特許第5894188号(P5894188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894188
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】ポリスチレン溶融押出し法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20160310BHJP
【FI】
   C08J9/12CET
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-544506(P2013-544506)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公表番号】特表2013-545872(P2013-545872A)
(43)【公表日】2013年12月26日
(86)【国際出願番号】US2011061859
(87)【国際公開番号】WO2012082332
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年11月21日
(31)【優先権主張番号】61/424,289
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】シャリ エル.クラム
(72)【発明者】
【氏名】シモン リー
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ジー.ストビー
(72)【発明者】
【氏名】テッド エー.モーガン
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/141400(WO,A1)
【文献】 特表2009−516019(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/140892(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/080285(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融スチレンポリマー、該溶融スチレンポリマーと臭素化スチレン−ブタジエンポリマーとの混合物の重量に基づいて該混合物が0.1重量%〜25重量%の範囲内の臭素含量を有する量の臭素化スチレン−ブタジエンポリマー、及び発泡剤混合物を含有する加圧溶融物を生成すること、並びに、該溶融物を開口部を介してより低圧のゾーンに押出し、ここで発泡剤は膨張し、ポリマーは冷却され固化して発泡体を形成すること、を含んでなるポリマー発泡体の製造方法であって、発泡剤混合物は二酸化炭素、エタノール、及び水を含み、
該加圧溶融物はヘキサブロモシクロドデカンを含まない、方法。
【請求項2】
発泡剤混合物の量は、スチレンポリマー1キログラム当たり1.1〜1.70モルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.65〜0.9モルの量の二酸化炭素、スチレンポリマー1キログラム当たり0.25〜0.45モルの量のエタノール、及びスチレンポリマー1キログラム当たり0.1〜0.3モルの量の水を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.1〜0.3モルのC4〜C5炭化水素をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
4〜C5炭化水素は、イソブタンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
発泡剤混合物の量は、スチレンポリマー1キログラム当たり1.15〜1.65モルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
発泡体の平均気泡サイズは、0.25mm〜1mmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
発泡体密度は36kg/m3以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
発泡体は30%以下の開放気泡含量及び少なくとも20mmの厚さを有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、少なくとも50重量%の臭素を含有する、スチレンとブタジエンとの臭素化ブロックコポリマーである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2010年12月17日出願の米国仮特許出願第61/424,289号からの利益を請求する。
