特許第5895790号(P5895790)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許5895790-産業用車両 図000002
  • 特許5895790-産業用車両 図000003
  • 特許5895790-産業用車両 図000004
  • 特許5895790-産業用車両 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5895790
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】産業用車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/04 20060101AFI20160317BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20160317BHJP
   F15B 1/26 20060101ALI20160317BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20160317BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20160317BHJP
   B66F 9/075 20060101ALN20160317BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20160317BHJP
【FI】
   B60K11/04 B
   B60L11/18 G
   F15B1/26
   H01M8/06 W
   H01M8/04 Z
   !B66F9/075 Z
   !H01M8/10
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-211044(P2012-211044)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-65377(P2014-65377A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2014年10月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤森 弘幸
【審査官】 川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−272288(JP,A)
【文献】 特開2005−248920(JP,A)
【文献】 特開2009−026604(JP,A)
【文献】 特開2004−335177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧駆動装置を有する産業用車両において、
燃料電池と、
前記燃料電池の起電反応によって生成された水を処理する排水処理機構と、
前記油圧駆動装置に供給される作動油、及び前記油圧駆動装置から排出される作動油を貯留する作動油タンクとを有し
前記作動油タンクに対して前記排水処理機構を近接配置し、前記作動油タンクの熱を前記排水処理機構に伝達させることを特徴とする産業用車両。
【請求項2】
油圧駆動装置を有する産業用車両において、
燃料電池と、
前記燃料電池の起電反応によって生成された水を処理する排水処理機構と、
前記油圧駆動装置に供給される作動油、及び前記油圧駆動装置から排出される作動油を貯留する作動油タンクとを有し
前記燃料電池と前記排水処理機構はユニット化されて外板で覆われており、
前記作動油タンクに対して前記排水処理機構を近接配置し、前記作動油タンクの熱を前記排水処理機構に伝達させており、
前記外板における前記作動油タンクからの熱伝達部位には断熱部材が設けられており、前記熱伝達部位は、前記熱伝達部位以外の前記外板の部位とは断熱されていることを特徴とする産業用車両。
【請求項3】
前記排水処理機構は、前記作動油タンクに積まれて配置されている請求項1又は請求項2に記載の産業用車両。
【請求項4】
前記排水処理機構には、前記水を移送する移送管を含む請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の産業用車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧駆動装置と燃料電池システムを有する産業用車両に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と空気中の酸素とを反応させて発電する燃料電池システムを搭載した産業用車両が実用化されている。燃料電池では、水素と酸素による起電反応によって水が生成される。
