(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
通気管は、中途で2以上の流路に分岐しており、当該2以上の流路の少なくとも1つの流路には、通気制限手段が設けられており、所定空間内において要求される加湿量に応じて、通気制限手段の開閉状態が制御されることを特徴とする請求項3に記載の加湿装置。
給水管を流通する水は、貯留部に至るまでの中途において、貯留部内の湯水あるいは貯留部を加熱する加熱手段によって加熱されることを特徴とする請求項5に記載の加湿装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境試験装置では、蒸気式の加湿装置として、前記いずれの加湿方式を採用したとしても、低湿環境を形成する際に好適に使用できない場合が生じる可能性があるという不満を抱えていた。
この理由について、以下に具体的に説明する。
【0006】
一般的に、電力加湿方式の加湿装置(以下、電力加湿装置という)のように、加湿皿内に溜められた水を、単に電気ヒータで加熱して蒸発させる場合、その装置の加湿能力は、主に蒸発皿に形成される水面の面積(以下、開口面積という)に依存する。すなわち、高い加湿能力が求められる場合には、蒸発皿の開口面積を大きくすることが望ましい。逆に言えば、この種の電力加湿装置は、蒸発皿の開口面積を小さくしてしまうと、十分な加湿能力が得られず、所望の湿度環境を形成できなくなってしまうおそれがある。このため、比較的高い加湿能力が求められる環境試験装置においては、通常、蒸発皿の開口面積を大きくした電力加湿装置が採用されている。
【0007】
しかしながら、このように蒸発皿の開口面積を大きくした電力加湿装置は、高い加湿能力を発揮することはできるが、その能力の下限値が比較的高く、低湿環境の形成には不向きであった。すなわち、この電力加湿装置では、低湿環境の形成が要求される場合においても、蒸発皿の開口面積に応じた加湿能力が発揮されるため、実際に要求される加湿量を超えてしまう場合があった。そのため、電力加湿装置は、環境試験装置内を低湿環境にする場合、要求される湿度環境以上に高湿な湿度環境を形成する位、加湿してしまっていた。つまり、従来、低湿環境を形成する場合は、加湿制御しつつ、余剰分の湿度を除湿しなければならず、不合理な制御が行われる場合があった。その結果、この種の環境試験装置では、低湿環境の形成が要求された場合に、実際に消費される電気ヒータの電力量が、本来要する加湿量に応じた電力量よりも増大傾向となってしまったり、また除湿による無駄な消費電力が嵩んでしまい、ランニングコストの増大を招いたりする場合があった。
【0008】
一方、ボイラー加湿方式の加湿装置(以下、ボイラー加湿装置という)について検討してみると、ボイラー加湿装置は、前記した電力加湿装置よりも加湿量制御の精度を高めることはできるが、そもそも消費される電力が電力加湿装置よりも大きくなる傾向がある。そのため、ボイラー加湿装置においても、ランニングコストが嵩む可能性があるという問題は避けられない。
【0009】
そこで、そのような問題を解消するべく、例えば、電力加湿装置と、他の加湿方式の加湿装置を併用する方策が勘案される。すなわち、高湿環境の形成が要求される場合においては、電力加湿装置を使用し、低湿環境の形成が要求される場合においては、他の加湿方式の加湿装置を使用する。具体的には、他の加湿方式の加湿装置として、比較的消費電力が小さく、且つ、小さな加湿量でも制御できる超音波式の加湿装置を使用する。
【0010】
しかしながら、この超音波式の加湿装置は、貯留された水を超音波振動によって細かく破砕して加湿するものであるため、排出される水分は蒸気ではなく水滴である。すなわち、超音波式の加湿装置においては、気体ではなく液体が排出されるため、蒸気式の加湿装置に比べると、試料体への水分の付着可能性が高かった。つまり、この加湿装置を採用した場合、環境試験の精度を低下させてしまう懸念があった。
また、超音波式の加湿装置は、搭載された超音波素子の寿命が比較的短いため、保守期間が短く、メンテナンス等に要するコストの増大を招いてしまう懸念もあった。
【0011】
