特許第5894462号(P5894462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 早川ゴム株式会社の特許一覧

特許5894462レーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法
<>
  • 特許5894462-レーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法 図000002
  • 特許5894462-レーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894462
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】レーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/16 20060101AFI20160317BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20160317BHJP
   B23K 26/18 20060101ALI20160317BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160317BHJP
【FI】
   B29C65/16
   B23K26/32
   B23K26/18
   B23K26/00 G
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-40446(P2012-40446)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-173322(P2013-173322A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 功作
(72)【発明者】
【氏名】村上 博文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和也
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−007584(JP,A)
【文献】 特開2004−114456(JP,A)
【文献】 特開2006−256325(JP,A)
【文献】 特開2004−209916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0184046(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00−65/82
B23K 26/00−26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光透過性を有する第1部材と、該第1部材よりも熱伝導率の高い第2部材との間に、レーザー接合用中間部材を配置して該第1部材及び該第2部材を接合するレーザー光を用いた接合方法において、
厚さが300μm以上に設定された上記レーザー接合用中間部材を上記第2部材に、超音波溶着または振動溶着により接合し、
その後、上記レーザー接合用中間部材の上記第2部材とは反対側に上記第1部材を配置して該第1部材側からレーザー光を照射して上記レーザー接合用中間部材を溶融させ、
しかる後、上記レーザー接合用中間部材を冷却することを特徴とするレーザー光を用いた接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光を用いて各種部材を接合する場合に用いられるレーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、家電製品や住設製品、オフィス用品、玩具等は高い強度が必要な部分と、不要な部分とが存在し、高い強度が必要な部分には金属材が使用される一方、不要な部分には樹脂材が多用されている。また、産業機器や工業設備においても同様に高い強度が必要な部分と、不要な部分とが存在するので、金属材と樹脂材とが必要に応じて使い分けられている。
【0003】
また、コンピューターや家電製品等の電器製品には、モーターや光源等の発熱源となる部品や、ICや集積回路等の熱を持つ部品が組み込まれることがある。これら部品の放熱のために熱伝導率の高い金属材が用いられている。電器製品には、金属材の他にも樹脂材からなる部品も用いられている。
【0004】
