特許第5895535号(P5895535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5895535
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】免疫原性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20160317BHJP
【FI】
   A61K39/39
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2011-538557(P2011-538557)
(86)(22)【出願日】2011年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2011069122
(87)【国際公開番号】WO2012026508
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2014年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2010-189307(P2010-189307)
(32)【優先日】2010年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成19年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088546
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】古志 洋一郎
(72)【発明者】
【氏名】西尾 玲士
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 資訓
【審査官】 ▲高▼岡 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/104706(WO,A1)
【文献】 特開2008−088158(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/111337(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/095226(WO,A1)
【文献】 特表2008−502605(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098432(WO,A1)
【文献】 Vaccine,Vol.15, No.17/18 (1997),pp.1888-1897
【文献】 Polymer,Vol.39, No.14 (1998),pp.3087-3097
【文献】 J Biomed Mater Res,Vol.60 No.3 (2002),Page.480-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーからなるアジュバント微粒子に抗原が内包された抗原−アジュバント微粒子複合体からなる免疫原性微粒子および界面活性剤を有効成分として含有する免疫原性組成物であって、界面活性剤が免疫原性微粒子に内包されてなる、免疫原性組成物。
【請求項2】
前記免疫原性微粒子が抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が脂肪酸エステル構造を含む、請求項1または2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
アジュバント微粒子が両親媒性ポリマーの親水性セグメントからなる親水性部分を内部に有し、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントからなる疎水部分の外層を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
両親媒性ポリマーの親水性セグメントが多糖である、請求項1〜4のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
両親媒性ポリマーが多糖主鎖およびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖からなるグラフト型両親媒性ポリマーである、請求項1〜5のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
多糖がデキストランである、請求項5または6に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
ポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(乳酸−グリコール酸)である、請求項1〜7のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤がさらに単糖および/またはポリエチレングリコール構造を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤がポリソルベート80、ポリソルベート20、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
抗原を溶解した水系溶媒Aまたは疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bに界面活性剤を溶解し、それらを混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、および逆相エマルジョンから溶媒を除去する工程により免疫原性微粒子を得ることを含む、免疫原性組成物の有効成分である免疫原性微粒子の製造方法
【請求項12】
抗原を溶解した水系溶媒Aおよび疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bを混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、逆相エマルジョンから溶媒を除去して抗原−アジュバント微粒子複合体を得る工程、および抗原−アジュバント微粒子複合体分散液Cを表面改質剤を溶解した液相Dに導入して分散媒を除去する工程を含む抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の製造工程において、水系溶媒A、水非混和性有機溶媒Bまたは分散液Cに界面活性剤を溶解させることにより免疫原性微粒子を得ることを含む、免疫原性組成物の有効成分である免疫原性微粒子の製造方法。」
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性ポリマーからなるアジュバント微粒子に抗原が内包された抗原−アジュバント微粒子複合体および界面活性剤を含有してなる免疫原性微粒子を有効成分とする免疫原性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗原の免疫活性化能を向上させるために、アジュバントが抗原と共に用いられている。アジュバントとして高い効果が知られているのは完全フロイントアジュバント(CFA)であるが、死菌およびオイルエマルジョンからなるCFAは、投与部位に強い炎症反応および潰瘍性の腫張(肉芽腫)形成が生じるなど強い副作用があるため、安全上の懸念がありヒトに用いることは許可されていない。そのため、ヒトへの投与が許可されているアジュバントは限定されている。
【0003】
ヒトへの投与が許可されたアジュバントとしては、水酸化アルミニウムアジュバントがあるが、このアジュバントは免疫活性化能力が十分とは言えず免疫を獲得させるために繰り返し投与が必要である。このためヒトに用いることのできる、効率的で強力なアジュバントを用いた免疫原性組成物の開発が待ち望まれている。
【0004】
高い免疫活性化能を目指した新たなアジュバントの開発として、抗原を微粒子に内包する方法が試みられている。抗原を微粒子化して投与することで、抗原を単独で投与する場合と比較して抗体産生などの免疫反応が高まることが報告されているが、その効果は必ずしも高くなく、上述した水酸化アルミニウムアジュバントと同程度の効果が報告されているのみである。これは、これまで検討されてきた微粒子、例えば疎水性のポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合体ポリマーからなる微粒子は、タンパクなどの親水性の抗原分子を効率よく構造を保持した状態で内包させることが困難であることが原因として考えられる(非特許文献1)。
【0005】
近年、両親媒性ポリマーを利用した高分子量のタンパク質を高い効率で封入させうる新たな微粒子技術が報告されている(特許文献1、2)。この新しい微粒子については、薬物の徐放性能についての検討がなされているが、抗原を内包させた場合のアジュバント機能については全く検討がなされていない。さらに、抗原を含む微粒子がアジュバントとして機能するメカニズムは、抗原分子を徐放する機能と合わせて、抗原を含む微粒子が粒子ごと免疫細胞に取り込まれて細胞内で抗原を遊離するメカニズムが重要と考えられており、粒子からの薬物放出の機能とアジュバントとしての性能は一致しないと考えられているため、粒子の徐放性能からアジュバント機能を推測することは困難であり、既存の微粒子を用いた技術で、アルミニウムアジュバントをはるかにしのぐ性能を持つ効果的なアジュバントは、その開発が待望されているにもかかわらず、これまで実現されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2006/095668号
【特許文献2】特開2008−088158号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビューズ、2005年57号、391−410ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、少ない抗原量、少ない投与回数で高い免疫活性化能を有する免疫原性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を克服するために、本発明者らは、少量の抗原を用いて少ない投与回数で高い免疫活性化を起こすことのできる手段を検討した結果、アジュバント微粒子に抗原を内包させた抗原−アジュバント微粒子複合体からなる免疫原性微粒子および界面活性剤を有効成分として含有する免疫原性組成物が生体内で高い免疫活性化能を有することを見出した。すなわち、本発明は以下のような構成を有する。
【0010】
(1)疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーからなるアジュバント微粒子に抗原が内包された抗原−アジュバント微粒子複合体からなる免疫原性微粒子および界面活性剤を有効成分として含有する免疫原性組成物であって、界面活性剤が免疫原性微粒子に内包されてなる、免疫原性組成物。