本発明は、スチレンポリマーの溶融押出法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡ボードは、スチレンポリマーから溶融押出法で大量に製造される。ボードが建築用途で使用される時、その中に難燃剤が取り込まれることが通常必要である。これらの発泡体用に最も一般的に使用される難燃剤は、ヘキサブロモシクロドデカンであるが、一部にはこの材料は生体蓄積性であるとして、多くの国で規制の圧力に直面している。従って、これを代替できるものに対する要望がある。
【0003】
ヘキサブロモシクロドデカンを代替する1つの候補は、臭素化スチレン−ブタジエンコポリマーである。ポリスチレン発泡体の難燃剤として有用な臭素化スチレン−ブタジエンコポリマーの製造法は、例えばWO2008/021417号とWO2008/021418号に記載されている。臭素化スチレン−ブタジエン難燃剤は、良好な性能を安価に提供する。これらは、生体蓄積することが知られていない。
【0004】
しかし臭素化スチレン−ブタジエンポリマーの存在はしばしば、押出し工程に悪影響を与える。発泡体を押出す時、臭素化スチレン−ブタジエンポリマーが存在すると、気泡(cell)のサイズが小さくなる傾向があり、これは、その中の臭素化ポリマー又はその中の一部の不純物が、気泡の核生成材として作用して、本来形成されるべき気泡のより多くを産生していることを示唆する。小さな気泡は、押出し機ダイを出る時に、ポリマーを膨張させるのが非効率的である。その結果、発泡体は完全に膨張せず、発泡体密度は、所望するものより高くなる傾向がある。
【0005】
より高い発泡体密度は、ある容量の発泡体を生産するのにより多くの樹脂材料を必要とするため、製造コストが上昇する。
【0006】
発泡剤の濃度を上げることにより、発泡体密度を低下させることは可能であるが、これは製造コストを上昇させ、大きくて、不均一な気泡や開放気泡構造を形成させることがある。断熱材として使用されるほとんどのボード発泡体にとって、均一な気泡構造と高率の閉じた気泡が重要である。質の悪い気泡構造や多数の開放気泡は、機械的強度と断熱性の喪失につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、溶融押出法で臭素化スチレン−ブタジエン難燃剤の存在下で、気泡サイズと発泡体密度は、ヘキサブロモシクロドデカン難燃剤を使用して製造した発泡体に匹敵する、スチレンポリマーを発泡体に形成することができる手段を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような方法である。本発明は、溶融スチレンポリマー、難燃性量の臭素化スチレン−ブタジエンポリマー、及び発泡剤混合物を含有する加圧溶融物を生成すること、並びに、この溶融物を開口部を通してより低圧のゾーンに押出し、ここで発泡剤は膨張し、ポリマーは冷却され固化して発泡体を形成すること、を含む方法であって、発泡剤混合物は、二酸化炭素、エタノール、及び水を含む方法である。
【0009】
発泡剤混合物は、臭素化スチレン−ブタジエンコポリマーの存在下にもかかわらず、所望の密度と、閉じた気泡を高率に含む大きくて均一な気泡構造とを有するボード発泡体を生成する。
【0010】
本発明の方法は、通常の発泡体押出し装置で行うことができる。すなわち、単一の押出し機、ツインスクリュー押出し機、及び蓄積性押出し装置は、すべて使用することができる。樹脂/発泡剤混合物から押出し発泡体を製造するための適切な方法は、米国特許第2,409,910号,2,515,250号,2,669,751号,2,848,428号,2,928,130号,3,121,130号,3,121,911号,3,770,688号,3,815,674号,3,960,792号,3,966,381号,4,085,073号,4,146,563号,4,229,396号,4,302,910号,4,421,866号,4,438,224号,4,454,086号、及び4,486,550号に記載されている。これらの方法のすべては、一般に本発明の発泡体を製造するために応用される。
【0011】
この方法において、スチレンポリマーと臭素化スチレン−ブタジエンポリマーとの混合物は、スチレンポリマーのガラス転移温度又はそれ以上の温度に加熱されて、溶融物を生成する。適切な温度は、少なくとも180℃、より一般的には少なくとも220℃であるが、好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。発泡剤混合物は加圧下で導入されて溶融物中に混合される。後述される任意の添加剤も溶融物中に混合される。溶融混合物が装置を通過して低圧ゾーンに入るまでは、発泡体膨張が起きないように、混合工程中の圧力は高く維持される。
【0012】
