(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894989
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】癌細胞を摘出するための装置、システム、及び方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/00 20060101AFI20160317BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20160317BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20160317BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20160317BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20160317BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20160317BHJP
A61F 2/02 20060101ALN20160317BHJP
【FI】
A61L31/00 C
A61K31/58
A61K31/704
A61K31/05
A61P35/00
A61K45/00
!A61F2/02
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-523347(P2013-523347)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(65)【公表番号】特表2013-538079(P2013-538079A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】US2011046653
(87)【国際公開番号】WO2012019049
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年7月23日
(31)【優先権主張番号】61/370,630
(32)【優先日】2010年8月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505477235
【氏名又は名称】ジョージア テック リサーチ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】ベラムコンダ,ラヴィ,ヴイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジャイン,アンジャナ
【審査官】
佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−536539(JP,A)
【文献】
Tissue Engineering: Part C, 2009, Vol.15, No.4, pp.531-540
【文献】
Pharmaceutical Research, 2006, Vol.23, No.8, pp.1817-1826
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の切除又は死滅を目的として腫瘍細胞遊走を促進するための埋め込み型システムであって、
生体内で支持体の表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付けるためのキューを提供するように形成された表面を有する少なくとも1つの支持体であって、近位端部分及び反対側の遠位端部分を有する複数の配列ナノファイバーを含む少なくとも1つの支持体と、
前記近位端部分に接続されたポリマーシンクであって、前記遠位端部分から前記少なくとも1つの支持体を介して遊走させた腫瘍細胞を受け取るように構成されたポリマーシンクと、
前記ポリマーシンク内に配置された少なくとも1つの細胞傷害性物質であって、前記少なくとも1つの支持体を介して遊走させた腫瘍細胞に接触して当該腫瘍細胞を死滅させるように位置決めされた少なくとも1つの細胞傷害性物質と、を含み、
前記埋め込み型システムは、患者内の悪性腫瘍内に又はその近傍に切開手術又は最小侵襲手術によって埋め込まれるようなサイズ及び形状である、埋め込み型システム。
【請求項2】
前記複数の配列ナノファイバーが、チューブ状構造物又はナノファイバーフィルムを形成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数の配列ナノファイバーが、チューブ状構造物内に配置されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記チューブ状構造物が、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、又はこれらの組合せから形成される環状チューブを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの細胞傷害性物質が、前記ポリマーシンク内の前記複数の配列ナノファイバーの少なくとも一部にテザリング又は結合されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つの細胞傷害性物質が、前記ポリマーシンクの材料の少なくとも一部にテザリング又は結合されており、前記ポリマーシンクの材料は任意に、細胞不透過性のパウチに少なくとも部分的に含まれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記細胞傷害性物質が、シクロパミン、ホノキオール、フレグレレート、ドキソルビシン、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記少なくとも1つの支持体の全部又は一部が、一方向腫瘍細胞遊走を促進するための1つ以上の生化学的キューを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の配列ナノファイバーが、細胞外マトリックスタンパク質、増殖因子、サイトカイン、ペプチド、及びこれらの組合せからなる群から選択されるコーティングを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記コーティングが、
前記複数の配列ナノファイバーの長さに沿って均一に配置されている、又は、
前記複数の配列ナノファイバーの第1端から、前記複数の配列ナノファイバーの第2端まで、前記複数の配列ナノファイバーの長さに沿って、濃度勾配を呈して配置され、前記第2端は第1端から遠位にある、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記濃度勾配を呈して配置された前記コーティングが、
腫瘍細胞の一方向遊走を促進するのに有効である、又は、
非腫瘍細胞の二方向遊走を促進するのに有効である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の配列ナノファイバーが、合成ポリマーである、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記複数の配列ナノファイバーがナノファイバーフィルムを形成し、前記ナノファイバーフィルムが、ミエリン又は基底膜タンパク質のコーティングを含む、請求項9〜12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記複数の配列ナノファイバーが、約5ミクロン〜20ミクロンの厚さを有するナノファイバーフィルムの形態である、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記複数の配列ナノファイバーが、600nm〜800nmの直径を有する合成ポリマーファイバーであり、前記合成ポリマーファイバーは、前記ファイバーの長さに沿った濃度勾配を有する細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされている、請求項1〜14のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
米国仮特許出願第61/370,630号に対し、優先権を請求する。尚、上記出願は、本明細書に参照として組み込むものとする。
【背景技術】
【0002】
背景
本願は、癌治療のための埋め込み型医療装置、システム、及び方法に関する。特に、本願は、癌細胞遊走を方向付けることにより、腫瘍(例えば、方向付けがなければ、手術不可能であるか、又は腫瘍の再発を招く腫瘍など)の増殖を切除、再配置、又は管理するためのシステム及び方法に関する。
【0003】
髄芽腫は、小脳の高度に侵襲性の腫瘍で、最も一般的な小児悪性脳腫瘍であり、小児脳腫瘍の20〜40%を占める。小児における侵襲性頭蓋内脳腫瘍の治療は、重要な課題であり、これは、閉じた空間によってさらに複雑化することから、長期の認知障害を防ぐためには、可能な限り多くの非癌、すなわち「正常」組織を保存する必要がある。こうした場合、外科手術は複雑であり、化学療法は、細胞傷害性薬物が、正常細胞に取り囲まれた侵襲性細胞を区別して死滅させることができないため、大きな副作用を起こしやすい。
【0004】
悪性グリオーマもまた、最も攻撃的で、最も難治性のタイプの癌であり、診断から1年以上生存する患者はほとんどいない。この厳しい予後は、主に、グリオーマ細胞が腫瘍塊から遊離して、正常脳組織に浸潤し、免疫検出を逃れて、通常の細胞傷害性治療に抵抗するという、比類なく侵襲性の能力によるものである。これらの腫瘍の侵襲によって、完全な外科的切除が妨げられ、再発や、急速な致死的転帰を招くことになる。
【0005】
研究から、悪性グリオーマの侵襲は、ほとんどが、主要な細長い構造、例えば、脳白質線維束及び血管に沿って発生し、これらは、こうした腫瘍が広がるための「ハイウェイ」として作用する。一般に、脳白質線維束に沿った髄索が、グリオーマ細胞の接着及び遊走を促進していると考えられている。さらに、基底膜中のその他のタンパク質も、血管に沿った遊走に関連している。
【0006】
従って、髄芽腫及びその他の悪性腫瘍、例えば、悪性グリオーマのための別の治療法を開発する必要が依然としてある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面の簡単な説明
