能に更なる悪影響を及ぼす。拡張期の末期における容積の増大によって、心臓が各収縮の間に弛緩する能力が最終的に損なわれ、機能の更なる低下につながる。心室の拡大の重症度によって、患者の予後が決まる。房室の拡大と、心不全の患者の短い平均余命との間には相関が認められている。
【0164】
急性心筋梗塞の誘発後の動物の左心室における心臓リモデリングの程度を、心エコー検査によって拡張期及び収縮期の末期の左心室の径(左室拡張末期径(LVEDD)及び左室収縮末期径(LVESD))を測定することによって調べた。LVEDD及びLVESDの増大は、心臓リモデリングの重症度の増大を意味する。逆に、LVEDD及びLVESDの観測値の低下は、心臓リモデリングの逆行又は心機能の改善を意味する。
【0165】
溶媒で処理した動物では、LVEDDは、細胞投与5日後の0.74±0.020mmから細胞投与4週後の0.83±0.019mmに増大した。これは、左心室の12%の相対的増大率[100%(D28−D5)/D5]に相当する。rCTC(A2)細胞で処理した動物では、LVEDDは、細胞投与5日後の0.69±0.022mmから細胞投与4週後の0.80±0.018mmに増大した。1×10
4個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では、LVEDDは、細胞投与5日後の0.70±0.012mmから細胞投与4週後の0.77±0.022mmに増大した。
【0166】
1×10
5個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では、LVEDDに大きな変化は見られず、LVEDDは細胞投与5日後に0.73±0.012mm、細胞投与4週後に0.74±0.023mmであり、1.4%の相対的変化率であった(p<0.01、溶媒群との比較)。同様に、1×10
6個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では、LVEDDに大きな変化はやはり見られず、LVEDDは細胞投与5日後に0.76±0.011mm、細胞投与4週後に0.71±0.028mmであり、細胞投与5日後から6.6%減少する相対的変化率であった(p<0.001、溶媒群との比較)。これらのデータは、1×10
5個のhCTC(A3)の用量及び1×10
6個のhCTC(A3)の用量が、心臓リモデリングを防止したことを示唆するものである。これについては、
図23、表17及び表20を参照されたい。LVEDDの相対変化率(100%(28D−5D)/5D)を、表21及び
図20〜21に示す。
【0167】
1×10
4個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では、LVEDDは5日目で0.71±0.045mm、28日目で0.78±0.079mmであった。1×10
6個のrCTC(A2)細胞で処理した動物では、LVEDDは5日目で0.70±0.083mm、28日目で0.80±0.071mmであった。溶媒で処理した動物からはLVEDDに有意な差は認められず、溶媒群と比較してリモデリングが改善していないことを示唆している。これについては、表17及び
図23を参照されたい。
【0168】
ヒト心臓組織由来細胞で処理した動物においても、左室収縮末期径(LVESD)の低下が認められた。LVESDは、収縮の末期における心室のサイズを測定したものである。このパラメータはリモデリングを表すばかりでなく、心筋の収縮性も示している。LVESDの低下は、収縮の強さの増大に相当する。
【0169】
溶媒で処理した動物では、LVESDは5日目〜28日目にかけて増大した。LVESDは、1×10
4個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では同じレベルに維持された(5日目で0.56±0.05cm、28日目で0.54±0.08cm)。LVESDは、1×10
5個及び1×10
6個のhCTC(A3)細胞で処理した動物では低下した(それぞれ、5日目で0.58±0.04cm、28日目で0.51±0.08cm、及び、5日目で0.62±0.05cm、28日目で0.48±0.09cm)。これについては、
図22及び表22を参照されたい。各時点においてそれぞれの動物から心エコーによって測定された4つのパラメータすべてによる機能データを
図23に示した。5日目〜28日目の間の傾向の変化は、各群内で一貫している。
【0170】
左室内径短縮率(FS)により測定される全体的な機能によって決定されるhCTC(A3)細胞投与の標的用量及び心機能の分析は、細胞の用量と機能改善との間の相関(p=0.001,n=35)を示した。これについては、
図24を参照されたい。
【0171】
同様に、5日目〜28日目にかけてのLVEDDの絶対値の変化(28D−5D)によって決定される、hCTC(A3)細胞投与の標的用量及び心臓リモデリングの分析が観察された(p=0.0002,n=35)。これについては、
図25を参照されたい。一定の相関が確立され、これは直線的ではなく、指数関数的な相関と考えられる。
【0172】
(実施例12)
急性心筋梗塞のラットモデルにおけるヒト心臓組織由来細胞の保持率
