(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被処理物を取り囲むように配設されたガス不透過性のケーシングと、このケーシングの内側に設けられて前記被処理物の周囲にホットゾーンを形成する加熱手段と、前記加熱手段及びケーシングを収納する高圧容器と、を備えており、前記ホットゾーン内の圧媒ガスを用いて前記被処理物に対して等方圧加圧処理を行う熱間等方圧加圧装置であって、
前記ケーシングの外側を上方から下方に向かって導かれて冷却された圧媒ガスを、前記ホットゾーン内に導いてこのホットゾーンを冷却する冷却手段が設けられており、
前記冷却手段には、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを、前記高圧容器の下部から前記ホットゾーンの上部まで前記ホットゾーン内の圧媒ガスと交わることなく導いて前記ホットゾーン内に導入するガス導入手段が備えられていて、
前記高圧容器には、当該高圧容器の下側開口を閉鎖する底体が設けられており、
前記冷却手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを前記底体と熱交換させることにより圧媒ガスを冷却する冷却促進手段を備えていることを特徴とする熱間等方圧加圧装置。
前記冷却促進手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを前記底体の内部を巡回するように導く底体冷却流路を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間等方圧加圧装置。
前記冷却促進手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを1次側に導いて、2次側に存在する底体との間で熱交換を行う熱交換器を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間等方圧加圧装置。
前記底体には、外部から冷媒を流通させることで前記底体を強制冷却する底体冷却手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱間等方圧加圧装置。
【背景技術】
【0002】
HIP法(熱間等方圧加圧装置を用いたプレス方法)は、数10〜数100MPaの高圧に設定された雰囲気の圧媒ガスのもと、焼結製品(セラミックス等)や鋳造製品等の被処理物をその再結晶温度以上の高温にして処理するものであり、被処理物中の残留気孔を消滅させることができるという特徴がある。そのため、このHIP法は、機械的特性の向上、特性のバラツキの低減、歩留まり向上などの効果が確認されており、今日、広く工業的に使用されるに至っている。
【0003】
ところで、実際の製造現場では処理の迅速化が強く望まれており、そのためにはHIP処理の工程の中でも時間がかかる冷却工程を短時間で行うことが必要不可欠とされている。そこで、従来の熱間等方圧加圧装置(以下、HIP装置という)では、炉内を均熱に保持したまま冷却速度を向上させるさまざまな方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、被処理物を収容する高圧容器の内側に、この被処理物を取り囲むように配設されたガス不透過性の内ケーシングと、内ケーシングを外側から取り囲むように配設されたガス不透過性の外ケーシングと、内ケーシングの内側に設けられて被処理物の周囲にホットゾーンを形成する加熱手段と、を備えたHIP装置が開示されている。このHIP装置では、内ケーシングの内部がホットゾーンとされており、これら内外ケーシングにより断熱的に保持されたホットゾーン内に貯留された圧媒ガスを用いて被処理物に対して等方圧加圧処理を行うことが可能となっている。
【0004】
このHIP装置には、高圧容器の内部で圧媒ガスを循環させてホットゾーン内(被処理物)を冷却させる冷却手段として、第1冷却手段と第2冷却手段とが設けられている。
すなわち、第1冷却手段は第1循環流に沿って圧媒ガスを循環させることにより冷却を行うものであり、この第1循環流は内ケーシングと外ケーシングとの間を下方から上方に向かって導かれた圧媒ガスを外ケーシングの上部から外ケーシングの外側に案内し、案内された圧媒ガスを高圧容器の内周面に沿って上方から下方に案内しつつ冷却し、冷却された圧媒ガスを外ケーシングの下部から内ケーシングと外ケーシングとの間に戻すものである。
【0005】
