(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894441
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】成形型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20160317BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C33/42
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-690(P2012-690)
(22)【出願日】2012年1月5日
(65)【公開番号】特開2013-139126(P2013-139126A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100076048
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜幾
(74)【代理人】
【識別番号】100141645
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 健司
(72)【発明者】
【氏名】渥美 和彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭一郎
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平3−169606(JP,A)
【文献】
特開平9−217238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/38
B29C 33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッチを付した原型モデルを複数回転写する工程を経て得られた入槽モデルに基づいて、電鋳により成形型を形成する成形型の製造方法において、
前記原型モデルを製作する工程は、木型モデルの装着面に表皮シートを張り付け、少なくとも1本の細糸が他の細糸と異なる太さに設定された複数の細糸を撚った糸を、前記木型モデルの装着面に設けられた複数の貫通孔に順次差し込むことで、該木型モデルに張り付けられた前記表皮シートの表面に前記ステッチを形成する
ことを特徴とする成形型の製造方法。
【請求項2】
前記糸は、1本の細糸と、この細糸より細く設定された太さの等しい2本以上の細糸とを撚って構成された請求項1記載の成形型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステッチ模様が形成された部材を成形するための成形型の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の乗員室には、インストルメントパネルやフロアコンソール等の車両内装部材が設置されている。このような車両内装部材は、乗員室の雰囲気に大きく寄与するため、所要形状に形成された合成樹脂製の基材表面を表皮材で被覆して質感を向上させている。例えば、前記表皮材としては、本革製のものがある。本革の表皮材は、素材自体の質感がよく、高級感があるが、素材が高価で製造コストが嵩んでしまう。そこで、合成樹脂製の表皮材の表面に、本革の表面模様に似せたシボ模様や、複数の本革片を糸で縫合する際に形成されるステッチの形状を再現することで、合成樹脂の表皮材を本革の表皮材の風合いに近付けている。
【0003】
合成樹脂の表皮材は、真空成形技術に基づいて樹脂シート材から所要形状に成形したもの、パウダースラッシュ成形技術に基づいて樹脂粉末から所要形状に成形したもの、スプレー成形技術に基づいてポリウレタン等から所要形状に成形したもの等、種々の成形方法によって成形されたものが実用化されている。これらの成形方法では、一般に電鋳により製造された所謂「電鋳型」が用いられている。
【0004】