すべての成分が混合された後、溶融混合物は通常、装置を通過して(典型的には押出しダイを通過して)減圧ゾーンに入る前に、押出し温度に調整される。この温度は典型的には、105℃〜135℃の範囲である。上記したように、この工程中の圧力は、発泡剤が膨張しないように適切に維持される。
【0013】
ほとんどの市販の押出し装置は、独立に異なる温度で運転できる一連の別個の加熱ゾーンを有する。典型的には、成分が混合される上流ゾーンはより高温で運転され、下流冷却ゾーンは、溶融物を押出し温度まで冷却させるために、低温に設定される。ダイヘッド自体で温度を制御するために、ダイ冷却機(die chiller)を使用してもよい。
【0014】
溶融混合物の温度が押出し温度に調整された後、混合物は開口部を通過して(典型的には押出しダイを通過して)低圧領域(通常大気圧)に入る。圧力の喪失が発泡剤の急激な膨張を引き起こす。発泡剤の膨張は溶融ポリマーを急速に冷却するため、これが膨張しながら硬化して安定な発泡体が生成される。
【0015】
発泡体は、任意の種々の形に押出すことができるが、最も一般的にはシート(名目厚さ13mm以下)、厚板(名目厚さ13mm超)、ロッド製品に形成される。厚板製品は、矩形又は「ドッグボーン」金型を使用して便利に製造される。本発明は、気泡サイズが小さいと、これらの製品の不充分な発泡体膨張という問題が大きくなるため、厚板製品、特に20mm以上の厚さを有する厚板製品を製造する時に特に有益である。
【0016】
溶融物は、溶融押出し物の隣接流間の接触が発泡工程中に起きるように並んだ複数のオリフィスを有する金型を通過させられる。これは、接触表面を互いに充分に接着させて、単一の構造物を作成する。このような合体したストランド発泡体の作製法は、米国特許第6,213,540号及び4,824,720号に記載されている(いずれも参照することにより本明細書に組み込まれる)。これらの合体したストランド発泡体は異方性が高くなりがちで、一般に最大の圧縮力が押出し方向に観察される。合体したストランド発泡体は、米国特許第4,801,484号(参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載のように、失われたストランド又は計画された空隙を有してもよい。
【0017】
スチレンポリマーは、最大0.1重量%の臭素を含み、好ましくは臭素を含まないスチレンの熱可塑性ポリマー又はコポリマーである。最も好ましくはは、ポリスチレンホモポリマー、及びスチレンとエチレン、プロピレン、アクリル酸、無水マレイン酸、及び/又はアクリロニトリルとのコポリマーである。ポリスチレンホモポリマーが最も好ましい。
【0018】
スチレンポリマーは、溶融加工を可能にするのに充分に大きい分子量を有さなければならない。一般に、少なくとも10,000の重量平均分子量が充分であるが、好適な重量平均分子量は少なくとも50,000である。重量平均分子量は、最大500,000又は最大350,000でもよい。本発明の目的において、ポリマーの分子量は、ポリスチレン標準物質に対して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される見かけの分子量である。GPC分子量測定は、直列に連結された2つのPolymer Laboratories PLgel5マイクロメートルMixed−CカラムとAgilent G1362A屈折率検出器、又は同等の装置を備えた、Agilent1100シリーズの液体クロマトグラフを使用して、溶離液としてテトラヒドロフラン(THF)又は他の適切な溶媒を1mL/分の速度で35℃の温度に加熱して流して、行うことができる。
【0019】
臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、好ましくは少なくとも10重量%の臭素、さらに好ましくは少なくとも50重量%の臭素を含む。臭素含量は、60%、65%、70%、又はそれ以上に上ってもよい。臭素は好ましくは、脂肪族基に結合している。好適な臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、芳香環上ではほとんど又は全く臭素化されていない。また、臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、アリル基炭素原子又は三級炭素原子にはほとんど又は全く臭素化が無く、臭素水素化部位(すなわち、臭素とヒドロキシル基が隣接炭素原子上に現れる部位)をほとんど又は全く含まない。多量のアリル又は三級臭素と臭素水素化部位の存在は、臭素化スチレン−ブタジエンポリマーの熱安定性を低下させる傾向がある。
【0020】
脂肪族臭素含有ポリマーは、出発スチレン−ブタジエンコポリマーを臭素化することにより便利に調製される。出発ポリマーは適切には、5,000〜400,000、好ましくは20,000〜300,000、さらに好ましくは50,000〜200,000、そしてさらに好ましくは70,000〜200,000の範囲内の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0021】