更に、例えば自動車においては、エネルギー消費量を少なくして燃費を向上させたいという要求が強く、そのために車体の軽量化が最も重要なテーマとして開発が進められている。車体の軽量化を図るためには樹脂材の利用が有効であり、これまで金属材であった各部品を樹脂化する試みが行われている。ところが、やはり強度的な問題や放熱性確保の問題等から金属材を使用せざるを得ない箇所もあり、金属材と樹脂材とが必要に応じて使い分けられている。
【0005】
上述したように、各分野において金属材と樹脂材とが使い分けられており、そうした状況では、当然、金属材と樹脂材とを接合したいという要求が存在する。一般的には、ボルト等による締結やカシメ、接着剤や粘着剤等が用いられることがある。ボルトやカシメでは各部品に加工が必要であったり、締結具が必要で手間がかかるとともに重量が嵩み、また、接着剤や粘着剤では高い接合強度を安定的に得ることが難しいという問題があった。
【0006】
これらの問題を解決する手段として、例えばレーザー光を用いた接合方法が考案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0007】
特許文献1は、熱可塑性樹脂材と金属材とを接合する場合に、接合する界面に熱可塑性樹脂材と相溶性がある熱可塑性フィルムを介在させ、この状態でレーザー光を照射することによって金属材を発熱させ、この金属材の熱によってフィルムを溶融させて熱可塑性樹脂材と金属材とを接合するようにしている。
【0008】
また、特許文献2は、熱可塑性樹脂材と金属材とを重ね合わせた状態で、熱可塑性樹脂材料側からレーザー光を照射して熱可塑性樹脂材と金属材とを接合するようにしている。
【0009】
また、特許文献3は、樹脂材と金属材とを接合する場合に、樹脂材と金属材との接合界面を、樹脂材の分解温度以上かつ樹脂材に気泡が発生する温度未満まで加熱するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−39987号公報
【特許文献2】特開2008−207547号公報
【特許文献3】特開2010−46831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜3のように熱可塑性樹脂材と金属材とを接合する場合にレーザー光を照射しても、金属材の熱伝導率は樹脂材に比べて大幅に高いので、レーザー光の照射によって発生した熱が金属材の接合部分以外の部分に素早く伝達してしまい、樹脂材を溶融させることのできる温度まで金属材を加熱するには多大なエネルギーが必要となり、省エネルギーの点で問題がある。特に、金属材がアルミニウム合金や銅、真鍮等の熱伝導率が高い金属材であって、かつ、体積が大きい場合にはレーザー光を照射しても金属材が全体的に発熱するのみで樹脂材を溶融することは困難である。
【0012】
また、例えば電器製品や自動車等においてレーザー光による接合方法を使用した場合、ICやコンピューターが先に組み込まれている場合には、レーザー光の照射によって発生した金属材の熱がそれら部品に伝達してしまい、損傷を招く恐れがある。特に、金属材をIC等の放熱部材として利用している場合にその金属材と樹脂材とを接合する場合には、この問題が顕著なものとなる。
【0013】
また、特許文献3では樹脂材を分解温度以上まで加熱することになるが、分解温度以上まで加熱された樹脂材の物理的特性は低下してしまうので、樹脂材の特性に見合っただけの接合強度は期待できない。また、樹脂材は分解しているため脆くなるという問題もある。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱伝導率の高い部材と低い部材とを効率よく接合できるようにするとともに、高い接合強度を安定して得ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、レーザー光の照射によって発生した熱が熱伝導率の高い部材に伝達するのを抑制するようにした。
【0016】
第1の発明は、レーザー光透過性を有する第1部材と、該第1部材よりも熱伝導率の高い第2部材との間に、レーザー接合用中間部材を配置して該第1部材及び該第2部材を接合するレーザー光を用いた接合方法において、厚さが300μm以上に設定された上記レーザー接合用中間部材を上記第2部材に、超音波溶着または振動溶着により接合し、その後、上記レーザー接合用中間部材の上記第2部材とは反対側に上記第1部材を配置して該第1部材側からレーザー光を照射して上記レーザー接合用中間部材を溶融させ、しかる後、上記レーザー接合用中間部材を冷却することを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、第1部材側からレーザー光を照射して熱が発生した場合、レーザー接合用中間部材が300μm以上の厚さを有していることから、レーザー接合用中間部材が断熱効果を十分に発揮し、熱伝導率の高い第2部材へ熱が伝達するのを抑制することが可能になる。これにより、レーザー光のエネルギーロスが低減されてレーザー接合用中間部材を効率よく溶融させて高い接合強度が安定的に得られる。
