(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0015】
図1は、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の基本的な構成を示す断面図である。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体は、プラスチック成形体91と、プラスチック成形体91の表面に設けたガスバリア薄膜92とを備えるガスバリア性プラスチック成形体90において、ガスバリア薄膜92は、構成元素として珪素(Si),炭素(C),酸素(O)及び水素(H)を含有し、かつ、(数1)で表されるSi含有率が、40.1%以上であるSi含有層を有する。
(数1)Si含有率[%]={(Si含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数1において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
【0016】
プラスチック成形体91を構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマー樹脂、ポリ‐4‐メチルペンテン‐1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン‐ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂である。これらは、1種を単層で、又は2種以上を積層して用いることができるが、生産性の点で、単層であることが好ましい。また、樹脂の種類は、PETであることがより好ましい。
【0017】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、プラスチック成形体91が、容器、フィルム又はシートである形態を包含する。その形状は、目的及び用途に応じて適宜設定をすることができ、特に限定されない。容器は、蓋、栓若しくはシールして使用する容器、又はそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは、内容物に応じて適宜設定することができる。プラスチック容器は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有するプラスチック容器と剛性を有さないシート材によって形成されたプラスチック容器とを含む。本発明は、容器の製造方法に制限されない。内容物は、例えば、水、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料又は果汁飲料などの飲料、液体、粘体、粉末又は固体状の食品である。また、容器は、リターナブル容器又はワンウェイ容器のどちらであってもよい。フィルム又はシートは、長尺なシート状物、カットシートを含む。フィルム又はシートは、延伸又は未延伸であるかを問わない。本発明は、プラスチック成形体91の製造方法に制限されない。
【0018】
プラスチック成形体91の厚さは、目的及び用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。プラスチック成形体91が、例えば、飲料用ボトルなどの容器である場合には、ボトルの肉厚は、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは、100〜350μmである。また、包装袋を構成するフィルムである場合には、フィルムの厚さは、3〜300μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜100μmである。電子ペーパー又は有機ELなどのフラットパネルディスプレイの基板である場合には、フィルムの厚さは、25〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、50〜100μmである。容器を形成するためのシートである場合には、シートの厚さは、50〜500μmであることが好ましく、より好ましくは100〜350μmである。そして、プラスチック成形体91が、容器である場合には、ガスバリア薄膜92は、その内壁面若しくは外壁面のいずれか一方又は両方に設ける。また、プラスチック成形体91が、フィルムである場合には、ガスバリア薄膜92は、片面又は両面に設ける。
【0019】
ガスバリア薄膜92は、構成元素として珪素(Si),炭素(C),酸素(O)及び水素(H)を含有し、かつ、(数1)で表されるSi含有率が、40.1%以上であるSi含有層を有する。Si含有層のSi含有率は、より好ましくは、40.7%以上である。Si含有層のSi含有率の上限は、57.7%とすることが好ましい。より好ましくは、55.7%である。Si含有層のSi含有率が40.1%未満では、ガスバリア性が不足する場合がある。ガスバリア薄膜92は、Si含有率が40.1%以上であるSi含有層を有していれば、当該Si含有層の上層若しくは下層又はその両方に低Si含有層などの他の層を有していてもよい。また、ガスバリア薄膜92の全体が、当該Si含有層であってもよい。
【0020】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、Si含有層の(数2)で表されるC含有率が、22.8〜45.5%であることが好ましい。より好ましくは、24.8〜45.4%である。
(数2)C含有率[%]={(C含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数2において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
【0021】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、Si含有層の(数3)で表されるO含有率が、2.0〜35.8%であることが好ましい。より好ましくは、6.0〜33.8%である。
(数3)O含有率[%]={(O含有量[atomic%])/(Si,O及びCの合計含有量[atomic%])}×100
数3において、Si,O又はCの含有量は、Si,O及びCの3元素の内訳における含有量である。
【0022】
Si含有率、C含有率又はO含有率は、例えば、ガスバリア薄膜92をXPS分析することによって測定することができる。
【0023】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、Si含有層の水素含有率が、21〜46atomic%(at.%、原子%)であることが好ましい。より好ましくは、25〜42at.%である。水素含有率は、ラザフォード後方散乱分析(以降、RBS分析という。)で測定することができる。水素含有量を比較的大きくすることで、プラスチック基板の変形に追従することが容易となる。逆に水素含有量を小さく抑えると膜質が硬質化するため、プラスチック基板の変形時に顕著にクラックが生じやすくなる。また、RBS分析によるガスバリア薄膜のケイ素含有率は、20〜38at.%であることが好ましい。より好ましくは、22〜36at.%である。RBS分析によるガスバリア薄膜の炭素含有率は、15〜25at.%であることが好ましい。より好ましくは、18〜22at.%である。RBS分析によるガスバリア薄膜の酸素含有率は、12〜26at.%であることが好ましい。より好ましくは、15〜21at.%である。なお、ガスバリア薄膜92は、Si,C,O及びH以外に、その他の元素を含んでもよい。その他の元素は、例えば、Mo(モリブデン)などの発熱体由来の金属元素、N(窒素)である。
【0024】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、前記ガスバリア薄膜の密度が、1.30〜1.47g/cm
3であることが好ましい。より好ましくは、1.33〜1.46g/cm
3であり、特に好ましくは、1.35〜1.40g/m
3である。
