特許第5894550号(P5894550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894550
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】土壌からの放射性セシウム除去方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/32 20060101AFI20160317BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20160317BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   G21F9/32 Z
   G21F9/28 Z
   G21F9/02 551A
   G21F9/32 C
   G21F9/32 A
   G21F9/02 521A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-48224(P2013-48224)
(22)【出願日】2013年3月11日
(65)【公開番号】特開2014-174051(P2014-174051A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2014年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】村上 吉明
(72)【発明者】
【氏名】石井 豊
(72)【発明者】
【氏名】井出 昇明
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−036883(JP,A)
【文献】 特開2013−019734(JP,A)
【文献】 特開平10−249325(JP,A)
【文献】 特表平08−506524(JP,A)
【文献】 特開平09−090095(JP,A)
【文献】 特開昭60−056300(JP,A)
【文献】 特開2014−014802(JP,A)
【文献】 特開2014−062867(JP,A)
【文献】 特開2014−134473(JP,A)
【文献】 特開2014−130029(JP,A)
【文献】 大山将、中島卓夫、保賀康史,放射性セシウム含有土壌の対策技術に関する基礎的検討(その1),地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集,日本,2012年 6月,Vol.18th,88-93
【文献】 三好弘一,土壌からの放射性セシウムの分離,第9回JRSM6月シンポジウム資料,2012年 7月 2日,第1-28頁
【文献】 峰原英介、高田卓志、遠藤伸之,焼却炉による放射性セシウム塩化物の高効率の生成と分離除去,日本原子力学会春の年会予稿集,日本,2012年 3月 2日,Vol.2012,806
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/32
G21F 9/02
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウムを含有する土壌を湿式分級する湿式分級工程と、
前記湿式分級工程によって、粒径1mmを超える粗大粒子が取り除かれた土壌の残部と無機カルシウム化合物との混合物中における無機カルシウム化合物の割合が3質量%以上30質量%となるように、土壌の残部に酸化カルシウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物を添加し、さらに土壌の残部と前記無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して0.5質量%を超え5質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加する添加工程と、
900℃以上1200℃以下で30分以上120分以下の時間加熱処理することにより、前記添加工程後の土壌から放射性セシウムを揮発させる加熱工程と、
加熱工程によって土壌から揮発した放射性セシウムを回収する回収工程と、
を有し、
前記湿式分級工程後、前記粗大粒子が取り除かれた土壌の残部を脱水する際に得られる脱離液中の塩化ナトリウム濃度を測定することにより、前記粗大粒子が取り除かれた土壌の残部に含有されている塩化ナトリウム量を算出し、前記添加工程において添加される塩化ナトリウム量を調整することを特徴とする、土壌からの放射性セシウム除去方法。
【請求項2】
前記添加工程における前記塩化ナトリウムの添加量が、土壌と前記無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して1質量%以上3質量%以下である、請求項に記載の土壌からの放射性セシウム除去方法。
【請求項3】
前記回収工程において、土壌から揮発した放射性セシウムを、バグフィルタ、HEPAフィルタ、及び湿式スクラバからなる群より選択される1種以上の手段によって捕集する、請求項1又は2に記載の土壌からの放射性セシウム除去方法。
【請求項4】