電鋳型を製造するには、先ず、車両内装部材の基材と同一の外形形状に形成された木型モデルに、本革や合成樹脂等の表皮シートおよび糸を張り付けて原型モデルを製作する。次いで、シリコーン樹脂等を用いて、原型モデルの表皮シートおよび糸からなるステッチの形状が転写された転写面を有する反転モデルを製作する。そして、エポキシ樹脂等を用いて、反転モデルの転写面の形状が転写された型成形面を有する入槽モデルを製作する。この入槽モデルに基づいて電鋳により、入槽モデルの型成形面の形状が転写された表皮成形面を有する電鋳型を製作する。このように、電鋳型は、原型モデルにおける表皮シートおよびステッチの形状を、反転モデルの転写面、入槽モデルの型成形面、電鋳型の表皮成形面に順次転写することで製作される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−169606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図8(a)および(b)に例示するように、原型モデル68においてステッチ66を形成する糸60は、均等な太さの3本の細糸62,62,62を撚って構成されている。糸60の表面には、この撚られた細糸62に沿って螺旋状に凹む撚り目64が形成されている(
図8(c)参照)。しかしながら、糸60自体が小さい上に、糸60の表面に形成された撚り目64が浅いので、原型モデル68を反転モデルに転写しても、糸60の撚り目64の形状が転写され難い。また、電鋳型は、原型モデル68を複数回数転写して製造されるので、撚り目64の形状が潰れてしまうことがある。従って、得られた電鋳型で成形した表皮材のステッチ模様に撚り目64が再現され難い。
【0007】
すなわち本発明は、従来の技術に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、質感の高いステッチ模様を有する部材を成形し得る成形型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願請求項1に係る成形型の製造方法は、
ステッチを付した原型モデルを
複数回転写
する工程を経て得られた入槽モデルに基づいて、電鋳により成形型
を形成する成形型の製造方法
において、
前記原型モデルを製作する工程は、木型モデルの装着面に表皮シートを張り付け、少なくとも1本の細糸が他の細糸と異なる太さに設定された複数の細糸を撚った糸
を、前記木型モデルの装着面に設けられた複数の貫通孔に順次差し込むことで、該木型モデルに張り付けられた前記表皮シートの表面に前記ステッチを形成
することを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、少なくとも1本の細糸が他の細糸と異なる太さに設定された複数の細糸を撚った糸でステッチを形成するため、太さの異なる細糸が隣接する部分で、糸表面に大きな段差が生ずる。この段差によって糸の撚り目の凹凸形状が強調されるので、原型モデルを転写して形成される成形型に、糸の撚り目の形状をはっきりと転写できる。従って、得られた成形型で成形された部材は、糸の撚り目が再現され、質感が向上される。
そして、原型モデルにおいて糸の撚り目の凹凸形状が強調されるので、原型モデルを複数回転写した入槽モデルに基づいて成形型を形成しても、糸の撚り目の凹凸形状が潰れ難い。
【0010】
請求項
2に係る発明は、前記糸は、1本の細糸と、この細糸より細く設定された太さの等しい2本以上の細糸とを撚って構成されたことを要旨とする。
請求項
2に係る発明によれば、糸が、1本の細糸と、この細糸より細く設定された太さの等しい2本以上の細糸を撚って構成されているため、太さの等しい2本以上の細糸によって、太さの異なる細糸が隣接して凹凸形状が強調された撚り目の間隔を大きくできるので、原型モデルを転写しても糸の撚り目の凹凸形状が潰れ難い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る成形型の製造方法によれば、質感の高いステッチ模様を有する部材を成形し得る成形型を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例に係る原型モデルを製作する工程を示す説明図であって、(a)は表皮シートを木型モデルに貼り付けた状態を示し、(b)は表皮シートに糸でステッチを形成している状態を示し、(c)は実施例に係る原型モデルの概略断面図である。
【
図2】(a)は実施例に係る反転モデルを製作する工程を示す説明図であり、(b)は実施例に係る反転モデルの概略断面図である。
【
図3】実施例に係る入槽モデルを製作する工程を示す説明図である。
【
図4】実施例に係る電鋳型を製作する工程を示す説明図である。
【
図5】実施例の原型モデルにおけるステッチを示す説明図であって、(a)は
図1(c)のA矢視図であり、(b)は(a)における糸のZ−Z線断面図であり、(c)は(a)のW部拡大図である。
【
図7】実施例に係る製造方法で製造された電鋳型を使用して成形された表皮材を意匠面に備えるインストルメントパネルを、一部破断して表す概略斜視図である。
