特許第5894491号(P5894491)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894491
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20160317BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20160317BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20160317BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16C33/38
   F16C33/58
   F16C33/80
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-92926(P2012-92926)
(22)【出願日】2012年4月16日
(65)【公開番号】特開2013-221559(P2013-221559A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】魚住 朋久
(72)【発明者】
【氏名】井筒 智善
【審査官】 稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−67826(JP,A)
【文献】 西独国特許出願公開第2329911(DE,A)
【文献】 特開2011−80506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
33/30−33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対回転する内輪および外輪と、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の転動体と、前記内輪と前記外輪との間に配され、前記転動体を円周方向等間隔に保持する保持器とを備えた転がり軸受であって、
前記保持器の軸方向端部の内径側あるいは外径側の少なくとも一方に、径方向に延びる鍔部を設けると共に、前記内輪あるいは外輪の前記鍔部と対応する部位に、前記鍔部とでラビリンスが形成される凹溝を設け、前記鍔部の内側面あるいは前記凹溝の前記鍔部内側面と対向する軸方向端面の少なくとも一方を、潤滑油の流れを発生させるように径方向に対して傾斜させ
前記鍔部と凹溝とで形成されたラビリンスを介して、潤滑剤が軸受外部から軸受内部へ流入すると共にその軸受内部から軸受外部へ流出する潤滑剤の流れを、前記潤滑剤が保持器の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向とし、
前記保持器の軸方向一端部の内径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、前記保持器の軸方向一端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させ、かつ、前記保持器の軸方向他端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、前記外輪の軸方向他端部に位置する凹溝の軸方向端面を軸方向と直交する方向に形成したことを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記鍔部の軸方向厚みを0.15mm以上とし、かつ、前記転動体の直径の20%以下とした請求項に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記保持器は、軸方向に向き合う二枚の環状体の対向面に転動体を収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に形成し、前記対向面を衝合させて二枚の環状体を結合させた請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記保持器は合成樹脂製である請求項1〜のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記保持器はPPS、PA66あるいはPA46から選択されたいずれか一つの合成樹脂で成形されている請求項1〜のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記保持器は非対称形状の二枚の環状体を結合させた構造からなり、それぞれの環状体の色を異ならせた請求項1〜のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体を転動自在に保持する合成樹脂製の保持器を内輪と外輪との間に組み込んだ転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発動機を有する車両のトランスミッションのギヤ支持軸には、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受などの各種の転がり軸受が広く使用されている。
【0003】
