特許第5894667号(P5894667)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894667
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】圧電インクジェットダイスタック
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20160317BHJP
【FI】
   B41J2/14 305
   B41J2/14 611
   B41J2/14 603
   B41J2/14 605
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-518513(P2014-518513)
(86)(22)【出願日】2011年6月29日
(65)【公表番号】特表2014-522755(P2014-522755A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】US2011042265
(87)【国際公開番号】WO2013002774
(87)【国際公開日】20130103
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100121061
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 清春
(72)【発明者】
【氏名】クルツ−ユーリベ,トニー,エス
(72)【発明者】
【氏名】シェフェリン,ジョセフ,イー
(72)【発明者】
【氏名】ヤマシタ,ツヨシ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,シラム,ジェイ
【審査官】 藏田 敦之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−076129(JP,A)
【文献】 特開2008−149594(JP,A)
【文献】 特開2001−162794(JP,A)
【文献】 特開2006−103117(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/142889(WO,A1)
【文献】 特開平11−207973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 − 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板ダイと、
該基板ダイ上に積み重ねられた回路ダイであって、制御回路を含む、回路ダイと、
該回路ダイ上に積み重ねられた圧電アクチュエータダイであって、前記制御回路により制御される圧電アクチュエータを含む、圧電アクチュエータダイと、
該圧電アクチュエータダイ上に積み重ねられたキャップダイと
を備えており、前記回路ダイから前記キャップダイまで各ダイが連続して前のダイよりも幅が狭くなっている、圧電インクジェットダイ積層体。
【請求項2】
該積層体中の上方のダイと同じ幅かそれよりも広い幅を有する更なるダイが該積層体中に介在する、請求項1に記載のダイ積層体。
【請求項3】
前記基板ダイから前記キャップダイへ及び該キャップダイから該基板ダイへの流体の流れを可能にする流体通路が各ダイを介して延びている、請求項1又は請求項2に記載のダイ積層体。
【請求項4】
前記流体通路が、
該ダイ積層体の縁部で互いに対向する2つの出口マニホルドと、
該ダイ積層体の縁部と中央との間で互いに対向する2つの入口マニホルドと、
該ダイ積層体の中央の1つの出口マニホルドと
を含む、請求項3に記載のダイ積層体。
【請求項5】
前記圧電アクチュエータダイ内の圧力チャンバと、
該圧力チャンバにインクを供給するための前記回路ダイにおける入口マニホルド及び入口ポートと、
前記圧力チャンバからインクが出ることを可能にする前記回路ダイにおける出口マニホルド及び出口ポートと、
前記圧力チャンバをインクがバイパスすることを可能にする前記入口マニホルドと前記出口マニホルドとの間のバイパスチャネルと
を更に備えている、請求項1又は請求項2に記載のダイ積層体。
【請求項6】
前記バイパスチャネルがインクの流れを制限する流量制限手段を含む、請求項5に記載のダイ積層体。
【請求項7】
前記圧電アクチュエータを保護するための前記キャップダイ内のキャップキャビティと、
該圧電アクチュエータに対向する前記キャップキャビティ内のリブ付き上面と
を更に備えている、請求項1ないし請求項6の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項8】
前記基板ダイ内のギャップにまたがり、及び通気された空隙を形成する、従動性薄膜であって、入口マニホルド内のインク圧のサージ中に前記空隙内に撓むよう構成されている、従動性薄膜を更に備えている、請求項1ないし請求項7の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項9】
前記圧電アクチュエータダイ内の圧力チャンバと、
該圧力チャンバに対する床であって、ASIC制御回路により実施された前記制御回路からなる、床と
を更に備えている、請求項1又は請求項2に記載のダイ積層体。
【請求項10】
前記圧力チャンバが、
前記床に対向する可撓性薄膜による屋根を備えており、
前記圧電アクチュエータが、該可撓性薄膜を撓ませるために前記屋根に隣接して配置されている、
請求項9に記載のダイ積層体。
【請求項11】
前記圧電アクチュエータを密閉するために前記キャップダイ内に形成されたキャビティを更に含む、請求項10に記載のダイ積層体。
【請求項12】
前記キャビティに強度を与えるための該キャビティのリブ付き上面を更に含む、請求項11に記載のダイ積層体。
【請求項13】
前記キャップダイ上に積み重ねられたノズルを有するノズル層と、
前記圧力チャンバと前記ノズルとの間に流体の連絡を提供するための、該圧力チャンバの前記床に対向する前記キャップダイ内の下垂部と
を更に含む、請求項9ないし請求項12の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項14】
前記圧電アクチュエータが、前記下垂部の一方の側にある第1のアクチュエータセグメントと該下垂部の他方の側にある第2のアクチュエータセグメントとを有する分割型アクチュエータとなるように、該下垂部が前記チャンバの屋根の中央に配置されている、請求項13に記載のダイ積層体。
【請求項15】
