特許第5894174号(P5894174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894174
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】グルカゴンを含む新規組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/26 20060101AFI20160310BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160310BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20160310BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160310BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20160310BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20160310BHJP
   C07K 14/605 20060101ALN20160310BHJP
【FI】
   A61K37/28ZNA
   A61K9/08
   A61K47/18
   A61K47/10
   A61K47/22
   A61K47/26
   A61K47/12
   A61K47/20
   A61P3/10
   A61M5/28
   A61M5/142
   !C07K14/605
【請求項の数】17
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-537210(P2013-537210)
(86)(22)【出願日】2011年11月3日
(65)【公表番号】特表2014-501707(P2014-501707A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】GB2011052139
(87)【国際公開番号】WO2012059762
(87)【国際公開日】20120510
【審査請求日】2014年10月20日
(31)【優先権主張番号】61/503,104
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/503,178
(32)【優先日】2011年6月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/409,785
(32)【優先日】2010年11月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/409,723
(32)【優先日】2010年11月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510288895
【氏名又は名称】アレコー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ジェゼック,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】デラム,バリー キングストン
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第01202607(GB,A)
【文献】 特開昭61−221125(JP,A)
【文献】 特表2003−526599(JP,A)
【文献】 特開2007−204498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
WPI
EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4〜7のpHを有し、
(i)0.05%w/v〜0.5%w/vの濃度のグルカゴン、ならびに
(ii)グルカゴンを溶液に溶解するのに充分な量の可溶化剤としてのベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩から選択される陽イオン性界面活性剤
を含み、ポリオールである荷電していない張度改変剤をさらに含む、水溶液組成物であって、
前記組成物中のグルカゴンおよび前記陽イオン性界面活性剤由来のもの以外の荷電した種の全濃度が、150mM未満である、水溶液組成物。
【請求項2】
前記陽イオン性界面活性剤が塩化ベンゼトニウムなどのベンゼトニウム塩から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記陽イオン性界面活性剤が塩化ベンザルコニウムなどのベンザルコニウム塩から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記陽イオン性界面活性剤の濃度が0.05〜0.20%w/vである、請求項1〜3いずれか記載の組成物。
【請求項5】
1〜50mMの濃度のフェノールをさらに含む、請求項1〜4いずれか記載の組成物。
【請求項6】
0.1〜0.2%w/vの濃度のグルカゴンを含む、請求項1〜5いずれか記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物中のグルカゴンおよび前記陽イオン性界面活性剤由来のもの以外の荷電した種の全濃度が、50mM未満である、請求項1〜6いずれか記載の組成物。
【請求項8】
非イオン性界面活性剤を実質的に含まない、請求項1〜7いずれか記載の組成物。
【請求項9】
ベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩から選択される陽イオン性界面活性剤とは別の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤および両イオン性界面活性剤などのイオン性界面活性剤を実質的に含まない、請求項1〜8いずれか記載の組成物。
【請求項10】
前記荷電していない張度改変剤は、糖または糖アルコールポリオールである、請求項1〜9いずれか記載の組成物。
【請求項11】
前記荷電していない張度改変剤は、1,2-プロパンジオール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、スクロース、ラフィノースおよびトレハロースから選択されるポリオールである、請求項1〜9いずれか記載の組成物。
【請求項12】
前記荷電していない張度改変剤は、マンニトールもしくはトレハロースまたはそれらの混合物である、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
バッファとして酢酸塩を含む、請求項1〜12いずれか記載の組成物。
【請求項14】
酸化防止剤としてのメチオニンをさらに含む、請求項1〜13いずれか記載の組成物。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか記載の組成物の単位用量を含む容器。