【0018】
また、第2部材へ伝達する熱量が抑制されるので、第2部材側にICやコンピューター等の熱に弱い部品が予め組み込まれていたとしても、その部品に対して熱害を与えずに済む。
【0019】
また、レーザー接合用中間部材が300μmよりも薄い場合には、断熱効果が低下してレーザー光の照射によって発生した熱が第2部材に伝達しやすくなり、レーザー接合用中間部材を溶融させるのが困難になるので、第1部材と第2部材とを強固に接合することができなくなる
【発明の効果】
【0020】
第1の発明によれば、レーザー光透過性を有する第1部材と熱伝導率の高い第2部材との間に配置されるレーザー接合用中間部材の厚さを300μm以上にしたので、第1部材側からレーザー光を照射して熱が発生した場合、レーザー接合用中間部材が断熱効果を十分に発揮し、第2部材へ熱が伝達するのを抑制できる。これにより、熱伝導率の高い部材を効率よく接合できるとともに、高い接合強度を安定して得ることができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態にかかるレーザー接合用中間部材を使用して第1部材と第2部材とを接合した状態を示す斜視図である。
図2】実施形態にかかるレーザー光を用いた接合方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態にかかるレーザー接合用中間部材1を使用して第1部材10と第2部材20とを接合した状態を示す斜視図である。
【0024】
第1部材10は、熱可塑性樹脂材で構成された板材である。熱可塑性樹脂材としては、例えば、ポリエチレン(HDPE、LDPE、LLDPE、VLDPE、ULDPE、UHDPE、Polyethylene)、ポリプロピレン(PP Co-Polymer、PP Homo-Polymer、PP Ter-Polymer)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、K-レジン、SBS樹脂(SBS block co-polymer)、PVDC樹脂、EVA樹脂、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、シリコン樹脂、ポリアミド(PA、PA6、PA66、PA46、PA610、PA612、PA6/66、PA6/12、PA6T、PA12、PA1212、PAMXD6)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、液晶ポリマー、ポリブチレンテレフ夕レート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエチレンナフタリン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアセタール、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリチオエチルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン及びポリエーテルイミドなどが挙げられる。
【0025】
その他、極性官能基が化学的に結合した変性樹脂も含み、具体的には、アクリル酸変性オレフィン樹脂、マレイン酸変性オレフィン樹脂、塩化変性オレフィン樹脂(CPP、CPE)、シラン変性オレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、ナイロン変性オレフィン樹脂、エポキシ変性樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂(EVOH)、エチレンビニールアセテート樹脂、ホットメルト接着樹脂などの樹脂が挙げられ、これらと上記熱可塑性樹脂の混合物または組合物であってもよいが、これらに限られるものではない。第1部材10を構成する樹脂材の熱伝導率は、0.1以上1.0W・m−1・K−1以下に設定されている。
【0026】
