(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、ニッケルカドミウム蓄電池及びニッケル水素蓄電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータをはじめとする可搬式情報通信端末、ビデオカメラ、携帯音楽再生機等の電源として広く用いられている。特に、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度特性や高出力密度特性といった諸特性を有する点で優位性があり、その登場以来、研究開発が行われ、急速にこれら民生機器の標準電池としての地位を確立してきた。
【0003】
可搬式情報通信端末の高機能化に伴い、電源であるリチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」とも称する)の高エネルギー密度特性のさらなる向上、すなわち電池の高容量化が求められている。また、環境面の配慮からサイクル寿命の向上も望まれている。
【0004】
通常、リチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ及び非水電解液から構成される。正極及び負極は、例えば、活物質、導電性を付与する導電材、及びこれらを結着するための結着剤を溶媒中で混合し、集電体上に塗布することにより得られる。得られた正極及び負極を、例えばセパレータを介して重ね合わせ、ロール状に捲回して電池缶に挿入し、そこに電解質塩を溶解させた非水性溶媒(有機溶媒)を非水電解液として注入し、絶縁性のガスケットを介して電池缶に蓋を取り付け密閉する工程を経て電池が製造される。
【0005】
こうして得られた電池は、作動電圧が2.5V〜4.2Vの範囲で用いられることが多い。通常、電解液に水を用いるニッケル水素蓄電池や鉛蓄電池等は、水の理論電解電圧が1.229Vであるために、単電池の定格電圧が1.2V〜2.0Vの範囲に限られる。これに対し、リチウムイオン二次電池では、単電池においてそのような水の理論電解電圧を超える電圧を達成することが可能であり、これは非水電解液やセパレータ等の優れた電気化学特性によるところが大きい。
【0006】
リチウムイオン二次電池の高容量化は、例えば、正極及び負極の単位面積当たりの塗布量を多くしたり、充電電圧を高めたりすることによって達成可能であり、様々な手法により高容量化が検討されている。
【0007】
しかしながら、作動電圧いっぱいに高容量で電池を繰り返し充放電した際には、容量劣化を起こし電池寿命が短くなることがある。また、高温環境下で電池を保存したり使用したりした際には、電池内部にてガスが発生し、電池内部の圧力が上昇し、電池が変形したり内部の電解液が漏えいしたりする可能性がある。また、電池内に設けられた、圧力により動作する安全機構が誤作動することも考えられる。
【0008】
(特許文献1)には、電池のサイクル特性の向上を目的として、活物質粒子に含まれるリチウム複合酸化物をシラン化合物で処理し、さらに該シラン化合物の結合基(Si−OH)のうちリチウム複合酸化物と結合せず残存したものを不活性化することを含む、リチウムイオン二次電池の正極の製造方法が開示されている。なお、(特許文献1)では、メチルトリメトキシシラン等のシラン化合物をシランカップリング剤と称しているが、それら化合物は一般的なシランカップリング剤の概念に包含されるものではない。
【0009】
また、(特許文献2)には、電気伝導度と共に樹脂への充填性及び分散性を向上させることを目的として、熱硬化性フェノール樹脂又は熱硬化性エポキシ樹脂を酸化雰囲気下で熱処理して得られるカーボンにより被覆されている複合正極材粒子からなる複合正極材粒子粉末とその製造方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、従来のリチウムイオン二次電池と同様に、正極及び負極がセパレータを介して重ね合わされ、それらが非水電解液と共に、鉄やアルミニウム等からなる缶やアルミラミネートフィルム等からなる容器に封入された構成を有する。以下、本発明のリチウムイオン二次電池の各構成について詳細に説明する。
【0015】
1.正極
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる正極は、従来と同様に、正極活物質を例えば導電材及び結着剤と共に溶媒中に分散させて正極塗工インクを調製し、これを集電体上に塗布し溶媒を除去することによって製造される。本発明では、上記正極活物質が、正極材料及びエポキシ樹脂、あるいは正極材料、シランカップリング剤及びエポキシ樹脂を含むことを特徴とする。
【0016】
(1)正極材料
正極材料としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料であり、例えば以下のようなものが挙げられる。なお、以下に例示する正極材料は、1種類を単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。
【0017】
・Li及びNiを含むリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2等)。
・Li及びNiに加えて、Mで示される少なくとも1種類の金属元素を含むリチウムニッケル含有金属複合酸化物(Li
xNi
1−yM
yO
2等:ここで、xは0<x≦1.2、yは0<y<1であり、MはAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ti、Ge、W及びZrからなる群、好ましくはMn、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)。
・Li及びCoを含むリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2等)。
・Li及びCoに加えて、Mで示される少なくとも1種類の金属元素を含むリチウムコバルト含有金属複合酸化物(Li