【請求項16】
注射装置および注射される請求項1〜14いずれか記載の組成物の単位用量を含む容器を含む、筋内投与、皮下投与または非経口投与のための単回使用注射器。
【請求項17】
注射または注入される請求項1〜14いずれか記載の組成物の単位用量を含みかつ針と流体連絡している容器を含む、ポンプデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴンの製剤、および治療、特に低血糖からの救出におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
グルカゴンは、膵臓のランゲルハンス島のα細胞により分泌されるポリペプチドホルモンである。天然の形態では、グルカゴンは、29アミノ酸残基の一本鎖ポリペプチドであり、その配列は、Merck Index、第10版(1983)により提供される。
【0003】
生理学的に、グルカゴンは、血糖レベルの調節に重要な役割を果たし、糖原分解(glycogenolyic)効果および糖生成効果に関与する。肝臓に対するその糖原分解効果のために、グルカゴンは、糖尿病における過度なインスリン治療により生じるものなどの急性低血糖の確立された治療となっている。また、グルカゴンは、例えば画像化手法において、治療または診断目的でも研究され得る、平滑筋に対する鎮静効果を発揮することが知られている。
【0004】
注射のためのグルカゴン組成物は、現在では、投与の少し前に、2〜3のpHで水性媒体を用いて再構成するための凍結乾燥粉末の形態で販売されている。グルカゴンを、即座の投与の準備ができた水溶液または水性ゲルなどの水性調製物の形態で提供できれば、緊急の事態にかなり都合がいい。不運にも、かかる製剤を開発するためのこれまでの試みは、グルカゴンの可溶性の欠如および不安定性のために失敗している。凝集、小繊維形成およびゲル形成などの多くの安定性の側面は、水溶液中のグルカゴンに影響を及ぼす。また、グルカゴンは、特にpH4以下およびpH7以上でグルタミン残基の脱アミド化を起こす。グルカゴンの溶解性は一般的に、非常に低いpH(pH<3)で向上される。しかしながら、かかる酸性組成物中では、加水分解プロセスがグルカゴンの安定性に影響を及ぼし、かかる製剤はまた、注射の際により大きな苦痛を引き起こす。
【0005】
しかしながら、従来技術において、グルカゴンの種々の水性製剤が提唱されている。
【0006】
GB1202607には、安定化量および可溶化量の界面活性剤とともに、1mlあたり0.1〜5mgの量のグルカゴンを含む、安定な注射用グルカゴン水溶液が特許請求される。陰イオン性界面活性剤および陽イオン性界面活性剤は潜在的に適していると記載されており、とりわけ陽イオン性界面活性剤、少なくとも1つの置換基が少なくとも6個の炭素原子、好ましくは12〜20個の炭素原子を有する脂肪族鎖である第4級アンモニウム塩基、特にセトリミド(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)が好ましい。
【0007】
WO99/47160には、安定化量および可溶化量の少なくとも2個の正電荷、少なくとも2個の負電荷または少なくとも1個の正電荷と1個の負電荷の組み合わせを有する界面活性剤を含むグルカゴン水溶液が特許請求され、ここで該ペプチドは、少なくとも約0.1mg/mlの濃度で存在するが、ただし界面活性剤はドデシルホスホコリンではない。
【0008】
EP199992A1 (Eisai)には、プラスチックまたはガラスへのペプチド吸着を予防するためのペプチド組成物における塩化ベンゼトニウムおよび塩化ベンザルコニウムの使用が記載される。明細書区分中の非常に一般的な用語の文脈においてグルカゴンが言及されるが、グルカゴンを用いた作業実施例はない。
【0009】
WO2011049713A2 (Biodel)には、界面活性剤、単糖類または二糖類を含む安定化されたグルカゴン製剤が開示され、ここで界面活性剤および糖類は、グルカゴンを安定化するのに有効な量であり、浸透圧は約200〜400mOsであり、pHは2〜8である。
【0010】
本発明者らが気付いたかぎりでは、これらの製剤はいずれも市場へは到達しなかった。
【発明の概要】
【0011】
ここで、本発明者らは、従来技術の製剤の欠点のいくつかまたは全部を排除または緩和するための新規のグルカゴン製剤を発明した。
【0012】
本発明の目的は、保存における期間にわたり、または患者による持ち運びの際に適度に安定な、緊急の使用の準備が整えられたグルカゴンの製剤を提供することである。本発明の別の目的は、保存の期間にわたり適度に安定であり、低血糖の予防またはそうでなければ、インスリンもしくはインスリンのアナログでの治療を受けている患者に投与された場合は糖尿病の効果的な調節に使用されるグルカゴンの製剤を提供することである。
【0013】
発明の概要
したがって、本発明によると、(i)0.05%w/v以上の濃度のグルカゴンならびに(ii)グルカゴンを組成物中に溶解するのに充分な量の可溶化剤として、ベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩から選択される陽イオン性界面活性剤を含む、4〜7のpHを有する水性組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、グルカゴン/ベンゼトニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンゼトニウムの濃度は0.05% (w/v)であった。
図2図2は、グルカゴン/ベンザルコニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンザルコニウムの濃度は0.05%(w/v)であった。
図3図3は、グルカゴン/ベンゼトニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンゼトニウムの濃度は0.025%(w/v)であった。
図4図4は、グルカゴン/ベンザルコニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンザルコニウムの濃度は0.025%(w/v)であった。
図5図5は、グルカゴン/ベンゼトニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンゼトニウムの濃度は0.01%(w/v)であった。
図6図6は、グルカゴン/ベンザルコニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンザルコニウムの濃度は0.01%(w/v)であった。
図7図7は、グルカゴン/ベンゼトニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンゼトニウムの濃度は0.005%(w/v)であった。
