【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
製造例1
窒素雰囲気下で、500ml容のフラスコにメチルイソブチルケトン100質量部を入れ、100℃に昇温した。また、表1に示すモル%のモノマー(A)〜(D)の合計100質量部(すなわち、モノマー(A)14質量部、モノマー(B)15質量部、モノマー(C)15質量部およびモノマー(D)57質量部)および2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(株式会社日本ファインケム製、ABN−R)1質量部を混合し、この混合物を100℃のメチルイソブチルケトン中に3時間かけて滴下した。更に6時間かけて加熱還流を行い、目的の共重合体(固形分50%)を得た。
【0043】
得られたビニル化合物共重合体100質量部を34質量部のポリイソシアネートと混合して得た塗料を、東レフィルム加工(株)製のポリエステルフィルム「セラピール38」(商品名)の離型処理面上に乾燥後の塗膜厚みが50μmとなるように塗布した後、150℃で30分加熱し、更に室温で24時間放置して塗膜を形成した。この塗膜をセラピール38から剥離して、目的のフィルム(イ)を得た。得られたフィルムについて下記試験(1)〜(13)を行った。結果を表1に示す。
【0044】
製造例2〜19および比較製造例1〜9
表1に示す各モノマーを表1に示すモル%の量(括弧内の数字は質量部)で使用し、
製造例1と同様に共重合して得られたビニル化合物共重合体100質量部を表1に示す量(質量部)のポリイソシアネートと混合して得た塗料を、ユニチカ(株)製のポリエステルフィルム「エンブレットS50」(商品名)の片面に乾燥後の塗膜厚みが20μmとなるように塗布した後、150℃で30分加熱し、更に室温で24時間放置して塗膜を形成し、目的の積層フィルム(ロ)を得た。なお、
製造例19では、ビニル化合物共重合体100質量部およびポリイソシアネート34質量部とともにポリジメチルシロキサン25質量部を混合して塗料を得た。得られた積層フィルムについて下記試験(1)〜(15)を行った。結果を表1に示す。
【0045】
使用した材料は以下の通りである。
モノマー(A):三菱レイヨン株式会社製、メチルメタクリレート
モノマー(B):信越化学工業株式会社製のX−22−2426、片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサン、分子量:約14000
モノマー(C):株式会社日本触媒製、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、水酸基含有アルキル基の炭素数2
モノマー(D−1):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFA10L、ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン10mol付加物、Yの炭素数62、分子量1256
モノマー(D−2):下記方法で調製された化合物、Yの炭素数46、分子量1002
モノマー(D−3):下記方法で調製された化合物、Yの炭素数52、分子量1116
モノマー(D−4):下記方法で調製された化合物、Yの炭素数40、分子量888
モノマー(D−5):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルCD210(ポリカーボネートジオール、HO−(C
6H
12−O−CO−O)
6−C
6H
12−OH)とアクリル酸の脱水縮合物、Yの炭素数48、分子量1036
モノマー(D−6):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルCD220(ポリカーボネートジオール、HO−(C
6H
12−O−CO−O)
13−C
6H
12−OH)とアクリル酸の脱水縮合物、Yの炭素数97、分子量2044
比較モノマー(D−7):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM5、ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン5mol付加物、Yの炭素数32、分子量700
比較モノマー(D−8):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM3、ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン3mol付加物、Yの炭素数20、分子量472
比較モノマー(D−9):ダイセル化学工業株式会社製のプラクセル230(ポリカプロラクトンジオール、炭素数158)とアクリル酸の脱水縮合物、Yの炭素数158、分子量3096
ポリイソシアネート:日本ポリウレタン工業製のコロネートHX、固形分100%、NCO含量21.3質量%
ポリジメチルシロキサン:信越化学工業株式会社製のポリジメチルシロキサン、粘度100万CS
【0046】
モノマー(D−2)の調製
ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM2D(ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン2mol付加物、分子量358)とアジピン酸(分子量146)とを酸触媒を用いて脱水縮合を行って末端カルボン酸変性メタクリレートを合成した。続いて、この末端カルボン酸変性メタクリレートにダイセル化学工業株式会社製のプラクセル205(カプロラクトン4量体のジオール、H−{O−(CH
2)
5−CO}
2−O−CH
2−O−CH
2−O−{CO−(CH
2)
5−O}
2−H、分子量534)を加え、酸触媒を用いて脱水縮合を行って末端水酸基含有メタクリレートモノマー(D−2)を得た。
【0047】
モノマー(D−3)の調製