この種の転がり軸受は、外径面に内側転走面が形成された内輪と、その内輪の外側に配置され、内径面に外側転走面が形成された外輪と、内輪の内側転走面と外輪の外側転走面との間に転動自在に介在された複数の転動体と、内輪と外輪との間に配され、各転動体を円周方向等間隔に保持する保持器とで主要部が構成されている。この内輪あるいは外輪のいずれか一方がハウジングなどの固定部分に装着され、他方が回転軸などの回転部分に装着される。
【0004】
この転がり軸受を油浴潤滑下で使用するに際して、軸受内部への潤滑剤の流入を促進する手段を設けた転がり軸受(例えば、特許文献1参照)や、軸受内部への潤滑剤の流入を制限する手段を設けた転がり軸受(例えば、特許文献2参照)が種々提案されている。
【0005】
特許文献1に開示された転がり軸受は、外輪および内輪からなる軌道輪を同心に配置し、それらの間に複数の転動体を介挿し、外輪と内輪と転動体とで形成された内部空間を封止するように環状のシール部材を配置し、そのシール部材に、軸受外部と軸受内部とを連通する孔が形成された取り込み部を設けた構造を具備する。
【0006】
この転がり軸受では、内輪および外輪の回転に伴うシール部材の回転を利用して、そのシール部材の取り込み部の孔を介して軸受外部の潤滑剤を軸受内部に引き込むようにしている。このような構成とすることにより、軸受内部に潤滑剤を速やかに取り込むことができ、高速回転時の良好な回転性能を確保するようにしている。
【0007】
また、特許文献2に開示された転がり軸受は、内外輪と保持器との間に僅かな案内隙間を設け、その保持器の潤滑剤流入側端面を傾斜面とし、また、保持器の内径面を傾斜面とした構造を具備する。
【0008】
この転がり軸受では、内外輪と保持器と間に僅かな案内隙間を設け、その保持器の潤滑剤流入側端面を傾斜面としたことにより、潤滑剤が軸受内部に過剰に引き込まれることを抑制する。また、保持器の内径面を傾斜面としたことにより、軸受内部に過剰に流入した潤滑剤を積極的に軸受外部へ排出するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−266876号公報
【特許文献2】WO2009/131139A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に開示された転がり軸受では、軸受外部と軸受内部とを連通する孔をシール部材に形成する必要があるため、シール部材の加工費が嵩むと共にそのシール部材の組み付け工数が増加する。また、軸受内部に引き込まれた潤滑剤は、その軸受内部で転動体と保持器とによって攪拌されるため、かつ、軸受の回転速度が増加するほど軸受内部に引き込まれる潤滑剤の量が多くなる。このようにして過剰に引き込まれた潤滑剤により攪拌抵抗が発生し、特に、高速回転下で軸受のトルク(発熱)が顕著に大きくなる可能性がある。
【0011】
また、特許文献2に開示された転がり軸受では、内外輪と保持器との間に僅かな案内隙間を設け、その保持器の潤滑剤流入側端面を傾斜面とした構造であっても、軸受外部から潤滑油が流入する直線的な経路が存在することから、潤滑剤が軸受内部に流入することに対する抑制効果は限定的である。また、潤滑剤を積極的に排出するために保持器の内径面を傾斜面とした構造の場合、潤滑剤を排出する側から逆に潤滑剤が流入することも考えられ、潤滑剤が軸受内部に引き込まれ易い構造であるとも言えて逆効果となる。
【0012】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、簡便な構造により、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出し得る転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、互いに相対回転する内輪および外輪と、内輪と外輪との間に介在する複数の転動体と、内輪と外輪との間に配され、転動体を円周方向等間隔に保持する保持器とを備えた転がり軸受であって、保持器の軸方向端部の内径側あるいは外径側の少なくとも一方に、径方向に延びる鍔部を設けると共に、内輪あるいは外輪の鍔部と対応する部位に、鍔部とでラビリンスが形成される凹溝を設け、鍔部の内側面あるいは凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面の少なくとも一方を、潤滑油の流れを発生させるように径方向に対して傾斜させ、鍔部と凹溝とで形成されたラビリンスを介して、潤滑剤が軸受外部から軸受内部へ流入すると共にその軸受内部から軸受外部へ流出する潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向とし、保持器の軸方向一端部の内径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、保持器の軸方向一端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させ、かつ、保持器の軸方向他端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、外輪の軸方向他端部に位置する凹溝の軸方向端面を軸方向と直交する方向に形成したことを特徴とする。つまり、本発明は、潤滑油の流れと、鍔部と凹溝により形成されるラビリンス構造に着眼し、両者の構造を適宜組み合わせることで、潤滑油の流れを意図的に発生させることができるようにしたものである。
【0014】