第1部材10は、レーザー光透過性を有している。レーザー光透過性とは、レーザー光を殆ど反射も吸収もせずに透過させるが、レーザー光の一部を透過及び/又は反射しても溶融することなく、残りのレーザー光を透過させることのできる性質をいい、レーザー光の全てを透過させるものも含む。また、第1部材10のレーザー光透過性としては、第1部材10の一部が溶融する程度であってもよい。この実施形態では、第1部材10を無色透明としているが、着色してもよい。
【0027】
第2部材20は、熱伝導性の高い金属材で構成された板材である。金属材としては、例えば、アルミニウム合金、銅、真鍮等が挙げられるが、これらに限られるものではない。第2部材20を構成する金属材の熱伝導率は、100W・m−1・K−1以上に設定されており、上限は、例えば450W・m−1・K−1である。
【0028】
また、第2部材20には、レーザー接合用中間部材1との接合強度を更に強力にするための化学的な表面処理や物理的な表面処理を施しているが、これら表面処理は必要に応じて施せば良く、省略してもよい。
【0029】
化学的な表面処理としては、例えばプライマーや酸あるいはアルカリ処理、カップリング剤、イソシアネート等を用いて行う処理がある。
【0030】
物理的な表面処理としては、陽極酸化処理や微細な凹凸をつけることによりアンカー効果を利用する処理がある。化学的な表面処理と物理的な表面処理とを組み合わせてもよい。これらの表面処理を第2部材20に施すことにより、レーザー接合用中間部材1を第2部材20に強固に接合することが可能になる。
【0031】
レーザー接合用中間部材1を第2部材20に接合する方法としては、例えば超音波溶着や振動溶着、あるいは第2部材20を成形する型内にレーザー接合用中間部材1の原料を供給して第2部材20に接合させる同時成形、熱融着等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0032】
また、第2部材20に例えばICやコンピューター等の電子部品を組み付ける場合には、これら電子部品を組み付ける前にレーザー接合用中間部材1を接合しておくのが好ましい。
【0033】
レーザー接合用中間部材1の材料は、熱可塑性樹脂材にレーザー光吸収剤及び熱可塑性エラストマーを含有させたものである。レーザー接合用中間部材1の主成分となる熱可塑性樹脂材としては、第1部材10を構成する樹脂材と相溶性の高い樹脂材が好ましく、第1部材10を構成する樹脂材であってもよい。レーザー接合用中間部材1を構成する樹脂材として最も好ましいのは、第1部材10との接合時に第1部材10を構成する樹脂材と混ざり合い、冷却後もその混ざり合った状態を維持することができる樹脂材である。このような樹脂材とすることで、高い接合強度を得ることが可能になる。
【0034】
レーザー光吸収剤としては、例えば、有機染料や有機顔料、金属酸化物、市販のレーザー光吸収剤やカーボンブラック等が挙げられるが、レーザー光を吸収してレーザー接合用中間部材1を十分に発熱させることできるものであればよく、上記したものに限られない。
【0035】
レーザー接合用中間部材1のレーザー光吸収率は、レーザー光吸収剤の種類や配合量によって任意に設定することができる。この実施形態では、レーザー接合用中間部材1のレーザー光吸収率は40%以上に設定されているが、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。
【0036】
レーザー接合用中間部材1のレーザー光吸収率が40%よりも低いと、レーザー接合用中間部材1においてレーザー光を有効に吸収できず、レーザー接合用中間部材1を十分に発熱させて第1部材10と共に溶融させることができない場合がある。
【0037】
レーザー接合用中間部材1のレーザー光吸収率が60%以上であると、レーザー接合用中間部材1においてレーザー光を有効に吸収させることができ、レーザー接合用中間部材1を十分に発熱させることが可能になる。その結果、後述するようにレーザー接合用中間部材1の第1部材10側を溶融させることができるとともに、第1部材10も溶融させることができ、両方の樹脂を混合させることができる。
【0038】
熱可塑性エラストマーとしては、常温付近でゴム弾性を示すものであればよく、例えば、スチレン系、アクリル系、ポリエステル系、オレフィン系、ウレタン系、ナイロン系等を挙げることができ、この熱可塑性エラストマーを、第1部材10との接合強度低下を招かない程度に含有させるのが好ましい。
【0039】