上記モノマー(D−2)の調製において、プラクセルFM2Dに代えて、ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM3(ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン3mol付加物、分子量472)を使用したこと以外は上記調製と同様にしてモノマー(D−3)を得た。
【0048】
モノマー(D−4)の調製
上記モノマー(D−2)の調製において、プラクセルFM2Dに代えて、ダイセル化学工業株式会社製のプラクセルFM1D(ヒドロキシエチルメタクリレートのカプロラクトン1mol付加物、分子量244)を使用したこと以外は上記調製と同様にしてモノマー(D−4)を得た。
【0049】
試験
(1)擦傷復元性
上記で得られたフィルム(イ)または積層フィルム(ロ)を長さ150mm×幅75mmに切り出して試験片とし、これを硝子板上に置いた。積層フィルム(ロ)の場合には塗膜面が表面になるように置いた。仲屋ブラシ工業製の4行真鍮ブラシ(荷重500gf)を用いて、試験片の表面を片道100mmの距離で10往復擦った後、真鍮ブラシを速やかに除去して表面についた擦傷が消失するまでの時間を観察した。
○:1分以内に擦傷が消失した。
△:1分超〜24時間以内に擦傷が消失した。
×:24時間以上経過しても擦傷が消失しなかった。
【0050】
(2)摩擦に対する耐擦傷性
上記で得られたフィルム(イ)または積層フィルム(ロ)を長さ200mm×幅25mmに切り出して試験片とし、これをJIS L 0849の学振試験機に置いた。積層フィルム(ロ)の場合には塗膜面が表面になるように置いた。続いて、学振試験機の摩擦端子に金巾3号を5重となる様に取り付けた後、500gf荷重を載せて試験片表面を200往復した後の表面の擦り傷の程度を確認した。
◎:擦り傷が見られなかった。
○:塗膜表面に10本未満の軽微な擦り傷が見られた。
△:塗膜表面に10本以上の軽微な擦り傷が見られた。
×:塗膜表面全体に明瞭な擦り傷が見られた。
【0051】
(3) 耐折曲げ性
上記で得られたフィルム(イ)または積層フィルム(ロ)を100mm×50mmの大きさに切り出し、日東電工製の両面テープNo.500Aを用いて厚さ0.3mmのアルミ板に貼り付けて試験片とした。積層フィルム(ロ)の場合には塗膜面が表面になるように貼り付けた。この試験片を、直径2mmのマンドレルを取り付けたJIS K 5600−5−1タイプ1の折り曲げ試験装置を用いて、塗膜面が外側になる様に2秒をかけて均等な速度で180°に折り曲げた。折り曲げ終了後、折り曲げた箇所の中央30mm部分について塗膜の割れの有無を確認した。
○:割れが生じなかった。
△:割れは生じないが、曲げた部分が白っぽくなった。
×:割れが生じた。
【0052】
(4)耐衝撃性
上記で得られたフィルム(イ)または積層フィルム(ロ)を100mm×50mmの大きさに切り出し、日東電工製の両面テープNo.500Aを用いて150mm×75mm×1mmのアルミ板に貼り付けて試験片とした。積層フィルム(ロ)の場合には塗膜面が表面になるように貼り付けた。この試験片を、JIS K 5600−5−3に基づいてφ1/4インチの鉄球を取り付けたデュポン式衝撃試験機に塗膜面が上になるように置き、荷重300gfの重りを20cmの高さから落下させて衝撃を与えた後に塗膜の割れの有無を評価した。
○:割れが生じなかった。
×:割れが生じた。
【0053】
(5)低温での耐衝撃性
上記試験(4)と同様の試験を−10℃の雰囲気温度で行った。なお、試験片をデュポン式衝撃試験機に設置した後に5分経過して温度が一定となった状態で試験を実施した。
○:割れが生じなかった。
×:割れが生じた。
【0054】
(6)耐水性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これを40℃の温水に168時間浸漬した後に取り出し、1時間以内に塗膜の外観を、以下の基準にしたがって目視評価した。
○:変化が見られなかった。
△:肉眼では確認できないが顕微鏡を使用すると確認できる程度の非常に小さい膨れ、剥れまたは割れがあり、それらに起因する僅かな光沢低下や染みが肉眼で確認された。
×:膨れ、剥れまたは割れが肉眼で確認された。
【0055】
(7)耐湿性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これを50℃、95%RHの恒温恒湿槽に168時間放置した後に取り出し、1時間以内に塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0056】
(8)耐熱性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これを100℃のギヤオーブンに1時間放置した後に取り出し、更に室温で1時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(
6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0057】
(9)耐酸性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これに10%希硫酸2mlを滴下して室温で24時間放置した後、十分に水洗した。この試験片を更に室温で1時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0058】
(10)耐塩基性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これに5%炭酸ナトリウム水溶液2mlを滴下して40℃で6時間放置した後、十分に水洗した。この試験片を更に室温で1時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0059】
(11)耐ガソリン性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これにJIS K 2202に準拠する1号ガソリン2mlを滴下して室温で24時間放置した後、十分に水洗した。この試験片を更に室温で2時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0060】