なお、「内径側あるいは外径側の少なくとも一方」とは、鍔部を内径側のみに設ける場合、鍔部を外径側のみに設ける場合、鍔部を内径側および外径側の両方に設ける場合の全てを含むことを意味する。また、「鍔部の内側面あるいは凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面の少なくとも一方」とは、鍔部の内側面のみを傾斜させる場合、凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面のみを傾斜させる場合、鍔部の内側面および凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面の両方を傾斜させる場合の全てを含むことを意味する。
【0015】
本発明では、保持器の軸方向端部の内径側あるいは外径側の少なくとも一方に、径方向に延びる鍔部を設けると共に、内輪あるいは外輪の鍔部と対応する部位に、鍔部とでラビリンスが形成される凹溝を設け、鍔部の内側面あるいは凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面の少なくとも一方を径方向に対して傾斜させたことにより、鍔部と凹溝とで構成されたラビリンスは、鍔部の内側面あるいは凹溝の軸方向端面である傾斜面で潤滑剤の流れを規制する。このような簡便な構造により、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出することができる。その結果、軸受外部から軸受内部への異物や過度の潤滑剤の流入を防止でき、高温の潤滑剤中に含まれる異物を速やかに排出することができる。
【0018】
本発明において、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出するには、鍔部と凹溝とで形成されたラビリンスを介して、潤滑剤が軸受外部から軸受内部へ流入すると共にその軸受内部から軸受外部へ流出する潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向としている
【0019】
本発明において、潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向とする場合、保持器の軸方向一端部の内径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、保持器の軸方向一端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させ、かつ、保持器の軸方向他端部の外径側に位置する鍔部の内側面を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、外輪の軸方向他端部に位置する凹溝の軸方向端面を軸方向と直交する方向に形成した構造としている
【0020】
本発明における鍔部の軸方向厚みを0.15mm以上とし、かつ、転動体の直径の20%以下とすることが望ましい。このように、鍔部の軸方向厚みを前述の範囲に規制すれば、鍔部の強度を確保できると共に鍔部の成形が容易となり、軸受の軸方向寸法が大きくなることもない。なお、鍔部の軸方向厚みが0.15mmよりも小さいと、鍔部の強度不足や成形不良が発生し易くなり、転動体の直径の20%よりも大きいと、保持器の軸方向寸法が大きくなるのに伴って内外輪の軸方向寸法が大きくなって軸受が大型化する。
【0021】
本発明における保持器は、軸方向に向き合う二枚の環状体の対向面に転動体を収容する半球状のポケットを周方向の複数箇所に形成し、前記対向面を衝合させて二枚の環状体を結合させた構造が望ましい。このような構造を採用すれば、高速回転下において遠心力が負荷された際に、保持器を構成する二枚の環状体同士が互いにその変形を抑制して保持器全体の変形を抑制することができて転動体がポケットから脱落したり、内外輪などの他部品と干渉することを回避できる。
【0022】
本発明における保持器は、軽量化が図れる点で合成樹脂製であることが有効である。また、この保持器は、コスト面や耐油性の点を考慮すれば、PPS、PA66あるいはPA46から選択されたいずれか一つの合成樹脂で成形されていることが望ましい。
【0023】
本発明における保持器は非対称形状の二枚の環状体を結合させた構造からなり、それぞれの環状体の色を異ならせた構造が望ましい。このようにすれば、識別が容易となり、確実に潤滑油の流れを意図する方向へ発生させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、保持器の軸方向端部の内径側あるいは外径側の少なくとも一方に、径方向に延びる鍔部を設けると共に、内輪あるいは外輪の鍔部と対応する部位に、鍔部とでラビリンスが形成される凹溝を設け、鍔部の内側面あるいは凹溝の鍔部内側面と対向する軸方向端面の少なくとも一方を、潤滑油の流れを発生させるように径方向に対して傾斜させたことにより、部品点数や組立工数を増加させることなく、コスト低減が図れる。また、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出することができることから、高速回転下で軸受のトルク(発熱)の増大を防止することができる。さらに、軸受外部から軸受内部への異物や過度の潤滑剤の流入を防止でき、高温の潤滑剤中に含まれる異物を速やかに排出することができるので、転がり軸受の長寿命化が図れる。その結果、電動車両やハイブリッド車両において使用される高回転軸受に好適な自動車用途の転がり軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態で、転がり軸受を示す部分断面図である。