そこで、本発明では、従来技術の問題点に鑑み、消費電力を抑えつつも、要求加湿量に応じた適切な加湿を行うことが可能な加湿装置、並びに、環境試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するべく提供される請求項1に記載の発明は、水を貯留する貯留部と、貯留部内の水を加熱する加熱手段を有し、加熱手段によって貯留部内の水を気化させることで、
当該気化した水蒸気が所定空間内を加湿する加湿装置であって、貯留部は、所定以上の水位が維持されるものであり、加熱手段は、独立して制御可能な複数の加熱部を有し、当該各加熱部は、貯留部において高さ方向に異なる位置に配されるものであり、所定空間における要求加湿量に応じて、複数の加熱部の全て又は一部を起動する能力切換制御の実施が可能であり、前記要求加湿量が一定以下の場合、貯留部における水面に最も近接する加熱部が起動されることを特徴とする加湿装置である。
すなわち、本発明は、水を貯留する貯留部と、貯留部内の水を加熱する加熱手段を有し、加熱手段によって貯留部内の水を気化させることで、所定空間内を加湿する加湿装置であって、貯留部は、所定以上の水位が維持されるものであり、加熱手段は、独立して制御可能な複数の加熱部を有し、当該各加熱部は、貯留部において水の貯留方向に異なる位置に配されるものであり、所定空間における要求加湿量に応じて、複数の加熱部の全て又は一部を起動する能力切換制御の実施が可能であり、前記要求加湿量が一定以下の場合、貯留部における水面に最も近接する加熱部が起動されることに関連する。
【0013】
ところで、環境試験装置等は、試料体の耐久性等を試験するものであり、あらゆる環境(例えば高湿環境や低湿環境等)を形成する必要がある。つまり、この種の装置に具備されるべき加湿装置は、加湿能力の切り換え機能が備わったものである。
【0014】
そこで、本発明の加湿装置では、環境試験装置等においても好適に使用できるように、加熱手段を独立した複数の加熱部によって構成し、必要に応じて加湿能力の切り換えを可能にしている。すなわち、本発明では、加湿能力を切り換える際に、複数の加熱部の全部又は一部を起動する能力切換制御の実施を可能にしている。例えば、この能力切換制御は、所定空間の目標湿度を低湿度にしたい場合等においては、起動させる加熱部の数を、3つから1つに減らしたり、0から1にするといった制御である。これにより、加熱部の起動する数に依存した加湿能力の制御が可能となり、起動数が少なければ低い加湿能力での制御が可能となり、逆に起動数が多ければ高い加湿能力での制御が可能となる。つまり、本発明では、低湿環境の形成が要求されるような場合であっても、従来のように、実際の加湿量が、要求加湿量を過剰に超えることがなく、適切且つ効率的な加湿制御が可能となるため、消費電力が無駄に嵩んでしまうという問題が発生しない。
【0015】
また、請求項1に記載の発明では、各加熱部を、貯留部における高さ方向に沿って異なる位置に配して、さらなる効率的な加湿制御を可能にしている。例えば、各加熱部を、貯留部の水面近傍を加熱する位置や、貯留部の底面側を加熱する位置、又はその中間辺りを加熱する位置に配するといった具合である。つまり、各加熱部を水面に沿った配置ではなく、貯留部の深さ方向に沿った配置にしている。そして、本発明では、各加熱部の独立的な制御を可能としている。こうすることで、本発明では、貯留部の貯留断面積に依存した加湿制御ではなく、加熱手段の熱量に応じた加湿制御が可能となり、電力消費量を抑えた効率的な加湿制御が可能となる。
【0016】
これについてより詳細に説明する。
周知の通り、水は温度の上昇と共に比重が小さくなる。つまり、容器に溜められた水を容器の底面側から加熱すれば、熱源に近い昇温した水(湯)から順次水面に向かって上昇する。また同時に、その湯よりも温度が低い水は、その湯の移動や自身の比重等に起因して、底面側に移動する。すなわち、容器内の水に温度差が形成されると、その水は容器内で自然対流を形成する。そして、このような自然対流が形成されることで、主に熱源と水面との水が加熱されて昇温する。
【0017】
本発明では、前記したように、各加熱部が、貯留部における高さ方向に沿って異なる位置に配されており、独立的な制御を可能としている。すなわち、本発明では、各加熱部と水面との間で自然対流を形成させることが可能である。一方で、起動した加熱部よりも下方にある水は、殆ど自然対流を生じない。つまり、貯留部の水は、起動させた加熱部よりも上方の水は加熱されて昇温し、それ以外の水(起動させた加熱部よりも下方の水)は殆ど加熱されないため昇温しない。
