特許第5894471号(P5894471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894471
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】等速自在継手用外側継手部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/14 20060101AFI20160317BHJP
   F16D 3/20 20060101ALI20160317BHJP
   B21J 5/06 20060101ALI20160317BHJP
   B21J 5/12 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   B21K1/14 A
   F16D3/20 J
   B21J5/06 Z
   B21J5/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-54748(P2012-54748)
(22)【出願日】2012年3月12日
(65)【公開番号】特開2013-188757(P2013-188757A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】郁山 義忠
【審査官】 矢澤 周一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−213476(JP,A)
【文献】 特開2008−194734(JP,A)
【文献】 特開2000−061576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/14
B21J 5/06
B21J 5/12
F16D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を備え、該カップ部が、前素形材のカップ状部にしごき加工を施すことで成形された成形面を有する等速自在継手用外側継手部材の製造方法であって、
前記しごき加工を、カップ深さの合否を判定するための判定基準部を前記成形面の軸方向に離間した二箇所に型成形可能な成形金型を使用して実行することを特徴とする等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【請求項2】
前記しごき加工の実行後に、前記カップ部の一端部を所定寸法除去する端部除去工程をさらに含み、該端部除去工程では、前記判定基準部の全体が除去される軸方向位置に至って前記カップ部の一端部を除去することを特徴とする請求項1に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【請求項3】
一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を備え、該カップ部が、前素形材のカップ状部にしごき加工を施すことで成形された成形面を有する等速自在継手用外側継手部材の製造方法であって、
前記しごき加工の実行後に、前記カップ部の一端部を所定寸法除去する端部除去工程を含み、
前記しごき加工を、カップ深さの合否を判定するための判定基準部を前記成形面に型成形可能な成形金型を使用して実行し、
前記端部除去工程では、前記判定基準部の全体が除去される軸方向位置に至って前記カップ部の一端部を除去することを特徴とする等速自在継手用外側継手部材の製造方法。
【請求項4】
前記判定基準部を、高低差が0.01mm以上1.0mm以下の段差部で構成した請求項1〜3の何れか一項に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法
【請求項5】
前記判定基準部を、高さ寸法が0.01mm以上1.0mm以下の突状部で構成した請求項1〜3の何れか一項に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法
【請求項6】
前記判定基準部を、深さ寸法が0.01mm以上1.0mm以下の凹状部で構成した請求項1〜3の何れか一項に記載の等速自在継手用外側継手部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車、航空機、船舶および各種産業機械などの動力伝達系において使用され、駆動側と従動側の二軸間で回転動力を等速で伝達する等速自在継手用の外側継手部材の製造方法および外側継手部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、等速自在継手は、角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手とに大別される。等速自在継手は、固定式であるか摺動式であるかに関わらず、一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を有する外側継手部材と、カップ部の内周に収容される内側継手部材やトルク伝達部材などの継手内部部品とを主要な構成部材として備える。これら継手構成部材のうち、外側継手部材は、切削や旋削に代表される機械加工、鍛造に代表される塑性加工などの各種加工法を駆使して製造されるが、機械加工では生産効率や歩留の向上に限度があることから、可能な限りにおいて塑性加工を採用する場合が多い。