出発スチレン−ブタジエンポリマーは、好ましくは少なくとも10重量%のポリマー化ブタジエンを含有する。ブタジエンは重合して、主に2タイプの繰り返し単位を生成する。本明細書において「1,2−ブタジエン単位」と呼ぶ1つのタイプは、
【化1】
の形を取り、ペンダント不飽和基をポリマーに導入する。本明細書において「1,4−ブタジエン」と呼ぶ第2のタイプは、−CH2−CH=CH−CH2−の形を取り、ポリマー主鎖に不飽和を導入する。出発スチレン−ブタジエンポリマーは好ましくは、少なくとも幾つかの1,2−ブタジエン単位を含有する。出発スチレン−ブタジエンポリマー中のブタジエン単位のうちで、少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%、及びさらに好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも25%は、1,2−ブタジエン単位である。1,2−ブタジエン単位は、出発スチレン−ブタジエンポリマー中の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、又は少なくとも70%のブタジエン単位を構成してもよい。1,2−ブタジエン単位の比率は、出発ポリマー中のブタジエン単位の、85%を超え、又は90%を超えてもよい。
【0022】
制御された1,2−ブタジエン含量のブタジエンポリマーを調製する方法は、Journal of Polymer Science (D、Macromolecular Review)、Volume 3、page 317(1968)中のJ.F.Henderson and M.Szwarc、J.Polym.Sci. A−2、9、43−57(1971)中のY.Tanaka、Y.Takeuchi、M.Kobayashi and H.Tadokoro、Macromolecules、6、129−133 (1973)中のJ Zymona、E.Santte and H Harwood、及びJ.Polym.Sci..Polym.Chem. 21. 1853−1860(1983)中のH.Ashitaka、et al.に記載されている。
【0023】
スチレン−ブタジエンブロックコポリマーは特に好ましい。このようなブロックコポリマーは、1又はそれ以上のポリスチレンブロックと1又はそれ以上のポリブタジエンブロックとを含有する。これらのうちで、ジブロック、トリブロック、星状分岐、及びマルチブロックコポリマーが特に好ましい。有用な出発スチレン−ブタジエンブロックコポリマーには、Dexco Polymersから商品名VECTOR(登録商標)で入手できるものがある。
【0024】
出発スチレン−ブタジエンポリマーは、ポリマーのブタジエン単位の炭素−炭素不飽和に臭素を加えることにより臭素化することができる。臭素化は、直接臭素化法を使用して行われ、ここでは出発ブタジエンポリマーが、例えばWO2008/021418号に記載のように臭素元素で臭素化される。またWO2008/021418号に記載のように、臭素化反応中に脂肪族アルコールが存在してもよい。残存する臭素と他の副産物は、生じる臭素化スチレン−ブタジエンコポリマー溶液から、抽出、洗浄、又は他の有用な方法により除去することができる。
【0025】
あるいは、出発スチレン−ブタジエンコポリマーは、例えばWO2008/021417号に記載のように、出発ポリマーを4級アンモニウムトリブロミドを用いて臭素化することにより得られる。好適なそのような方法で、出発ポリマーは、反応して臭素化スチレン−ブタジエンポリマーと4級アンモニウムモノブロミド副産物の溶液を生成するような条件下で、4級アンモニウムトリブロミドと接触させられる。4級アンモニウムモノブロミドは、好ましくは還元剤を含む水相で抽出されて、臭素化ポリマーから4級アンモニウムモノブロミド流が除去される。
【0026】
出発ポリマーのブタジエン単位の少なくとも60、70、75、80、又は85%を臭素化することが好ましい。一般に高レベルの臭素化は、脂肪族炭素−炭素不飽和の残存部位の数を減らすため好ましい。これらの残存不飽和部位は、発泡プロセス中に重合して、化粧品としての欠陥や機械的特性の喪失を引き起こすゲルを形成することがある。最大100%の脂肪族炭素−炭素不飽和部位が臭素化されてよい。現実的な上限は、一般に最大95%、最大98%、又は最大99%である。
【0027】