【0018】
そこで、本発明では、この水の自然対流の作用を利用し、起動する加熱部を必要に応じて切り換え、加熱される水量自体を変化させている。すなわち、要求される加湿量が多い時は、加熱する水量を多くし、逆に要求される加湿量が少ない時は、加熱する水量を少なくする。そして、本発明では、所定空間において要求される加湿量が一定以下の場合において、貯留部における水面に最も近接する加熱部を起動する制御を実施する。すなわち、複数備えられた加熱部のうちの貯留方向(高さ方向)最上部に位置する加熱部のみを起動する。さらに言えば、加熱対象の水量が最も少ない加熱部だけを起動する。こうすることによって、低湿環境の形成が要求された場合に、実際に消費される加熱手段の電力量が、本来要する加湿量に応じた電力量よりも増大傾向となってしまうおそれがなく、ランニングコストが無駄に増大してしまうような事態が防止できる。
このように、本発明によれば、貯留部の深さ方向に沿って複数の加熱部を配し、それぞれを独立的に制御するようにしたため、消費電力を抑えつつ、要求加湿量に応じた適切な加湿制御の実施に成功している。
【0019】
請求項2に記載の発明は、複数の加熱部は、貯留部の外周に巻回されるものであり、貯留部には、高さ方向に隣接する加熱部同士の間の位置に熱伝導抑制部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加湿装置である。
【0020】
かかる構成によれば、貯留部に熱伝導抑制部材を設けたため、貯留部の外周に加熱部を巻回したとしても、一方の加熱部によって発生した熱エネルギーが、他方の加熱部の領域に伝熱することが防止される。つまり、本発明によれば、好適に、各加熱部による加湿制御を実施することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、貯留部と所定空間は、気体が流通する通気管によって連通していることを特徴とする請求項1又は2に記載の加湿装置である。
【0022】
かかる構成によれば、貯留部で生成された水蒸気が、通気管を介して、所定空間に供給されるため、所定空間に供給される水蒸気量の制御が可能となる。つまり、加湿制御の精度を高めることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、通気管は、中途で2以上の流路に分岐しており、当該2以上の流路の少なくとも1つの流路には、通気制限手段が設けられており、所定空間内において要求される加湿量に応じて、通気制限手段の開閉状態が制御されることを特徴とする請求項3に記載の加湿装置である。
【0024】
かかる構成によれば、通気管を通過する水蒸気量を通気制限手段の開閉状態で制御することができるため、より効果的に加湿制御の質を高めることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、貯留部には、水位検知手段が設けられると共に、給水管が接続されており、貯留部の水位が一定以下となったことを条件に、貯留部への給水が行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の加湿装置である。
【0026】
かかる構成によれば、貯留部内の水を常に一定水位以上保つことができるため、加湿制御が不能となる恐れはない。
【0027】
請求項6に記載の発明は、給水管を流通する水は、貯留部に至るまでの中途において、貯留部内の湯水あるいは貯留部を加熱する加熱手段によって加熱されることを特徴とする請求項5に記載の加湿装置である。
【0028】
かかる構成によれば、貯留部には、給水管の中途で加熱されて昇温した水が導入されるため、貯留部に供給される水によって貯留部内の水温が過度に低下し、加湿制御の効率を落としてしまう事態を防止することができる。また、本発明では、給水管を通過する水を、既に昇温した貯留部内の湯水と熱交換させて加熱するか、貯留部内の水を加熱する加熱手段を利用して加熱するため、新たに機器等を用意する必要がなく合理的である。
【0029】