【0003】
一例として、下記の特許文献1には、摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手の外側継手部材、特に、一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された有底筒状のカップ部と、このカップ部の他端から軸方向外方に延びる軸部とを一体に備える外側継手部材を塑性加工で製造する方法が記載されている。具体的には、中実の棒状素材(ビレット)に据え込み加工等を施すことにより、最終的にカップ部となる大径部分を有する中間素材を成形する工程と、中間素材の大径部分に押し出し加工を施すことにより、カップ状に粗成形されたカップ状部を有する前素形材を得る工程と、しごき加工により、前素形材のカップ状部を仕上げ形状・寸法に成形する工程とを含んでいる。
【0004】
なお、上記のように、据え込み、押し出しおよびしごき加工等の各種鍛造加工を順次経ることで外側継手部材を製造する場合、特に摺動式等速自在継手用の外側継手部材を製造する際には、しごき加工によりトラック溝を最終形状に成形する(仕上げる)ことが多い。一方、固定式等速自在継手用の外側継手部材を製造する際には、しごき加工完了後に適宜の機械加工を施すことでトラック溝を最終形状に仕上げることが多い。
【0005】
上記のしごき加工は、例えば、外周に、成形すべきカップ部の内周形状に対応した成形型部を有するパンチを前素形材のカップ状部の内周に配置した状態で、この前素形材のカップ状部をダイスの内周に押し通す(カップ状部の外径面をダイスでしごく)ことにより行われる。そして、しごき加工が完了すると、カップ状部の軸方向寸法がしごき加工前の軸方向寸法よりも長寸となり、内径面が所定形状に仕上げられた外側継手部材の素形材(最終鍛造品)が得られる。一般に、ビレット相互間の重量や体積にはばらつきがあるので、しごき加工後のカップ状部の軸方向寸法(カップ深さ)は、素形材相互間でばらつく。そのため、しごき加工完了後には、カップ深さが公差範囲内に収まっているか否かを検査し、カップ深さが公差範囲内に収まっている合格品のみを熱処理工程等の後工程に払い出すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−213476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従前、カップ深さが公差範囲内に収まっているか否かの検査(カップ深さの合否判定)は、図9に示すような専用の測定器具100(詳細には、カップ部内底面との当接部を有する軸方向部101a、およびカップ部内径面との当接部を有する径方向部101bからなる断面略T字形状の治具101と、スケール102とを組み合わせてなるもの)を用いて測定し、その測定結果を、製品毎の寸法規格と照らし合わせることにより実行していた。
【0008】
しかしながら、この場合、測定器具100の設置→スケール102の読み取り→測定器具100の取り外しという手順を踏む必要があり、しかも正確な合否判定を行うためには、治具101やスケール102を精度良く位置決め配置すると共に、スケール102の読み取りに格別の配慮を払う必要がある。そのため、カップ深さの合否判定に多大な手間を要し、外側継手部材の生産性を有効に高め得ないという問題がある。また、スケール102の読み取り値にばらつき(個人差)が生じ易いことから、合否判定の精度を高めるうえでも改善すべき課題がある。
【0009】
このような実情に鑑み、本発明は、しごき加工で成形されたカップ部を備える外側継手部材の合否判定の作業性および精度向上を図り、これにより外側継手部材の生産性向上に寄与することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係る外側継手部材の製造方法は、一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を備え、カップ部が、前素形材のカップ状部にしごき加工を施すことで成形された成形面を有する等速自在継手用外側継手部材の製造方法であって、カップ深さの合否を判定するための判定基準部を上記成形面に型成形可能な成形金型を使用して、しごき加工を実行することを特徴とする。なお、本発明でいう「前素形材のカップ状部」とは、据え込みや押し出し等の鍛造加工工程を順次経ることで最終製品(外側継手部材)のカップ部に近似した形状に成形された部位(部分)である。以下に示す本発明に係る外側継手部材においても同様である。