第2冷却手段は第2循環流に沿って圧媒ガスを循環させることにより冷却を行うものであり、この第2循環流はホットゾーン内の圧媒ガスをホットゾーンの外側に導き、外側に導かれた圧媒ガスを上述した第1冷却手段により強制循環する圧媒ガスに合流させて冷却を行い、冷却された圧媒ガスの一部をホットゾーン内に戻すように圧媒ガスを循環するものである。
【0006】
上述した特許文献1の熱間等方圧加圧装置では、第1循環流を流れる圧媒ガスの一部をファン及びイジェクターを用いてホットゾーンの下方から第2循環流に合流させ、合流した圧媒ガスがホットゾーン内を循環しつつ冷却するため、冷却過程で生じる炉上部と下部の温度差を解消して炉内を効率的に冷却することができる。
また、特許文献2には、高圧容器内の圧媒ガスを容器外に取り出し、容器外で冷却してから容器内に戻すことで、冷却工程を短時間で行う熱間等方圧加圧装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2のHIP装置では、ホットゾーン内の高温ガスを断熱層外上部に導き、容器と断熱層間の隙間を下降する間に容器内面との熱交換により高温ガスを降温
させ、この結果低温となったガスをホットゾーン内に循環させて急速冷却を可能としている。特に、特許文献1のHIP装置では、第1循環流を流れる圧媒ガスは十分に冷却されており、圧力容器等の健全性を保つことができる程度に低温になっているといえる。しかし、高圧容器の下部には、循環ガス促進用の回転制御機能付きのファン、モータやガス流制御のためのバルブ及びその駆動機、あるいは電気ヒータ及び測温用熱電対の接点等があり、これら部材の耐熱性の観点からは十分に低い温度とは言えず、従来技術による場合は、これらの電機部品を焼損させてしまう可能性がある。
【0009】
この問題は、第1循環流を流れる低温の圧媒ガスと、第2循環流を流れる高温の圧媒ガスとを先に合流させ、合流後の圧媒ガスを高圧容器の内周面に沿って降下させる方式を採用する特許文献1の装置で、より深刻な問題となりやすい。
例えば、第2循環流を設けず、高圧容器の内周面に沿って降下させて低温となった第1循環流をホットゾーン内に導き、高温となった後、再び高圧容器内周面に導く、従来から行われている急冷方法では、その循環流量そのものが小さく、高圧容器内周面に沿って降下した後の温度は低く、電機部品の焼損が起きない温度にまで既に冷却されている。しかし、先に第1循環流を流れる圧媒ガスと第2循環流を流れる圧媒ガスとを混合した上で、混合後の圧媒ガスを高圧容器の内周面に沿って流下させて冷却する場合には、循環ガス流量が大きいので圧媒ガスの温度が十分に低下しない可能性があり、高圧容器の下部に高温の圧媒ガスが流れ込んで電機部品が焼損してしまう可能性が高くなる。
【0010】
このような先に圧媒ガス同士を混合した上で冷却を行う冷却方式は、特許文献1のHIP装置のように、第1循環流を流れる圧媒ガスの循環量を大きくして、冷却スピードを稼ぎたい場合に採用されることが多い。それゆえ、特許文献1のHIP装置では、運転条件によっては電機部品が焼損してしまう可能性が大きくなるという問題があった。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、高圧容器の下部に設けられた電機部品を焼損させることなく、HIP処理後に処理室(ホットゾーン)内を効率良く冷却できるHIP装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の熱間等方圧加圧装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の熱間等方圧加圧装置は、被処理物を取り囲むように配設されたガス不透過性のケーシングと、このケーシングの内側に設けられて前記被処理物の周囲にホットゾーンを形成する加熱手段と、前記加熱手段及びケーシングを収納する高圧容器と、を備えており、前記ホットゾーン内の圧媒ガスを用いて前記被処理物に対して等方圧加圧処理を行う熱間等方圧加圧装置であって、前記ケーシングの外側を上方から下方に向かって導かれて冷却された圧媒ガスを、前記ホットゾーン内に導いてこのホットゾーンを冷却する冷却手段が設けられており、前記冷却手段には、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを、前記高圧容器の下部から前記ホットゾーンの上部まで前記ホットゾーン内の圧媒ガスと交わることなく導いて前記ホットゾーン内に導入するガス導入手段が備えられていて、前記高圧容器には、当該高圧容器の下側開口を閉鎖する底体が設けられており、前記冷却手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを前記底体と熱交換させることにより圧媒ガスを冷却する冷却促進手段を備えていることを特徴とする。
