特許第5894481号(P5894481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894481
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】非接触ICカード
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20160317BHJP
【FI】
   G06K19/077 144
   G06K19/077 156
   G06K19/077 212
   G06K19/077 264
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-68911(P2012-68911)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-200732(P2013-200732A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】日野 吉晴
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】三宅 聡
【審査官】 岡北 有平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/011483(WO,A1)
【文献】 特開2004−264983(JP,A)
【文献】 特開平10−024688(JP,A)
【文献】 特開平03−158296(JP,A)
【文献】 特開2005−099897(JP,A)
【文献】 米国特許第06440773(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/00 − 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(10)の片面にICチップ(11)と、アンテナコイル(12)と、ICチップ(11)の補強構造とが配置してあるインレット(1)を備えている非接触ICカードであって、
ICチップ(11)は基板(10)にチップ用接着材(13)で固定されてアンテナコイル(12)の端部(12b)と接続され、チップ用接着材(13)の一部がICチップ(11)の外郭線の外へ食み出しており、
補強構造は、ICチップ(11)を間に挟む状態で配置されるサポート部(15)と、ICチップ(11)およびサポート部(15)の外面を覆う補強板(16)とで構成されており、
サポート部(15)は、基板(10)と補強板(16)のいずれか一方に設けられて、補強板(16)を支持しており、
補強板(16)は弾性接着材(17)を介してICチップ(11)に接着されており、
補強板(16)とサポート部(15)とでチップ埋設部に作用する点圧荷重を協同して分散し、弾性接着材(17)の弾性でICチップ(11)および補強板(16)の撓み変形を吸収しており、
サポート部(15)は、チップ用接着材(13)と同じ熱硬化性の接着材で形成され、サポート部(15)とチップ用接着材(13)の食み出し部分(13a)との間に隙間(E)が設けてあることを特徴とする非接触ICカード。
【請求項2】
基板(10)の片面にICチップ(11)と、アンテナコイル(12)と、ICチップ(11)の補強構造とが配置してあるインレット(1)を備えている非接触ICカードであって、
ICチップ(11)は基板(10)にチップ用接着材(13)で固定されてアンテナコイル(12)の端部(12b)と接続されており、
補強構造は、ICチップ(11)を間に挟む状態で配置されるサポート部(15)と、ICチップ(11)およびサポート部(15)の外面を覆う補強板(16)とで構成されており、
サポート部(15)は、基板(10)と補強板(16)のいずれか一方に設けられて、補強板(16)を支持しており、
補強板(16)は弾性接着材(17)を介してICチップ(11)に接着されており、
補強板(16)とサポート部(15)とでチップ埋設部に作用する点圧荷重を協同して分散し、弾性接着材(17)の弾性でICチップ(11)および補強板(16)の撓み変形を吸収しており、
補強板(16)の接着面側に、サポート部(15)と、弾性接着材(17)とが設けられており、
サポート部(15)は、ICチップ(11)の周囲を流動隙間(G)を介して断続的に囲む複数個のサポート片(15a)で構成されており、
基板(10)上にチップ用接着材(13)とICチップ(11)を配置した状態で、補強板(16)をICチップ(11)に押付けて、ICチップ(11)が基板(10)にチップ用接着材(13)で接着固定され、同時に補強板(16)がICチップ(11)に弾性接着材(17)を介して接着固定されており、