図8図8は、グルカゴン/ベンザルコニウム溶液と溶液A〜Fを混合して作製された水性組成物の濁度(405nm)である。塩化ベンザルコニウムの濃度は0.005%(w/v)であった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
本明細書で使用する場合、「グルカゴン」は、配列番号:1に記載される29アミノ酸のポリペプチドまたはグルカゴン活性、具体的には抗低血糖活性(anti-hypoglycaemic activity)を有するアナログポリペプチドもしくはバリアントポリペプチドを意味する。具体的なバリアントとしては、少数(例えば1、2または3個)のアミノ酸置換、特に配列番号:1の配列に対して保存的置換を有するポリペプチドが挙げられる。また、アナログとしては、配列番号:1または前述のバリアント配列を含むポリペプチドが挙げられる。例えば、アナログとしては、N末端伸長および/またはC末端伸長、典型的には例えば10アミノ酸まで(例えば5アミノ酸まで)のN末端および/またはC末端での短い伸長を有する配列番号:1または前述のバリアント配列からなるポリペプチドが挙げられる。アナログとしてはまた、1つ以上のPEG部分の(例えばグルカゴンのアミノ酸位置21および24の1つ以上での)ポリペプチドへの付加、または1つ以上のアミノ酸(例えばグルカゴンの位置10でのアミノ酸)のアシル化もしくはアルキル化による脂肪酸部分(例えばC4〜C30脂肪酸)の付加を含む誘導体などの、作用または血液滞留(blood residency)の持続時間を延長するように設計された誘導体などの前述のポリペプチドのいずれかの誘導体が挙げられる。さらなるアナログは、例えばグルカゴンの1つ、2つ、3つまたは4つの位置16、20、21および24でのα,α-ジスルフィド化アミノ酸、例えばアミノイソ酪酸の組み込みを含み得る。
【0016】
例示的なグルカゴンアナログは、WO2010/011439、WO2009/155257、WO2009/155258、WO2009/099763、WO2009/058734、WO2009/058662、WO2008/101017、WO2008/086086およびWO2007/056362(その全ては全体において参照により本明細書に援用される)に記載される。
【0017】
一態様において、製剤に使用されるグルカゴンは、配列番号:1の配列を有する。
【0018】
アミノ酸の保存的置換は、同様の側鎖を有する残基の交換可能性のことをいう。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の一群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンであり、脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の一群は、セリンおよびトレオニンであり、アミド含有側鎖を有するアミノ酸の一群は、アスパラギンおよびグルタミンであり、芳香族側鎖を有するアミノ酸の一群は、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンであり、塩基性側鎖を有するアミノ酸の一群は、リジン、アルギニンおよびヒスチジンであり、酸性側鎖を有するアミノ酸の一群は、アスパラギン酸およびグルタミン酸であり、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の一群は、システインおよびメチオニンである。これらの群内の置換が保存的とみなされ得る。例示的な保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン/イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。
【0019】
組成物のpHは、適切には4.5〜6.5、例えば5〜6または4.5〜5.5である。好ましくは、pHは約pH5.5である。かかるpHの組成物は、典型的に、注射のために苦痛がなく、グルカゴンの適切な化学的安定性を有する。
【0020】
グルカゴンの濃度は、適切には0.05〜0.5%w/v(0.5〜5mg/mlと同等)の範囲であり得る。グルカゴンの濃度は、適切には0.1〜0.5%w/v、例えば0.1〜0.2%w/vの範囲であり得る。
【0021】
一態様において、陽イオン性界面活性剤は、ベンゼトニウム塩、例えばハロゲン化ベンゼトニウム、特に塩化物から選択される。別の態様において、陽イオン性界面活性剤は、ベンザルコニウム塩、例えばハロゲン化ベンザルコニウム、特に塩化物から選択される。
【0022】
例えば、ベンザルコニウム塩の濃度(塩化ベンザルコニウムに基づくが、別のアニオンの使用のためになされる修正に対応する)は、0.001%〜0.05%w/v、例えば0.01%〜0.05%w/v(例えば0.01%〜0.025%w/vなどの0.01%〜0.03%w/v)または0.005〜0.015%w/vであり得る。可能性のある関心の別の範囲は、0.05%〜0.20%w/v、例えば0.10%〜0.20、特に0.10%〜0.15%w/vまたは(より好ましくはないが(less preferred))0.15%〜0.20%である。
【0023】
例えば、ベンゼトニウム塩(塩化ベンゼトニウムに基づくが、別のアニオンの使用のためになされる修正に対応する)の濃度は、0.001%〜0.05%w/v、例えば0.01%〜0.05%w/v(例えば0.01%〜0.025%w/vなどの0.01%〜0.03%w/v)または0.005〜0.015%w/vであり得る。可能性のある関心の別の範囲は、0.05%〜0.20%w/v、例えば0.10%〜0.15%w/vである。別の可能性は、0.05%〜0.10%w/vまたは0.15〜0.20%w/vである。
【0024】
組成物は、ベンゼトニウム塩およびベンザルコニウム塩の混合物を含み得る。合わされた界面活性剤の濃度は、かかる場合においては適切に、0.001%〜0.05%w/v、例えば0.01%〜0.05%w/vまたは0.005〜0.015%w/vであり得る。可能性のある関心の別の範囲は、0.05%〜0.20%w/v、例えば0.10%〜0.15%w/vである。
【0025】
溶液の場合において、ベンザルコニウム塩またはベンゼトニウム塩の適切な濃度は、0.05〜0.20%w/v、例えば0.15〜0.20%w/vであると思われる。
【0026】
ゲルの場合において、ベンザルコニウム塩またはベンゼトニウム塩の適切な濃度は、0.001〜0.05%w/v、例えば0.01〜0.05%w/v、例えば0.01〜0.03%w/vであると思われる。
【0027】
適切には、該組成物は、w/vで表されるグルカゴン/界面活性剤の濃度の比が5/1より高い、例えば7/1より高い、例えば10/1より高いまたは25/1より高いまたは50/1より高い量の前記陽イオン性界面活性剤を含む。
【0028】
一態様において、水性組成物は溶液である。
【0029】
