(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5895908
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】III族窒化物系化合物半導体、III族窒化物系化合物半導体の形成されたウエハ及びIII族窒化物系化合物半導体素子
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20160317BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
C30B29/38 D
H01L21/205
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-177108(P2013-177108)
(22)【出願日】2013年8月28日
(62)【分割の表示】特願2008-212461(P2008-212461)の分割
【原出願日】2008年8月21日
(65)【公開番号】特開2013-241337(P2013-241337A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2008-17543(P2008-17543)
(32)【優先日】2008年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】新田 州吾
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 義樹
(72)【発明者】
【氏名】牛田 泰久
(72)【発明者】
【氏名】中田 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】坊山 晋也
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−232640(JP,A)
【文献】
特開2000−106455(JP,A)
【文献】
特開2002−362999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B1/00−35/00
C23C16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、
前記基板の前記凹凸の表面は窒化されており、該凹凸は、前記主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、前記主面に平行でない側面とを有し、
前記基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、
前記III族窒化物系化合物半導体は、前記基板の前記凹凸の前記側面から横方向にエピタキシャル成長した状態にあり、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、前記凸部の前記頂上面を横方向に覆って前記凹凸を覆っている半導体であり、
前記III族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体。
【請求項2】
主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、
前記基板はc面を主面とするサファイア基板であり、
前記凹凸は、前記主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、前記主面に平行でない側面とを有し、
前記基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、
前記III族窒化物系化合物半導体は、前記基板の前記凹凸の前記側面から横方向にエピタキシャル成長した状態にあり、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、前記凸部の前記頂上面を横方向に覆って前記凹凸を覆っている半導体であり、
前記III族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体。
【請求項3】
前記成長させたIII族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、m面、又は、a面であることを特徴とする請求項2に記載の半導体。
【請求項4】
主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、
前記基板は、a面を主面とするサファイア基板であり、
前記凹凸は、前記主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、前記主面に平行でない側面であって、サファイアのc面からのオフ角が45度以下である側面とを有し、
前記基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、
前記III族窒化物系化合物半導体は、前記基板の前記凹凸の前記側面から横方向にエピタキシャル成長した状態にあり、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、前記凸部の前記頂上面を横方向に覆って前記凹凸を覆っている半導体であり、
前記III族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体。
【請求項5】
前記成長させたIII族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、m面であることを特徴とする請求項4に記載の半導体。
【請求項6】
主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、
前記基板は、a面を主面とするサファイア基板であり、
前記凹凸は、前記主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、前記主面に平行でない側面とを有し、
前記側面と前記主面との交線は、前記サファイア基板のa面内において、m軸からc軸方向に0度以上40度以下の範囲で傾斜しており、
前記基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、
前記III族窒化物系化合物半導体は、前記基板の前記凹凸の前記側面から横方向にエピタキシャル成長した状態にあり、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、前記凸部の前記頂上面を横方向に覆って前記凹凸を覆っている半導体であり、
前記III族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体。
【請求項7】
前記成長させたIII族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、m面であることを特徴とする請求項6に記載の半導体。
【請求項8】
主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、
前記基板は、m面を主面とするサファイア基板であり、
