特許第5894078号(P5894078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894078
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】サンプリング装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20160310BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20160310BHJP
   G01N 33/497 20060101ALI20160310BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   G01N1/22 L
   G01N27/62 V
   G01N33/497 Z
   G01N33/50 Q
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-540699(P2012-540699)
(86)(22)【出願日】2011年10月31日
(86)【国際出願番号】JP2011006100
(87)【国際公開番号】WO2012056729
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-243961(P2010-243961)
(32)【優先日】2010年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−214747(JP,A)
【文献】 特開2010−169658(JP,A)
【文献】 特開2006−334511(JP,A)
【文献】 特開2006−138731(JP,A)
【文献】 特表平11−506624(JP,A)
【文献】 津田孝雄,ヒト皮膚から揮散される化学物質と香り,Aroma Res,日本,2008年 2月28日,Vol.9 No.1,Page.63-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00〜1/44、21/00〜21/61、27/60〜27/92、33/48〜33/98、A61B5/00〜5/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚にサンプリング側が面するように装着されるチップ状のサンプリング装置であって、前記サンプリング側に面した、0.1から1000nmの範囲の孔径の多孔質の吸着層を有し、
前記吸着層は、中心孔径が異なる少なくとも3つの多孔質層であって、前記サンプリング側から中心孔径の大きい順番に積層されている多孔質層を含み、さらに、
前記吸着層の非サンプリング側に通過流量を制御する流量制御層を介して配置された吸引層であって、前記吸着層を通して酸素および窒素の少なくともいずれかを吸引する吸引層を有するサンプリング装置。
【請求項2】
請求項において、前記吸引層は、酸素および窒素の少なくともいずれかを吸着する物質を含む、サンプリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記吸引層は、酸素または窒素の少なくともいずれかと反応する物質を含む、サンプリング装置。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれかにおいて、前記吸着層は多孔質ガラス層を含む、サンプリング装置。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかに記載のサンプリング装置をサンプリング側を皮膚に面して装着し、生体から放出される化学物質を前記吸着層に採取することと、
皮膚から離した前記サンプリング装置を加熱し、前記サンプリング装置から放出される生体由来の化学物質をイオン移動度センサーで分析することとを有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質などをサンプリングする装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高感度に化学物質を検出、分析する技術として、近年フィールド非対称性イオン移動度分光計(FAIMS)と呼ばれる装置が注目を集めている。この装置では、センサーに印加する直流電圧と交流電圧を変化させることにより、イオン化された化学物質の移動度の変化を、微細なフィルタによって検出し、その検出結果の差異により化学物質を特定することが可能である。