適切には、溶液である本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物は、2〜8℃、例えば4℃で少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年間の保存の間に透明な溶液のままである。これは、可視的な沈殿、小繊維形成またはゲル形成の兆候が保存の間に観察され得ないことを意味する。適切には、本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物は、25℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月、より好ましくは少なくとも1年間の保存の間に透明な溶液のままである。これは、可視的な沈殿、小繊維形成またはゲル形成の兆候が保存の間に観察され得ないことを意味する。
【0030】
したがって、適切には、該溶液は、低粘度(例えば25℃で20cP未満の粘度率(dynamic viscosity))の透明な溶液である。
【0031】
別の態様において、水性組成物はゲル、特に透明なゲルである。
【0032】
適切には、ゲルである本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物は、2〜8℃、例えば4℃で少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年間の保存の間に透明なゲルのままである。これは、可視的な沈殿または小繊維形成の兆候が保存の間に観察され得ないことを意味する。適切には、本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物は、25℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月、より好ましくは少なくとも1年間の保存の間に透明なゲルのままである。これは、可視的な沈殿または小繊維形成の兆候が保存の間に観察され得ないことを意味する。
【0033】
組成物が液体(溶液)であるかゲルであるかに関係なく、適切には、本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物中の化学的に関係のある種、例えば脱アミド化種または酸化種の割合は、2〜8℃、例えば4℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも1年、より好ましくは少なくとも2年間の保存の間に、25%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満で維持される。脱アミド化種の形成を最小化するために、組成物がゲルであることが好ましくあり得る。
【0034】
理論に拘束されないが、明らかに、本発明の溶液組成物と比較してゲル組成物の特徴である脱アミド化の速度の低減は、物理的状態におけるグルカゴン分子の移動性の低減に寄与し得るので、それによりグルタミン残基およびアスパラギン残基と周囲の水分子の反応により脱アミド化する組成物の傾向が低減される。
【0035】
適切には、本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成中の化学的に関連のある種、例えば脱アミド化種または酸化種の形成は、25℃で少なくとも3ヶ月、好ましくは少なくとも1年間の保存の間に、25%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満で維持される。脱アミド化種の形成を最小化するためには、組成物がゲルであることが好ましくあり得る。
【0036】
40℃での増進された安定性試験を行うことにより、組成物を試験することが都合よくあり得る。適切には、本発明のベンゼトニウム塩またはベンザルコニウム塩の存在下のグルカゴンの水性組成物中の化学的に関連のある種、例えば脱アミド化種または酸化種の形成は、40℃で少なくとも2ヶ月、好ましくは少なくとも6ヶ月の保存の間に、25%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満に維持される。
【0037】
適切には、組成物中の荷電した種の全濃度は低い。本発明の文脈において、荷電した種は、組成物の状況下で少なくとも1つの電荷、例えばナトリウムカチオン(Na+)、塩化物アニオン(Cl-)またはヒスチジンなどのアミノ酸を保有する化学実体として定義される。適切には、組成物中のグルカゴンおよび陽イオン性界面活性剤由来のもの以外の荷電した種の全濃度は、200mM未満、例えば150mM未満、例えば100mM未満、例えば50mM未満、例えば25mM未満である。発明者らの経験において、これは、グルカゴンを可溶化しながら溶液中のその安定性を維持またはさらには向上させるためにより低い濃度の陽イオン性界面活性剤が使用されることを可能にする。
【0038】
一態様において、組成物は実質的に、1より高い電荷を有する(グルカゴンとは別の)イオン性種を含まない。例えば、組成物は実質的に、2、3、4以上の電荷を有する(グルカゴンとは別の)イオン性種を含まない。
【0039】
適切には、組成物は実質的に、Tween 80、Tween 20およびPluronic界面活性などの非イオン性界面活性剤を含まない。
【0040】
適切には、組成物は実質的に、ベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩から選択される陽イオン性界面活性剤とは別の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤および両イオン性界面活性剤などのイオン性界面活性剤を含まない。例えば、適切には、組成物は実質的に、SDS、デオキシコール酸、コール酸、ステアリン酸、ホスファチジルコリン、CHAPSおよびセトリミドから選択される界面活性剤を含まない。
【0041】
この文脈において、「実質的に含まない」は、前記イオン性種または非イオン性界面活性剤またはイオン性界面活性剤が、1mM未満、例えば0.1mM未満、例えば0.01mM未満の濃度で存在することを意味する。
【0042】
適切には、組成物はほぼ等浸透圧である。「ほぼ等浸透圧」は、約130〜170mM NaCl、特に約150mM NaClの張度と同等の張度を意味する。適切には、組成物の張度は、荷電していない張度改変剤を含むことにより維持される。例示的な荷電していない張度改変剤としては、例えば1,2-プロパンジオール(propanedol)、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール、スクロース、ラフィノースおよびトレハロース、特に1,2-プロパンジオールまたはマンニトールから選択される糖および糖アルコールなどのポリオールが挙げられる。別の適切な例はトレハロースである。組成物の浸透圧が、150〜500mOsm/l、好ましくは250〜350mOsm/lの範囲であることが望ましいが必須ではない。含まれる場合、張度改変剤は、典型的に、100〜300mM、例えば150〜300mMなどの50〜500mMの濃度で添加される。例えば、1,2-プロパンジオールまたはマンニトールは、100〜300mM、例えば150〜300mMなどの約50〜300mMの濃度で添加され得る。別の例において、トレハロースは、100〜300mM、例えば150〜300mMなどの約50〜500mMの濃度で添加され得る。好ましくは、荷電していない張度改変剤は、マンニトールまたはトレハロース(またはそれらの混合物)、特にマンニトールである。