【0011】
(2)前記免疫原性微粒子が抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子である、(1)に記載の免疫原性組成物。
【0012】
(3)前記界面活性剤が脂肪酸エステル構造を含む、(1)または(2)に記載の免疫原性組成物。
【0013】
(4)アジュバント微粒子が両親媒性ポリマーの親水性セグメントからなる親水性部分を内部に有し、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントからなる疎水部分の外層を有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0014】
(5)両親媒性ポリマーの親水性セグメントが多糖である、(1)〜(4)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0015】
(6)両親媒性ポリマーが多糖主鎖およびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖からなるグラフト型両親媒性ポリマーである、(1)〜(5)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0016】
(7)多糖がデキストランである、(5)または(6)に記載の免疫原性組成物。
【0017】
(8)ポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(乳酸−グリコール酸)である、(1)〜(7)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0018】
(9)前記界面活性剤がさらに単糖および/またはポリエチレングリコール構造を含む、(1)〜(8)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0019】
(10)前記界面活性剤がポリソルベート80、ポリソルベート20、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタンおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される1種または2種以上である、(1)〜(9)のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【0020】
(11)抗原を溶解した水系溶媒Aまたは疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bに界面活性剤を溶解し、それらを混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、および逆相エマルジョンから溶媒を除去する工程により得られる免疫原性微粒子を有効成分とする、免疫原性組成物。
【0021】
(12)抗原を溶解した水系溶媒Aおよび疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bを混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、逆相エマルジョンから溶媒を除去して抗原−アジュバント微粒子複合体を得る工程、および抗原−アジュバント微粒子複合体分散液Cを表面改質剤を溶解した液相Dに導入して分散媒を除去する工程を含む抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の製造工程において、水系溶媒A、水非混和性有機溶媒Bまたは分散液Cに界面活性剤を溶解させることにより得られる免疫原性微粒子を有効成分とする、免疫原性組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、従来よりも生体内で強力な免疫活性化が可能となる免疫原性組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】CEA含有免疫原性微粒子の免疫評価1。
図2】CEA含有免疫原性微粒子の免疫評価2。
図3】CEA含有免疫原性微粒子の免疫評価3。
図4】CEA含有免疫原性微粒子の免疫評価4。
図5】CEA含有免疫原性微粒子の免疫評価5。
図6】OVA含有免疫原性微粒子の免疫評価。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーからなるアジュバント微粒子に抗原が内包された抗原−アジュバント微粒子複合体からなる免疫原性微粒子および界面活性剤を有効成分として含有する免疫原性組成物に関する。
【0025】
まず、アジュバント微粒子を構成する両親媒性ポリマーについて説明する。両親媒性とは、親水性と疎水性の両方の性質を有しているということで、親水性とは、任意の部位の水への溶解度が、他の部位より高いとき、該部位を親水性であると言う。親水部位は、水に可溶であることが望ましいが、難溶であっても他の部位と比較して、水への溶解度が高ければ良い。また、疎水性とは、任意の部位の水への溶解度が、他の部位より低いとき、該セグメントを疎水性であるという。疎水性部位は、水に不溶であることが望ましいが、可溶であっても他の部位と比較して、水への溶解度が低ければ良い。
【0026】
両親媒性ポリマーとは分子全体として上述の両親媒性を有するポリマーである。ポリマーとは両親媒性ポリマーの親水性セグメントまたは疎水性セグメント、またはその両方が最小単位(モノマー)の繰り返し構造で構成された分子構造であることを示す。本発明における両親媒性ポリマーは親水性セグメントと疎水性セグメントを有した構造であればよく、親水性セグメントと疎水性セグメントがつながった直鎖状のブロックポリマーであっても良いし、親水性セグメントまたは疎水性セグメント、またはその両方が複数個存在する分岐を持った分岐ポリマー、親水性セグメントに複数の疎水性セグメントがグラフトされている、または疎水性セグメントに複数の親水性セグメントがグラフトされているグラフトポリマーでも良い。好ましくは親水性セグメントが1つのポリマーであり、最も好ましくは親水性セグメント、疎水性セグメントを1つずつ有する直鎖状のブロックポリマーまたは親水性セグメント主鎖に複数の疎水性セグメントがグラフトされているグラフトポリマーである。
【0027】
免疫原性組成物を構成する両親媒性ポリマーは、アジュバント微粒子としての性質を有する限りは親水部分または疎水部分、またはその両方が異なる構成ポリマーからなる複数種類の両親媒性ポリマー、構成ポリマーは同じでも複数種類の連結様式を持つ両親媒性ポリマーの集合であっても良いが、安定した性能を果たさせ、生産性を高めるためには、少ない種類の両親媒性ポリマーの集合であることが好ましく、より好ましくは主として2種類以下の両親媒性ポリマーの集合、さらに好ましくは主として単一種類の両親媒性ポリマーより構成されていることである。
【0028】
本発明においては、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントがポリ(ヒドロキシ酸)であることを特徴としている。ポリ(ヒドロキシ酸)であれば特に限定されないが、生体投与時に著しく有害な影響を与えない生体適合性ポリマーであることが好ましい。ここで言う生体適合性とはラットに該ポリマーを経口投与する場合のLD50が2,000mg/kg以上のものを指す。また、複数種類のヒドロキシ酸の共重合体であってもよいが、好ましくは2種類以下のヒドロキシ酸の重合体である。好ましいポリ(ヒドロキシ酸)の具体例としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(2−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(2−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプロン酸)、ポリ(2−ヒドロキシカプリン酸)、ポリ(リンゴ酸)またはこれらの高分子化合物の誘導体ならびに共重合体が挙げられるが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸またはポリ(乳酸−グリコール酸)の共重合体がより好ましい。また、ポリ(ヒドロキシ酸)がポリ(乳酸−グリコール酸)である場合、ポリ(乳酸−グリコール酸)の組成比(乳酸/グリコール酸)(モル/モル%)は、本発明の目的が達成される限り特に限定されないが、100/0〜30/70のものが好ましく、60/40〜40/60のものがより好ましい。
【0029】
両親媒性ポリマーの親水性セグメントについては特に限定されないが、疎水性セグメントと同様に生体適合性ポリマーであることが好ましい。また、両親媒性ポリマーからなるアジュバント微粒子に持続的なアジュバント能を付与するためには哺乳類または鳥類の生体内もしくは細胞内で分解されにくい難分解性ポリマーであることが好ましい。生体適合性分子であって難分解性ポリマーの具体例としてはポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ−1,3−ジオキソラン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー、ポリ−1,3,6−トリオキサン、ポリアミノ酸または難分解性の多糖(例えば、セルロース、キチン、キトサン、ジェランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルランもしくはデキストラン)が挙げられ、親水性セグメントがポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ−1,3−ジオキソラン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー、ポリ−1,3,6−トリオキサンまたはポリアミノ酸である場合、両親媒性ポリマーは親水性セグメントおよび疎水性セグメントを1つずつ有する直鎖状のブロックポリマーであることが好ましく、親水性セグメントが多糖である場合、両親媒性ポリマーは親水性セグメント主鎖に複数の疎水性セグメントがグラフトされているグラフトポリマーであることが好ましい。また、両親媒性ポリマーの親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールまたは難分解性の多糖であることが好ましく、多糖としてはデキストランがより好ましい。
【0030】
前記ポリ(ヒドロキシ酸)の疎水性セグメントと親水性セグメントからなる両親媒性ポリマーは、ポリマー全体として水非混和性の性質であることが、免疫原性組成物の抗原内包性および生体投与時の持続性が向上するため、好ましい。
【0031】