前記凹凸は、前記主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、前記主面に平行でない側面とを有し、
前記側面と前記主面の交線は、前記サファイア基板のm面内において、a軸からc軸方向に15度以上90度以下の範囲で傾斜しており、
前記基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、
前記III族窒化物系化合物半導体は、前記基板の前記凹凸の前記側面から横方向にエピタキシャル成長した状態にあり、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、前記凸部の前記頂上面を横方向に覆って前記凹凸を覆っている半導体であり、
前記III族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、前記側面の前記基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体。
【請求項9】
前記成長させたIII族窒化物系化合物半導体の前記主面に平行な面の結晶方位面は、(11−22)面、r面、又はm面であることを特徴とする請求項8に記載の半導体。
【請求項10】
前記基板の前記凹凸の表面は窒化されていることを特徴とする請求項2乃至請求項9の何れか1項に記載の半導体。
【請求項11】
前記凹凸の平面形状をストライプ状とすることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の半導体。
【請求項12】
前記凹凸の平面形状を格子状とすることを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の半導体。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の半導体を有した半導体素子。
【請求項14】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の半導体を有したウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はいわゆるウルツァイト構造のIII族窒化物系化合物半導体及びその製造方法に関する。本発明は特にエピタキシャル成長によりm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体を得る方法に関する。
尚、本願においてIII族窒化物系化合物半導体とは、Al
xGa
yIn
1-x-yN(x、y、x+yはいずれも0以上1以下)で示される半導体、及び、n型化/p型化等のために任意の元素を添加したものを含む。更には、III族元素及びV族元素の組成の一部を、B及び/又はTl、並びに/或いは、P、As、Sb及び/又はBiで置換したものをも含むものとする。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物系化合物半導体発光素子が広く使用される様になり、その特性改良が幅広く行われている。ここで、III族窒化物系化合物半導体発光素子の製造方法は、サファイアその他の異種基板にIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させるものが一般的である。その際、III族窒化物系化合物半導体の膜厚方向はc軸となり、主面はc面となるエピタキシャル成長方法が最も普及している。
【0003】
一方、例えば多重量子井戸等がc軸方向に積層されている場合(積層された各層の境界がc面に平行である場合)には、III族窒化物系化合物半導体発光素子内部の歪によりピエゾ電界が発生し、量子効率の低下が生じることが知られている。また、発光素子以外のHEMT等の素子を形成する場合も、内部歪によるピエゾ電界の発生は好ましくない。
そこで、エピタキシャル成長させるIII族窒化物系化合物半導体の膜厚方向を、c軸以外の方向にする技術が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−036561号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】奥野浩司ら、電子情報通信学会技術研究報告ED2002−20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1はマスクを形成して、好まざる成長軸方向の結晶が混在することを避けるものである。非特許文献1に記載された技術では、好まざる成長軸方向の結晶が混在することを避けることができない。本発明者らは非特許文献1の技術を応用して、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、主面上に凹凸が形成され、III 族窒化物半導体と異なる材料から成る基板と、該基板の上に成長させたIII族窒化物系化合物半導体とを有する半導体において、凹凸は、主面に平行な凹部の底面と凸部の頂上面と、主面に平行でない側面とを有し、基板とIII族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されておらず、III族窒化物系化合物半導体は、基板の凹凸の側面から横方向にエピタキシャル成長し
た状態にあり、側面の基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体が、凸部の頂上面を横方向に覆って凹凸を
覆っている半導体であり、III族窒化物系化合物半導体の主面に平行な面の結晶方位面は、
側面の基板の結晶方位によって決定される結晶方位を有する半導体により形成される結晶方位面のみから成る半導体である。
第1の発明においては、基板の凹凸の表面は窒化されている。
第2の発明においては、基板はc面を主面とするサファイア基板である。その場合に、成長させたIII族窒化物系化合物半導体の主面に平行な面の結晶方位面は、m面、又は、a面とすることができる。
【0008】
また、
第3の発明においては、基板は、a面を主面とするサファイア基板であり、側面は、サファイアのc面からのオフ角が45度以下
である。その場合に、成長させたIII族窒化物系化合物半導体の主面に平行な面の結晶方位面は、m面とすることができる。
さらに、
第4の発明においては、基板は、a面を主面とするサファイア基板であり、側面と主面との交線は、サファイア基板のa面内において、m軸からc軸方向に0度以上40度以下の範囲で、m軸と交差した線分と
している。その場合に、成長させたIII族窒化物系化合物半導体の主面に平行な面の結晶方位面は、m面とすることができる。
【0009】
また、
第5の発明においては、基板は、m面を主面とするサファイア基板であり、側面と主面の交線は、サファイア基板のm面内において、a軸からc軸方向に15度以上90度以下の範囲で、a軸と交差している線分と
している。その場合には、成長させたIII族窒化物系化合物半導体の主面に平行な面の結晶方位面は、(11−22)面、r面、又はm面とすることができる。
【0010】
上記の
第2乃至第5の発明において、基板の凹凸の表面は窒化されていることが望ましい。
また、上記
全発明において、凹凸の平面形状をストライプ状としたり、格子状とすることができる。