前記ASIC制御回路を覆い、及び前記圧力チャンバ内のインクと直接接触した状態となるよう構成された、パッシベーション層を更に含む、請求項9ないし請求項14の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項16】
前記圧力チャンバ内のインクの温度を制御するために温度検知抵抗及びヒータ要素を前記ASIC制御回路の一部として更に含む、請求項9ないし請求項15の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項17】
前記ASIC制御回路が前記回路ダイ上にあり、該ダイ積層体が該回路ダイの縁部に駆動トランジスタを更に含む、請求項9ないし請求項16の何れか一項に記載のダイ積層体。
【請求項18】
前記基板ダイの縁部に接続された可撓性ケーブルと、
前記基板ダイの前記縁部から前記回路ダイの縁部までのワイヤボンディングと、
前記回路ダイの前記縁部から前記アクチュエータダイの縁部までのワイヤボンディングと
を更に備えている、請求項1ないし請求項17の何れか一項に記載のダイ積層体。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ドロップオンデマンド型インクジェットプリンタは一般に、インクジェットプリントヘッド内の2つのインク滴形成機構のうちの1つに従って分類される。サーマルバブルインクジェットプリンタは、プリントヘッドノズルからインク滴を噴出させるバブルを生成するためにインクが充填されたチャンバ内のインク(又はその他の流体)を蒸発させる加熱素子アクチュエータを有するサーマルインクジェットプリントヘッドを使用する。圧電インクジェットプリンタは、プリントヘッドノズルからインク(又はその他の流体)の小滴を噴出させるためにインクが充填されたチャンバ内に圧力パルスを生成する圧電セラミックアクチュエータを有する圧電インクジェットプリントヘッドを使用する。
【0002】
圧電インクジェットプリントヘッドは、サーマルインクジェットプリントヘッドの使用を妨げる高粘度及び/又は化学成分を有する噴出可能流体(紫外線硬化性プリントインクなど)を使用する場合には、サーマルインクジェットプリントヘッドよりも好ましいものとなる。サーマルインクジェットプリントヘッドは、機械的又は科学的な劣化を受けることなく沸騰温度に耐え得る成分を有する噴出可能流体に限定される。圧電プリントヘッドは(蒸気ではなく)電気機械的な変位を使用してインク滴をノズルから射出させる圧力を生成するため、圧電プリントヘッドは、広範な噴出可能流体の選択に対応することができる。したがって、圧電プリントヘッドは、多種多様な媒体上にプリントするために使用されている。
【0003】
圧電インクジェットプリントヘッドは一般に多層スタックから形成される。圧電インクジェットプリントヘッドを改善するための継続的な努力として、圧電スタックの作製コスト及び材料コストの削減並びにその性能及び堅牢性の増大が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、圧電インクジェットプリントヘッドの改良は、より安価、より高性能、及びより堅牢なシリコンダイスタックの開発を伴うものとなり得る。この継続的な傾向の一部として、多数のシリコンダイがスタック内の多くの層で次第に使用されるようになってきており、これにより、より高密度に実装された特徴をシリコンにエッチングすることが可能となる。シリコンダイスタックの開発における様々な問題として、マニホルドコンプライアンス、駆動用電子装置、及び圧力チャンバに対する複数のインク供給手段といった特徴の正しい垂直方向の位置合わせが挙げられる。別の問題として、ダイと外部信号ケーブルとの間の電気的相互接続の長さの短縮及び歩留まりの改善が挙げられる。スタック内の特定のダイの高いコストの削減もまた継続する1つの問題である。
【0005】
圧電インクジェットプリントヘッドを改良するための従来の試みには、ダイの裏側に取り付けられたワイヤボンディング、複数のダイ層間の駆動用配線を通すためのダイスロット、ダイ層を通してではなくダイ層の周囲に引き回される流体工学、ダイスタック内の様々な形状及び同一の形状のダイ、及びダイスタックの近傍に位置するが該ダイスタックと一体化されていない制御回路ダイを用いたダイスタック設計を用いることが含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態は、薄膜圧電アクチュエータ及び駆動回路を有する多層MEMSダイスタックを含む圧電液滴射出手段(プリントヘッド)を介してこれらの問題に取り組む。該スタック内の各ダイは、アセンブリ時の容易な位置合わせ及び相互接続を可能とすべく、その下方のダイよりも幅が狭くなっている。これは、隣接するダイ上の対向する特徴に対する、マニホルドコンプライアンス、駆動用電子装置、及び複数のインク供給手段などの正しい適合を容易にする。該ダイスタック設計は更に、スタック内の一層高価な層(圧電アクチュエータダイ及びノズルプレートなど)の幅を削減し、その結果としてコストが削減される。該ダイスタック設計は、圧電アクチュエータを圧力チャンバに対してノズルと同じ側に配置することを可能とする。これにより、チャンバのインク入口及び出口を該チャンバのすぐ下に配置することが可能となり、チャンバの長さを一層短くすることが可能となる。回路ダイは、圧電アクチュエータの駆動トランジスタを制御するための制御回路(例えばASIC)を有する。該回路ダイの表面の一部は、圧力チャンバの床を形成し、及びインクが該チャンバに出入りする入口穴及び出口穴を含む。
【0007】
一実施形態では、圧電インクジェットダイスタックは、基板ダイ、該基板ダイ上に積み重ねられら回路ダイ、該回路ダイ上に積み重ねられた圧電アクチュエータダイ、及び該圧電アクチュエータダイ上に積み重ねられたキャップダイを含む。該スタック内の該基板ダイから該キャップダイまでの各ダイは前のダイよりも幅が狭くなっている。
【0008】
別の実施形態では、圧電インクジェットプリントヘッドは、圧電アクチュエータダイ内に形成された圧力チャンバを含む。該圧力チャンバの屋根は、薄膜と該薄膜上の圧電アクチュエータとを含む。回路ダイが、前記アクチュエータダイに接着されて、前記屋根に対向する前記圧力チャンバの床を形成する。前記圧電アクチュエータを駆動することにより前記薄膜を制御可能な状態で撓ませるために、前記圧力チャンバの床で前記回路ダイ上に制御回路(例えばASIC)が作製される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態による、本書で開示する圧電ダイスタックを有する流体射出アセンブリを組み込むのに適したインクジェットプリンティングシステムとして実施された、流体射出装置を示している。