両親媒性ポリマーにおける親水性セグメントの平均分子量は特に限定されないが、親水性セグメントと疎水性セグメントが直鎖状に結合したブロックポリマーの場合、好ましくは1,000〜50,000であり、より好ましくは2,000〜15,000である。ここで、用語「ブロック」とは、ポリマー分子の一部分で,少なくとも5個以上のモノマー単位からなり,その部分に隣接する他の部分と化学構造上あるいは立体配置上異なるものを言い、少なくとも2以上のブロックが線状に連結してできたポリマーをブロックポリマーと言う。ブロックポリマーを構成する各ブロック自体が、2種類以上のモノマー単位からなる、ランダム、交互、グラジエントポリマーであっても良い。本発明においては、親水性セグメントを形成するポリマーとポリヒドロキシ酸がそれぞれ1つずつ連結したブロックポリマーであることが好ましい。
【0032】
また、親水性セグメント主鎖に疎水性セグメントがグラフトされているグラフトポリマーの場合、親水性セグメントの平均分子量は好ましくは1,000〜100,000であり、より好ましくは2,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000である。また、グラフト鎖の数は、好ましくは2から50である。グラフト鎖数はH−NMR測定によって得られる親水性セグメント主鎖と疎水性セグメント主鎖の比率および疎水性セグメントの平均分子量と、使用した親水性セグメント主鎖の平均分子量から求めることができる。
【0033】
疎水性セグメントと親水性セグメントの好ましい平均分子量比は両親媒性ポリマーによって異なるが、疎水性セグメントと親水性セグメントが直鎖状につながったブロックポリマーの場合、親水性セグメントと疎水性セグメントの平均分子量比は1:1以上が好ましく、1:2以上がより好ましく、1:4以上がさらに好ましく、特に好ましいのは1:4以上1:25以下である。
【0034】
親水性セグメント主鎖に複数の疎水性セグメントグラフト鎖が結合したグラフトポリマーの場合、親水性セグメント主鎖部と疎水性セグメントグラフト鎖全体の平均分子量比が1:3以上でかつ、各グラフト鎖の平均分子量が2,500〜40,000であることが好ましく、より好ましくは全体の平均分子量比が1:5以上で、各グラフト鎖の平均分子量が5,000〜40,000である。
【0035】
なお、前述の平均分子量とは特に断りがない限り数平均分子量を言う。数平均分子量とは、分子の大きさの重み付けを考慮しない方法で算出した平均分子量であり、両親媒性ポリマーおよび両親媒性ポリマーの親水性セグメントを構成するポリマーの数平均分子量はゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレンやプルラン換算の分子量として求めることができる。また、ポリ(ヒドロキシ酸)の平均分子量は核磁気共鳴(NMR)測定により、末端残基のピーク積分値と末端残基以外のピーク積分値の比から求めることができる。
【0036】
本発明で使用される両親媒性ポリマーは既知の方法で合成すれば良く、親水性セグメントとなるポリマーにポリ(ヒドロキシ酸)ポリマーを加えて縮合反応を行い製造する方法、親水性セグメントとなるポリマーにヒドロキシ酸活性化モノマーを加えて重合反応を行い製造する方法や、また逆にポリ(ヒドロキシ酸)重合体である疎水性セグメントに親水性セグメントを構成するモノマーを加えて重合反応を行う方法が例として挙げられる。
【0037】
例えば、ポリエチレングリコールおよびポリ(ヒドロキシ酸)からなる両親媒性ポリマーであれば、すず触媒存在下、ポリエチレングリコールにヒドロキシ酸活性化モノマーを加えて重合反応を行い、ポリ(ヒドロキシ酸)を導入することで両親媒性ブロックポリマーを製造する方法[Journal of Controlled Release,71,p.203−211(2001年)]により製造することができる。
【0038】
また例えば、多糖およびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖からなるグラフト型両親媒性ポリマーであれば、以下の(1)、(2)または(3)のようにして製造することができる。
(1)すず触媒存在下、多糖にヒドロキシ酸活性化モノマーを加えて重合反応を行い、ポリ(ヒドロキシ酸)を導入することでグラフト型両親媒性ポリマーを製造する方法[Macromolecules,31,p.1032−1039(1998年)]
(2)水酸基の大部分が置換基で保護された多糖の一部未保護の水酸基を塩基で活性化後、ヒドロキシ酸活性化モノマーを加えてポリ(ヒドロキシ酸)からなるグラフト鎖を導入し、最後に保護基を取り除くことにより、グラフト型両親媒性ポリマーを製造する方法[Polymer,44,p.3927−3933,(2003年)]
(3)多糖に対して、ポリ(ヒドロキシ酸)の共重合体を脱水剤および/または官能基の活性化剤を用いて縮合反応させることにより、グラフト型両親媒性ポリマーを製造する方法[Macromolecules,33,p.3680−3685(2000年)]。
【0039】
次に、アジュバント微粒子について説明する。アジュバント微粒子とは、アジュバント能を有する微粒子のことであり、アジュバント能とは抗原を生体内に投与した場合の免疫応答を、抗原単独を投与した時に比べて高く引き起こすことのできるものを示す。また、本発明においては、アジュバント微粒子は両親媒性ポリマーからなる微粒子であることを特徴とし、さらに、アジュバント微粒子は抗原を内包することで抗原−アジュバント微粒子複合体を形成し、該複合体が本発明の免疫原性組成物の有効成分である微粒子を構成することを特徴としている。
【0040】
アジュバント微粒子の構造としては特に限定されないが、両親媒性ポリマーの親水性セグメントをアジュバント微粒子の内側に有し、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントの外層を有した構造をとる場合、内包される抗原が安定に保持されるため、好ましい。
【0041】
アジュバント微粒子に内包される抗原の種類は特に限定されるものではなく、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、糖脂質、脂質、炭水化物、核酸、多糖類およびこれらを含むウイルス、菌体、アレルギー原因物質、組織、細胞、などであればよい。具体例を挙げると花粉由来抗原、A型肝炎ウイルス由来抗原、B型肝炎ウイルス由来抗原、C型肝炎ウイルス由来抗原、D型肝炎ウイルス由来抗原、E型肝炎ウイルス由来抗原、F型肝炎ウイルス由来抗原、HIVウイルス由来抗原、インフルエンザウイルス由来抗原、ヘルペスウイルス(HSV−1、HSV−2)由来抗原、炭疽菌由来抗原、クラジミア由来抗原、肺炎球菌由来抗原、日本脳炎ウイルス由来抗原、麻疹ウイルス由来抗原、風疹ウイルス由来抗原、破傷風菌由来抗原、水痘ウイルス由来抗原、SARSウイルス由来抗原、EBウイルス由来抗原、パピローマウイルス由来抗原、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacterpylori)菌由来抗原、狂犬病ウイルス由来抗原、ウエストナイルウイルス由来抗原、ハンタウイルス由来抗原、連鎖球菌由来抗原、ブドウ球菌由来抗原、百日咳(Bordetellapertussis)菌由来抗原、結核菌(Mycobacteriumtuberculosis)由来抗原、マラリア原虫(Plasmodium)由来抗原、ポリオウイルス由来抗原、各種人畜共通感染症由来抗原、癌抗原、各種食物アレルギー由来抗原などである。
【0042】
内包される抗原は単一である必要は無い。これは本発明の応用を考えた場合に、単独のタンパクやペプチドではなく、癌細胞や、細菌、ウイルスなど複数の構成物より構成されたものに対する免疫応答を起こすことがあり、この場合は免疫応答を起こしうる複数種類のタンパク質などや、種類の特定できない混合物でも良い。また積極的に複数種類の抗原に対する免疫応答をおこすことを目的とし、複数種類の抗原を含有させることも本発明の免疫原性組成物の利用形態の1つである。好ましくは3種類以下、より好ましくは単一種類である抗原がアジュバント微粒子に内包される。
【0043】
本発明における抗原−アジュバント微粒子複合体は、アジュバント微粒子を構成するポリマーの種類および調製方法により含有する抗原の保持性を変化しうる。本発明における抗原−アジュバント微粒子複合体が免疫原性をもたらすメカニズムとしては、アジュバント微粒子から放出された抗原が免疫担当細胞に認識される過程や、アジュバント微粒子ごと免疫担当細胞に認識される過程など複数の過程が考えられ、それらの過程の相乗効果によっても高い効果が得られる。
【0044】
抗原−アジュバント微粒子複合体が免疫担当細胞に抗原を認識させる過程は、その過程ごとに惹起される免疫反応の種類も異なり、生じさせたい免疫反応の種類や投与部位によって好ましい過程を選択すればよい。すなわち、抗原は抗原−アジュバント微粒子複合体から必ずしも放出される必要は無く、目的とする最良の免疫原性を有する形態は抗原と活性化させたい免疫反応の種類により最適化されることが好ましい使用方法である。しかし抗原が著しく速く抗原−アジュバント微粒子複合体から放出される場合は本発明の良好な性質である長期間の持続的な免疫活性化作用が得られないため、抗原−アジュバント微粒子複合体における抗原の10%以上が生体内に投与1週間後も複合体として保持されていることが好ましく、より好ましくは投与1週間後に50%以上が内包されていることである。これらの放出挙動は、生体内環境を模したin vitro評価により確認できる。
【0045】
また、抗原−アジュバント微粒子複合体は、該複合体が会合した粒子状態にあっても良好に効果を果たす、ここで言う会合とは、2以上の粒子が粒子間力もしくは他物質を介して結合し,集合体を形成することである。粒子間力は特に限定されないが、疎水性相互作用、水素結合、ファン・デル・ワールス力が挙げられる。会合は、微粒子同士が接している状態に限定されず、微粒子間に微粒子と親和性を有する物質が存在していても良く、マトリックスに微粒子が分散していても良い。微粒子に親和性を有する物質、マトリックスとしてはポリマーが好ましく、疎水性部分がポリ(ヒドロキシ酸)である両親媒性ポリマーであり、アジュバント微粒子と同じ構成成分であるポリマーがより好ましく、具体例として多糖主鎖およびポリ(ヒドロキシ酸)グラフト鎖からなる両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコールとポリ(ヒドロキシ酸)からなるブロックポリマーまたはポリ(ヒドロキシ酸)が挙げられる。
【0046】
抗原−アジュバント微粒子複合体の会合は、使用時に再分離する状態であっても良いし、再分離しない状態であってもよい。なお、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の形態が、該複合体が会合したことが分からない状態であっても、その製造工程に該複合体を会合させる工程を含む場合、該複合体が会合した粒子であると考える。