【0012】
なお、好ましくは、前記ケーシングには、当該ケーシングの下側開口を閉鎖するケーシング底体が設けられており、前記底体とケーシング底体との間には、前記ガス導入手段に導入する圧媒ガスを貯留するガス貯留部が、前記ケーシングの外側から隔離された状態で設けられており、前記冷却促進手段は、前記底体との間で熱交換させられた圧媒ガスを前記ガス貯留部に送る構成とされているとよい。
【0013】
なお、好ましくは、前記冷却促進手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを前記底体の内部を巡回するように導く底体冷却流路を備えているとよい。
なお、好ましくは、前記冷却促進手段は、前記ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを1次側に導いて、2次側に存在する底体との間で熱交換を行う熱交換器を備えているとよい。
【0014】
なお、好ましくは、前記底体には、外部から冷媒を流通させることで前記底体を強制冷却する底体冷却手段が設けられているとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のHIP装置によれば、高圧容器の下部に設けられた電機部品を焼損させることなく、HIP処理後に処理室(ホットゾーン)内を効率良く冷却できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る熱間等方圧加圧装置の第1実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、第1実施形態の熱間等方圧加圧装置1(以下、HIP装置1と呼ぶ)を示している。このHIP装置1は、被処理物Wを収容する高圧容器2を有しており、この高圧容器2の内側には被処理物Wを取り囲むように配設されたガス不透過性の内ケーシング3と、この内ケーシング3を外側から取り囲むように配設されたガス不透過性の外ケーシング4と、が備えられている。内ケーシング3と外ケーシング4との間には図示を省略する断熱層5が設けられており、この断熱層5により内ケーシング3の内部は外部から断熱的に隔離されている。この第1実施形態の場合、この内ケーシング3と外ケーシング4とにより、ガス不透過性のケーシングが構成されている。
【0018】
また、HIP装置1は、内ケーシング3の内側に被処理物Wを支持する製品台6と圧媒ガスを加熱する加熱手段7とを備えていて、製品台6の上側には被処理物Wが載置されている。そして、加熱手段7と被処理物Wとの間には、両者を仕切る整流筒8が設けられている。HIP装置1は、整流筒8の外側に設けられた加熱手段7で加熱された圧媒ガスを整流筒8の下側から整流筒8の内部に供給し、この整流筒8の内部に導入された高温の圧媒ガスで被処理物Wの周囲に被処理物Wを取り囲むように圧媒ガスの雰囲気(以降、ホットゾーンという)を形成し、このホットゾーン内で被処理物Wに熱間等方圧加圧処理(以下、HIP処理という)を行えるようになっている。
【0019】
以降では、HIP装置1を構成する各部材を詳しく説明する。
図1に示すように、高圧容器2は、上下方向に沿った軸心回りに円筒状に形成された容器本体9を備えている。この容器本体9は、上方と下方との双方に向かって開口していて、上側(
図1の紙面における上側)の開口は蓋体10により塞がれており、容器本体9の下側(
図1の紙面における下側)の開口は底体11により塞がれている。
【0020】
上述した容器本体9の上側開口と蓋体10との間、及び容器本体9の下側開口と底体11との間には、それぞれシール46が設けられている。これらのシール46により、高圧容器2の内部は、外部から気密的に隔離されている。
高圧容器2の周囲には、図示を省略する供給配管や排出配管が連結されている。これらの供給配管及び排出配管は、高温高圧の圧媒ガス(HIP処理が可能なように10〜300MPa程度に昇圧されたアルゴンガスや窒素ガス)を容器に供給したり容器から排出したりするものである。
【0021】