図2】本発明の他の実施形態で、転がり軸受を示す部分断面図である。
図3図1の保持器で、(A)は結合前の二枚の環状体を示す断面図、(B)は結合後の二枚の環状体を示す断面図である。
図4図2の保持器で、(A)は結合前の二枚の環状体を示す断面図、(B)は結合後の二枚の環状体を示す断面図である。
図5図1のA部分を示す要部拡大断面図である。
図6図1のB部分を示す要部拡大断面図である。
図7図2のC部分を示す要部拡大断面図である。
図8図2のD部分を示す要部拡大断面図である。
図9図2のE部分を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る転がり軸受の実施形態を以下に詳述する。この実施形態の転がり軸受は、特に、電動車両やハイブリッド車両において油浴潤滑下で使用される自動車用途の高回転軸受に好適である。なお、図1は本発明の一つの実施形態を示し、図2は本発明の他の実施形態を示す。
【0027】
各実施形態の転がり軸受は、図1および図2に示すように、外径面に内側転走面11が形成された内輪12と、その内輪12の外側に配置され、内径面に外側転走面13が形成された外輪14と、内輪12の内側転走面11と外輪13の外側転走面14との間に転動自在に介在された複数の転動体15と、内輪12と外輪13との間に配され、各転動体15を円周方向等間隔に保持する保持器16とで主要部が構成されている。この内輪12あるいは外輪13のいずれか一方がハウジングなどの固定部分に装着され、他方が回転軸などの回転部分に装着される。
【0028】
この転がり軸受は、高速回転下において遠心力による保持器16の変形を抑制することを目的として軽量の合成樹脂製保持器16を備えている。この保持器16は、コスト面や耐油性の点を考慮すれば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PA66(ポリアミド66)あるいはPA46(ポリアミド46)から選択されたいずれか一つの合成樹脂で成形することが有効である。なお、その他の樹脂材料としては、PA9T(ポリアミド9T)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やフェノール樹脂を使用することも可能である。
【0029】
図3(A)(B)は図1の保持器16を示し、図4(A)(B)は図2の保持器16を示す。これら保持器16は、軸方向に向き合う二枚の環状体17の対向面18に転動体15(図1および図2参照)を収容する半球状のポケット19を周方向の複数箇所に形成し、環状体17のそれぞれの対向面18を衝合させて二枚の環状体17を結合部(図示せず)により結合させた形状を有する。二枚の環状体17同士が互いにその変形を抑制して保持器16全体の変形を抑制することができて転動体15がポケット19から脱落したり、内輪12や外輪13などの他部品と干渉することを回避できる。
【0030】
この転がり軸受を油浴潤滑下で使用するに際して、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出する簡便な構造を具備する。つまり、図1および図2に示すように、保持器16の軸方向端部の内径側および外径側の両方に、径方向に延びる鍔部20〜23を設けると共に、内輪12および外輪14の鍔部20〜23と対応する部位に、鍔部20〜23とでラビリンス24〜29が形成される凹溝30〜33を設け、鍔部20〜23の内側面34〜37あるいは凹溝30〜33の鍔部内側面34〜37と対向する内外輪軸方向端面38〜41を径方向に対して傾斜させている。このように、内外輪軸方向端面38〜41、鍔部内側面34〜37を適宜傾斜させることにより、潤滑油の流れを意図的に発生させることができる。
【0031】
なお、内輪側の凹溝30,32は、内輪12の外径軸方向端部を段差状に凹ますようにして形成され、外輪側の凹溝31,33は、外輪14の内径軸方向端部を段差状に凹ますようにして形成されている。また、環状体17に一体的に設けられた鍔部20,23と内輪12および外輪14に一体的に形成された凹溝30〜33とでラビリンス24〜29を形成しているので、保持器16と内輪12および外輪14の形状変更だけで済むため、部品点数および組立工数の削減が図れてコスト低減化が容易となる。
【0032】
図1に示す実施形態は、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出する構造として、鍔部20,21と凹溝30,31とで形成されたラビリンス24,25を介して、潤滑剤が軸受外部から軸受内部へ流入すると共に潤滑剤が軸受内部から軸受外部へ流出する潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器16の内径側から流入すると共にその外径側へ流出する方向(径方向)とした場合を例示する。
【0033】