ICチップ(11)で押出されたチップ用接着材(13)の食み出し部分(13a)が、隣接するサポート片(15a)の間の流動隙間(G)の内部に流動させてあることを特徴とする非接触ICカード。
【請求項3】
補強板(16)をICチップ(11)に接着する弾性接着材(17)がシリコーン接着材で形成してある請求項1または2に記載の非接触ICカード。
【請求項4】
インレット(1)の表裏にコアシート(2・3・4)がラミネートされており、
補強板(16)と対向するコアシート(3)の内面に、凹凸面からなる粗面部(8)が形成されており、
コアシート(3)のラミネート時に粗面部(8)を圧潰して、補強板(16)とコアシート(3)とが圧潰された粗面部(8)を介して密着してある請求項1から3のいずれかひとつに記載の非接触ICカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICチップ用の補強構造を備えている非接触ICカードに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の補強構造を備えているICカードは、例えば特許文献1に公知である。そこでは、絶縁基板(PETフィルム)の上面にアンテナパターンを形成し、同パターンの端部に導電膜(チップ用接着材)を介してICチップを実装している。さらに、ICチップの上面に封止剤を塗布したのち補強板を封止剤に押付けて流動させ、ICチップの周囲を封止剤で覆い、封止剤の上面に補強板を固定したのち封止剤を熱硬化している。この状態のカードブランク(以下、インレットと言う。)の上面および下面にコアシートを積層し、さらに、コアシートの上面および下面に外装シートを積層したのち、積層シートをプレス機で加熱しながら加圧して一体化している。得られたブランクに印刷を施したのち、所定のサイズに打ち抜いてICカードを形成している。特許文献1には、上記の補強板に加えて、ICチップの実装位置と正対する絶縁基板の下面側に封止剤を塗布し、その下面に補強板を固定したICカードも提案されている。
【0003】
本発明に係る非接触ICカードにおいては、ICチップの周囲に支持体を配置して点圧強度を増強するが、この種の補強構造は、本出願人の提案に係る特許文献2に公知である。そこでは、ステンレス薄板にエッチング処理して凹部を形成し、さらに凹部と補強板の周縁との間に一対の溝を設けて補強板を形成している。補強板およびアンテナコイルは、それぞれ不織布製の基板に接着されており、凹部にはICチップが固定され、溝に沿って導入されたアンテナコイルの両端がバンプを介してICチップに接続してある。この状態のインレットの表裏にコアシートと外装シートを熱圧着し印刷を施したのち、所定のサイズに打ち抜いてICカードを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−192568号公報(段落番号0057〜0063、図2
【特許文献2】特開2007−048168号公報(段落番号0017〜0023、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のICチップの片面を補強板で補強したICカードによれば、補強板を付加することによりICカードの点圧強度を向上できる。しかし、ICチップが埋設されたカードの裏面側(ICチップが固定されていない側の面)に点圧が作用する場合に、ICチップに荷重が集中してひび割れを生じやすい。とくに、導電膜のICチップの接着面からの食み出し領域が広い場合に、その傾向が顕著に現われる。
【0006】
その点、ICチップの両面を一対の補強板で補強したICカードの場合には、ICチップの埋設部分に点圧が作用しても、点圧荷重を補強板で分散させることができるので、ICチップにひび割れ等が生じるのを良く防止できる。しかし、ICチップの表裏両面に補強板を配置する分だけインレットの厚みが増加するため、ICチップの埋設部分と対応するカード表面に小さな段差が生じるのを避けられず、ICカードの表面に印刷を施した場合に、文字や絵柄が歪むなど印刷品質が低下するのを避けられない。
【0007】
特許文献2の補強構造によれば、補強板の凹部の内部にICチップと、アンテナコイルとの接続バンプを収容するので、ICチップに点圧が直接作用するのを防止でき、点圧を受けてICチップがひび割れることもない。しかし、ICチップの補強のために、エッチング処理した補強板を用意する必要があるため、特許文献1のICカードに比べてICカードのコストが嵩むのを避けられない。
【0008】