また、本発明は、上記の半導体を有した半導体素子、特に、半導体発光素子とすることができる。さらに、本発明は、上記の半導体を有したウエハとすることができる。
【0011】
[親出願の記載内容]
以下の特徴を有した発明も、本件明細書には記載されている。
第1の特徴は、凹凸の側面のうち、法線ベクトルの異なる2種の面の一方を、III族窒化物系化合物半導体がエピタキシャル成長しにくい材料により覆うことである。
他の特徴は、凹凸の側面のうち、法線ベクトルの異なる2種の面の一方の表面に凹凸又は荒れを形成してIII族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長を困難とさせることである。尚、この場合、法線ベクトルの異なる2種の面の一方の面を例えばエッチング等により形成した後に当該面に凹凸又は荒れを形成しても、当該凹凸又は荒れを有する面を初めから形成しても良い。
【0012】
また、他の特徴は、加熱処理する工程は、アルミニウム又はアルミニ ウムの化合物を供給することにより厚さ1Å以上40Å以下のアルミニウム薄膜を形成することである。
他の特徴は、トリメチルアルミニウムを供給することによりアルミニウム薄膜を形成することである。
他の特徴は、アルミニウム薄膜を形成する工程を300℃以上420℃以下の温度で行うことである。
他の特徴は、加熱処理する工程は、水素雰囲気下、900℃以上1200℃以下の所定温度までの昇温中と当該所定温度での20分以下の保持を行うことである。
他の特徴は、加熱処理する工程においては、アンモニアその他のIII族窒化物系化合物半導体の窒素源となりうる反応性窒素化合物を供給しないことである。
【0013】
他の特徴は、主面とは異り、主面よりもIII族窒化物系化合物半導体が結晶性し易い側面を有する凹凸が形成されているサファイア基板上に、当該側面上にエピタキシャル成長させて、所望の面方位の主面としたIII族窒化物系化合物半導体が形成されたウエハである。
他の特徴は、主面がa面であるサファイア基板上に、m面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体が形成されたウエハであって、サファイア基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間に、III族窒化物系化合物半導体以外の材料から成る被膜が全く形成されていないことである。
他の特徴は、主面がa面であるサファイア基板上に、m面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体が形成されたウエハであって、サファイア基板と前記III族窒化物系化合物半導体との間の、前記サファイア基板の主面であるa面の少なくとも一部の領域には、III族窒化物系化合物半導体以外の材料からなる被膜が形成されていないことである。
他の特徴は、凹凸加工により基板の主面以外の面が形成され、当該面の少なくとも一部にIII族窒化物系化合物半導体が接していることである。
他の特徴は、上記のウエハ上に形成され、分割されたことを特徴とするIII族窒化物系化合物半導体素子である。
【発明の効果】
【0014】
例えば特許文献1では、ある面を主面とするサファイア等の異種基板に、所望の結晶成長面を有する凹凸を形成し、他の面は被覆して結晶成長が生じないようにし、例えばその異種基板の結晶成長面に垂直方向にIII族窒化物系化合物半導体のc軸が一致するようにエピタキシャル成長を生じさせて、異種基板の主面に垂直方向にIII族窒化物系化合物半導体の所望の軸方向を得るものである。
本発明者らの検討によれば、非特許文献1に記載された技術では、サファイア基板の主面と平行にIII族窒化物系化合物半導体のc面とm面が混在したエピタキシャル成長が生じるばかりであった。
本発明者らが更に検討を加えたところ、主面がa面であり、c面からのオフ角が45度以下である側面を少なくとも有する凹凸を主面に形成したサファイア基板を用い、表面にアルミニウム薄膜を形成した後、窒化処理する際の条件を最適化することで、サファイア基板の主面と平行にIII族窒化物系化合物半導体のm面が形成されることがわかった。
【0015】
本発明者らの上記工程におけるエピタキシャル成長機構は次の通りである。
図1.A及び
図1.Bは、以下の実施例で行った場合の説明図である。これに基づき説明する。
図1.Aの様に主面をa面とするサファイア基板の表面に、六角柱(六角錐台)状の凸部が適当な間隔で形成されるものとする。
図1.Aでは凸部を1個のみ示している。ここで、六角柱(六角錐台)状の凸部の側面に、c面からのオフ角が45度以下である側面が形成されているとする。
図1.Aでは灰色とした側面と、それと向かい合うもう一つの面である。六角柱(六角錐台)状の凸部の他の側面はc面に平行でも垂直でもないので、c面でもなく、また、m面でもa面でもない。
本発明者らの検討によると、厚さ40Å以下のアルミニウム薄膜を、
図1.Aのような凸部を有する主面をa面としたサファイア基板に形成し、その後窒化処理によりAlN膜としたのちにIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させると、主として六角柱(六角錐台)状の凸部のc面からのオフ角が45度以下である側面から、サファイアのc軸とIII族窒化物系化合物半導体のc軸が一致するように、III族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長が主として生じる。この際、サファイアの凸部の他の側面からや、a面であるサファイアの凸部の頂上面やサファイアの凹部の面からは速い成長が生じない。
こうして、サファイアの六角柱(六角錐台)状の凸部のc面からのオフ角が45度以下である側面からの、サファイアのc軸とIII族窒化物系化合物半導体のc軸が一致するようなIII族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長が主として生じ、いわゆる横方向エピタキシャル成長(ELO)的にサファイア基板表面を全て埋めていく。この際、サファイア基板の主面であるa面(及びその法線であるa軸)と平行に、III族窒化物系化合物半導体のm面(及びその法線であるm軸)が形成されるように、エピタキシャル成長が進む(
図1.B)。各軸にはGaNの軸か、サファイア(Sap.)の軸かを添え字で示した。これは、c面を主面とするサファイア基板にIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させる場合に、サファイア基板のa軸方向とIII族窒化物系化合物半導体のm軸方向が一致するとの公知の事実と整合する。
尚、
図1.Cのような凸部(凹凸)を形成しても良い。
図1.Cの凸部は、ストライプ状であって、段差の頂上面と底面がサファイア基板のa面、段差の側面がc面のみである。
また、
図1.Bに示した通り、凹凸の側面から成長するIII族窒化物系化合物半導体は、−c方向に成長し、その表面は−c面である。これは、成長途中のIII族窒化物系化合物半導体をアルカリ溶液に浸して、当該成長面が極めてエッチングされやすいことから結論付けられた。
【0016】
凹凸加工は、例えばエッチングマスクを用いたドライエッチングにより行うと良い。