【0047】
抗原−アジュバント微粒子複合体または該複合体が会合した粒子の平均粒径は、0.1〜50μmであることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましい。特に、抗原−アジュバント微粒子複合体の平均粒径は、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.1〜0.5μmであり、抗原−アジュバント微粒子複合体の平均粒径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.1〜10μm、さらに好ましくは1〜10μmである。抗原−アジュバント微粒子複合体または該複合体が会合した粒子の平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM:例えば、株式会社日立製作所製 S−4800)による画像解析法を用いて直接平均粒径を測定することができる。
【0048】
前記抗原−アジュバント微粒子複合体または該複合体が会合した粒子は内包される抗原の免疫原性を増強する効果を有するが、本発明者は前記抗原−アジュバント微粒子複合体または該複合体が会合した粒子からなる免疫原性微粒子(以下、「免疫原性微粒子」という。)に界面活性剤を有効成分として内包することによって、内包される抗原の免疫原性をさらに増強することができることを見出した。すなわち、本発明の免疫原性組成物の有効成分である免疫原性微粒子には、構成成分として界面活性剤が内包されることを特徴としている。
【0049】
本発明で使用される界面活性剤は、特に限定されるものではなく、具体例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ソルビタン、モノミリスチン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド(ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミドなど)、レシチン、脂肪酸ナトリウム(ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなど)、アルキル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、アルキルグリコシドなどが挙げられる。また、本発明で使用される界面活性剤は1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0050】
また、本発明で使用される界面活性剤は医薬品添加物として実績のあることが好ましい。医薬品添加物として実績のある界面活性剤の具体例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ソルビタン、モノミリスチン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド(ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミドなど)、レシチン、脂肪酸ナトリウム(ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなど)、アルキル硫酸エステルナトリウム、などがあげられる。
【0051】
また、本発明で使用される界面活性剤はノニオン性界面活性剤であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ソルビタン、モノミリスチン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリオキエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド(ステアリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミドなど)などがあげられる。
【0052】
前記界面活性剤の中でも、脂肪酸エステル構造を含む界面活性剤が好ましく用いられる。脂肪酸エステル構造の具体例としては、ラウリン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、オレイン酸エステルもしくは硬化ヒマシ油が挙げられ、好ましくはラウリン酸エステル、オレイン酸エステルもしくは硬化ヒマシ油が挙げられる。脂肪酸エステル構造を含む界面活性剤の具体例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ソルビタン、モノミリスチン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0053】
また、脂肪酸エステル以外の構造としては、生体適合性の分子を含むことが好ましい。界面活性剤の脂肪酸エステル以外の生態適合性分子の具体例としては、アミノ酸、核酸、リン酸、糖(例えば、ショ糖、ソルビトール、マンノースもしくはグルコース等の単糖)、ポリエチレングリコールまたはグリセリンが挙げられるが、好ましくは単糖および/またはポリエチレングリコールで構成されることが好ましく、より好ましくはソルビトールである。脂肪酸エステル以外の構造として生体適合性の分子を含む界面活性剤の具体例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート85、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノパルミチン酸ソルビタン、モノミリスチン酸グリセリン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、トリオレイン酸ソルビタン、トリステアリン酸ソルビタン、ポリオキシチレン硬化ヒマシ油などが挙げられ、ポリソルベート80、ポリソルベート20、トリオレイン酸ソルビタンまたはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい具体例としてあげられる。
【0054】
免疫原性微粒子において、界面活性剤は微粒子に内包されている。ここでいう界面活性剤の内包とは、微粒子の内部に界面活性剤が存在する状態であり、微粒子内部の全体に存在していてもよく、微粒子内部の一部に局在していてもよい。界面活性剤の内包については、微粒子の製造工程に界面活性剤を内包させる工程を含む場合、界面活性剤を内包した粒子であると考える。免疫原性微粒子における界面活性剤の量は本発明の効果を阻害しない範囲においては特に制限はないが、免疫原性微粒子の製造工程における両親媒性ポリマーの仕込量に対して好ましくは0.01〜50%(w/w)、より好ましくは0.1〜20%(w/w)、さらに好ましくは1〜10%(w/w)である。免疫原性微粒子中の界面活性剤の量は、両親媒性ポリマーが溶解する溶媒を用いて免疫原性微粒子より界面活性剤を抽出し、該抽出液を精製後に逆相カラムを用いて液体クロマトグラフィーにて分析することで、該抽出液中に含まれる界面活性剤の量を測定する。該抽出液中に含まれる界面活性剤の量より、免疫原性微粒子の製造工程における両親媒性ポリマーの仕込量に対する界面活性剤の量を算出する。
【0055】
免疫原性微粒子を製造する方法としては限定されないが、免疫原性微粒子が抗原−アジュバント微粒子複合体で構成される場合の例を挙げると、(a)抗原を溶解した水系溶媒Aと両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bを混合することにより、逆相エマルジョンを形成する工程および(b)逆相エマルジョンから溶媒を除去して免疫原性微粒子を得る工程を含む方法によって製造することができる。以下、工程(a)および(b)について説明する。
【0056】
工程(a)における水系溶媒Aには、水あるいは水溶性成分を含有する水溶液を使用する。該水溶性成分として、例えば、無機塩類、糖類、有機塩類、アミノ酸などが挙げられる。
【0057】
また、工程(a)における水非混和性有機溶媒Bは、該両親媒性ポリマーのポリ(ヒドロキシ酸)が可溶で且つ、親水性セグメントを構成するポリマーが難溶または不溶であることが好ましく、さらに凍結乾燥により揮散除去できることが好ましい。該水非混和性有機溶媒Bの水への溶解度は、好ましくは30g(水非混和性有機溶媒B)/100ml(水)以下である。水非混和性有機溶媒Bの具体例としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、塩化メチレン、クロロフォルムが挙げられる。
【0058】
水非混和性有機溶媒Bに対する水系溶媒Aの比は、1,000:1〜1:1、好ましくは100:1〜1:1である。該水非混和性有機溶媒B中の両親媒性ポリマーの濃度は、水非混和性有機溶媒B、両親媒性ポリマーの種類によって異なるが、0.01〜90%(w/w)、好ましくは0.1〜50%(w/w)、より好ましくは、1〜20%(w/w)である。
【0059】
界面活性剤を工程(a)に使用する水系溶媒Aおよび水非混和性有機溶媒Bのいずれかに溶解することで、免疫原性微粒子に内包させることができる。工程(a)において添加される界面活性剤の量は、水非混和性有機溶媒Bに溶解する両親媒性ポリマー量に対して、好ましくは0.01〜50%(w/w)、より好ましくは0.1〜20%(w/w)、さらに好ましくは1〜10%(w/w)である。
【0060】
工程(a)における、水系溶媒A、両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bにより、逆相エマルジョンを形成する工程において、製剤学的目的に応じて、2種以上の両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bにより、逆相エマルジョンを形成しても良い。
【0061】
工程(a)においては、逆相エマルジョンの形成を補助し、均一かつ微小な逆相エマルジョンを形成する目的のために、共剤を添加することができる。共剤としては、炭素数3から6のアルキルアルコール、炭素数3から6のアルキルアミン、炭素数3から6のアルキルカルボン酸から選ばれる化合物が好ましい。これら共剤のアルキル鎖の構造は、特に限定されず、直鎖構造でも分岐構造でも良く、飽和アルキルでも、不飽和アルキルでも良い。本発明において、共剤としては、tert−ブタノール、iso−プロパノール、ペンタノールが特に好ましい。
【0062】