【0003】
国際公開WO2006/013396号(日本特表2008−508693号)公報には、複数の電極を有する少なくとも1つのイオンチャネルの形状のイオンフィルタを有するイオン移動度分光計について記載されている。このイオン移動度分光計では、導電層に印加される時間変化する電位により、充填剤がイオン種を選択的に入れることができる。電位は、駆動電界成分および横電界成分を有し、好ましい実施形態において、電極のそれぞれは、駆動電界および横電界の両方の成分を生成するのに関与する。デバイスは、ドリフトガスフローがなくても用いることができる。さらに、この文献には、分光計の種々の用途であるようなマイクロスケール分光計を製作するための微細加工技術について記載されている。
【発明の開示】
【0004】
人間や動物の体(身体、生体)から放出される匂いの成分、たとえば、皮膚呼吸に含まれる成分が癌やその他の疾病により変化することが知られている。癌やその他の病気の初期状態や疾病の進行状態を判断するために、生体から放出される、生体由来の化学物質を分析することは有用である。
【0005】
本発明の一態様は、皮膚にサンプリング側が面するように装着されるチップ状のサンプリング装置である。このサンプリング装置は、サンプリング側に面した、0.1から1000nmの範囲の孔径の多孔質の吸着層を有する。イオン移動度センサーなどで直に生体から放出される化学物質を測定する代わりに、このサンプリング装置を生体に装着し、生体から放出される化学物質を一時的にサンプリング装置に吸着させることができる。このため、皮膚から放出される生体由来の化学物質をサンプリング装置に集めた後、イオン移動度センサーなどにより生体由来の化学物質を分析できる。また、分子、細菌、ウィルス、細胞の吸着に適した孔径の多孔質の吸着層により、分析対象を、サンプリングの段階で選択および/または濃縮させることができる。
【0006】
本発明の他の態様の1つは、以下のステップを含む方法、たとえば、測定方法あるいは診断方法である。
・サンプリング装置のサンプリング側を皮膚に面して装着し、生体から放出される化学物質を吸着層に採取すること。
・皮膚から離したサンプリング装置を加熱し、サンプリング装置から放出される生体由来の化学物質をイオン移動度センサーで分析すること。
【0007】
吸着層は、中心孔径(中心細孔直径、平均孔径)が異なる少なくとも3つの多孔質層であって、サンプリング側から平均孔径の大きい順番に積層されている多孔質層を含む。分析対象の化学物質、たとえば分子の吸着に適した平均孔径を含む多孔質層を、それよりも平均孔径が大きな多孔質層と、平均孔径が小さい多孔質層とで挟むことにより、分析対象の化学物質を選択的に濃縮しやすい。
【0008】
さらに、吸着層の非サンプリング側に通過流量を制御する流量制御層を介して吸引層を設ける。吸引層は、吸着層を通して酸素および窒素の少なくともいずれかを吸引する層である。吸引層により、サンプリング側から非サンプリング側へ向かう空気の流れを形成できるので、分析対象の化学物質をサンプリング側の表面から吸着層の内部に引き込んで吸着できる。このため、吸着層内に、分析対象の化学物質が濃縮されやすい。
【0009】
吸引層の典型的な例は内部が負圧になった層である。吸引層が、酸素および窒素の少なくともいずれかを吸着する物質、たとえば、適当な孔径のゼオライト(モレキュラシーブ)を含んでいてもよい。また、吸引層が、酸素または窒素の少なくともいずれかと反応する物質、たとえば、酸化物や窒化物を室温あるいは体温近傍で比較的効率よく形成する物質を含んでいてもよい。
【0010】
多孔質層の典型的なものは、ゾル−ゲル法などにより製造される、孔径の分散の小さな多孔質ガラス層である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サンプラーの概略構成を示す図。
図2】サンプラーから放出される化学物質を検出するシステムを示すブロック図。
図3】分析方法の概略を示すフローチャート。
図4】異なるサンプラーによりサンプリングする様子を示す図。
図5】サンプラーから化学物質を放出させる様子を示す図。
図6】異なる方法によりサンプラーから化学物質を放出させる図。
図7】さらに異なるサンプラーによりサンプリングする様子を示す図。
図8】サンプラーから化学物質を放出させる様子を示す図。
図9】サンプラーを下着に装着した状態を示す図。
【発明の実施の形態】