前記加熱工程後の土壌から塩化ナトリウムを除去する除塩工程をさらに有する、請求項1乃至のいずれか1項に記載の土壌からの放射性セシウム除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム(134Cs又は137Csのような放射能を有するセシウム同位体)を含有する土壌を湿式分級又は乾式分級した後、カルシウム化合物及び塩化ナトリウムを添加し、さらに加熱処理することにより、放射性セシウムを揮発させて土壌から除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設残土又は廃棄物を焼却した後に生じる焼却灰から、有害な有機分又は可燃分を除去するために、キルンを用いて有機分又は可燃分を焼却することが行われる。特許文献1は、フィーダによって建設残土を回転キルン内に連続的に投入し、キルンの回転によって投入された残土をフィーダの反対側に設けた排出口へと徐々に移送しながら、残土中の有機分の燃焼により生ずる灰を飛灰として搬送する風量の高温の燃焼ガスを回転キルン内に向流で吹き込んで、残土内に含まれる可燃性の有機分を燃焼してその灰を上記燃焼ガスで搬送排出すると共に、残土中の不燃分を上記燃焼ガスに晒すことにより焼成して排出する、建設残土の焼成方法を開示している。
【0003】
特許文献1の焼成方法では、向流に吹き込まれた高温燃焼ガスにより、残土又は焼却灰に含まれる可燃分が燃焼されると共に、砂、瓦礫、灰等の不燃分を高温の燃焼ガスに晒すことにより焼成される。回転キルン内で焼成された土砂、瓦礫又は灰は、可燃分を含まない無菌化された純度の高い焼砂(焼成土)又は焼成灰となって回転キルンから排出されるため、磁力選鉱によって金属を分別し、さらにふるい選別によって粒径を揃えることが可能とされている。
【0004】
一方、放射性廃棄物の場合には、有機分又は可燃分と異なり、加熱によっても分解することができないため、独自の処理方法が必要となる。特許文献2は、硝酸ナトリウム加熱を主成分とする放射性廃棄物と還元剤とガラス化剤を加熱し、窒素酸化物を発生させることなくガラス固化体を作成することを特徴とする硝酸ナトリウムを主成分とする放射性廃棄物の処理方法を開示している。特許文献2の処理方法は、廃棄物が埋設処分され地下水と接触した場合でも、放射性核種の溶出が少なく、また、脱硝及びガラス化処理時に放射性核種の揮発率が低いとされている。
【0005】
特許文献3は、原子力発電施設の解体により発生した放射化コンクリートをブロック状に切り出し、該コンクリートブロックを密閉区画内で破砕し、所定粒径の粗骨材、細骨材、および微粉末を分級し、再生材料を製造する再生材料製造工程と、前記再生材料のうち微粉末を、加熱分解炉内に供給し、送気された高温空気で700℃以上に加熱し、前記微粉末に含有したトリチウム、炭素-14を分離する加熱処理工程と、前記加熱分解炉内から前記高温空気を環流させる経路上で、該高温空気内に含有する前記トリチウム、炭素-14を吸着除去する除染工程とを備え、各再生材料は除染が確認された後、前記密閉区画から排出されることを特徴とする放射化コンクリートのリサイクル処理方法を開示している。特許文献3のリサイクル方法は、放射化コンクリートに付着した所定の放射性物質を除去して再生骨材等を再生製造し得るとされている。
【0006】
ここで、平成23年3月に発生した東京電力・福島第一原子力発電所の爆発事故の後、福島県を中心とする広範囲な地域において、土壌から放射性セシウムが検出される事態となっている。放射性セシウムに汚染された土壌の除染処理については、水洗浄、加熱下での酸処理、表土剥離、高圧洗浄、又はカルシウム塩存在下での高温処理のような多くの方法が検討されてきたが、実用規模で採用できるレベルの処理方法は開発されていない。その主原因は、土壌中のセシウムの存在形態、セシウム化合物の化学的・物理的特性、及びセシウム化合物と土壌成分との反応挙動が明らかにされていない点にある。
【0007】
放射性セシウムを含有する汚染土壌から放射性セシウムを除去する技術として、非特許文献1は、汚染土壌にセシウム揮発促進剤として2種類のカルシウム化合物を添加し、1350℃で加熱処理することにより、セシウムを土壌から99.9%揮発させて除去する方法を開示している。また、非特許文献2には、土壌に塩化カルシウムを添加した場合には、土壌を1000℃以上に加熱してもセシウムがほとんど揮発しないことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−79234号公報
【特許文献2】特開2002−221593号公報
【特許文献3】特許第4471110号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】2012年3月1日朝日新聞記事、http://www.asahi.com/national/update/0301/TKY201203010146.html
【非特許文献2】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、2012年2月22日付プレスリリース、「放射性物質を含む汚染土壌等からの乾式セシウム除去技術の開発」について、http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/narc/027564.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の焼成方法は、土壌中から有機分又は可燃分を除去し、土壌を再生する方法としては利用し得るが、セシウム化合物のような無機物を除去対象とはしていない。
【0011】