請求項7に記載の発明は、少なくとも所望の温度環境が形成される試験室を備えた環境試験装置であって、請求項1〜6のいずれかに記載の加湿装置を有し、試験室は、前記所定空間であり、加湿装置において生成された水蒸気によって、湿度制御が可能であることを特徴とする環境試験装置である。
【0030】
本発明の環境試験装置は、加湿装置を有し、当該加湿装置が、貯留部の深さ方向に沿って複数の加熱部を配し、それぞれを独立的に制御するようにし
た構成であるため、試験室内を低湿環境にする場合においても、適切な加湿量に制御することができる。また同時に、実際に消費される加熱手段の電力量が、本来要する加湿量に応じた電力量よりも増大傾向となってしまうことがない。すなわち、本発明によれば、消費電力を抑えつつも、要求加湿量に応じた適切な加湿制御を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の加湿装置、並びに、環境試験装置は、特に低湿環境を形成する場合において、消費電力を抑えつつも、要求加湿量に応じた適切な加湿制御を行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施形態に係る加湿装置10について説明する。
本実施形態の加湿装置10は、蒸気式の加湿器であり、主たる構成部品として、所定量の水を貯留可能な貯留部15と、電気式の加熱手段16と、貯留部15内で生成された水蒸気を所定空間内に導く通気管17を有する。すなわち、加湿装置10は、貯留部15内の水を加熱手段16によって加熱して気化させ、通気管17を介して、所定空間内に水蒸気を送り込んで加湿するものである。
【0034】
貯留部15は、密閉状の空間を形成できる容器であり、その外観が縦長形状のものが採用されている。また、この貯留部15の断面形状は、水の貯留方向(高さ方向)に沿って一様であり、またその断面積は環境試験装置等に用いられている蒸発皿の常識的な開口面積よりも小さく設定されている。すなわち、貯留部15の断面積に依存した加湿能力は、環境試験装置の蒸発皿の加湿能力よりも小さい。
【0035】
また、貯留部15には、一定水位を維持するべく、水位検知手段31が設けられると共に、図示しない給水源と接続された給水管34が接続されており、さらに貯留部15内の水を外部に排水するべく、排水管38及びオーバーフロー管39が接続されている。
【0036】
水位検知手段31は、フロート式の水位計であり、公知のそれと同様である。そして、本実施形態では、この水位検知手段31を、貯留部15の外部に設置している。すなわち、貯留部15内の水位と同一の水位を呈する液位検知用容器40を設け、当該液位検知用容器40内に水位検知手段31を配している。
なお、液位検知用容器40は、貯留部15の底部側に接続された配管41を介して連通している。
【0037】
給水管34は、その一端が貯留部15の底部側に接続されており、その接続部よりも上流側の流路の一部を、貯留部15の外周に巻き付けた巻回部45を備えている。この巻回部45は、貯留部15の外周に所定範囲に渡って(本実施形態では、貯留部15の外周に概ね1回巻き)巻き付けられた部分であり、熱交換器として機能する。すなわち、巻回部45を通過する水は、貯留部15内に溜められた湯水との間で熱交換する。また、給水管34の流路の中途であって、巻回部45よりも上流側には、水の流通を制限する給水弁46が設けられている。そして、本実施形態では、この給水弁46として、公知の電磁弁が採用されている。
【0038】
排水管38は、その一端が貯留部15の底部に接続されており、貯留部15内の水を排水する際に使用される。すなわち、排水管38には、その流路の中途に排水を制限する排水弁47が設けられており、必要に応じて、その排水弁47が開閉制御される。そして、本実施形態では、排水弁47として、公知の電磁弁が採用されている。
【0039】
オーバーフロー管39は、その一端が貯留部15の上部であって、貯留部15の水位を基準として、一定水位を超えたあたりの位置に接続されている。すなわち、オーバーフロー管39は、貯留部15内の水が一定水位を超え、余剰水が発生した場合に排水する管である。また、このオーバーフロー管39には、開閉弁48が設けられており、この開閉弁48は、所定の条件に基づいて、開閉制御される。そして、本実施形態では、開閉弁48として、公知の電磁弁が採用されている。
【0040】