【0025】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、Si含有層を条件(1)でXPS分析すると、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、メインピークが観察される(以降、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置で観察されるピークを、Siピークということもある。)領域を含有することが好ましい。
条件(1)測定範囲を95〜105eVとする。
【0026】
条件(1)でXPS分析すると、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、メインピークが観察される。ここで、本明細書において、メインピークとは、条件(1)において、ピーク分離して観察されるピークの中で、最も強度の高いピークを意味する。SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に出現するピークから想定される結合状態は、Si‐Si結合又はSi‐H結合である。本実施形態では、Siピークの主要な結合が、Si‐H結合であることが好ましい。ガスバリア薄膜92が含有する化合物の結合の態様は、Si‐Si結合又はSi‐H結合の他に、例えば、Si‐C結合、Si‐O結合、C‐H結合、C‐C結合、C‐O結合、Si‐O‐C結合、C‐O‐C結合、O‐C‐O結合である。
【0027】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体では、Si含有層を条件(2)でXPS分析すると、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークが観察されないことが好ましい。
条件(2)測定範囲を120〜150eVとする。
Siピークが、Si‐Si結合又はSi‐H結合のいずれが主要であるかは、条件(1)及び条件(2)でXPS分析を行うことで確認することができる。すなわち、条件(1)では、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークを有し、条件(2)では、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークを有さないことで、SiピークがSi‐H結合を示すと確認できる。これによって、(数4)で求める、バリア性改良率(Barrier Improvement Factor,以降、BIFという。)を6以上とすることができる。
(数4)BIF=[薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度]/[ガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度]
【0028】
本発明者らの検討によると、より高いガスバリア性を発現するためには、ガスバリア薄膜92が、薄膜の表面にSiとHとの結合(Si‐H結合)を偏在させた傾斜組成を有することが好ましい。ガスバリア薄膜92が傾斜組成を有することは、条件(1)でのXPS分析においてアルゴンイオンエッチングを行うことで確認できる。この分析結果によると、ガスバリア薄膜92の表面では、Siピークがメインピークであり、プラスチック成形体に向かうにつれて、メインピークが高結合エネルギー側にシフトする。これにより、表面では、Si‐H結合が多いが、プラスチック成形体の方向に向かうにつれて、次第にSiC、そして、酸素よりも炭素が多いSiOCから炭素よりも酸素が多いSiOCへと組成が変化し、プラスチック成形体の界面では、SiOxになることと推測される。このような傾斜組成を有する理由については不明であるが、成膜過程においてプラスチック成形体の界面では、プラスチック成形体由来の酸素の影響で、SiO
2又はSiOxなどのSiO系の化合物が堆積するが、プラスチック成形体の界面から5nm付近から、プラスチック成形体の影響が小さくなって、Oの含有率が減少していき、堆積する化合物がSiOCからSiCへというようにSiC系の化合物となり、薄膜の表面では、Si‐H結合を多く含むようになると推測される。
【0029】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、ガスバリア薄膜92の膜厚が、5nm以上であることが好ましい。より好ましくは、10nm以上である。5nm未満では、ガスバリア性が不十分となる場合がある。また、ガスバリア薄膜92の膜厚の上限値は、200nmとすることが好ましい。より好ましくは、100nmである。ガスバリア薄膜92の膜厚が、200nmを超えると、内部応力によってクラックが生じやすくなる。
【0030】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体90では、ガスバリア薄膜92が、発熱体CVD法によって形成されることが好ましい。発熱体CVD法は、真空チャンバ内で通電加熱によって発熱した発熱体に原料ガスを接触させて分解し、生成した化学種を直接又は気相中で反応過程を経た後に、基材上に薄膜として堆積させる方法である。発熱体は、その軟化温度によって異なるが、一般に、200〜2200℃に発熱させるが、基材と発熱体との間隔をあけることで、基材の温度を常温から200℃程度の低温に保つことが可能で、プラスチックのように熱に弱い基材にダメージを与えることなく、薄膜を形成することができる。また、プラズマCVDなど他の化学蒸着法又は真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着(PVD)法と比べて、装置が単純で、装置自体のコストを抑えることができる。発熱体CVD法では、化学種の堆積によってガスバリア薄膜が形成されるため、湿式法と比較して、かさ密度の高い緻密な膜が得られる。
【0031】
次に、プラスチック成形体の表面にガスバリア薄膜を形成することができる成膜装置について説明する。
図2は、成膜装置の一形態を示す概略図である。
図2は、プラスチック成形体91としてプラスチック容器11を用い、プラスチック容器11の内表面にガスバリア薄膜92を形成する装置である。
【0032】
図2に示したガスバリア性プラスチック容器の製造装置100は、プラスチック成形体91としてのプラスチック容器11を収容する真空チャンバ6と、真空チャンバ6を真空引きする排気ポンプ(不図示)と、プラスチック容器11の内部に挿脱可能に配置され、プラスチック容器11の内部へ原料ガスを供給する、絶縁、かつ、耐熱の材料で形成された原料ガス供給管23と、原料ガス供給管23に支持された発熱体18と、発熱体18に通電して発熱させるヒータ電源20とを有する。
【0033】
真空チャンバ6は、その内部にプラスチック容器11を収容する空間が形成されており、その空間は薄膜形成のための反応室12となる。真空チャンバ6は、下部チャンバ13と、この下部チャンバ13の上部に着脱自在に取り付けられて下部チャンバ13の内部をOリング14で密閉するようになっている上部チャンバ15とから構成されている。上部チャンバ15には図示していない上下の駆動機構があり、プラスチック容器11の搬入・搬出に伴い上下する。下部チャンバ13の内部空間は、そこに収容されるプラスチック容器11の外形よりも僅かに大きくなるように形成されている。
【0034】
真空チャンバ6の内側、特に下部チャンバ13の内側は、発熱体18の発熱に伴って放射される光の反射を防ぐために、内面28が黒色内壁となっているか、又は内面が表面粗さ(Rmax)0.5μm以上の凹凸を有していることが好ましい。表面粗さ(Rmax)は、例えば表面粗さ測定器(アルバックテクノ社製、DEKTAX3)を用いて測定する。内面28を黒色内壁とするためには、黒ニッケルメッキ・黒クロームメッキなどのメッキ処理、レイデント・黒染などの化成皮膜処理、又は、黒色塗料を塗布して着色する方法がある。さらに、冷却水が流される冷却管などの冷却手段29を真空チャンバ6の内部又は外部に設けて、下部チャンバ13の温度上昇を防止することが好ましい。真空チャンバ6のうち、特に下部チャンバ13を対象とするのは発熱体18がプラスチック容器11に挿入されているときに、ちょうど下部チャンバ13の内部空間に収容された状態となるからである。光の反射の防止及び真空チャンバ6の冷却を行うことで、プラスチック容器11の温度上昇と、それに伴う熱変形を抑制できる。さらに、通電された発熱体18から発生した放射光が通過できる透明体からなるチャンバ30、例えばガラス製チャンバを下部チャンバ13の内側に配置すると、プラスチック容器11に接するガラス製チャンバの温度が上昇しにくいため、プラスチック容器11に与える熱的影響をさらに軽減させることができる。