【0011】
また、上記の目的を達成するために創案された本発明に係る外側継手部材は、一端が開口し、内径面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を備え、カップ部が、前素形材のカップ状部にしごき加工を施すことで成形された成形面を有する等速自在継手用外側継手部材であって、カップ深さの合否を判定するための判定基準部を有し、この判定基準部がしごき加工と同時に成形面に型成形されていることを特徴とするものである。
【0012】
上記本発明の構成によれば、しごき加工完了後に、カップ深さの合否、すなわち、カップ深さが寸法公差内に収まっているか否かを、判定基準部の存否や形成態様を目視確認するだけで判定することが可能となる。より具体的には、カップ部(カップ状部)の成形面に所定態様の判定基準部が型成形されていれば、カップ深さが公差範囲内に収まっていると判定し得る一方で、カップ部(カップ状部)の成形面に判定基準部が所定態様で型成形されていなければ、カップ深さが公差範囲内に収まっていないと判定することが可能となる。そのため、図9に示したような専用の測定器具100を用いてカップ深さの合否判定を実行する必要がなくなり、カップ深さの合否判定を簡便に実行することが、また判定精度を向上することができる。これにより、外側継手部材の生産性向上を図ることができる。
【0013】
本発明に係る外側継手部材の製造方法においては、しごき加工の実行時、上記成形面の軸方向に離間した二箇所に判定基準部を型成形可能な成形金型を使用することができる。このような方法を採用してしごき加工を施した場合、カップ部の他端側(反開口端部側)に型成形される判定基準部をカップ深さの公差下限を示す部位として活用することができ、カップ部の一端側(開口端部側)に型成形される判定基準部をカップ深さの公差上限を示す部位として活用することができるので、しごき加工の完了後に、カップ深さが公差範囲内に収まっているか否かを一層正確に判定することが可能となる。さらに詳しく言えば、成形面の軸方向一箇所に判定基準部が所定態様で型成形されていれば、カップ深さが公差範囲内に収まっていると判定することができる。そして、成形面の軸方向に離間した二箇所に判定基準部が所定態様で型成形されていれば、カップ深さが公差範囲を超えた不合格品であると判定することができ、また、成形面に所定態様の判定基準部が型成形されていなければ、カップ深さが公差範囲を下回った不合格品であると判定することができる。
【0014】
また、本発明に係る外側継手部材の製造方法は、しごき加工の後、カップ部の一端部(開口端部)を所定寸法除去する端部除去工程をさらに含むものとすることができ、この端部除去工程では、判定基準部の全体が除去される軸方向位置に至ってカップ部の一端部を除去することができる。すなわち、しごき加工でカップ部の成形面に型成形した判定基準部は、カップ部の一端部を軸方向に所定寸法除去して仕上げる際の目印として活用することもできる。
【0015】
判定基準部は、外側継手部材の機能を阻害しない範囲において任意の形態を採ることができる。例えば、カップ部の周方向で連続的に設ける(カップ部の全周に亘って設ける)ことができる他、カップ部の周方向で間欠的に設けることもできる。また、判定基準部は、例えば、高低差が0.01mm以上1.0mm以下の段差部、高さ寸法が0.01mm以上1.0mm以下の突状部、あるいは深さ寸法が0.01mm以上1.0mm以下の凹状部で構成することができる。判定基準部の高低差、高さ寸法、あるいは深さ寸法(以下「高低差等」という)の下限値を0.01mmに設定したのは、カップ深さの合否判定を正確かつ迅速に実行するためであり、高低差等が0.01mmを下回るような微小なものであると、カップ深さの合否判定を正確かつ迅速に実行できない可能性が高まる。また判定基準部の高低差等の上限値を1.0mmに設定したのは、高低差等が1.0mmを超えると、カップ部(カップ状部)の離型性、ひいてはカップ部の成形精度に悪影響が及ぶ可能性があるからである。
【0016】