【0012】
図1に、サンプリング装置(サンプラー)の概要を示している。このサンプラー10は、ベース11と、ベース11の表面(サンプリング側)18に適当な方法により固定された多孔質の吸着層20とを含む。多孔質の吸着層20の一例は、平均孔径(中心孔径、中心細孔直径)が0.1nm〜10nm、さらに好ましくは、0.3nm〜5nm、いっそう好ましくは0.5nm〜2nm程度の範囲のいずれかの多孔を備えた多孔質ガラスビーズ21またはゼオライトがベース11のサンプリング側18に保持されたものである。このサンプラー10は、サンプリング側18が生体の皮膚31に面するように適当な方法で装着される。サンプラー10を装着する典型的な方法は、下着にサンプラー10を取り付けたり、テープでサンプラー10を皮膚31に貼り付けたりすることである。
【0013】
皮膚呼吸などにより皮膚31から放出される匂い(臭い)の要因は、炭化水素化合物、特に芳香族炭化水素化合物を含む芳香族化合物であると考えられる。これら芳香族化合物で分子量が1kDa以下程度の分子の多くの直径(最大長)は、0.5nm〜1.数nm程度である。たとえば、ベンゼン環の直径は0.5nm〜0.6nmであり、吸着層20の孔径は、芳香族化合物が1または数個が入る程度の大きさであることが望ましい。
【0014】
このサンプラー10は、図1に示すように、皮膚31から放出されるA〜Fの物質のうち、物質A〜D、たとえば、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレンなどの比較的低分子量の芳香族化合物を吸着するのに適している。一方、物質E、F、たとえば、ペプチドや小分子蛋白のような分子量が5kDa〜数100kDaで分子の直径(最大長)が3nm〜10数nmの高分子は吸着されにくい。また、酸素、窒素、二酸化炭素といった直径が0.4nm以下の分子も吸着されにくく、臭い(体臭)の成分を選択的に吸着し、濃縮できる。
【0015】
一方、分子量が数kDa〜数100kDa程度で分子直径が約3nm〜10数nmのペプチドや小分子蛋白などの高分子を標的(吸着対象物)とするサンプラー10であれば、中心直径が10nm〜20nm程度の多孔質ガラスを備えた吸着層20を含むサンプラーであることが望ましい。また、分子量が数1000kDaで分子直径が20数nm〜30数nmのようなさらに大きな高分子を標的とするサンプラー10であれば、中心直径が25〜30数nmの多孔質ガラスを備えた吸着層20を含むサンプラーであることが望ましい。なお、ゼオライト(モレキュラシーブ)や、ゾル−ゲル法などにより製造される多孔質ガラスは、中心直径または平均直径に対する細孔の直径の分布は小さいが、±50%程度の広がりがある場合がある。したがって、サンプルする対象の分子(化学物質)の直径に対して、細孔径の分布も評価して吸着物質の中心直径を判断することが望ましい。
【0016】
ベース11の一例は、不織布、ポリマーシートなどである。ベース11のサンプリング側18に、ゼオライトや多孔質ガラスなどの吸着物質21を圧着したり接着したりすることにより、ベース11のサンプリング側18に吸着層20を備えたサンプラー10を製造できる。このサンプラー10を体表面、典型的には皮膚31に面するように数分から数時間、装着することにより、人体または動物の身体(生体)から放出される生体由来の化学物質(体臭成分)をサンプリングできる。
【0017】
図2に、サンプラー10でサンプリングした化学物質を分析する分析システムの概要を示している。この分析システム50は、サンプラー10からサンプリングされた化学物質を放出させるチャンバー51と、化学物質を検出するセンサー53と、サンプラー10から放出された化学物質を再分析のために蓄えるレシーバーシステム60と、分析用の制御装置、典型的にはパーソナルコンピュータ(PC)70とを含む。
【0018】
センサー53の典型的なものは、イオン移動度センサー(イオン移動度分光計、Ion Mobility Spectrometry)であり、空気中の物質(分子)をイオン化し、イオン化された分子の移動度の差に基づくスペクトル(イオン電流、イオン強度)を出力する。この分析システム50は、非対称電界イオン移動度スペクトロメータ(FAIMS、Field Asymmetric waveform Ion Mobility Spectrometry)または微分型電気移動度スペクトロメータ(DMS、Differential Ion Mobility Spectrometry)と呼ばれているイオン移動度センサー53を備えている。この種のスペクトロメータ(センサー、以降においてはFAIMS)53は、高圧−低圧に変化する非対称電界にイオン化した分子流を入力し、イオンの電界移動度に基づいてそれらをフィルタリングした結果を出力する。市販されているコンパクトなFAIMSとしては、SIONEX(ザイオネクス)社のmicroDMx、OWLSTONE(オウルストーン)社のFAIMSデバイスを挙げることができる。