【0035】
原料ガス供給管23は、上部チャンバ15の内側天井面の中央において下方に垂下するように支持されている。原料ガス供給管23には、流量調整器24a,24bとバルブ25a〜25cを介して原料ガス33が流入される。原料ガス33の供給は、出発原料が液体である場合には、バブリング法によって供給することができる。すなわち、原料タンク40a内に収容された出発原料41aに、流量調節器24aで流量制御しながらバブリングガスを供給し、出発原料41aの蒸気を発生させて原料ガス33として供給する。
【0036】
原料ガス供給管23は、冷却管を有し、一体に形成されていることが好ましい。このような原料ガス供給管23の構造としては、例えば二重管構造がある。原料ガス供給管23において、二重管の内側管路は原料ガス流路17となっており、その一端は上部チャンバ15に設けられたガス供給口16に接続されていて、その他端はガス吹き出し孔17xとなっている。これにより原料ガスはガス供給口16に接続された原料ガス流路17の先端のガス吹き出し孔17xから吹き出されるようになっている。一方、二重管の外側管路は、原料ガス供給管23を冷却するための冷却水流路27であり、冷却管として役割をなしている。そして、発熱体18が通電され発熱しているとき、原料ガス流路17の温度が上昇する。これを防止するため、冷却水流路27に冷却水が循環している。すなわち、冷却水流路27の一端では、上部チャンバ15に接続された不図示の冷却水供給手段から冷却水の供給がなされ、同時に冷却水供給手段に冷却を終えた冷却水が戻される。一方、冷却水流路27の他端は、ガス吹き出し孔17x付近において封止されていて、ここで冷却水が折り返して戻される。冷却水流路27によって、原料ガス供給管23全体が冷却される。冷却することでプラスチック容器11に与える熱的影響を低減させることができる。したがって、原料ガス供給管23の材質は絶縁体で熱伝導率が大きいものが良い。例えば、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素若しくは酸化アルミニウムを主成分とする材料で形成されたセラミック管であるか、又は、窒化アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素若しくは酸化アルミニウムを主成分とする材料で表面が被覆された金属管であることが好ましい。発熱体に安定して通電することができ、耐久性があり、かつ、発熱体で発生した熱を熱伝導によって効率よく排熱させることができる。
【0037】
原料ガス供給管23について、不図示の他形態として、次のようにしてもよい。すなわち、原料ガス供給管を二重管とし、その外側管を原料ガス流路として外側管の側壁に孔、好ましくは複数の孔を開ける。一方、原料ガス供給管の二重管の内側管は、緻密な管で形成し、冷却水流路として冷却水を流す。発熱体は原料ガス供給管の側壁に沿って配線されるが、側壁に沿った部分の発熱体に、外側管の側壁に設けた孔を通った原料ガスが接触し、効率よく化学種を生成させることができる。
【0038】
ガス吹き出し孔17xは、プラスチック容器11の底と離れすぎていると、プラスチック容器11の内部に薄膜を形成することが難しい。本実施形態では、原料ガス供給管23の長さは、ガス吹き出し孔17xからプラスチック容器11の底までの距離L1が5〜50mmとなるように形成することが好ましい。膜厚の均一性が向上する。5〜50mmの距離で均一な薄膜をプラスチック容器11の内表面に成膜することができる。距離が50mmより大きいとプラスチック容器11の底に薄膜が形成しにくくなる場合がある。また、距離が5mmより小さいと原料ガスの吹き出しができにくくなる場合、又は膜厚分布が不均一になる場合がある。この事実は、理論的にも把握することができる。500mlの容器の場合、容器の胴径が6.4cm、常温の空気の平均自由工程λ=0.68/Pa[cm]から、分子流は圧力<0.106Pa、粘性流は圧力>10.6Pa、中間流は0.106Pa<圧力<10.6Paとなる。成膜時のガス圧5〜100Paでは、ガスの流れは中間流から粘性流となり、ガス吹き出し孔17xとプラスチック容器11の底の距離に最適条件があることになる。
【0039】
発熱体18は、原料ガスの分解を促進する。発熱体18は配線形状に形成され、原料ガス供給管23の上部チャンバ15における固定箇所の下方に設けた、配線19と発熱体18との接続箇所となる接続部26aに、発熱体18の一端が接続される。そして先端部分であるガス吹き出し孔17xに設けた絶縁セラミックス部材35で支持される。さらに、折り返して、接続部26bに発熱体18の他端が接続される。このように、発熱体18は原料ガス供給管23の側面に沿って支持されているため、下部チャンバ13の内部空間のほぼ主軸上に位置するように配置されることとなる。
図2では、発熱体18は、原料ガス供給管23の軸と平行となるように原料ガス供給管23の周囲に沿って配置した場合を示したが、接続部26aを起点として原料ガス供給管23の側面に螺旋状に巻きつけ、ガス吹き出し孔17x付近に固定された絶縁セラミックス35で支持したあと、接続部26bに向けて折り返して戻してもよい。ここで発熱体18は、絶縁セラミックス35に引っ掛けることで原料ガス供給管23に固定されている。
図2では、発熱体18は、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17x付近において、ガス吹き出し孔17xの出口側に配置されている場合を示した。これによって、ガス吹き出し孔17xから吹き出た原料ガスは発熱体18と接触しやすくなるため、原料ガスを効率よく活性化させることができる。ここで、発熱体18は、原料ガス供給管23の側面から僅かに離して配置することが好ましい。原料ガス供給管23の急激な温度上昇を防止するためである。また、ガス吹き出し孔17xから吹き出た原料ガス及び反応室12にある原料ガスとの接触機会を増やすことができる。この発熱体18を含む原料ガス供給管23の外径は、プラスチック容器の口部21の内径よりも小さいことが必要である。発熱体18を含む原料ガス供給管23をプラスチック容器の口部21から挿入するためである。したがって、必要以上に発熱体18を原料ガス供給管23の表面から離すと、原料ガス供給管23をプラスチック容器の口部21から挿入するときに接触しやすくなってしまう。発熱体18の横幅は、プラスチック容器の口部21から挿入する時の位置ズレを考慮すると、10mm以上、(口部21の内径−6)mm以下が適当である。例えば、口部21の内径はおおよそ21.7〜39.8mmである。
【0040】
発熱体18は、導電性を有するため、例えば、通電することで発熱させることができる。
図2に示す装置では、発熱体18には、接続部26a,26b及び配線19を介して、ヒータ電源20が接続されている。ヒータ電源20によって発熱体18に電気を流すことで、発熱体18が発熱する。なお、本発明は、発熱体18の発熱方法に限定されない。
【0041】
また、プラスチック容器の口部21から容器の肩にかけてはプラスチック容器11の成形時の延伸倍率が小さいため、高温に発熱する発熱体18が近くに配置されると、熱による変形を起こしやすい。実験によれば、配線19と発熱体18との接続箇所である接続部26a,26bの位置を、プラスチック容器の口部21の下端から10mm以上離さないとプラスチック容器11の肩の部分が熱変形を起こし、50mmを超えると、プラスチック容器11の肩の部分に薄膜が形成しにくくなった。そこで発熱体18は、その上端がプラスチック容器の口部21の下端から10〜50mm下方に位置するように配置されることが良い。すなわち、接続部26a,26bと口部21の下端との距離L2が10〜50mmとなるようにすることが好ましい。容器の肩部の熱変形を抑制できる。
【0042】