本発明は、トラック溝が、継手軸線と平行に延びる直線状部分で構成された外側継手部材、すなわち摺動式等速自在継手用の外側継手部材に適用することができる。適用可能な摺動式等速自在継手としては、トリポード型等速自在継手(TJ)や、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)を挙げることができる。また、本発明は、トラック溝が、相対的にカップ部の一端側(開口端部側)に位置して継手軸線と平行に延びる直線状部分と、相対的にカップ部の他端側(反開口端部側)に位置する円弧状部分とで構成された外側継手部材、すなわち固定式等速自在継手の一種であるアンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)用の外側継手部材に適用することもできる。なお、以上で例示した何れのタイプの等速自在継手用外側継手部材においても、トラック溝の直線状部分は、前素形材のカップ状部にしごき加工を施すことで成形された成形面とすることができる。
【0017】
以上に述べた本発明に係る外側継手部材と、そのカップ部内周に収容した継手内部部品とで等速自在継手を構成することができる。
【0018】
以上に示した本発明の構成において、しごき加工は冷間、温間あるいは熱間の何れの雰囲気下で実行しても構わないが、冷間で実行するようにすれば、温間あるいは熱間で実行する場合に比べてカップ部の成形精度(しごき加工の精度)を向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上に示すように、本発明によれば、しごき加工で成形されたカップ部を備える外側継手部材の合否判定の作業性および精度向上を図り、これにより外側継手部材の生産性向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)図は、本発明の一実施形態に係る等速自在継手用外側継手部材の正面図であり、(b)図は(a)図中のA−A線矢視断面図である。
図2】(a)〜(d)図は、図1に示す外側継手部材を製造するための各種製造工程のうち、前鍛造工程を段階的に示す概念図である。
図3】前素形材の正面図である。
図4】しごき加工工程を模式的に示す断面図である。
図5】(a)図はカップ深さが公差下限を下回ったカップ部を有する素形材の概略断面図であり、(b)図はカップ深さが公差上限を上回ったカップ部を有する素形材の概略断面図である。
図6】(a)図および(b)図共に、本発明の他の実施形態に係る外側継手部材の概略断面図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る外側継手部材の正面図である。
図8】しごき加工後に端部除去加工が施された外側継手部材の概略断面図である。
図9】従来の検査方法の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では、便宜上、最初に本発明に係る外側継手部材の一実施形態を図1に基づいて説明し、続いて、本発明に係る外側継手部材の製造方法の一実施形態を図2図5に基づいて説明する。
【0022】
図1(a)に、本発明の一実施形態に係る等速自在継手用外側継手部材1(以下、単に「外側継手部材1」という)の概略正面図を示し、図1(b)に同外側継手部材1の概略断面図(図1(a)のA−A線概略断面図)を示す。この外側継手部材1は、角度変位および軸方向変位の双方を許容する摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手(TJ)用の外側継手部材であって、一端が開口した有底筒状のカップ部2と、カップ部2の他端(反開口端部)から軸方向外方に延びた軸部3とを一体に備える。トリポード型等速自在継手は、この外側継手部材1のカップ部2の内周に、内側継手部材としてのトリポード部材やトルク伝達部材としてのローラなどを組み込むことで構成される。
【0023】
カップ部2の内径面4の周方向等分位置には、軸方向に延びる3本のトラック溝5が形成されている。各トラック溝5は、円周方向で対向する一対のローラ案内面6,6を有し、ローラ案内面6,6も含めて継手軸線と平行に延びた直線状に形成されている。図1(a)からも明らかなように、本実施形態のカップ部2の軸直交断面は、大径部と小径部とを周方向で交互に三つずつ配設して構成される花冠状とされ、各大径部の内周にトラック溝5が形成されている。なお、実際の製品においては、カップ部2の開口部内周縁のトラック溝5,5間領域に、継手の角度変位を許容するため(図示しないトリポード部材から延びる軸との干渉を回避するため)の入口チャンファが設けられるが、図1ではその図示を省略している。また、実際の製品においては、カップ部2の外径面に、継手内部を密封するブーツの一端部を嵌着するための環状溝が設けられるが、図1ではその図示を省略している。
【0024】