本発明の目的は、点圧荷重によるICチップのひび割れを確実に防止でき、しかも、ICカードの表面に小さな段差が生じるのを解消して印刷品質を保持でき、さらに、ICチップの補強構造を簡素化して全体コストを削減できる非接触ICカードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る非接触ICカードは、基板10の片面にICチップ11と、アンテナコイル12と、ICチップ11の補強構造とが配置してあるインレット1を備えている。ICチップ11は基板10にチップ用接着材13で固定されてアンテナコイル12の端部12bと接続されている。補強構造は、ICチップ11を間に挟む状態で配置されるサポート部15と、ICチップ11およびサポート部15の外面を覆う補強板16とで構成する。サポート部15は、基板10と補強板16のいずれか一方に設けられて、補強板16を支持する。補強板16は弾性接着材17を介してICチップ11に接着する。補強板16とサポート部15とでチップ埋設部に作用する点圧荷重を協同して分散し、弾性接着材17の弾性でICチップ11および補強板16の撓み変形を吸収する。ICチップ11はチップ用接着材13で基板10に接着固定され、その過程で、チップ用接着材13の一部がICチップ11の外郭線の外へ食み出している。サポート部15は、チップ用接着材13と同じ熱硬化性の接着材で形成する。サポート部15とチップ用接着材13の食み出し部分13aとの間に隙間Eを設けていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る非接触ICカードは、基板10の片面にICチップ11と、アンテナコイル12と、ICチップ11の補強構造とが配置してあるインレット1を備えている。ICチップ11は基板10にチップ用接着材13で固定されてアンテナコイル12の端部12bと接続されている。補強構造は、ICチップ11を間に挟む状態で配置されるサポート部15と、ICチップ11およびサポート部15の外面を覆う補強板16とで構成する。サポート部15は、基板10と補強板16のいずれか一方に設けられて、補強板16を支持する。補強板16は弾性接着材17を介してICチップ11に接着する。補強板16とサポート部15とでチップ埋設部に作用する点圧荷重を協同して分散し、弾性接着材17の弾性でICチップ11および補強板16の撓み変形を吸収する。補強板16の接着面側に、サポート部15と、弾性接着材17とを設ける。サポート部15は、ICチップ11の周囲を流動隙間Gを介して断続的に囲む複数個のサポート片15aで構成する。基板10上にチップ用接着材13とICチップ11を配置した状態で、補強板16をICチップ11に押付けて、ICチップ11が基板10にチップ用接着材13で接着固定され、同時に補強板16がICチップ11に弾性接着材17を介して接着固定されるようにする。ICチップ11で押出されたチップ用接着材13の食み出し部分13aは、隣接するサポート片15aの間の流動隙間Gの内部に流動させることを特徴とする。
【0013】
補強板16をICチップ11に接着する弾性接着材17はシリコーン接着材で形成する。
【0014】
インレット1の表裏にコアシート2・3・4をラミネートする。補強板16と対向するコアシート3の内面に、凹凸面からなる粗面部8を形成する。コアシート3のラミネート時に粗面部8を圧潰して、補強板16とコアシート3とを圧潰された粗面部8を介して密着させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、ICチップ11用の補強構造を、ICチップ11を間に挟む状態で配置されるサポート部15と、ICチップ11およびサポート部15の外面を覆う補強板16とで構成した。また、サポート部15は、基板10と補強板16のいずれか一方に設けて、補強板16を支持するようにした。このように、サポート部15と補強板16とでICチップの周囲を囲むと、チップ埋設部に作用する点圧荷重を補強板16とサポート部15とが協同して分散させることができる。例えば、上面側の外装シート5の側からチップ埋設部に点圧荷重が作用する場合には、点圧荷重を補強板16で分散させ、同時に補強板16に作用する点圧荷重をサポート部15を介して、下面側のコアシート4および外装シート6に伝えて分散させることができる。
【0016】
また、補強板16は弾性接着材17を介してICチップ11に接着するので、点圧荷重を受けた補強板16の撓み変形を弾性接着材17で吸収して、点圧荷重がICチップ11に及ぶのを回避できる。さらに、下面側の外装シート6の側からチップ埋設部に点圧荷重が作用する場合には、ICチップ11に作用する点圧荷重を弾性接着材17が弾性変形することで吸収し、さらに点圧荷重をサポート部15と補強板16を介して、上面側のコアシート3および外装シート5に伝えて分散させることができる。従って、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消して、ICチップ11のひび割れを確実に防止できる。