損傷した心筋の治療法としてのヒト心臓組織由来細胞の機構及び生物学的効果を更に理解するため、上記の実施例においてヒト心臓細胞で処理した動物の心臓から組織試料を採取して、投与4週後の動物におけるヒト心臓組織由来細胞の保持率を調べた。
【0173】
上記の実施例においてヒト心臓組織由来細胞で処理した動物から、細胞投与の4週後に心臓を摘出して採取した。細胞保持率を、組織学的検査(各細胞用量につきn=6)、及び定量的リアルタイムPCR(各細胞用量につきn=4)によって求めた。
【0174】
ベースラインの細胞保持率の値を確立するため、左前下行枝の結紮の20分後に試験動物にhCTC(A3)細胞を投与した。凍結保存したhCTC(A3)細胞の集団を、各動物につき、変色した領域の境界領域の5箇所の別々の注入部位に注入した。各動物に、1×10
4個、1×10
5個、又は1×10
6個の細胞のいずれかの標的用量を投与した。動物を0、1、3及び7日目に屠殺し、定量的リアルタイムPCRによる細胞保持率分析を行うために心臓を摘出した(各処理群につきn=3)。
【0175】
定量的リアルタイムPCR用に試料を採取する場合には、心臓組織を処理して全RNAを得た。ヒト細胞の保持率を、心臓試料中に検出されたヒトRNAの量に基づいて推定した。
【0176】
ヒト心臓組織由来細胞からのRNAが、hCTC(A3)細胞で処理した動物において細胞投与の4週後に検出された。細胞保持率は用量依存的と考えられ、1×10
6個のhCTC(A3)細胞を投与した動物は、1×10
5個のhCTC(A3)細胞を投与した動物よりも高い細胞保持率を示した。1×10
4個のhCTC(A3)細胞を投与した動物では、細胞保持率は試料中に検出されたヒトRNAの量に基づいてバックグラウンドのレベルと推定された。
【0177】
ヒトRNAは、細胞投与の0、1日、3日、及び7日後に屠殺した動物から得た心臓に検出された。細胞保持率は、投与直後に急速に低下し、細胞投与の24時間後にも更に低下した。
図26のパネルc及びdに示されるように、心臓試料中に検出されたヒトRNAの量によって推定されるように、細胞投与直後に標的用量のわずか約8%が残留した。ベースラインとして0時点を用いると、細胞投与の24時間後に調べた細胞保持率のレベルは、0時点の約10%にまで更に低下していた。細胞保持率のレベルは、細胞投与の7日後に同じレベルに維持された。
【0178】
ヒト心臓組織由来細胞の保持率と心臓リモデリングの防止との間には一定の相関が認められた。ヒト心臓組織由来細胞を投与した動物では、LVEDDの変化(D28−D5)は、ヒト心臓組織由来細胞の保持率と相関していた。
図27に見られるように、この相関の傾向は、p値=0.023、及びr
2値=41%で有意である。高血圧に対して一般的に処方される薬剤であるエナラプリルの臨床薬理試験(Lilian Murrayら、Br J Clin Pharmacol.1998;45(6):559〜566)では、エナラプリルと血圧の低下とには有意な相関が実験において認められている(p<0.01)。しかしながら、「モデルの予測力は高くなった(r
2=23.6%,p<0.01)が、応答の変動の大部分については説明されないままだった」としている。
【0179】
免疫組織化学的検査用に試料を採取した場合では、心臓をOCT媒質中に包埋し、液体窒素中で急速冷凍した(1群につきn=6)。心臓の心底、中央、及び心尖のレベルで切片を切断した。包埋した凍結組織を、更なる組織学的評価を行うためにカルテック・テクノロジー社(QualTek Technology)(カリフォルニア州サンタバーバラ)に送った。組織を室温で解凍し、ホルマリンで再固定してパラフィンに包埋し、5μmの切片に切断した。ラット心筋内のヒト心臓組織由来細胞を識別するために、切片をヒト核マトリクス抗原(hu NuMA)に対する抗体で染色した。
【0180】
免疫組織化学的検査の結果はqPCRの結果と一致していた。1×10
6個のhCTC(A3)細胞の標的用量を投与した動物から得られた心筋において、陽性のヒトNuMA染色が特定された。これについては、
図28のパネルa、及び
図29を参照されたい。ここでは、暗褐色に染色され、ヒト組織のコントロールにおいて見られるものと染色特性が似たNuMa陽性細胞が2個の楕円内に示され、バックグラウンド染色は見られない。推定される細胞数は、約100個のヒト細胞/切片であった。高倍率では、
図29のパネルdに示されるように心筋様ヒト細胞が更に特定された。溶媒で処理した動物では、ヒトNuMAの染色は認められなかった。これについては、
図28のパネルa及びb、
図29、並びに
図30を参照されたい。
【0181】
(実施例13)
ヒト心臓組織由来細胞は、急性心筋梗塞の動物モデルにおいて肥大を低減した。
損傷した心筋の治療法としてのヒト心臓組織由来細胞の機構及び生物学的効果を更に理解するため、実施例11においてヒト心臓細胞で処理した動物の心臓から組織試料を採取して、心臓の梗塞サイズの一般病理学的所見に対するヒト心臓組織由来細胞の投与の影響を調べた。
【0182】