詳細は後述するが、この外側継手部材1は、押し出し加工、据え込み加工およびしごき加工等の塑性加工工程を順次経ることで略完成品形状の素形材1’(図4中の二点鎖線を参照)を得た後、この素形材1’に適当な仕上げ加工、さらには熱処理を施すことにより完成する。トラック溝5やローラ案内面6を含め、カップ部2の内径面4全域は、前素形材1”のカップ状部2’(図3を参照)にしごき加工を施すことで最終形状に成形されて(仕上げられて)いる。なお、本実施形態の外側継手部材1のカップ部2の開口側端面7は、前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施すのに伴ってカップ状部2’の開口側端部が自由変形することによって得られた面であり、旋削等の仕上げ加工により仕上げられた面ではない。
【0025】
カップ部2の内径面4の軸方向所定位置には、前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施すのと同時に型成形された判定基準部(第1判定基準部12)としての段差部14が設けられ、段差部14は、カップ部2の周方向で連続的に(カップ部2の全周に亘って)設けられている。ここで、判定基準部とは、しごき加工完了後に、カップ深さDが公差範囲内に収まっているか否かを判定する際の基準として活用される部位である。上記のように括弧書きで“第1判定基準部12”としたのは、この判定基準部が、カップ深さDが公差下限(必要カップ深さの公差下限)を超えているか否かを判定する際の基準として活用される部位であるからである。つまり、詳細は後述するが、カップ部2の内径面4には、図5(b)に示すように、カップ深さDが公差上限(必要カップ深さの公差上限)を超えているか否かを判定する際の基準となる第2判定基準部13がさらに型成形される場合がある。
【0026】
本実施形態においては、図1(b)中に符号x1で示す軸直交平面が必要カップ深さの公差下限であり、軸直交平面x1を表示するために第1判定基準部12としての段差部14の底側端部14aを軸直交平面x1に合わせて型成形している。そして、この外側継手部材1は、第1判定基準部12としての段差部14(の全体)がしごき加工による成形面であるカップ部2の内径面4に存在し、第2判定基準部13としての段差部14(図5(b)参照)がカップ部2の内径面4に存在しないことから、カップ深さDが公差範囲内に収まった合格品であることが目視確認で判定可能である。
【0027】
なお、第1判定基準部12(さらには図5(b)に示す第2判定基準部13)としての段差部14の高低差y1は0.01mm以上1.0mm以下に設定される。高低差y1の下限値を0.01mmに設定したのは、カップ深さDの合否判定を正確かつ迅速に実行するためであり、高低差y1が0.01mmを下回るような微小なものであると、カップ深さDの合否判定を正確かつ迅速に実行できない可能性が高まる。また高低差y1の上限値を1.0mmに設定したのは、高低差y1が1.0mmを超えると、しごき加工に使用する成形金型からのカップ状部2’の離型性に悪影響が及ぶ他、ローラの転動性等に悪影響が及ぶ可能性があるからである。
【0028】
以下、本発明に係る外側継手部材の製造方法についての実施形態、すなわち以上で述べた外側継手部材1を製造するための方法について、図2図5を参照しながら詳述する。外側継手部材1は、カップ状部2’を有する前素形材1”(図3参照)を得るための前鍛造工程(図2(a)〜(d)参照)、前素形材1”のカップ状部2’の内径面を最終形状(カップ部2の内径面4形状)に成形するためのしごき加工工程(図4)、しごき加工工程を経て得られた素形材1’の各部を最終形状に仕上げる仕上げ加工工程、および最終形状に仕上げられた素形材1’に熱処理を施す熱処理工程などを経て完成する。
【0029】
前鍛造工程は、複数の工程で構成される。具体的には、まず、図2(a)に示す中実の棒状素材(ビレット)Mに前方押し出し加工を施し、図2(b)に示すように、棒状素材Mの一端外周縁部が丸められると共に、棒状素材Mの一端中央部が膨出した第1の中間成形品M1を成形する。次いで、この第1の中間成形品M1にさらに前方押し出し加工を施すことにより、図2(c)に示すように、外周縁部が丸められた側に軸状部3’が成形された第2の中間成形品M2を得る。その後、第2の中間成形品M2に据え込み加工を施すことにより、図2(d)に示すように、軸状部3’と一体に据え込み部2”が成形された第3の中間成形品M3を得る。
【0030】
次に、第3の中間成形品M3の据え込み部2”に対して後方押し出し加工を施すことにより、図3に示すようなカップ状部2’を備えた前素形材1”を得る。前素形材1”のカップ状部2’は、完成品としての外側継手部材1のカップ部2に近似した断面形状を具備する。すなわち、前素形材1”のカップ状部2’は断面花冠状を呈し、その内径面にローラ案内面6’,6’を有するトラック溝5’が形成されている。但し、前素形材1”のカップ状部2’は、完成品としての外側継手部材1のカップ部2よりも厚肉でかつ軸方向に短寸である。従って、トラック溝5’(ローラ案内面6’)の軸方向寸法も、トラック溝5(ローラ案内面6)の軸方向寸法よりも短寸である。