外ケーシング4は、高圧容器2の内側に配備された有蓋円筒状の部材である。この外ケーシング4は、HIP処理の温度条件に合わせてステンレス、ニッケル合金、モリブデン合金またはグラファイトなどのガス不透過性の耐熱材料を用いて形成されている。外ケーシング4は、上述した高圧容器2よりも径が小さな円筒状であり、高圧容器2の内周面から径内側に距離をあけて配備されていて、外ケーシング4の外周面と高圧容器2の内周面との間には隙間が形成されている。この外ケーシング4と高圧容器2との間に形成される隙間は、圧媒ガスを上下方向に沿って流通可能な外側流路12とされている。
【0022】
具体的には、外ケーシング4は、下方に向かって開口した逆コップ状の外ケーシング本体13と、この外ケーシング本体13の下側開口を塞ぐ外ケーシング底体14とを備えている。外ケーシング本体13の上部には上開口部15が形成されており、外ケーシング4
の内側の圧媒ガスを下方から上方に導いて外ケーシング4の外側に案内できるようになっている。この上開口部15には、内側から外側の外側流路12に流れ出る圧媒ガスの流通を遮断する第1弁手段17が設けられている。
【0023】
また、外ケーシング底体14の中央側には、上開口部15と同様に、外側流路12を経由して外ケーシング底体14の下側に流れ込んだ圧媒ガスをホットゾーン内に導く下開口部16が形成されている。この下開口部16を通じて導入された圧媒ガスのうち、一部の圧媒ガスは後述する第2流通孔24を通じて内側流路22に流れ、残りの圧媒ガスは導管28を通じてホットゾーン内に導かれる。また、下開口部16には、この下開口部16を通じて導入される圧媒ガスの循環を促進する強制循環手段25が後述するように設けられている。
【0024】
外ケーシング底体14には、外ケーシング4の外側(外ケーシング底体14の下側)にある圧媒ガスの一部を外ケーシング4の内側に流通させる第2流通孔24が形成されている。この第2流通孔24は、外ケーシング底体14の内部を貫通して外ケーシング底体14の上側と下側とを結ぶように形成されており、外ケーシング底体14の下面に設けられた入口から取り込んだ圧媒ガスを、外ケーシング底体14の上面に設けられた出口から内側流路22に帰還できるようになっている。
【0025】
第1弁手段17は、外ケーシング4の上開口部15を塞ぐ栓部材18と、この栓部材18を上下方向に移動させる移動手段19とを備えている。第1弁手段17は、高圧容器2の外側に設けられた移動手段19を用いて栓部材18を上下いずれかの方向に移動させることで、上開口部15を開閉できるようになっており、上開口部15を経由する圧媒ガスの流通と遮断とを任意に切り換えることができるようになっている。
【0026】
内ケーシング3は、外ケーシング4の内側に配備された筺体であって、外ケーシング4と同様に上下方向に沿った略円筒状に形成されている。内ケーシング3は、外ケーシング4よりも径が小さな円筒状に形成されており、外ケーシング4の内周面から径内方向に距離をあけて設けられており、外ケーシング4との間に隙間を形成できるようになっている。この隙間には、カーボンファイバを編み込んだ黒鉛質材料やセラミックファイバなどの多孔質材料で形成されたガス流通性の断熱層5が配備されている。すなわち、この隙間が、断熱層5を透過して圧媒ガスを上下方向に沿って流通可能な内側流路22とされている。
【0027】
内ケーシング3は、外ケーシング4と同様の耐熱材料を用いて逆コップ状に形成されており、上述した外ケーシング底体14の上面よりやや上方に、外ケーシング底体14の上面から上方に隙間をあけるようにして配備されている。そして、内ケーシング3の下部と外ケーシング底体14との間には上下方向に隙間が形成されており、この隙間は内ケーシング3の内側にある圧媒ガスを外側(内側流路22)に流通させる第1流通孔23とされている。
【0028】
内ケーシング3の内部には、径外側から順番に加熱手段7と整流筒8とが設けられており、この整流筒8の内部がホットゾーンとされている。次に、内ケーシング3の内部の構造について説明する。
加熱手段7は、上下方向に並んで配置された3つのヒータエレメントで構成されている。加熱手段7は内ケーシング3の内周面から径内側に距離をあけて配備されており、この加熱手段7から径内側にさらに距離をあけて整流筒8が配備されている。そして、加熱手段7の内側と外側とには、それぞれ圧媒ガスを上下に流通させるガス流通路が形成されている。
【0029】
このガス流通路は、加熱手段7の外側に設けられる外側ガス流通路20と、加熱手段7の内側に設けられる内側ガス流通路21との2つで構成されている。外側ガス流通路20は、内ケーシング3の内周面に沿って上下方向に伸びており、その下端は上述した第1流通孔23に連通している。そして、この第1流通孔23を通じてホットゾーン内の圧媒ガスを外側流路12に案内できるようになっている。また、加熱手段7の内側に設けられる内側ガス流通路21は、整流筒8の内周面に沿って上下方向に伸びており、整流筒8の下側に形成されたガス導入孔26に連通している。そして、このガス導入孔26を介して圧