図2】一実施形態による、PIJプリントヘッド内の圧電ダイスタックの一例の部分断面側面図である。
図3】一実施形態による、PIJプリントヘッド内の圧電ダイスタックの一例を側方から見た断面図である。
図4】一実施形態による、圧電ダイスタックの一例における複数のダイ層を示す平面図である。
図5】一実施形態による、回路ダイの上部のアクチュエータダイを含む部分的なダイスタックを示す平面図である。
図6】一実施形態による、複数の別個のアクチュエータではない複数のアクチュエータを有するアクチュエータダイを含む部分的なダイスタックを示す平面図である。
図7】一実施形態による、代替的なトレースレイアウトを有する圧電ダイスタックの一例における複数のダイ層を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本開示の一実施形態による本書で開示するようなシリコンダイスタックを有する流体射出アセンブリ(すなわちプリントヘッド)を組み込むのに適したインクジェットプリンティングシステム100として実施された流体射出装置を示している。この実施形態では、流体射出アセンブリは、流体小滴噴射プリントヘッド114として開示されている。インクジェットプリンティングシステム100は、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102、インク供給アセンブリ104、マウントアセンブリ106、媒体搬送アセンブリ108、電子プリンタコントローラ110、及び該インクジェットプリンティングシステム100の様々な電機部品に電力を供給する少なくとも1つの電源112を含む。インクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、プリント媒体118畳にプリントするために複数のオリフィス又はノズル116を介して該プリント媒体118に向かってインク滴を噴射する少なくとも1つの流体射出アセンブリ114(プリントヘッド114)を含む。プリント媒体118は、紙、カードストック、透明フィルム、ポリエステル、合板、板状発泡体、織物、生地といった、あらゆるタイプの適当なシート又はロール材料とすることが可能である。ノズル116は典型的には、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102及びプリント媒体118が互いに相対的に移動する際に該ノズル116からの適当に順序づけされたインクの射出によって文字、記号、及び/又はその他のグラフィクス又はイメージが該プリント媒体118上にプリントされるように、1つ以上の列またはアレイをなすよう構成される。
【0011】
インク供給アセンブリ104は、プリントヘッドアセンブリ102に流体インクを供給し、またインクを収容するためのリザーバ120を含む。インクは、該リザーバ120から該インクジェットプリントヘッドアセンブリ102へと流れる。インク供給アセンブリ104及びインクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、一方向型インク供給システム又は循環型インク供給システムを形成することも可能である。一方向型インク供給システムでは、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102へ供給されるインクの実質的に全てがプリント中に消費される。しかし、循環型インク供給システムでは、プリントヘッドアセンブリ102に供給されたインクの一部のみがプリント中に消費される。プリント中に消費されなかったインクは、インク供給アセンブリ104に戻される。
【0012】
一実施形態では、インク供給アセンブリ104は、インク調整アセンブリ105を介して供給管等の接続手段を介してインクジェットプリントヘッドアセンブリ102へインクを陽圧下で供給する。インク供給アセンブリ104は、例えば、リザーバ、ポンプ、及び圧力調整手段を含む。インク調整アセンブリ105における調整は、濾過、予熱、圧力サージ吸収、及び脱気を含むことが可能である。インクは、プリントヘッドアセンブリ102からインク供給アセンブリ104へ負圧下で引き込まれる。プリントヘッドアセンブリ102に対する入口と出口との間の圧力差は、ノズル116における正しい背圧を達成するよう選択され、通常は水(H2O)1〜10インチの負圧となる。インク供給アセンブリ104のリザーバ120は、取り外し、交換し、及び/又は再充填することが可能である。
【0013】
マウントアセンブリ106は、媒体搬送アセンブリ108に対してインクジェットプリントヘッドアセンブリ102を位置決めし、媒体搬送アセンブリ108は、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102に対してプリント媒体118を位置決めする。このため、プリントゾーン122は、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102とプリント媒体118との間の領域内でノズル116に隣接して画定される。一実施形態では、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、走査型プリントヘッドアセンブリである。この場合、マウントアセンブリ106は、プリント媒体118を走査するために媒体搬送アセンブリ108に対してインクジェットプリントヘッドアセンブリ102を移動させるためのキャリッジを含む。別の実施形態では、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、非走査型プリントヘッドアセンブリとなる。この場合には、マウントアセンブリ106は、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102を媒体搬送アセンブリ108に対して所定位置に固定する。このため、媒体搬送アセンブリ108は、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102に対してプリント媒体118を位置決めする。
【0014】