工程(b)において、逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱、減圧乾燥、透析、凍結乾燥、遠心操作、濾過、再沈殿および、それらの組み合わせが挙げられる。前記逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法の中でも、凍結乾燥は逆相エマルジョン中の粒子の合一などによる構造変化が少なく、好ましい。凍結乾燥の条件、装置としては、凍結過程と減圧下での乾燥工程を含むものであり、凍結乾燥の常法である予備凍結、減圧・低温下での一次乾燥、減圧下での二次乾燥を経る工程が特に好ましい。例えば抗原−アジュバント微粒子複合体の水非混和性溶媒分散体を得る場合は、逆相エマルジョンを構成する水系溶媒Aと水非混和性有機溶媒Bの融点以下に冷却・凍結し、次いで減圧乾燥することにより、凍結乾燥したアジュバント微粒子が得られる。予備凍結の温度としては、溶媒組成から適宜実験的に決定すれば良いが、−20℃以下が好ましい。また、乾燥過程における減圧度も、溶媒組成から適宜実験的に決定すれば良いが、3,000Pa以下が好ましく、500Pa以下が乾燥時間の短縮のためにより好ましい。凍結乾燥には、コールドトラップを備え真空ポンプと接続可能なラボ用凍結乾燥機や医薬品の製造などに用いられる棚式真空凍結乾燥機を使用することが好ましく、液体窒素、冷媒などによる予備凍結の後、冷却下または室温で真空ポンプなどの減圧装置で減圧乾燥を行えば良い。
【0063】
また、免疫原性微粒子が抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子で構成される場合の製造例を挙げると、(a’)抗原を溶解した水系溶媒Aおよび両親媒性ポリマーを溶解した水非混和性有機溶媒Bを混合することにより逆相エマルジョンを形成する工程、(b’)逆相エマルジョンから溶媒を除去して抗原−アジュバント微粒子複合体を得る工程、(c’)抗原−アジュバント微粒子複合体分散液Cを、表面改質剤を含む液相Dに導入し分散媒を除去する工程により、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合してなる免疫原性微粒子が得られる。
【0064】
工程(a’)における水系溶媒Aおよび工程(b’)における水非混和性有機溶媒は、前述の工程(a)および(b)と同じ条件である。
【0065】
工程(b’)において逆相エマルジョンから溶媒を除去する方法としては、前述の工程(b)の方法と同じ方法が採用される。
【0066】
工程(c’)において抗原−アジュバント微粒子複合体を分散させて該複合体分散液Cを調製する分散媒としては特に限定されるものではないが、アジュバント微粒子が内部に両親媒性ポリマーの親水性セグメントからなる親水性部分を有し、両親媒性ポリマーの疎水性セグメントからなる疎水部分を外層に有する場合は、その構造を保護する目的で、両親媒性ポリマーのポリ(ヒドロキシ酸)が可溶で且つ、親水性セグメントを構成するポリマーを実質的に溶解しない溶媒であることが好ましく、その場合、水非混和性有機溶媒でも水混和性有機溶媒であっても良い。両親媒性ポリマーのポリ(ヒドロキシ酸)が可溶で且つ、親水性セグメントを構成するポリマーを実質的に溶解しない溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、塩化メチレン、クロロフォルム、ジオキサン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0067】
工程(c’)における液相Dとしては、表面改質剤を可溶で且つ、分散液Cの分散媒よりも高い沸点を有することが好ましく、水系溶媒、水非混和性有機溶媒、水混和性有機溶媒のいずれであっても良い。ここでいう水系溶媒としては、水あるいは水溶性成分を含有する水溶液が好ましく、該水溶性成分として、例えば、無機塩類、糖類、有機塩類、アミノ酸などが挙げられる。水非混和性有機溶媒としては、例えば、シリコン油、ゴマ油、大豆油、コーン油、綿実油、ココナッツ油、アマニ油、鉱物油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、流動パラフィン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、グリセロール、オレイン酸などが挙げられる。水混和性有機溶媒としては、例えば、グリセリン、アセトン、エタノール、酢酸、ジプロピレングリコール、トリエタノールアミン、トリエチレングリコールなどが挙げられる。中でも本発明においては、液相Dは水系溶媒または水混和性有機溶媒であることが好ましい。液相Dが水系溶媒で、かつ、分散媒が水非混和性有機溶媒の場合には、得られる抗原−アジュバント微粒子複合体懸濁液は、いわゆるソリッド・イン・オイル・イン・ウォーター(S/O/W)型エマルジョンとなり、液相Dが水非混和性有機溶媒または水混和性有機溶媒でかつ分散媒と混和しない場合には、ソリッド・イン・オイル・イン・オイル(S/O1/O2)型エマルジョンとなる。
【0068】
界面活性剤を工程(a’)に使用する水系溶媒A、水非混和性有機溶媒Bまたは工程(c’)に使用する分散液Cに溶解することで、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した免疫原性微粒子に内包させることができる。一方、界面活性剤を工程(c’)に使用する液相Dに溶解した場合には、界面活性剤は抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した免疫原性微粒子の表面に結合してしまうため、本発明の効果を得ることができない。工程(a’)または(c’)において添加される界面活性剤の量は、水非混和性有機溶媒に溶解する両親媒性ポリマー量に対して、好ましくは0.01〜50%(w/w)、より好ましくは0.1〜20%(w/w)、さらに好ましくは1〜10%(w/w)である。
【0069】
工程(c’)において添加される表面改質剤としては、S/O/W型エマルジョンの水−油界面あるいはS/O1/O2型エマルジョンの油−油界面を安定化するものであることが好ましく、また、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子のコロイド安定性を向上させる性質を有する化合物であることが好ましい。ここでコロイド安定性を向上させるとは、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の溶媒中における凝集を防ぐことまたは遅延させることを言う。また表面改質剤は、1種でも複数の混合物でも良い。
【0070】
表面改質剤は、親水性ポリマーまたは両親媒性化合物であることが好ましい。
【0071】
表面改質剤である親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ−1,3−ジオキソラン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー、ポリ−1,3,6−トリオキサン、ポリアミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖類多糖類もしくはいずれかの類縁体であることが好ましい。該親水性ポリマーの類縁体としては、親水性ポリマーを長鎖アルキルなどの疎水基を部分的に修飾するなどしたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
表面改質剤であるポリエチレングリコール類縁体としては、BASF社から市販される“Pluronic”(BASF社の登録商標)もしくはその同等品が好ましい。
【0073】
表面改質剤であるポリアミノ酸としては、ポリアスパラギン酸もしくはポリグルタミン酸またはこれらの類縁体が好ましく、ポリアスパラギン酸もしくはポリグルタミン酸の一部に長鎖アルキル基を導入した類縁体はより好ましい。
【0074】
表面改質剤であるペプチドとしては、塩基性ペプチドが挙げられ、表面改質剤のタンパク質としては、ゼラチン、カゼインまたはアルブミンが粒子の分散性向上のために好ましい。その他、タンパク質としては、抗体も好ましい1例として挙げられる。
【0075】
表面改質剤である糖類としては、単糖類、オリゴ糖類、多糖類が好ましい。多糖類としては、セルロース、キチン、キトサン、ジェランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルランもしくはデキストランが好ましく、特にコレステロール化プルランは、粒子の分散性向上のために好ましく、セルロース、キチン、キトサン、ジェランガム、アルギン酸、ヒアルロン酸、プルランもしくはデキストランのいずれかの類縁体が好ましい。
【0076】
表面改質剤としてのこれらのペプチド、タンパク質または糖類は、長鎖アルキルなどの疎水基を部分的に修飾するなどした類縁体や前述の親水性ポリマーや両親媒性化合物を修飾した類縁体が特に好ましい。
【0077】
表面改質剤である両親媒性化合物としては、ポリオキシエチレンポリプロピレングリコール共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンジ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンジ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の非イオン性活性剤や、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩またはレシチンが好ましい。
【0078】
抗原−アジュバント微粒子複合体を分散させる分散媒に対する液相Dの容積比は、1,000:1〜1:1,000、好ましくは100:1〜1:100である。なお、この容積比に応じて得られる抗原−アジュバント微粒子複合体の会合数は変化し、液相Dの比率が高いほど多くの抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の水分散体が得られ、また、少ない場合は会合数が少なくなり、溶液比1:4よりも液相Dの比率が小さい場合には、大部分が抗原−アジュバント微粒子複合体1つから構成される粒子の水分散体となるため、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子を製造する一連の過程において、液相Dの容積比を調整することによって、抗原−アジュバント微粒子複合体と該複合体が会合した粒子を作り分けることができる。
【0079】
抗原−アジュバント微粒子複合体を含む分散媒を液相Dに混和させる場合には、必要であれば、例えば、マグネティックスターラーなどの撹拌装置、タービン型攪拌機、ホモジナイザー、多孔質膜を装備した膜乳化装置などを使用しても良い。
【0080】
液相Dには、表面改質剤に加え、製剤学的な目的に応じて、各種添加物、例えば、緩衝剤、抗酸化剤、塩、ポリマーまたは糖などを含有しても良い。また、抗原−アジュバント微粒子複合体を分散させる分散媒には、該複合体の分解もしくは崩壊による内包された抗原の放出速度の制御を目的に、分散媒に可溶な各種添加剤、例えば酸性化合物、塩基性化合物、両親媒性ポリマーまたは生分解性ポリマーなどを含有しても良い。
【0081】