xCo
1−yM
yO
2等:ここで、xは0<x≦1.2、yは0<y<1であり、MはAl、Mg、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn、Ti、Ge、W及びZrからなる群、好ましくはMn、Ni及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)。
・その他のリチウム含有複合酸化物(Li
xMO
2又はLi
yM
2O
4等:ここで、xは0<x≦1であり、yは0<y≦2であり、MはAl、Mg、Mn、Fe、Cu、Zn、Ti、Ge、W及びZrからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)。特に、スピネル型リチウム含有複合酸化物。
・リチウム含有金属複合カルコゲン化物(二硫化チタン、二硫化モリブデン等の金属硫化物等)。
・オリビン型結晶構造を有するリチウム含有化合物(LiMPO
4等:ここで、MはFe、Mn及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)。
【0018】
正極材料の製造過程では、リチウムを所望の化学量論比に対して過剰に加えることがある。その場合、未反応に終わったリチウムが空気中の水分や二酸化炭素と反応する等して、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム等の形で正極材料の表面に多量に存在することになる。また、リチウム以外のアルカリ金属化合物(例えば、A
2CO
3やAOH:Aはアルカリ金属である)が正極材料の表面に存在する場合もある(以下、そのような正極材料の表面に存在するアルカリ金属化合物を「アルカリ金属付着物」とも称する)。正極材料における炭酸リチウムや炭酸水素リチウム等のアルカリ金属付着物は、電池内でのガス(炭酸ガス)の発生源となることが懸念される。また、そもそも金属酸化物は表面が高活性であるため、正極材料自体、あるいは正極材料表面のアルカリ金属付着物と非水電解液とが反応することによりガスが発生することも懸念される。
【0019】
また、正極材料の中でも、特にリチウムに加えてニッケルを含むリチウムニッケル複合酸化物やリチウムニッケル含有金属複合酸化物を使用すると、電池の高容量化が期待できるが、例えば電池を4.2Vまで充電する際により多くのリチウムを構造から引き抜くことになるため、そのリチウムの引き抜きによって正極材料の化学的な安定性は低下すると考えられる。さらに、ニッケルは、コバルト等と比較しても特に活性が高いため、非水電解液とより反応しやすいと考えられる。したがって、ニッケルを含む正極材料を用いる場合には、特にガスの発生量が多くなることが懸念される。
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池における正極活物質は、正極材料に加えて、好ましくは正極材料と結合可能なシランカップリング剤を含む。「正極材料と結合可能」とは、シランカップリング剤が、正極材料自体あるいはその表面のアルカリ金属付着物と反応し、共有結合等の何らかの化学結合を介して結合可能であることを意味する。シランカップリング剤は、正極材料の表面を被覆するような形態で正極活物質中に存在し、正極材料あるいはその表面のアルカリ金属付着物に起因してガスが発生することを抑制する。シランカップリング剤については後に詳述する。
【0021】
また、本発明のリチウムイオン二次電池における正極活物質は、エポキシ樹脂をさらに含む。エポキシ樹脂は、シランカップリング剤による被覆を補強する役割を果たすと考えられる。エポキシ樹脂については後に詳述する。
【0022】
本発明において、正極材料は、リチウム以外の金属の合計量を100モル%としたときニッケルを50モル%以上含む組成を有することが好ましい。上述の通り、ニッケルを多く含む正極材料を用いることによって電池の高容量化が期待でき、一方、懸念されるガスの発生についてはシランカップリング剤及びエポキシ樹脂を用いることにより十分抑制できるからである。そのような正極材料としては、Li
xNi
αM
1−αO
2(ここで、xは0<x≦1.2であり、αは0.5≦α≦1であり、MはAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Ti、Ge、W及びZrからなる群、好ましくはMn、Co及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素である)で示される組成を有するものが挙げられる。
【0023】
上述したような正極材料の製造方法は従来公知である。例えば、構成元素源となる化合物を所定の比率で混合した後に焼成する等の方法によって製造することができる。また、そのようにして得られた正極材料は、必要に応じて粉砕や造粒等を行っても良く、所望の粒子径を持った粒子あるいは所望の粒径分布を有する二次粒子とすることもできる。
【0024】
(2)シランカップリング剤
本発明におけるシランカップリング剤は、上述の正極材料と結合可能な構造を有する。ここで「シランカップリング剤」とは、一般式:Y−SiR
1n(OR
2)
3−n[式中、R
1はC
1〜6アルキル基(特にメチル)、R
2はC
1〜6アルキル基又はC
1〜6アルコキシC
1〜6アルキル基(特にメチル、エチル又は2−メトキシエチル)、Yは反応性官能基含有部分を示し、nは0又は1(特に0)である]で表される化合物である。シランカップリング剤は、例えばケイ素上のアルコキシ基(上記一般式のOR
2)が加水分解されてシラノールとなり、それにより生じたヒドロキシ基が、正極材料表面に存在するヒドロキシ基との間で脱水縮合することで正極材料と結合する。
【0025】
本発明におけるシランカップリング剤は、上記の一般式においてYで表される反応性官能基含有部分に、1個又は複数個の反応性官能基を有することが好ましい。Yで表される反応性官能基含有部分は、例えば直鎖状又は分岐鎖状のC