加熱手段16は、複数(本実施形態では2つ)の加熱ヒータ21、22によって構成されている。この2つの加熱ヒータ21、22は、いずれも公知の抵抗加熱式のヒータであり、具体的には電線をシリコンゴム等の絶縁体により被覆したものや、シーズヒータ、あるいは、セラミックヒータ等である。そして、本実施形態では、一方の加熱ヒータ(以下、第一ヒータともいう)21が、他方の加熱ヒータ(以下、第二ヒータともいう)22よりも、最大出力の小さいものが選定されている。
【0041】
また、加熱ヒータ21、22は、貯留部15内であって、貯留される水に浸るようにして配されている。すなわち、本実施形態では、2つの加熱ヒータ21、22を、貯留部15の高さ方向に異なる位置に配している。より詳細には、第一ヒータ21を、貯留部15の上部側(水面側)に配し、第二ヒータ22を、貯留部15の高さ方向中間から下部側にかけたあたり(貯留方向中間あたりから底側にかけたあたり)に配している。
【0042】
また、本実施形態では、各加熱ヒータ21、22が、独立して通電を行える回路構成となっており、それぞれの加熱ヒータ21、22を、別々に発熱させたり、同時に発熱させることを可能にしている。
【0043】
通気管17は、貯留部15と所定空間とを繋ぐ管であり、所定空間との接続側に蒸気を吐き出す加湿ノズル35が取り付けられている。より詳細には、通気管17は、その流路の中途が複数(本実施形態では2つ)に分岐して分岐路42、43を形成しており、その分岐路42、43の端部のそれぞれに加湿ノズル(一方を第一ノズル、他方を第二ノズルという)35a、35bが装着されている。そして、通気管17は、一方の端部を貯留部15の上部(水の貯留領域よりも上部側)に接続しつつ、他方の端部、つまり分岐路42、43の端部を所定空間に接続可能な構成となっている。
【0044】
また、本実施形態においては、各分岐路42、43の中途に蒸気の流通を規制する規制手段36、37が設けられている。すなわち、加湿ノズル35から吐出される蒸気は、この2つの規制手段36、37によって制限される。そして、本実施形態では、この2つの規制手段36、37として、公知のそれと同様のモータを駆動源とした電動弁が採用されている。
【0045】
続いて、本実施形態の加湿装置10の機能について説明する。
本実施形態の加湿装置10は、前記したように、縦長の貯留部15を備え、その貯留部15の貯留方向に2つの加熱ヒータ21、22が設けられ、各加熱ヒータ21、22を個々に起動可能な構成である。つまり、加湿装置10は、貯留部15内の水に与える総熱量を、2つの加熱ヒータ21、22の起動状態によって変化させ、それに伴い加湿能力の大小を切り換える能力切換機能を有する。
【0046】
例えば、常温(例えば摂氏15〜20度)の所定空間内の雰囲気を、高湿にする場合においては、加湿装置10の加湿能力を最大に制御する。すなわち、本実施形態では、第一ヒータ21と第二ヒータ22の双方を起動し、貯留部15内の水を加熱する。また同時に、本実施形態では、通気管17の分岐路42、43に設けられた2つの規制手段36、37のうちの一方を開成制御する。具体的には、当該加湿装置10が、後述する環境試験装置1に用いられた場合は、蒸発器11よりも気体の流れ方向下流側と連通した分岐路42の規制手段36を開成する。
【0047】
これにより、貯留部15に貯留された水は、ほぼ全てが昇温し、当該全ての水が水蒸気に変化し得る状態となる。そして、貯留部15内では、水面側の昇温した水(湯)から順次、気体、つまり水蒸気に相変化する。そして、貯留部15内で水蒸気が生成され始めると、その水蒸気によって貯留部15内が膨張し、内部の気圧が上昇する。
【0048】
一方、所定空間内は、前記常温雰囲気が維持されているとすれば、その空間の気圧は概ね1気圧である。すなわち、前記状態の貯留部15と、所定空間との間には、幾分かの気圧差が形成される。気圧差が形成されれば、気体の流れが生じるため、貯留部15と所定空間とを繋ぐ通気管17内にも気体の流れが生じる。より具体的には、貯留部15内の気圧が、所定空間内の気圧よりも高圧状態となるため、貯留部15側の気体、つまり水蒸気が所定空間側に流れる。そして、通気管17に導入された水蒸気は、分岐路42の端部に装着された第一ノズル35aから所定空間内に吐出され、所定空間内を加湿する。
【0049】