ところで、燃料電池システムを搭載した産業用車両としてのフォークリフトは、例えば、寒冷地などで使用される場合や、大型の冷蔵庫や冷凍庫に保管されている荷物を出し入れする場合にも利用される。このため、燃料電池の起電反応によって生成された水が凍結する虞がある。そこで、従来、燃料電池システムの凍結を抑制するための構造が、例えば、特許文献1で提案されている。特許文献1では、燃料電池を断熱材料で形成された断熱壁で覆い、温度センサが0℃を検出して凍結のおそれがある場合、貯水タンクなどの凍結部位に対して断熱壁の周囲で温められた空気を供給し、凍結を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−272288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造は、燃料電池を断熱壁で覆うとともに、凍結のおそれがある場合には断熱壁周囲の空気を凍結部位に対して供給する構造を必要とすることから、凍結を抑制するための構造が複雑である。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、簡単な構成により、燃料電池システムの凍結を抑制し得る産業用車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、油圧駆動装置を有する産業用車両において、燃料電池と、前記燃料電池の起電反応によって生成された水を処理する排水処理機構と、前記油圧駆動装置に供給される作動油、及び前記油圧駆動装置から排出される作動油を貯留する作動油タンクとを有し、前記作動油タンクに対して前記排水処理機構を近接配置し、前記作動油タンクの熱を前記排水処理機構に伝達させることを要旨とする。
【0007】
これによれば、排水処理機構と作動油タンクを近接配置させることで、作動油タンクの熱を排水処理機構に伝達させることができる。したがって、排水処理機構の凍結を抑制することができる。また、作動油タンクと排水処理機構の配置によって凍結を抑制させるので、構成を簡素化することができる。
上記問題点を解決するために、請求項2に記載の発明は、油圧駆動装置を有する産業用車両において、燃料電池と、前記燃料電池の起電反応によって生成された水を処理する排水処理機構と、前記油圧駆動装置に供給される作動油、及び前記油圧駆動装置から排出される作動油を貯留する作動油タンクとを有し、前記燃料電池と前記排水処理機構はユニット化されて外板で覆われており、前記作動油タンクに対して前記排水処理機構を近接配置し、前記作動油タンクの熱を前記排水処理機構に伝達させており、前記外板における前記作動油タンクからの熱伝達部位には断熱部材が設けられており、前記熱伝達部位は、前記熱伝達部位以外の前記外板の部位とは断熱されていることを要旨とする。
これによれば、排水処理機構と作動油タンクを近接配置させることで、作動油タンクの熱を排水処理機構に伝達させることができる。したがって、排水処理機構の凍結を抑制することができる。また、作動油タンクと排水処理機構の配置によって凍結を抑制させるので、構成を簡素化することができる。また、断熱部材を設けることで、熱伝達部位以外の外板の部位へ熱が逃げて行くことを抑制できる。したがって、排水処理機構の凍結を抑制することができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の産業用車両において、前記排水処理機構は、前記作動油タンクに積まれて配置されていることを要旨とする。これによれば、作動油タンクの熱を確実に排水処理機構へ伝達させることができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のうち何れか一項に記載の産業用車両において、前記排水処理機構には、前記水を移送する移送管を含むことを要旨とする。これによれば、水を移送させる移送管が凍結すると、燃料電池の発電効率を低下させる要因となるので、作動油タンクの熱を移送管へ伝達させることで凍結を抑制できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成により、燃料電池システムの凍結を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】フォークリフトの側面図。
図2】燃料電池システムの概略構成図。
図3】作動油タンクと、生成水タンク及び配管の配置を模式的に示す模式図。
図4】別例を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1図3にしたがって説明する。