1〜18アルキル基(特にC
1〜12アルキル基、とりわけC
1〜6アルキル基)であって、炭素鎖の末端もしくは中間部分に1個又は複数個の反応性官能基を有する。
【0026】
シランカップリング剤が有する反応性官能基としては、エポキシ基、アミノ基等が挙げられる。そのような官能基を有する場合、後述するエポキシ樹脂が該官能基を介して結合することができ、正極材料表面の被覆をより均一かつ安定したものにすることができる。なお、シランカップリング剤は、1分子中に複数種の反応性官能基を有していても良い。また、シランカップリング剤は複数種を混合して用いても良い。
【0027】
本発明において好ましいシランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、等が挙げられる。
【0028】
シランカップリング剤は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、エタノール等の有機溶媒に希釈して用いることができる。
【0029】
シランカップリング剤は、正極材料100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、より好ましくは0.03〜0.3重量部、特に好ましくは0.05〜0.1重量部の範囲の量で正極活物質中に存在することが好ましい。この範囲の量であれば、正極材料の被覆に起因する電池性能の低下を防ぎつつ、特に高温環境下でのガス発生を十分抑制することができる。
【0030】
(3)エポキシ樹脂
本発明におけるエポキシ樹脂は、少なくとも構造中に2個のエポキシ基を有する2官能タイプが好ましいが、2個以上のエポキシ基を有する多官能タイプや、単官能タイプも使用できる。汎用のエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。さらに、脂肪族型エポキシ樹脂を用いた低粘度タイプ、希釈タイプ、臭素化エポキシ樹脂を用いた難燃性タイプ、ハロゲンフリー難燃性エポキシ樹脂、可とう性型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等を用いることも可能である。エポキシ当量(エポキシ基1個当たりのエポキシ樹脂の分子量)に特に制限はないが、好ましくは600(g/eq)より低いものであれば、粘度が低く、正極材料の処理に適している。
【0031】
エポキシ樹脂は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)やジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、エタノール、トルエン、メチルエチルケトン等の有機溶媒に希釈して用いることができる。有機溶媒に希釈して用いることで、正極材料を均一に表面処理することができる。また、希釈しないでエポキシ樹脂をそのまま添加して使用することもでき、その場合は脂肪族型エポキシ樹脂による低粘度タイプを使用することが好ましい。
【0032】
エポキシ樹脂は、正極材料100重量部に対して0.01〜5.0重量部、好ましくは0.01〜1.0重量部、より好ましくは0.03〜0.3重量部、特に好ましくは0.05〜0.1重量部の範囲の量で正極活物質中に存在することが好ましい。この範囲の量であれば、正極材料の被覆に起因する電池性能の低下を防ぎつつ、特に高温環境下でのガス発生を十分抑制することができる。
【0033】
本発明におけるエポキシ樹脂は、好ましくはシランカップリング剤で処理した正極材料に対して添加されるため、正極材料に対する親和性が向上し、正極粒子表面により多くのエポキシ樹脂が存在すると考えられる。そのため、シランカップリング剤単独での処理に比べて、正極材料の表面が露出する面積を小さくでき、正極材料と電解液との接触が少なくなる。また、シランカップリング剤は正極材料の細孔に入り込むのに対して、エポキシ樹脂はより広い面積を被覆すると推定され、シランカップリング剤単独に比べて正極材料の表面が露出する面積を小さくできると考えられる。なお、正極材料上の、シランカップリング剤及びエポキシ樹脂による被覆部分(被覆層)の内部におけるシランカップリング剤の比率が、被覆層の表面におけるシランカップリング剤の比率よりも高いことが好ましい。具体的には、内部での比率が、表面での比率よりも20%以上高いことが好ましい。
【0034】
(4)正極の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池における正極は、例えば以下の手順に従って製造することができる。
【0035】
まず、上記(1)〜(3)で説明した正極材料、エポキシ樹脂、及び、好ましくはシランカップリング剤を用いて正極活物質を製造する。正極材料を、最初にシランカップリング剤と接触させ、正極材料表面にシランカップリング剤の被膜を形成させる。シランカップリング剤は、上述したNMP等の有機溶媒に希釈して用いることが好ましい。次に、シランカップリング剤の被膜が形成された正極材料に、さらにエポキシ樹脂を接触させ、シランカップリング剤及びエポキシ樹脂の被膜(被覆層)を形成させる。エポキシ樹脂も、上述したNMP等の有機溶媒に希釈して用いることが好ましい。
【0036】
ここで、シランカップリング剤を接触させる工程と、エポキシ樹脂を接触させる工程は、個別に、連続して、又は同時に行うことができる。「個別に」とは、正極材料にシランカップリング剤を接触させた後、一度乾燥させて溶媒を除去する等し、その後にエポキシ樹脂を接触させることを意味する。「連続して」とは、正極材料にシランカップリング剤を接触させた後、乾燥させずにそのままエポキシ樹脂と接触させることを意味する。「同時に」とは、正極材料にシランカップリング剤及びエポキシ樹脂を同時に接触させることを意味する。
【0037】
正極材料表面に形成されたシランカップリング剤及びエポキシ樹脂による被覆層は、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF−SIMS)によって確認することができる。