【0031】
次いで、前素形材1”をしごき加工工程に移送する。しごき加工工程では、図4に示すしごきパンチ20と、しごきダイス30とを備えた成形金型を用いて前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施し、カップ状部2’の内径面を最終形状(カップ部2の内径面4形状)に成形する(仕上げる)。
【0032】
しごきパンチ20の先端部外周には、カップ状部2’の内径面を最終形状に仕上げるための成形型部21が設けられている。成形型部21の軸方向に離間した二箇所には、第1および第2の判定基準成形部22,23が設けられている。第1の判定基準成形部22とは、カップ部2(しごき加工後におけるカップ状部2’)のカップ深さDが必要カップ深さの公差下限を超えているか否かを検査・判定する際の基準となる第1判定基準部12(図1(b)等を参照)をカップ状部2’の内径面に型成形可能な部位である。一方、第2の判定基準成形部23とは、カップ部2(しごき加工後におけるカップ状部2’)のカップ深さDが必要カップ深さの公差上限を超えているか否かを検査・判定する際の基準となる第2判定基準部13(図5(b)参照)をカップ状部2’の内径面に型成形可能な部位である。従って、パンチ20の先端面20aと第1の判定基準成形部22の端部22aとの軸方向離間距離L1は、カップ深さD(必要カップ深さ)の公差下限値と等しく、パンチ20の先端面20aと第2の判定基準成形部23の端部23aとの軸方向離間距離L2は、カップ深さD(必要カップ深さ)の公差上限値と等しい。
【0033】
以上の構成からなる成形金型に前素形材1”を位置決め配置し、前素形材1”のカップ状部2’の内周にしごきパンチ20を挿入する。この状態で、しごきパンチ20に対してしごきダイス30を軸方向に相対移動させると、この相対移動に伴ってカップ状部2’がしごき加工される。しごき加工が進行するのに伴って、カップ状部2’が軸方向に伸長変形し、これと同時に、カップ状部2’の内径面がしごきパンチ20の成形型部21に倣って塑性変形する。しごきパンチ20に対するしごきダイス30の軸方向の相対移動が完了すると、カップ状部2’の内径面が最終形状(図1に示すカップ部2の内径面4形状)に仕上げられ、これにより外側継手部材の素形材1’(図4中に二点鎖線で示す)が得られる。
【0034】
この素形材1’を成形金型から取り出した後、素形材1’のカップ深さDが寸法公差内に収まっているか否かを検査する。本発明では、第1および第2の判定基準部12,13をカップ状部2’の内径面の軸方向に離間した二箇所に型成形可能な成形金型(しごきパンチ20)を使用して、前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施すようにしたことから、しごき加工後のカップ状部2’(素形材1’のカップ状部2’、さらに言えば完成品としての外側継手部材1のカップ部2)のカップ深さDが公差範囲内に収まっているか否かを目視確認することが可能となる。すなわち、図5(a)に示すように、前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施すことで成形された成形面である素形材1’のカップ状部2’の内径面に、第1および第2の判定基準部12,13が一切存在していなければ、カップ深さDが公差下限を下回った不良品であると判定することができる。一方、図5(b)に示すように、素形材1’のカップ状部2’の内径面に第1および第2の判定基準部12,13が存在していれば、カップ深さDが公差上限を上回った不良品であると判定することができる。
【0035】
このように、本発明では、カップ深さDが公差範囲内に収まっているか否かを判定するための判定基準部を素形材1’のカップ状部2’の成形面(カップ部2の内径面4)に型成形可能な成形金型を使用して、前素形材1”のカップ状部2’にしごき加工を施すようにした。このようにすれば、カップ深さDが公差範囲内に収まっているか否かの判定を、カップ状部2’(カップ部2)の内径面に型成形された判定基準部(第1および第2の判定基準部12,13)の存否や形成態様を目視確認するだけで判定することが可能となる。そのため、図9に示したような専用の測定器具100を用いてカップ深さDの測定・検査処理を実行する必要がなくなり、測定・検査処理の作業性を向上することが、また合否判定精度を向上することができる。これにより、外側継手部材1の生産性向上が図られる。
【0036】