【
図8】従来の原型モデルにおけるステッチを形成する糸を示す概略説明図であって、(a)は平面図であり、(b)は(a)における糸のX−X線断面図であり、(c)は(a)のY部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る成形型の製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。実施例では、車両の乗員室に配設されるインストルメントパネルIPの意匠面を構成する合成樹脂製の表皮材52を成形するための電鋳型(成形型)10を製造する場合を例示して説明する。インストルメントパネルIPは、
図7に例示するように、所要形状に形成された基材54と、この基材54の表面を覆う合成樹脂製の表皮材52とから構成されている。表皮材52の表面には、ステッチを擬似的に再現したステッチ模様SDが形成されている。以下の説明では、表皮材52を単純な形状で例示する。
【0014】
実施例の電鋳型10の製造方法は、表面に糸26でステッチSが付された原型モデル14を製作する工程と、原型モデル14の表面の形状を転写した転写面34を有する反転モデル32を製作する工程と、反転モデル32の転写面34の形状を転写した型成形面46を有する入槽モデル44を製作する工程と、入槽モデル44の型成形面46の形状が転写された表皮成形面12を有する電鋳型10を製作する工程とを備えている。
【0015】
原型モデル14を製作するには、木材または人造木材等から前記基材54と同一の外形形状に形成された木型モデル18と、シボ模様が付された合成樹脂や本革等の表皮シート24とを用意する。そして、木型モデル18の装着面20に、接着剤等を用いて表皮シート24を張り付ける(
図1(a)参照)。次に、木型モデル18に貼り付けられた表皮シート24の表面に、糸26でステッチSを形成する。この際、ステッチSは、木型モデル18の装着面20に設けられたステッチSの各糸目に対応する複数の貫通孔22に、糸26を順次差し込むことで形成される(
図1(b)参照)。これにより、表面である表皮シート面16に糸26でステッチSが付された原型モデル14が製作される(
図1(c)および
図5(a)参照)。ステッチSを形成する糸26は、1本の細糸28a(実施例では、直径0.95mm)と、この細糸28aより細く設定された2本の細糸28b,28b(実施例では、直径0.5mm)とを撚って構成されている(
図5(b)参照)。実施例の糸26は、3本の細糸28a,28b,28bを、螺旋状にねじり合わせたものであり、太さの異なる細糸28a,28bが隣接する部分では、糸26の表面に大きな段差が形成されており、この段差によって糸26の撚り目30の凹凸形状が強調されている(
図5(c)参照)。
【0016】
反転モデル32は、
図2(a)に示すように、原型モデル14と、該原型モデル14に型閉めした際に、表皮シート面16に対して所要の間隔を保持する成形面を有する基型36とを用いて製作される。反転モデル32を製作するには、原型モデル14の表皮シート面16および基型36の成形面との間に画成されるキャビティ38にシリコーン40を注入し硬化させる。そして、原型モデル14および基型36を型開きすることで、基型36の成形面にシリコーン層42が形成された反転モデル32が得られる(
図2(b)参照)。シリコーン層42の外面は、原型モデル14の表皮シート面16の形状が転写された転写面34となっている。すなわち、転写面34には、表皮シート面16の模様に対応する形状やステッチSに対応する形状等の表皮シート面16の形状が転写されている。
【0017】
入槽モデル44は、
図3に示すように、反転モデル32を用いて製作されるもので、反転モデル32の転写面34に臨む凹部48へ熱硬化性または熱可塑性の樹脂を流し込み、この樹脂を転写面34に密着させつつ硬化させることで成形される。入槽モデル44には、反転モデル32の転写面34の形状が転写された型成形面46が形成される。すなわち、入槽モデル44の型成形面46には、原型モデル14の表皮シート面16と同一の形状が再現されている。実施例では、前記樹脂としてエポキシ樹脂が採用されている。
【0018】
電鋳型10は、