【0043】
適切には、本発明の組成物(すなわち溶液、ゲル)は、組成物のpHを安定化するためのバッファを含む。
【0044】
バッファは、タンパク質の安定性を高めるためにも選択され得る。一態様において、バッファは組成物のpHに近いpKaを有するように選択され、例えば組成物のpHが2〜10mM、例えば約5mMの濃度などの1〜20mM濃度で、4.5〜5.5の範囲にある場合に、バッファとして酢酸塩が適切に使用される。代替的に、別の態様において、本発明の組成物は、さらに、タンパク質および1つ以上の添加剤を含む組成物を開示するWO2008/084237に開示されるように安定化され、該系は実質的に、従来のバッファ、すなわち組成物の保存の意図される温度範囲で、組成物のpHの1単位以内のpKaを有する組成物を含まないことを特徴とする。この態様において、組成物のpHは、pHに関して組成物が最大の測定可能な安定性を有する値に設定され、1つ以上の添加剤(置換バッファ(displaced buffers))は、プロトンをタンパク質と交換し得、組成物の保存の意図される温度範囲で組成物のpHより少なくとも1単位高いかまたは低いpKa値を有する。タンパク質を、従来のバッファの非存在下で、測定可能な安定性が最大である値またはその付近の適切なpHに維持することにより、タンパク質の保存安定性は、実質的に増加され得る。ある態様において、保存安定性は一般的に、可能な限り実質的に、例えば25℃または2〜8℃、例えば4℃での組成物の保存の意図される温度範囲で、水性組成物のpHの1〜5pH単位、好ましくは1〜3pH単位、最も好ましくは1.5〜2.5pH単位のpKaを有する添加剤の使用によりさらに高められ得る。
【0045】
しかしながら、任意のバッファの濃度は、適切には、組成物中の荷電したイオン性種の濃度が低く維持され、最も適切には上記の範囲内になるようなものである。
【0046】
本発明の組成物(すなわち溶液、ゲル)はまた、グルカゴン由来の酸化種の形成を最小化するために、酸化防止剤を含み得る。例えば、酸化防止剤はメチオニンまたはグルタチオンであり、例えば5mMまで、例えば0.01〜5mMの濃度で使用される。別の例において、ブチル化ヒドロキシトルエンが、例えば5mMまで、例えば0.01〜5mMの濃度で使用され得る。
【0047】
本発明の溶液はまた、グルカゴンの可溶化をさらに補助および維持するために、フェノールを含み得る。フェノールの量は、50mMまで、例えば5〜30mM、例えば5mMまたは15mMまたは30mMなどの1〜50mMであり得る。
【0048】
構想され得る特定の態様は、約5.5のpHを有し、グルカゴン、陽イオン性界面活性剤として塩化ベンゼトニウム、張度改変剤としてマンニトールおよびバッファとして酢酸塩を含む本発明の組成物である。酸化防止剤としてのメチオニンおよび/またはフェノールをさらに含むかかる組成物も提供される。
【0049】
本発明のさらなる局面によると、本発明に記載されるように、組成物中のグルカゴンのための可溶化剤として、ベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩から選択される陽イオン性界面活性剤の使用が提供される。
【0050】
低血糖に苦しむ被験体に治療有効量の本明細書に記載される組成物を投与することを含む、低血糖の治療の方法も提供される。医薬としての使用、特に低血糖の治療における使用のための本明細書に記載される組成物も提供される。例えば、低血糖の前記治療は、緊急設定における治療である。代替的に、本明細書に記載される組成物は、低血糖の予防、またはそうでなければ、例えばWO2004/060837A1 (Diobex)およびWO2006/004696A2 (Diobex)(両方は、その全体において参照により本明細書に援用される)に開示されるようなインスリンもしくはインスリンのアナログを用いた治療も受けている患者に投与される場合の糖尿病の効果的な調節において使用される。
【0051】
低血糖の治療のための単回用量としての投与に適切なグルカゴンの量は、成人に対して1mgであり、児童に対して0.5mgである。低血糖の治療のための単回用量としての投与に適切な本明細書に記載される組成物の対応する体積は、成人に対して1mLであり、児童に対して0.5mLである。より低い体積、より高い濃度用量、例えば0.5mLの2mg/ml溶液も適切であり得る。本発明は、かかる量に限定されるものと考えられるべきでなく、適切な場合、本発明に従って他の用量が調製されてもよい。
【0052】
本明細書に記載される組成物の単位用量を含む容器も提供される。
【0053】
注射装置および注射されるように本明細書に記載される組成物の単位用量を含む容器を含む筋内投与、皮下投与または非経口投与のための単回使用注射器も提供される。
【0054】
例えば、グルカゴンの液体組成物は、組み立てられた(staked-in)針、不活性ゴムストッパおよびプランジャー(例えばポリプロピレンプランジャー)で構成されたシリンジ(例えば1mLシリンジ)に充填され得る。該製品を含むシリンジは、任意に、必要とされる用量の自動送達の準備ができた(シリンジの周囲に組み立てられた)自動注射器に収容され得る。
【0055】
注射または注入されるように本明細書に記載される組成物の単位用量を含み、針と流体連絡している容器を含み、そのためにかかる組成物を調節された速度で被験体に注射または注入するように適合された貼付剤ポンプまたは注入ポンプなどのポンプデバイスも提供される。
【0056】
本発明の組成物は、以下:
・必要とされる用量の再構成および調製の必要性が不要になること;
・緊急の状況に必須である必要とされる用量の迅速な投与が容易になること;
・シリンジを使用することまたは用量を完全に再構成することの問題のために介護者により誤った用量が投与されることの発生率が低減されること;
・いくつかの態様において、針が自動注射器内で完全にカバーされているために、刺傷が防がれること;ならびに
・糖尿病患者もしくは糖尿病患者の介護者により製品が運ばれ得るおよび/または使用され得る容易さが向上すること
の利点を有することが期待される。
【0057】
本発明の組成物は、本明細書に記載されるような良好な物理化学的安定性を有することが期待される。
【実施例】
【0058】
実施例1:グルカゴンの溶解性に対する界面活性剤の効果
実験の目的