このように、所定空間内の雰囲気を高湿にする場合においては、2つの加熱ヒータ21、22を起動すると共に、一方の分岐路42の規制手段36を開成して、最大の加湿能力で加湿制御が行われる。
【0050】
一方、常温の所定空間内の雰囲気を低湿にする場合においては、加湿装置10の加湿能力を最小に制御する。すなわち、本実施形態では、貯留部15の水面近傍に配された第一ヒータ21のみを起動し、貯留部15内の一部の水を加熱する。また同時に、本実施形態では、通気管17の分岐路に設けられた2つの規制手段36、37のうちの他方を開成制御する。具体的には、当該加湿装置10が、後述する環境試験装置1に用いられた場合は、蒸発器11よりも気体の流れ方向上流側と連通した分岐路43の規制手段37を開成する。
【0051】
これにより、貯留部15に貯留された水は、水面側の一部の部分だけが昇温し、当該一部の水が水蒸気に変化し得る状態となる。そして、貯留部15内では、水面側の昇温した水(湯)から順次、気体、つまり水蒸気に相変化する。そして、貯留部15内で水蒸気が生成され始めると、前記したように、その水蒸気によって貯留部15内が膨張し、内部の気圧が上昇する。なお、このときの貯留部15内の気圧は、2つの加熱ヒータ21、22を起動する場合に比べて幾分小さくなる。
【0052】
こうして、貯留部15内の気圧が、所定空間内の気圧よりも高圧状態となるため、貯留部15側で生成された水蒸気が所定空間側に流れる。そして、通気管17に導入された水蒸気は、分岐路43の端部に装着された第二ノズル35bから所定空間内に吐出され、所定空間内を加湿する。
【0053】
このように、所定空間内の雰囲気を低湿にする場合においては、水面近傍の1つの加熱ヒータ21のみを起動すると共に、2つの分岐路42、43のうちの一方を開成して、最小の加湿能力にして加湿制御が行われる。
【0054】
また、本実施形態の加湿装置10は、前記いずれの加湿制御が行われる場合においても、貯留部15内の水位を一定に維持するべく、貯留部15内へ給水する給水制御が実施される。この給水制御は、水位検知手段31によって貯留部15内の水位が一定未満となったことが検知されると実施されるものであり、具体的動作としては、給水弁46の開成制御である。すなわち、貯留部15の水が一定水位を下回れば、給水弁46を開成し給水管34を介して貯留部15内に水を供給する。また、前記したように、給水管34には、その流路の中途に巻回部45が設けられており、貯留部15に導入される水は、巻回部45において貯留部15内の水と熱交換するため、貯留部15内に導入される水は幾分昇温している。つまり、給水機能によって貯留部15内に水が供給されたとしても、給水される水は巻回部45において昇温するため、貯留部15内の水温を過度に下げてしまうおそれはない。
【0055】
なお、この給水制御によって、貯留部15内は一定水位に維持されるが、何らかが原因となって、給水量が一定水位を超えて過剰になる場合がある。その際には、オーバーフロー管39を介して、余剰分の水を排水する。すなわち、オーバーフロー管39に設けられた開閉弁48は、水位検知手段31が異常水位を検出したことを条件に開成される。
【0056】
次に、本実施形態の加湿装置10を好適に用いることができる環境試験装置1について説明する。
本実施形態の環境試験装置1は、所謂恒温恒湿装置であり、主な基本構成は公知のそれと同様である。すなわち、環境試験装置1は、
図1に示すように、恒温恒湿槽5を有する。恒温恒湿槽5は、気密性が維持できる圧力チャンバーであり、内部を真空ポンプ56によって低圧あるいは高圧に制御する機能を有し、当該内部が仕切壁8によって試験室(所定空間)6と空調用通路(気体調整空間)7とに区分されている。そして、その仕切壁8の上下のそれぞれには、試験室6と空調用通路7とを連通する開口9、19が設けられている。
【0057】
試験室(所定空間)6は、環境試験を行う際に、機器や部品等の試料体を配置し、所望の試験環境が形成される空間で、当該空間の温度を検知する室内温度検知手段24と、当該空間の相対湿度を検知する室内湿度検知装置25が設けられている。
なお、本実施形態では、室内温度検知手段24及び室内湿度検知装置25が、空調用通路7の上部側(気体の流れ方向下流側)に配されている。
【0058】