また上部チャンバ15の内部空間には、排気管22が真空バルブ8を介して連通されており、図示しない排気ポンプによって真空チャンバ6の内部の反応室12の空気が排気されるようになっている。
【0043】
次に、
図2を参照しながら、ガスバリア性プラスチック容器11の内表面にガスバリア薄膜を形成する場合を例にとって、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法を説明する。本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法は、発熱した発熱体18に原料ガス33を接触させて、原料ガス33を分解して化学種34を生成させ、プラスチック成形体の表面(
図2では、プラスチック容器11の内表面)に化学種34を到達させることによってガスバリア薄膜を形成する成膜工程を有するガスバリア性プラスチック成形体の製造方法において、原料ガス33として、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用い、
該有機シラン系化合物が、ビニルシラン、ジシリルアセチレン又は2‐アミノエチルシランであり、かつ、発熱体18として、Mo,W,Zr,Ta,V,Nb,Hfの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料を用い、発熱体18の発熱温度を、1550〜2400℃とする。
(化1)H
3Si‐Cn‐X
化1において、nは2又は3であり、XはSiH
3,H又はNH
2である。
【0044】
原料ガスとして上記の一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、薄膜を形成する場合、プラズマCVD法を用いると、500mlのペットボトルの酸素透過率を2分の1程度にまでしか抑制できず、実用性能として不十分である。プラズマCVD法によって、DLC又はSiOxからなる薄膜を形成すると、500mlのペットボトルの酸素透過率を10分の1以下にできることが知られているが、炭酸飲料を充填した場合には、ボトルの膨張に伴いガスバリア性が低下していく。具体的には、プラズマCVD法でDLC膜又はSiOx膜を成膜した、500mlのペットボトル(樹脂量23g)に、4GV(ガスボリューム)の炭酸水を充填して、38℃の条件下で5日間保持すると、通常、ペットボトルの容量は18〜21cm3(成膜されていないペットボトルの場合は、22〜26cm3)膨張し、膨張後の酸素透過率は1.5〜2.9倍に増加する。これは、ペットボトルの膨張及び膨張による薄膜のダメージが総合的に現れた結果である。一方、原料ガスとして上記の一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いて、薄膜を形成する場合、発熱体CVD法を用いると、500mlのペットボトルにおいて、酸素透過率を例えば、10分の1以下に低減でき、十分な実用性能を得ることができる。また、炭酸飲料を充填した場合には、ボトルの膨張を効果的に抑制でき、かつ、ガスバリア性が実質低下しない。具体的には、発熱体CVD法を用いて成膜した、500mlのペットボトル(樹脂量23g)に、4GV(ガスボリューム)の炭酸水を充填して、38℃の条件下で5日間保持すると、通常、ボトル容量は13〜17cm3(成膜されていないボトルの場合は、22〜26cm3)しか膨張せず、膨張後の酸素透過率は1.2〜1.3倍の増加に留まる。
【0045】
(成膜装置へのプラスチック成形体の装着)
まず、ベント(不図示)を開いて真空チャンバ6内を大気開放する。反応室12には、上部チャンバ15を外した状態で、下部チャンバ13の上部開口部からプラスチック成形体91としてのプラスチック容器11が差し込まれて、収容される。この後、位置決めされた上部チャンバ15が降下し、上部チャンバ15につけられた原料ガス供給管23とそれに固定された発熱体18がプラスチック容器の口部21からプラスチック容器11内に挿入される。そして、上部チャンバ15が下部チャンバ13にOリング14を介して当接することで、反応室12が密閉空間とされる。このとき、下部チャンバ13の内壁面とプラスチック容器11の外壁面との間隔は、ほぼ均一に保たれており、かつ、プラスチック容器11の内壁面と発熱体18との間の間隔も、ほぼ均一に保たれている。
【0046】
(圧力調整工程)
次いでベント(不図示)を閉じたのち、排気ポンプ(不図示)を作動させ、真空バルブ8を開とすることにより、反応室12内の空気が排気される。このとき、プラスチック容器11の内部空間のみならずプラスチック容器11の外壁面と下部チャンバ13の内壁面との間の空間も排気されて、真空にされる。すなわち、反応室12全体が排気される。そして反応室12内が必要な圧力、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。1.0Pa未満では、排気時間がかかる場合がある。また、100Paを超えると、プラスチック容器11内に不純物が多くなり、バリア性の高い容器を得ることができない場合がある。大気圧から、1.4〜50Paに到達するように減圧すると、適度な真空圧とともに、大気、装置及び容器に由来する適度な残留水蒸気圧を得ることができ、簡易にバリア性のある薄膜を形成できる。
【0047】
(成膜工程‐発熱体への通電)
次に発熱体18を、例えば通電することで発熱させる。発熱体18の材料は、Mo(モリブデン),W(タングステン),Zr(ジルコニウム),Ta(タンタル),V(バナジウム),Nb(ニオブ),Hf(ハフニウム)の群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料である。より好ましくは、Mo,W,Zr,Taの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料である。発熱体18の発熱温度は、1550〜2400℃とする。より好ましくは、1700〜2100℃である。1550℃未満では、原料ガスを効率的に分解することができず、成膜に時間がかかり作業効率に劣る。2400℃を超えると、発熱温度が過剰となり、不経済である。また、発熱体18の材料によっては変形する場合がある。プラスチック成形体への熱ダメージが懸念される。
【0048】
発熱体18に用いる金属元素を含む材料は、純金属、合金又は金属の炭化物であることが好ましい。発熱体18として、Mo,W,Zr,Ta,V,Nb又はHfを主成分とする合金を用いる場合、当該合金では、主成分となる金属以外の成分の含有量が25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下である。また、発熱体18として炭化タンタル(TaC
x)を用いる場合、炭化タンタル(TaC
x)中の炭素原子の比率は質量比で0質量%を超え6.2質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3.2質量%以上6.2質量%以下である。発熱体18として炭化ハフニウム(HfC
x)を用いる場合、炭化ハフニウム(HfC
x)中の炭素原子の比率は質量比で0質量%を超え6.3質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3.2質量%以上6.3質量%以下である。発熱体18として炭化タングステン(WC
x)を用いる場合、炭化タングステン(WC
x)中の炭素原子の比率は質量比で0質量%を超え6.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3.0質量%以上6.1質量%以下である。発熱体18として炭化モリブデン(MoC
x)を用いる場合、炭化モリブデン(MoC
x)中の炭素原子の比率は質量比で0質量%を超え5.9質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、2.9質量%以上5.9質量%以下である。
【0049】
(成膜工程‐原料ガスの導入)
この後、原料ガス33として、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を供給する。化1において、Cnに相当する炭化水素構造における炭素間の結合は、単結合、二重結合又は三重結合のいずれでもよい。より好ましくは直鎖状の構造である。また、水素含有量の少ない二重結合又は三重結合を有することが好ましい。例えば、n=2のときは、Cnの態様例は、C‐C間が単結合である態様(C