媒ガスをホットゾーン内で帰還させることができるようになっている。
【0030】
整流筒8は、ガスを透過しない板材で円筒状に形成されており、その開口された上端は内ケーシング3の内周面(上面)のやや下方まで伸びている。つまり、整流筒8の上端と内ケーシング3との間には上下方向に隙間が形成されており、この隙間を介して整流筒8の内側(ホットゾーン内)にある圧媒ガスを整流筒8の外側に設けられたガス流通路(内側ガス流通路21または外側ガス流通路20のいずれか)に案内できるようになっている。
【0031】
整流筒8の下側には、被処理物Wを載置する製品台6が設けられている。この製品台6は、圧媒ガスを流通可能な多孔板から形成されており、製品台6を透過して下側から上側に向かって圧媒ガスを案内できるようになっている。この製品台6の上側には、スペーサを介在させることで被処理物Wが製品台6の上面に直接接触しない状態(かさ上げされた状態)で載置されている。
【0032】
また、整流筒8の外周面には、製品台6よりもさらに下方の位置に、上述したガス導入孔26が形成されている。このガス導入孔26は、整流筒8の側壁を内外に貫通するように形成されており、内側ガス流通路21の圧媒ガスを整流筒8の内側に導入できるようになっている。つまり、このガス導入孔26を介して整流筒8の内部に導入された圧媒ガスは、上述した製品台6を透過して製品台6の上方に流れ込み、製品台6の上方に形成されたホットゾーンでHIP処理が行われる。
【0033】
ところで、本発明のHIP装置1には、ホットゾーン内を冷却する冷却手段として、次に示す第1冷却手段と第2冷却手段とがある。
第1冷却手段は、第1循環流41に沿って圧媒ガスを循環しつつ冷却するものである。この第1循環流41は、上記した外ケーシング4と内ケーシング3との間に形成された内側流路22を下方から上方に向かって導かれた圧媒ガスを、外ケーシング4の上開口部15から外側流路12に案内し、案内された圧媒ガスを外側流路12に沿って上方から下方に案内しつつ高圧容器2に接触させることで冷却し、冷却された圧媒ガスを外ケーシング4の下開口部16及び第2流通孔24から内側流路22に戻すように圧媒ガスを循環するものである。
【0034】
一方、第2冷却手段は、ホットゾーン内の圧媒ガスの一部をホットゾーンの外側に導き、外側に導かれた圧媒ガスを第1冷却手段により強制循環する圧媒ガスに合流させて冷却を行い、冷却された圧媒ガスの一部をホットゾーンに戻すように圧媒ガスを循環する第2循環流42に沿って圧媒ガスを循環して冷却するものである。
ところで、本発明のHIP装置1には、外ケーシング4の外側で冷却された圧媒ガス(第1冷却手段で冷却された圧媒ガスの一部)を、ホットゾーンの上部からホットゾーン内に導入するガス導入手段27が設けられている。
【0035】
ガス導入手段27は、ホットゾーンの下方からホットゾーンの上部に伸びると共にホットゾーンの上部で開放された導管28と、ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを導管28に沿ってホットゾーンの上部に案内する強制循環手段25とを有している。
強制循環手段25は、外ケーシング底体14の下開口部16に設けられて、下開口部16の下側の圧媒ガスをホットゾーン内に強制的に引き込んで循環させるものである。本実施形態の強制循環手段25は、高圧容器2の底体11に設けられたモータ30と、このモータ30から下開口部16を通って上方に伸びる軸部31と、軸部31の上端に取り付けられたファン29とを備えている。このファン29は外ケーシング底体14の内部に形成されたファン格納部32に格納されており、このファン格納部32と外側流路12との間を連通するようにして下開口部16が形成されている。そして、ファン29はこの下開口部16を貫通して上下方向に伸びる軸(軸部31)回りに回転することで、圧媒ガスに下方から上方に向かう流れを強制的に発生できるようになっている。
【0036】
つまり、この強制循環手段25では、モータ30を用いて軸部31の先端に設けられたファン29を回転させると、外ケーシング底体14の下側に貯留された圧媒ガスが下開口部16を通ってファン格納部32に強制的に流れ込む。そして、ファン格納部32に流れ込んだ圧媒ガスは導管28を介してホットゾーンの上部に送られ、圧媒ガスがホットゾー