図1に示すように、産業用車両としてのフォークリフト10には、車体11の前部にマスト12が設けられている。マスト12にはフォーク13がリフトブラケット14を介して昇降可能に装備されるとともに、油圧駆動装置としての油圧式のリフトシリンダ15の伸縮運動によりフォーク13がリフトブラケット14とともに昇降される。また、マスト12は、油圧駆動装置としての油圧式のティルトシリンダ16の伸縮運動により傾動される。車体11の前下部には駆動輪(前輪)17が設けられるとともに、駆動輪17は車軸に装備された差動装置およびギヤ(いずれも図示せず)を介して走行用モータ18により駆動される。
【0014】
車体11には、リフトシリンダ15及びティルトシリンダ16の各油室に作動油を給排するための油圧機構19が搭載されている。油圧機構19は、各シリンダ15,16に供給される作動油、及び各シリンダ15,16から排出される作動油を貯留する作動油タンク20、作動油タンク20から作動油を汲み上げる油圧ポンプを駆動する荷役用モータ21、及び作動油を流通させる配管などによって構成される。また、車体11には、燃料電池システム22が搭載されている。燃料電池システム22は、走行用モータ18や荷役用モータ21の電源として使用される。
【0015】
次に、図2にしたがって燃料電池システム22の構成を説明する。
図2に示すように、燃料電池23は、例えば固体高分子型の燃料電池が使用される。燃料電池23の水素供給ポートには流路24を介して水素タンク25が接続されている。流路24には燃料電池23へ供給される水素の圧力を調整する図示しない調圧弁が設けられている。また、コンプレッサ26が備えられ、コンプレッサ26は、流路27を介して加湿器28に接続されている。加湿器28は、供給流路29を介して燃料電池23の酸素供給ポートに接続されるとともに、流路30を介してオフガス排出ポートに接続されている。そして、コンプレッサ26で加圧された空気が加湿器28で加湿された後、燃料電池23の酸素供給ポートに供給されるとともに、燃料電池23のカソード極からのオフガス(カソードオフガス)は流路30を介して加湿器28に排出される。
【0016】
燃料電池23は、水素タンク25から供給される水素と、コンプレッサ26から供給される空気中の酸素とを反応させて直流の電気エネルギー(直流電力)を発生する。この際、燃料電池23の起電反応によって水が生成される。そして、加湿器28は排出流路31を介して希釈器32に接続されるとともに、排出流路31には調圧バルブ33が設けられている。
【0017】
また、燃料電池23のアノード極からのオフガス(アノードオフガス)は流路34を介して希釈器32に排出される。流路34には開閉弁35が設けられている。また、流路34には、気液分離器36が設けられている。気液分離器36で分離された水素は、流路37を介して燃料電池23と水素タンク25との間の流路24に戻され、燃料電池23に供給される。
【0018】
希釈器32は、タンク38を具備し、タンク38において分離した生成水が蓄えられる。希釈器32には排出管39を介してベンチュリ式霧化器40が接続されている。ベンチュリ式霧化器40のベンチュリノズル41には希釈器32からのガスが供給される。ベンチュリノズル41は流路の一部が絞られており、この絞り部41aにおいて流速が速くなり負圧が発生する。即ち、ベンチュリノズル41でのガスの通過に伴い負圧が発生する。
【0019】
ベンチュリ式霧化器40のベンチュリノズル41の絞り部41aと希釈器32のタンク底部とは生成水の供給管42により接続されている。生成水の供給管42の途中にはベンチュリバルブ43が設けられている。ベンチュリバルブ43を開けた状態において、ベンチュリノズル41において生ずる負圧により、燃料電池23で生成され、タンク38に蓄えられた生成水を吸引して霧化することができる。
【0020】
また、燃料電池23には、冷却機構44が接続されている。冷却機構44は、燃料電池23の冷却液と空気を熱交換することにより、燃料電池23の冷却液を冷却する。そして、冷却機構44に供給された冷却液は、空気との熱交換後に燃料電池23へ供給されて、燃料電池23を冷却する。
【0021】
図1及び図3に示すように、作動油タンク20には、燃料電池システム22において生成水を処理する排水処理機構45が積まれて配置されている。排水処理機構45は、生成水、又は生成水を含むガスが移送される移送管としての流路30,34、及び排出流路31と、生成水を貯留するタンク38からなる。そして、排水処理機構45は、作動油タンク20に積まれて配置されることにより、作動油タンク20に対して近接配置される。タンク38は、その底部側が作動油タンク20に近接配置されている。なお、近接配置には、すぐ近くに配置されている場合に限らず、接触して配置されている場合も含む。
【0022】
以下、本実施形態の作用を説明する。
燃料電池23の起電反応によって生成された水は、タンク38に貯留されている場合や、流路30,34、及び排出流路31に付着されている場合がある。このため、フォークリフト10が低温環境下で長時間駐車している場合や運転している場合には、生成水が凍結するおそれがある。