好ましくは、充分な臭素化スチレン−ブタジエンポリマーが、スチレンポリマーと組合わされて、混合物の重量に基づいて、0.1重量%〜25重量%の範囲内の臭素含量を有する混合物が提供される。混合物中の好適な臭素含量(臭素化スチレン−ブタジエンコポリマーにより与えられる)は、0.25〜10重量%、さらに好ましい量は0.5〜5重量%、そしてさらに好ましい量は1〜3重量%である。混合物にある臭素含量を与えるのに必要な臭素化スチレン−ブタジエンポリマーの量は、もちろんその臭素含量に依存する。しかし一般に、100重量部のスチレンポリマーあたり、約0.15重量部という少ない臭素化スチレン−ブタジエンポリマーを与えることができる(0.15pphr)。少なくとも0.4pphr又は少なくとも0.8pphrの臭素化スチレン−ブタジエンポリマーを与えることができる。混合物中に最大100pphrの臭素化スチレン−ブタジエンポリマーが存在することができるが、より好ましい最大量は50pphrであり、より好ましい最大量は20pphrであり、そしてより好ましい最大量は10pphr又はさらに7.5pphrである。
【0028】
スチレンポリマーと臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、ペレット又は他の小粒子の形で便利に提供され、これは発泡体加工装置中で溶融される。臭素化スチレン−ブタジエンポリマーはスチレンポリマーの一部と予混合されてマスターバッチを生成し、これ自体は、ペレット又は他の粒子に便利に形成され、これが発泡体加工装置中で溶融される。
【0029】
発泡剤混合物は、二酸化炭素、エタノール、及び水を含む。好適な発泡剤は、二酸化炭素、エタノール、C4〜C5炭化水素、及び水を含む。C4〜C5炭化水素は好ましくはイソブタンである。
【0030】
発泡剤の総量は適切には、40kg/m3以下の発泡体密度、さらに好ましくは36kg/m3以下、さらに好ましくは35kg/m3以下の発泡体密度を有する押出し発泡体を与えるのに充分な量である。これらの密度は、発泡剤の総量が、スチレンポリマー1kgあたり、約1.1〜約1.8モルの発泡剤の範囲内である時、本発明により達成することができる。発泡剤の好適な総量は、スチレンポリマー1kgあたり1.1〜約1.70モルである。発泡剤のさらに好適な総量は、スチレンポリマー1kgあたり1.15〜1.65モルである。
【0031】
二酸化炭素は好ましくは、スチレンポリマー1kgあたり、約0.5〜約1.2、さらに好ましくは0.65〜約0.9モルの量で使用される。エタノールは好ましくは、スチレンポリマー1kgあたり、0.15〜0.5モル、さらに好ましくは0.25〜0.45モルの量で使用される。水は好ましくは、スチレンポリマー1kgあたり、約0.1〜約0.4モル、さらに好ましくは0.1〜0.3モルの量で使用される。C4〜C5炭化水素は好ましくは、スチレンポリマー1kgあたり、最大0.35モル、さらに好ましくは0.1〜0.3モルの量で存在する。
【0032】
好適な発泡剤の組合せは、スチレンポリマー1kgあたり、0.65〜0.9モルの二酸化炭素、0.25〜0.45モルのエタノール、及び0.1〜0.3モルの水を含有し、発泡剤の総量は、スチレンポリマー1kgあたり、1.1〜1.65モルである。より好適な発泡剤の組合せは、スチレンポリマー1kgあたり、0.65〜0.9モルの二酸化炭素、0.25〜0.45モルのエタノール、0.1〜0.3モルのイソブタン、及び0.1〜0.3モルの水であり、発泡剤の総量は、スチレンポリマー1kgあたり、1.15〜1.65モルである。
【0033】
種々の補助物質を発泡プロセスで使用することができる。一般的なそのような補助物質としては、熱安定剤、核生成剤、気泡膨張剤、発泡体安定性制御剤(透過性調整剤)、帯電防止剤、架橋剤、加工補助剤(例えば、スリップ剤)、紫外線吸収剤、酸スカベンジャー、分散補助剤、押出し補助剤、抗酸化剤、着色剤、無機充填剤等が挙げられる。
【0034】
有用な熱安定剤としては、亜リン酸アルキル化合物及びエポキシ化合物が挙げられる。適切な亜リン酸アルキル化合物は、”Plastic Additive Handbook”,H.Zweifel編,第5版、441頁(2001年)に記載されている。亜リン酸アルキル化合物は、少なくとも1の基
【化2】
を含み、ここで各R基は非置換若しくは置換アルキル基である。2つのR基は一緒に、脂肪族炭素原子を介して隣接−O−原子に結合して−O−P−O−結合を含む環構造を形成する2価の基を形成してもよく、これは置換されていてもよい。R基は直鎖又は分岐鎖でもよい。隣接−O−原子に隣接して結合している各R基上の炭素原子は、好ましくはメチレン(−CH2−)炭素である。R基上の置換基は、例えばアリール、シクロアルキル、
【化3】
又は不活性置換基でもよい。前記構造中のR1基は、別のR基、又はアリール若しくは置換アリール基でもよい。R1基の好適なタイプは、三級炭素原子を含有する少なくとも1の分岐アルキル基で置換されたアリール基である。
【0035】