このように潤滑剤の流れを径方向とする実施形態の転がり軸受は、保持器16の軸方向両端部の内径側に位置する鍔部20の内側面34を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、外輪14の軸方向両端部に位置する凹溝31の軸方向端面39を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させた構造を具備する。この場合、保持器16の軸方向両端部に位置する鍔部20,21の内側面34,35をその全周に亘って径方向で拡開するように傾斜させている。保持器16は対称形状であるため、高速回転下において遠心力が負荷された際に、保持器16を構成する二枚の環状体17同士が互いにその変形を抑制して保持器16全体の変形を抑制することができて転動体15がポケット19から脱落したり、内輪12および外輪14などの他部品と干渉することを回避できる。
【0034】
なお、この実施形態では、外輪14の軸方向両端部に位置する凹溝31の鍔部内側面35と対向する軸方向端面39を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させているが(凹溝31の軸方向端面39は鍔部21の内側面35と平行)、その軸方向端面39を軸方向と直交する方向に延びるような形状としてもよい。また同様に、内輪12の軸方向両端部に位置する凹溝30の鍔部内側面34と対向する軸方向端面38を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させているが(凹溝30の軸方向端面38は鍔部20の内側面34と平行)、その軸方向端面38を軸方向と直交する方向に延びるような形状としてもよい。
【0035】
高速回転下において遠心力が負荷された際に、潤滑剤の流れは、図1の矢印で示すように、保持器16の内径側に位置する鍔部20と内輪12の凹溝30とで形成されたラビリンス24から遠心力によるポンプ作用で引き込まれて軸受内部に流入し、保持器16の外径側に位置する鍔部21と外輪14の凹溝31とで形成されたラビリンス25から軸受外部へ流出する。
【0036】
保持器16の内径側に位置する鍔部20と内輪12の凹溝30とで形成されたラビリンス24(図1参照)では、図5に示すように、高速回転下における遠心力でもって潤滑剤が径方向外側へ向けて流れる(図中の破線矢印参照)。この時、鍔部20の内側面34が径方向内側へ向けて拡開するように傾斜していることから、潤滑剤が鍔部20の内側面34に沿って流れ、全体として、図中の実線矢印で示すような潤滑剤の流れとなる。
【0037】
また、保持器16の外径側に位置する鍔部21と外輪14の凹溝31とで形成されたラビリンス25(図1参照)では、図6に示すように、高速回転下における遠心力でもって潤滑剤が径方向外側へ向けて流れる(図中の破線矢印参照)。この時、外輪14の凹溝31の軸方向端面39が径方向内側へ向けて拡開するように傾斜していることから、潤滑剤が凹溝31の軸方向端面39に沿って流れ、全体として、図中の実線矢印で示すような潤滑剤の流れとなる。
【0038】
図2に示す実施形態は、適度な量の潤滑剤を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤を軸受内部から軸受外部へ排出する構造として、鍔部20〜23と凹溝32,33とで形成されたラビリンス26〜29を介して、潤滑剤が軸受外部から軸受内部へ流入すると共に潤滑剤が軸受内部から軸受外部へ流出する潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器16の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向(軸方向)とした場合を例示する。この場合、潤滑剤は図示右側から左側へ流れるが、逆に、潤滑剤を図示左側から右側へ流したい場合には、保持器16の鍔部20〜23を左右逆転した状態に配置すればよい。
【0039】
このように潤滑剤の流れを軸方向とする実施形態の転がり軸受は、保持器16の軸方向一端部の内径側に位置する鍔部20の内側面34を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、保持器16の軸方向一端部の外径側に位置する鍔部22の内側面36を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させ、かつ、保持器16の軸方向他端部の外径側に位置する鍔部21の内側面35を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させると共に、外輪14の軸方向他端部の外径側に位置する凹溝33の軸方向端面41を軸方向と直交する方向に形成した構造を具備する。この場合、保持器16は、非対称形状の二枚の環状体17を結合させた構造をなすが、それぞれの環状体17の色を異ならせることにより識別が容易となり、確実に潤滑油の流れを意図する方向へ発生させることができる。また、保持器16の製作における作業性を低下させることはない。なお、保持器16の軸方向他端部の内径側に位置する鍔部23の内側面37については軸方向と直交する方向に延びるような形状としている。
【0040】
なお、この実施形態では、内輪12の軸方向両端部に位置する凹溝32の鍔部内側面34,37と対向する軸方向端面40を軸方向と直交する方向に延びるような形状としているが、その軸方向端面40を径方向外側へ向けて拡開するように傾斜させた形状としてもよい。また同様に、外輪14の軸方向両端部に位置する凹溝33の鍔部内側面35,36と対向する軸方向端面41を軸方向と直交する方向に延びるような形状としているが、その軸方向端面41を径方向内側へ向けて拡開するように傾斜させた形状としてもよい。