【0017】
ICチップ11の厚み方向の配置領域を利用して配置したサポート部15で点圧荷重を分散させるので、従来のICカードに比べて補強構造の全厚寸法を小さくできる。従って、ICカードの表面に小さな段差が生じるのを防止して、カード表面に印刷された文字や絵柄の歪みを一掃し、印刷品質を適正な状態に保持できる。エッチング処理した補強板でICチップを補強する場合に比べて補強構造を簡素化できるので、その分だけ非接触ICカードの全体コストを削減できる。
【0018】
対向辺部11aに密着する一対のサポート部15と補強板16とでICチップ11の周囲を覆う補強構造によれば、補強板16とサポート部15で点圧荷重を分散できることに加えて、下面側からチップ埋設部に点圧荷重が作用する場合の構造強度を向上できる。これは、チップ埋設部に作用する点圧荷重を、ICチップ11に密着するサポート部15で直接的に受止めたのち、補強板16の側へ伝えて効果的に分散でき、さらに、ICチップ11に作用する荷重および衝撃を、弾性接着材17で吸収し緩和することができるからである。
【0019】
チップ用接着材13の食み出し部分13aとサポート部15との間に隙間Eを設けると、チップ埋設部に点圧荷重が作用する場合に、ICチップ11とサポート部15との間の基板10に曲げ力が集中する。そのため、ICチップ11の接着面と周側面で挟まれるエッジの近傍、つまり食み出し部分13aに多くの亀裂が発生する。しかも、亀裂の多くはICチップ11の四辺部においてほぼ均等に発生する。このように、多くの亀裂が発生する状況では、点圧荷重の多くが亀裂を発生させることに費やされるため、点圧荷重が集中するのを解消してICチップ11がひび割れるのを解消できる。また、亀裂が形成されたのちは、ICチップ11の動きの自由度が増すため、基板10の撓み変形に追随してICチップ11を動かすことができ、これにより点圧荷重がICチップ11に集中するのを解消できる。チップ用接着材13と同じ熱硬化性の接着材でサポート部15を形成すると、チップ用接着材13の基板10に対する塗布と、サポート部15を形成するための接着材の基板10に対する塗布を、並行して行なうことができ、さらに、両者の熱硬化処理を同時に行なうことができる。従って、サポート部15の形成素材が、チップ用接着材13と異なる場合に比べて、補強構造をより少ない工程で構成することができる。
【0020】
サポート部15を複数個のサポート片15aで構成し、ICチップ11で押出されたチップ用接着材13の食み出し部分13aを、サポート片15aの間の流動隙間Gの内部に集約して流動させると、チップ埋設部の構造強度を増強することができる。これは、サポート部15による補強効果に加えて、固化した食み出し部分13aによってICチップ11の周囲の曲げ強度が向上され、チップ埋設部の全体の構造強度を向上できるからである。
【0021】
弾性接着材17をシリコーン接着材で形成すると、他の接着材に比べて外部振動や衝撃などの応力を確実に吸収でき、さらに、接着界面に応力が集中しにくく、応力を分散できる。また、線膨張率が異なる補強板16とICチップ11の膨張変形の差を吸収でき、しかも接着対象の熱歪みを吸収できるなど、点圧荷重によるICチップ11のひび割れを防止するのに好適な特性を備えている点で、弾性接着材17としてシリコーン接着材が好適である。
【0022】
コアシート3の内面に粗面部8を形成し、ラミネート時に補強板16とコアシート3とを圧潰された粗面部8を介して密着させると、補強板16とコアシート3を強固に密着させて、両者3・16が互いにずれ動くのを確実に防止して、荷重の分散をさらに的確に行える。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1に係る非接触ICカードの要部の縦断面図である。
図2】非接触ICカードの一部を破断した平面図である。
図3】非接触ICカードの分解斜視図である。
図4図3におけるA−A線断面図である。
図5】ICチップの補強構造を示す平面図である。
図6】実施例2に係るICチップの補強構造の縦断面図である。
図7】実施例2に係る補強構造の平面図である。
図8】実施例3に係るICチップの補強構造の縦断面図である。
図9】実施例3に係る補強構造の平面図である。