図1.Dの平面図のエッチングマスク(ハッチングした部分)を用いてドライエッチングを行えば、
図1.Eのようなストライプ状の凸部を有する基板が得られる。
図1.Fの平面図のエッチングマスク(ハッチングした部分)を用いてドライエッチングを行えば、
図1.Gのような格子状の凸部を有する基板が得られる。
図1.Eのサファイア基板は、ストライプ状の凸部の側面が全てc面である。
図1.Eの形状のサファイア基板上にIII族窒化物系化合物半導体発光素子を形成した場合、基板の凹凸形状によりIII族窒化物系化合物半導体層との界面での屈折による光取り出し効果が、
図1.A形状のサファイア基板上にIII族窒化物系化合物半導体発光素子を形成した場合に比較して劣る。これは
図1.Eに示すように、凹凸が、主面であるa面に対して平行であるm軸に対して平行な面のみで形成されているため、発光の進行方向の、当該m軸方向に進行する成分が、凹凸により屈折の影響を全く受けないためである。そこで光取り出し効果を向上させるため、
図1.Gのような格子状の凸部を有する基板に加工すると良い。この際、m面となる凸部の側面は、III族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長には用いられないので、
図1.Fのエッチングマスクにおいては図面内の横方向のマスク部分を細く且つ少なく形成することで、a面を主面とするサファイア基板に形成されるべき凹凸の側面のc面の面積の減少を抑制すると良い。
【0017】
また、以上の凹凸を形成したのみであってもm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体は形成可能であるが、全てのサファイア基板の凹凸の側面であるc面からIII族窒化物系化合物半導体を形成すると、不連続面が形成されてしまう。即ち、
図1.Hの断面図に示した通り、向かい合うサファイア基板の凹凸の側面であるc面からは、III族窒化物系化合物半導体がその−c軸方向にエピタキシャル成長するため、向かい合うIII族窒化物系化合物半導体の接合面は不連続面となってしまう。尚、
図1.H乃至
図1.Lではサファイア基板の凸部の側面はc面からわずかにオフした面であるが、説明を簡略化するため単にc面と呼ぶ。
そこで、
図1.Iの断面図のように、サファイア基板の凹凸の側面のうち、法線ベクトルの向きが揃ったc面を残し、それとは逆向きのc面を、III族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長が生じない材料によりマスクすると良い。この場合、マスクされていないc面は全て法線ベクトルが揃っているので、エピタキシャル成長するIII族窒化物系化合物半導体の−c方向は全て揃う。即ち、異なるサファイア基板の凹凸の側面であるc面からエピタキシャル成長したIII族窒化物系化合物半導体は、接合面で不連続とならない。
或いは
図1.Jの断面図ように、サファイア基板の凹凸の側面のうち、法線ベクトルの向きが揃ったc面を残し、それとは逆向きのc面を、III族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長が生じない程度に面荒れを形成したり、凹凸を形成したりすると良い。この場合も、面荒れ等していないc面は全て法線ベクトルが揃っているので、エピタキシャル成長するIII族窒化物系化合物半導体の−c方向は全て揃う。即ち、異なるサファイア基板の凹凸の側面であるc面からエピタキシャル成長したIII族窒化物系化合物半導体は、接合面で不連続とならない。
面荒れは、例えば
図1.Kのようエッチングマスクを用いると
図1.Eのような単純なストライプ状の凹凸が形成され、法線ベクトルが約180度異なる面が形成されるのに対し、
図1.Lのようなエッチングマスクを用いることで、法線ベクトルが揃った側面と、凹凸によりエピタキシャル成長が行われない、または極めて遅い、或いは形成されても雑晶となるようにすると良い。
【0018】
更には、本発明者らは、m面を主面とするサファイア基板にストライプ状の凹凸を形成する場合に、当該ストライプの長手方向の結晶方位の設計により、ストライプ状の凹凸の側面を特殊な指数面とすることで、当該側面からエピタキシャル成長し、横方向成長により凹凸を全て覆ったのちのIII族窒化物系化合物半導体の主面が、サファイア基板のm面に平行なm面又はr面((10−12)面)、或いはサファイア基板のm面からわずかにオフしたm面となることを見出した。
この際、III族窒化物系化合物半導体のエピタキシャル成長する面がm面に垂直ではないため、対となるストライプの反対側の側面からはIII族窒化物系化合物半導体がエピタキシャル成長しない、又は極めて遅い成長しか生じないことが確認された。
更に、c面を主面とするサファイア基板にストライプ状の凹凸を形成する場合に、当該ストライプの長手方向の結晶方位の設計により、側面からエピタキシャル成長し、横方向成長により凹凸を全て覆ったのちのIII族窒化物系化合物半導体の主面が、サファイア基板のc面に平行なm面かa面となることを見出した。
このように、本発明は、基板の主面に対し、異なる面を形成して、主面その他の好まざる凹凸の側面からはIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させず、所望の凹凸の側面からIII族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させる包括的な発明である。所望の凹凸の側面からのエピタキシャル成長が支配的となり、他の面からのエピタキシャル成長を凌ぐ理由は場合により様々である。例えば他の面からはエピタキシャル成長が全くされないか非常に遅い。さらに他の面からのエピタキシャル成長が全くされないか非常に遅い理由としては、所望の側面以外はそもそもエピタキシャル成長しない面若しくは成長しがたい面のみを選択して形成する、或いは以下のように、例えばサファイア基板面の加熱処理と窒化処理のような、エピタキシャル成長の選択性を著しく向上させる手法を用いることである。以下の実施例ではサファイア基板の実施例を説明するが、本願発明は、他の材料の基板、少なくとも六方晶系の基板に適用可能である。例えばスピネルやSiC基板に適用できる。
所望の凹凸の側面の表面エネルギーと、他の面の表面エネルギーとの大小や、所望の凹凸の側面にエピタキシャル成長により形成された結晶又はIII族窒化物系化合物半導体の原料化学種の基板面近傍における拡散長という概念を用いても説明が可能である。
【0019】
アルミニウム薄膜を形成し、窒化処理を行った場合、凹凸の側面からエピタキシャル成長が生じ、主面からエピタキシャル成長が生じない理由としては、例えば次のような可能性が考えられる。
即ち、本発明の技術に基づく加熱処理と窒化処理は平滑な面である主面からのエピタキシャル成長を生ぜず、加工面であって平滑でない側面からのエピタキシャル成長が生じさせる。加工した側面は、加工しない表面、加工した底面に比べて、表面が荒れている(平坦でない、湾曲している、表面粗さが大きい、等)と考えられる。そのことが、III族窒化物系化合物半導体が選択的に側面に成長しやすい原因と考えている。この選択的な成長を起こさせるのに最適な条件が、今回発明の条件である。