有用な亜リン酸アルキルの具体例としては、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、及びジ(2,4−ジ−(t−ブチル)フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。これらは、Doverphos(登録商標)S−9228(Dover Chemical Corporation)、Doverphos(登録商標)S−682(Dover Chemical Corporation)、及びIrgafos(登録商標)126(Ciba Specialty Chemicals)として市販されている。
【0036】
亜リン酸アルキル化合物は適切には、スチレンポリマー100重量部あたり、少なくとも0.0015、好ましくは少なくとも0.0025、さらに好ましくは少なくとも0.005、及びさらに好ましくは0.01重量部の亜リン酸アルキルの量で存在(使用される場合)する。100重量部のスチレンポリマー当たり40部もの亜リン酸アルキル化合物を使用することができるが、好ましくは亜リン酸アルキルは、スチレンポリマー100重量部あたり、20部超の量では存在せず、さらに好ましくは8部以下、さらに好ましくは4部以下、そしてさらに好ましくは2部以下である。
【0037】
熱安定剤として有用なエポキシ化合物は、1分子当たり、平均して少なくとも1の、好ましくは2又はそれ以上のエポキシド基を含有する。エポキシ化合物は好ましくは、1エポキシド基当たりの当量質量が、2000以下、好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下である。エポキシ化合物の分子量は、好適な実施態様において少なくとも1000である。エポキシ化合物は臭素化されてもよい。種々の市販のエポキシ樹脂が適している。これらは、例えばビスフェノールAの種々のジグリシジルエーテルの1つのようなビスフェノール化合物に基づいてもよい。これらは、臭素化ビスフェノール化合物に基づいてもよい。エポキシ化合物はエポキシノボラック樹脂又はエポキシクレゾールノボラック樹脂でもよい。エポキシ化合物は、完全に脂肪族の物質、例えばポリエーテルジオール又はエポキシ化植物油のジグリシジルエーテルでもよい。本明細書において有用な市販のエポキシ化合物の例としては、F2200HM及びF2001(ICL Industrial Productsから)、DEN 439(The Dow Chemical Companyから)、Araldite ECN−1273及びECN−1280(Huntsman Advanced Materials Americas,Inc.から),及びPlaschek 775(Ferro Chemical Co.から)が挙げられる。
【0038】
エポキシ化合物は、スチレンポリマー100重量部当たり、少なくとも0.005部、さらに好ましくは少なくとも0.01重量部の量で適切に存在する(使用される場合)。このような混合物は、スチレンポリマー100重量部当たり、40部ものエポキシ化合物を含んでよいが、好ましくはエポキシ化合物は、スチレンポリマー100重量部あたり、20部超の量では存在せず、さらに好ましくは8部以下、さらに好ましくは4部以下、そしてさらに好ましくは2部以下である。
【0039】
亜リン酸アルキル及びエポキシ化合物以外に、他の安定剤及び/又は酸スカベンジャーが存在してもよい。そのような物質の例としては、例えば、ピロリン酸4ナトリウム、ハイドロカルマイト、ハイドロタルサイト、及びハイドロタルサイト様粘土のような無機材料;ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、又はマンニトールのような1000以下の分子量を有するポリヒドロキシル化合物、又はこれらの部分エステル;及び親アリル性(allylophilic)及び/又は親ジエン性(dieneophilic)であってよい有機スズ安定剤が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えばアルキルスズチオグリコレート、アルキルスズメルカプトプロピオネート、アルキルスズメルカプチド、アルキルスズマレエート、及びアルキルスズ(アルキルマレエート)(ここで、アルキルは、メチル、ブチル及びオクチルから選択される)が挙げられる。適切な有機スズ化合物は、Ferro Corporation(即ち、Thermchek(登録商標)832、Thermchek(登録商標)835)、及びBaerlocher GmbH(即ち、Baerostab(登録商標)OM36、Baerostab(登録商標)M25、Baerostab(登録商標)MSO、Baerostab(登録商標)M63、Baerostab(登録商標)OM710S)から市販されている。
【0040】