特許文献2の放射性廃棄物の処理方法は、放射性廃棄物をガラス固化体として固定する方法であり、処理後の土壌を再利用することはできない。また、土壌に適用した場合、汚染土壌の体積を減少させることはできないため、大量の土壌について適用することもできない。
【0012】
特許文献3のリサイクル方法は、トリチウム又は炭素-14の除去を対象としており、土壌中の放射性セシウムを除去対象とはしていない。
【0013】
非特許文献1の放射性セシウム除去方法は、土壌中の放射性セシウムをほぼ完全に除去できるとされているが、土壌を1300℃以上に加熱する必要があり、エネルギー消費量が大きい。また、そのような高温で加熱処理された場合、処理後の土壌を土壌として再利用することは不可能となる。このため、処理コストが非常に大きく、土壌を減容することができないという問題がある。
【0014】
平成23年3月に発生した東日本大震災では、東北地方の一部が大規模な津波被害を受けた。このため、津波被害を受けた地域においては、放射性セシウムに汚染された土壌(瓦礫のような粗大物を含有する土壌も含む)は、海水由来の塩分(塩化ナトリウム)も含有している。
【0015】
本発明は、土壌から放射性セシウムを低コストで効率よく除去し得る除去方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、セシウムを含有する土壌を加熱処理することにより、セシウムを土壌から揮発させる際、塩化ナトリウムを土壌に添加して加熱すると、非特許文献1に開示されているセシウム除去方法よりも低い加熱温度で土壌からセシウムが揮発することを見出した。
【0017】
しかし、塩化ナトリウムを土壌に添加すると、土壌をキルンのような加熱処理装置によって加熱処理する際に塩素ガスが発生する。そのため、加熱処理装置及びその付属設備(例えば、排気管)が塩素ガスによって腐食しやすいという問題があった。また、土壌に塩化ナトリウムを多量に添加すると、セシウム除去後の土壌を洗浄して除塩しなければ、耕作地用には使用できないという問題もあった。
【0018】
そこで、本発明者等は、加熱処理時にセシウム揮発を促進する添加剤として、無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを組み合わせることにより、塩化ナトリウムの添加量を減らしつつ、従来よりも低い温度で、土壌から微量の放射性セシウムを除去し得る方法について検討した。その結果、本発明者等は、酸化カルシウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物と、塩化ナトリウムとを併用することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0019】
ここで、津波被害を受けた土壌の場合、海水由来の塩化ナトリウムが含有されているため、このような土壌を処理対象とする場合、津波被害を受けておらず、海水由来の塩化ナトリウムを含有していない土壌を処理対象とする場合よりも、外部から添加する塩化ナトリウム量を少なくすることができる。
【0020】
本発明者等は、湿式分級後に、土壌を脱水する際に得られる脱離液中の塩化ナトリウム濃度を測定することにより、土壌に含有されている塩化ナトリウム濃度を算出し、添加工程において添加すべき塩化ナトリウム量を調整可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0021】
具体的に、本発明は、
放射性セシウムを含有する土壌を湿式分級する湿式分級工程と、
前記湿式分級工程によって、粒径1mmを超える粗大粒子が取り除かれた土壌の残部と無機カルシウム化合物との混合物中における無機カルシウム化合物の割合が3質量%以上30質量%となるように、土壌の残部に酸化カルシウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物を添加し、さらに土壌の残部と前記無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して0.5質量%を超え5質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加する添加工程と、
900℃以上1200℃以下で30分以上120分以下の時間加熱処理することにより、前記添加工程後の土壌から放射性セシウムを揮発させる加熱工程と、
加熱工程によって土壌から揮発した放射性セシウムを回収する回収工程と、
を有し、
前記湿式分級工程後、前記粗大粒子が取り除かれた土壌の残部を脱水する際に得られる脱離液中の塩化ナトリウム濃度を測定することにより、前記粗大粒子が取り除かれた土壌の残部に含有されている塩化ナトリウム量を算出し、前記添加工程において添加される塩化ナトリウム量を調整することを特徴とする、土壌からの放射性セシウム除去方法に関する。
【0024】
本発明では、土壌を湿式分級又は乾式分級して粗大粒子(及び粗大物)を除去した後、土壌の残部に無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物、及び塩化ナトリウムを添加した後、加熱処理することによって放射性セシウムを土壌から揮発させる。セシウム揮発促進剤として、酸化カルシウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物と、塩化ナトリウムとを併用することにより、非特許文献1の1300℃より低い900℃〜1200℃、30分以上の加熱によって、安定性セシウムと比較して極微量しか土壌中に存在しない放射性セシウムを除去する場合であっても、放射性セシウムを効率よく除去し得る