組織病理学的所見を、カルテック社(QualTek)(カリフォルニア州サンタバーバラ)の病理学者に評価してもらった。病理学者は実験の処理について盲検化した。心臓組織をパラフィンブロックに包埋した。臓器全体を通じて5μm毎に切片を得て、一般病理学的所見について評価した。肥大の評価はスコアシステムによって行った。肥大心筋(スコア1)では、拡大した細胞質及び奇形核を有する心筋細胞が一般的に見られる。そうでない場合には、心筋のスコアを0とする。肥大が見られる切片と肥大が見られない切片の数をカウントし、全心臓における肥大の割合を表す全切片の割合として
図31に示した。
【0183】
溶媒で処理した動物の心臓において心筋肥大が認められ、心筋の約70%が肥大を示した(スコア1)。これについては、
図31を参照されたい。ヒト心臓組織由来細胞による処理により、溶媒で処理した動物と比較して、心臓に認められる肥大は大幅に低減された。1×10
4個、1×10
5個、又は1×10
6個の標的用量のhCTC(A3)細胞を投与した心臓では、肥大心筋は30%〜50%に低下した。これについては、
図31を参照されたい。
【0184】
心筋梗塞の重症度を調べるため、各心臓から得られた乳頭筋レベルでの切片に対してマッソントリクローム染色を行った。梗塞領域及び非梗塞領域の直接的測定によって梗塞サイズを調べた。相対的な梗塞サイズを、100%[梗塞領域/(梗塞領域+非梗塞領域)]によって推定した。すべての形態計測実験は、イワサキ(Iwasaki)らによりCirculation.2006;113:1311〜1325に述べられる方法に従って行った。
【0185】
溶媒群(24.1±2.9%)と比較して、相対的梗塞サイズが低減する傾向が、1×10
5個、又は1×10
6個のhCTC(A3)細胞を投与した動物において見られた(それぞれ、16.5±7.3%,p=0.02、又は14.8±8.6%,p=0.01)。これについては、
図32のパネルaを参照されたい。同様に、溶媒処理群(748±191)と比較して、1×10
5個、又は1×10
6個のhCTC(A3)細胞を投与した動物では、梗塞サイズの低減する傾向が実際の梗塞領域によっても観察された(それぞれ、557±221,p=0.09、又は537±261,p=0.08)。これについては、
図32のパネルbを参照されたい。
【0186】
溶媒で処理した動物の心臓において心筋肥大が認められ、心筋の約70%が肥大を示した(スコア1)。これについては、
図31を参照されたい。ヒト心臓組織由来細胞による処理により、溶媒で処理した動物と比較して、心臓に認められる肥大は大幅に低減された。1×10
4個、1×10
5個、又は1×10
6個の標的用量のhCTC(A3)細胞を投与した心臓では、肥大心筋は30%〜50%に低下した。これについては、
図31を参照されたい。hCTCによって実現される肥大の低減は、栄養作用又はパラ分泌作用、すなわち表24に示されるようなhCTCによって分泌されるサイトカインに直接起因するか、かつ/又は、下記実施例14で述べるような新たな心筋細胞の生成が増加することの二次的な効果によるものと考えられる。
【0187】
(実施例14)
ヒト心臓組織由来細胞は、急性心筋梗塞の動物モデルにおいて毛細血管密度を増大させた
損傷した心筋の治療法としてのヒト心臓組織由来細胞の機構及び生物学的効果を更に理解するため、実施例11においてヒト心臓細胞で処理した動物の心臓から組織試料を採取して、梗塞領域の境界領域における毛細血管密度に対するヒト心臓組織由来細胞の投与の影響を調べた。
【0188】
梗塞領域の境界領域において採取した、各心臓の左心室の5つの組織切片を無作為に選択し、毛細血管の密度を組織学的検査によって形態計測的に評価した。その際、毛細血管はイソレクチンB4に対する抗体(ベクター・ラボラトリーズ社(Vector Laboratories)、カリフォルニア州バーリンゲーム)又はCD31に対する抗体を使用して可視化した。イソレクチンB4は内皮細胞表面の糖残基に対する特異性を有し、バスデバン(Vasudevan)らによりNature Neuroscience 11:429〜439(2008)に、またシュミット(Schmidt)らによりDevelopment 134,2913〜2923(2007)に述べられるように様々な状況において内皮細胞を認識することが報告されている。CD31は、血小板内皮細胞接着分子(PECAM)としても知られ、内皮細胞、ひいては心臓を含む様々な組織における脈管構造を特定するために広く用いられている(Tabibiazar and Rockson Eur Heart J 2001 vol 22;903〜918)。
【0189】
イソレクチンB4又はCD31による毛細血管の可視化によって、ヒト心臓組織由来細胞の投与が梗塞領域の境界領域における毛細血管の密度を高めることが示された。hCTC(A3)細胞の投与はすべての用量で、細胞投与の4週後に溶媒処理群と比較して毛細血管の密度を増大させた。これについては、
図33のパネルa及びbを参照されたい(イソレクチンB4染色ではp=0.0068、CD31染色ではp=0.0005)。
【0190】