グルカゴンは、pH<3および>9で水溶液に可溶性であることが公知である。pH3〜9の間の可溶性は非常に低い。この実験の目的は、pH約6でのグルカゴンの溶解性に対する種々の賦形剤、特に界面活性剤の効果を評価することであった。賦形剤は、示されるような選択された濃度で試験され、この段階では、グルカゴンの溶解性に対する賦形剤の濃度の効果を調べるための実験は行わなかった。試験した賦形剤の濃度は、グルカゴンの濃度よりも高かった。
【0059】
実験手順
約2mgのグルカゴンをガラスバイアルに量りとって、賦形剤の溶液を添加して、1mg/mlの最終グルカゴン濃度を得た。1時間まで目視による観察を行った。デオキシコール酸ナトリウム以外の全ての賦形剤は、10mMヒスチジンバッファ(pH6)を含んだ。デオキシコール酸ナトリウムは、デオキシコール酸自体がpH<7でゲルを形成するので、10mM TRIS(pH7.5)中に調製した。
【0060】
結果
グルカゴンの溶解性を以下の表に示す。
【0061】
【表1-1】

【表1-2】
【0062】
上記の表から、中性pH付近でグルカゴンを溶解し得るいくつかの賦形剤が存在することが見られ得る。これらは:
・セトリミド(陽イオン性界面活性剤)
・塩化ベンゼトニウム(陽イオン性界面活性剤)
・塩化ベンザルコニウム(陽イオン性界面活性剤)
・CHAPS(両イオン性界面活性剤)
・Tween 20(非イオン性界面活性剤)
・デオキシコール酸ナトリウム(陰イオン性界面活性剤)、pH>7.5のみ
である。
【0063】
これらの界面活性剤中のグルカゴンの安定性をRP-HPLCにより評価した。室温で5日間のインキュベーション後、陽イオン性界面活性剤(セトリミド、ベンゼトニウム、ベンザルコニウム)の存在下およびデオキシコール酸の存在下では天然形態のグルカゴンの有意な変化は観察されなかったことが示された。対照的に、天然のピークのサイズは、CHAPS(<10%まで)の場合およびTween 20(約60%まで)の場合に減少した。
【0064】
デオキシコール酸に溶解されたグルカゴンは、試料はpH7.5での調製直後は液体であったが、室温でのインキュベーション後にゲルを形成する傾向を有することも示された。pH>8での調製は、ゲル形成を最小限にした。
【0065】
この情報に基づいて、本発明者らは、さらなる評価のためにベンザルコニウム塩およびベンゼトニウム塩を選択した。
【0066】
実施例2:グルカゴンの溶解性および溶解したグルカゴンの外観に対していくつかのパラメーターの効果を調べるためのマトリックスアプローチ
実験の目的
この実験において、溶解性および外観に対する以下のパラメーター:
・界面活性剤(ベンゼトニウム塩、ベンザルコニウム塩)の性質
・界面活性剤の濃度
・pH
・イオン性種の濃度
を合わせた効果を調べた。
【0067】
実験手順
所定の濃度のグルカゴンおよび所定の濃度の陽イオン性界面活性剤を含む40個の溶液を調製した。全ての溶液は2mM酢酸塩を含み、pH5に調整された。さらなる賦形剤は存在しなかった。グルカゴンおよび陽イオン性界面活性剤の濃度を、24時間のインキュベーション後のグルカゴンの溶解性の提示と共に以下の表に示す:
【0068】
【表2】

【表2-2】
【0069】
また、以下の6個の水溶液を調製した:
【0070】
【表3】
【0071】
溶液A〜Fのそれぞれを、ステップワイズ様式で、以下のようにグルカゴン/界面活性剤溶液のそれぞれに添加した:80μlのグルカゴン/界面活性剤溶液を96ウェルプレートのウェルに入れて、A〜Fから選択した溶液を5個の別々の5μlアリコートで添加した(すなわち、25μlの全てを添加)。それぞれの5μlの添加により得られた溶液を混合して10分間平衡化させた。次いで目視での評価を行い、405nmで濁度を測定した。
【0072】
そこで、それぞれ5μlのA〜Fから選択された溶液のグルカゴン/界面活性剤溶液への添加後、特定のpHおよび濃度のさまざまな種の組成物を生成した。このように行った観察により、ある範囲の界面活性剤濃度、pHおよびイオン種の濃度を含む多くの水性組成物において、グルカゴンの溶解性および目視による外観が示される。最後の5μlの添加後、組成物は、ほぼ等浸透圧であった。それぞれ5μlの添加後の溶液成分の濃度を以下の表に示す:
【0073】
【表4-1】

【表4-2】
【0074】
結果
全ての元のグルカゴン/界面活性剤溶液は、完全に溶解して、ゲル形成の兆候を示さなかった。溶液A〜Fのステップワイズ添加の後、いくつかの組成物は、沈殿および/またはゲル形成の兆候を示した。結果を表1〜8および図1〜8に示す。
【0075】
以下に示す表は、目視による評価の結果を示す:
【0076】
【表5-1】

【表5-2】
【0077】
表1に示す実験のまとめ:表1に示す目視による観察は、塩化ベンゼトニウムの存在下(実験の間にカバーされた0.038〜0.050%w/vの濃度)のグルカゴンの溶解性は、pH7.4で損なわれる(compromised)ことを示す。この観察は、高イオン強度および低イオン強度の両方の組成物で行い、より高いイオン強度の組成物が、より高い沈殿の傾向を示した。pH6、特にpH4で組成物は、かなり低い沈殿の傾向を示した。しかしながら、最良の組成物は、中心的な張度改変剤として、荷電していない成分を含み、これらは、この実験において調べられた濃度範囲を通じて透明のままであった。中心的な張度改変剤としてNaClに対応する組成物は、特に高濃度のグルカゴンの存在下でかなり高い沈殿の傾向を示した。グルカゴン沈殿は、通常、特により高いイオン強度組成物において、試料の粘度の明確な増加(ゲル形成)を伴った。
【0078】
【表6-1】

【表6-2】
【0079】
表2に記載される実験のまとめ:(ベンザルコニウムを使用した)表2から引き出され得る結論は、同じ濃度のベンゼトニウムを含む同様の組成物について上述でなされたものと非常に類似している。広い濃度範囲を通じて透明で、非粘性のグルカゴンの組成物は、pH4およびpH6で調製され得、最良の組成物では、荷電していない張度改変剤を使用した。pHおよびイオン強度の増加は、ベンザルコニウム系組成物中のグルカゴンの溶解性を減ずる。沈殿した試料の多くでゲル形成も観察され得た。
【0080】
【表7-1】

【表7-2】
【0081】
【表8-1】

【表8-2】
【0082】
【表9-1】

【表9-2】
【0083】
【表10-1】
【0084】
【表11-1】
【表11-2】
【0085】
【表12-1】

【表12-2】
【0086】
表3〜8に記載される実験のまとめ:表3〜8は、異なる開始濃度の陽イオン性界面活性剤を使用した、表1および2に記載されるものと同じ型の実験の結果を示す。これらのさらなる結果から引き出され得る結論を、上述の表1および2でなされた結論、すなわちグルカゴンの溶解性が試験した全ての陽イオン性界面活性剤の存在下のpHおよびイオン強度に依存したという結論と整列させる。pH6、特にpH4(すなわち、一般的にわずかに酸性のpH)は、pH7.4(すなわちほぼ中性のpH)より好ましい。また、荷電していない張度改変剤(例えば1,2-プロパンジオール)の使用は、特により高いグルカゴン濃度での荷電した張度改変剤(例えばNaCl)の使用よりも好ましい。陽イオン性界面活性剤の濃度の低減は、グルカゴンの溶解性の低下を生じる(例えば、表1と表7を比較してベンゼトニウム濃度の限界を理解する)。しかしながら、最も低いベンゼトニウム濃度およびベンザルコニウム濃度(0.005%w/v)を使用しても、組成物に、荷電した張度改変剤よりもむしろ荷電していない張度改変剤を使用した場合には、高い濃度においても、試験した<7.4のpH値で、透明でほぼ等浸透圧のグルカゴンの溶液を作製することが可能である(表10および11参照)。