好適な核生成剤としては、微細な無機物質、例えば炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、インディゴ、タルク、粘土、マイカ、カオリン、二酸化チタン、シリカ、ステアリン酸カルシウム又は珪藻土、並びに押出し条件下で反応してガスを発生する少量の化学物質、例えばクエン酸又はクエン酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムの混合物が挙げられる。使用される核生成剤の量は、スチレンポリマー100重量部当たり、約0.01〜約5重量部の範囲でもよい。好適な範囲は、0.1〜約3重量部、特に約0.25〜0.6重量部である。
【0041】
本発明の方法の生成物は、好ましくは、ASTM D6226−05に従って、24〜40kg/m3の発泡体密度、30%又はそれ以下、好ましくは10%又はそれ以下、さらに好ましくは5%又はそれ以下の開放気泡を有する発泡体である。密度は、さらに好ましくは36kg/m3以下、さらに好ましくは30〜35kg/m3である。発泡体はまた、好ましくは少なくとも13mm,さらに好ましくは少なくとも20mmの厚さを、上記した密度と開放気泡含量とともに有する。発泡体は好ましくは、ASTM D3576に従って、0.25mm〜1.0mm、特に0.25〜0.5mmの範囲の平均気泡サイズを有する。
【0042】
本発明の方法で作成されるボードストック(Boardstock)発泡体は、建築発泡体断熱材として、屋根又は壁アセンブリーの一部として有用である。本発明で作製される他の発泡体は、装飾用ビレット、パイプ断熱材として、及び成形コンクリート基礎用途に使用することができる。
【0043】
以下の例は本発明を例示するために提供されるが、本発明の範囲を限定するものではない。すべての部とパーセントは、特に明記しない場合は、重量で示される。
【0044】
比較試料A及びB、並びに実施例1〜5
比較試料Aは、ヘキサブロモシクロドデカンが難燃剤として存在する先行技術の押出しプロセスを例示する。88重量%のヘキサブロモシクロドデカンと12%のエポキシクレゾールノボラック樹脂を、汎用グレードのポリスチレン(Styron LLCからのPS−168)と混合して、30%の添加剤を含有するペレット化濃縮物を生成する。次に、この濃縮物を、シングルスクリュー押出し機上で、より多くのポリスチレン(Styron LLCからのPS−640)に入れる。この濃縮物とポリスチレンとを、1.8重量%の臭素を含有する混合物を与える速度で押出し機に供給する。次に発泡剤を、200℃の混合温度で、発泡剤混合物が膨張するのを防ぐのに充分な圧力で、ロータリーミキサー中のポリマー混合物に加える。次に、生じる発泡性組成物を熱交換器で冷却し、スロットダイを通して排出して発泡体を形成する。発泡剤は、下記の表1に示すように二酸化炭素、エタノール、イソブタンの混合物である。
【0045】
生じる発泡体は、0.30mmの平均気泡サイズと35kg/m3の発泡体密度とを有する。これらの値は、ヘキサブロモシクロドデカンの代わりに臭素化スチレン−ブタジエンポリマー難燃剤添加剤を使用する以下の実験の目標値である。
【0046】
比較試料Bでは、ヘキサブロモシクロドデカンの代わりに臭素化スチレン−ブタジエンポリマーが使用される。50部の臭素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマーが、100部のポリスチレン当たり(pphr)0.5部のエポキシクレゾールノボラック樹脂、0.25pphrのエポキシド化大豆油、及び0.3pphrの亜リン酸アルキル抗酸化剤(Dover ChemicalsからのDoverphos S9228)を含有する50部の汎用グレードのポリスチレン樹脂(Styron LLCからのPS168)に混合されて、臭素化ブロックコポリマーの50%濃縮物が生成される。この試料中の抗酸化剤パッケージは難燃剤添加剤の差のために、比較試料Aで使用されるものとは異なる。抗酸化剤パッケージの変化は、発泡の特徴に影響することは知られていない。
【0047】
50%濃縮物はさらに多くのポリスチレンと混合されて、比較試料Aについて記載した方法で発泡体に加工される。濃縮物と追加のポリスチレンの比率は、発泡体が1.7%の臭素を含むようなものである。
【0048】
この場合の気泡サイズは、わずかに0.18mmである。より小さい気泡サイズは、少なくとも一部は臭素化スチレン−ブタジエンポリマーにより引き起こされる発泡体核形成によるか、又はその中に含有される一部の不純物によると考えられる。より小さい気泡は、発泡体を膨張させるのにあまり効率的ではない。その結果、発泡体密度はより高く、36kg/m3となる。
【0049】