毛細血管密度の増大は、本発明のヒト心臓組織由来細胞からの因子の分泌に一部よるものである可能性が考えられる。これらの栄養因子は、心臓細胞に例えばパラ分泌的に作用していることが考えられる。これらの栄養因子は、血管形成、血管の機能及び血流力学、心筋のリモデリング及び機能、筋細胞増殖(筋形成など)、筋細胞肥大、線維症、又は心臓細胞の生存率の上昇に直接又は間接的に影響していることが考えられる。これらの栄養因子が、レシピエントの免疫反応を調節する可能性もある。ヒト心臓組織由来細胞が栄養因子を分泌するか否かを調べるため、インビトロで7日間培養したhCTC(A3)細胞の集団から培地を回収した。培地の試料を−80℃で保存した後、分泌されたサイトカインの存在についてアッセイを行った。
【0191】
hCTC(A3)細胞によって分泌されたサイトカインとしては、血管内皮増殖因子(VEGF)、及びアンジオポエチン2(ANG2)があった。これについては、表24を参照されたい。これらのサイトカインは、血管形成において重要な役割を担っている。より重要な点として、VEGFとANG2との組み合わせは毛細血管の出芽プロセスを開始及び促進するうえで相乗効果を示しうることがあり、これについてはメイソンピエール(Maisonpierre)らによりScience 277:55〜60(1997)に報告され、ラムサワー(Ramsauer)らによりJournal of Clinical Investigation 110:1615〜1617(2002)に概説されている。
【0192】
(実施例15)
ヒト心臓組織由来細胞は、本発明のヒト心臓組織由来細胞を投与した動物において非梗塞領域の筋細胞密度を増大させた
損傷した心筋の治療法としてのヒト心臓組織由来細胞の機構及び生物学的効果を更に理解するため、実施例11においてヒト心臓細胞で処理した動物の心臓から組織試料を採取して、梗塞領域の境界領域におけるラット筋細胞の増殖及び心臓の非梗塞領域の筋細胞の密度に対するヒト心臓組織由来細胞の投与の影響を調べた。
【0193】
ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋した組織試料を4μmの切片とした。大体17番目の切片における1枚のスライドを各動物から選択した。これらの切片をKi−67(MIB−5)に対する抗体と、室温で60分間インキュベートし、PBS中で洗浄し、マイクロポリマーで標識した親和性マウスIgG2二次抗体とインキュベートした。スライドをPBS中で洗浄してから、濃紺/灰色の反応生成物を生成するVector SG基質によって現像した。PBS中でスライドを濯ぎ、DAPI(ケー・ピー・エル社(KPL)、メリーランド州ゲーザースバーグ)を用いて対比染色した。それぞれの染色プロトコールに陽性及び陰性コントロールを含めた。
【0194】
平行なホルマリンで固定した切片を、心臓ミオシンに対する抗体と室温で45分間インキュベートし、PBS中で洗浄し、ビオチン化マウスIgG二次抗体とインキュベートした。二次インキュベーションの終了後、Vectastain ABC−AP試薬(Vectastain Universal ABC−APキット、ベクター・ラボラトリーズ社(Vector Laboratories, Inc)、カリフォルニア州バーリンゲーム)を30分間用いた。スライドをPBS中で洗浄してから、濃いピンク〜赤色の反応生成物を生成するLiquid Permanent Redクロモゲン(ダコ社(Dako)、カリフォルニア州カーピンテリア)を用いて現像した。PBS中でスライドを濯ぎ、DAPI(ケー・ピー・エル社(KPL)、メリーランド州ゲーザースバーグ)を用いて対比染色した。それぞれの染色プロトコールに陽性及び陰性コントロールを含めた。
【0195】
増殖中の筋細胞を、Ki−67及びミオシン重鎖(MHC)の二重染色により測定した。MHC染色により認識された全筋細胞をカウントした。1つの高倍率視野内の全筋細胞の数は、溶媒処理群と細胞処理群とですべての用量で同様であった。全筋細胞中の増殖中の筋細胞の比は、溶媒で処理した動物(2.3±0.01%)、又は1×10
6個(1.2±0.01%)の細胞を投与した動物と比較して、1×10
4個(3.8±0.02%)又は1×10
5個(3.7±0.02%)のhCTC(A3)細胞を投与した動物において、より高かった。これについては、表25及び
図34を参照されたい。
【0196】
1×10
6個の細胞を投与した動物において全筋細胞中の増殖中の筋細胞の比が低かったことに対する可能性のある理由の1つとして、筋細胞がhCTC(A3)処理に応じてG0期に入ることがあるかもしれない。Ki−67は、細胞周期のすべての期間において存在する細胞増殖マーカーである。しかしながら、周期にある細胞がG0期に入るとKi−67は存在しなくなる。これについては、例えばThomas Scholzen 2000;Journal of Cellular Physiology;182(3),311〜322を参照されたい。
【0197】
H&E染色:スライドをキシレンを2回交換してスライド1枚につき10分間、脱パラフィン化した後、無水アルコールを2回交換してそれぞれにつき5分間、更に95%アルコールで2分間、70%アルコールで2分間、再水和した。スライドを蒸留水中で軽く洗ってからヘマトキシリン溶液中で8分間染色し、流水中で5分間洗浄し、1%酸アルコール中で30秒間分別し、流水中で1分間洗浄し、0.2%アンモニア水中で30秒〜1分間染色した。次にスライドを流水中で5分間洗い、95%アルコールで濯いで(10回浸漬)から、エオシン−フロキシンB溶液中で30秒〜1分間対比染色し、95%アルコール及び無水アルコールを2回交換してそれぞれにつき5分間脱水し、キシレンを2回交換してそれぞれにつき5分間洗浄し、キシレンベースの封入剤に封入した。