2H
4),C‐C間が二重結合である態様(C
2H
2),C‐C間が三重結合である態様(C
2)である。n=3のときは、Cnの態様例は、C‐C間が単結合である態様(C
3H
6),C‐C間が単結合及び二重結合である態様(C
3H
4),C‐C間が単結合及び三重結合である態様(C
3H
2)である。具体的には、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物は、例えば、ビニルシラン(H
3SiC
2H
3)、ジシラブタン(H
3SiC
2H
4SiH
3)、ジシリルアセチレン(H
3SiC
2SiH
3)、2‐アミノエチルシラン(H
3SiC
2H
4NH
2)である。この中で、ビニルシラン、ジシラブタン又はジシリルアセチレンであることが好ましい。
【0050】
原料ガス33は、ガス流量調整器24aで流量制御して供給する。さらに、必要に応じてキャリアガスをガス流量調整器24bで流量制御しながら、バルブ25cの手前で原料ガス33に混合する。キャリアガスは、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスである。すると、原料ガス33は、ガス流量調整器24aで流量制御された状態で、又はキャリアガスによって流量が制御された状態で、所定の圧力に減圧されたプラスチック容器11内において、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17xから発熱した発熱体18に向けて吹き出される。このように発熱体18を昇温完了後、原料ガス33の吹き付けを開始することが好ましい。成膜初期から、発熱体18によって十分に活性化された化学種34を生成させることができ、ガスバリア性の高い膜を得ることができる。
【0051】
原料ガス33が、液体である場合には、バブリング法で供給することができる。バブリング法に用いるバブリングガスは、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスであり、窒素ガスがより好ましい。すなわち、原料タンク40a内の出発原料41aを、バブリングガスを用いてガス流量調整器24aで流量制御しながらバブリングすると、出発原料41aが気化してバブル中に取り込まれる。こうして、原料ガス33は、バブリングガスと混合した状態で供給される。さらに、キャリアガスをガス流量調整器24bで流量制御しながら、バルブ25cの手前で原料ガス33に混合する。すると、原料ガス33は、キャリアガスによって流量が制御された状態で、所定の圧力に減圧されたプラスチック容器11内において、原料ガス供給管23のガス吹き出し孔17xから発熱した発熱体18に向けて吹き出される。ここで、バブリングガスの流量は、3〜50sccmであることが好ましく、より好ましくは、5〜15sccmである。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0〜80sccmであることが好ましい。より好ましくは、5〜50sccmである。キャリアガスの流量によって、プラスチック容器11内の圧力を20〜80Paに調整することができる。
【0052】
(成膜工程‐成膜)
原料ガス33が発熱体18と接触すると化学種34が生成される。この化学種34が、プラスチック容器11の内壁に到達することで、ガスバリア薄膜を堆積することになる。成膜工程において発熱体18を発熱させて原料ガスを発熱体18に吹き付ける時間(以降、成膜時間ということもある。)は、1.0〜20秒であることが好ましく、より好ましくは、1.0〜8.5秒である。成膜時の真空チャンバ内の圧力は、例えば1.0〜100Paに到達するまで減圧することが好ましい。より好ましくは、1.4〜50Paである。
【0053】
本発明者らが実験したところによると、原料ガスとして、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物以外の有機シラン系化合物(例えば、モノメチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン)を用いて形成した薄膜は、表面を条件(1)でXPS分析すると、Siピークが観察されず、SiO、SiC又はSiOCに基づくメインピークが観察された。そして、この薄膜を備えるプラスチック成形体は、BIFが3未満であり、単独種のガスでは、高いガスバリア性を有する薄膜を得ることができないことを確認した。また、発熱体18として、Mo,W,Zr,Ta,V,Nb又はHf以外の金属(例えば、Ir(イリジウム)、Re(レニウム)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Ti(チタン)、Cr(クロム))を用いると、原料ガス33として一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用いても、成膜効率が悪く、生産性が劣るという問題点を有していた。そして、得られた極薄の薄膜の表面を条件(1)でXPS分析すると、Siピークが観察されず、SiO
2に基づくメインピークがわずかに観察された。一方、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体は、原料ガス33として、一般式(化1)で表される有機シラン系化合物を用い、更に、発熱体18の材料を、Mo,W,Zr,Ta,V,Nb,Hfの群の中から選ばれる一つ又は二つ以上の金属元素を含む材料を用いるため、原料ガス33が単独種のガスでも、BIFが15以上の高いガスバリア性を有する薄膜を形成することができた。
【0054】
さらに、タンタル元素を含む材料として、金属タンタル、タンタル基合金若しくは炭化タンタル(TaC
x)を用いる、タングステン元素を含む材料として、金属タングステン、タングステン基合金若しくは炭化タングステン(WC
x)を用いる、モリブデン元素を含む材料として、金属モリブデン、モリブデン基合金若しくは炭化モリブデン(MoC
x)を用いる、又はハフニウム元素を含む材料として、金属ハフニウム、ハフニウム基合金若しくは炭化ハフニウム(HfC
x)を用いることで、これらの材料は、触媒活性が高いため、原料ガスをより効率的に分解することができる。また、化学種34を効率的に生成して緻密な膜を堆積させるため、高いガスバリア性を有する薄膜を形成することができる。
【0055】
発熱体CVD法では、プラスチック容器11とガスバリア薄膜との密着性は非常によい。原料ガス流路17から水素ガスを導入すると、水素ガスは発熱体18との接触分解反応によって活性化され、この活性種によってプラスチック容器11の表面のクリーニングが行える。より具体的には、活性化水素H*や水素ラジカル(原子状水素)Hによる水素引き抜き反応やエッチング作用を期待することができる。
【0056】
また、原料ガス流路17からNH
3ガスを導入すると、発熱体18との接触分解反応によって生じた活性種により、プラスチック容器11の表面を改質して安定化させる表面処理が行える。より具体的には、表面に対する窒素含有官能基の付加や、プラスチックの高分子鎖の架橋反応を期待することができる。
【0057】
ガスバリア薄膜の膜厚は、発熱体18の材料、プラスチック容器11内の原料ガスの圧力、供給ガス流量、成膜時間などに依存するが、ガスバリア性の向上効果と、プラスチック容器11との密着性、耐久性及び透明性などの両立を図るため、5〜200nmとなるようにするのが好ましい。より好ましくは、10〜100nmである。
【0058】
(成膜の終了)
薄膜が所定の厚さに達したところで、原料ガス33の供給を止め、反応室12内を再度排気した後、図示していないリークガスを導入して、反応室12を大気圧にする。この後、上部チャンバ15を開けてプラスチック容器11を取り出す。このようにして得られたガスバリア性プラスチック成形体は、BIFを6以上とすることができる。具体例としては、500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)において、酸素透過度を0.0058cc/容器/日以下とすることができる。720mlのペットボトル(高さ279mm、胴外径70mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚509μm及び樹脂量38g)において、酸素透過度を0.0082cc/容器/日以下とすることができる。