【0038】
次に、得られた正極活物質を、導電材及び結着剤と共に溶媒中に分散させて正極塗工インクを調製し、これを集電体上に塗布し、乾燥させて溶媒を除去することにより正極が得られる。
【0039】
正極の導電性を向上させる目的で、正極塗工インクには導電材を用いることが好ましい。導電材としては、炭素の微細粒子や炭素繊維等を挙げることができる。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等を用いることができる。なお、導電性を付与する目的が達成されれば上記の具体例に限定されず、金属材料や導電性高分子を用いることも可能である。また、これらの導電材は複数種を混合して用いても良い。導電材の使用量は特に限定されないが、正極活物質100重量部に対して0.1〜10重量部、特に1〜5重量部の範囲の量で含まれていることが好ましい。
【0040】
正極塗工インクに用いる結着剤としては、リチウムイオン二次電池で一般的に使用されるものを使用することができる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等を用いることができる。特に好ましい結着剤はポリフッ化ビニリデンである。結着剤は複数種を混合して用いても良い。結着剤の使用量は特に限定されないが、正極活物質100重量部に対して0.5〜5重量部、特に1〜5重量部の範囲の量で含まれていることが好ましい。
【0041】
分散溶媒は、各成分が溶解されれば特に限定されず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が利用できる。分散溶媒としてはNMPが好ましい。
【0042】
正極塗工インクを集電体に塗布する方法は、従来公知のものを利用できる。正極塗工インクの塗布は、例えばバーコーター、グラビアコーター、コンマコーター、スリットコーター、ダイコーター、ドクターブレード、キャスト装置、スプレー装置等の適切な装置を用いて行うことができる。
【0043】
集電体に塗布された正極塗工インクの塗工面は、適宜プレス等の平滑化処理により圧縮、研削することができる。これについても、ロールプレス法や平板プレス法等、従来公知の方法により行うことができる。塗工面の平滑化処理や圧縮処理は、表面平滑度や塗工層の厚みが所望の状態となるように複数回実施しても良い。
【0044】
以上、正極の製造方法について説明したが、正極活物質の製造以外については、上述した方法に限られるものではなく、他の方法により正極を製造することもできる。
【0045】
2.負極
本発明のリチウムイオン二次電池における負極には、従来用いられているリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物を用いることが可能であり、天然黒鉛、鱗片状や塊状等の人造黒鉛、石油コークスや石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の温度で熱処理したもの、メソフェーズピッチ系黒鉛、フルフリルアルコール等のフラン樹脂等を焼成した非晶質炭素、炭素繊維、炭素粒子表面に金属を担持した材料、並びにリチウム、銀、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム及びマグネシウムからなる群から選択される金属もしくはその合金又はその酸化物等を用いることができる。さらに、チタン酸リチウム等も用いることができる。これらの材料は、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0046】
3.セパレータ
本発明のリチウムイオン二次電池におけるセパレータは、正極と負極を隔離して短絡を防ぐことができるものであれば、電池に悪影響を及ぼさないものである限りどのような材質のものを用いても良い。セパレータの具体例としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等のポリマーからなるもの、ガラス繊維を用いたガラスクロスからなるもの等が挙げられ、特にポリオレフィンからなるものが好ましい。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、例えばそれらの材料からなるフィルムを重ね合わせたものをセパレータとして使用することができる。セパレータの通気度(sec/100ml)は、10〜1000、特に50〜800、特に90〜700の範囲内であることが好ましい。
【0047】
4.非水電解液
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる非水電解液は、非水性溶媒(有機溶媒)と電解質塩とを含む。
【0048】
非水性溶媒としては、特に限定されないが、高誘電率のものが好ましく、カーボネート類を含むエステル類がより好ましい。中でも、誘電率が30以上のエステルを使用することが特に好ましい。そのような高誘電率のエステルとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、イオウ系エステル(エチレングリコールサルファイト等)等が挙げられる。これらの中でも環状エステルが好ましく、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートやフルオロエチレンカーボネート等の環状カーボネートが特に好ましい。また、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等に代表される低粘度の極性鎖状カーボネート系化合物、脂肪族の分岐鎖状カーボネート系化合物も用いることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒、中でもエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートの混合物が特に好ましい。
【0049】