【0025】
これは、無機カルシウム化合物を土壌に添加することにより、放射性セシウムが土壌から脱着され、さらに脱着された放射性セシウムが塩化ナトリウムに由来する塩素原子と結合し、土壌中に含有されていた放射性セシウムが(放射性の)塩化セシウムとして揮発するためであると推察される
【0027】
添加工程においては、土壌に無機カルシウム化合物を添加し、さらに土壌と無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して0.5質量%を超え5質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加するが、土壌が海水に由来する塩化ナトリウムを含有している場合、塩化ナトリウムの添加量が過剰となる。そこで、本発明では、土壌の残部に含有されている塩化ナトリウム濃度(質量あたりの含有量)を算出し、塩化ナトリウムの添加量が0.5質量%を超え5質量%以下となるように調整する。それにより、加熱工程における土壌からの放射性セシウム揮発の適正化を図ると共に、添加する塩化ナトリウム量を減量し、処理コストの低減を図ることが可能となる。
【0028】
ここでいう「土壌」とは、土壌そのものはもちろん、コンクリート、瓦又はボードのような不燃性粗大物(いわゆる「震災瓦礫」)が混入している土壌も意味する。また、ここでいう「土壌」には、河川の底質又は砂も含まれる。また、無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを混合する際に基準となる土壌は、乾燥状態における質量を基準とする。
【0029】
本発明の土壌からの放射性セシウム除去方法は、前記添加工程における前記塩化ナトリウムの添加量が、土壌と無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0030】
添加された塩化ナトリウムの一部は、加熱によって土壌中の水分等の影響で分解又は揮発し、放射性セシウムと反応しないため、土壌中の放射性セシウムをより確実に揮発させる観点から、土壌と無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して、塩化ナトリウムを1質量%以上添加することが好ましい。一方、放射性セシウムと反応しない塩化ナトリウム由来の塩素原子の一部は、土壌中から揮発した水、又は土壌に含有される有機物の熱分解反応によって生成する水と反応して塩化水素を発生するため、塩化水素の発生を抑え、加熱処理済み土壌中への塩化ナトリウム残存量を低減する観点で、土壌と無機カルシウム化合物又は有機カルシウム化合物との混合物の質量に対して、塩化ナトリウムを3質量%以下で添加することが好ましい。
【0031】
前記添加工程において、粒径1mm以下の土壌を分級し、粗大粒子(及び粗大物)を除去すると共に、加熱工程に供する土壌を減容する。
【0032】
放射性セシウムは、粒径の小さい土壌に含有されているため、前処理である分級によって加熱処理する土壌を減容すれば、処理コストを削減し、処理効率を高めることが可能となる。前記添加工程の前に、粒径500μm以下の土壌を分級することがより好ましく、粒径75μm以下の土壌を分級することがさらにより好ましい。
【0033】
ここでいう「粒径」とは、篩を通過した粒径を意味し、例えば、「粒径1mm以下」は、メッシュ幅1mmの篩を通過した粒径を意味する。
【0034】
土壌から揮発した放射性セシウムは、バグフィルタ、HEPAフィルタ、及び湿式スクラバからなる群より選択される1種以上の手段によって捕集されることが好ましい。
【0035】
土壌から放射性セシウムを揮発させるだけでは、放射性セシウムを大気中に拡散させることになる。本発明では、土壌から揮発させた放射性セシウムをバグフィルタ、HEPAフィルタ、及び湿式スクラバからなる群より選択される1種以上の手段によって捕集し、系外に放射性セシウムが排出されないようにすることが望ましい。
【0036】
前記加熱工程後の土壌から塩化ナトリウムを除去する除塩工程をさらに有することが好ましい。
【0037】
加熱工程後の放射性セシウム除去土壌を再利用する場合、土壌に塩化ナトリウムが残存していると、植物を植えたときに悪影響が出る。同様に、加熱工程後の放射性セシウム除去瓦礫を埋め立てる場合にも、埋め立て地周辺土壌に塩害を与える可能性がある。除塩工程を行うことにより、残存する塩化ナトリウムによる塩害を防止し得る。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、従来の土壌からの放射性セシウム除去方法と比較して、より低い加熱温度で同程度の除去率を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施形態1の工程フロー図を示す。
図2】実施形態2の工程フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0041】
[実施形態1]
<分級工程>
図1は、実施形態1の工程フロー図を示す。図1の工程フローは、土壌の分級として湿式分級を行うフローとなっている。放射性セシウムを含有する土壌(除去土壌)は、添加工程前に、粒径1mm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは75μm以下となるように分級されることが好ましい。