【0020】
本発明の実施には、サファイア基板の高温水素ガス処理のみも有効であるが、積極的にアルミニウム源を供給して、金属アルミニウム層を形成しても良い。サファイア基板の高温水素ガス処理は言わばエッチングと還元反応によりサファイア基板に存在したアルミニウム原子を表面に出すものであり、アルミニウム源を供給する場合は、新たにアルミニウム原子を付加形成するものである。アルミニウム源としては、特にサファイア基板表面との反応制御の面から、有機アルミニウム化合物が好ましく、アルキルアルミニウム、特にトリメチルアルミニウムが好ましい。以下の実験事実に証明される通り、アルミニウム薄膜の形成温度や形成する厚さは本発明の本質であって、特に好適な範囲が見出されている。
アルミニウム源を供給せず、サファイア基板表面の高温水素ガス処理を行う場合、例えばその後一旦基板温度を300〜420℃に下げたのち、窒化処理を行うと、より良い。サファイア基板の高温水素ガス処理は、所定時間保持するほか、目標温度に達したのちすぐに冷却することでも良い。この場合は、目標温度に達する前後の時間でサファイア基板の高温水素ガス処理がされる。
【0021】
このように、本発明により、単に平坦な基板に、単に表面処理やバッファ層その他の層を介してIII族窒化物系化合物半導体を形成する場合に得られる、当該基板の主面とエピタキシャル成長結晶の主面との面方位の関係とは異なる、基板の主面とエピタキシャル成長結晶の主面との面方位のウエハを得ることができる。具体的には、a面を主面とするのサファイア基板にマスク材料を全く介さずにm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体を形成したウエハ、a面を主面とするのサファイア基板にマスク材料がa面を覆い尽くさない状態で形成されて、m面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体を形成したウエハである。これらは凹凸を形成した基板を用いて、例えば上記製造方法により容易に得られる。尚、凹凸の所望の面全域からエピタキシャル成長する必要はなく、例えばボイド(空隙)が生じていたとしても本願発明に包含される。
このようなウエハを用いると、m面又はm面からわずかにオフした面に平行に積層界面を有するIII族窒化物系化合物半導体素子を形成できる。このような素子は、III族窒化物系化合物半導体の積層界面に垂直方向にはピエゾ電界が生じないので、その特性は、c面に平行に積層界面を有するIII族窒化物系化合物半導体素子よりも向上する。例えば発光素子では発光効率の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1.A】本発明に係るa面を主面とするサファイア基板に形成する凸部の斜視図。
【
図1.D】基板加工のためのエッチングマスクの平面図。
【
図1.E】
図1.Dのマスクにより形成される加工基板の斜視図。
【
図1.F】基板加工のための他のエッチングマスクの平面図。
【
図1.G】
図1.Eのマスクにより形成される加工基板の斜視図。
【
図1.H】向かいあって逆方向から成長するIII族窒化物系化合物半導体の模式図。
【
図1.I】成長方向を揃えたIII族窒化物系化合物半導体の模式図。
【
図1.J】成長方向を揃えたIII族窒化物系化合物半導体の他の模式図。
【
図1.K】基板加工のためのエッチングマスクの平面図。
【
図1.L】成長方向を揃えるための基板加工のエッチングマスクの平面図。
【
図2】本発明の具体的な一実施例における各工程での基板温度と各原料の供給/非供給を示した模式図。
【
図3.A】本発明に係るa面を主面とするサファイア基板に形成する凸部を形成するためのマスクの平面図。
【
図4】実施例1における、3つの条件を変化させた場合の、X線回折に基づくm−GaNの割合を示す3つのグラフ図。
【
図5】実施例1における、m−GaNのc軸方向がサファイア基板のc軸と一致していることを示すΦスキャン結果(5.A)と、2つの結晶の軸関係を示す模式図(5.B)。
【
図6】m面を主面とするサファイア基板のストライプ状の凹凸の側面に成長したIII族窒化物系化合物半導体の概念図。
【
図7】実施例4における、4つのX線回折(2θ)結果を示すグラフ図。
【
図8】実施例4における、X線回折(Φスキャン)結果を示すグラフ図。
【
図9】実施例4における、凹凸側面であるサファイアc面に成長するGaNの面方位を示した概念図。
【
図10】実施例5における、4つのX線回折(2θ)結果を示すグラフ図。
【
図11】実施例5おける、X線回折(Φスキャン)結果を示すグラフ図。
【
図12】実施例5おける、X線回折(Φスキャン)の別の結果を示すグラフ図。
【
図13】実施例5における、サファイアの凹凸側面に成長するGaNの面方位を示した概念図。
【
図14】実施例5における、凹凸側面であるサファイアa面に成長するGaNの面方位を示した概念図。
【
図15】実施例6における、4つのX線回折(2θ)結果を示すグラフ図。
【
図16】実施例6おける、X線回折(Φスキャン)結果を示すグラフ図。
【
図17】実施例6おける、X線回折(Φスキャン)の別の結果を示すグラフ図。
【
図18】実施例6における、凹凸側面であるサファイアa面に成長するGaNの面方位を示した概念図。
【
図19】実施例6における、凹凸側面であるサファイアm面に成長するGaNの面方位を示した概念図。
【
図20】実施例6における、凹凸側面であるサファイアm面に成長する別のGaNの面方位を示した概念図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下の実施例ではエピタキシャル成長するIII族窒化物系化合物半導体として窒化ガリウムを示しているが、当然のことながら窒化ガリウムの上に他の組成のIII族窒化物系化合物半導体を積層し、或いは厚膜の他の組成のIII族窒化物系化合物半導体を形成することは容易であって本願発明に含まれる。
【実施例1】
【0024】
図2は、本発明に係るIII族窒化物系化合物半導体の製造方法の具体的な一実施例の、基板温度と、原料及びキャリアガス(水素)の供給及び非供給を示した模式図である。
図2の最下段に、各工程番号を付した。
工程1では、水素下、サファイア基板を1160℃まで昇温し、その後300〜420℃に降温する。
工程2では、キャリアガス(窒素と水素の混合ガス)を導入しながら、基板温度を300〜420℃に保ったまま、トリメチルアルミニウムを導入する。
工程3では、トリメチルアルミニウムの導入を停止し、キャリアガス(窒素と水素の混合ガス)とアンモニアを導入しながら基板温度を1010℃まで上昇させる。
工程4では、キャリアガス(窒素と水素の混合ガス)とアンモニアを導入しながら、トリメチルガリウムを導入してエピタキシャル成長を行う。
工程5では、アンモニアと窒素の雰囲気下で基板温度を300℃以下まで下げる。
尚、以下の実験結果は、工程2乃至4においてキャリアガスを窒素のみとした場合、又は水素のみとした場合においてもほぼ同様であった。
【0025】
図3は、本実施例における主面をa面とするサファイア基板の加工形状を示すものである。