非水性溶媒としては、プロピオン酸メチル等のカルボン酸アルキルエステル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸アルキルエステル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、デンドリマーとデンドロンに代表されるエーテル結合を有する分岐型化合物等も用いることができる。
【0050】
また、非水性溶媒としてはフッ素系の溶媒も用いることができる。フッ素系の溶媒としては、例えば、H(CF
2)
2OCH
3、C
4F
9OCH
3、H(CF
2)
2OCH
2CH
3、H(CF
2)
2OCH
2CF
3、H(CF
2)
2CH
2O(CF
2)
2H等、又は、CF
3CHFCF
2OCH
3、CF
3CHFCF
2OCH
2CH
3等の直鎖構造の(パーフロロアルキル)アルキルエーテル、又は、イソ(パーフロロアルキル)アルキルエーテル、すなわち、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルメチルエーテル、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルエチルエーテル、2−トリフロロメチルヘキサフロロプロピルプロピルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルメチルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルエチルエーテル、3−トリフロロオクタフロロブチルプロピルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルメチルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルエチルエーテル、4−トリフロロデカフロロペンチルプロピルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルメチルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルエチルエーテル、5−トリフロロドデカフロロヘキシルプロピルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルメチルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルエチルエーテル、6−トリフロロテトラデカフロロヘプチルプロピルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロオクチルメチルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロオクチルエチルエーテル、7−トリフロロヘキサデカフロロヘキシルオクチルエーテル等が挙げられる。さらに、イソ(パーフロロアルキル)アルキルエーテルと、直鎖構造の(パーフロロアルキル)アルキルエーテルとを併用することもできる。
【0051】
電解質塩としては、リチウムの過塩素酸塩、有機ホウ素リチウム塩、含フッ素化合物のリチウム塩、リチウムイミド塩等のリチウム塩を用いることができ、具体的には、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6、LiSbF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3等が挙げられる、これらのリチウム塩の中では、含フッ素有機リチウム塩を好適に用いることができる。
【0052】
非水電解液中における電解質塩の濃度は、0.3mol/l以上、特に0.7mol/l以上であって、1.7mol/l以下、特に1.2mol/l以下であることが好ましい。この範囲内であれば、電解質濃度が低過ぎてイオン伝導度が小さくなったり、高過ぎて溶解しきれない電解質塩が析出したりすることがない。
【0053】
非水電解液には、電池の性能を向上させる各種の添加剤を添加しても良い。例えば、C=C不飽和結合を分子内に有する化合物を添加すると、電池の充放電サイクル特性の低下をさらに抑制できる場合がある。このようなC=C不飽和結合を分子内に有する化合物としては、例えば、C
6H
5C
6H
11(フェニルシクロヘキサン)等の芳香族化合物、H(CF
2)
4CH
2OOCCH=CH
2、F(CF
2)
8CH
2CH
2OOCCH=CH
2等のフッ素化された脂肪族化合物、フッ素含有芳香族化合物等が挙げられる。また、1,3−プロパンスルトン、1,2−プロパンジオール硫酸エステルをはじめとするイオウ元素を有する化合物(例えば、鎖状又は環状スルホン酸エステルや、鎖状又は環状の硫酸エステル等)やビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フッ化エチレンカーボネート等も使用できる。これらの各種添加剤の添加量は、非水電解液全量中、例えば0.05〜5重量%とすることが好ましい。
【0054】
5.リチウムイオン二次電池の形状
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したような正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせて、非水電解液と共に、鉄やアルミニウム等からなる缶やアルミラミネートフィルムからなる容器に封入して製造される。リチウムイオン二次電池は、その容器の形状により、角型や円筒型等の形状とすることができる。
【0055】
角型電池は、円筒型電池と比較すると、内部でのガス発生による変形が一様ではなく、投影面積が最大となるような面に垂直な方向への変形量が大きい。変形の生じた電池は、本来設計された寸法を超えた大きさになり、例えば、携帯電話等に電池を利用する場合、電池の厚みが増加することで電池を搭載する部分をカバーすることができなくなり、外観上の美観を損ねるばかりか、電池が露出することにより機器の故障等を招く恐れがある。その点、本発明のリチウムイオン二次電池によれば、電池内部でのガス発生を抑制することができ、そのような不具合が生じることがない。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は角型の形状とする際に、特に有利である。