【0019】
FAIMS53は、上流に配置されたイオン化ユニット52によりイオン化された化学物質を検出する。イオン化ユニット52の一例は、ニッケルの同位体(Ni63)を用いた間接イオン化ユニットである。コロナ放電を用いたイオン化ユニットであってもよく、UVを用いた直接イオン化ユニットであってもよい。
【0020】
サンプラー10からサンプリングした生体由来の化学物質を放出させるチャンバー51はサンプラー10を出し入れ可能な構造の密閉型の容器である。チャンバー51の内部には、サンプラー10のサンプリング側(表面)18と反対側の非サンプリング側(裏面)19を加熱するヒーター58と、放出温度を制御する温度コントローラ57とが設置されている。コントローラ57は、サンプラー10を加熱するヒーター58の出力を制御することにより、サンプラー10の温度(温度センサーを設置しておいてもよい)を制御し、一時的にサンプラー10に保持されている生体由来の化学物質(化学成分、ガス分子)のリリースを制御する。たとえば、低温であれば、分子量が小さいもの、あるいは分子サイズが小さいものが先にサンプラー10から出力され、温度を上げることにより分子量が大きいもの、あるいは分子サイズが大きいものが順番にサンプラー10から出力される。温度をより精度良く制御するため、ヒーター58は複数の発熱素子を備えたものであってもよく、たとえば、ラインサーマルヘッドを利用することができる。
【0021】
分析システム50は、さらに、チャンバー51にキャリアガス(典型的にはドライエア)51aを導入して生体由来の化学物質(たとえば、A〜D)をFAIMSセンサー53へ搬送するキャリアガス供給ポンプ(ブロワ、ファン)55と、チャンバー51とFAIMSセンサー53との間に配置されたフィルタ(パーティクルフィルタ)59とを含む。
【0022】
レシーバーシステム60は、FAIMSセンサー53の排気を格納する複数のレシーバー61と、排気を格納する複数のレシーバー61を選択するなどのライン切り替えを行うバルブ群65と、排気用のポンプ(ファン、ブロワ)66と、再循環用のポンプ(ファン、ブロワ)67とを含む。各レシーバー61は、分析開始前に真空ポンプあるいは排気用ポンプ66などにより負圧にされている。チャンバー51の内部で加熱されたサンプラー10から放出される化学物質(A〜D)の種類はサンプラー10が加熱された温度により変化する。その様子をFAIMSセンサー53の出力により確認し(プレアナリシス)、バルブ65を切り替えることにより、それぞれのレシーバー61に放出された化学物質を適当なグループに分けて蓄積する。
【0023】
分析システム50の制御およびFAIMSセンサー53により得られるデータの解析はPC70で行われる。PC70は、CPU71、メモリ72、ハードディスクなどのストレージ73およびこれらを接続するバス74などの、コンピュータを構成する一般的なハードウェア資源を含む。さらに、PC70は、分析システム50を制御して、データを解析する解析ユニット75を含む。解析ユニット75は、ASICあるいはLSIなどの半導体デバイスとして提供されてもよく、CPU71で実行されるプログラム(プログラム製品)として提供されてもよい。解析ユニット75は、分析システム50のFAIMSセンサー53、ポンプ55、66、67、バルブ65、温度コントローラ57などを制御するシステムコントローラ76と、FAIMSセンサー53のデータを解析するアナライザー77とを含む。解析ユニット75は、FAIMSセンサー53の温度、湿度、気圧などの環境条件を適当なセンサーを介して取得し、FAIMSセンサー53から得られたデータを補正する機能を含んでいてもよい。
【0024】