その他、より微細な抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子を製造する目的で、形成されるソリッド・イン・オイル・イン・ウォーター(S/O/W)型エマルジョンまたはソリッド・イン・オイル・イン・オイル(S/O1/O2)型エマルジョンの乳化操作を行っても良い。乳化方法は、安定なエマルジョンを調製できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、撹拌による方法、高圧ホモジナイザー、高速ホモミキサーなどを用いる方法などが挙げられる。
【0082】
抗原−アジュバント微粒子複合体を一旦分散媒に分散させて、得られた分散液Cを、表面改質剤を含む液相Dに添加した場合には、分散媒を除去することで、所望のアジュバント微粒子が会合した粒子の懸濁液が得られる。分散媒を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、液中乾燥、透析、凍結乾燥、遠心操作、濾過、再沈殿が挙げられ、液中乾燥、凍結乾燥が特に好ましい。液相Dとして水系溶媒を用いた場合には、本工程により、抗原−アジュバント微粒子複合体が会合した粒子の水系分散体が得られる。
【0083】
なお、表面改質剤が免疫原性微粒子に結合しているものについても好ましい態様のひとつである。ここでいう結合とは非共有結合であっても共有結合であっても良い。非共有結合は、好ましくは疎水的な相互作用であるが、静電相互作用、水素結合、フアン・デル・ワールスカでも良く、それらが複合した結合でも良い。非共有結合においては、両親媒性ポリマーを含む免疫原性微粒子のポリ(ヒドロキシ酸)と表面改質剤の疎水部分とが、疎水的な相互作用により結合していることが好ましく、この場合、抗原−アジュバント微粒子複合体の分散媒が水、緩衝液、生理食塩水、表面改質剤水溶液または親水性溶媒である微粒子分散体であることが好ましい。
【0084】
本発明における免疫原性組成物とは、生体内で免疫応答を起こしうる組成物であり、前記免疫原性微粒子を有効成分として含んでいる。免疫原性組成物が生じさせる免疫応答の種類は限定されない。生じさせる免疫応答の種類としてはTh1型免疫応答やTh2型免疫応答があり、抗原や投与部位、投与方法の種類によってどちらかの免疫応答に優位に生じることが知られるが、本発明はTh1型、Th2型両方のタイプの免疫応答を生じさせうる。Th1型の免疫反応は、実施例で示すように小粒径の本発明の抗原−アジュバント微粒子複合体または該複合体が会合した粒子により効果的に生じさせることができる。Th1型の免疫応答とTh2免疫応答の度合いに関しては既知の様々な方法で評価できる。例を挙げるとマウスの場合はIgG2a抗体の産生量がTh1型免疫応答の指標として知られる。またTh2型免疫応答の指標としてはIgG1抗体、総IgG抗体量が指標として知られる。
【0085】
また、本発明の免疫原性組成物はさらに免疫活性化物質を含むことで高い免疫活性化活性を実現することができる。これらの免疫活性化物質はアジュバント微粒子の外であっても内包されていても良いが、アジュバント微粒子に内包されていることが好ましい。免疫活性化物質として例をあげると、オイル類、アルミニウム塩、カルシウム塩、ゲル性高分子、免疫活性化サイトカイン、TLR受容体リガンドなど免疫活性化物質として機能しうるものであれば限定されないが、免疫活性化サイトカインまたはTLR受容体リガンドが好ましい。
【0086】
免疫活性化サイトカインとしては、インターロイキン12、インターフェロンα、インターロイキン18、TNFα、インターロイキン6、NO、インターフェロンγ、インターフェロンβがあげられる。
【0087】
TLR受容体リガンドとしては、リポタンパク質、polyI:C、polyI:CLCなどの2本鎖RNA、フラジェリン、1本鎖RNA、CpG、プロフィリン、MPL、QS21、TDMであり、好ましくは2本鎖RNA、1本鎖RNA、CpGなどの核酸であり、より好ましくはCpGである。ここでCpGとはウイルス、細菌などに存在する非メチル化CpG(シトシン−グアニン)モチーフDNAを示す(特表2001−503254号公報参照)。CpGモチーフには様々な有効配列が報告されているが、配列の種類は免疫活性化能をもつ限りは制限されず、塩基アナログを使用したものでも、各種修飾体でも良い。
【0088】
本発明の免疫原性組成物を医薬品組成物やワクチンとして用いる場合、両親媒性ポリマー、親水性活性物質、表面改質剤、分散媒の他に製剤学的に有用な各種添加剤を含有していても良く、添加できる添加物として好ましくは、緩衝剤、抗酸化剤、塩、ポリマーまたは糖である。
【0089】
本発明の免疫原性組成物を用いて、免疫応答を起こす方法については限定されず、免疫原性組成物を生体に投与しても良いし、生体外に摘出した免疫担当細胞に接触させても良い。免疫原性組成物を生体に投与する方法としては限定されないが、例を挙げると、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、経鼻投与、経肺投与、経口投与、経皮投与、舌下投与、腟内投与、腹腔内投与、リンパ節投与などであり、好ましくは皮内投与または皮下投与である。
【0090】
本発明の免疫原性組成物を用いて免疫応答を起こす場合の使用容量については目的とする免疫反応を生じさせるのに必要な抗原量は抗原の種類や投与方法、投与回数によって適宜設定されるが、例えばヒトに対して本発明の免疫原性組成物を皮下投与して免疫応答を誘導する場合、免疫原性組成物に含有する抗原量として1回あたり0.01〜1,000μgが投与される。また、投与回数についても使用用量と同様に適宜設定されるが、本発明の免疫原性組成物は持続的に免疫応答を生じさせる作用を有しているため、1〜10回の投与により免疫応答を誘導することが可能である。
【0091】
投与する生体はヒトであってもヒト以外の動物であってもよいが、好ましくはヒトあるいは家畜、愛玩動物または実験動物として飼育されているブタ、ウシ、トリ、ヒツジ、ウマ、ロバ、ヤギ、ラクダ、イヌ、ネコ、フェレット、ウサギ、サル、ラット、マウスまたはモルモットである。
【実施例】
【0092】
以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されない。
【0093】
実施例1 デキストラン−ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)の合成
(1−1)TMS−デキストラン(化合物(1))の合成
デキストラン(ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級適合品、数平均分子量13,000、5.0g)をホルムアミド(100ml)に加え、80℃に加熱した。この溶液に1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(100ml)を20分掛けて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を室温に戻し、分液漏斗で2層を分離した。上の層を減圧下濃縮した後、メタノール(300ml)を加え、得られた固体をろ過、乾燥し、TMS−デキストラン(化合物(1))(11.4g)を白色固体として得た。
【0094】
(1−2)デキストラン−PLGA(化合物(2))の合成
化合物(1)(0.5g)とtert−ブトキシカリウム(35mg)を加熱減圧下2時間乾燥後、テトラヒドロフラン(10ml)を加え、1.5時間室温で攪拌した。この溶液に(DL)−ラクチド(0.56g)とグリコリド(0.9g)のテトラヒドロフラン(15ml)溶液を滴下し、5分間攪拌後、酢酸を2滴加えて反応を停止させた。反応終了後、溶媒を減圧下濃縮し、クロロフォルム−メタノール系およびクロロフォルム−ジエチルエーテル系で再沈殿精製を行うことによって得られる白色固体をクロロフォルム(9ml)に溶解した。この溶液にトリフルオロ酢酸(1.0ml)を加え、室温で30分間攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下留去後、残渣をクロロフォルム(10ml)に溶解し、0℃に冷却したジエチルエーテルに滴下することにより得られた生成物をろ過することにより両親媒性ポリマーであるデキストラン−PLGAを白色固体として得た(化合物(2))。H−NMR測定によりデキストラン−PLGAのPLGAグラフト鎖の数平均分子量5571、グラフト鎖数30と決定した。
【0095】
実施例2 免疫原性微粒子(粒子(1)〜(10)および比較粒子(1)、(2))の調製
実施例1のデキストラン−ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)(化合物(2))5mgを炭酸ジメチル100μlに溶解し、50mg/mlの両親媒性ポリマー溶液(B)を調製した。両親媒性ポリマー溶液(B)にtert−ブタノール20μlを添加後、0.025%(w/v)CEA(癌胎児性抗原)(コスモバイオ社))水溶液(A)50μlを滴下し、ボルテックスミキサーで撹拌して逆相エマルジョンを製造した。
【0096】
該逆相エマルジョンを液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥した。得られた固形分を炭酸ジメチル200μlに分散させ、分散液(C)を調製した。分散液(C)を表1に示す表面改質剤(ポリビニルアルコールまたはPluronic F−68)を10%(w/v)含む水溶液2mlに滴下し、ボルテックスミキサーで撹拌・乳化させてS/O/W型エマルジョンを調製した。該S/O/W型エマルジョンから液中乾燥により炭酸ジメチルを除去して、免疫原性微粒子懸濁液とした。該懸濁液を15mlチューブに移し、8,000rpm、10分間の遠心により粒子を沈殿させた。上清を除いた後に、粒子を10mlの蒸留水に再懸濁し、上記条件での遠心により粒子を再度沈殿させた。この洗浄操作をもう一度繰り返し、上清を除いた後に粒子を5%(w/v)マンニトール、0.5%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび0.1%(w/v)ポリソルベート80を含む水溶液200μlに懸濁させた。該懸濁液を液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥することで、免疫原性微粒子を得た。
【0097】
界面活性剤は、表1に示すように、CEA水溶液(A)、両親媒性ポリマー溶液(B)および分散液(C)のいずれかの溶液に対して、ポリソルベート80、ポリソルベート20、トリオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン(いずれも関東化学社製)およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日光ケミカル社製)のいずれかを、両親媒性ポリマー量に対して10%(w/w)に相当する500μgを溶解した。