【0042】
分級を多段で行ってもよい。例えば、湿式分級の前処理として粗分級を行い、粒径40mm以下となるように分級して粗大物を除去してもよい。粗分級には、振動篩又はトロンメルのような分級装置を利用できる。
【0043】
土壌に混入している瓦礫のような不燃性粗大物又は木材のような有機性粗大物の内、所定粒径よりも大きな粗大物は、粗分級によって除去される。粗大物が除去された土壌は、さらに湿式分級工程又は乾式分級工程にかけられ、所定粒径よりも大きな粗大粒子が湿式分級工程又は乾式分級工程にて粗大粒子として分別される。放射性セシウムは、粒径が小さな土壌中に主に存在しているため、湿式分級によって粒径の大きな土壌、及び瓦礫のような粗大粒子を取り除くことにより、加熱工程に供する土壌を減容することが可能となる。その結果、加熱処理に要するコストが削減される。土壌の湿式分級には、公知の湿式分級を適用し得る。
【0044】
土壌の湿式分級後、粗大粒子は、洗浄用水(例えば、工業用水、河川水又は湖沼水)によって洗浄される。この洗浄によって、粗大粒子表面の微粒子(放射性セシウムが含有されている)が除去される。洗浄済の処理物(粗大粒子)は、除染処理物として排出される。排水される懸濁水は、湿式分級によって分級された微粒子状の土壌を含有する分級用水と混合される。
【0045】
湿式分級装置を用いる場合、湿式分級時に洗浄も同時に行われるため、十分に粗大粒子表面の微粒子が除去されている場合は、湿式分級のみ行って粗大粒子の洗浄操作を省略してもよい。
【0046】
なお、粗分級で得られる粗大物も上述した粗大粒子と同様に洗浄され、粗大物の表面に付着した粒子が除去される。洗浄済の処理物(粗大物)は、除染処理物として排出され、排水される懸濁水は、湿式分級によって分級された微粒子状の土壌を含有する分級用水と混合される。
【0047】
[塩化ナトリウム濃度の測定]
微粒子を含有する分級用水は、フィルタープレス又はベルトプレスのような脱水装置によって固液分離される。必要に応じて、脱水装置にかける前に、凝集沈殿のような沈殿分離を行ってもよい。水分は、脱離液として湿式分級の分級用水に再利用されるが、再利用される前に塩分濃度を測定する。脱離液中の塩分濃度(塩化ナトリウム濃度)は、例えば、公知の塩分濃度計又は電気伝導度計によって測定することが可能である。そして、脱離液中の塩分濃度から、分級された微粒子状の土壌(微粒子状の有機物を含む)における塩化ナトリウム濃度を算出する。
【0048】
塩化ナトリウムは、水に溶解しやすいため、海水由来の塩化ナトリウムは、湿式分級によって、そのほとんどが脱離液中に溶出した状態で存在していると考えられる。一方、固形分中の含水率を測定することで、分級された微粒子状の土壌と共に添加工程に供される水分量を算出できる。このため、脱離液中の塩分濃度を測定することによって、添加工程に供される微粒子状の土壌中の塩化ナトリウム濃度を算出することが可能となる。塩分濃度の測定後、固形分である微粒子状の土壌は添加工程へと供される。
【0049】
脱離液中の塩分濃度を測定する場合について説明したが、脱水ケーキ(固液分離後の固形分)に含まれる塩分濃度を測定することによっても、添加工程に供される微粒子状の土壌中の塩化ナトリウム濃度を算出することができる。具体的には、脱水ケーキの一部を採取し、これを水中に入れて塩化ナトリウムを水に溶出させ、水中の塩化ナトリウム濃度を測定することによって、脱水ケーキ中の塩分濃度を算出することができる。この塩分濃度と脱水ケーキ量から、脱水ケーキに含有されている塩化ナトリウム濃度を算出することができる。脱水ケーキを採取して脱水ケーキ中の塩分濃度を測定する場合、回分式で測定することになるが、所定時間毎に測定するようにしてもよく、処理対象物毎に測定するようにしてもよい。
【0050】
さらに、放射性セシウムを含有する土壌を乾式分級し、粗大粒子が取り除かれた土壌の残部中の塩化ナトリウム濃度を測定し、粗大粒子が取り除かれた土壌の残部に含有されている塩化ナトリウム濃度を算出することにより、添加工程において添加される塩化ナトリウム量を調整する構成としてもよい。この場合、土壌の残部中の塩化ナトリウム濃度は、土壌の一部を取り出して、土壌中の塩化ナトリウムを水へと溶出させて、溶出液中の塩化ナトリウム濃度を測定することによって、土壌中に含まれる塩化ナトリウムの量を算出し得る。
【0051】
<添加工程>
放射性セシウムを含有する土壌(微粒子状の土壌)に、酸化カルシウム、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物を添加する。無機カルシウム化合物の添加量は、土壌と無機カルシウム化合物との混合物中における無機カルシウム化合物の割合が3質量%以上30質量%以下となるように調整される。
【0052】
次に、無機カルシウム化合物を添加した土壌に、放射性セシウム含有土壌と無機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して0.5質量%を超え5質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加する。
【0053】