電子プリンタコントローラ110は典型的には、プロセッサ、ファームウェア、ソフトウェア、揮発性記憶要素及び不揮発性記憶要素を含む1つ以上の記憶要素、並びにインクジェットプリントヘッドアセンブリ102、マウントアセンブリ106、及び媒体搬送アセンブリ108と通信してそれらを制御するための他のプリンタ電子装置を含む。電子プリンタコントローラ110は、コンピュータ等のホストシステムからデータ124を受信し、該データ124を記憶要素に一時的に格納する。典型的には、データ124は、電子、赤外線、光学、又はその他の情報伝送経路に沿ってインクジェットプリンティングシステム100へ送られる。データ124は、例えば、印刷すべきドキュメント及び/又はファイルを表すものである。この場合、データ124は、インクジェットプリンティングシステム100のためのプリントジョブを形成し、及び1つ以上のプリントジョブコマンド及び/又はコマンドパラメータを含むものとなる。
【0015】
一実施形態では、電子プリンタコントローラ110は、ノズル116からのインク滴の射出についてインクジェットプリントヘッドアセンブリ102を制御する。このため、電子プリンタコントローラ110は、文字、記号、及び/又はその他のグラフィック又はイメージをプリント媒体118上に形成する射出されるインク滴のパターンを決定する。該射出されるインク滴のパターンは、データ124からのプリントジョブコマンド及び/又はコマンドパラメータによって決定される。一実施形態では、電子プリンタコントローラ110は、その記憶要素内に格納された温度補償及び制御モジュール126を含む。該温度補償及び制御モジュール126は、電子プリンタコントローラ110(すなわち電子プリンタコントローラ110のプロセッサ)上で実行されて、ダイスタック内の回路(例えばASIC)がプリント中に維持する温度を指定する。ダイスタック内の温度は、流体射出アセンブリ(すなわちプリントヘッド)114の圧力チャンバ内に温度検知抵抗及びヒータ要素を含むオンダイ(on-die)回路によって局所的に制御される。より詳細には、電子プリンタコントローラ110は、温度補償及び制御モジュール126からの命令を実行して、圧力チャンバ内のインク温度を、該圧力チャンバに隣接する回路ダイ上の温度検知抵抗及びヒータ要素の制御を介して、検知し維持する。
【0016】
一実施形態では、インクジェットプリンティングシステム100は、圧電インクジェット(PIJ)プリントヘッド114からなる流体射出アセンブリを有するドロップオンデマンド型圧電インクジェットプリンティングシステムである。該PIJプリントヘッド114は多層MEMSダイスタックを含み、該ダイスタック内の各ダイはその下方のダイよりも狭いものとなっている。該ダイスタックは、薄膜圧電アクチュエータ射出要素と、インク滴をノズル116から射出させる圧力パルスを圧力チャンバ内に生成するよう構成された制御及び駆動回路とを含む。一実施形態では、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、単一のPIJプリントヘッド114を含む。別の実施形態では、インクジェットプリントヘッドアセンブリ102は、複数のPIJプリントヘッド114の幅広のアレイを含む。
【0017】
図2は、本開示の一実施形態によるPIJプリントヘッド114内の圧電ダイスタック200の一例を部分的に断面で示す側面図である。一般に、該PIJプリントヘッド114は、それぞれ異なる機能を有する複数のダイ層を含む。該ダイスタック200の全体的な形状はピラミッド型であり、該スタック内の各ダイはその下方のダイ(すなわち、底部ダイとしての図2の基準ダイ202)よりも狭い。すなわち、底部基板ダイ202で始まる各ダイは、該ダイスタック内をノズル層(ノズルプレート)210に向かって上方に進むにつれて次第に狭くなっていく。位置合わせマーク、トレースの引き回し、ボンディングパッド、及び流体通路等のためにダイの端部に余分な空間が所望される実施形態では、上層にあるダイは、その下方のダイよりも長さを短くすることが可能である。ダイスタック200の底部から上部へとダイの幅を狭くし及び/又はダイの長さを短くすることにより、該ダイの側部(場合によっては端部)で階段効果が生じ、これにより、露出した階段部分上のパッド間のワイヤボンディングを介して接続されることになる回路をダイ層が有することが可能になる。
【0018】
ダイスタック200における複数の層は、第1(すなわち底部)基板ダイ202、第2回路ダイ204(又はASICダイ)、第3アクチュエータ/チャンバダイ206、第4キャップダイ208、及び第5ノズル層210(又はノズルプレート)を含む。実施形態によっては、前記キャップダイ208及び前記ノズル層210は単一の層として一体化される。また通常はノズル層210の上部に非湿潤層(図示せず)が存在し、該非湿潤層はノズル116の周辺のインク詰まりの防止に資する疎水性コーティングを含む。ダイスタック200内の各層は、典型的には、非湿潤層(及び場合によってはノズル層210)を除き、シリコンから形成される。実施形態によっては、ノズル層210は、ステンレス鋼から形成することが可能であり、又はポリイミド又はSU8等の耐久性があり化学的に不活性のポリマーから形成することが可能である。これらの層は、エポキシ(図示せず)等の化学的に不活性の接着剤を用いて共に接合することが可能である。図示の実施形態では、ダイ層は、圧力チャンバ212との間でインクを案内するスロット、チャネル、又は穴等の流体通路を有する。各圧力チャンバ212は、該チャンバの底部218に(すなわち該チャンバのノズル側とは逆側に)配置された2つのポート(入口ポート214及び出口ポート216)を含み、該2つのポートは、インク分配マニホルド(入口マニホルド220及び出口マニホルド222)と流体的に連絡している。圧力チャンバ212の底部218は、回路ダイ204の表面により形成される。該2つのポート(214,216)は、チャンバ212の底部218の対向する側部にあり、該側部において回路ダイ204に穴があけられて、インク供給システム104の外部ポンプにより該チャンバを介してインクを循環させることが可能となる。圧電アクチュエータ224は、チャンバの屋根として働きチャンバ底部218に対向して配置された可撓性薄膜上にある。このため、該圧電アクチュエータ224は、チャンバ212に対してノズル116と同じ側(すなわち該チャンバの屋根又は上側)に配置されている。
【0019】