図3に、分析システム50において、サンプラー10から得られた化学物質を分析する過程を示している。まず、ステップ80において、サンプラー10を、そのサンプリング側18が皮膚に面するように人体あるいは動物の体に装着し、生体から放出される化学物質をサンプラー10の吸着層20に採取する。ステップ91において、皮膚から離したサンプラー10を分析システム50のチャンバー51にセットし、ステップ92において、サンプラー10の非サンプリング側19をヒーター58により加熱する。ステップ93において、サンプラー10から放出される生体由来の化学物質(A〜D)をイオン移動度センサーであるFAIMSセンサー53で予備分析する。この予備分析においては、解析ユニット75が、サンプラー10の加熱温度により放出される化学物質があることをFAIMSセンサー53の出力により確認し、後の解析において、FAIMSセンサー53の出力(スペクトラム)のピークが重複したりすることが比較的少なくなるように、放出される温度により、生体由来の化学物質を複数のレシーバー61に分けて一時的に格納する。
【0025】
サンプラー10から生体由来の化学物質がいったん放出されると、ステップ94において、レシーバー61を切り替えながら、レシーバー61に一時的に格納されていた化学物質(キャリアガスを含む)をFAIMSセンサー53に再循環させ、生物由来の化学物質をさらに詳しく分析する。解析ユニット75は、ストレージ73に格納されている化学物質ライブラリや、インターネットなどのコンピュータネットワークを介してアクセス可能な他のデータベースあるいはライブラリを用い、種々のフィッティング方法、シミュレーテッドアニーリング法、平均場アニーリング法、遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワークなどの方法を用いて、サンプラー10がサンプリングした生体由来の化学物質を分析する。さらにステップ95において分析した結果をPC70の表示機能を用いて出力する。PC70からコンピュータワークを介して他のコンピュータに出力を送信してもよい。
【0026】
図4に、異なるサンプリング装置の概略構成を示している。このサンプリング装置(サンプラー)100は、ベース110のサンプリング側18に積層された複数の多孔質層121〜125を含む吸着層120を有する。複数の多孔質層121〜125は、それぞれ異なる中心孔径(中心細孔直径、平均孔径)の多孔を備えており、それらの多孔質層(多孔質膜)121〜125がサンプリング側18から非サンプリング側(ベース側)19に向かって、中心孔径の大きな順番に積層されている。たとえば、最上層の多孔質層121の中心孔径は30nm、2層目の多孔質層124の中心孔径は10nm、3層目の多孔質層123の中心孔径は2.0nm、4層目の多孔質層124の中心孔径は0.6nm、5層目(最下層)の多孔質層125の中心孔径は0.4nmである。なお、これらの孔径は例示に過ぎない。
【0027】
このサンプラー100の吸着層120においては、高分子タンパクなどの分子量が数1000kDaの分子は最上層121で吸着され、ペプチド、比較的低分子タンパクなどの分子量が数10〜数100kDaの分子は第2層122で吸着され、体臭の主な要因となる、分子量が数kDaあるいはそれ以下の比較的長い鎖状の炭化水素化合物や芳香族化合物は第3層123および第4層124で吸着される。また、空気中の主成分である窒素および酸素は、最下層(第5層)125で吸着されるものもあるが、ほとんどのものは第5層125を通過する。したがって、このサンプラー100においては、第3層123および第4層124にサンプリングする標的である分子が選択的に吸着される。
【0028】
この吸着層120は5層構造であるが、4層以下であっても、6層以上であってもよい。ただし、サンプリングする対象(標的)となる分子を適当な多孔質層に選択的に吸着させて、濃縮するためには、その前後(上下)に、標的となる分子が透過する孔径の多孔質層と標的となる分子が透過しない孔径の多孔質層とを配置することが好ましい。したがって、吸着層120は、中心孔径が異なる少なくとも3つの多孔質層により構成され、それらの多孔質層が、サンプリング側18から中心孔径の大きな順番に積層されていることが望ましい。
【0029】
各多孔質層121〜125の材質は共通していてもよく、異なっていてもよい。多孔質層(多孔質膜)121〜125の一例は、多孔質ガラス、ゼオライト(モレキュラシーブ、モレキュラーシーブス)である。ゼオライトは、0.1〜数nm程度の比較的精度のよい多孔を備えた多孔質層を提供できる。多孔質ガラスは、1〜数100nm程度の比較的精度のよい多孔を備えた多孔質層を提供できる。多孔質層は、さらに、適当な素材で十分な透過率を備えたポリマーシート、たとえばテフロン(登録商標)シートなどであってもよい。