図4に示すように、入槽モデル44を用いて製作される。入槽モデル44の型成形面46に対して、銀鏡反応により導電膜を付与する導電処理を行う。次いで、導電処理が行われた入槽モデル44を電鋳槽50に入槽し、電鋳によって入槽モデル44の型成形面46に所要厚さの電鋳型10が形成される。実施例では、入槽モデル44の型成形面46をニッケルで電鋳している。電鋳型10には、入槽モデル44の型成形面46の形状が転写された表皮成形面12が形成される。すなわち、電鋳型10の表皮成形面12には、反転モデル32の転写面34と同一の形状が再現されている。
【0019】
実施例の電鋳型10の製造方法では、原型モデル14の表皮シート面16に、1本の細糸28aが他の細糸28b,28bと異なる太さに設定された3本の細糸28a,28b,28bを撚った糸26でステッチSが形成されている。このため、糸26の表面は、
図5(c)に示すように、太さの異なる細糸28a,28bが接する部分に、従来の糸60における細糸62,62が隣接する部分(
図8(c)参照)と比べて、大きな段差が形成される。この太さの異なる細糸28a,28bが隣接する部分に形成された大きな段差によって、糸26表面における糸26の撚り目30の凹凸形状が強調される。このため、原型モデル14の表皮シート面16の形状を転写した反転モデル32の転写面34に、ステッチSを形成する糸26の撚り目30の凹凸形状をはっきりと転写できる。従って、糸26の撚り目30の凹凸形状がはっきりと転写された反転モデル32の転写面34に基づいて形成される電鋳型10に、糸26の撚り目30の形状を転写できる。また、実施例の電鋳型10の製造方法では、1本の細糸28aと、この細糸28aより細く設定された太さの等しい2本の細糸28b,28bとを撚って構成された糸26でステッチSを形成しているため、太さの等しい2本の細糸28b,28bによって、太さの異なる細糸28a,28bが隣接する部分で凹凸形状が強調された撚り目30の間隔を大きくできる。従って、原型モデル14の表皮シート面16の形状を転写した際に、撚り目30の凹凸形状が潰れ難い。
【0020】
実施例の電鋳型10は、原型モデル14の表皮シート面16の形状を反転モデル32の転写面34に転写し、この転写面34の形状を入槽モデル44の型成形面46に転写し、この型成形面46の形状を表皮成形面12に転写して製造される。このように転写操作を複数回数繰返して原型モデル14を製造しても、原型モデル14においてステッチSを形成する糸26の撚り目30の凹凸形状が強調されているので、糸26の撚り目30の凹凸形状が製造過程で潰れ難い。従って、電鋳型10の表皮成形面12に、糸26の撚り目30の凹凸形状をはっきり転写できる。
【0021】
実施例の製造方法で製造された電鋳型10を使用して、真空成形技術、パウダースラッシュ成形技術、スプレー成形技術等に基づいて成形した表皮材52の表面には、ステッチSを形成する糸26の撚り目30の形状を含めた、表皮シート面16の形状が再現される。従って、電鋳型10を使用して表皮材52を成形することで、糸26の撚り目30の形状が再現された質感の高いステッチ模様SDが形成された表皮材52が得られる。
【0022】
(変更例)
前述した実施例に限定されず、以下のように変更することもできる。
(1) 糸は、2本または3本以上の細糸を撚って構成されていてもよい。また糸は、少なくとも1本の細糸が他の細糸と異なる太さに設定された複数の細糸を撚って構成されていればよく、
図6に示すように、太さの全て異なる3本の細糸72a,72b,72cからなる糸70であってもよい。太さの全て異なる細糸72a,72b,72cからなる糸70でステッチを形成することで、隣接する全ての細糸72a,72b,72c間で段差が生じて撚り目76の凹凸形状を強調できる。
(2) 原型モデルの表皮面に付されたステッチは、表皮シートを糸で縫って形成してもよい。従って、原型モデルは、木型モデルの装着面にステッチを縫った表皮シートを貼り付けて製作してもよい。
(3) 本発明が対象とする成形型は、電鋳型に限らず、ステッチを付した原型モデルを転写する工程を経て製造されるものであればよく、例えば、反転モデルに基づいて石膏等により鋳型を製作し、この鋳型に溶融金属を流し込んで製造される金型であてもよい。
(4) 本発明が対象とする成形型で成形する部材は、インストルメントパネルの表皮材に限定されず、フロアコンソール、ドアトリム、ピラーガーニッシュ等の車両内装部材の表皮材や、硬質な基材であってもよく、またソファ、椅子等の家具製品を構成する部材や、靴やカバン等の日用品を構成する部材等であってもよい。
【符号の説明】
【0023】
10 電鋳型(成形型),
12 表皮成形面,14 原型モデル,
20 装着面,22 貫通孔
24 表皮シート,26 糸,28a,28b 細糸,44 入槽モデル,S ステッチ