図2を更に参照すると、底部基板ダイ202は、シリコンからなり、インク分配マニホルド(入口マニホルド220及び出口マニホルド222)を介して圧力チャンバ212との間でインクが流れることを可能にする流体通路226を含む。基板ダイ202は従動性薄膜228を支持し、該従動性薄膜228は、例えば、始動時の過度電流及び隣接するノズルでのインク射出に起因するインク分配マニホルドを介した脈動するインクの流れによる圧力サージを緩和させるよう構成されている。該従動性薄膜228は、隣接するノズル間の流体的なクロストークに対する減衰効果を有し、並びに大量印刷時にインク供給源からのインクの流れが確立される際にインクが確実に利用可能となるようにするリザーバとして働く。該従動性薄膜228は、それがポリエステル又はPPS(ポリフェニレンサルファイド)等のポリマーから作製される場合には、5〜10ミクロンのオーダーの厚さを有するものとなる。該従動性薄膜228は、その裏側に空洞又は空隙を形成する基板ダイ202内のギャップにわたって広がり、マニホルド内の流体圧力サージに応じて自由に拡張することが可能となる。該空隙230は典型的には周囲に通気される(但し、これには限定されない)。別の場合には、空隙230は、加圧されたり真空が形成されたりしないように構成され、これにより従動性薄膜228が該空隙230内に容易に上下動してインク圧サージを吸収することが可能となる。従動性薄膜と空洞230の底部との間の典型的なギャップは100〜300ミクロンである。該従動性薄膜のインクチャネル側にも同様のクリアランスが存在する。1〜2mmの幅は十分な従動性を提供する。従動性薄膜が堆積される場合、1mm未満の幅で1〜2ミクロンの厚さを実施することが可能である。従動性薄膜228aは、従動性薄膜228bのポート(すなわち2つの入口ポート214)の数の1/2のポート(すなわち1つの出口ポート216)を提供するものであるため、該従動性薄膜228bよりも幅が狭い。
【0020】
回路ダイ204は、ダイスタック200内の2番目のダイであり、基板ダイ202の上方に位置している。回路ダイ204は、基板ダイ202に接着され、該基板ダイ202よりも幅が狭い。実施形態によっては、回路ダイ204は、基板ダイ202よりも短い長さを有することが可能である。回路ダイ204は、インク入口マニホルド220及びインク出口マニホルド222からなるインク分配マニホルドを含む。入口マニホルド220は、入口ポート214を介したチャンバ212内へのインクの流れを提供し、出口ポート216は、インクが該チャンバ212から出口マニホルド222へと出ることを可能にする。回路ダイ204はまた、入口マニホルド220内へと到来したインクの一部が圧力チャンバ212をバイパスして出口マニホルド222内へと直接流れることを可能にする流体バイパスチャネル232を含む。図3に関して以下で詳述するように、バイパスチャネル232は、圧力チャンバ212内で所望のインクの流れが達成されるように、及びチャンバの入口ポート214と出口ポート216との間に十分な圧力差が維持されるように、該バイパスチャネル232を狭くする適切な大きさの流量制限手段を含む。
【0021】
回路ダイ204はまたCMOS電気回路234を含み、該CMOS電気回路234は、ASIC234で実施され、及びアクチュエータ/チャンバダイ206に隣接して該回路ダイ204の上面に作製される。ASIC234は、圧電アクチュエータ224の圧力パルス(すなわち発射)を制御する射出制御回路を含む。ASIC234の少なくとも一部は、圧力チャンバ212の底部218上に直接配置される。ASIC234は、チャンバ212の底部218上に作製されるため、圧力チャンバ212内のインクと直接接触することができる。しかし、ASIC234は、チャンバ212内のインクからの絶縁及び保護を提供するために誘電材料を含む薄膜パッシベーション層(図示せず)の下に埋設されている。ASIC234の回路内に含まれているものは、1つ以上の温度検知抵抗(TSR)及びヒータ要素(電気抵抗薄膜など)である。ASIC234内のTSR及びヒータは、チャンバ212内のインクの温度をノズル116を介したインク滴の射出に適した所望の一様なレベルに維持するよう構成される。一実施形態では、ASIC234内のTSR及びヒータの設定温度は、圧力チャンバ212内のインク温度を検知し調節するためにコントローラ110上で実行される温度補償及び制御モジュール126によって指定される。プリントヘッドアセンブリ102に入るインクが一定の上昇した温度を有すべき場合には、温度補償及び制御モジュール126は、インク調整アセンブリ105内の予熱手段と連携することになる。
【0022】
回路ダイ204はまた、(後述する)ボンディングワイヤ238の外側で該回路ダイ204の縁部に作製された複数の圧電アクチュエータ駆動回路/トランジスタ236(例えば複数のFET)を含む。このため、駆動トランジスタ236は、ASIC234の制御回路と同じ回路ダイ204上にあり、ASIC234の一部である。駆動トランジスタ236は、ASIC234内の制御回路により制御される(すなわちターンオン及びターンオフされる)。圧力チャンバ212及びアクチュエータ224の性能は温度変化に敏感であり、このため、駆動トランジスタ236を回路ダイ204の縁部に外側に配設することにより、該駆動トランジスタ236により生成された熱をチャンバ212及びアクチュエータ224から遠ざけるようになっている。
【0023】
回路ダイ204の上に配置されたダイスタック200内の次の層は、アクチュエータ/チャンバダイ206(以下「アクチュエータダイ206」)である。該アクチュエータダイ206は、回路ダイ204に接着され、回路ダイ204よりも幅が狭い。実施形態によっては、アクチュエータダイ206の長さを回路ダイ204よりも短くすることも可能である。アクチュエータダイ206は、隣接する回路ダイ204からなるチャンバ底部218を有する圧力チャンバ212を含む。上述のように、チャンバ底部218は、チャンバ底部218を形成する回路ダイ204上に作製されたASIC234等の制御回路を更に含む。アクチュエータダイ206は、チャンバの屋根として働く、チャンバ底部218に対向して配置された、二酸化ケイ素等の可撓性薄膜240を更に含む。該可撓性薄膜240の上に接着されるのが圧電アクチュエータ224である。圧電アクチュエータ224は、印加された電圧に応じて機械的応力を生じる圧電セラミック材料等の薄膜圧電材料からなる。駆動時に、圧電アクチュエータ224は、物理的に拡張し又は収縮して、圧電セラミック及び薄膜240の積層体を撓ませる。この撓みがチャンバ内のインクを変位させて、ノズル116を介してインク滴を射出させる圧力波が圧力チャンバ212内に生成される。図2に示す実施形態では、可撓性薄膜240及び圧電アクチュエータ224の両方は、圧力チャンバ212とノズル116との間に延びる下垂部242によって分割されている。このため、圧電アクチュエータ224は、チャンバ212の両側に1セグメントずつ有する分割型圧電アクチュエータ224である。しかし、実施形態によっては、下垂部242及びノズル116は、圧電アクチュエータ224及び可撓性薄膜240が分割されないようにチャンバ212の一方の側に配置される。