ンの上部から流れ込んでホットゾーン内を冷却するために用いられる。なお、強制循環手段25の例としては、ファンだけでなくポンプ等を用いてもよい。
【0037】
導管28は、ファン格納部32に流れ込んだ圧媒ガスをホットゾーンの上部に送るためのものであり、ガスを漏らさずにホットゾーンの圧媒ガスと交わることなく案内できるように内部が空洞とされた管材で形成されている。この導管28の下端はファン格納部32に開口しており、下側の開口からファン格納部32の圧媒ガスを管内に取り込むことができるようになっている。また、導管28は、ファン格納部32(ホットゾーンの下方)から整流筒8の外周面(上下方向)に沿ってホットゾーンの上部まで伸びている。
【0038】
具体的には、導管28は、ファン格納部32の上面に形成された開口(下側の開口)から上方に向かって伸び、整流筒8の内部で径外側に曲がり、整流筒8の外周面に達したところで再び上方に向かって曲がり、次に整流筒8の外周面に沿ってホットゾーンの上部まで直線状に伸びている。そして、導管28の上端は、ホットゾーンの上部に向かって開放されている。
【0039】
つまり、導管28の上端は、径外側から径内側に向かって、ホットゾーンの内側を向くように曲げられると共に、その先端はノズルのように先細り状に形成されている。このように導管28の先端を径内側に向いたノズル状に形成すれば、この導管28の先端から噴出された圧媒ガスがホットゾーン内を上方に移動してきた圧媒ガスとの間に向流接触を起こして混合されるため、互いに混合されにくい第1冷却手段の圧媒ガスと第2冷却手段の圧媒ガスとを(温度差の大きな圧媒ガス同士を)確実に混合することが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態では、導管28を2本、整流筒8の中心を挟んで対称な位置(中心回りに180°となる位置)に配置しているが、これらは1本であっても良いし、また3本以上配置されていてもよい。また、複数の導管28の配置は、必ずしも均等に配置しなくてもよい。
なお、上述した第2流通孔24の中途側には、第2流通孔24を流通する圧媒ガスの流量を絞ることで、上述した導管28を流通する圧媒ガスの流量と、内側流路22に帰還する圧媒ガスの流量との比率を調整する第2弁手段33(絞り弁手段)が設けられている。このような第2弁手段33を用いて第2流通孔24を閉鎖したり開放したりすれば、ファン格納部32から内側流路22に流れ込む圧媒ガスの流量とホットゾーンに流れ込む圧媒ガスの流量との流量比が調整可能となり、ひいては第1循環流41を流れる圧媒ガスの流量と、第2循環流42を流れる圧媒ガスの流量との割合(流量比)を任意に変更することも可能となって、HIP装置1の冷却速度をより精密に制御することも可能となる。
【0041】
ところで、第1循環流41を流れる圧媒ガスは冷却されているとはいえ、高圧容器2の下部に設けられる強制循環手段25のファン29やモータ30、第2弁手段33の駆動機構、あるいは加熱手段7に用いられる電気ヒータ及び測温用熱電対などの電機部品の耐熱性を考慮すると、十分に低温になっているとは言えない。
そこで、本発明のHIP装置1では、外ケーシング4の外側(外側流路12)で冷却された圧媒ガスを底体11と熱交換させることにより、第1冷却手段で冷却された圧媒ガスをさらに冷却する冷却促進手段37を備えている。
【0042】
次に、本発明の特徴である冷却促進手段37について説明する。
図1に示すように、上述した底体11とケーシング底体14との間には、ガス導入手段27に導入する圧媒ガスを貯留するガス貯留部35が設けられている。このガス貯留部35は、ケーシング底体14の内部におけるファン格納部32の下側に位置しており、圧媒ガスを貯留可能な空間として形成されている。また、ガス貯留部35は、外ケーシング4の外側、言い換えれば外側流路12から気密的に隔離されている。
【0043】
そして、冷却促進手段37は、外ケーシング4の外側で冷却された圧媒ガスを底体11と熱交換させることにより圧媒ガスを冷却する構成とされており、底体11との間で熱交換させられた圧媒ガスをガス貯留部35に送る構成とされている。具体的には、第1実施形態の冷却促進手段37は、外ケーシング4の外側で冷却された圧媒ガスを底体11内を巡回するように導く底体冷却流路36を備えている。
【0044】
次に、第1実施形態の冷却促進手段37を構成するガス貯留部35、底体冷却流路36
について説明する。