発泡体実施例1〜5は、表1に記載されているように、発泡剤が、二酸化炭素、エタノール、イソブテン、及び水の混合物であること以外は、比較試料Bと同じ方法で作製される。各場合に、気泡サイズは、比較試料Aとほぼ同じである。実施例1〜4の発泡体密度は、比較試料Aよりわずかに小さい。
【0050】
【表1】
* 本発明の例ではない。1HBCDはヘキサブロモシクロドデカンである。BR−S/Bは、臭素化スチレン−ブタジエンコポリマーである。2CO2は二酸化炭素である。EtOHはエタノールであり、i-C4はイソブタンであり、H2Oは水である。
【0051】
表1から明らかなように、ヘキサブロモシクロドデカンの代わりの臭素化スチレン−ブタジエンポリマーの使用は、同じ二酸化炭素/エタノール/イソブテン発泡剤系を使用する時、気泡サイズの大幅な低下につながる(比較試料A対比較試料B)。これは、発泡体密度の損失につながる。しかし少量の分子量水を発泡剤系に加えると、気泡サイズは再度より大きくなり(実施例1、2、及び3)、発泡体密度は実際に対照より小さくなる。
【0052】
実施例4は、本発明の発泡剤の組合せの有効な作用が、発泡剤の量を増加させることだけではないことを示す。実施例4では、いずれの比較試料よりも少ない発泡剤(重量で及びモルで)が使用され、それでも気泡サイズが受容できるほど大きく、発泡体密度は対照より小さくなる。
【0053】
実施例5は、実施例4の発泡剤系のエタノール成分を低下させる(この代わりに、同じ重量の二酸化炭素を使用する)効果を示す。この低レベルのエタノールでは、良好な気泡サイズが維持されるが、この場合、発泡体密度はやや大きくなる。発泡体密度は比較試料A及びBよりやや大きくなるが、これは、実施例5で使用される発泡剤の小さいモル数のためであると考えられる。
本開示は以下も含む。
[1] 溶融スチレンポリマー、難燃性量の臭素化スチレン−ブタジエンポリマー、及び発泡剤混合物を含有する加圧溶融物を生成すること、並びに、該溶融物を開口部を介してより低圧のゾーンに押出し、ここで発泡剤は膨張し、ポリマーは冷却され固化して発泡体を形成すること、を含んでなるポリマー発泡体の製造方法であって、発泡剤混合物は二酸化炭素、エタノール、及び水を含む、方法。
[2] 発泡剤混合物の量は、スチレンポリマー1キログラム当たり約1.1〜約1.70モルである、上記[1]に記載の方法。
[3] 発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.65〜約0.9モルの量の二酸化炭素を含有する、上記[2]に記載の方法。
[4] 発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.25〜0.45モルの量のエタノールを含有する、上記[2]又は[3]に記載の方法。
[5] 発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.1〜0.3モルの量の水を含有する、上記[2]、[3]、又は[4]に記載の方法。
[6] 発泡剤混合物は、C4〜C5炭化水素をさらに含む、前項のいずれかに記載の方法。
[7] C4〜C5炭化水素は、スチレンポリマー1キログラム当たり0.1〜0.3モルの量で存在する、前項のいずれかに記載の方法。
[8] C4〜C5炭化水素は、イソブテンである、上記[6]又は[7]に記載の方法。
[9] 発泡剤混合物の量は、スチレンポリマー1キログラム当たり約1.15〜約1.65モルである、前項のいずれかに記載の方法。
[10] 発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり、0.65〜0.9モルの二酸化炭素と、0.25〜0.45モルのエタノールと、0.1〜0.3モルの水とを含有し、発泡剤混合物の総量は、スチレンポリマー1キログラム当たり1.1〜1.65モルであることを特徴とする、上記[1]に記載の方法。
[11] 発泡剤混合物は、スチレンポリマー1キログラム当たり、0.65〜0.9モルの二酸化炭素と、0.25〜0.45モルのエタノールと、0.1〜0.3モルのイソブタンと、0.1〜0.3モルの水とを含有し、発泡剤混合物の総量は、スチレンポリマー1キログラム当たり1.15〜1.65モルであることを特徴とする、上記[1]に記載の方法。
[12] 発泡体の平均気泡サイズは、0.25mm〜1mmである、前項のいずれかに記載の方法。
[13] 発泡体密度は36kg/m3以下である、前項のいずれかに記載の方法。
[14] 発泡体は30%以下の開放気泡含量を有する、前項のいずれかに記載の方法。
[15] 発泡体は少なくとも12mmの厚さを有する、前項のいずれかに記載の方法。
[16] 発泡体は少なくとも20mmの厚さを有する、前項のいずれかに記載の方法。
[17] 臭素化スチレン−ブタジエンポリマーは、少なくとも50重量%の臭素を含有する、スチレンとブタジエンとの臭素化ブロックコポリマーである、前項のいずれかに記載の方法。