【0024】
アクチュエータダイ206の上にキャップダイ208が接着される。該キャップダイ208は、アクチュエータダイ206よりも幅が狭く、実施形態によってはその長さをアクチュエータダイ206よりも短くすることが可能である。キャップダイ208は、圧電アクチュエータ224の上方で該圧電アクチュエータ224を封入するキャップキャビティ244を形成する。該キャビティ244は、アクチュエータ224を保護する密閉されたキャビティである。該キャビティ244は通気していないが、該キャビティ244により提供される密閉された空間は、圧電アクチュエータ224の動きに影響を与えることなく該圧電アクチュエータ224が撓むことを可能にする十分な広さを有する体積又はクリアランスから構成される。キャップキャビティ244は、アクチュエータ224に対向するリブ付き上面246を有し、該リブ付き上面246は、(薄膜PZTの長期性能にとって有害な水その他の分子の吸着を増大させるために)キャビティの体積及び表面積を増大させるものである。該リブ付き上面246は、プリントヘッドの取り扱い及びサービス(ワイピング等)による損傷に対して良好に耐えることができるようにキャップキャビティ244の上面を強化するよう設計される。このリブの形成は、キャップダイ208の厚さの削減及び下垂部242の長さの短縮に資するものとなる。
【0025】
キャップダイ208は下垂部242を含む。該下垂部242は、圧力チャンバ212とノズル116との間に延びるキャップダイ208内のチャネルであり、これにより、アクチュエータ224からの圧力波によって生じる射出イベント中に圧力チャンバ212からインクが移動してノズル116から出ることが可能となる。上述のように、図2の実施形態では、下垂部242及びノズル116は、チャンバ212の中央に配置され、該チャンバ212の2つの側部間で圧電アクチュエータ224及び可撓性薄膜240を分割する。ノズル116は、ノズル層210又はノズルプレート内に形成される。ノズル層210は、キャップダイ208の上部に接着され、典型的にはキャップダイ208と同じサイズ(すなわち長さ及び幅(厚さは必ずしも同じではない))を有する。
【0026】
図2は、PIJプリントヘッド114内のダイスタック200の部分的な(すなわち左側の)断面図を示したものである。しかし、該ダイスタック200は、図2に示す破線258を超えて右側に向かって続くものである。更に、該ダイスタック200は、対称的なものであり、それ故、その右側(図2には図示せず)は、同図の左側に示した特徴と鏡像をなす特徴を含むものである。例えば、図2でダイスタック200の左側に示すインク入口マニホルド220及びインク出口マニホルド222は、図2に示していないダイスタック200の右側で鏡像をなすよう配設されている。鏡像をなす入口及び出口マニホルドといったインク分配マニホルドの更なる特徴が図3に示されている。
【0027】
図3は、本開示の一実施形態によるPIJプリントヘッド114内の例示的な圧電ダイスタック200の断面を示す側面図である。説明上、図2に関して上述した多くの特徴は、図3に示すダイスタック200の図面及び説明には含まれていない。図3は、ダイスタック200の完全な断面を示す側面図であるが、その主たる意図は、図2に関して上述した実施形態の場合のような例示的なダイスタック200の幅にわたって現れる更なるマニホルド、チャンバ、及びノズルについて説明することにある。図3のダイスタック200では、該ダイスタック200の幅にわたって4行の圧力チャンバ212とそれに対応するノズル116が存在する。基板ダイ202を通る5つの流体通路226が、回路ダイ204内の5つの対応するマニホルドとの間で(例えばインク供給システム104からの)インクを通過させる。より詳細には、3つの出口マニホルド222(ダイスタック200の縁部に2つ及びダイスタック200の中央に1つ)が、ダイスタック200内の圧力チャンバ212から出たインクを通過させる。この3つの出口マニホルド222は、インクが4つの圧力チャンバ212(すなわち4行の圧力チャンバ)から該チャンバ212の4つの対応する出口ポート216を介して出るためのチャネルを提供する。該ダイスタック内の2つの入口マニホルド220は、インクが圧力チャンバ212の4つの対応する入口ポート214を介して4つの圧力チャンバ212(すなわち4行の圧力チャンバ)に入るためのチャネルを提供する。
【0028】
また、図3のダイスタック200に示すように、回路ダイ204には、流体バイパスチャネル232(例えば232a,232b)が形成されている。上述のように、バイパスチャネル232は、入口マニホルド220に到来したインクの一部が、圧力チャンバ212を最初に通過することなく、該バイパスチャネル232を介して出口マニホルド222内へ直接流れることを可能にする。各バイパスチャネル232は、入口マニホルド220から出口マニホルド222へのインクの流れを制限すべく該チャネルを効果的に狭める流量制限手段300を含む。バイパスチャネル232内で流量制限手段300によりもたらされる制限は、圧力チャンバ212内での適切な流れの達成に資するものとなる。該流量制限手段300はまた、チャンバ入口ポート214と出口ポート216との間の十分な圧力差の維持に資するものとなる。図3に示す流量制限手段300は、説明を目的としたものに過ぎず、実際の流量制限手段の物理的な表現を示すことを必ずしも意図したものではない、ということに留意されたい。実際の流量制限手段は、バイパスチャネル自体(例えば、232a,232b)の長さ及び幅を調整することにより確立される。このため、例えば、バイパスチャネル232aの長さ及び幅をバイパスチャネル232bの長さ及び幅と異ならせて、該チャネルを介した異なる流量レベル及びチャンバ212内の圧力を達成することが可能である。
【0029】