【0098】
【表1】
【0099】
実施例3 免疫原性微粒子における抗原内包率の測定
<方法>
実施例2の方法で作成した免疫原性微粒子(粒子(3)〜(7)および比較粒子(2))を200μlのリン酸緩衝生理食塩水で懸濁し、粒子懸濁液を調製した。粒子懸濁液100μlをエッペンドルフチューブに移し、1mlの蒸留水を加えて13,000rpm、10分間の遠心により粒子を沈殿させた。上清を除いた後、粒子を1mlの蒸留水に再懸濁し、上記条件での遠心により粒子を再度沈殿させた。上清を除いた後、粒子を塩化メチレンとアセトンを1:3の割合で混合した混合溶液0.5mlに溶解させた。該粒子溶解液を13,000rpm、10分間の遠心によりCEAを沈殿させた。上清を除いた後、沈殿を混合溶液0.5mlに溶解し、上記条件での遠心によりCEAを再度沈殿させた。上清を除いた後、30分間遠心乾燥を行いCEAの沈殿を乾燥させた。CEAの沈殿にゲル電気泳動用サンプリングバッファー(TEFCO社製)を加え95℃で3分間溶解させた後に、ポリアクリルアミドゲル(TEFCO社製)を用いてゲル電気泳動を行った。泳動後、コロイドCBB染色キット(TEFCO社製)を用いて染色を行い、CEAの粒子への内包率を算出し表2に示した。
【0100】
<結果>
免疫原性微粒子の抗原(CEA)内包率は表2のようになり、いずれの界面活性剤の含有した免疫原性微粒子(粒子(3)〜(7))でも、界面活性剤を含有していない粒子(比較粒子(2))と同程度の内包率であり、界面活性剤は免疫原性微粒子における抗原の内包率に悪影響を与えないことが示された。
【0101】
【表2】
【0102】
実施例4 CEA含有免疫原性組成物のマウス皮下投与(1)
<方法>
実施例2で作成したポリソルベート80およびトリオレイン酸ソルビタンを含有する免疫原性微粒子(粒子(1)、(2))を200μlのリン酸緩衝生理食塩水で懸濁し投与溶液とした。本溶液を、7週令の雄Balb/Cマウス(日本SLC社)の背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。比較例としては界面活性剤を含まない粒子(比較粒子(1))、またはCEA溶液50μlとアジュバントとして“Imject Alum”(サーモ・サイエンティフィック社製、以下、Alumとも言う。)50μlを混合した溶液をそれぞれBalb/Cマウスの背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。それぞれの条件ごとに5匹のマウスに投与し、抗体価の経時変化を図1に示した。
【0103】
投与したマウスは自由に給餌、給水可能な環境で飼育し、経時的に尾静脈より採血を行った。採取した血液は、終濃度3.3IU/mlのヘパリンを添加して5,000rpmで5分間遠心して血漿を回収し、血漿中のCEAに対する抗体価を測定した。CEAに対する抗体価は、以下の方法で測定を行った。96穴マイクロプレート(Nunc社製 MaxiSorp)に、1μg/mlのCEAタンパクを含むPBS溶液100μlを入れ、4℃で1晩静置した。溶液を捨て、0.5% BSAを含むPBS400μlを入れて室温で2時間ブロッキングを行った。ウェルを洗浄液(0.05% Tween20を含むPBS)400μlで1回洗浄後、希釈液(0.25% BSA、0.05% Tween20を含むPBS)で1,000倍から100,000倍に希釈した血漿サンプル100μlを入れ、室温で40分間振とう反応を行った。ウェルを洗浄液で3回洗浄後、HRP(西洋わさびペルオキシダーゼ)標識抗マウスIgG抗体(Zymed社)(希釈液で10,000倍希釈)100μlを入れ、室温で20分間振とう反応を行った。ウェルを洗浄液で3回洗浄後、発色液(0.006% 過酸化水素、0.2mg/ml テトラメチルベンジジンを含む0.1M 酢酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.5))を100μl入れ、室温で10分間振とう反応を行った。1N 硫酸100μlを加えて反応を停止し、マイクロプレートリーダーを用いて、450nmの吸光度を測定した。標準サンプルとして、段階希釈した抗CEAモノクローナル抗体(Affinity Bioreagents社製 MA1−5308)を同時に測定し、これを検量線として、各サンプル中の抗体量を重量濃度(ng/ml)に換算した。
【0104】
<結果>
血漿中の抗CEA抗体価の平均値の経時変化を図1に示す。ポリソルベート80を含有した粒子(1)およびトリオレイン酸ソルビタンを含有した粒子(2)は8週間にわたり持続的な抗体価上昇効果を示し、比較例である抗原+Alumの投与を大きく上回った。また界面活性剤を含まない比較粒子(1)に比べても高い抗体価を示し、免疫原性微粒子は界面活性剤の含有することでより強いアジュバント能を持つことが示された。
【0105】
実施例5 CEA含有免疫原性組成物のマウス皮下投与(2)
<方法>
実施例2で作成した免疫原性微粒子(粒子(3)〜(7))を実施例4に示す方法で7週令の雄Balb/Cマウス(日本SLC社)の背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。比較例としては界面活性剤を含まない粒子(比較粒子(2))をBalb/Cマウスの背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。それぞれの条件ごとに5匹のマウスに投与し図2では抗体価の平均値を示した。採血および抗体価の測定は実施例4に示す方法で行った。
【0106】
<結果>
投与後4週間目の血漿中の抗CEA抗体価の平均値を図2に示す。実施例4で示したポリソルベート80またはトリオレイン酸ソルビタンを含有した粒子((3)、(4))と同様に、ポリソルベート20、モノオレイン酸ソルビタンまたはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を含有した粒子((5)〜(7))においても、界面活性剤を含有していない比較粒子(2)に比べて高い抗体価を示し、免疫原性微粒子は界面活性剤を含有することでより強いアジュバント能を持つことが示された。
【0107】
実施例6 CEA含有免疫原性組成物のマウス皮下投与(3)
<方法>
実施例2で作成したポリソルベート80を含有する免疫原性微粒子(粒子(8)〜(10))を実施例4に示す方法で7週令の雄Balb/Cマウス(日本SLC社)のフットパッドに1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。また比較例として抗原溶液50μlとAlum50μlを混合した溶液をBalb/Cマウスのフットパッドに1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。それぞれの条件ごとに3匹のマウスに投与し図3では抗体価の平均値を示した。抗体価の測定は実施例4に示す方法で行った。
【0108】
<結果>
投与後2週間目の血漿中の抗CEA抗体価の平均値を図3に示す。調製工程においてポリソルベート80を溶解した溶液の異なる粒子((8)〜(10))の抗体価は、いずれも比較例である抗原+Alumの投与を大きく上回った。すなわち、界面活性剤をCEA水溶液(A)、両親媒性ポリマー溶液(B)および分散液(C)のいずれに溶解した場合に得られる免疫原性微粒子も強いアジュバント能を持つことが示された。
【0109】
実施例7 免疫原性微粒子に含有される界面活性剤の測定
<方法>
実施例2で作製したポリソルベート80を含有する免疫原性微粒子(粒子(1))を1mlの蒸留水に懸濁させて13,000rpm、10分間の遠心により粒子を沈殿させた。上清を除いた後、粒子を1mlの蒸留水に再懸濁し、上記条件での遠心により粒子を再度沈殿させた。上清を除いた後、粒子を100μlの酢酸エチルに溶解させた。該粒子溶解液に300μlのエタノールを加えた後に13,000rpm、10分間の遠心により両親媒性ポリマーを沈殿させた。上清を回収し、減圧留去により溶媒を除いたのちに、残渣を100μlの蒸留水に溶解させることで粒子抽出液を作成した。該粒子抽出液を逆相カラム(YMC−Pack PROTEIN−RP、YMC社製)を用いて高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)により分析することで、免疫原性微粒子に含まれるポリソルベート80の含量を測定した。
【0110】
<結果>
高速液体クロマトグラフィーによる分析により、該粒子抽出液中に0.24(w/v)%のポリソルベート80が含まれていることが確認された。本結果より、免疫原性微粒子を構成する両親媒性ポリマーの仕込量に対して4.8(w/w)%のポリソルベート80が免疫原性微粒子中に含まれることが明らかとなり、実施例2の調製工程において添加したポリソルベート80の48%(w/w)が免疫原性微粒子中に含まれることが示された。
【0111】
実施例8 CEA含有免疫原性微粒子(粒子(11)〜(15)および比較粒子(3)〜(5))の調製
実施例1で作成したデキストラン−ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)(化合物(2))5mgを炭酸ジメチル100μlに溶解し、50mg/mlの両親媒性ポリマー溶液(B)を調製した。両親媒性ポリマー溶液(B)にtert−ブタノール20μlを添加後、0.025%(w/v)CEA(癌胎児性抗原)(コスモバイオ社))水溶液(A)50μlを滴下し、ボルテックスミキサーで撹拌して逆相エマルジョンを製造した。
【0112】
該逆相エマルジョンを液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥した。得られた固形分を炭酸ジメチル200μlに分散させ、分散液(C)を調製した。分散液(C)を表面改質剤(Pluronic F−68)を10%(w/v)含む水溶液(D)2mlに滴下し、ボルテックスミキサーで撹拌・乳化させてS/O/W型エマルジョンを調製した。該S/O/W型エマルジョンから液中乾燥により炭酸ジメチルを除去して、免疫原性微粒子懸濁液とした。該懸濁液を15mlチューブに移し、8,000rpm、10分間の遠心により粒子を沈殿させた。上清を除いた後に、粒子を10mlの蒸留水に再懸濁し、上記条件での遠心により粒子を再度沈殿させた。この洗浄操作をもう一度繰り返し、上清を除いた後に粒子を5%(w/v)マンニトール、0.5%(w/v)カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび0.1%(w/v)ポリソルベート80を含む水溶液(注射液(E))200μlに懸濁させた。該懸濁液を液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥することで、免疫原性微粒子を得た。
【0113】