空調用通路(気体調整空間)7は、所望の温度や湿度の気体を生成する部分であり、加湿装置10、蒸発器11、加熱ヒータ12、送風機13が配されており、基本的には気体の流れ方向上流側から下流に向けて(環境試験装置1の下から上に向けて)前記した順番で並べられている。より具体的には、加湿装置10は、前記したように、2つの加湿ノズル35a、35bを有しており、この2つの加湿ノズル35a、35bを、蒸発器11を間に置いて、空気の流れ方向上流側と下流側にそれぞれ配した配列である。つまり、空調用通路7では、上流側から、第二ノズル35b、蒸発器11、第一ノズル35a、加熱ヒータ12、送風機13の順番で並べられている。
【0059】
加湿装置10は、前記詳述したものであり、水を加熱して水蒸気を生成する蒸気式の加湿器である。
蒸発器(冷却器)11は、公知の冷却装置の一部であり、冷凍サイクルの一部を担うべく機能するものである。すなわち、蒸発器11は、内部に相変化する冷媒が流通し、冷却能力等を変化させて、空調用通路7を通過する気体を冷却するものである。
加熱ヒータ12は、従来公知の電気ヒータであり、空調用通路7を通過する空気を加熱するものである。
送風機13は、従来公知のファンであり、恒温恒湿槽5内に空気の循環流を形成するものである。
【0060】
続いて、環境試験装置1の機能について説明する。
本実施形態の環境試験装置1は、試験室6内の環境を形成する試験動作を実施する。すなわち、試験動作では、試験室6内に所望の環境を形成するべく、真空ポンプ56で恒温恒湿槽5内を低圧状態にしつつ、送風機13を駆動し、恒温恒湿槽5内に空気の循環流を形成する。これにより、恒温恒湿槽5内の空気は、送風機13によって仕切壁8の下部側の開口19から空調用通路7側に吸入され、空調用通路7を鉛直上方に向けて通過して、仕切壁8の上部側の開口9から試験室6側に吐出される。
【0061】
また、空調用通路7には、前記したように、空気の流れ方向に沿って順番に加湿装置10の第二ノズル35b、蒸発器11、加湿装置10の第一ノズル35a、加熱ヒータ12が配置されているため、恒温恒湿槽5内を循環する空気は、空調用通路7に導入されて、加湿装置10で必要に応じて加湿され、蒸発器11を通過してから、加熱ヒータ12側に流れて、所望の温度や湿度に調整される。
【0062】
例えば、試験室6内を高温高湿環境にするならば、所定のタイミングで一方の規制手段36を開成して加湿装置10を最大の加湿能力に制御し、加熱ヒータ12を高出力に制御する。一方、試験室6内を低温低湿環境にするならば、所定のタイミングで他方の規制手段37を開成して加湿装置10を最小の加湿能力に制御し、蒸発器11を駆動する。
なお、本実施形態では、試験動作において、恒温恒湿槽5内が低圧に制御されるため、恒温恒湿槽5と貯留部5との間の気圧のバランスの観点から、規制手段36、37は常時閉止した状態が維持され、必要時にのみ開成状態に切り換えられる。
【0063】
そして、そのようにして生成された所望の状態の空気によって、試験室6内が、所望の温度や湿度の雰囲気となるように調節される。
【0064】
以上のように、本実施形態では、低湿環境の形成が要求された場合に、貯留部15に設けられた水面近傍の第一ヒータ21のみを起動するため、要求加湿量に応じた適切な加湿制御が行え、従来に比べると、電力消費が小さく、ランニングコストを抑えることができる。
【0065】
上記実施形態では、貯留部15内に加熱手段16を配した構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、
図2に示すように、貯留部50の外周に巻き付けるように加熱手段51を設けた構成であっても構わない。ただし、この構成を採用する場合は、
図2に示すように、貯留部50を伝熱性が高い金属製にすると共に、ジャケット型の加熱手段51を構成する2つの加熱ヒータ52、53との間で熱伝導が行われないように、伝熱性が低い伝熱抑制部材55を介在させることが望ましい。例えば、伝熱性が高い金属としては、アルミニウムや銅等を含んだ合金が挙げられ、逆に伝熱性が低い部材としては、耐熱性が高い樹脂等が挙げられる。
なお、この構成を採用した場合、抵抗加熱式のヒータに替えてあるいは加えて、誘導加熱式のヒータ(所謂IH(induction heating))を用いることも可能である。
【0066】