図4は、本開示の一実施形態による例示的な圧電ダイスタック200における複数のダイ層の平面図を示している。図4のダイスタック200では、該スタックの底部に基板ダイ202が示されており、該基板ダイ202の上部に一層小さな(すなわち幅が狭くて長さが短い)回路ダイ204が示されている。該回路ダイ204の上部には、一層小さな(すなわち幅が狭くて長さが短い)アクチュエータダイ206がある。基板ダイ202の角の隅には位置合わせ基準400が示されている。図4及び図2を全体的に参照すると、漸進的に小さくなるダイが、ピラミッド状又は階段形状のダイスタック200を形成し、これにより、位置合わせ基準400が見えるようにし、ボンディングパッド250及びワイヤ238の数を増やし、及びボンディングパッド250間にトレースを引き回すための余地が、ダイの縁部に提供される(ボンディングパッド、ワイヤ、及びトレースの全ては図示されていない)。このダイ縁部における追加の空間はまた、ワイヤ238及びボンディングパッド250を損傷から保護するための封止材252を支持し、及びマニホルドの従動性薄膜、駆動用電子装置、及び多数のインク供給手段の正しい垂直方向の取り付けを確実に行うべくアセンブリ中の容易な位置合わせ及び相互接続を可能とするものである。アクチュエータダイ206に隣接して(すなわちその真下に)回路ダイ204を配設することによりワイヤ238の長さを短縮することが可能となり、これにより、製造中の損傷が減少し、及び封入により保護すべき露出した材料の量が削減される。ダイ縁部における追加の表面積はまた、保護シュラウド256とダイスタック200との間のシーラント254のための余地を提供する。該シーラント254は、ダイスタック200内の電気接続部内にインクが侵入する機会を低減させる。
【0030】
図2及び図4を更に参照すると、可撓性ケーブル248は、基板ダイ202の表面の側縁部でダイスタック200に接続されたものとして示されている。しかし、別の実施形態では、可撓性ケーブル248は、ダイスタック200の別のダイ層(回路ダイ204等)に接続することが可能である。可撓性ケーブル248は、30本というオーダーの配線を含み、かかる配線は、コントローラ110等の信号源からの低電圧のディジタル制御信号、電源112からの電力、及び接地を伝達するものである。可撓性ケーブル248内の配線を介して受信したシリアルディジタル制御信号は、回路ダイ204上のASIC234内の制御回路により並列のアナログ駆動信号へと変換(多重化)され、該アナログ駆動信号により、駆動トランジスタ236のオン・オフの切り換えが行われ、個々の圧電アクチュエータ224が駆動される。従って、シリアル制御信号及び電力を該可撓性ケーブル248から回路ダイ204上のASIC制御回路及び駆動トランジスタ236へ伝達するために、比較的少数の配線(例えばワイヤ238a)が、基板ダイ202から回路ダイ204へと取り付けられる。しかし、遙かに多数の配線(例えばワイヤ238b)を回路ダイ204のボンディングパッド250aとそれに対応するアクチュエータダイ206のボンディングパッド250bとの間に取り付けて、多数のパラレル制御信号を回路ダイ204上のASIC234から個々のワイヤ238bに沿ってアクチュエータダイ206上の個々の圧電アクチュエータ224(図4には図示せず)へと伝達することが可能である。図4は、ボンディングパッド250a,250b間のワイヤ238bを全て図示したものではなく、図示のワイヤ238bは典型的な一例にすぎないものであることに留意されたい。この実施形態では、ボンディングパッドの密度は、200パッド/行/インチであり、2つのオフセットされた行が存在するため、400パッド/インチとなっている。
【0031】
図4に示す一実施形態では、接地トレース402は、可撓性ケーブル248から出て、基板ダイ202の一方の側縁部に沿って接地パッド404まで延びている。ワイヤ238cは、接地パッド404に接合され、上方の隣接する回路ダイ204上の接地パッド406まで延びる。接地トレース408は、接地パッド406から、回路ダイ204の端縁部に沿って、該回路ダイ204の中央で該端縁部上に位置する接地パッド410へと走る。ワイヤ238dは、回路ダイ204上の接地パッド410に接合され、アクチュエータダイ206の端縁部の中央の接地パッド412まで延びる。接地バス414は、アクチュエータダイ206の対向する端縁部間で該アクチュエータダイ206の中央に走る。こうして、可撓性ケーブル248から到来する接地は、最初は基板ダイ202上のダイスタック200に接続され、基板ダイ202及び回路ダイ204の側縁部及び端縁部に沿ってアクチュエータダイ206まで引き回される。この中央の接地バス414から、接地トレースは、図5及び図6に関して以下で説明するように、アクチュエータダイ206の側縁部に向かって外方へ延びて圧電アクチュエータ224(図4には図示せず)に接続する。
【0032】
図5は、本開示の一実施形態による回路ダイ204の上部のアクチュエータダイ206を含むダイスタック200を部分的に示す平面図である。アクチュエータダイ206上に図示されているのは、アクチュエータダイ206の長い側縁部の両方に沿って走るワイヤボンディングパッド250bである。該ボンディングパッド250b間のアクチュエータダイ206上の空間は、少なくとも4行の圧電アクチュエータ224を有している。しかし、別の実施形態では、アクチュエータ224の行数は、6行、8行、又はそれ以上に増やすことが可能である。この実施形態では、中央接地バス414の両端で(すなわち回路ダイ204からのワイヤ238dを介して)行われる接地接続は、該バスに沿った抵抗値を許容可能な最大レベル未満に維持すると共に、該バス幅の最小化に資するものとなる。図5に示すように、接地トレース500は、中央接地バス414から出て、アクチュエータダイ206の2つの側縁部に向かって外方へ延びる。このため、接地トレース500は、複数のアクチュエータ行間に延びて中央接地バス414から各アクチュエータ224への接地接続を提供する「インサイドアウト」接地トレースである。この接地トレース500からの接地接続502は、典型的には、圧電セラミックアクチュエータ224の底部電極に対して行われる(が、必ずしもそうである必要はない)。駆動信号トレース504は、アクチュエータダイ206の側縁部のボンディングパッド250bから出て、該アクチュエータダイ206の中央に向かって内方に延びる。このため、駆動信号トレース504は、アクチュエータ行間に延びる「アウトサイドイン」駆動トレースであり、及び圧電セラミックアクチュエータ224を駆動する駆動信号を提供する。駆動トレース504からの駆動トレース接続506は、典型的には、圧電セラミックアクチュエータ224の上部電極に対して行われる(が、必ずしもそうである必要はない)。
【0033】
「インサイドアウト」接地トレース500及び「アウトサイドイン」駆動トレース504を用いたトレースレイアウトは、トレースのための一層密な詰め込み機構を可能とし、これにより別の実施形態では一層多数の行のアクチュエータ224を配設することが可能となる。更に、該トレースレイアウトは、接地トレース及び駆動トレースを同一の作製レベル上のもの、すなわち同一の又は共通の作製平面内のものとすることを可能とする。すなわち、作製時に、駆動トレースを配設するために使用されるものと同じパターニング及び堆積プロセスを使用して接地トレースを同時に配設することが可能である。これにより、複数のプロセスステップ並びに駆動トレースと接地トレースとの間の絶縁層を除去するステップが不要となる。