図10】実施例3に係る補強構造の接着手順を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施例1) 図1ないし図5は、本発明に係るICカードの実施例1を示す。図2および図3において、ICカードは、インレット1と、インレット1の表裏にラミネートされる3枚のコアシート2・3・4、および最外層の2枚の外装シート5・6とで構成してある。インレット1は、PETフィルムからなる基板10の表面(上面)に、正方形状のICチップ11と、アンテナコイル12と、ICチップ11用の補強構造などを配置して構成してある。3枚のコアシート2・3・4のうち、インレット1の表面に積層される中央のコアシート2には、ICチップ11および補強構造の配置位置に対応して正方形状の窓穴7が形成してある。また、中央のコアシート2の外面に積層される上側のコアシート3の下面には、補強構造の配置位置に対応して正方形状の粗面部8が形成してある。
【0025】
アンテナコイル12は、銅またはアルミニウムの薄層にエッチングを施して形成してあり、基板10の周縁に沿って渦巻状に形成したコイル部12aを備えている。コイル部12aの両端のコイル端部12bとICチップ11とは、導電性のペーストからなるチップ用接着材13を介して接続してある。詳しくは、アンテナコイル12のコイル端部12bの外面を覆う状態でチップ用接着材13を基板10に塗布し、チップ用接着材13にICチップ11を押付けて、ICチップ11を基板10に固定している。このとき、チップ用接着材13の一部がICチップ11の外郭線から食み出しており、ICチップ11の接着面はアンテナコイル12のコイル端部12bの厚み寸法分だけ基板10から離れている。なお、ICチップ11の辺部寸法は2〜4mm、厚み寸法は50〜80μmの範囲内で変動するが、この実施例のICチップ11の辺部寸法は2mm、厚み寸法は50μmとした。チップ用接着材13としては、ペースト状およびフィルム状の導電性接着材を使用することができる。
【0026】
補強構造は、ICチップ11を間に挟んで基板10に固定されるサポート部15と、ICチップ11およびサポート部15の外面を覆う補強板16とで構成する。サポート部15は、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性の接着材を基板10に塗布したのち、基板10の上下面から熱ヘッドを接着材に押付けて、一定の圧力と熱を加えながら所定の高さ寸法になるように形成する。
【0027】
サポート部15の高さ寸法H1は、ICチップ11の基板表面からの高さ寸法H2より大きくなるように仕上げられる。この実施例では、ICチップ11側の高さ寸法H2が70μmであるとき、サポート部15の高さ寸法H1を75μmとした。サポート部15の高さ寸法H1は、先に説明したICチップ11の厚み寸法の違いに応じて75〜180μmの範囲で変動する。図3および図5に示すように、一対のサポート部15は、アンテナコイル12のコイル端部12bと平行な対向辺部11aに沿って形成してあり、一対のコイル端部12bは先の対向辺部11aと直交する側の対向辺部に配置されて、互いに端面同士が対向している。
【0028】
補強板16はステンレス薄板(金属薄板)を素材にして、ICチップ11よりひとまわり大きな正方形状に形成してある。具体的には、厚み寸法が100μmのステンレス薄板を、辺部寸法が3mmの正方形状にプレス機で打抜いて補強板16とした。補強板16の厚み寸法および辺部寸法もICチップ11の厚み寸法および辺部寸法の違いに応じて変動し、厚み寸法は100〜150μm、辺部寸法は3〜8mmの範囲で変動する。ICチップ11の上面に弾性を有する弾性接着材17を塗布したのち、補強板16を弾性接着材17に押付けることにより、補強板16とICチップ11とを弾性接着材17を介して一体化することができる。このとき、補強板16の下面は、未硬化状態のサポート部15に密着されて、サポート部15にも同時に接着される。
【0029】
弾性を有する弾性接着材17としては、シリコーン接着剤などの弾性接着剤や両面テープ、硬化後のショアーD硬度が45以下になるエポキシ系接着材などを適用できるが、シリコーン接着剤が好ましい。シリコーン接着剤は、他の接着材に比べて外部振動や衝撃などの応力を吸収する作用に優れていること、接着界面に応力が集中しにくいこと、線膨張率が異なる補強板16とICチップ11の膨張変形の差を吸収できること、接着対象の熱歪みを吸収できることなどの特性を備えているからである。
【0030】
補強板16を接着したのち、チップ用接着材13と、弾性接着材17と、サポート部15を完全に硬化させてインレット1を完成する。弾性接着材17は硬化後であっても弾性変形して、補強板16およびICチップ11に作用する外力を吸収して、荷重および衝撃を緩和するが、チップ用接着材13と、弾性接着材17とは変形不能に硬化する。ICチップ11および補強板16を基板10に固定してインレット1を完成した状態の弾性接着材17は、僅かに圧縮変形されて与圧された状態になっている。