上記実施形態では、水蒸気を所定空間に導く通気管17の中途を2つに分岐させた構成を示したが、本発明はこれに限定されず、通気管を3つ以上に分岐させた構成であったり、通気管の流路の中途を分岐させない構成であっても構わない。
【0067】
また、上記実施形態では、加湿条件(高湿に制御あるいは低湿に制御)に応じて、使用する加湿ノズル35a、35bを切り換える制御を実施する構成を示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、他の条件に応じて加湿ノズル35a、35bを切り換えても構わない。また、加湿条件(前記条件に加えて、試験用途等も含む)に関わらず、常時2つの加湿ノズル35a、35bを開放(2つの規制手段36、37を開成)する制御であったり、また加湿条件等の条件に応じて、開放する加湿ノズル35a、35bの数を変更(開成する規制手段36、37の数を変更)する制御を実施する構成であっても構わない。また、本発明は、必要な場合にのみ、加湿ノズル35a、35bを開放するものに限定されるわけではなく、当該必要なタイミングに加えて、それ以外のタイミングにおいても加湿ノズル35a、35bを開放するものであっても構わない。
【0068】
上記実施形態では、給水管34の中途に巻回部45を設け、貯留部15内の水と熱交換させる構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、
図2に示した前記した貯留部50の外周に巻回したジャケット型の加熱手段51に、給水管34の中途を当接して加熱できる構成であっても構わない。また、巻回部45を設けない構成であっても構わない。
【0069】
上記実施形態では、水位検知手段31としてフロート型のものを採用した構成を示したが、本発明はこれに限定されず、圧力式のセンサー等を採用した構成であっても構わない。
【0070】
上記実施形態では、2つの加湿ノズル35a、35bのノズル開口が同一のサイズのものを示したが、本発明はこれに限定されず、ノズル開口のサイズが異なるものを採用した構成であっても構わない。
【0071】
上記実施形態では、給水管34を、貯留部15の底部側の側面に接続した構成を示したが、本発明はこれに限定されず、給水管34を貯留部15の底部に接続した構成であっても構わない。このようにすることで、給水時において、貯留部15内が攪拌されることが抑制されるため、より好適に貯留部15内の水温低下を防止することができる。
【0072】
上記実施形態では、環境試験の実施の最中、加湿装置10を起動した状態が維持される構成を示したが、本発明はこれに限定されず、要求される加湿量に応じて、2つの加熱ヒータ21、22を個々にオン・オフ制御したり、また個々に比例制御する構成あっても構わない。
【0073】
上記実施形態では、加湿装置10の貯留部15を、恒温恒湿槽5外に設け、加湿ノズル35a、35bを介して試験室(所定空間)6を加湿する構成を示したが、本発明はこれに限定されず、貯留部15を恒温恒湿槽5内に配置して、試験室6を加湿する構成であっても構わない。この場合、加湿ノズル35a、35bを設けず、貯留部15から直接、恒温恒湿槽5内に水蒸気を供給して加湿するようにしても構わない。
【0074】
上記実施形態では、環境試験装置1が、恒温恒湿槽5内を低圧にしつつ、試験動作を実施する機能を備えた構成を示したが、本発明はこれに限定されず、恒温恒湿槽5内を高圧にしつつ、試験動作を実施する機能を備えたものであっても構わない。
また、環境試験装置は、真空ポンプ56を備えず、圧力制御を行わない恒温恒湿槽によって構成されたものであっても構わない。
【0075】
上記実施形態では、環境試験装置1が蒸発器11を備えた構成を示したが、本発明はこれに限定されず、蒸発器11に替えて、あるいは、それに加えて、冷却されたブラインが流通する熱交換器を備えた構成であっても構わない。
【0076】
上記実施形態では、高さ方向に直交する平面断面積が、その高さ方向全体に渡ってほぼ一様な構成を有した貯留部15を採用したが、本発明はこれに限定されず、高さ方向全体に渡って一様な平面断面積を有さない貯留部を採用しても構わない。例えば、そのような貯留部としては、高さ方向の一部だけが平面断面積が一様なものや、高さ方向全体に渡って一様でないものが挙げられる。