熱可塑性エラストマーの含有量としては、レーザー接合用中間部材1の10重量%以上であり、好ましくは20重量%以上、より好ましくは30重量%以上であるが、接合力を低下させない範囲で含有させればよいので、この範囲に限られるものではない。
【0040】
レーザー接合用中間部材1に熱可塑性エラストマーを含有させることで、レーザー接合用中間部材1に柔軟性を付与することができる。これにより、第1部材10と第2部材20との熱膨張率が異なる場合に温度変化させても、両部材10,20の間に働く剥離力をレーザー接合用中間部材1の変形によって吸収することが可能になる。
【0041】
レーザー接合用中間部材1の厚さは、後述するレーザー光の照射時に発生する熱を第2部材20に伝達するのを抑制することができる程度の厚さであればよく、300μm以上に設定されている。レーザー接合用中間部材1の厚さが300μmよりも薄いと、断熱効果が低く、レーザー光の照射によって発生した熱が第2部材20に伝達しやすくなり、レーザー接合用中間部材1を溶融させるのが困難になるので、第1部材10と第2部材20とを強固に接合することができない。
【0042】
レーザー接合用中間部材1の厚さは、500μm以上が好ましく、より好ましいのは700μm以上である。レーザー接合用中間部材1の厚さを700μm以上にすることで、レーザー光の焦点を第1部材10とレーザー接合用中間部材1との界面に合わせやすくなり、レーザー接合用中間部材1の第1部材10側を確実に加熱することが可能になる。さらに、レーザー接合用中間部材1の第1部材10との界面よりも第2部材20側が断熱材としての役割を十分に発揮し、これによってレーザー接合用中間部材1の第1部材10側を十分に溶融させることができる。
【0043】
次に、上記レーザー接合用中間部材1を使用して第1部材10と第2部材20とを接合する要領について説明する。
【0044】
尚、この実施形態では、第2部材20には熱に弱い電子部品が組み付けられるものであり、この第2部材20に第1部材10がレーザー接合用中間部材1を介して接合される。
【0045】
まず、電子部品が組み付けられていない第2部材20にレーザー接合用中間部材1を接合する。このとき超音波溶着や振動溶着、同時成形、熱融着等を用いる。第2部材20に電子部品が未だ組み付けられていないので、第2部材20を振動させたり、加熱しても何ら影響はない。
【0046】
その後、第2部材20に電子部品を組み付ける。
【0047】
しかる後、第1部材10をレーザー接合用中間部材1の第2部材20側に重ね、図示しないクランプ器具等を用いて厚さ方向にクランプ(加圧)する。加圧力としては、例えば5N以上が好ましく、より好ましくは10N以上である。これにより、第1部材10とレーザー接合用中間部材1とを十分に密着させることができる。
【0048】
次いで、図2に示すように、第1部材10側からレーザー接合用中間部材1に向けてレーザー光Lを照射する。レーザー光Lの焦点は、レーザー接合用中間部材1の第1部材10側の界面近傍としておく。レーザー光Lの種類は特に限定されないが、例えば、ガスレーザー、固体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー等を利用することができる。レーザー光Lの波長は、800nm〜1500nmの範囲が好ましい。
【0049】
レーザー光を照射すると、焦点がレーザー接合用中間部材1の第1部材10側の界面近傍に設定されているので、レーザー接合用中間部材1の第1部材10側が主にレーザー光を吸収して発熱する。このとき、レーザー光吸収率が40%以上に設定されているので、レーザー接合用中間部材1を効率よく発熱させることができる。
【0050】
レーザー接合用中間部材1の厚さが300μm以上あるので、レーザー接合用中間部材1の第1部材10側が加熱された際、レーザー接合用中間部材1の第2部材20側が断熱材として機能し、断熱効果を十分に発揮する。これにより、熱伝導率の高い第2部材20へ熱が伝達するのを抑制することが可能になり、レーザー接合用中間部材1の温度を高めて溶融させることができるとともに、第1部材10も溶融させることができる。レーザー接合用中間部材1及び第1部材10が溶融すると、レーザー接合用中間部材1を構成する樹脂と第1部材10を構成する樹脂とが混合する。
【0051】
また、上述のように第2部材20へ熱が伝達するのをレーザー接合用中間部材1によって抑制することができるので、第2部材20に組み付けられている電子部品の加熱が抑制され、電子部品の熱による損傷を防止できる。
【0052】