【0198】
H&E染色したスライドについて、各動物で1レベルをサンプリングした。各レベルにおいて、梗塞から離れた左心室壁内の毛細血管の大部分が断面で示された、横断方向に切断された筋原繊維を含む5つの400倍の視野(1視野当たり67,500μm
2)を選択した。筋細胞密度を、各レベルについて5つの視野の平均として報告し、mm
2で表した。平均、標準偏差、及び平均の標準誤差を各処理群に対して計算した。
【0199】
個々の筋細胞を、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色された組織において400倍の倍率で概ね見ることができた。
図35は、1×10
5個のhCTC(A3)細胞を投与した心臓の試料から得られた代表的な画像を、溶媒で処理した動物から得られた試料とともに示したものである。表26において、溶媒群の平均(1813±84/mm
2)は、処理群のいずれの平均(1×10
4個のhCTC(A3)細胞:2210±227、1×10
5個のhCTC(A3)細胞:2220±186、1×10
6個のhCTC(A3)細胞:2113±186)よりも低かった。高い筋細胞密度は、増殖中の筋細胞が多いこと(筋形成)、及び/又は実施例13で述べたように筋細胞肥大が低減されていることに起因するものと考えられる。
【0200】
(実施例16)
ヒト心臓組織由来細胞による処理は、ラット心筋に差次的遺伝子発現を誘導した
ヒト心臓組織由来細胞投与によって誘導される分子的変化について理解するため、遺伝子プロファイル実験を行って、溶媒処理群及びヒト心臓組織由来細胞処理群における遺伝子発現レベルを比較した。ラット心臓を、実施例11で述べた実験で使用した1×10
4個、1×10
5個、1×10
6個のhCTC(A3)細胞又は溶媒を投与した動物から細胞投与の4週後に採取した。試料から全DNAを採取した。
【0201】
アフィメトリックス社(Affymetrix)より販売されるHG−U133_Plus_2遺伝子チップを使用して、試料中の遺伝子の発現の分析を行った。Spotfire DecisionSiteを使用し、「平均による正規化」の機能によって、マイクロアレイのデータセットをマイクロアレイチップ全体にわたって正規化した。個々のチップを、比較用に複数の群に編成した(1×10
4個、1×10
5個、及び1×10
6個のhCTC(A3)の標的用量、並びに溶媒)。Spotfire DecisionSiteを使用し、各群間のp値及び倍率変化(fold change)を確立した。データのPresent Callのカラム中少なくとも3つのカラムにおいてPを有さなかった遺伝子、少なくとも2つのカラムにおいて0.05以下の群比較p値を有さなかった遺伝子、及び少なくとも2つのカラムにおいて2.0以上、又は0.5以下の倍率変化を有さなかったすべての遺伝子をフィルタリングにより除いた。フィルタリングしたセットは45個の対象遺伝子を含んでいた。次にこれら45個の遺伝子をSpotfire DecisionSiteからのPrinciple Component Analysis(PCA)プログラムに入力することにより、この遺伝子のサブセットを用いた群分けを視覚的に示した。これについては、差次的に発現される遺伝子を特定、列記した表27を参照されたい。
【0202】
特定された遺伝子のうち、形質転換増殖因子β受容体(TGFβR)が、hCTC(A3)細胞を投与した動物においてすべての用量で下方制御されていた。これについては、
図35を参照されたい。TGFβR経路は、心筋における梗塞後の亢進した肥大(例えば、Watkins,Jonkerら、Cardiovasc Res.2006 Feb1;69(2):432〜9を参照)及びリモデリング(Ellmers,Scottら、Endocrinology.2008 Nov;149(11):5828〜34.)の関係がこれまでに示唆されている。TGFβ及びTGFβRの遮断により、肥大後のリモデリング及び線維症が低減されることが報告されている(例えば、Ellmers,Scottら、Endocrinology.2008 Nov;149(11):5828〜34を参照)。更に、梗塞後のTGFβ及びTGFβR経路の活性化により、心筋及び心室の肥大及びリモデリングが増大することが報告されている(例えば、Matsumoto−Ida、Takimotoら、Am J Physiol Heart Circ Physiol.2006 Feb;290(2):H709−15を参照)。
【0203】
差次的遺伝子発現分析によって特定された別の遺伝子は、神経型一酸化窒素合成酵素(NOS1)であった。梗塞後、心臓におけるNOS1の発現が増加した。NOS1の過剰発現によって、心筋の収縮性が低下することが報告されている(例えば、Burkard,Rokitaら、Circ Res.2007 Feb 16;100(3):e32〜44を参照)。機能不全に陥ったヒトの心臓では、NOS1の発現がmRNA及びタンパク質レベルで大幅に上昇していることが報告されており、心機能障害の病因におけるNOS1の役割を示唆している(例えば、Damy,Ratajczakら、Lancet.2004 Apr 24;363(9418):1365〜7)を参照)。hCTC(A3)細胞で処理した心筋では、すべての用量においてNOS1の発現が溶媒で処理した心筋と比較して10倍よりも大きく低下した。