【0059】
本実施形態では、熱アニール工程を経てもよい。熱アニール工程は、薄膜が所定の厚さに達し、原料ガス33の供給を止め、反応室内を一定時間、排気した後、行うことができる。熱アニール工程を経ることで、ガスバリア膜の酸素透過度をより小さくすることができる。熱アニール工程における発熱体18の発熱温度は、1450℃以上であることが好ましく、1950℃以上であることがより好ましい。1450℃未満では、熱アニール処理の効果が得られない場合がある。また、発熱温度の上限は、発熱体18が軟化温度よりも低温とすることが好ましい。上限温度は、発熱体の材料によって異なるが、例えば、モリブデンであれば、2400℃が好ましい。熱アニール工程において発熱体18を発熱させる時間は、1.0〜5.0秒であることが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0秒である。熱アニール工程を経る場合には、熱アニール工程後、発熱体18への通電を終了する。
【0060】
本実施形態に係るガスバリア性プラスチック成形体の製造方法では、成膜工程の後に、雰囲気中に酸化ガスを添加して発熱体を加熱する発熱体18の再生工程を有することが好ましい。原料ガスとして有機シラン系化合物を用いて、同一条件で成膜工程を繰り返し行うと、30回程度で発熱体18の表面で炭化が進行して、ガスバリア薄膜92のガスバリア性が低下する場合がある。この対策として、発熱体18の表面から炭素成分を除去する発熱体18の再生工程を実施することが好ましい。発熱体18の再生工程は、所定の圧力に調整した真空チャンバ6内で、発熱した発熱体18に酸化ガスを接触させることで、発熱体18の表面から炭素成分を容易に除去することができ、連続成膜後のガスバリア薄膜92のガスバリア性が低下することを抑制できる。発熱体18の再生工程は、酸化ガスを供給後、発熱体18を発熱させることが好ましい。酸化ガスは、二酸化炭素であることが好ましい。発熱体18の再生工程は、成膜工程を1回行うごとに行うか又は成膜工程を複数回行った後に行ってもよい。また、発熱体18の再生工程は、成膜工程後、プラスチック成形体を真空チャンバ6から取り出した後に行うことが好ましい。
【0061】
発熱体18の再生工程では、発熱体18の加熱温度は、1900℃以上2500℃以下であることが好ましい。より好ましくは、2000℃以上2400℃以下である。加熱時間は成膜時間の0.5倍以上3.0倍以下であることが好ましい。また、添加する酸化ガスが二酸化炭素である場合、発熱体18の再生工程における真空チャンバ内の圧力(以降、再生時の真空圧ということもある。)は、1.3Pa以上14Pa未満であることが好ましい。より好ましくは、1.4Pa以上13Pa以下である。再生時の真空圧は、成膜時の真空チャンバ内の原料ガス33の分圧(以降、成膜時の原料ガスの分圧ということもある。)に対して、1倍を超え9倍以下であることが好ましい。再生時の真空圧が成膜時の原料ガスの分圧の1倍以下では、炭化物の蓄積速度が除去速度を上回り、複数の成形体に連続して成膜したときに、後半で成膜したもののガスバリア性が前半で成膜したもののガスバリア性よりも低下する場合がある。また、再生時の真空圧が成膜時の原料ガスの分圧の9倍を超えると、炭化物の除去に加えて発熱体18の表面の酸化が生じ、酸化成分のガスバリア薄膜中への混入又は蒸発による発熱体18の消耗などによって、連続成膜時に後半に成膜したもののガスバリア性が低下する場合がある。なお、発熱体18の再生工程における酸化ガスの真空チャンバ6内への供給経路は、成膜工程における原料ガスの供給経路と同一とするか、又は原料ガスの供給経路とは異なる経路としてもよい。
【0062】
次に、成膜工程を繰り返したときにガスバリア薄膜のガスバリア性が低下する原理及び発熱体18の再生工程の効果について、発熱体が純度99.5質量%の金属タンタルであり、これを2000℃に加熱して成膜工程を連続100回繰り返し行った場合を例にとって説明する。ここで、発熱体の表面の分析は、発熱体の表面から深さ1μmの元素組成を走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、SU1510)を用いて観察し、同装置付属のエネルギー分散型X線分析装置(堀場製作所社製、EMAX ENERGY)を用いて行った。炭素の元素濃度は、成膜前は1at.%未満であったのに対して、成膜工程を連続100回繰り返し後は最大50at.%まで増加することを確認した。これを質量換算すると、成膜前は0.13質量%未満であり、成膜工程を連続100回繰り返し後は最大で6.2質量%であった。発熱体の表面に生成した炭化物の電気抵抗は、発熱体の中心部を形成する金属タンタルの電気抵抗と比べて大きい。したがって、発熱体の表面が炭化すると、当該表面は通電しても温度が上昇しにくくなる。そうすると、ガスバリア薄膜92の形成に十分な温度を確保できなくなり、ガスバリア性の高い緻密な膜が得られない場合がある。発熱体18に印加する電圧を増加して、発熱体の表面まで十分に昇温させることで、PETボトルの場合であれば、ガスバリア性を10倍以上に向上可能なガスバリア薄膜92を形成することができる。しかし、量産工程において発熱体表面の急激な電気抵抗の変化に対応して印加電圧を調整する制御は複雑である。そこで、発熱体18の再生工程を行うことで、印加電圧の複雑な制御が不要となり、成膜工程を連続して行っても、ガスバリア性の高い薄膜を形成しつづけることができる。
【0063】
ガスバリア薄膜をプラスチック容器の内表面に形成する方法について説明してきたが、ガスバリア薄膜をプラスチック容器の外表面に形成するには、例えば、特許文献4の
図3に示す成膜装置を用いて行うことができる。また、成膜装置は、
図2に示す装置に限定されず、例えば、特許文献2又は3に示すように種々の変形をすることができる。
【0064】
プラスチック成形体が、プラスチック容器である態様について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、プラスチック成形体をフィルム又はシートとすることができる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0066】
(実施例1)
プラスチック成形体として、500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)の内表面に、
図2に示す成膜装置を用いてガスバリア薄膜を形成した。ペットボトルを真空チャンバ6内に収容し、1.0Paに到達するまで減圧した。次いで、発熱体18として、φ0.5mm、長さ44cmのモリブデンワイヤーを2本用い、発熱体18に直流電流を24V印加し、2000℃に発熱させた。その後、ガス流量調整器24aから原料ガスとしてビニルシランを、バルブ開度を調整しながら供給し、ペットボトルの内表面にガスバリア薄膜を堆積させた。ここで、ガス流量調整器24aからガス供給口16の配管は、アルミナ製の1/4インチ配管で構成し、原料ガスの流量は、50sccmとした。成膜時の圧力(全圧)を1.4Paとした。成膜時間は、6秒間とした。このとき、ビニルシランの分圧(成膜時の原料ガスの分圧)は、成膜時の圧力(全圧)に等しく、1.4Paであった。
【0067】
(実施例2)
実施例1において、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1550℃とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0068】
(実施例3)
実施例1において、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を2200℃とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0069】