【0056】
〔実施例〕
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0057】
(実施例1)
1.正極活物質の被覆
正極材料としてリチウム、ニッケル、コバルト及びアルミニウムを含む遷移金属複合酸化物を用いた。この正極材料を原子吸光分析法により元素分析したところ、LiNi
0.6Co
0.2Al
0.2O
2の組成が確認された(以下、この複合酸化物を「NCA正極材料」と称する)。カップリング剤及びエポキシ樹脂は、予めN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させたものを用いた。
【0058】
NCA正極材料に、該正極材料100重量部に対して0.05重量部の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製KBM−403、以下「カップリング剤A」と称する)を加え、混錬機で20分間混錬した。次に、正極材料100重量部に対して0.1重量部のビスフェノールA型エポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂A」と称する)を加え、さらに20分間混錬した。
【0059】
2.正極の作製
上記1で得られた正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを94:3:3の重量比となるように秤量し、これを溶媒であるNMPに分散させて正極塗工インクを調製した。得られた塗工インクを、アルミ箔からなる集電体にバーコーターを用いて塗布した。乾燥させることにより溶媒を除去し、ロールプレス装置を用いてプレスした。プレス後、4.9cm
2の大きさに切り出して正極を得た。正極活物質の塗布密度は200g/m
2であった。
【0060】
3.負極の作製
グラファイト、炭素繊維及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を86:10:4の重量比となるように秤量し、これを溶媒であるNMPに分散させて負極塗工インクを調製した。得られた塗工インクを、銅箔からなる集電体にバーコーターを用いて塗布した。乾燥させることにより溶媒を除去し、ロールプレス装置を用いて嵩密度が1.0g/cm
3になるようプレスした。プレス後、4.9cm
2の大きさに切り出して負極を得た。
【0061】
4.非水電解液
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比で1:1:1となるよう混合し、そこにLiPF
6を1mol/dm
3となるように溶解させて非水電解液を得た。
【0062】
5.ガス発生量の評価
上記2で作製した正極と、上記3で作製した負極との間にポリオレフィン系のセパレータを挿入し、アルミラミネートを使用して作製したラミネートセルにそれらを入れた。上記4で調製した非水電解液を注入してラミネートセルを閉じ、ラミネート電池を得た。作製したラミネート電池は、4.2Vに充電後2.5Vまで放電するサイクルを3回行った後、再度4.2Vに充電した。その後、ラミネート電池を解体し、ラミネート電池2個分の正極を取り出した。取り出した正極を、新しい電解液と共に小さなラミネート袋に入れ、溶着して密閉し、体積を測定した。ラミネート袋を85℃の恒温槽に入れて24時間保存した後、室温まで冷却してから再度体積を測定した。加熱前後の体積変化からラミネート袋内のガス発生量を評価した。
【0063】
6.角型電池の評価
上記2と同様の手順により作製した正極と、上記3と同様の手順により作製した負極(いずれも電極の切り出しサイズのみ異なる)とを用いて角型電池を作製した。正極と負極の間にポリオレフィン系のセパレータを挿入し、これを長手方向に巻き取るように扁平円形状に捲回して電極群を作製した。作製した電極群と上記4で調製した非水電解液を角型の缶に入れて蓋をし、角型電池を得た。作製した角型電池は、4.2Vに充電後2.5Vまで放電するサイクルを3回行い、初期特性を確認した。再度4.2Vに充電後、85℃の恒温槽に入れて24時間保存し、室温まで冷却してから電池の厚みを測定した。電池の厚みは電池の中心点で測定した。加熱前後の電池の厚みの変化から電池の膨れ(厚み増加量)を評価した。
【0064】
7.評価結果
上記5のガス発生量評価の結果、0.23mlのガスが発生していた。また、上記6の角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は740mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.3mm増加していた。
【0065】
(実施例2)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)をNCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0066】
ガス発生量評価の結果、0.22mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は738mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.2mm増加していた。
【0067】
(実施例3)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)をNCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加し、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)をNCA正極材料100重量部に対して0.5重量部添加した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0068】