【0204】
(実施例17)
ヒト心臓組織由来細胞による処理は、急性心筋梗塞のラットモデルにおいて梗塞のサイズを低減させ、肥大を防止した
損傷した心筋の治療におけるヒト心臓組織由来細胞の有効性を、急性心筋梗塞の齧歯類モデルにおいて骨髄由来間葉系幹細胞と比較した。この実験では8〜10週齢の96匹の雌性ヌードラット(チャールズ・リバー・ラボラトリー社(Charles River Laboratories))を使用した。実施例11で述べたようにして外科的処置を行った。1×10
5個のhCTC(A3)細胞(ロット1)を、100μLの体積のCryoStor D−lite中で投与した。これと並行して、1×10
6個のヒト間葉系幹細胞(カタログ番号PT−2501、ロンザ社(Lonza))を100μLの体積のCryoStor D−lite中で投与した。実施例11で述べたのと同様の手順に、外科医の好みに基づいて以下の改変を行って用いた。すなわち、梗塞領域の変色が明らかに認められた場合に、LAD結紮のおよそ10分後に29ゲージの注射針を取り付けた0.3mLのインスリン注射器を使用して、梗塞の境界領域の2箇所の部位に各50μLずつの細胞を注入した。細胞投与の28日後に動物を屠殺し、後の分析用に心臓を摘出した。
【0205】
動脈を切り取り、心室を生理食塩水で洗い流した。心臓を10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)中に24時間浸漬した後、4枚の2mmのスライスに切断した。各スライスを顕微鏡検査用に処理し、パラフィンに包埋して5μmの切片とし、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)、及び/又はマッソントリクロームにより染色した。各動物について、乳頭筋と基底レベルとの間の中心線から取ったものと、乳頭筋から取ったものの2枚の切片を並べて示した。
【0206】
すべての群及び時点において得た組織切片を盲検化し、最も重度から最も軽度まで疾患の重症度(代償不全/拡張及び肥大)に基づいて順位付けした。各順位に、最も大きな数字が最も高い疾患の重症度と対応するように数字を割り当てた。次いで盲検を解き、各群からのすべての順位の値を集計した。
【0207】
すべての画像は、梗塞を含む左心室自由壁の全体にわたって得た。低倍率(2倍)の画像を、各動物から得られたトリクローム染色した2枚の切片から得て、梗塞サイズについて分析した。Image−Pro Plus v 5.1ソフトウェア(メディア・サイバネティクス社(Media Cybernetics,Inc.)、メリーランド州ベセスダ)を使用し、得られた画像について梗塞サイズの自動形態計測分析を行った。左心室自由壁の外周をトレースして、対象領域(AOI)とした。梗塞を表す青い染色によって占められた比率(%)、及び機能性の心筋を表す赤い染色によって占められた比率(%)が、各画像から得られる2つの測定値であった。
【0208】
H&E及び/又はマッソントリクロームで染色した心臓の組織切片を梗塞の28日後に調べた。1×10
5個のhCTC(A3)細胞で処理した動物、及び1×10
6個のヒト間葉系幹細胞で処理した動物は、溶媒で処理した動物と比較して梗塞領域が低減されていた。左及び右心室の両方において拡張の低減も観察された。これについては、
図36のパネルa及びbを参照されたい。更に、1×10
5個のhCTC(A3)細胞を投与した動物、及び1×10
6個のヒト間葉系幹細胞で処理した動物では、左心室自由壁の機能性心筋が保存されていた。これについては、
図36のパネルcを参照されたい。
【0209】
興味深い点として、hCTC(A3)細胞及びヒト間葉系幹細胞(hMCS)は心室中隔(IVS)に対して差次的な作用を示し、hMCSがIVSの肥大拡張作用を示したのに対して、hCTC(A3)細胞を投与した動物ではこうした変化は観察されなかった。これについては、
図37を参照されたい。心筋細胞の肥大性変化の痕跡は両群の中隔に存在したが、hMSCを投与した動物においてより顕著であった。肥大性筋細胞及びIVSは最終的な心臓のリモデリングに寄与することから、本発明のヒト心臓組織由来細胞がヒト間葉系幹細胞と比較して心機能により有益な作用を及ぼしうることを示唆するものである。
【0210】
(実施例18)
急性心筋梗塞の動物モデルにおける本発明のヒト心臓組織由来細胞の複数のロット及び長期的有効性
ヒト心臓組織由来細胞の複数のロットを3人のドナーから調製した。ドナーに関する情報を表28に示す。簡単に述べると、ロット1は、移植グレードの心臓由来のものであり、ロット2は、健康な心臓由来のものであるが、ドナーが移植の年齢基準を満たさなかったものであり、ロット3は、心臓の機能不全状態である拡張型心筋症と診断されたドナーに由来するものである。
【0211】