【0087】
図面は濁度測定の結果を示す。一般的な結論は、組成物の目視による評価から引き出される結論(表1〜8)に沿っている。
【0088】
図1から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.05%w/vの塩化ベンゼトニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0089】
図2から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.05%w/vの塩化ベンザルコニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0090】
図3から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.025%w/vの塩化ベンゼトニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0091】
図4から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.025%w/vの塩化ベンザルコニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0092】
図5から、より低いpH(4および6、特に4)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.01%w/vの塩化ベンゼトニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0093】
図6から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.01%w/vの塩化ベンザルコニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。
【0094】
図7から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.005%w/vの塩化ベンゼトニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。このように低い濃度の塩化ベンゼトニウムであっても、透明で非粘性のほぼ等浸透圧のグルカゴンの組成物を、最適なpHおよびイオン強度(すなわち、わずかに酸性のpHおよび低いイオン強度)下で調製し得る。
【0095】
図8から、より低いpH(4および6)および荷電していない張度改変剤を使用することにより、0.005%w/vの塩化ベンザルコニウムの存在下で、より高いpH(7.4)での製剤および張度改変剤として塩化ナトリウムを含む製剤よりも良好なグルカゴンの溶解性が可能になることが結論付けられ得る。この濃度の塩化ベンザルコニウムであっても、透明で非粘性のほぼ等浸透圧のグルカゴンの組成物を、最適なpHおよびイオン強度(すなわち、わずかに酸性のpHおよび低いイオン強度)下で調製し得る。
【0096】
結果のまとめ
陽イオン性界面活性剤、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムの存在下のグルカゴンの溶解性は、pHに依存することが示された。別の考えは、荷電した種の存在である。溶解性は、試験した陽イオン性界面活性剤の全ての濃度(0.005%〜0.05%w/v)で、pH7.4よりもpH4〜6でかなり高い。この結論は、pH7.4での組成物とpH4および6での組成物を比較することにより、全ての表(1〜8)および全ての図(1〜8)から下すことができる。また、グルカゴンの溶解性は、荷電した種の存在下で損なわれ、この効果は特に、より高いグルカゴンの濃度で顕著である。この結論は、中心的な張度改変剤として1,2-プロパンジオールを含む組成物と、中心的な張度改変剤としてNaClに頼る組成物を比較することにより、全ての表(1〜8)および全ての図(1〜8)から下すことができる。
【0097】
実施例3:グルカゴンの溶解性に対する界面活性剤の効果のさらなる調査。
実験の目的
pH3〜9の水溶液中のグルカゴン溶解性は非常に低い。この実験の目的は、調製時および保存後の目視での評価によるpH4.5およびpH5.5でのグルカゴンの溶解性に対する界面活性剤、塩化ベンゼトニウムおよび塩化ベンザルコニウムの濃度の効果を評価することであった。単一のバッファ(5mM酢酸塩)および張度改変剤(250mMマンニトール)を含む基本的な製剤を、pH4.5またはpH5.5のいずれかで使用した。界面活性剤賦形剤は、示されるように、選択された濃度の範囲で試験した。
【0098】
実験手順
約2mgのグルカゴンをガラスバイアルに量りとり、基礎製剤の1つのうちの賦形剤の溶液を添加して、1mg/mlの最終グルカゴン濃度を得た。使用した界面活性剤の濃度は、0.01%〜0.6%w/vの範囲、具体的には0.01、0.025、0.05、0.075、0.1、0.15、0.2、0.4および0.6%w/vであった。目視による観察を時間0および14週で行った。
【0099】
結果
以下に示す表は、調製した製剤および目視による評価の結果を示す:
【0100】
【表13】
【0101】
表9に記載される実験のまとめ:表9に示される目視による観察は、全ての製剤の調製時に透明な水溶液が形成されることを示す。40℃で14週間の保存後に、0.15〜0.6%w/vの範囲の濃度の塩化ベンゼトニウムを含む調製物は、透明な水溶液のままである。この範囲の低い方の端の濃度(例えば0.15〜0.2%w/v)は、生体適合性の理由のために好ましく思われる。pHに依存して、0.01〜0.025%w/vの塩化ベンゼトニウムはまた、透明な水性ゲルの形態の有用な調製物を提供し得る。
【0102】
【表14】
【0103】
表10に記載される実験のまとめ:表10に示される目視での観察により、全ての製剤の調製時に、透明な水溶液が形成されることが示される。40℃で14週間の保存後に、0.1〜0.6%w/vの濃度範囲の塩化ベンザルコニウムを含む調製物は、透明な水溶液のままである。この範囲の低い方の端の濃度(例えば0.10〜0.2%w/v)は、生体適合性の理由のために好ましく思われる。pHに依存して、0.01〜0.05%w/vの塩化ベンザルコニウムはまた、透明な水性ゲルの形態の有用な調製物を提供し得る。
【0104】
実施例4:グルカゴン脱アミド化の速度に対する塩化ベンゼトニウム濃度の効果
実験の目的