上記のようにして、カップ深さDが寸法公差内に収まっていると判定された合格品は後工程に払い出される。そして、例えば、素形材1’のカップ状部2’の外径面にブーツ固定用の環状溝を、また、素形材1’の軸状部3’にスプライン等を形成した後、これに熱処理を施すことにより、カップ部2および軸部3を一体に有する図1(a)(b)に示す外側継手部材1が完成する。
【0037】
以上、本発明の一実施形態に係る外側継手部材1およびその製造方法について説明を行ったが、本発明は、上記の実施形態に限定適用されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、判定基準部(第1および第2の判定基準部12,13)は、図6(a)に示すように、高さ寸法y2が0.01mm以上1.0mm以下の突状部15で構成しても良いし、図6(b)に示すように、深さ寸法y3が0.01mm以上1.0mm以下の凹状部16で構成しても良い。なお、図6(a)(b)は、外側継手部材1のカップ部2の内径面4の全周に亘って、第1の判定基準部12としての突状部15および凹状部16を形成した場合を例示している。
【0039】
また、図7に示すように、判定基準部(図示例では第1の判定基準部12)は、カップ部2の周方向で間欠的に設けるようにしても良い。特に図7に示すように、トラック溝5の形成領域を除く周方向領域に判定基準部を設けるようにすれば、判定基準部を設けることによるトルク伝達部材(ローラ)の転動性低下を考慮せずとも足りる。なお、図7は、判定基準部(第1の判定基準部12)として凹状部16を採用した場合を示しているが、判定基準部として段差部14あるいは突状部15を採用する場合にも、かかる構成を採用することができる。
【0040】
また、図1に示した外側継手部材1は、前素形材1”のカップ状部2’の開口側端部がしごき加工に伴って自由変形することにより得られた面でカップ部2の開口側端面7を構成したものであるが、カップ部2の開口側端面7は、図8に示すように、旋削加工で仕上げられた面とすることも可能である。すなわち、図4を参照して説明したしごき加工工程の後、素形材1’のカップ状部2’の開口端部を所定寸法除去する端部除去工程としての旋削工程をさらに設け、この旋削工程で、カップ状部2’の開口端部を第1の判定基準部12(段差部14)の全体が除去される軸方向位置に至って旋削するようにしても良い。この場合、カップ状部2’の内径面に型成形した第1の判定基準部12としての段差部14は、旋削加工の終了位置(カップ部2の開口側端面7の形成位置)を示す目印として活用することができる。
【0041】
また、以上では、カップ部2の内径面4(素形材1’のカップ状部2’の内径面)に判定基準部を型成形するようにしたが、判定基準部は、カップ部2の内径面4に替えて、あるいはカップ部2の内径面4に加えてカップ部2の外径面に型成形するようにしても構わない(図示省略)。
【0042】
また、以上では、摺動式等速自在継手の一種であるトリポード型等速自在継手(TJ)用の外側継手部材1、およびこの外側継手部材1を製造するに際して本発明を適用した場合について説明を行ったが、本発明は、その他の摺動式等速自在継手、例えばダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)用の外側継手部材、およびこの外側継手部材を製造する際に適用することも可能である。
【0043】
また、本発明は、以上で述べた摺動式等速自在継手用の外側継手部材のみならず、アンダーカットフリー型等速自在継手(UJ)などの固定式等速自在継手用の外側継手部材、およびこの外側継手部材を製造する際に適用することも可能である。なお、固定式等速自在継手は、軸方向変位は許容せずに角度変位のみを許容するものであり、これに組み込まれる外側継手部材のトラック溝は、相対的にカップ開口側に位置して継手軸線と平行に延びる直線状部分と、相対的にカップ底側に位置する円弧状部分とで構成される。この場合、トラック溝の直線状部分は、しごき加工により最終形状に成形する(仕上げる)ことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 外側継手部材
1’ 素形材
1” 前素形材
2 カップ部
2’ カップ状部
3 軸部
3’ 軸状部
4 内径面(成形面)
5 トラック溝
12 第1の判定基準部(判定基準部)
13 第2の判定基準部(判定基準部)
14 段差部
15 突状部
16 凹状部
20 しごきパンチ
21 成形型部
22 第1の判定基準成形部
23 第2の判定基準成形部
30 しごきダイス
D カップ深さ
x1 軸直交平面(必要カップ深さの公差下限)
y1 段差部の高低差
y2 突状部の高さ寸法
y3 凹状部の深さ寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9