【0030】
各多孔質層121〜125の厚みは、1μm〜5mm程度であることが望ましく、1μm〜1mm程度であることがさらに望ましく、5〜500μm程度であることがいっそう好ましい。各多孔質層の厚みは、特に限定されないが、薄いと吸着面積の確保が難しくなり、厚すぎると多孔の加工などの製造費用が過大になる。また、厚すぎると、吸着層120の剛性が高くなり過ぎるので皮膚に装着したときのフィット感が低減する。
【0031】
吸着層120を支持するベース(ベース層)110は、サンプリング側18から、流量制御層112と、吸引層115とを含む。流量制御層112は吸着層120と空気が流通する程度のバッファ(隙間)111を開けて配置された基本的には不透過層であり、たとえば、金属薄膜層である。流量制御層112には、断続的に微細な開口113が設けられている。この開口113は、たとえば、MEMSなどにより形成されており、通過する流量が精度よく制御できるようになっている。開口113は、酸素および窒素などの空気の主成分の分子が滞らずに通過する程度のサイズが好ましく、たとえば、直径が0.4nm程度以上のサイズであることが望ましい。一方、開口113はトラップを目的としないので、流量制御が可能であれば特に上限はない。しかしながら、流量制御を考慮すると、開口113は、1〜10nm程度であることが望ましい。
【0032】
吸引層115は、流量制御層112に制御された流量で、吸着層120を通して酸素および窒素の少なくともいずれかを吸引する力を発生させる層(バッファ、領域、空間)である。このサンプラー100においては、吸引層115は、予め負圧にされた低圧力室であり、気圧差(圧力差)により制御された流量で吸着層120を介して、酸素および窒素を含む空気を吸引する。
【0033】
体臭の成分である化学物質は、サンプラー100の表面(サンプリング側の面)には吸着するが、吸着層120の内部にはブラウン運動などの自発的な動きでは侵入しにくい。したがって、このサンプラー100においては、吸引層115を設け、強制的、しかしながら制御された流量で空気を吸着層120の内部に吸引し、それとともに化学物質を吸着層120の内部に導くようにしている。吸着層120は、上述したように、多孔質層の多層構造であり、吸着層120の内部の吸着面積は、吸着層120のサンプリング側18の表面129の表面積に比較すると非常に大きい。したがって、生体由来の化学物質を吸着層120の内部に導くことにより、多量の化学物質を吸着でき、生体由来の化学物質を吸着層120の所定の層121〜125に濃縮できる。
【0034】
図4は、サンプラー100により生体由来の化学物質201〜203をサンプリングしている様子を模式的に示している。吸引層115は予め負圧にされており、吸着層120のサンプリング側18の表面129は不透過性のシート、たとえば、金属シート(不図示)により覆われている。したがって、まず、金属シートを剥がしたのち、図1で説明したのと同様の方法により、サンプラー100のサンプリング側18を皮膚に向けて人体などに装着する。吸着層120は、中心孔径の異なる多孔質層121〜125を含むので、比較的サイズ(直径または長さ)の大きなタンパク質などの化学物質201は、上層、たとえば最上層121または第2層122で吸着される。芳香族化合物などの中間のサイズの化学物質202は第3層123または第4層124で吸着される。酸素、窒素、二酸化炭素などのサイズの小さな化学物質は、第5層125で吸着されるか、または、第5層125を透過して、吸引層115に吸引される。
【0035】
体臭は時間とともに変化することがあり、疾病を判断する要素となる化学物質などの吸引対象の化学物質が常に放出されているとは限らない。したがって、流量制御層112は、吸引層115に起因する吸引力を数分から数時間程度維持できるように、開口113を通過する流量を調整する。吸引時間が不足する場合は、吸引層115に外部のバキュームタンクを装着したり、バキュームポンプを装着したりすることも可能である。
【0036】
また、このサンプラー100においては、吸引層115と流量制御層112により、サンプリング時間が制御される。すなわち、吸引層115による吸引力が終了するまでがサンプリング時間であり、サンプラー100のサンプリング時間を自動的に一定に制御することが可能となる。このため、患者などのサンプラー100を装着する者が、サンプリング時間を管理する必要がなくなり、手軽に人体などの生体からの化学物質を、精度よく採取できる。
【0037】