【
図1】複数の配列ナノファイバーからなるフィルムを有する支持体を含む埋め込み型システムの様々な実施形態を示す概略図である。
【
図1A】一軸配列ナノファイバーの走査型電子顕微鏡画像であり、拡大したナノファイバーは、スケールバー=1μmを有する。
【
図2A】複数の配列ナノファイバーを有するチューブ型構造物の一実施形態の概略の横断面図であり、配列ナノファイバーフィルム導管を有するチューブ型導管を示す。
【
図2B】複数の配列ナノファイバーを有するチューブ型構造物の一実施形態の概略の横断面図であり、らせん状配列ナノファイバーフィルムを有するチューブ型導管を示す。
【
図3】一実施形態おける、複数の配列ナノファイバーを含むチューブ型導管と、細胞傷害性ポリマーシンクを有する埋め込み型システムの概略の斜視図である。
【
図4】一実施形態における、患者を治療するための方法の概略図である。
【
図5A】平滑フィルムに接種した腫瘍細胞を、接種から2時間後に撮影した画像である。
【
図5B】平滑フィルムに接種した腫瘍細胞を、接種から10日後に撮影した画像である。
【
図5C】配列ナノファイバーフィルムに接種した腫瘍細胞を、接種から2時間後に撮影した画像である。
【
図5D】配列ナノファイバーフィルムに接種した腫瘍細胞を、接種から10日後に撮影した画像である。
【
図6】平滑フィルムと比較して、配列ナノファイバーに接種した細胞の腫瘍細胞遊走を示すグラフである。
【
図7A】シクロパミン結合コラーゲンヒドロゲル「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像である。
【
図7B】シクロパミン結合コラーゲンヒドロゲル「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像であり、カルセインで染色した生存腫瘍細胞を示す。
【
図7C】シクロパミン結合コラーゲンヒドロゲル「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像であり、エチジウムホモ二量体で染色した死滅腫瘍細胞を示す。
【
図7D】アポトーシス「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像である。
【
図7E】アポトーシス「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像であり、カルセインで染色した生存腫瘍細胞を示す。
【
図7F】アポトーシス「シンク」を用いて培養した腫瘍細胞の明視野及び蛍光画像であり、エチジウムホモ二量体で染色した死滅腫瘍細胞を示す。
【
図8】単一スカフォールド、又は3つのスカフォールドを埋め込んだラットの断面画像であり、スカフォールドを通る腫瘍細胞の定方向遊走を促進するスカフォールドの能力を示す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
概要
本発明の一実施形態は、細胞の切除又は死滅を目的として腫瘍細胞遊走を促進するための埋め込み型システムを含む。このシステムは、少なくとも1つの支持体を含み、支持体は、支持体表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付けるためのキュー(cue)を提供するように形成された表面を有し、少なくとも1つの支持体は、複数の配列ナノファイバーを含む。好ましくは、上記システムは、少なくとも1つの支持体によって遊走させた腫瘍細胞と接触させるための少なくとも1つの細胞傷害性物質をさらに含む。
【0009】
別の形態では、細胞の切除又は死滅を目的として腫瘍細胞遊走を促進するための埋め込み型装置が提供される。この装置は、支持体表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付けるためのキューを提供するように形成された表面を有する少なくとも1つのフィルムを有し、上記表面は、表面に沿った細胞の一方向又は二方向増殖をもたらすためのコーティング材料勾配を含む。
【0010】
さらに別の形態では、in vivoでの腫瘍運動を誘導するための方法が提供される。本方法は、腫瘍細胞が存在する組織部位に装置を埋め込むステップを含み、この装置は、第1の組織位置から、選択した第2位置に腫瘍細胞の遊走を向けるための物理的誘導キューを提供する1つ以上の表面構造を有する。
【0011】
別の形態では、患者を治療する方法が提供され、この方法は、患者の組織部位に、支持体表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付けるためのキュー(cue)を提供するように形成された表面を有する支持体を含む装置を埋め込むステップを含み、上記支持体は、複数の配列ナノファイバーを含む。本方法は、後に、支持体表面に沿って遊走させた腫瘍細胞を死滅させるか、又は切除するステップをさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明の実施形態は、遊走性腫瘍に、別の望ましい遊走経路、すなわち最終的にそれらの死滅又は切除をもたらす経路を提供する埋め込み型装置及びシステムを提供することによって、前述した要求に取り組むものである。特に、悪性腫瘍、特に侵襲性悪性脳腫瘍を管理するために、転移に特有の細胞運動性及び遊走の特性及び力学を有利に利用する革新的埋め込み型装置及びシステムを提供する。腫瘍抽出及び腫瘍運動を、ある位置(例えば、手術不可能な位置)から二次位置(例えば、手術可能な位置又は細胞傷害性シンク)へと誘導するために、埋め込み可能な構造を有利に用いることができる。