【0031】
得られたインレット1に、コアシート2・3・4と外装シート5・6とを順に積層して各シート2〜6をラミネートする。具体的には、積層したシート全体をプレス機で加熱しながら加圧して各シートを一体化する。このラミネート過程では、図1に示すように、コアシート3の内面に設けた粗面部8が補強板16に密着して圧潰され、補強板16とコアシート3とが圧潰された粗面部8を介して密着する。そのため、補強板16とコアシート3とを強固に密着する状態で一体化できる。
【0032】
以上のように構成したICカードによれば、チップ埋設部に作用する点圧荷重を補強板16とサポート部15とが協同して分散し、弾性接着材17がICチップ11および補強板16の撓み変形を吸収するので、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消できる。
【0033】
例えば、上面側の外装シート5の側からチップ埋設部に点圧荷重が作用する場合には、点圧荷重を補強板16で分散させ、同時に弾性接着材17が弾性変形して荷重および衝撃を吸収し緩和する。このとき、補強板16とコアシート3は圧潰された粗面部8を介して強固に密着しているので、補強板16とコアシート3が相対的にずれ動くことはなく、荷重の分散を的確に行える。また、補強板16に作用する点圧荷重をサポート部15を介して、下面側のコアシート4および外装シート6に伝えて分散させることができる。
【0034】
上記の場合とは逆に、下面側の外装シート6の側からチップ埋設部に点圧荷重が作用する場合には、ICチップ11に作用する点圧荷重を弾性接着材17が弾性変形することで吸収して荷重および衝撃を緩和する。さらに点圧荷重をサポート部15と補強板16を介して、上面側のコアシート3および外装シート5に伝えて分散させることができる。従って、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消して、ICチップ11のひび割れを確実に防止できる。
【0035】
ICチップ11の対向辺部11aに沿って設けたサポート部15で点圧荷重を分散させるので、ICチップの両面を一対の補強板で覆って補強する従来のICカードに比べて、補強構造の全厚寸法を小さくできる。これは、ICチップ11の厚み方向の配置領域を利用して、サポート部15を配置できるからである。従って、ICカードの表面に小さな段差が生じるのを防止して、カード表面に印刷された文字や絵柄の歪みを一掃し、印刷品質を適正な状態に保持できる。また、エッチング処理した補強板でICチップを補強する場合に比べて補強構造を簡素化できるので、その分だけ非接触ICカードの全体コストを削減できる。
【0036】
(実施例2) 図6および図7は実施例2に係る補強構造を示す。そこでは、サポート部15をチップ用接着材13と同じ熱硬化性の接着材で形成するようにした。また、ICチップ11を基板10に接着する際には、チップ用接着材13の一部がICチップ11の外郭線の外へ食み出して食み出し部分13aを形成するが、この食み出し部分13aに対して隙間Eを隔てた位置にサポート部15を設けるようにした。他は先の実施例と同じであるので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。以下の実施例においても同じとする。
【0037】
上記の補強構造によれば、実施例1と同様に、チップ埋設部に作用する点圧荷重を補強板16とサポート部15とが協同して分散し、弾性接着材17がICチップ11および補強板16の撓み変形を吸収するので、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消できる。また、食み出し部分13aとサポート部15との間に隙間Eが設けてあるので、チップ埋設部に点圧荷重が作用する場合には、ICチップ11とサポート部15との間の基板10に曲げ力が集中する。そのため、ICチップ11の接着面と周側面で挟まれるエッジの近傍、即ち食み出し部分13aに多くの亀裂が発生する。しかも、エッジ近傍の亀裂は、ICチップ11の四辺部においてほぼ均等に発生する。
【0038】
このように、エッジ近傍の食み出し部分13aに亀裂が発生する状況では、点圧荷重の多くが亀裂を発生させることに費やされるため、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消してひび割れの発生を解消できる。また、亀裂が形成されたのちは、ICチップ11の動きの自由度が増すため、基板10の撓み変形に追随してICチップ11を動かして、点圧荷重が集中するのを解消できる。なお、試作したICカードを使用して点圧荷重試験を行って、試験後にICチップが正常に作動した供試体と、試験後にICチップが正常に作動しなかった供試体とを、それぞれ分解して観察した結果、前者の供試体において、上記のようにエッジ近傍で亀裂が多く発生していることを確認している。