ガス発生量評価の結果、0.22mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は736mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.2mm増加していた。
【0069】
(実施例4)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)をNCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加し、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)に代えて脂環式エポキシ樹脂(エポキシ樹脂B)を用い、NCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0070】
ガス発生量評価の結果、0.23mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は742mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.3mm増加していた。
【0071】
(実施例5)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)をNCA正極材料100重量部に対して0.05重量部添加し、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)に代えて脂肪族型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂C)を用い、NCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0072】
ガス発生量評価の結果、0.21mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は745mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.1mm増加していた。
【0073】
(実施例6)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)に代えて3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越シリコーン社製KBM−402、カップリング剤B)を用い、NCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0074】
ガス発生量評価の結果、0.22mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は740mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.2mm増加していた。
【0075】
(実施例7)
工程1において、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)を使用しなかった以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0076】
ガス発生量評価の結果、0.24mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は742mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.4mm増加していた。
【0077】
(比較例1)
シランカップリング剤及びエポキシ樹脂を使用せず、NCA正極材料を未処理のまま使用した以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0078】
ガス発生量評価の結果、0.33mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は760mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.8mm増加していた。
【0079】
(比較例2)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(カップリング剤A)をNCA正極材料100重量部に対して0.1重量部添加し、エポキシ樹脂を添加しなかった以外は、上記実施例1と同様にしてガス発生量及び角型電池の評価を行った。
【0080】
ガス発生量評価の結果、0.26mlのガスが発生していた。また、角型電池評価の結果、角型電池の初期容量は740mAhであり、加熱後の電池の厚みは1.5mm増加していた。
【0081】
以上の実施例1〜7及び比較例1〜2の結果を表1にまとめて示す。
【表1】
【0082】
実施例1〜7における角型電池の厚み増加量及びガス発生量は、比較例1〜2のものと比べていずれも少なかった。これは、エポキシ樹脂、あるいはシランカップリング剤及びエポキシ樹脂で処理したことにより、シランカップリング剤のみ使用した場合(比較例2)、あるいはいずれも使用しなかった場合(比較例1)と比較してガスの発生が抑制されたことを示す。また、実施例1〜7における角型電池の初期容量は、シランカップリング剤及びエポキシ樹脂を全く使用しなかった比較例1と比べても遜色はなかった。
【0083】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を詳細に説明することのみを目的とするものであり、これら実施例の構成には限定されない。実施例の構成の一部を他のものに置き換えることが可能であり、実施例の構成に他の構成を加えることも可能である。