雌性ヌードラット(体重250〜300g)をケタミン及びキシラジン(それぞれ60及び10mg/kgを腹腔内投与)で麻酔した。第4左肋間領域で胸腔を開き、心臓を体外に露出させ、心膜を切開した。この後、心臓をピンセットで押さえ、左前下行枝の起始部から約2mmの位置で6−0プロリン縫合糸を左前下行枝の下に回した。結紮糸を引っ張って動脈を閉塞することによって心臓にAMIを誘発した。梗塞した心筋の変色が目視にて観察された。
【0212】
MI誘発の20分後に、ラットにロット1、2又は3のいずれかのhCTC(A3)細胞から1×10
6個のhCTC(A3)細胞を心筋内移植した。これと並行して、動物に1×10
6個のpCTC(A3)細胞、又はヒト新生児皮膚線維芽細胞(カタログ番号CC−2509、ロンザ社(Lonza))、又は溶媒を投与した。細胞集団はいずれも投与に先立って凍結保存し、CryoStor Dlite中で最終容量120μLとして心臓に注入した。細胞は2箇所の部位に投与し、50μLの細胞懸濁液又はCryoStor Dliteを各部位に注入した。注入の完了後、胸腔を閉じた。各群で10匹の動物を使用した。この実験で観察された死亡率は32%であった。表29に示されるように、各群間で死亡率に有意な差は認められなかった。心機能の絶対値を表30に示す。
【0213】
経胸壁心エコー法(SONOS 5500、フィリップス・メディカル・システムズ社(Philips Medical Systems))を行って、細胞投与の1、4、及び12週後のLVの機能を評価した。以下のパラメータを測定した。すなわち、左室(LV)拡張末期径(LVEDD)、左室収縮末期径(LVESD)、左室内径短縮率(FS)、局所壁運動スコア(RWMS)である。
【0214】
ロット1からのhCTC(A3)細胞の投与により、細胞投与の28日及び84日後に試験したすべてのパラメータにおいて心機能が改善した。これについては、
図38及び39を参照されたい。ロット2からのhCTC(A3)細胞の投与は、局所壁運動スコア(RWMS)及びFSによって測定されたように、梗塞の84日後に心筋収縮性及び全体的心機能を改善することができた。
【0215】
細胞投与の7日後のFSは、溶媒処理群と細胞処理群とで同様の値であった。しかしながら、細胞投与の84日後では、FSによって測定される心機能は、ロット2からのhCTC(A3)細胞及びロット1からのhCTC(A3)細胞による処理群で、それぞれ9.5±6.0%(n=8,p<0.01)、及び8.9±4.1%(n=8,p<0.001)だけ改善した。これについては、
図39及び表30を参照されたい。溶媒処理群(−1.0±3.3%)、ロット3からのhCTC(−0.4±3.0%)、及びヒト線維芽細胞(4.1±2.1%)では、FSにわずかな変化が認められたかあるいは変化が認められなかった。これについては、
図39及び表30を参照されたい。全体的機能と一致して、RWMSも、溶媒で処理した動物と比較してロット1からのhCTC(A3)を投与した動物で7日目の24.83±1.64から22.13±1.5(N=8,p<0.05)に、あるいはロット2の細胞を投与した動物で25.44±1.0から23.13±2.2(N=8,p<0.05)に低下した。これについては、表30を参照されたい。
【0216】
今回の実験では、LVESDによって示されるように、ロット1又はロット2からのhCTC(A3)細胞により、梗塞の28日及び84日後にリモデリングが防止された。細胞投与の28日後に、ロット1からのhCTC(A3)細胞を投与した動物においてLVESDが低下した(−8.9±4.1%)。ロット2からのhCTC(A3)細胞を投与した動物では、LVESDはベースラインに維持された(−0.5±4.3%)。これに対して、溶媒で処理した動物では、細胞投与の28日後にLVESDは16.4±5.2%だけ増大した。ロット3からのhCTC(A3)細胞又はヒト線維芽細胞を投与した動物では、LVESDはそれぞれ9.1±2.3%及び5.4±3.6%だけ増大した。これについては、
図38及び表30を参照されたい。
【0217】
細胞投与の84日後では、溶媒群においてLVESDは16.3±2.8%だけ増大した。同様に、ロット3からのhCTC(A3)細胞を投与した動物又はヒト線維芽細胞で処理された動物においても、84日目に左心室の拡張が認められた。LVESDは、それぞれ12.5±3.7%及び7.6±3.7%だけ増大した。これに対して、ロット1からのhCTC(A3)細胞を投与した動物(−3.9±5.2%)においても、ロット2からのhCTC(A3)細胞を投与した動物(−1.8±4.2%)においても心臓リモデリングは生じなかった。これについては、
図39及び表30を参照されたい。
【0218】
拡張末期のLVEDDによって測定される左心室の拡張性の増大は、ロット1からのhCTC(A3)細胞を投与した動物(7日目:0.80±0.10cm、84日目:0.84±0.07cm、5%の増加)、及びロット2からのhCTC(A3)細胞を投与した動物(7日目:0.74±0.07cm、84日目:0.82±0.06cm、6.7%の増加)において防止された。これに対して、LVEDDは、溶媒で処理した動物(7日目:0.75±0.03cm、84日目:0.86±0.06cm、14.6%の増加)及びヒト線維芽細胞を投与した動物(7日目:0.73±0.034cm、84日目:0.83±0.06cm、13.7%の増加)において増大した。ロット3からのhCTC(A3)細胞を投与した動物においてもLVEDDの増大が認められた(7日目:0.73±0.04cm、84日目:0.82±0.06cm、12.3%の増加)。これについては、