(1) 処理済み土壌を除塩処理することなく又は簡易的な除塩処理で再利用できるようにする観点、及び(2) 塩化ナトリウム由来の塩化水素が発生する量を低減する観点から、塩化ナトリウムの添加量を放射性セシウム含有土壌と無機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して3質量%以下とすることが好ましい。また、確実に放射性セシウムを土壌から揮発させる観点から、塩化ナトリウムの添加量を、放射性セシウム含有土壌と無機カルシウム化合物との混合物の合計量に対して1質量%以上とすることが好ましい。
【0054】
塩化ナトリウムの添加量が1質量%程度である場合、添加された塩化ナトリウムのほとんどが加熱工程において分解又は揮発し、排ガスと共に加熱装置から取り出されるため、処理後の土壌に対して後述する除塩処理を行わなくても再利用することが可能となり得る。
【0055】
無機カルシウム化合物を添加する場合、添加後の加熱処理量を少なくするため、土壌への添加量を10質量%以下とすることがより好ましい。
【0056】
無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとは、固体状で土壌の残部に添加されてもよく、水に溶解させて液体状で土壌の残部に添加されてもよい。
【0057】
ここで、湿式分級工程又は乾式分級工程後に算出された、微粒子状の土壌中の塩化ナトリウム量に基づいて、塩化ナトリウムの添加量が調整される。すなわち、土壌中に塩化ナトリウムが含有されている場合には、元から土壌単位質量あたりに含有されている塩化ナトリウム量を減算して、土壌と無機カルシウム化合物との混合物の質量に対して0.5質量%を超え5質量%以下となるように塩化ナトリウムを添加する。
【0058】
土壌への添加順序は、塩化ナトリウムと無機カルシウム化合物のどちらが先であってもよく、両者を同時に土壌に添加してもよい。
【0059】
土壌と無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとの混合には、一般的なブレンダーが使用可能である。また、固体状の無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを添加する場合、土壌を乾式分級によって粒径1mm以下へ分級する時に、分級する粒径以下の無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを分級前の土壌に添加し、添加剤と共に分級を行うことで、分級と同時に無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを土壌に混合させてもよい。このようにすることで、特別な混合装置を用いることなく、土壌と無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを均一に混合することが可能となる。
【0060】
なお、無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを添加された土壌は、加熱工程に供される前に、必要に応じて乾燥させられてもよい。加熱工程に先立って土壌を乾燥させることにより、加熱工程における熱のロスを少なくすることができると共に、水の蒸発に伴う炉内の温度低下を抑制することができる。土壌の乾燥は、熱媒と土壌とを間接的に接触させて乾燥させる間接接触式の乾燥装置、又は熱媒と土壌とを直接接触させて乾燥させる直接接触式の乾燥装置のいずれを用いてもよい。熱媒は、空気に限定されず、水蒸気を用いることもできる。土壌の乾燥は、加熱工程の直前に限られず、添加工程の前に行われてもよい。
【0061】
<加熱工程>
塩化ナトリウムを添加された土壌は、加熱炉、焼却炉、又はロータリーキルンのような加熱装置へと供給される。そして、900℃以上1200℃以下、好ましくは950℃以上1100℃以下で加熱されることが好ましい。加熱時間は30分以上120分以下であることが好ましい。加熱処理されることにより、無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを添加した土壌から放射性セシウムが揮発して除去される。本発明の土壌からの放射性セシウム除去方法は、無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを、放射性セシウム揮発促進剤として利用することを特徴としている。非特許文献2では、無機系の反応促進剤2種類を組み合わせて利用した場合、放射性セシウム揮発率を80%とするためには約1300℃に加熱する必要があるとされている(非特許文献2の図1)。
【0062】
しかし、本発明の放射性セシウム除去方法は、放射性セシウム揮発促進剤として無機カルシウム化合物と塩化ナトリウムとを利用することにより、土壌が溶融しない1200℃以下の加熱処理によって、約80%の放射性セシウムを実土壌から除去することが可能である。また、加熱温度が1200℃以下、好ましくは1100℃以下であるため、土壌中のSi(ケイ素)のような成分が溶融し難く、処理後の土壌が焼結するおそれも低い。そのため、加熱処理後の土壌を元の土壌と同様に利用することができる。
【0063】
土壌から放射性セシウムを揮発させるためには、900℃以上に加熱する必要があり、揮発効率を高めて加熱処理時間を短縮するためには950℃以上に加熱する必要がある。
【0064】