【0013】
一実施形態では、腫瘍細胞遊走を促進するための埋め込み型装置は、支持体表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付けるためのキュー(cue)を提供するように形成された表面を有する支持体を含む。埋め込み型装置は、最小限に侵襲性の技法で、悪性腫瘍又はその近傍に埋め込むことができるようなサイズ及び形状をしているのが望ましい。特定の実施形態では、埋め込み型装置は、腫瘍細胞を遊走させる魅力的な代替経路を提供し;腫瘍の一方向遊走を促進して;遊走腫瘍細胞を回収、捕捉する、及び/又は死滅させる、いずれかのための「シンク」を提供する。特に、形態学的又は生化学的キューは、こうしたキューの拡散を最小限にするか、又は排除することにより、原発性腫瘍位置の安定性を維持すると共に、腫瘍遊走に対する意図しない影響を軽減又は防止しながら、埋め込み型装置内への腫瘍細胞の遊走を促進する。
【0014】
本発明の実施形態は、一般に、支持体表面に沿って腫瘍細胞遊走を方向付ける(誘導する)ための物理的及び/又は化学的キューを提供するように形成された表面を有する支持体を含む。様々な実施形態では、物理的誘導キューは、1つ以上の支持体形態の特徴、例えば溝、ナノファイバー又はミクロファイバーの列、例えば、配列ナノファイバーからなるフィルムを含む。
【0015】
物理的形態学的誘導キューによる腫瘍運動の誘導に加えて、本明細書に記載の方法及び装置は、腫瘍細胞運動又は抽出をモジュレート又は増強するのに役立ちうる、他の誘導手段、例えば、電界、化学誘因物質、及び細胞接種と、任意で組み合わせて用いてもよい。このような他の誘導手段は、in vivoでの腫瘍細胞抽出又は運動に関して適用されていないが、当該技術分野では公知であろう。
【0016】
特定の実施形態では、支持体は、複数の配列ナノファイバーを含む。複数の配列ナノファイバーは、ナノファイバーフィルム、チューブ型構造物、又はその他の好適な3次元構造の形態である。(
図1参照)。特定の実施形態では、複数の配列ナノファイバーは、チューブ型構造物に配置した単一のナノファイバーフィルムの形態である。(
図1、2A及び2B参照)。このようなチューブ型構造物は、例えば、ナノファイバーフィルムの構造的支持体を提供する。あるいは、チューブ型構造は、2つ以上のナノファイバーフィルムを含んでいてもよい。2つ以上のフィルムを、任意で間にスペーサー材料を挟んで、重ね合わせることにより、その上に腫瘍細胞を遊走させる多層表面を提供することもできる。(
図1参照)。また別の実施形態では、ナノファイバーフィルムは、1つ以上のフィルムを腫瘍内に挿入して、腫瘍外部の地点に集め、そこに細胞を遊走させた後、これらの細胞を切除又は死滅させられるように、複雑に設計することができる。
【0017】
本明細書で用いる「ナノファイバー」という用語は、約40nm〜約1,500nmの直径を有するファイバー、ストランド、フィブリル、又はネジ様構造物を指す。本明細書で用いる「ナノフィラメント」という用語は、「ナノファイバー」の類義語である。一実施形態では、ナノファイバーは、約200nm〜約1000nm、約400nm〜約1000nm、約500nm〜約800nm、又は約600nm〜約800nmの直径を有する。
【0018】
一実施形態では、支持体表面は、腫瘍細胞遊走のための物理的キューを提供する溝を含む。例えば、これらの溝は、ナノファイバーの直径とほぼ同じ幅、ほぼ同じ深さ、又はその半分の深さであるように寸法決定してよい。
【0019】
本明細書で用いる「配列ナノファイバー」という用語は、一軸配向を有するナノファイバーを指す。本明細書で用いる「一軸配向」という用語は、50%を超えるナノファイバーが、軸の40°以内、すなわち、軸の±20°以内に配向されている、ナノファイバーの集合体を指す。重要なのは、ナノファイバーは、構造物において、長さ数ミリメートル、例えば、2〜100mmにわたって配向されていることである。一実施形態では、ナノファイバーの少なくとも60%、少なくとも75%、又は少なくとも85%が、20°以内の一軸配向である。このような一軸配列ナノファイバーを
図1Aに図示する。
【0020】
本明細書で用いる「埋め込み型装置」という用語は、装置が、in vivoでの使用、すなわち、治療、例えば、髄芽腫又は転移性グリオーマのような悪性腫瘍の治療が必要な患者への埋め込みによる使用に適していることを意味する。一実施形態では、上記装置は、他のタイプの悪性疾患の治療に用いられる。埋め込み部位は、患者の脳内であってもよい。
【0021】