【0034】
図5のアクチュエータダイ206上には、圧力チャンバ212、下方に位置する回路ダイ204の入口及び出口ポート(214,216)に対する輪郭、並びに上方に位置するキャップダイ208及びノズル層210のそれぞれにある下垂部242及びノズル116のための輪郭もまた示されている。図5及び図2の実施形態では、各チャンバ212は分割型アクチュエータ224を有している。該アクチュエータ224は、該チャンバの中間に位置する下垂部242及びノズル116によって2つのセグメントへと分割されている。この設計では、分割型アクチュエータ224の両方のセグメントが接地トレース500及び駆動トレース504に結合される。前記「インサイドアウト」接地トレース500及び「アウトサイドイン」駆動トレース504を有するトレースレイアウトの密な詰め込み機構は、かかる分割型アクチュエータ設計に一層良好に適応するものとなる。
【0035】
図6は、本開示の一実施形態による、分割型でないアクチュエータ224を有するアクチュエータダイ206を含むダイスタック200を部分的に示す平面図である。この実施形態では、下垂部242及びノズル116は、図5の実施形態における分割型アクチュエータ設計の場合のようにチャンバ212の中間ではなく、チャンバ212の一方の側に配置されている。これは、単一のアクチュエータ224が単一の要素としてチャンバ212の幅にまたがることを可能にする。よって、この設計は、図5の分割型アクチュエータ設計の場合にアクチュエータ224に対して行われる接地トレース500及び駆動トレース504の接続の1/2の接続を有する。したがって、アクチュエータダイ206上のアクチュエータ行の間の空間を占有するトレースの数が一層少なくなる。
【0036】
図7は、本開示の一実施形態による例示的な圧電ダイスタック200の複数のダイ層を示す平面図である。図7は、図示の実施形態が基板ダイ202上の可撓性ケーブル248からアクチュエータダイ206上の中央接地バス414までの接地接続の引き回しのための代替的なレイアウトを示している点を除き、上述の図4に同様のものである。この実施形態では、中央接地バス414は、バス414の両端に垂直セグメント700を含む。該垂直セグメント700は、バス414の端部から離れるようにアクチュエータダイ206の2つの側縁部に向かって二方向に垂直方向に延びる。該垂直セグメント700は、回路ダイ204及びアクチュエータダイ206が同じ長さを有する場合又は既述の実施形態の場合よりも一層同じ長さに近い長さを有する場合といったダイスタック200の異なる実施形態において、中央接地バス414に対する接地接続を容易にするものである。かかる実施形態では、ボンディングパッド又は接地パッドを配置するため又は接地トレースを延ばすための十分な空間が回路ダイ204の端縁部に存在しない可能性がある。これは、回路ダイ204からアクチュエータダイ206上の中央接地バス414へと接地を接続する図4に示す特定の接地引き回し機構を妨げるものとなる。このため、図7の実施形態は、回路ダイ204の端縁部に十分な空間が存在しない実施形態において、可撓性ケーブル248からアクチュエータダイ206上の中央接地バス414までの接地接続の代替的な引き回しを提供するものである。
【0037】
図7の実施形態では、接地トレース402は、可撓性ケーブル248から出て、基板ダイ202の一方の側縁部に沿って接地パッド404へと延びる。ワイヤ238cは、その一端が接地パッド404に接続され、回路ダイ204まで延びてその他端が接地パッド406に接合される。回路ダイ204上の接地パッド406から、ワイヤ702が、アクチュエータダイ206の端縁部にある垂直延長部700に接合されて、中央接地バス414に対する接地接続が提供される。実施形態によっては、アクチュエータダイ206上の垂直延長部700は、回路ダイ204の他の側縁部に対する接地接続を提供するためにも使用することが可能である。かかる場合には、図7に示すように、ワイヤ704が、垂直延長部700の他方の側に接合され、回路ダイ204の他方の側縁部へと延びて接地パッド706に接合される。このため、可撓性ケーブル248からアクチュエータダイ206上の中央接地バス414への代替的な引き回しを提供することに加えて、中央接地バス414に対する垂直延長部700は、回路ダイ204の一方の側からアクチュエータダイ206を介して他方の側への接地接続を可能にする。これらの代替的な接地トレースの引き回しは、回路ダイ204の端縁部に十分な空間を設けることができないダイスタック200の実施形態(回路ダイ204及びアクチュエータダイ206が同一の又は同様の長さを有する場合など)において特に有用となる。
【0038】
図4ないし図7を全般的に参照すると、代替的な実施形態では、中央接地バス及び個々の駆動トレースの役割を逆転させることが可能である。このため、接地バス414は代替的にピーク駆動電圧を有するものとなる。したがって、図4に関し、例えば、かかる代替的な実施形態では、可撓性ケーブル248から出て基板ダイ202の側縁部に沿って延びる上述の接地トレース402は、代替的にピーク駆動電圧トレースとなる。同様に、接地パッド404,406,410,412及びワイヤ238c,238dは、接地ではなくピーク駆動電圧を伝達するものとなる。このため、(接地トレースではなく)駆動電圧トレースは、中央バス414からアクチュエータダイ206の側縁部に向かって外方へ延びて圧電アクチュエータ224と接続することになる。更に、圧電アクチュエータ224は、個々の並列トレース504により、アクチュエータダイ206の側縁部に位置するボンディングパッド250bを介して、次いで駆動トランジスタ236により、接地に接続される。このトレース経路の実施形態により、駆動トランジスタ236は、圧電アクチュエータ224を接地に対して交互に切断及び接続してアクチュエータ224を駆動する。このため、かかる代替的に実施形態では、駆動トレースは、圧電セラミックアクチュエータ224を駆動する駆動電圧を提供するために中央バス414からアクチュエータ行間の各アクチュエータ224へと走る「インサイドアウト」駆動トレースとなり、接地トレースは、駆動トランジスタ236を介して各アクチュエータ224へ接地接続を提供するためにアクチュエータ行間を走る「アウトサイドイン」接地トレースとなる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7