(実施例4)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、1,4‐ジシラブタンとした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。成膜時間は6秒間とした。
【0070】
(実施例5)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、ジシリルアセチレンとした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。成膜時間は、6秒間とした。
【0071】
(実施例6)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、タングステンワイヤーとした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。成膜時間は、6秒間とした。
【0072】
(実施例7)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、ジルコニウムワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1700℃とし、成膜時間を6秒間とした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0073】
(実施例8)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、タンタルワイヤーとした以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0074】
(実施例9)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、タンタルワイヤーとし、成膜時間8秒間を5回繰り返した以外は、実施例1に準じてガスバリア性プラスチック成形体を得た。
【0075】
(実施例10)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、炭化タンタル(TaC
x(X=1、TaC
x中の炭素原子の質量比率は6.2質量%、TaC
x中の炭素原子の元素濃度は50at.%))ワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を2400℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。
【0076】
(実施例11)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、炭化タングステン(WC
x(X=1、WC
x中の炭素原子の質量比率は6.1質量%、WC
x中の炭素原子の元素濃度は50at.%))ワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を2400℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。
【0077】
(比較例1)
プラスチック成形体として、500mlのペットボトル(高さ133mm、胴外径64mm、口部外径24.9mm、口部内径21.4mm、肉厚300μm及び樹脂量29g)の内表面に、特許文献6の
図1に示した製造装置を用いて薄膜を形成した。ペットボトルを外部電極内に収容し、真空ポンプで外部電極内を5Paに達するまで減圧した。この後、原料ガス供給管に原料ガスとしてビニルシランを、流量80sccmに調整しながら、ペットボトルの内部へ供給した。原料ガスの供給後、外部電極に整合器を介して高周波電源から電力を投入し、外部電極と内部電極との間に、13.5MHz、800Wの高周波電圧を印加し、プラズマを発生させた。そして、原料ガスのプラズマを発生させた状態で、2秒間保持して、ペットボトルの内表面に薄膜を形成した。
【0078】
(比較例2)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、モノメチルシランとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0079】
(比較例3)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、ジメチルシランとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0080】
(比較例4)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、トリメチルシランとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0081】
(比較例5)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、テトラメチルシランとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0082】
(比較例6)
実施例1において、原料ガスとして、ビニルシランに替えて、ジメトキシメチルビニルシランとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0083】
(比較例7)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、イリジウムワイヤーとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0084】
(比較例8)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、レニウムワイヤーとした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0085】
(比較例9)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、白金ワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1500℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0086】
(比較例10)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、ロジウムワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1500℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0087】
(比較例11)
実施例1において、発熱体18として、モリブデンワイヤーに替えて、チタンワイヤーとし、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1500℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。成膜時間は、6秒間とした。
【0088】
(比較例12)
実施例1において、発熱体18に印加する直流電流を調整して発熱温度を1500℃とした以外は、実施例1に準じてプラスチック成形体の表面に薄膜を形成した。薄膜の膜厚を30nmとするのに要した成膜時間は、25秒であった。
【0089】
得られた実施例及び比較例のガスバリア性プラスチック成形体及び薄膜を備えるプラスチック成形体について、次の方法で評価を行った。評価結果を表1〜4に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
(XPS分析)
実施例1〜8、10、11、比較例1〜4及び6で形成した薄膜の表面をXPS装置(型式:QUANTERASXM、PHI社製)を用いて分析した。薄膜表面の構成元素の比率を表1に示す。XPS分析の条件は、次の通りである。
X線源:単色化Al(1486.6ev)
検出領域:100μmφ
スパッタ条件:Ar+1.0kv
【0095】