ガス貯留部35は、ケーシング底体14の下面に凹状に形成されており、下方に向かって開口している。このガス貯留部35の内部は空洞となっていて、圧媒ガスを貯留できるようになっている。また、ガス貯留部35の上側には上述したファン格納部32が設けられており、ガス貯留部35とファン格納部32とは上述した下開口部16で連通状態とされている。さらに、ガス貯留部35の内部には、高温に弱い強制循環手段25のモータ30、第2弁手段33などの機器が収容されている。
【0045】
ガス貯留部35は上述したように外側流路12から気密的に隔離されている。より詳しくは、ケーシング底体14の下端と、底体11の上面との間には、ガス貯留部35と外側流路12とを隔離する隔壁47が設けられている。また隔壁47の下面と、底体11との間には、圧媒ガスが外側流路12からガス貯留部35内に侵入することを防止する断熱層下部シール43が取り付けられていて、この断熱層下部シール43によりガス貯留部35は外ケーシング4の外側(外側流路12)から気密状態で隔離されている。
【0046】
底体冷却流路36は、外ケーシング4の外側で冷却された圧媒ガスを流通させる流路であり、底体11の内部に巡回するように形成されて底体11と圧媒ガスとの熱交換を行うものである。つまり、底体11は、HIP処理の加熱工程や加工処理工程の際にホットゾーンから熱流束を受けることが殆どなく、室温近くまで低温に冷却されていることが多い。そのため、外側流路12を流通することで一旦冷却させられた圧媒ガスであっても、より低温まで圧媒ガスを冷却することができる。そこで、底体冷却流路36では、外側流路12を流通して冷却された圧媒ガスを底体11との間で熱交換してさらに低温まで冷却することにより、より冷却が促進された圧媒ガスをガス貯留部35に送る構成となっている。
【0047】
具体的には、外側流路12の最も下側に位置する底体11の上面には、圧媒ガスを取り込むガス取入口44が形成されている。また、上述したガス貯留部35内に設けられた底体11の上面には、ガス取入口44から取り込んだ圧媒ガスを、ガス貯留部35内に供給するガス取出口45が形成されている。そして、これらのガス取入口44とガス取出口45との間を結ぶ流路が、底体冷却流路36とされている。このガス冷却流路36は、底体11内を貫通すると共に底体11内を大きく蛇行するように巡回(迂回)しており、低温とされた底体11と圧媒ガスとの間に十分な熱交換面積を確保できるようになっている。
【0048】
なお、底体11には、上述した底体冷却流路36(冷却促進手段37)で熱交換される熱量をさらに大きくできるように、底体11自体の冷却を行う底体冷却手段38が設けられている。この底体冷却手段38は、底体11の内部に貫通する流路として形成されており、チラーなどで冷却された冷却水や代替フロンなどの冷媒を流通可能となっている。このような底体冷却手段38を設ければ、底体11の温度をさらに低下させることが可能となり、底体冷却流路36を通じて圧媒ガスを更に低温まで冷却したり、圧媒ガスに対して高い冷却能力を安定して発揮させることが可能となる。このような底体冷却手段38は、特に急速冷却時に底体11の熱を速やかに放散できるので好ましい。
【0049】
上述した第1実施形態のHIP装置1を用いてホットゾーン内を冷却する方法、言い換えれば本発明のHIP装置1の冷却方法を説明する。
上述の構成を備えたHIP装置1で被処理物Wに対して等方圧加工を行い、次に被処理物Wを短時間で冷却する急速冷却工程を行う。この急速冷却工程は、加熱手段7による加熱を停止した上で、栓部材18を上方に移動し、強制循環手段25のファン29を回転させることで行われる。
【0050】
このとき、上述した第2弁手段33を調整すると、第2流通孔24及び内側流路22を通じて外側流路12に帰還する圧媒ガスの流量、及び導管28を通じてホットゾーンへ導かれる圧媒ガスの流量との流量比が調整され、結果として低温の第1循環流41(外側流路12)を流れる圧媒ガスと高温の第2循環流42を流れる圧媒ガスとが合流した後の圧媒ガスの温度を制御可能となる。
【0051】
このようにして合流した後で外側流路12に導かれた圧媒ガスは、高圧容器2の内周面にそって降下中に高圧容器2の容器壁と熱交換されて冷却される。この時、冷却の初期に
おいては、高圧容器2の容器壁の温度が圧媒ガスに比べて十分に低い温度であるため、外側流路12を流通する圧媒ガスの流量をできるだけ大きくする方が、冷却を効率的に行うことができる。
【0052】