(12)耐アルコール性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これにエタノール2mlを滴下して室温で24時間放置した後、十分に水洗した。この試験片を更に室温で24時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0061】
(13)耐候性
上記試験(4)と同様の試験片を用い、これをサンシャインウェザオメーターで2000時間暴露した後、十分に水洗した。この試験片を更に室温で24時間以上放置した後、塗膜の外観を、試験(6)と同様の評価基準にしたがって目視評価した。
【0062】
(14)耐汚染性
上記試験(4)と同様の試験片を3個用意し、これらをそれぞれ屋外に80、160および240日間放置した後、十分に水洗した。これらの試験片を更に室温で24時間以上放置した後、塗膜の外観を、下記の評価基準にしたがって目視評価した。
◎:いずれの試験片も外観の変化が見られなかった。
〇:240日間放置した試験片のみに、光沢低下、膨れまたは剥れなどが確認された。
△:80日間放置した試験片については変化が見られなかったが、他の2つの試験片については、光沢低下、膨れまたは剥れなどが確認された。
×:いずれの試験片にも、光沢低下、膨れまたは剥れなどが確認された。
【0063】
(15)取扱性
塗膜(イ)または積層フィルム(ロ)を100×25mmに切り抜き、これをA&D製テンシロンRTG−1310引張試験機にチャック間距離を50mmにして取り付け、引張速度200mm/minで引張試験を行った時の10%モジュラス値を測定した。この値が小さいほど、取扱中に破れる可能性が高く、取扱性に劣る。
○:10%モジュラス値が10N/25mm以上
△:10%モジュラス値が1N/25mm以上かつ10N/25mm未満
×:10%モジュラス値が1N/25mm未満
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されるように、本発明の塗膜および積層フィルムは、耐擦傷性に優れ、また耐汚染性、耐候性、耐薬品性、耐折曲性および耐衝撃性にも優れる。
【0066】
一方、式(2)を満たさず、モノマー(A)およびモノマー(B)の合計量が多過ぎる比較
製造例1では、耐擦傷性、耐薬品性、耐候性および耐汚染性に劣り、モノマー(A)およびモノマー(B)の合計モル量が少なすぎる比較
製造例2では、耐擦傷性および耐低温衝撃性に劣った。式(3)を満たさず、モノマー(C)の量が多過ぎる比較
製造例3では、耐擦傷性、耐折り曲げ性および耐衝撃性に劣り、モノマー(C)の量が少なすぎる比較
製造例4では、耐擦傷性および耐汚染性に劣った。モノマー(D)として、末端水酸基含有アルキル基の炭素数が本発明の範囲より少ないものを使用した比較
製造例5〜7では、耐擦傷性および耐低温衝撃性に劣り、多いものを使用した比較
製造例8では、耐汚染性に劣った。モノマー(B)の量が多過ぎる比較
製造例9では、耐汚染性に劣った。
【0067】
実施例20
塩化ビニル樹脂(信越化学工業株式会社製、重合度1100)100質量部、ポリエステル系可塑剤{花王株式会社製、HA−5(商品名)}20質量部およびカーボンブラック(三菱化学株式会社製、MCF#1000(商品名))5質量部の組成物をカレンダー成形機により製膜し、基材フィルム(厚み100μm)を得た。この基材フィルムの一方の面に、塗膜厚みが15μmであること以外は
製造例1と同様にして得られたフィルムを金属ロールにより貼り合せて積層フィルムを得た。次いで、この塗膜表面に、表面粗度Rzが30μmの梨地エンボスロールを100℃、5kgf/cm
2で押圧加工する事により、エンボス加工フィルム1を得た。
【0068】
実施例21
実施例20において塗膜厚みを25μmにした以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム2を得た。
【0069】
実施例22
実施例20において基材フィルムの厚みを250μmにした以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム3を得た。
【0070】
実施例23
実施例20において基材フィルムを、PET−G樹脂(イーストマンケミカル株式会社製、イースターG6763)100質量部およびカーボンブラック(三菱化学株式会社製、MCF#1000(商品名))5質量部の組成物を用いて押出ダイ成形機により製造した(厚み100μm)こと以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム4を得た。
【0071】
参考例1
実施例20においてエンボスロールの表面粗度Rzを10μmにした以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム5を得た。
【0072】
参考例2
実施例20において塗膜厚みを5μmにした以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム6を得た。
【0073】
参考例3
実施例20において塗膜厚みを40μmにした以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム7を得た。
【0074】
比較例10
塗膜のための塗料として、擦傷復元性を有しない、日本化工塗料株式会社製ALLEX26 K−37(商品名)100重量部とALLEX26硬化剤10重量部との塗料を使用した以外は実施例20と同様にして、エンボス加工フィルム8を得た。
【0075】
上記で得られたエンボス加工フィルム1〜8について、下記のエンボス加工性の試験および上記(1)および(14)の試験を行った。結果を表2に示す。
【0076】
エンボス加工性
得られたエンボス加工フィルムの塗膜表面を下記の評価基準にしたがって目視評価した。
○:エンボスが塗膜表面全体にわたって形成されており、塗膜の割れや穴開きもない。
×:エンボスがほとんどまたは全く形成されておらず、あるいは塗膜に割れや穴開きがある。
【0077】
【表2】