図3は、実施例1の薄膜表面を条件(1)でXPS分析したスペクトルにおいて、観察されたピークを波形解析によって分離した図である。
図4は、実施例1の薄膜表面を条件(2)でXPS分析したスペクトルを示す図である。
図5は、実施例4の薄膜表面を条件(1)でXPS分析したスペクトルにおいて、観察されたピークを波形解析によって分離した図である。
図6は、比較例2の薄膜表面を条件(1)でXPS分析したスペクトルにおいて、観察されたピークを波形解析によって分離した図である。なお、
図3、
図5及び
図6において、波形解析で想定した結合状態は、Si1:Siピーク(Si‐Si結合又はSi‐H結合)、Si2:SiC,SiO
1C
3,Si
2O、Si3:SiO
2C
2,SiO、Si4:SiO
3C
1,Si
2O
3、Si5:SiO
2である。
【0096】
実施例1では、
図3に示すように、条件(1)において、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークが観察され、
図4に示すように、条件(2)において、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークが観察されなかった。このことから、実施例1の薄膜は、Si‐H結合を有すると推定できる。なお、他の実施例についても同様のピークが得られた。さらに、
図3より、実施例1のピークは、Si1(Siピーク)がメインピークであることが確認できた。
図5に示すように、実施例4も、Si1(Siピーク)がメインピークであることが確認できた。
【0097】
一方、比較例2では、
図6に示すように、条件(1)において、SiとSiとの結合エネルギーのピーク出現位置に、ピークが観察されず、SiC、SiOC、SiOx又はSiO
2のピーク出現位置に、ピークが観察された。さらに、
図6より、比較例2のピークは、Si3がメインピークであることが確認できた。なお、比較例1及び3〜8もSi1を有さず、メインピークが、比較例1ではSi2であり、比較例3〜6ではSi3であり、比較例7〜11ではSi5であった。
【0098】
(RBS分析による薄膜の元素比率)
実施例1〜8で形成した薄膜を、高分解能RBS装置(型式:HRBS500、神戸製鋼所社製)を用いて分析した。薄膜の構成元素の比率を表2に示す。
【0099】
(膜厚)
膜厚は、触針式段差計(型式:α‐ステップ、ケーエルエーテン社製)を用いて測定した値である。評価結果を表3に示す。
【0100】
(酸素透過度)
酸素透過度は、酸素透過度測定装置(型式:Oxtran 2/20、Modern Control社製)を用いて、23℃、90%RHの条件にて測定し、測定開始から24時間コンディションし、測定開始から72時間経過後の値とした。参考として、薄膜形成前のペットボトルの酸素透過度を測定し、未成膜ボトルとして表に示した。評価結果を表3に示す。
【0101】
(BIF)
BIFは、数
4において、未成膜ボトルの酸素透過度の値を薄膜未形成のプラスチック成形体の酸素透過度とし、実施例又は比較例で得たプラスチック容器の酸素透過度の値をガスバリア性プラスチック成形体の酸素透過度として算出した。評価結果を表3に示す。
【0102】
(膜密度)
膜密度は、各種濃度の炭酸カリウム水溶液100mlに、膜片を攪拌し、15分後の浮沈を目視で観察した。膜片は、市販の油性ペンのインクをPETボトル内に塗り、その上に実施例1、4及び5の条件に準じて、50μmの膜厚で成膜した後に、エタノールをしみ込ませた綿棒を用いて、PETボトルから取り出した。炭酸カリウム水溶液の水面に浮いた膜片は、当該水溶液の密度よりも密度が小さい(○)と判定し、また、炭酸カリウム水溶液の底面に沈んだ膜片は、当該水溶液の密度よりも密度が大きい(×)と判定し、炭酸カリウム水溶液の水面と底面との間で浮遊していた膜片は、当該水溶液の密度と同等(△)と判定し、△判定の範囲を密度の範囲とした。各種濃度の密度及び評価結果を、表4に示す。
【0103】
表1〜表3に示すように、実施例1〜実施例11のガスバリア薄膜は、薄膜中にSi‐H結合を有し、Si含有率が40.1%以上のSi含有層を有するため、酸素透過度の値が小さく、BIFが6以上であり、単独種の原料ガスで高いガスバリア性を有する薄膜を形成することができることが確認できた。
【0104】
一方、比較例1は、プラズマCVD法で薄膜を形成したため、薄膜中のSi含有率が低く、ガスバリア性に劣った。原料ガスとして、一般式(化1)以外のガスを用いた比較例は、薄膜中のSi含有率が低く、ガスバリア性に劣った。比較例7〜11は、発熱体として、Mo,W,Zr,Ta,V,Nb又はHf以外を用いたため、成膜効率が悪く、ガスバリア性に劣った。比較例12は、発熱体の発熱温度が低かったため、成膜効率が悪く、ガスバリア性に劣った。
【0105】
次に、発熱体の再生工程の効果を確認するための試験を行った。
【0106】
(実施例12)
実施例8に準じて成膜を100回行い、成膜が1回終了するごとに発熱体の再生工程を行った。各再生工程は、真空チャンバ6内の圧力が1.0Paの真空圧に到達した時点で、酸化ガスとしてCO
2を真空チャンバ6に供給して真空圧を12.5Pa(成膜時の原料ガスの分圧1.4Paの9.0倍の真空圧)とし、発熱体18を2000℃で6秒間加熱した。
【0107】
(実施例13)
実施例8に準じて成膜を100回行い、成膜が10回終了するごとに、発熱体の再生工程を行った。各再生工程は、発熱体の加熱時間を60秒とした以外は実施例12と同条件で行った。
【0108】
(実施例14)
実施例10に準じて成膜を100回行い、成膜が1回終了するごとに発熱体の再生工程を行った。各再生工程は、実施例12と同条件で行った。
【0109】
(実施例15)
実施例10に準じて成膜を100回行い、成膜が10回終了するごとに発熱体の再生工程を行った。各再生工程は、実施例13と同条件で行った。
【0110】
(実施例16)
実施例12において、CO
2を真空チャンバ6に供給して真空圧を1.4Pa(成膜時の原料ガスの分圧1.4Paの1.0倍の真空圧)以外は、実施例12と同条件で発熱体の再生工程を行った。
【0111】
(実施例17)
実施例12において、CO
2を真空チャンバ6に供給して真空圧を1.3Pa(成膜時の原料ガスの分圧1.4Paの0.93倍の真空圧)以外は、実施例12と同条件で発熱体の再生工程を行った。
【0112】
(参考例1)
実施例12において、CO
2を真空チャンバ6に供給して真空圧を14.0Pa(成膜時の原料ガスの分圧1.4Paの10.0倍の真空圧)以外は、実施例12と同条件で発熱体の再生工程を行った。
【0113】
(参考例2)
実施例8に準じて成膜を100回行い、発熱体の再生工程は行わなかった。
【0114】
(参考例3)
実施例10に準じて成膜を100回行い、発熱体の再生工程は行わなかった。
【0115】
(BIF測定)
実施例20〜実施例25及び参考例1〜参考例3について、成膜が1回目及び100回目のBIFをそれぞれ測定した。BIFの測定方法は、「ガスバリア性評価−BIF」に記載の方法とした。ガスバリア性評価の判定基準は、次のとおりである。BIFの測定結果を
図7に示す。
ガスバリア性評価の判定基準:
BIFが8以上である:実用レベル
BIFが5以上8未満である:実用レベル
BIFが2以上5未満である:実用下限レベル
BIFが2未満である:実用不適レベル
【0116】
図7からわかるように、実施例12〜実施例17は、いずれも1回目及び100回目ともにBIFが実用レベルであった。特に、実施例12〜実施例16は、いずれも1回目及び100回目の成膜でガスバリア性の有意な差異は無く、100回目のBIFが8以上であった。実施例17は、再生時の真空圧が成膜時の真空チャンバ内の真空圧よりも低かったため、100回目のBIFが3.6であったが実用レベルを維持していた。これに対して、参考例1〜参考例3は、1回目の成膜ではガスバリア性が良好であったが、100回目の成膜ではガスバリア性が大きく低下した。参考例1は、再生工程を行ったが、再生時の真空圧が高すぎたため、発熱体の表面が酸化して連続成膜後のガスバリア性が低下したと考えられる。以上より、再生工程を行うことによって、連続成膜適性が向上することが確認できた。