図39及び表30を参照されたい。
【0219】
(実施例19)
心臓組織由来細胞のサイズ
方法及び材料:本発明の方法に従ってヒト、マウス、ブタ、及びラット心臓から得られた心臓組織由来細胞の細胞サイズを、細胞のカウントを行う際に分析した。全生細胞のカウントを、細胞集団の消化後でかつ再播種の前に、Vi−Cell(商標)XR(ベックマン・コールター社(Beckman Coulter)、カリフォルニア州フラートン)を使用して行った。Vi−Cell(商標)細胞生存率分析装置は、フローセル内の細胞の最大で100個の画像についてビデオキャプチャー技術及び画像解析を用いて、細胞生存率の評価のためのトリパンブルー色素排除試験法を自動化するものである。
【0220】
製造者の指示(参照マニュアルPN 383674 Rev.A)に従って試料を調製及び分析した。簡単に述べると、赤血球溶解後に得られる最終細胞懸濁液の500μLの一定分量をVi−Cell(商標)の4mL試料バイアルに移し、Vi−Cell(商標)XR細胞生存率分析装置により分析した。細胞のサイズは、カウントされた細胞の平均の直径によって求めた。
【0221】
hCTC(A3)細胞の直径の平均は16.7±2.13μmであった。rCTC(A2)細胞の直径は18.4±1.02μmであり、pCTC(A3)細胞の直径は17.2±0.42μmであった。これらのデータに基づけば、20μm以上のフィルターサイズであれば、本発明の心臓組織由来細胞を回収するためにフィルターを通過させ、他の細胞のタイプを除外することが可能であると考えられる。
【0222】
(実施例20)
本発明の心臓組織由来細胞の凍結保存
病院において更なる処理を行わずに直接投与することが可能な製品を作出することが有利である。このような製品を作出するため、臨床使用が承認されている凍結保存溶液を使用してヒト心臓組織由来細胞の凍結保存の試験を行った。更に、心筋における凍結保存溶液の毒性についても試験を行った。
【0223】
凍結保存用に、hCTC(A3)細胞をトリプシン処理によってフラスコから回収した。細胞バンクを、2%体積/体積DMSOを含んだCryoStor Dlite(商標)(バイオライフ・ソリューションズ社(Biolife Solutions,Inc.)ワシントン州ボッセル)中で凍結保存した。CryoStor Dliteは、J.G.Baust及びJ.M.Baustによって編集されたAdvances in Biopreservationに述べられる原理に従って、超低温環境(−80℃〜−196℃)下で細胞を調製及び保存するために設計された動物由来成分を含まない凍結保存液である。低温保存に必要な例えば電解質、浸透圧及び緩衝条件を与える他の溶液を使用することも可能である。
【0224】
細胞懸濁液を、DeltaTソフトウェアを用いたIntegra 750 Plusプログラム式フリーザー(プラナー社(Planer)、英国、ミドルセックス)を使用してNalgene 2mLポリプロピレン製滅菌雌ねじスクリューキャップ式凍結バイアル(Cryovial)(ナルジーン・ヌンク社(Nalgne Nunc)、ニューヨーク州ロチェスター)中で凍結保存した。細胞及び溶液は、15℃に維持したプログラム式フリーザーに装填する前には室温であった。試料用の温度プローブを凍結緩衝液のバイアルに入れた。以下のプログラムを使用して細胞を凍結保存した。
【0225】
【表4】
【0226】
温度が−140℃となった時点で、試料を液体窒素タンクに移して保存した。
【0227】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全容を本明細書に援用するものである。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。
【0228】
【表5】
【0229】
【表6】
*:心臓の半分を処理した。
【0230】
【表7】
【0231】
【表8】
【0232】
【表9】
* n=3、データは平均を表す。時間は、心筋梗塞モデルにおける細胞注入処理時の調製時間を反映する、室温でのインキュベーション時間を示す。
【0233】
【表10】
【0234】
【表11】
【0235】
【表12】
【0236】
【表13】
【0237】
【表14】
【0238】
【表15】
線維芽細胞:NHDF
【0239】
【表16】
*:r心臓:ラット心臓
【0240】
【表17】
【0241】
【表18】
【0242】
【表19】
【0243】
【表20】
【0244】
【表21】
【0245】
【表22】
【0246】
【表23】
【0247】
【表24】
【0248】
【表25】
【0249】
【表26】
【0250】
【表27】
【0251】
【表28】
【0252】
【表29】
【0253】
【表30】
【0254】
【表31-1】
【0255】
【表31-2】
【0256】
【表32】
【0257】
【表33】
【0258】
【表34】