ナノファイバーは、当該技術分野では公知の方法を用いて、少なくとも1つのポリマーから形成することができる。ナノファイバーは、合成若しくは天然ポリマー、又は合成ポリマーと天然ポリマーの混合物から構成されるものでよい。ポリマーは、生分解性又は非生分解性でもよいし、又は生分解性ポリマーと非生分解性ポリマーの混合物を含んでいてもよい。特定の実施形態では、ナノファイバーは、生分解性合成ポリマーを含むのが望ましい。例えば、一実施形態では、ポリマーは、生体適合性の熱可塑性ポリマー、例えば、ヒトにおけるin vivo用途での使用に好適なポリエステル又はポリアミドである。
【0022】
合成ポリマーの代表的例としては、以下のものがある:ポリ(ヒドロキシ酸)、例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、及びポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(ラクチド)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリアルキレン、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリ(エチレングリコール)、ポリアルキレンオキシド、例えば、ポリ(エチレンオキシド)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、及びポリ(ラクチド−コカプロラクトン)、これらのコポリマー及びブレンド。本明細書で用いる「誘導体」という用語は、化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の置換、付加、ヒドロキシル化、酸化、及び当業者によって常用的に実施されるその他の改変を含むポリマーを含む。生分解性ポリマーの例としては、ヒドロキシ酸、例えば、乳酸及びグリコール酸のポリマー、並びにポリエチレングリコール(PEG)とのコポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリ(酪酸)、ポリ(吉草酸)、ポリ(ラクチド−コ−カプロラクトン)、これらのブレンド及びコポリマーがある。望ましくは、生分解性ポリマーナノファイバーは、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(アクリロニトリル)、又はこれらの組合せを含む。
【0023】
好適な天然ポリマーの代表例としては、タンパク質、例えば、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、Matrigel、フィブリン、ポリペプチド又は自己集合ペプチドベースのヒドロゲル、及びプロラミン、例えば、ゼイン、並びに多糖、例えば、アルギン酸塩、アガロース、セルロース及びポリヒドロキシアルカン酸、例えば、ポリヒドロキシ酪酸がある。
【0024】
埋め込み型装置の構造は、一軸配向ナノファイバーのフィルム又は積み重ねた複数のこのようなフィルムを含んでいてもよい。(
図1)。一実施形態では、各フィルム層は、厚さ約10μmである。これより厚い層又は薄い層を用いてもよいが、一般的には、積み重ねる、又は埋め込み型装置を組み立てる上で、取扱い及び操作が可能な厚さであるように、厚さを選択する。例えば、フィルムの厚さは、例えば、ナノファイバーがエレクトロスピニングするマンドレル又はその他の(一時的)支持体からの分離を容易にするために、手による取扱いが可能なものでよい。複数の積層ナノファイバーフィルムを含む実施形態では、各層の配向は、積層内のナノファイバー配向が、ほぼ同じ(例えば、全ての層の軸方向が実質的に同じ方向に向いている)か、又は積層内の各層のナノファイバー配向が、ある角度を成している(例えば、各層の軸方向が、実質的に直角を成している)ようにしてもよい。
【0025】
任意で、積層構造は、一軸配向したナノファイバーフィルムのいくつか又はすべての層の間にスペーサーを含む。スペーサーは、水溶性又は不水溶性、多孔性又は非多孔性であってよく、好ましくは生体適合性であり、また、生物崩壊性/生分解性であってもよい。スペーサーは、厚さが約25〜約800μmであってよい。一実施形態では、積層内の各スペーサー層は、約50〜約250μmの厚さを有する。一実施形態では、スペーサーは、ヒドロゲル、例えば、熱可逆性(すなわち、温度応答性)ヒドロゲルを含む。一実施形態では、構造物は、配向されたナノファイバーの層とヒドロゲル又は他のスペーサーの層からなる。ヒドロゲルは、例えば、アガロースヒドロゲル又は当該技術分野では公知の他のヒドロゲルであってよい。別の実施形態では、スペーサー材料は、別のゲル又はゲル様材料、例えば、ポリエチレングリコール、アガロース、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、コラーゲン、Matrigel、キトサン、ゼラチン、又はこれらの組合せであってもよい。
【0026】
別の実施形態では、一軸配列ナノファイバーは、複数の層以外の形態の構造で提供される。例えば、配列ナノファイバー層は、3次元構造全体を通して均等に間隔を置いてもよいし、あるいは、1層の配列ナノファイバーをそれ自体で巻いて、チューブ型導管(例えば、
図2Aに示す内腔を有する)又はチューブ型スカフォールド(