そして所定時間放置してレーザー接合用中間部材1及び第1部材10の溶融した部分を冷却して固化させる。その後、クランプ器具を外すと、第1部材10と第2部材20とがレーザー接合用中間部材1により接合された状態となる。
【0053】
以上説明したように、この実施形態によれば、レーザー光透過性を有する第1部材10と熱伝導率の高い第2部材20との間に配置されるレーザー接合用中間部材1の厚さを300μm以上にしたので、第1部材10側からレーザー光を照射して熱が発生した場合、レーザー接合用中間部材1が断熱効果を十分に発揮し、第2部材20へ熱が伝達するのを抑制できる。これにより、熱伝導率の高い部材を効率よく接合できるとともに、高い接合強度を安定して得ることができる。
【0054】
レーザー接合用中間部材1のレーザー光吸収率を40%以上にしたので、レーザー接合用中間部材1を第1部材10側の界面近傍で十分に溶融させることができる。これにより、第1部材10と第2部材20との接合強度をより一層高めることができる。
【0055】
また、レーザー接合用中間部材1が熱可塑性エラストマーを含有しているので、接合後に温度変化を与えた場合に第1部材10と第2部材20との間に働く剥離力をレーザー接合用中間部材1の変形によって吸収することができ、よって、温度変化した場合にも高い接合強度を安定して得ることができる。また、第1部材10と第2部材20との間に水密性や気密性が要求される場合、レーザー接合用中間部材1が柔軟性を有していることから第1部材10と第2部材20との間で両部材10,20に沿うように変形してシール材として機能し、十分な水密性及び気密性を得ることができる。
【0056】
尚、本発明は、第2部材20に電子部品等が組み付けられない場合にも適用できる。また、第2部材20が電子部品等の放熱部材(ヒートシンク等)として使用される場合、レーザー光Lの熱が電子部品等に伝達するのをレーザー接合用中間部材1によって抑制できるので、本発明は特に有用なものとなる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。
【0058】
(実施例1)
第1部材について
第1部材10は、ナイロン66(ユニチカ株式会社製 マラニールA226)の板材とした。厚さは5mmで、寸法は100mm×100mmである。第1部材10は乳白色であるがレーザー光を十分に透過することができる。また、第1部材10の熱伝導率は、0.23W・m−1・K−1であった。
【0059】
第2部材について
第2部材20は、アルミニウム合金(A5052)の板材とした。厚さは10mmで、寸法は100mm×100mmである。第2部材20の表面には硬質アルマイト処理を施した。この第2部材20の熱伝導率は、236W・m−1・K−1であった。
【0060】
レーザー接合用中間部材について
レーザー接合用中間部材1の主成分はナイロン6(ユニチカ株式会社製 A1030BRL)であり、これにカーボンブラック(エボニックデグサジャパン株式会社製 PRINTEK 35)を0.5重量%、ポリアミド12系エラストマー(宇部興産株式会社製 UBESTAXPA9035X1)を30重量%加えて混練、分散してコンパウンドを作製した。このコンパウンドをテフロン(登録商標)シートで挟んで400μmのスペーサーを用いて成形するとともに、熱板で加熱して溶融した後、冷却して400μmのレーザー接合用中間部材1を得た。レーザー接合用中間部材1は、幅が10mmで、長さが100mmの帯状とした。
【0061】
このレーザー接合用中間部材1の940nmの波長のレーザー光吸収率は60%であった。また、レーザー接合用中間部材1の熱伝導率は、0.235W・m−1・K−1であった。
【0062】
接合工程
まず、レーザー接合用中間部材1を第2部材20に振動溶着等により接着する。
【0063】
その後、レーザー接合用中間部材1の第2部材20側に第1部材10を重ねてクランプ器具によりクランプする。加圧力は10Nである。
【0064】
そして、半導体レーザー照射装置を用いてレーザー光Lを第1部材10側から照射した。レーザー光Lの波長は940nmであり、出力は60Wである。照射部位は、レーザー接合用中間部材1の長手方向中間部であり、レーザー光Lの焦点は第1部材10とレーザー接合用中間部材1との界面に設定し、走査方向はレーザー接合用中間部材1の長手方向である。また、走査距離は25mmである。走査速度は20mm/秒である。
【0065】
引っ張り試験