図5は、サンプラー100にサンプリングした生体由来の化学物質201〜203を放出している状態を示している。図2に示した分析システムのチャンバー51にセットした状態である。サンプリングが終了すると吸引層115は、空気で満たされている状態になる。サンプラー100の非サンプリング側(裏面)19をヒーター58により加熱(加温)することにより、吸引層115内部の空気が膨張する。吸引層115から空気が流量制御層112を通って吸着層120に流れだし、吸着層120に吸着されていた化学物質201〜203をサンプラー100の外に押し出す。
【0038】
図6は、サンプラー100にサンプリングされた化学物質を放出する異なる方法を示している。この例では、チャンバー51にセットする前に、吸着層120の最上層121および第2層122を取り除いている。したがって、チャンバー51の内部でサンプラー100を加熱しても、最上層121および第2層122にキャッチされた比較的分子量の大きな化学物質201は放出されず、このサンプラー100のサンプリング対象である中程度の分子量(中程度のサイズ)の化学物質202が放出される。したがって、分析システム50では、サンプラー100のサンプリング対象である芳香族化合物などの体臭の要因となる化学物質を主に分析することが可能となる。このため、分析時間を短縮でき、分析精度を向上できる。
【0039】
図7に、さらに異なるサンプリング装置の例を示している。このサンプリング装置(サンプラー)101の基本的な構成は、上述したサンプラー100と同様であり、多層の多孔質層121〜125を含む吸着層120と、ベース(支持層)110とを含む。ベース110は、流量制御層112と、吸引層115とを含み、吸引層115は、酸素および/または窒素を吸着するように設計された吸引用のモレキュラシーブ(ゼオライト)層130を含む。たとえば、窒素吸着用のモレキュラシーブとしては、LiLSX型(Li・LowSilica・X型)で孔径が0.3〜0.4nmのゼオライトなどが公知である。吸引用のモレキュラシーブ層130は、上部の吸着層120によりサンプリングする対象となる化学物質(分子)は吸着されているので、酸素および/または窒素に対する選択性がほとんど要求されず、空気中に含まれる気体に対する吸着力が高いものであればよい。したがって、ゼオライト(モレキュラシーブ)に限らず、活性炭などの他の吸着物質を用いた層であってもよい。
【0040】
また、吸引層115は、吸引用の吸着剤の層130の代わりに、あるいはそれとともに、酸素および/または窒素と化学反応し、酸素および/または窒素を消費する反応層であってもよい。酸素を消費する層としては鉄などの酸化しやすい金属を主成分とする酸化反応層が挙げられる。窒素を消費する層としては、窒化物を形成する層を挙げることができ、たとえば、フラーレンなどを触媒としたアンモニア製造プロセスを自律的に行う層が知られている。
【0041】
図8に、サンプラー101にサンプリングされた化学物質を放出する方法の一例を示している。この例では、チャンバー51にセットする前に、吸着層120からベース110を取り除いている。したがって、チャンバー51の内部でサンプラー101を加熱しても、ベース110に吸引された成分は放出されない。したがって、分析システム50では、サンプラー101のサンプリング対象である芳香族化合物などの体臭の要因となる化学物質を主に分析することが可能となる。このため、分析時間を短縮でき、分析精度を向上できる。
【0042】
図9に、女性用の下着にサンプラー10、100または101(以降では10)を装着した様子を示している。下着、たとえばブラジャー300にサンプラー10を取り付け、サンプラー10のサンプリング側18が乳頭またはその近傍の皮膚に面するように装着することにより、乳頭近傍から放出される生体由来の化学物質をサンプリングできる。乳がんを発症すると、匂いを伴う化学物質(マーカー)が放出されることが知られている。したがって、マーカー物質をサンプラー10でサンプリングし、分析システム50で分析することにより、乳がんの有無を簡単に、また精度よく判断できる可能性がある。また、サンプラー10を含むブラジャー300を、短時間、たとえば、数分から数時間にわたり装着するだけで乳がんの有無を精度よく判断できるようにすることにより、人体の負担を軽減できるという効果も得られる。
【0043】