図3.Aのように、正六角形を多数配置させたマスクを用いて、六角柱(六角錐台)状に凸部を残してサファイア基板表面をエッチングする。この際、1個の六角形の向き合う辺の間隔はAであり、隣り合う六角形のマスクの向き合う辺が間隔Bであるようにした。また、六角形の辺に平行な、3つの直線のうち、1本をサファイア基板のm軸と平行、即ちc軸と垂直とした。
図3.Aのようなマスクを用いて主面をa面とするサファイア基板をエッチングすると、
図3.Bのように、六角柱の側面がやや傾いた、六角錐台状の凸部が個々に形成される。この際、凸部の頂上の六角形の辺のうち、上記サファイア基板のm軸と平行、即ちc軸と垂直な辺を有する側面は、サファイア基板のc面からわずかに傾いた(オフした)面となった。c面と成す角は45度以下であり、
図3.Bのように、当該面にはサファイアのc軸を付して示してある。尚、凸部の高さをhとする。
【0026】
まず、
図3.Aのマスクの辺の間隔Aを3μm、隣り合うマスクの間隔Bを2μm、
図3.Bの凸部の高さhを0.8μmとして、主面をa面とするサファイア基板にエッチングにより凸部を多数設けて、
図2に従い、アルミニウム薄膜の形成、窒化処理、及び窒化ガリウムの4μm厚のエピタキシャル成長を行った。ここで、アルミニウム薄膜の形成と窒化処理の条件について、次のように実験を行った。
尚以下では、形成される窒化ガリウムについて、X線回折の2θスキャンにより、サファイア基板の主面(a面)に平行な面がm面であるGaN結晶(以下、単にm−GaNと記す)と、サファイア基板の主面(a面)に平行な面がc面であるGaN結晶(以下、単にc−GaNと記す)との比を、m面間の干渉による回折X線強度とc面間の干渉による回折X線強度の比として求めた。
【0027】
1.アンモニアの共存の可否:
トリメチルアルミニウムを供給する際に、アンモニアを共存させるかどうかを検討した。トリメチルアルミニウムに対するアンモニアのモル比(V/III比)を0、10、60、110と変化させた場合に、その後形成される窒化ガリウムについて、X線回折の2θスキャンにより、m−GaNとc−GaNの比を求めた。その結果を
図4.Aに示す。
アンモニアのモル比が0又は10では、c−GaNは検出されなかった。アンモニアのモル比が60では、c−GaNに基づくピークが検出された。アンモニアのモル比が110では、m−GaNに基づくピークが検出されず、実質的に全てc−GaNであった。
この結果から、多量のアンモニアが共存したままトリメチルアルミニウムを供給すると、主としてサファイア基板のa面に良好な窒化アルミニウムバッファが形成されてしまい、その後のGaNエピタキシャル成長においては、当該サファイア基板のa面からの成長が主体となり、c−GaNが多量に形成され、m−GaNは余り形成されないことがわかる。ここから、アンモニアは、実質的にない状態が好ましいと言える。
【0028】
2.アルミニウム薄膜形成時間(アルミニウム薄膜の厚さ)について:
トリメチルアルミニウムの供給時の基板温度を400℃とし、供給時間を0秒から480秒の間で振った。その後形成される窒化ガリウムについて、X線回折の2θスキャンにより、m−GaNとc−GaNの比を求めた。その結果を
図4.Bに示す。
トリメチルアルミニウムの供給時間が400秒以下では、c−GaNに基づくピークは検出されなかった。一方、トリメチルアルミニウムの供給時間が480秒では、m−GaNの割合は0.3%となった。
これは、アルミニウム薄膜を厚くしすぎると、窒化処理でサファイア基板のa面上に良好な窒化アルミニウムバッファが形成されてしまい、その後のGaNエピタキシャル成長においては、当該サファイア基板のa面からの成長が主体となり、c−GaNが多量に形成され、m−GaNは余り形成されないことがわかる。ここから、アルミニウム薄膜の厚さは40Å以下(トリメチルアルミニウム400秒供給に相当)とすべきことがわかる。
【0029】
3.アルミニウム薄膜形成時の温度について:
トリメチルアルミニウムの供給時間を160秒(アルミニウム薄膜の厚さ15Åに相当)とし、基板温度を350〜450℃の間で振った。その後形成される窒化ガリウムについて、X線回折の2θスキャンにより、m−GaNとc−GaNの比を求めた。その結果を
図4.Cに示す。
基板温度が420℃以下では、c−GaNに基づくピークは検出されなかった。一方、基板温度が430℃以上では、m−GaNの割合は0.01%程度以下となった。
これは、アルミニウム薄膜の形成温度が高すぎると、その後の窒化処理でサファイア基板のa面上に良好な窒化アルミニウムバッファが形成されてしまい、その後のGaNエピタキシャル成長においては、当該サファイア基板のa面からの成長が主体となり、c−GaNが多量に形成され、m−GaNは余り形成されないとの理由によるものと考えられる。ここから、アルミニウム薄膜形成時の温度は420℃以下とすべきことがわかる。350℃以上であれば良く、恐らく300℃でも良好なm−GaNが得られる。
【0030】
以上の実験で得られた、c−GaNが検出されなかったm−GaNについて、m面内の結晶軸方向を確かめるために、X線回折のΦスキャン(4軸X線回折装置による)を行った。結果を
図5.Aに示す。上段は、サファイアの(11−23)面からのΦスキャンで、サファイアのc軸方向の位置にピークが生じている。下段はGaNの(10−11)面からのΦスキャンで、GaNのc軸方向の位置にピークが生じている。これらが一致することから、以上の実験で得られたm−GaNは、そのc軸が、a面を主面とするサファイア基板のc軸に平行であることがわかる。これを模式図で示すと
図5.Bの通りである。各軸にはGaNの軸か、サファイア(Sapphire)の軸かを添え字で示した。
このように、本発明によれば、a面を主面とするサファイア基板上に、m面を主面とする厚膜のIII族窒化物系化合物半導体が形成できる。この際、サファイア基板のc軸とIII族窒化物系化合物半導体のc軸が平行となる。
このように、本発明によれば、マスクを形成しないで、極めて良質のm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体を得ることができる。
尚、
図3.Aの六角形のマスクのAとBを、0.5μmずつ、或いは0.75μmずつとしたり、
図3.Bの凸部の高さを0.35〜1.2μmの間で振って実験したが、上記の実験結果と有意な差は生じなかった。
【実施例2】
【0031】
サファイア基板表面の加熱処理にあたり、トリメチルアルミニウムを供給しないで実験した。これは
図2で工程2を省略したものである。即ち、サファイア基板表面を水素下で加熱処理した。尚、工程3の窒化処理の開始時の温度は300〜420℃とした。比較的良好なm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体が得られた。
この際、工程1で、サファイア基板の温度が1160℃に達した瞬間に冷却を始めても、即ちサファイア基板の温度を1160℃で保つ時間が0であっても、同様に比較的良好なm面を主面とするIII族窒化物系化合物半導体が得られた。
【実施例3】
【0032】
m面を主面とするサファイア基板に、次のようにストライプ状の凹凸を形成した。即ち、ストライプの長手方向を主面内のc軸からa軸方向に45度傾けた方向とした。