土壌中に添加する塩化ナトリウムの添加量を土壌とカルシウム化合物の混合物に対して1〜3質量%とし、かつ、加熱温度を950℃以上、好ましくは1000℃以上とすることにより、土壌に添加された塩化ナトリウム由来の塩素原子を含有する化合物が揮発又は分解され、土壌中にほとんど残存しなくなるため、加熱処理後の土壌に対して除塩工程を行う必要がなくなる。除塩工程を行わない場合、残存する無機カルシウム化合物は、添加量が少ない場合であっても土壌改良材として機能するため、処理後の土壌を好適に再利用することができる。
【0065】
<回収工程>
加熱工程によって土壌から揮発した放射性セシウムは、加熱工程実行中に、排ガスに含有された状態で粉塵等と共に加熱装置から排出される。加熱装置後段には通常、二次燃焼装置が設けられており、ダイオキシン等の発生を抑制するために、排ガスは、850℃の雰囲気に2秒以上滞留させられる。この排ガスは、必要に応じて減温塔へと供給されて冷却された後、バグフィルタのような乾式集塵手段へと供給される。乾式集塵手段としては、HEPAフィルタ又はサイクロンも使用し得る。また、湿式スクラバのような湿式集塵手段に排ガスを供給してもよい。さらに、複数の集塵手段を組み合わせて使用してもよい。加熱工程によって、土壌からは粉塵が発生するため、排ガスには粉塵も含有されている。そして、放射性セシウムは、粉塵に含有されている。排ガスと共に乾式集塵手段又は湿式集塵手段に供給されることにより、排ガス中の粉塵が乾式集塵手段又は湿式集塵手段によって捕集される。
【0066】
バグフィルタ等を用いて、乾式で放射性セシウムが回収された場合、当該回収物及び当該回収物が付着したフィルタ類をそのまま他の有害物質等と共に容器内に貯留し、遮蔽された管理型処分場に埋め立ててもよく、溶融処理によってガラス化すると共に溶出しないように封じ込め、同様に管理型処分場に埋め立てられてもよい。また、コンクリートと混練して固化された後に、管理型処分場に埋め立ててもよい。
【0067】
乾式集塵手段で回収された放射性セシウムを含む粉塵を洗浄し、洗浄水中に放射性セシウムを溶解させ、ゼオライトのような吸着材を用いて濃縮洗浄水中の放射性セシウム吸着するようにしてもよい。
【0068】
また、土壌から揮発した放射性セシウムは、塩化セシウムのように水に溶解しやすい化合物として揮発しており、バグフィルタ又はHEPAフィルタの代わりに、湿式スクラバを用いてこのようなセシウム化合物を水に溶解させることも可能である。湿式スクラバの洗浄水をろ過処理し、水に溶解しない固体成分を分離し、洗浄水中の放射性セシウム化合物を、吸着材を利用した吸着処理によって分離してもよい。吸着処理を行うことにより、最終処分が必要な放射性廃棄物量を減量化できる。吸着材は、乾式で放射性セシウムを回収する場合と同様に、容器内に貯留、溶融処理、又はコンクリートを利用した固形化処理を行い、管理型処分場に埋め立てられてもよい。
【0069】
バグフィルタを通過した排ガスは、好ましくはHEPAフィルタに供給されて非常に微細な粒子を除去された後、大気中へと排気される。
【0070】
<除塩工程>
加熱工程後の土壌を水と接触させることにより、含有されている塩化ナトリウムを除去するようにしてもよい。塩化ナトリウムの添加量及び加熱温度を調整することにより、土壌からは、添加された塩化ナトリウム由来の塩素原子を含有する化合物が加熱工程において除去される一方で、土壌中に含有されている有機物由来の塩素原子を含有する化合物が多い場合、海水由来の塩素原子が多い場合、又は土壌への塩化ナトリウムの添加量が多い場合は、加熱工程後の土壌に含有されている塩素化合物を除去するために、除塩工程を任意に実施してもよい。
【0071】
除塩方法としては、公知の除塩処理方法を採用し得るが、例えば、加熱処理後の土壌を水で洗浄する除塩方法が採用され得る。この場合、洗浄水に溶出した塩化ナトリウムは、RO膜装置を用いて濃縮処理した後、蒸発濃縮によって析出させ、回収されることが可能である。除塩工程によって、土壌に添加された無機カルシウム化合物から生成された酸化カルシウムの一部も除去される。
【0072】
除塩工程を実施しない場合、加熱工程後の土壌中に酸化カルシウムが残存することとなるが、酸化カルシウムの残存量が多い場合には、冷却時又は冷却後に水を散布する等して酸化カルシウムを水酸化カルシウムへと変換させてもよい。このようにすることで、処理プラント外で意図しない酸化カルシウムによる発熱を防止することが可能となる。
【0073】
なお、添加工程で炭酸カルシウム又は水酸化カルシウムを土壌に添加した場合、加熱工程において炭酸カルシウム又は水酸化カルシウムは酸化カルシウムに変化するため、加熱工程後の土壌には酸化カルシウムが残存することになる。
【0074】
また、土壌を高温で(例えば、ロータリーキルンの後段側において)、水蒸気と接触させることによって、土壌中に含有されている塩化ナトリウム由来の塩素原子を含有する化合物と水蒸気とを反応させ、塩素ガスとして除去する除塩方法も採用され得る。この場合、排出される塩素ガスは、加熱工程において排出される排ガスと混合して処理されてもよく、別個の排気系として排ガスと同じ方法によって処理されてもよい。
【0075】
[実施形態2]
実施形態1においては、分級工程で湿式分級を行う場合について説明したが、本実施形態においては、分級工程で乾式分級を行う場合について説明する。図2は、実施形態2の工程フロー図を示す。基本的な処理フローは、実施形態1と共通するため、ここでは図1に示される実施形態1との相違点について説明する。