図2Bに示す)を形成することにより、3次元構造を形成してもよい。配列ナノファイバー層はまた、腫瘍に近接した位置における装置の外科的埋め込み、又は最小限に侵襲性の埋め込みを容易にする、他の任意の好適な構成で作製してもよい。
【0027】
ナノファイバー構造は、任意で、一軸配向ナノファイバー構造物を収容する、配置する、若しくは固定する、及び/又は腫瘍細胞増殖をさらに方向付け若しくは限定するための二次構造物内に設けてもよい。この二次構造物はまた、遊走腫瘍細胞との接触から健全な組織を保護する役割も果たす。
【0028】
一実施形態では、二次構造物は、ナノファイバーを収容することができるチューブ型導管であってもよい。この構造物も、望ましくは、in vivoでの使用に適した生体適合性ポリマーから製造される。ポリマーは、生分解性又は非生分解性、又はそれらの混合物でよい。一実施形態では、二次構造物は、ポリスルホン、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、又はPLGAを含む。特定の実施形態では、二次構造は、ポリスルホン、ポリカプロラクトン、ポリウレタン、PLGA、又はこれらの組合せから製造されたチューブ型導管である。二次構造は、その具体的性能要件に応じて、実質的に軟質又は硬質であってよい。
【0029】
本明細書に記載のナノファイバーは、当該技術分野では公知の実質的に任意の技法によって製造してもよい。望ましくは、ナノファイバーは、エレクトロスピニングの実施が可能な実質的にあらゆる生体適合性ポリマーを用いて、エレクトロスピニング法によって製造する。エレクトロスピニング装置は、ミリメートル範囲で配向されるファイバーを作製するために、コレクター端に回転ドラム又はその他の改変を含んでいてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載する埋め込み型装置は、腫瘍細胞の定方向遊走のためのキューを提供する生化学的キューをさらに含む。例えば、いくつかの実施形態では、生化学的キューは、腫瘍細胞の定方向遊走を促進することができる1つ以上の生物活性物質を含む、複数の一軸配列ナノファイバーのコーティング又はナノファイバーフィルムを含んでいてもよい。こうしたコーティングは、当業者には公知の手法、例えば、ナノインクジェット印刷などを用いて、支持体に施すことができる。
【0031】
本明細書に用いる「生物活性物質」と言う用語は、細胞又は組織に作用を及ぼす分子を指す。生物活性物質のタイプの代表例として、治療薬、ビタミン、電解質、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、脂質、多糖、核酸、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、増殖因子、分化因子、ホルモン、神経伝達物質、プロスタグランジン、免疫グロブリン、サイトカイン、及び抗原がある。これら分子の様々な組合せを用いることができる。サイトカインの例として、マクロファージ由来のケモカイン、マクロファージ炎症性タンパク質、インターロイキン、腫瘍壊死因子がある。タンパク質の例としては、線維状タンパク質(例えば、コラーゲン、エラスチン)及び接着タンパク質(例えば、アクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、カドヘリン、セレクチン、細胞内接着分子、及びインテグリン)がある。様々なケースでは、生物活性物質は、フィブロネクチン、ラミニン、トロンボスポンジン、テネイシンC、レプチン、白血病阻害因子、RGDペプチド、抗TNF、エンドスタチン、アンギオスタチン、トロンボスポンジン、骨形成タンパク質1、骨形成タンパク質、オステオネクチン、ソマトメジン様タンパク質、オステオカルシン、インターフェロン、及びインターロイキンから選択してよい。
【0032】
特定の実施形態では、生物活性物質は、遊走促進作用を有するタンパク質、小分子又はバイオポリマーを含む。こうした生物活性物質の非限定的例として、ミエリン又は基底膜タンパク質、例えば、ラミニン、コラーゲン、及びMatrigelがある。ある実施形態では、生物活性物質は、様々な腫瘍細胞に魅力的な、異なるタンパク質及び分子を含む。別の態様では、生物活性物質は、荷電要素、例えば、ポリリシン又はバイオポリマー(キトサンなど)を含むが、これらは、腫瘍からの腫瘍細胞の遊走を、指定した様式で促進することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、前述した生化学的キューは、複数のナノファイバーに均一に、又は勾配を成して適用してよい。こうした勾配は、所与面積当たりの生物活性物質の濃度又は質量の増加又は減少であってよい。(
図4参照)。いくつかの実施形態では、勾配は、腫瘍細胞の一方向遊走を促進する上で役立つ。別の実施形態では、勾配は、細胞の二方向遊走を促進する。例えば、勾配は、2つの異なる細胞型の反対方向の遊走を促進するために、一方の方向でより高い濃度、及び別の方向でより低い濃度を含んでいてよい。こうした二方向促進勾配は、腫瘍部位から複数のナノファイバーに沿った一方向の腫瘍細胞遊走を限定すると共に、腫瘍部位に向かう別の細胞型の遊走を促進することができる。特定の理論に束縛される意図はないが、腫瘍部位に向けて非腫瘍細胞、例えば、腫瘍において免疫系感受性を誘発する細胞を遊走させることにより、腫瘍に対して自然の免疫応答を向ける機能を果たしうると考えられる。いくつかの実施形態では、免疫促進細胞を遺伝子的に改変することによって、腫瘍の免疫特権状態を取り除くことができる。