ストライプを形成するためのエッチングマスクは、凸部を残すためのエッチングしないマスクの幅を2μm幅、エッチング部であるマスクとマスクの間隔を3μmとした。エッチング深さは0.7μmとした。ストライプ状の凸部の側面は、主面であるm面と約70度の角度を成した。
このような凹凸を形成したm面を主面とするサファイア基板に、実施例1と同様の処理の後、窒化ガリウム(III族窒化物系化合物半導体)をエピタキシャル成長させた。結果を概念図として、
図6に示す。
図6に示される通り、サファイア基板の凹凸に食い込んだ形の六角柱状のIII族窒化物系化合物半導体が観察された。
【0033】
即ち、サファイア基板m面のエッチング加工により、今まで知られていなかった、III族窒化物系化合物半導体がエピタキシャル成長可能な新たな面が形成され、本実施例によりその有効性が確認されたものである。
【0034】
実施例3の結果を踏まえ、a面を主面とするサファイア基板、m面を主面とするサファイア基板、c面を主面とするサファイア基板をそれぞれ用意し、各々幅2μmのストライプ状の凸部を下記のような角度範囲で形成して、窒化ガリウムを60分間エピタキシャル成長させた厚膜において、どの面がサファイア基板の主面と平行となるかを確認した。
以下の実施例4乃至6においては、各サファイア基板に、幅2μmのストライプ状の凸部を0.01度ずつずらして放射状に形成した。隣り合うストライプ状の凸部は、一方の端では間隔2μm、他方の端では4μmとした。各ストライプの長さは約13mmとした。こうして、3つのサファイア基板に、90度の範囲で長手方向の異なるストライプを形成して、10度ごとに、X線回折の2θスキャンと、X線回折のΦスキャン(4軸X線回折装置による)を実施して、形成された窒化ガリウムの面方位を確認した。また、窒化ガリウムを120秒間成長させて、各ストライプの長手方向に垂直な断面を走査電子線顕微鏡(SEM)写真により解析し、主面と側面のいずれから成長が生じているのか確認した。
この際、窒化ガリウムの形成方法は、窒化ガリウムの成長時間の他は実施例1に倣った。これらの結果を実施例4乃至実施例6として以下に示す。
【実施例4】
【0035】
a面を主面とするサファイア基板を用い、上述の条件で、窒化ガリウムを形成し、表1の結果を得た。ストライプ状の凹凸の長手方向は、主面であるa面内のm軸からc軸まで変化させた。X線回折の2θスキャン結果を0度、30度、60度、90度の場合について、
図7に示す。
【表1】
【0036】
表1に示す通り、断面のSEM写真の解析から、すべてのストライプの方向において、主面のみからの成長は、生じなかった。
m軸に対してストライプの長手方向が0度〜40度の間において、側面のみからの成長が確認され、X線回折結果の解析により、サファイア基板の主面であるa面に平行な、厚膜GaNの表面は(10−10)m面であった。
m軸に対してストライプの長手方向が50度と80度では、側面のみからの成長が確認されたが、X線回折結果の解析によっては厚膜GaNの表面は特定することができなかった。
m軸に対してストライプの長手方向が90度の方向は、側面のみからの成長であった。X線回折結果の解析により、厚膜GaNの表面は(11−22)面であった。
m軸に対してストライプの長手方向が60度及び70度では、主面と側面両方からの成長が観察され、X線回折結果の解析により、厚膜GaNの表面に(0001)c面が検出された。このc面GaNのピークは、サファイア基板の主面であるa面から成長したc面GaNのピークと考えられるが、凹凸の側面から成長したGaNは高指数面であってピークが観測されなかったものと考えられる。
0度〜40度の間で成長した(10−10)m面GaNと(11−20)a面サファイア基板との面内配向を調査する為に、X線回折のΦスキャンを行った。実施したのはm面GaNの(10−11)面とa面サファイア基板の(11−23)面のΦスキャンである。0度〜40度で成長したm面GaNとa面サファイア基板との面内配向は、すべて
図8に示すように、GaNのc軸とサファイアのc軸が平行であった。
【0037】
〔実施例4の考察〕
一般的に、(11−20)a面サファイア基板上には、直接、又はバッファ層を介してGaNを成長させた場合、基板主面、つまり、サファイアの(11−20)a面とGaNの(0001)c面が平行となる。
【0038】
m軸に対してストライプの長手方向が0度〜40度の場合、加工したa面サファイア基板の側面が(0001)c面、又は(0001)c面からオフした面の場合、基板主面、つまり、サファイアの(11−20)a面とGaNの(10−10)m面が平行となるようにGaNが成長する。サファイア基板とGaNの面内配向性は、GaNのc軸とサファイアのc軸が平行となる。これは、以下のように説明できる。
c面サファイア基板上には、c面GaNが成長することは公知の事実である。その面内配向は、c面サファイア基板のa軸方向とc面GaNのm軸方向が平行となる関係である。ちょうど
図9のような関係となる。
今回a面サファイア基板を加工して形成した側面である(0001)c面、又は(0001)c面からオフした面に、(0001)c面GaNが成長し、上記公知事実のような配向関係(
図9のような配向関係)となった場合、基板主面、つまり、サファイアの(11−20)a面と平行に(10−10)m面GaNが成長する。また、0度〜40度まで同じ面内配向であったことから、これらの側面はすべてc面からオフした面であると予想される。
【0039】
m軸に対してストライプの長手方向が50度〜90度の場合、サファイアの側面の面方位は、(10−14)、(10−15)、…、(10−10)といった高指数面となる。SEM写真から、60度及び70度の場合、側面と主面からの成長が観察されていることから、これら高指数面を持つ側面からは優先的なGaNの成長は生じ難いことが解る。X線回折により、(0001)c面に基づくピークが観察されていることから、基板主面に成長したGaNが(0001)c面成長したと考えられる。側面からの成長もSEM写真により確認されているが、X線回折から、側面のGaNからと思われるピークは観察されていない。これら高指数面上に、どのような面方位のGaNが成長するのか知られていない。従って、基板主面、つまり、サファイアの(11−20)a面と平行にどのような面方位を持ったGaNが成長するのか推測することは困難である。しかし、これら高指数面の中で、50度、80度、90度方向において側面のみからの成長が観察されており、これらの側面からは、基板主面よりも側面に優先的にGaNが成長することが解る。
【実施例5】
【0040】
m面を主面とするサファイア基板を用い、上述の条件で、窒化ガリウムを形成し、表2の結果を得た。ストライプ状の凹凸の長手方向は、主面であるm面内のa軸からc軸まで変化させた。X線回折の2θスキャン結果を0度、30度、70度、90度の場合について、
図10に示す。
【表2】
【0041】