この実験の目的は、4℃および40℃でのインキュベーション後のグルカゴンの脱アミド化に対する塩化ベンゼトニウム濃度の効果を評価することであった。ゲル化および脱アミド化のレベルの間の相関を可能にするために、同じ時間に目視による評価を行った。
【0105】
実験手順
グルカゴンの液体製剤(1mg/ml)を調製して、4℃および40℃でインキュベートした。特定の温度で4ヶ月のインキュベーション後に脱アミド化および目視による評価を決定した。調製時と保存後の両方で、逆相クロマトグラフィーにより脱アミド化を決定した。バッファ(5mM酢酸塩)、張度改変剤(250mMマンニトール)および特定の濃度の塩化ベンゼトニウムを含む基礎製剤を、pH5.5で使用した。塩化ベンゼトニウムの濃度は0.01%〜0.6%w/vの範囲;具体的に、0.01、0.025、0.05、0.075、0.1、0.15、0.2、0.4および0.6%w/vであった。逆相HPLC法では、C18、4.6x150mm、5μmカラムを45℃、1mL/分の流速で使用し、注入体積は30μLであり、214nmで検出した。バッファAは、20%アセトニトリル中200mM KPO4、pH2.5であり、バッファBは、(時間(分):バッファB(%)、0:5、5:5、30:45、32:90、35:90、40:5および50:5)で60:40のアセトニトリル:水であった。
【0106】
結果および結論
表11に実験結果を示す。塩化ベンゼトニウム濃度は、グルカゴンの物理的安定性(すなわちゲル形成および/または沈殿)ならびにグルカゴンの脱アミド化の速度に強い影響を有することが示された。高いレベルのベンゼトニウム(≧0.15%w/v)は、両方の温度で、液体の非粘性製剤の維持をもたらした。しかしながら、脱アミド化速度は、これらのベンゼトニウム濃度で比較的高かった。最も低いレベルの塩化ベンゼトニウム(0.01%および0.025%w/v)では、脱アミド化の低減が観察され、保存期間の終わりには、製剤は透明な水性ゲルの形態を有した。これらの組成物は低い脱アミド化速度のために好ましくあり得る。
【0107】
【表15-1】

【表15-2】
【0108】
実施例5:グルカゴンの安定性に対する張度改変剤の性質の効果
実験の目的
この実験の目的は、塩化ベンゼトニウムの存在下、pH5.5での、調製時および保存後の目視での評価によるグルカゴンの溶解性に対する選択された張度改変剤の効果を評価することであった。
【0109】
実験手順
バッファ(5mM酢酸塩)、塩化ベンゼトニウム(特定の濃度)および張度改変剤(特定の濃度)を含むグルカゴンの液体製剤(1mg/ml)をpH5.5で調製した。いくつかの場合では、組成物は、特定の濃度の酸化防止剤を含んだ。物理的安定性(すなわちゲル形成および/または凝集)に対する張度改変剤の性質および濃度の効果を、保存後に目視での評価により決定した。
【0110】
結果および結論
第1の実験において、張度改変剤としてのマンニトールおよび1,2-プロパンジオールの効果を50℃で比較した。バックグラウンド製剤は5mM酢酸塩および0.075%塩化ベンゼトニウムを含み、pH5.5に調整した。結果を表12に示す。張度改変剤としてマンニトールは1,2-プロパンジオールよりも好ましいことが示された。1,2-プロパンジオールの使用は、マンニトールの使用と比較して、かなり容易な凝集およびゲル形成の開始をもたらした。より高い濃度の1,2-プロパンジオールの使用では、グルカゴンの安定性を向上することは見られなかった。
【0111】
【表16-1】

【表16-2】
【0112】
別の実験において、張度改変剤としてのマンニトールおよびグリセロールの効果を50℃で比較した。バックグラウンド製剤は、5mM酢酸塩、0.075%塩化ベンゼトニウムおよび1.3mMブチル化ヒドロキシトルエンを含み、pH5.5に調整した。結果を表13に示す。グリセロールの存在下の組成物が50℃で6週間のインキュベーション後に沈殿の兆候を示したので、張度改変剤として、マンニトールはグリセロールよりも好ましいことが示された。
【0113】
【表17】
【0114】
別の実験において、張度改変剤としてのマンニトールおよびトレハロースの効果を50℃で比較した。バックグラウンド製剤は、5mM酢酸塩、5mMメチオニンおよび0.075%塩化ベンゼトニウムを含み、pH5.5に調整した。結果を表14に示す。マンニトール(250および500mM)の存在下およびトレハロース(250および500mM)の存在下の両方で、50℃で6週間までのインキュベーションについて、グルカゴン組成物は透明な液体のままであった。
【0115】
【表18】
【0116】
実施例6:グルカゴンの溶解性に対するさらなる賦形剤としてのフェノールの効果の調査
実験の目的
この実験の目的は、塩化ベンゼトニウムおよび他の選択された製剤成分の存在下でのグルカゴンの溶解性およびその後の安定性に対するさらなる賦形剤としてのフェノールの効果を評価することであった。
【0117】
実験手順
5mM酢酸塩(バッファ)、0.075%(w/v)塩化ベンゼトニウム、250mMマンニトール(張度改変剤)、1.3mMブチル化ヒドロキシトルエン(酸化防止剤)を含む製剤中、30mMのフェノールの存在下および非存在下の両方で、グルカゴンの溶液(1mg/ml)を調製した。両方の製剤のpHを5.5に調整した。比較のために、現在販売されているグルカゴン製品の再構成された形態を示す水性組成物も調製した。この組成物は、1mg/mlグルカゴン、130mMグリセロール、143mMラクトース(pH2.5)を含んだ。全ての製剤の外観を、調製の少し後および50℃で特定の時間の保存後に注意した。
【0118】
結果および結論
現在販売されているグルカゴン製品の再構成された形態を示すグルカゴン水性組成物は、50℃でのインキュベーション時に迅速なゲル形成を示した。ゲル形成および/または凝集は、両方のベンゼトニウム系製剤(すなわちフェノール有りおよび無しの両方)で遅れた。しかしながら、塩化ベンゼトニウムを含むグルカゴン液体組成物中のフェノールの存在は、フェノール非存在下の同じ製剤とさらに比較して、凝集およびゲル形成をかなり遅らせることが示された(表15)。
【0119】
【表19】
【0120】
文脈においてそうでないことが求められなければ、明細書および以下の特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、述べられた整数、工程、整数の群または工程の群を包含することを意味するが、任意の他の整数、工程、整数の群または工程の群を排除することは意味しないことが理解されよう。
【0121】
本発明の明細書を通じて言及される全ての特許および特許出願は、その全体において参照により本明細書に援用される。
【0122】
本発明は、好ましい群およびより好ましい群および適切な群およびより適切な群ならびに上述の群の態様の全ての組み合わせを包含する。
【0123】
配列表
【化1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]