【0034】
上記の実施形態には、ナノファイバーの好ましい使用を記載したが、当業者は、本明細書に記載した埋め込み型装置の実施形態が、腫瘍細胞の定方向遊走を促進するように作製された別の種類の材料を用いて製造することもできることは理解すべきである。従って、特定の実施形態では、非ナノファイバーベースの支持体を用いて、所望の位置に所望の方向で腫瘍細胞の遊走を誘導することができる。例えば、別の定方向キュー(これは、腫瘍から、細胞を死滅させる、又は切除することができる領域への細胞の形態学的誘導に基づくものでもよいし、基づかないものでもよい)と一緒に、生物活性物質の勾配を別の材料、例えば、ヒドロゲル及びポリマーフィルムにおいて、形成することができる。
【0035】
埋め込み型装置は、さらに細胞傷害性物質を含むのが望ましい。細胞傷害性物質は、複数のナノファイバー又はポリマー「シンク」にテザリングしても、直接結合してもよい。(
図3参照)。
【0036】
本明細書で用いる「細胞傷害性物質」とは、腫瘍細胞のプログラムされた細胞死を誘導することができるアポトーシス誘導薬物を意味する。いくつかの実施形態では、細胞傷害性物質は、腫瘍増殖を引き起こした突然変異シグナル伝達経路に特異的であることができる。別の実施形態では、細胞傷害性物質は、あらゆる細胞に対して細胞傷害性であってよいが、それとの結合が、健全な正常細胞が影響されるのを防ぐものである。様々な実例において、細胞傷害性物質は、シクロパミン、ホノキオール、フレグレート、ドキソルビシン、又はこれらの組合せを含みうる。一実施形態では、細胞傷害性物質は、過剰発現したソニック・ヘッジホグ(Sonic Hedgehog)経路(すなわち、突然変異したシグナル伝達経路の1種)を阻害するシクロパミンを含む。その他の細胞傷害性物質も考慮される。
【0037】
本明細書で用いるポリマー「シンク」とは、原発性(一次)腫瘍から離れた標的二次位置で腫瘍細胞を受けるように設計された埋め込み型装置の一部分を意味する。
図3に示すように、ポリマーシンクは、複数のナノファイバーの第1端の遠位にある複数のナノファイバーの第2端に、それに隣接して、又はその付近に配置し、複数のナノファイバーの第1端は、腫瘍の少なくとも一部内又はそれに実質的に隣接して位置している。例えば、複数のナノファイバーの第1端は、患者の生命を危険にさらすことなく、カテーテルを用いることにより、手術不可能な部位に位置する腫瘍内に、又は腫瘍に実質的に隣接して、配置することができる。複数のナノファイバーは、除去又は外科的切除のために、より到達しやすい領域に配置したポリマー「シンク」に腫瘍遊走を向かわせる。ポリマーシンクとしての使用に適した材料の非限定的例として、各種ポリマー及びバイオポリマー薄膜、例えば、PAN−MA、PVA、PMMA、キトサン、ラミニン、コラーゲンなど、又はヒドロゲル、例えば、アガロース、Matrigel、Neurogel、コラーゲン、キトサン、若しくは各種ヒドロゲルの複合材料がある。特定の実施形態では、ポリマーシンクは、生体適合性材料(例えば、免疫応答を誘導しない)から製造されたパウチ内に配置する。パウチ材料の非限定的例として、テフロン(登録商標)がある。シンクは、埋め込まれた1つ又は複数の装置と連通していてもよい。この一例を
図4に示す。
【0038】
本明細書に記載する埋め込み型装置は、かなり耐久性が高く、必要とする患者への埋め込み時に、その完全性及び形態を維持することができるのが望ましい。埋め込み型装置は、最小限に侵襲性の技法を用いて埋め込むことができるような寸法及び形状をしているのが望ましい。例えば、特定の実施形態では、大きなゲージのニードル、カテーテル、又は套管計を用いて、周囲組織に対する破壊を最小限にしながら、腫瘍内に埋め込み型装置を配置することができる。あるいは、埋め込み型装置は、切開手術で埋め込むことも可能である。
【0039】
埋め込み型装置を用いて、原発性(一次)腫瘍部位から二次位置まで遊走する腫瘍細胞は、様々な方法を用いて、取り扱うことができる。例えば、いくつかの実施形態では、外科的切除を用いて、原発性(一次)腫瘍部位より到達しやすい二次位置から腫瘍細胞を除去することができる。別の実施形態では、細胞傷害性物質をポリマーシンク内で用いて、腫瘍細胞の切除を必要とせずに、腫瘍細胞を死滅させることができる。従って、本発明の実施形態は、悪性腫瘍、特に手術不可能な、又は細胞傷害性物質の送達が不可能な悪性腫瘍を治療するための新規かつ革新的方法を提供する。
【0040】
以下の非限定的実施例を参照することにより、本発明の説明をさらによく理解することができよう。
【実施例】
【0041】
in vitro実験
腫瘍細胞遊走のための配列ナノファイバーフィルムの製造及び特性決定