【0023】
一方、リフトシリンダ15やティルトシリンダ16に供給される作動油は、フォークリフト10の運転中であれば圧力損失にて温度の高い状態が保たれる。そして、作動油は、運転停止後においてその温度が低下し難い。つまり、作動油は、比較的、長い時間を掛けて温度が低下する。このため、作動油タンク20は、運転中、及び運転停止後、温度が高められた作動油によって温められる。これにより、作動油タンク20に近接配置された排水処理機構45には、作動油タンク20の熱が伝達される。
【0024】
したがって、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)排水処理機構45を作動油タンク20に対して近接配置することで、作動油タンク20の熱を排水処理機構45に伝達させることができる。したがって、排水処理機構45の凍結を抑制することができる。また、作動油タンク20と排水処理機構45の配置によって凍結を抑制させるので、構成を簡素化することができる。
【0025】
(2)排水処理機構45を作動油タンク20に積んで配置しているので、作動油タンク20の熱を確実に排水処理機構45へ伝達させることができる。
(3)排水処理機構45を構成する流路30,34、及び排出流路31などの生成水を移送させる管を作動油タンク20に近接配置している。これらの管は、生成水が管壁に付着し、そのまま凍結する可能性がある。これらの管が凍結すると、燃料電池23の発電効率を低下させる要因となるので、作動油タンク20の熱を伝達させることで凍結を抑制できる。また、排水処理機構45を構成するタンク38についても作動油タンク20の熱を伝達させることで凍結を抑制できる。
【0026】
(4)また、作動油タンク20は、作動油の熱が低下し難いことから、長時間に亘って発熱状態を維持する。したがって、作業終了後、翌日の作業開始までの間の凍結を抑制する構成として適している。そして、作動油タンク20は、フォークリフト10などの油圧駆動装置を有する車両が必ず具備する構成であるから、凍結対策のためにヒータなどの新たな部材をフォークリフト10に搭載させる必要もない。したがって、コスト増を招くことなく、凍結対策を施すことができる。
【0027】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
図4に示すように、燃料電池システム22を外板(ケース)46で覆う場合には、作動油タンク20に近接配置させる部位、すなわち熱伝達させる部位を、他の外板46の部位と断熱する断熱部材47を配置すると良い。この構成によれば、作動油タンク20から伝達される熱が外板46を伝って逃げていくことを抑制できる。したがって、タンク38などの排水処理機構45の凍結を抑制できる。なお、燃料電池システム22を外板46で覆う構成は、フォークリフトの場合、リプレイスメントを行うときに採用される。例えば、リプレイスメントは、鉛蓄電池を電源とするフォークリフトにおいて鉛蓄電池を燃料電池に載せ換える場合などに行われる。
【0028】
図4に示す断熱部材47を配置させる構成は、リプレイスメントする場合に限らず、当初から燃料電池システム22を搭載する車両に適用しても良い。
○ 作動油タンク20に対してタンク38を並設しても良い。
【0029】
○ タンク38を囲むように作動油タンク20の形状を変更しても良い。
○ 作動油タンク20に対してタンク38のみを近接配置しても良いし、流路30,34、及び排出流路31などの移送管のみを近接配置しても良い。
【0030】
○ 燃料電池システム22の構成を変更しても良い。例えば、ベンチュリ式霧化器40を省略し、生成水をタンク38に貯留することで生成水を処理する構成としても良い。
○ ベンチュリ式霧化器40を作動油タンク20に近接配置しても良い。
【0031】
○ フォークリフト以外の燃料電池式の産業用車両に具体化しても良い。
○ 油圧駆動装置としては、油圧式のリフトシリンダや油圧式のティルトシリンダなどの荷役用の油圧駆動装置に限られず、例えば走行用の油圧モータなど走行用の油圧駆動装置であっても良い。
【0032】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)排水処理機構には、水を貯留するタンクを含む請求項1〜請求項4のうち何れか一項に記載の産業用車両。
【0033】
(ロ)車両は、鉛蓄電池を前記燃料電池に載せ換えたリプレイスメント車両である請求項1〜請求項4、及び前記技術的思想(イ)のうち何れか一項に記載の産業用車両。
【符号の説明】
【0034】
10…フォークリフト、15…リフトシリンダ、16…ティルトシリンダ、20…作動油タンク、23…燃料電池、30,34…流路、31…排出流路、45…排水処理機構、46…外板、47…断熱部材。
図1
図2
図3
図4