人間や動物の呼気、咽喉、その他患部周辺の皮膚呼吸に含まれる化学物質(化学成分、分子、組成)を分析システムにより直に測定しようとすると、一定のサンプル流量を維持しなければならないという問題や、長時間、たとえば、24時間にわたる連続測定が難しいという問題がある。特に、ペット等の動物の場合は、大人しく分析システムに繋げていることは困難である。また、分析システムそのものを人体や動物の体に取り付けることも、現状では難しい。
【0044】
さらに、人間や動物の呼気、咽喉、その他の患部周辺の皮膚呼吸に含まれる化学物質は、極めて微量であり、正確な測定が難しいという問題もある。しかしながら、FAIMSセンサーなどのように、ppb、pptオーダーあるいはそれ以下の極めて高い精度で超微量の化学物質を特定することや分析することが可能になりつつあり、癌やその他の疾病により発生するマーカー物質と呼ばれる化学物質を特定することで、病気の初期状態や疾病の進行状態が判明するようになってきている。したがって、上記に開示したサンプラー10は、そのような超微量の生体由来の化学物質をサンプリングするのに好適である。
【0045】
たとえば、GC−MS(ガスクロマトグラフィーおよび質量分析法)により化学物質分析を行う場合、数ppm〜数ppbがその検出濃度範囲となる。サブppb以下になると、濃縮しないと、対象となる化学物質の検出が困難になる。極低濃度の化学物質検出を行う際に、SPME(Solid Phase Micro Extraction)と呼ばれる固相マイクロ抽出法が利用可能である。液体試料・固体試料・気体試料から目的とする化学物質を選択的に抽出して、GC−MSによる高感度検出を実現するものである。但し、サンプル量は少なくとも100μリットル以上は必要であり、抽出時間が10〜30分程度必要となる。また、複数のマーカー物質を検出しようとすると複数のSPMEを準備する必要がある。さらに、正確な定量分析値を保証しようとすると、サンプリング誤差の影響を少なくする必要があり、相当数の測定回数が必要となる。特に、皮膚呼吸や腔内口臭・唾液等から癌等の疾病を特定しようとすると、検体やサンプリング媒体からの2次抽出等による誤差の問題やサンプリング時間の問題など、解決すべき課題も多い。たとえば、患者が、正確にサンプリング時間を制御しようとする場合、トラップされるマーカー物質の量が変化することがあり、それが誤差となりえる。また、癌検出や疾病のGC−MS分析や判定処理を考えると、判断に数十時間を必要する。
【0046】
これに対し、このサンプリング装置は、たとえば、多孔質ガラスを用いたものはPGAS(Porous Glass Auto Sampling)と称され、多孔質の直径の異なる粒状のポーラスガラスを多層化して重ねて配置して、検体を流量と時間とが一定なるように制御してトラップする。ポーラスガラスの多孔質径は、検出する癌や疾病のマーカー物質のトラップ目的に応じて、多層化する種類を変更できる。また、流量制御は、流量制御層の負圧を制御する開口の径を選択して時間を制御する方式を採用できる。負圧側と流量制御の径を選択することで、数十秒〜数時間まで、検査目的に応じ、サンプリング時間を正確に制御できる。化学物質をトラップする方法は、ポーラスガラスで無くともよい。ただし、吸着剤としては、耐化学物質反応性や長時間保存性、また、測定分析を開始した場合のマーカー物質の短時間での選択的トラップ性や逆に温度を掛けた場合のリリース能力を含めて、応答性能が良い材質を選択する必要がある。ポーラスガラスは、その意味で、非常に優れており必要性能の特性を備えている。
【0047】
なお、上記では、人体や動物の体に装着するサンプラーを例に説明したが、サンプラー(サンプリング装置)は、皮膚に限らず、呼気に当てて呼気に含まれている化学物質をサンプリングしてもよい。また、生体由来の化学物質に限らず、コンテナ内や部屋内などに含まれる化学物質をサンプリングすることも可能である。このサンプリング装置を用いることにより、簡単に化学物質を高濃度化でき、また、センサーシステム(分析システム)とは別に、異なる時間、異なる場所で、化学物質をサンプリングすることができる。したがって、このサンプリング方式は、採集の時間的、場所的な制限を外し、濃度の制限を外し、サンプリングの可能性を拡大する。さらに、このサンプリング装置は、化学物質に限らず、細菌、ウィルス、細胞をキャプチャリングすることができる。また、吸着層の材質、微細孔のサイズなどを変えることにより、採取する対象に対する選択的な能力を与えることが可能である。
図1
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図9