当業者には公知のエレクトロスピニング法を用いて、ポリ(カプロラクトン)(PCL)から緩徐分解性ナノファイバーフィルムを製造した。細胞遊走を促進するために、ナノファイバーフィルムを細胞外マトリックスタンパク質であるラミニンでコーティングした。ラミニンは、腫瘍コア周辺でより高い濃度であることがわかったが、これは、このタンパク質が腫瘍細胞遊走に有意な役割を果たしうることを示している。
【0042】
腫瘍細胞遊走に対する、配列ナノファイバーによって提供される形態学的キューの作用を決定するために、実験を実施して、配列ナノファイバーフィルム上の腫瘍細胞遊走を平滑フィルムと比較した。
図5〜6に示す結果は、遊走の距離によって証明されるように、配列ナノファイバーフィルムが、平滑フィルムと比較して、有意に高い腫瘍細胞遊走を促進したことを明らかにしている。(
図5:平滑フィルムへの接種から2時間後に画像化した腫瘍細胞(A)、平滑フィルムへの接種から10日後に画像化した腫瘍細胞(B)、配列ナノファイバーへの接種から2時間後に画像化した腫瘍細胞(C)、配列ナノファイバーへの接種から10日後に画像化した腫瘍細胞(D);
図6:平滑フィルムと比較した配列ナノファイバー上の腫瘍細胞遊走の定量分析)。
【0043】
アポトーシスヒドロゲルシンクの製造及び特性決定
スムーズンド阻害剤であるシクロパミンを評価して、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導するのに必要な有効薬物濃度を決定した。腫瘍細胞の生存能は、様々な濃度のシクロパミンで測定した。健全な細胞(例えば、ニューロン及び神経膠)は、薬物への暴露により影響されなかった。しかし、結果は、コラーゲンヒドロゲルスカフォールドを30μMのシクロパミンと結合させるべきであることを示した。
【0044】
コラーゲンヒドロゲルの骨格にシクロパミンを結合させることにより、細胞傷害性シンクを有するナノファイバーフィルムを製造した。架橋剤N,N’−カルボニルジイミダゾールを用いて、シクロパミン上のヒドロキシル基をコラーゲン上のアミン基と連結させた。シクロパミンがコラーゲンヒドロゲルに結合したか否かを確認するために、C
13NMRを実施した。3つの条件、すなわちシクロパミン、コラーゲンに結合したシクロパミン、及び架橋剤なしのシクロパミン及びコラーゲンスカフォールドを、C
13NMRを用いて分析した。実際に、シクロパミンが、コラーゲンに閉じ込められるのではなく、ヒドロゲルにテザリングしたかどうか決定するために、3番目の条件を含めた。シクロパミンは、二重結合に関与する4つの炭素を有し、これは、150から120ppmの間で出現する。シクロパミン中の二重結合における4つの炭素についての4つのピークは、シクロパミン単独のスペクトルと、コラーゲンにテザリングしたシクロパミンに存在した。しかし、シクロパミンをコラーゲンヒドロゲルと混合した場合には、ピークは存在しなかった。
【0045】
腫瘍細胞をシクロパミン結合コラーゲンヒドロゲルシンク内で培養して、シクロパミンの生物活性が減少したか否か、また細胞がアポトーシスを受けたか否かを決定した。
図7に示すように、細胞の明視野及び蛍光画像は、シクロパミン結合コラーゲンヒドロゲルシンク(A〜C)と比較して、アポトーシスシンク内で培養されたとき(D〜F)、明らかにアポトーシスを受けていた。(明視野像(A/D)、カルセインで染色した生存腫瘍細胞(B/E)、エチジウムホモ二量体で染色した死滅腫瘍細胞(C/F))。特に、シクロパミン結合コラーゲンヒドロゲルにおける死滅細胞の数は、コラーゲン単独のヒドロゲルにおける死滅細胞の数より多かった。
【0046】
以上のin vitro実験に基づき、腫瘍細胞が、実際に形態学的キューによってさらに遊走したこと、また、アポトーシス誘導シンクが、腫瘍細胞を死滅させるのに有効でありうることを決定した。従って、予備in vitro実験を実施して、定方向細胞遊走を促進する上での本明細書に記載の埋め込み型スカフォールドの実施形態の有効性を評価した。
【0047】
in vivo実験
24匹のRowett Nude Ratに、U87mgのGFP細胞(ヒトグリア芽細胞腫細胞系である)を接種した。7日後、ラットに腫瘍細胞を接種し、5mmスカフォールドを脳内の腫瘍部位付近に埋め込んだ。腫瘍は、脳表面から深さ2mmの地点に接種した。導管は、脳表面から1.5mmの地点に埋め込んだ。
【0048】
スカフォールドは、10%ポリカプロラクトン(PCL)及びポリウレタン製の導管を含む。導管内に、PCL製の配列ナノファイバーを挿入した。単一のスカフォールド又は3つのスカフォールドのいずれかをラットに埋め込んだ。ラットが腫瘍の症状を呈示したとき、ラットを潅流した。接種から16〜18日後、ラットを潅流して、スカフォールドと一緒に脳を解剖した。スカフォールドと脳を横方向に切断して、50μmの切片を得た。切断した後、切片を画像化した。腫瘍細胞は、そのGFP発現によって見ることができた。
図8に示すように、スカフォールドは、スカフォールドを通じた腫瘍細胞の定方向遊走を促進する上で有効であった。
【0049】
本明細書で引用した刊行物、並びに文献で引用された材料は、参照として明示的に本明細書に組み込むものとする。本明細書に記載の方法及び装置の変更及び変形は、以上の詳細な説明から当業者には明らかになるであろう。こうした変更及び変形は、添付の特許請求の範囲内に含まれるものとする。