界面活性剤は、表3に示すように、CEA水溶液(A)、両親媒性ポリマー溶液(B)および分散液(C)のいずれかの溶液にポリソルベート80を両親媒性ポリマー量に対して10%(w/w)、1%(w/w)および0.1%(w/w)のいずれかに相当する量を溶解し、粒子(11)〜(15)を調製した。また、比較粒子として、表面改質剤を含む水溶液(D)および注射液(E)のいずれかの溶液に対してポリソルベート80を両親媒性ポリマー量に対して10%(w/w)に相当する量を溶解して、界面活性剤が免疫原性微粒子の表面に結合した比較粒子(3)、界面活性剤と免疫原性微粒子が結合せずに共存している比較粒子(4)を調製するとともに、免疫原性微粒子の調製の工程中に界面活性剤を添加しない比較粒子(5)を調製した。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例9 CEA含有免疫原性組成物のマウス皮下投与(4)
<方法>
実施例8で作成した免疫原性微粒子(粒子(11)〜(13))を実施例4に示す方法で7週令の雄Balb/Cマウス(日本SLC社)の背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。比較例としては界面活性剤の添加方法の異なる粒子(比較粒子(3)、(4))をBalb/Cマウスの背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。それぞれの条件ごとに5匹のマウスに投与し図4では抗体価の平均値を示した。採血および抗体価の測定は実施例4に示す方法で行った。
【0116】
<結果>
投与後5週間目の血漿中の抗CEA抗体価の平均値を図4に示す。界面活性剤をCEA水溶液(A)、ポリマー溶液(B)および分散液(C)に添加した粒子(粒子(11)〜(13))の場合には、S/O/W型エマルジョン内部に界面活性剤が存在するため、界面活性剤は微粒子に内包されている。一方、表面改質剤を含む水溶液(D)に添加した粒子(比較粒子(3))の場合には、S/O/W型エマルジョン外部にポリソルベート80が存在するため、界面活性剤は微粒子の表面に結合して存在している。注射液(E)に添加した粒子(比較粒子(4))の場合には、界面活性剤と微粒子が結合せずに共存している。界面活性剤を内包した免疫原性微粒子(粒子(11)〜(13))は、界面活性剤が表面に結合して存在する粒子(比較粒子(3))や界面活性剤が表面に結合せずに存在している場合(比較粒子(4))に比べ高い抗体価を示したことから、本発明においては界面活性剤が免疫原性微粒子に内包されることが重要であることが示された。
【0117】
実施例10 CEA含有免疫原性組成物のマウス皮下投与(5)
<方法>
実施例8で作成した免疫原性微粒子(粒子(11)、(14)、(15))を実施例4に示す方法で7週令の雄Balb/Cマウス(日本SLC社)の背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。比較例としては界面活性剤を含まない粒子(比較粒子(5))をBalb/Cマウスの背部皮下に1匹あたりCEA5μgとなるように単回注射投与した。それぞれの条件ごとに5匹のマウスに投与し図5では抗体価の平均値を示した。採血および抗体価の測定は実施例4に示す方法で行った。
【0118】
<結果>
投与後3週間目の血漿中の抗CEA抗体価の平均値を図5に示す。界面活性剤を内包した粒子(粒子(11)、(14)、(15))は、界面活性剤を含まない粒子(比較粒子(5))に比べて高い抗体価を示した。また、界面活性剤を内包した粒子の間では、界面活性剤の添加量が多い粒子がより高い抗体価を示したことより、粒子に内包される界面活性剤の量が多いほうがより高い効果が得られることが示された。
【0119】
実施例11 免疫原性微粒子に含有される界面活性剤の測定(2)
<方法>
実施例8で作製した免疫原性微粒子(粒子(11)〜(13)および比較粒子(3))を用いて、実施例7示す方法で免疫原性微粒子に含まれるポリソルベート80の含量を測定した。
【0120】
<結果>
高速液体クロマトグラフィーによる分析により、免疫原性微粒子を構成する両親媒性ポリマーの仕込量および製造工程で添加した量に対するポリソルベート80の含量を表4に示す。界面活性剤をCEA水溶液(A)、ポリマー溶液(B)および分散液(C)に添加した粒子(粒子(11)〜(13))では、調製工程より界面活性剤は微粒子に内包されているため、実施例8の調製工程において添加した界面活性剤の約30%(w/w)が粒子に含まれることが示された。一方、界面活性剤を表面改質剤を含む水溶液(D)に添加した粒子(比較粒子(3))では界面活性剤が微粒子の表面に結合してしまうため、調製工程で添加した界面活性剤の約3%しか含まれないことが示された。
【0121】
【表4】
【0122】
実施例12 OVA含有免疫原性微粒子(粒子(16)〜(18)および比較粒子(6))の調製
実施例1で作成したデキストラン−ポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)(化合物(2))5mgを炭酸ジメチル100μlに溶解し、50mg/mlの両親媒性ポリマー溶液(B)を調製した。両親媒性ポリマー溶液(B)にtert−ブタノール20μlを添加後、0.25%(w/v) OVA(卵白アルブミン)(シグマ社))水溶液(A)50μlを滴下し(OVA仕込量:125μg)、ボルテックスミキサーで撹拌して逆相エマルジョンを製造した。
【0123】
該逆相エマルジョンを液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥した。得られた固形分を炭酸ジメチル200μlに分散させ、分散液を調製した。分散液を表面改質剤(Pluronic F−68)を10%(w/v)含む水溶液(C)2mlに滴下し、ボルテックスミキサーで撹拌・乳化させてS/O/W型エマルジョンを調製した。該S/O/W型エマルジョンから液中乾燥により炭酸ジメチルを除去して、免疫原性微粒子懸濁液とした。該懸濁液をナスフラスコに移し、液体窒素で予備凍結した後、凍結乾燥機(EYELA、FREEZE DRYER FD−1000)を用いて、トラップ冷却温度−45℃、真空度20Paにて24時間凍結乾燥することで、免疫原性微粒子を得た。
【0124】
界面活性剤は、表5に示すように、OVA水溶液(A)および両親媒性ポリマー溶液(B)のいずれかに対して、ポリソルベート80、モノオレイン酸ソルビタン(いずれも関東化学社製)およびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日光ケミカル社製)のいずれかを、両親媒性ポリマー量に対して10%(w/w)に相当する500μgを溶解した。
【0125】
【表5】
【0126】
実施例13 OVA含有免疫原性組成物のマウス腹腔マクロファージを用いたin vitro刺激試験
<方法>
マウス腹腔マクロファージを用いたin vitro刺激試験を以下に示す方法で行った。オスBalb/cマウス12週齢の腹腔内に26G注射針(テルモ社)を用いて、刺激液としてチオグリコール酸培地(GIBCO社)5mlを投与し、自由給餌下で72時間飼育した。ドライアイスを用いて安楽死させたマウスの腹腔内に26G注射針を用いてPBS溶液(0℃、フィルター濾過済)10mlを注入したのち、マウス腹部をマッサージしつつ5分間放置した。その後、マイクロピペットを用いて、マウス腹腔細胞を含む溶液を回収した。
【0127】
回収した溶液は冷却遠心器(日立製作所社製、himacCF16RX)をもちいて4℃、400g×5分の条件で遠心し、マウス腹腔細胞を沈殿させたのち、上清を除去し、再度、RPMI1640培地(GIBCO社)(以下、洗浄溶液)10mlを加えて再懸濁させた。再び400g×5分、4℃の条件で遠心し、上清を除去した後、24ウェルプレート(イワキ社マイクロプレート、Flat Bottom Tissue culture Treated,Polystyrene)に1ウェルあたり8×10細胞となるように5% FBS(SIGMA社)、100単位/mlペニシリン(Invitrogen)、100単位/mlストレプトマイシン(Invitrogen)を含むRPMI1640培地(以下、培養培地)1mlとともに播種した。播種したプレートはCOインキュベーター(NAPCO社)を用いて、5% CO、37℃、湿度100%の条件(マクロファージ培養条件)で3時間インキュベートし、その後、マイクロピペットを用いて強く懸濁することで、プレートに接着しなかった細胞を除去後、プレートに接着したマウス腹腔マクロファージのみとした、細胞は培養培地を加えてマクロファージ培養条件で5日間インキュベートした後に、実験に用いた。
【0128】
細胞に添加する粒子としては、実施例12で作製した界面活性剤を内包した免疫原性微粒子(粒子(16)〜(18))の凍結乾燥状態のものを前処理して用いた。具体的には、1.5mlチューブに粒子を構成する両親媒性ポリマー量で3mg相当の粒子を計りとり洗浄溶液を加え、0℃に事前に冷却したのちに、8400g、10分の条件で3回洗浄後、マウス腹腔マクロファージを播種した24ウェルプレート1ウェルあたりに500μlの培養培地とともに添加した。比較例としては、界面活性剤を含まない粒子(比較粒子(6))を同様に添加した。
【0129】
また、別の比較例(比較例(1)〜(3))として、表6に示すように、マウス腹腔マクロファージを播種した24ウェルプレート1ウェルあたり、粒子(16)〜(18)に含まれるOVA量と同じ75μg(両親媒性ポリマー仕込量とOVA仕込量の重量比から換算。)のOVAおよび300μgのポリソルベート80、モノオレイン酸ソルビタンおよびポリオキシエチレン硬化ヒマシ油のいずれかを500μlの培養培地とともに添加し、また、比較例(4)として75μgのOVAを500μlの培養培地とともに添加した。
【0130】
【表6】
【0131】
粒子を添加した細胞を24時間培養したのちに、培地を回収し、培地に含まれるTNFα量をELISAにて測定した。ELISAによる測定にはサーモ・サイエンティフィック社のキットを用いた。
【0132】
<結果>
培地中のTNFαの濃度を図6に示す。界面活性剤を内包した粒子(粒子(16)〜(18))は内包しない粒子(比較粒子(6))に比べ高いTNFα濃度を示した。TNFαは免疫誘導を行うサイトカインの1種であり、粒子に界面活性剤を内包することで効率的に免疫が誘導されることが示された。また、粒子化していない抗原および界面活性剤を添加した比較例(比較例(1)〜(4))では、TNFαの濃度が粒子化した場合に比べて低いことより、免疫の誘導には粒子化が重要であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の免疫原性組成物は、感染症や癌などの治療および/または予防のためのワクチンとして利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6