【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、ドライエッチングによって微細構造を製作する場合、ドライエッチングでは、一般的には
図3(a)に示すように、垂直な側壁形状を有する構造を得る事を目的としている。このため、
図3(b)および(c)に示すような順テーパー側壁を得るには、エッチング条件を大きく変更する必要があり、また、必ずしも所望のテーパー角度の側壁が得られるとは限らない。但し、適当なエッチング条件が得られれば、
図3(b)のような順テーパー構造を得ること自体は、それ程困難なことではない。
【0015】
しかしながら、仮に順テーパー側壁を得るエッチング条件を確立し、
図3(b)に示すような構造を得ることが出来たとしても、それをさらに進めて
図3(c)のように、全体が順テーパー面で構成される構造、すなわち、先端が尖った構造の側壁を得るには、さらなる困難が生じる。その理由を、
図4を用いて以下に詳述する。
ドライエッチングで基板21の表面に順テーパー側壁を得るには、大別して、2つの方式が考えられる。一つは
図4(a)に示すように、比較的大きなレジストマスク22を用い、このレジストマスク22を、エッチング過程で収縮させながら基板21をエッチングすることにより、順テーパー構造23を得る方式である。もう一つは
図4(b)に示すように、比較的小さなレジストマスク24を用いてエッチングを開始し、エッチング中に側壁保護膜を過剰に堆積させることで、パターンが太るようにエッチングして順テーパー構造25を得る方式である。
【0016】
単に順テーパー側壁を得る方式としての観点では、どちらの方式にも利点と欠点が有り、どちらかが決定的に優れているということは言えない。そのため、所望の形状や寸法に応じて、どちらの方式を採用するかを選べば良い。
しかしながら、どちらの方式を用いたとしても、
図3(c)に示したような、先端が尖った凸構造であり且つ凸構造どうしが底面側で接している微細パターンを形成するのは容易ではない。
【0017】
その理由は以下のとおりである。つまり、
図4(a)に示すレジストマスク22を収縮させていく方式の場合、レジストマスク22を収縮させていき、完全に消滅するまでエッチングを続ければ、順テーパー構造23の先端幅をほぼ零にすること自体はそれ程難しくない。しかし、この方法はエッチング中にレジストマスク22の幅が小さくなっていくのであるから、基本的には、最終的な順テーパー構造23の幅は、レジストマスク22の初期の幅と等しいか、それより小さくなるはずである。
【0018】
ところが、レジストマスク22がパターンとして解像している以上、その隣接パターン間には有限の隙間が生じているはずであり、一般的には、最小でも50nm程度の隙間を開けざるを得ない。この状態からレジストマスク22が収縮しながら、エッチングされる順テーパー構造23が細っていくということは、その順テーパー構造23が隣同士で接する事は無い、という点は明らかである。つまり、この方式では、凸構造の先端部の幅をほぼ“0”にすることは出来るが、凸構造の底面側を凸構造どうしが接するようにエッチングすることは困難である。
【0019】
次に、
図4(b)の方式の場合を考える。
この場合は、エッチング中に順テーパー構造25が太っていくようにエッチングするため、エッチングの進行につれて順テーパー構造25の底面側の隙間は狭くなっていく。その結果、順テーパー構造25同士がほぼ接して、隙間が殆ど無い状態とすることが可能である。
この方式を用いる場合、エッチング中の反応生成物が、比較的基板表面に最も付着し易い条件を設定する。基板の上面やエッチング部底面に付着した生成物は、プラズマ中に発生するイオンが基板に衝突する衝撃によって再び取り除かれるが、側壁部に付着した生成物は、イオンが平行に近い角度で入射するため、運動エネルギーを有効に受け取る事が出来ず、側壁から再離脱できない。このため、生成物の側壁への選択的堆積が進行し、その結果として開口部底面側が閉じていくような順テーパー側壁が形成されていく。
【0020】