レーザー接合用中間部材1を常温まで冷却した後、引っ張り試験を行った。引っ張り試験装置は島津製作所製のオートグラフAG−ISを使用し、第1部材10の端部(図1の左端部)と第2部材20の端部(図1の右端部)とをそれぞれ挟んで引っ張り試験装置に固定し、5mm/分の速度で図1の左右方向に引っ張った。この引っ張り試験は、ヒートサイクル前と、ヒートサイクル後との両方で行った。ヒートサイクルとは、−20℃の雰囲気中に24時間放置した後、常温雰囲気中に3時間放置し、その後、80℃の雰囲気中に24時間放置するというサイクルを3回繰り返す処理である。
【0066】
ヒートサイクル前の引っ張り強度は1100Nであり、ヒートサイクル後の引っ張り強度は1070Nであり、共に十分な接合強度が得られていることが分かった。引っ張り試験後に観察すると、レーザー接合用中間部材1を構成する樹脂材と第1部材10を構成する樹脂材とは十分に混ざり合っており、凝集破壊が起こっていた。
【0067】
(実施例2)
第1部材10及び第2部材20は実施例1と同じである。
【0068】
レーザー接合用中間部材1はカーボンブラックの添加量と、厚さが実施例1のものと異なるだけである。すなわち、カーボンブラックの添加量は、0.6重量%であり、レーザー接合用中間部材1の厚さは1000μmである。このレーザー接合用中間部材1の940nmの波長のレーザー光吸収率は85%であった。
【0069】
実施例2について引っ張り試験を行った結果、ヒートサイクル前の引っ張り強度は1300Nであり、ヒートサイクル後の引っ張り強度は1280Nであり、共に十分な接合強度が得られていることが分かった。引っ張り試験後に観察すると、レーザー接合用中間部材1を構成する樹脂材と第1部材10を構成する樹脂材とは十分に混ざり合っており、凝集破壊が起こっていた。
【0070】
(実施例3)
第1部材10及び第2部材20は実施例1と同じである。
【0071】
レーザー接合用中間部材1はカーボンブラックの添加量と、厚さが実施例1のものと異なっており、さらにエラストマーを添加してない点で実施例1のものとことなっている。カーボンブラックの添加量は、0.5重量%であり、レーザー接合用中間部材1の厚さは500μmである。このレーザー接合用中間部材1の940nmの波長のレーザー光吸収率は65%であった。
【0072】
実施例3について引っ張り試験を行った結果、ヒートサイクル前の引っ張り強度は1200Nであり、十分な接合強度が得られていることが分かった。一方、ヒートサイクル後の引っ張り強度は500Nであった。ヒートサイクル後に接合強度が低下したのは、レーザー接合用中間部材1の柔軟性が無く、第1部材10と第2部材20との熱膨張率の差によって両部材10,20の間に働く剥離力をレーザー接合用中間部材1の変形によって吸収することができなかったためである。
【0073】
(比較例)
第1部材10及び第2部材20は実施例1と同じである。
【0074】
レーザー接合用中間部材1はカーボンブラックの添加量と、厚さが実施例1のものと異なるだけである。すなわち、カーボンブラックの添加量は、1.0重量%であり、レーザー接合用中間部材1の厚さは250μmである。このレーザー接合用中間部材1の940nmの波長のレーザー光吸収率は70%であった。
【0075】
比較例について引っ張り試験を行った結果、ヒートサイクル前の引っ張り強度は150Nであり、ヒートサイクル後の引っ張り強度は145Nであり、共に実施例1、2に比べて大幅に低下していた。引っ張り試験後に観察すると、レーザー接合用中間部材1を構成する樹脂材と第1部材10を構成する樹脂材とは混ざり合っておらず、第1部材10の界面剥離が起こっていた。これは、レーザー接合用中間部材1が300μmよりも薄いために断熱材としての効果を発揮せず、レーザー光の照射により発生した熱が熱伝導率の高い第2部材20に素早く奪われていき、レーザー接合用中間部材1の溶融量が少なかったためである。
【0076】
以上のように、レーザー接合用中間部材1の厚さが300μmよりも薄いと極端に接合強度が低下することが分かる。
【0077】
本発明は、例えば、家電製品や住設製品、オフィス用品、玩具、自動車部品等の樹脂材と金属材とを接合する場合に広く適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明にかかるレーザー接合用中間部材及びレーザー光を用いた接合方法は、例えば、樹脂材と金属材とを接合する場合に適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 レーザー接合用中間部材
10 第1部材
20 第2部材
L レーザー光
図1
図2