【0039】
上記のように、食み出し部分13aとサポート部15との間に隙間Eを設けると、亀裂の発生を促進してICチップ11を保護できるが、隙間Eの値は数μm〜2mmの範囲内で選定することが好ましい。なお、隙間Eが数μm未満であると、食み出し部分13aがサポート部15に接着して、食み出し部分13aに点圧荷重が集中しなくなるおそれがある。また、隙間Eが2mmを越えると、サポート部15の幅寸法が小さくなるため、補強効果が損なわれてしまう。より好ましい隙間Eの値は0.1〜1mmの範囲内で選定する。
【0040】
(実施例3) 図8および図10は実施例3に係る補強構造を示す。そこでは、補強板16の接着面の側にサポート部15と弾性接着材17を形成するようにした。サポート部15は、実施例1と同様に、エポキシ樹脂などの熱硬化性の接着材を補強板16に塗布したのち、補強板16の上下面から熱ヘッドを接着材に押付けて、一定の圧力と熱を加えながら所定の高さ寸法になるように形成する。
【0041】
サポート部15は、4個のサポート片15aで構成されており、補強板16をICチップ11に弾性接着材17で接着した状態において、各サポート片15aがICチップ11の周囲を流動隙間Gを介して断続的に囲むようにした。各サポート片15aは、ICチップ11の隅部を受入れる直角の切欠20を設けて平面から見てL字状に形成してある。これらのサポート片15aに囲まれる補強板16の下面に弾性接着材17が塗布される。
【0042】
この実施例では、ICチップ11の固定と補強板16の固定を同時に行う。詳しくは、図10に示すように、基板10にチップ用接着材13を盛付け、その上面にICチップ11を仮接着する。この状態で、補強板16に設けた弾性接着材17をICチップ11に押付けて、ICチップ11を基板10に固定し、同時に補強板16をICチップ11に固定する。
【0043】
ICチップ11を補強板16で基板10へ向かって押付ける過程では、チップ用接着材13の一部がICチップ11の外郭線の外へ押し出され、隣接するサポート片15aの間の流動隙間Gへ入り込み、図9に示すように食み出し部13aを形成する。また、食み出した接着材の一部は、各サポート片15aの下面側へも回り込んで、サポート片15aの下面を基板10に接着させる。従って、チップ用接着材13の厚み寸法は常に一定になる。さらに、サポート片15aの下面を基板10に接着した状態において、余分な弾性接着材17がICチップ11と補強板16との間から食み出て流動隙間Gへ入り込むので、弾性接着材17の厚み寸法は常に一定になる。
【0044】
上記の補強構造によれば、実施例1と同様に、チップ埋設部に作用する点圧荷重を補強板16とサポート部15とが協同して分散し、弾性接着材17がICチップ11および補強板16の撓み変形を吸収するので、ICチップ11に点圧荷重が集中するのを解消できる。また、ICチップ11の四隅および各辺部を、4個のサポート片15aで囲んだ状態で保持するので、補強板16とサポート部15との間の力の伝達を効率よく行なうことができ、従って、点圧荷重の分散をさらに効果的に行なうことができる。加えて、ICチップ11の外郭線の外へ押出された食み出し部分13aを流動隙間Gに集約して流動させ、その内部で固化させるので、固化した食み出し部分13aによってICチップ11の周囲の曲げ強度を向上させて、チップ埋設部の構造強度をさらに増強することができる。
【0045】
上記の実施例では、3枚のコアシート2・3・4をインレット1にラミネートしたが、その必要はなく、コアシートは少なくとも2枚あれば足りる。図1から図7で説明した補強構造においては、必要があればICチップ11の周囲の3辺あるいは4辺にサポート部15を設けることができる。また、一対のサポート部15をコイル端部12bと直交する位置に配置することができる。図8から図10で説明した補強構造においては、少なくとも2個のサポート片15aで、ICチップ11の対角線上の隅部を保持してもよい。また、ICチップ11が円形に形成してある場合には、2または3個のサポート片15aでICチップ11を保持することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 インレット
10 基板
11 ICチップ
12 アンテナコイル
12b コイル端部
13 チップ用接着材
15 サポート部
16 補強板
17 弾性接着材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10