しかしその一方で、順テーパー構造25の上面側の先端を尖らせる事は容易ではない。なぜなら、この方式では基本的に、側壁保護性の高いエッチング条件を採用する事になる。このため、エッチング中にレジストマスク24が縮小しにくくなるため、最終的な順テーパー構造25の先端幅も、エッチング開始時のレジストマスク24の幅から大きくシュリンク(収縮)することが無い。このため、反射率を下げるために先端部を狭くするには、レジストマスク24の幅を可能な限り小さくする必要がある。
【0021】
しかしながら、例えば50nm以下といった非常に幅の狭いレジストパターンを形成しようとしても、レジストと基材表面との密着力が低下して、レジストマスク24が基板21表面から剥離してしまうという問題が発生する。
このため、レジストマスク24のパターンの幅は、現実的には最低でも50nm程度の幅でしか形成することが出来ず、その結果、エッチング後の順テーパー構造25の先端に平坦部が残ってしまうのである。
【0022】
以上の理由から、ドライエッチングを用いた場合、
図3(b)に示すような構造を得ることは比較的容易であるが、より低反射特性に優れた
図3(c)に示すような構造を得ることは難しいことが分かる。
図3(c)に示すような構造をドライエッチングで得るためには、
図3(a)、
図3(b)の両方の効果が同時に作用し、隣接する順テーパー構造の底面部が
図3(b)の効果で接触すると共に、個々の順テーパー構造の先端部の幅がほぼ“0”になるようなエッチング条件を設定する必要があり、そのバランスの最適化が非常に難しい。
【0023】
一例として、UVナノインプリント用のモールド材料として広く用いられている、石英基板のドライエッチングの場合を挙げる。
光の波長と同程度の800nm以下のピッチを有するパターンをエッチングするには、クロム薄膜パターンをマスクとして、フロロカーボンガスによる異方性プラズマエッチングを用いるのが一般的である。
【0024】
発明者らのこれまでの実験によると、
図4(b)のような機構で石英の順テーパー構造を形成するのは非常に困難である。これは、石英のエッチングでは側壁保護性の高いエッチング条件を設定するのが困難なためである。そのため、どちらかというと
図4(a)の効果によってパターンが細る傾向が強いが、クロムとのエッチング選択比が非常に高いため、エッチング中にマスクが後退する効果もあまり期待できない。その結果として、垂直に近い側壁しか得る事が出来ないため、
図3(b)に示したような形状を得ることは、非常に困難である。
【0025】
別の例として、熱ナノインプリント用のモールドとして用いられることの多い、シリコン基板のドライエッチングの場合を考える。
この場合は、石英の場合と同様にクロム薄膜などをマスクとしてエッチングすることも可能だが、より簡便に、リソグラフィーによって形成したレジストパターンをマスクとしてエッチングすることも可能である。また、エッチングガスとしては石英と同様に、フロロカーボン系のガスを用い、異方性のプラズマエッチングが行われる。
【0026】
シリコンエッチングの場合は、C
4F
8などのガスを用いることで、側壁保護性の高いエッチング条件を設定する事が出来るので、
図4(b)のように、パターンを太らせながらエッチングする事が可能となる。ただし、保護性を高くし過ぎると、ドライエッチング自体の進行が妨げられるため、例えば45°以下といったような、なだらかな斜面を持つ側壁形状を得ることは困難である。発明者らのこれまでの実験によると、70〜80°程度の側壁角は得られるものの、それより緩やかな斜面を得ることは難しかった。
【0027】
また、シリコンエッチングで
図4(b)のような形状を得るためには、レジストマスクのドットパターン幅を非常に小さくする必要がある。発明者らのこれまでの実験によれば、パターンピッチにもよるが、ドット幅は50〜80nm程度とする必要があった。この様な微細ドットパターンは、電子線リソグラフィーを用いたとしても、その形成がかなり困難である。
【0028】
以上の理由から、シリコン基板を用いる場合、石英基板よりは
図4(b)のような形状の構造を作り易いが、形状やピッチ等の自由度はそれ程高くない。また、シリコン基板は紫外光に対して不透明であるから、UVナノインプリント用のモールドとしては基本的に使えないことも欠点の一つである。
これまで述べたように、一般的にナノインプリントモールドに用いられる材料である、シリコンや石英基板を用いた場合、特性の良好な形状の無反射構造用原版を製造することは、必ずしも容易ではなかった。