ところが、冷却が進んで、高圧容器2の容器壁の温度が高くなると、高圧容器2の内周面との間で熱交換されても、圧媒ガスの温度はあまり低くならない。例えば、冷却の初期においては、外側流路12で冷却された圧媒ガスの温度は数10℃程度まで低下する。ところが、冷却が進むと、外側流路12で冷却されても200℃近い温度を維持するようになり、高温の圧媒ガスが高圧容器2の下部に設けられたガス貯留部35にそのまま流れ込むことになる。そうすると、高温の圧媒ガスが強制循環手段25のファン29やモータ30、第2弁手段33の駆動機構、あるいは加熱手段7に用いられる電気ヒータ及び測温用熱電対などの接点等に接触し、これらの電機部品が焼損してしまう可能性が高くなる。そのため、200℃を超えるような圧媒ガスをガス貯留部35に流入させることは許容できるものではない。
【0053】
そこで、第1実施形態のHIP装置1では、外側流路12を下降しつつ冷却した圧媒ガスを、さらにガス冷却流路36に導いて冷却を促進する。すなわち、ガス冷却流路36は、底体11の内部を巡回するように配備されており、外側流路12を流通して冷却された圧媒ガスを底体11との間で熱交換してさらに低温まで冷却することを可能としている。このガス冷却流路36でさらに低温まで冷却された圧媒ガスはガス貯留部35に送られる。
【0054】
ガス貯留部35には、高温に弱い強制循環手段25のファン29やモータ30、第2弁手段33の駆動機構、あるいは加熱手段7に用いられる電気ヒータ及び測温用熱電対などの接点等が設けられているが、上述した底体冷却流路36でさらに低温まで冷却された圧媒ガスが貯留されているので、これらの電機部品が焼損される心配はない。それゆえ、高圧容器2の下部に設けられた電機部品を焼損させることなく、HIP処理後に処理室(ホットゾーン)内を効率良く且つ短時間で冷却することができるようになり、急速冷却工程においてもホットゾーン内を確実に耐熱限界以下の温度に保つことが可能となる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態のHIP装置1を説明する。
【0055】
図2に示すように、第2実施形態のHIP装置1は、上述した第1実施形態のHIP装置1とは異なり、冷却促進手段は、ケーシングの外側で冷却された圧媒ガスを1次側に導いて、2次側の底体11との間で熱交換を行う熱交換器39を備えている。
具体的には、第2実施形態のHIP装置1では、外ケーシング底体14と底体11との間には、第1実施形態にあったような隔壁47は設けられておらず、外ケーシング底体14と底体11との間を通って圧媒ガスは外ケーシング4の内外を自由に移動できるようになっている。そして、この圧媒ガスの移動が自在とされた外ケーシング底体14と底体11との間に、熱交換器39が設けられている。
【0056】
熱交換器39は、圧媒ガスの自由な通過を可能とする構造であり、高圧容器2の容器壁の内周面を降下した第1循環流41の圧媒ガスを底体11との間で熱交換することで冷却し、冷却後の圧媒ガスをガス貯留部35に導く構成とされている。また、熱交換器39では、底体11との熱交換面積を大きくできるように、底体11の上面にフィンなどを設けた多層構造を採用したり、流路面積を大きくとれるようにフィンなどを多孔質とする多孔質構造を採用したりするのが好ましい。
【0057】
また、熱交換器39の上側には、この熱交換器39を介して外ケーシング底体14の熱が底体11に伝達しないように、断熱部材を設けると良い。このような断熱部材を設ければ、外ケーシング底体14の熱により底体11の温度が上昇することが抑制され、熱媒ガスを効率的に冷却することが可能となる。
なお、図例では、導管28がホットゾーンの中央に設置された例を示しているが、
図1の場合と同様に導管28がホットゾーンの外周側に設けられていても良い。上述した第2実施形態のHIP装置1を用いることにより、容器本体2の容器壁の内周面と熱交換した後の第1循環流の圧媒ガスをさらに冷却することが可能となる。また、本実施形態では、
底体11に圧媒ガスを流通させるガス冷却流路36を別途設ける必要が無く、高圧容器2の内部の高圧に対して耐圧部材として機能する底体11をそのまま利用でき、底体11の高寿命化が図れる。
【0058】
また、第2実施形態のHIP装置1では、熱交換器39を耐圧部材として機能する底体11とは別の部材として設けているため、熱交換に適した銅やアルミなどを用いて熱交換器39を形成したり、多層構造、多孔質構造、フィン構造などを熱交換器39に採用したりすることもできる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。