【0076】
乾式分級においては、湿式分級時と同様に、分級を多段で行うようにしてもよい。例えば、乾式分級の前処理として粗分級を行い、粒径40mm以下となるように分級して粗大物を除去してもよい。除去された粗大物は、後述する粗大粒子と同様に洗浄処理することで、表面に付着した微粒子が除去され、洗浄済の粗大物となる。粗大物が除去された土壌は、乾式分級装置によって粒径1mm以下となるように分級される。
【0077】
土壌の乾式分級後、粗大粒子は洗浄用水によって洗浄される。洗浄方法、洗浄による効果、及び洗浄後の粗大粒子の取扱いは、実施形態1と同じである。一方、実施形態1では、湿式分級で得られる微粒子を含有する分級用水と懸濁水とを混合し、脱水装置で脱水処理することに対して、本実施形態においては、洗浄後の懸濁水は単独で脱水処理されるため、脱水装置自体を小型化し得る利点がある。
【0078】
粗大粒子が除去された土壌の残部については、土壌塩分計のような公知の測定装置を用いて、塩分濃度を測定する。測定された塩分濃度に基づいて、添加工程における塩化ナトリウム添加量を調整する。
【0079】
(放射性セシウム揮発促進剤の添加量による影響)
土壌として、福島県内の畑の土壌を1kg採取した。この土壌中の放射性セシウムの放射能濃度を、Ge半導体検出器を用いて測定したところ、10000Bq/kgであった。この放射性セシウム含有土壌に、土壌量の0〜30質量%となる炭酸カルシウムを添加した。さらに、炭酸カルシウム添加後の土壌に、炭酸カルシウム及び土壌の合計量の0.5〜5質量%となる塩化ナトリウムを添加した。
【0080】
その後、土壌加熱装置として横型加熱炉を使用し、各土壌サンプル5gを1000℃で60分間加熱した。加熱中、各土壌サンプルは、空気と接触した状態とした。加熱終了後、各土壌サンプルを室温まで放冷した。土壌中の放射性セシウム除去率は、加熱前の土壌中のCs-134及びCs-137の放射能濃度と、加熱後の土壌中のCs-134及びCs-137の放射能濃度とから算出した。
【0081】
【表1】
【0082】
表1は、放射性セシウム揮発促進剤である炭酸カルシウム(CaCO3)及び塩化ナトリウム(NaCl)の混合割合と、放射性セシウム除去率との関係を示す。土壌70質量%に炭酸カルシウムを30質量%添加し、この混合物に対して塩化ナトリウムを5質量%添加した場合の放射性セシウム除去率は、90%以上であった。表1における放射性セシウム除去率の数値は、炭酸カルシウム30質量%、塩化ナトリウム5質量%の場合の放射性セシウムの除去率を1.00とした場合の相対値を表している。塩化ナトリウムの添加量を減らすと、放射性セシウム除去率が低下することが確認され、塩化ナトリウムの添加量を0.5質量%とした場合には、放射性セシウム除去率が5質量%添加した場合よりも約4割低下した。このため、塩化ナトリウムの混合割合は、土壌及び炭酸カルシウム混合物に対して0.5質量%を超え5質量%以下、より好ましく1質量%以上5質量%以下とすることが必要と考えられた。
【0083】
また、炭酸カルシウムの混合割合を3質量%とした場合、放射性セシウム除去率はあまり低下しなかったが、炭酸カルシウムを添加しなかった場合は、大幅に放射性セシウム除去率が低下した。このため、炭酸カルシウムの混合割合は、3質量%以上30質量%以下にする必要があると考えられた。
【0084】
加熱時間を30分間、60分間、90分間及び120分間としても、放射性セシウム除去率に大きな変化は認められなかったが、加熱時間を15分間とした場合には、セシウム除去率は1割以上低下した。このため、加熱工程は、1000℃の場合、30分以上とする必要があると考えられた。
【0085】
(計算例)
湿式分級によって固形分(微粒子状の土壌)60%、含水率40%の脱水ケーキが得られ、脱離液中の塩化ナトリウム濃度が2質量%であった場合、脱水ケーキ中の塩化ナトリウム濃度は0.8質量%と算出される。この脱水ケーキを乾燥させ、水分を0%にした場合、土壌に対する塩化ナトリウムの比率は1.3%となる。この土壌70質量%に対して炭酸カルシウムを30質量%添加すると、この混合物中の塩化ナトリウム濃度は、0.91質量%となる。ここで、塩化ナトリウム濃度5質量%となるためには、4.09質量%相当の塩化ナトリウムを混合する必要がある。このように、土壌中に残存している塩化ナトリウム濃度に応じて、添加工程で添加する塩化ナトリウム量を調整することにより、約1ポイント(5質量%→4質量%)相当分の塩化ナトリウムを節約することができる。
【0086】
(放射性セシウム揮発促進剤の種類による影響)
炭酸カルシウムの替わりに、酸化カルシウム(CaO)を30質量%添加し、塩化ナトリウムを混合物に対して5質量%添加し、1000℃で60分間加熱した場合も放射性セシウム除去率は、90%以上であった。
【0087】
(加熱温度の影響)
炭酸カルシウムの添加量を30質量%し、塩化ナトリウムの添加量を5質量%とし、加熱処理を900℃、60分間とした場合には、放射性セシウム除去率は1000℃、60分間の場合に比べ1割程度低下した。一方、1000℃以上としても放射性セシウム除去率はあまり増加しなかったことから、省エネルギー及び土壌溶融防止の観点から、加熱工程は1200℃以下とすることが実用的と考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の土壌からのセシウム除去方法は、土壌処理分野において有用である。
図1
図2