【0041】
高速回転下において遠心力が負荷された際に、潤滑剤の流れは、図2の矢印で示すように、保持器16の内径側に位置する鍔部20と内輪12の凹溝32とで形成されたラビリンス26から遠心力によるポンプ作用で引き込まれて軸受内部に流入すると共に、保持器16の外径側に位置する鍔部22と外輪14の凹溝33とで形成されたラビリンス27から遠心力によるポンプ作用で引き込まれて軸受内部に流入し、保持器16の外径側に位置する鍔部21と外輪14の凹溝33とで形成されたラビリンス29から軸受外部へ流出する。
【0042】
保持器16の内径側に位置する鍔部20と内輪12の凹溝32とで形成されたラビリンス26(図2参照)では、図7に示すように、高速回転下における遠心力でもって潤滑剤が径方向外側へ向けて流れる(図中の破線矢印参照)。この時、鍔部20の内側面34が径方向内側へ向けて拡開するように傾斜していることから、潤滑剤が鍔部20の内側面34に沿って流れ、全体として、図中の実線矢印で示すような潤滑剤の流れとなる。
【0043】
また、保持器16の外径側に位置する鍔部22と外輪14の凹溝33とで形成されたラビリンス27(図2参照)では、図8に示すように、高速回転下における遠心力でもって潤滑剤が径方向外側へ向けて流れると、鍔部22の内側面36が径方向内側へ向けて拡開するように傾斜していることから潤滑剤がその内側面36に当る(図中の破線矢印参照)。その結果、潤滑剤が軸方向内側へ向かって流れ、図中の実線矢印で示すような潤滑剤の流れとなる。
【0044】
さらに、保持器16の外径側に位置する鍔部21と外輪14の凹溝33とで形成されたラビリンス29(図2参照)では、図9に示すように、高速回転下における遠心力でもって潤滑剤が径方向外側へ向けて流れると、鍔部21の内側面35が径方向外側へ向けて拡開するように傾斜し、かつ、外輪14の凹溝33の軸方向端面41が軸方向と直交する方向に形成されていることから、鍔部21の内側面35と外輪14の凹溝33の軸方向端面41との間隔が径方向外側へ向けて広くなっているので、潤滑剤が鍔部21の内側面35に当ってその内側面35に沿って径方向外側に流れ(図中の破線矢印参照)、全体として、図中の実線矢印で示すような潤滑剤の流れとなる。
【0045】
以上で説明した実施形態(図1および図2参照)のように、保持器16の軸方向端部の内径側および外径側に、径方向に延びる鍔部20〜23を設けると共に、内輪12および外輪14の鍔部20〜23と対応する部位に、鍔部20〜23とでラビリンス24〜29が形成される凹溝30〜33を設け、鍔部20〜23の内側面34〜37あるいは凹溝30〜33の鍔部内側面34〜37と対向する軸方向端面38〜41を径方向に対して傾斜させた構造としている。
【0046】
これにより、鍔部20〜23と凹溝30〜33とで構成されたラビリンス24〜29は、鍔部20〜23の内側面34〜37あるいは凹溝30〜33の軸方向端面38〜41である傾斜面で潤滑剤の流れを規制する。このような簡便な構造により、保持器16の内部での潤滑剤の流れを、潤滑剤が保持器16の内径側から流入すると共にその外径側へ流出する方向(径方向)、あるいは、潤滑剤が保持器16の軸方向一端側から流入すると共にその軸方向他端側へ流出する方向(軸方向)とすることで、適度な量の潤滑剤(冷却された清浄な潤滑剤)を軸受外部から軸受内部へ供給すると共に、高温の潤滑剤(不要な異物を含む潤滑剤)を軸受内部から軸受外部へ排出することができる。このようにして、軸受外部から軸受内部への異物や過度の潤滑剤の流入を防止でき、高温の潤滑剤中に含まれる異物を速やかに排出することができる。
【0047】
この実施形態では、図1に示すように、鍔部20〜23の軸方向厚みtを0.15mm以上とし、かつ、転動体15の直径Dの20%以下としている。このように、鍔部20〜23の軸方向厚みtを前述の範囲に規制すれば、鍔部20〜23の強度を確保できると共に鍔部20〜23の成形が容易となり、軸受の軸方向寸法が大きくなることもない。なお、鍔部20〜23の軸方向厚みtが0.15mmよりも小さいと、鍔部20〜23の強度不足や成形不良が発生し易くなる。また、鍔部20〜23の軸方向厚みtが転動体15の直径Dの20%よりも大きいと、保持器16の鍔部20〜23が軸受端面から突出することを回避するために内輪12および外輪14の凹溝30〜33の軸方向寸法(溝幅)を大きくせざるを得ず、内輪12および外輪14の軸方向寸法が大きくなって軸受全体が大型化する。
【0048】
また、以上で説明した実施形態では、保持器16の軸方向端部の内径側および外径側の両方に鍔部20〜23を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、図示しないが、保持器16の軸方向端部の内径側あるいは外径側のいずれか一方のみに鍔部20〜23を設けるようにしてもよい。
【0049】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0050】
12 内輪
14 外輪
15 転動体
16 保持器
17 環状体
18 対向面
19 ポケット
20〜23 鍔部
24〜29 ラビリンス
30〜33 凹溝
34〜37 鍔部の内側面
38〜41 凹溝の軸方向端面
D 転動体の直径
t 鍔部の軸方向厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9