表2に示す通り、断面のSEM写真の解析から、すべてのストライプの方向において、主面のみからの成長は、行われなかった。0度と10度の場合、主面と側面からの成長が観察され、X線回折により、成長したGaNの(11−22)面がサファイア基板の主面であるm面に平行であることが解った。通常、(10−10)m面サファイア基板上には、(11−22)面又は、(10−10)m面、(10−13)面又は混在した結晶が成長することが解っている。従って、この(11−22)面のX線回折結果は、基板主面から成長したGaNの(11−22)面のピークと考えられる。20度の時、側面のみからの成長が観察されたが、X線回折からGaNの(11−22)面の弱いピークが観察された。これはわずかに主面から(11−22)面が平行となるGaNが成長したと考えられる。30度〜60度では、側面のみからの成長が確認できているが、厚膜GaNの表面の面方位を特定することができなかった(実施例3)。70度の方向は、側面のみからの成長であり、厚膜GaNの表面は、強度が小さいながらも(10−12)r面であることが解った。80度では、側面のみからの成長、90度ではわずかながらに主面からの成長と思われるピークが観察された。X線回折により、80度及び90度では、GaNの(10−10)m面からのピークが観察されていることから、このGaNのm面のピークは、側面から成長したGaNのピークと考えられる。90度で観察される(11−22)面のピークは主面から成長したGaNのピークと考えられる。
80度と90度で成長した(10−10)m面GaNと(10−10)m面サファイア基板との面内配向を調査する為に、Φスキャンを行った。m面GaNの(10−11)面とa面サファイア基板の(11−20)面のΦスキャンを行った。m面GaNとm面サファイア基板との面内配向は
図11のX線回折結果に示すようなGaNのc軸とサファイア基板のc軸が垂直であるという結果となった。
【0042】
〔実施例5の考察〕
一般的に、(10−10)m面サファイア基板上には、直接、又はバッファ層を介してGaNを成長させた場合、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面と平行に(11−22)面、又は(10−10)m面、又は(10−13)面GaNが成長することが報告されている。
【0043】
a軸に対してストライプの長手方向が0度〜20度の場合、SEM写真の解析により、側面と主面からの成長が観察されていることから、これらの側面では優先的なGaNの成長は生じないことが解る。X線回折から、(11−22)面のピークが観察されていることから、基板主面に成長したGaNが主体となっていると考えられる。側面からの成長もSEM写真により確認されているが、X線回折からは、側面のGaNが成長したものと思われるピークは観察されていない。
【0044】
a軸に対してストライプの長手方向が30度〜60度の場合、SEM写真の解析により、側面のみからの成長が観察された。これらの側面では優先的にGaNの成長が生じることが解る。しかし、X線回折ではピークが観察されず、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面と平行にどのような面方位のGaNが成長しているのか解らなかった。この場合、サファイアの側面の面方位は、(11−23)、(11−24)、…という高指数面となる。これら高指数面上に、どのような面方位のGaNが成長するのか知られておらず、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面と平行にどのような面方位を持ったGaNが成長するのか推測することは困難である。しかし、これら高指数面において側面のみからの成長が観察されており、これらの側面からは基板主面よりも側面に優先的にGaNが成長することが解る。
40度と50度の間では、X線回折ではピークが検出されなかったが、断面のSEM写真から、GaNの(11−20)a面がわずかに傾いていることが解った。これは実施例3において
図6で示した。
【0045】
a軸に対してストライプの長手方向が70度の場合、側面のみからの成長が観察されていることから、この側面では優先的にGaNの成長が生じることが解る。X線回折から、基板主面にGaNの(10−12)r面が平行になるように成長していることが解る。この凹凸の側面はサファイアの高指数面であり、この面にどのようなGaNが成長するのか解っていない。従って、今回なぜサファイア基板の主面に平行に(10−12)r面が形成されるようにGaNが成長したのか説明することは困難である。面内配向を調べる為に、X線回折のΦスキャンを行ったところ
図12のようになった。概念図を
図13に記載する。ここで
図13の、切断された六角柱がGaN結晶を示し、六角柱の軸方向がGaNのc軸である。
図13に示す面方向にGaNが成長したと考えられる。
【0046】
a軸に対してストライプの長手方向が80度及び90度の場合、加工したm面サファイア基板の側面が(11−20)a面、又は(11−20)a面からオフした面の場合、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面と平行に(10−10)m面GaNが成長する。これは、以下のように説明できる。
a面サファイア基板上には、c面GaNが成長することは公知の事実である。その面内配向は、サファイア基板のm軸方向とGaNのa軸方向が平行となる関係である。
今回m面を主面とするサファイア基板を加工して形成した側面(11−20)a面、又は(11−20)a面からオフした面に、(0001)c面が平行となるようにGaNが成長し、上記公知事実のような配向関係となった場合、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面とGaNの(11−20)a面が平行になるように成長するはずである。
しかし、今回の場合、サファイアの(10−10)m面とGaNの(10−10)m面が平行になるように成長している(
図14)。これは公知の事実とは異なる。今回の結果の原因の可能性として、以下のようなことが考えられる。
上記でも説明した通り、サファイア基板のa面上には、c面が平行になるようにGaNが成長することは公知の事実である。その面内配向は、サファイア基板のm軸方向とGaNのa軸方向が平行となる関係以外に、サファイア基板のm軸方向とGaNのm軸方向が平行となる関係も報告されている(J. Appl.Phys. 74, 4430 (1993)、Appl. Phys. Lett., Vol. 82, No. 5, 3 February 2003)。このような配向となった場合、基板主面、つまり、サファイアの(10−10)m面とGaNの(10−10)m面が平行になるように成長したと考えられる。
【実施例6】
【0047】
c面を主面とするサファイア基板を用い、上述の条件で、窒化ガリウムを形成し、表3の結果を得た。ストライプ状の凹凸の長手方向は、主面であるc面内のm軸からそれと90度の角度を成すa軸まで変化させた。X線回折の2θスキャン結果を0度、30度、60度、90度の場合について、
図15に示す。
【表3】
【0048】
表3に示す通り、断面のSEM写真の解析から、すべてのストライプの方向において、側面のみからの成長が行われていることが解った。0度、10度、50度〜70度においては、X線回折により、GaNの(10−10)m面がサファイア基板の主面であるc面に平行であることが解った。また、20度〜40度、80度及び90度においては、X線回折により、GaNの(11−20)a面がサファイア基板の主面であるc面に平行であることが解った。即ち30度おきにサファイア基板の主面と平行となる厚膜GaNの表面がm面、a面と交替する。c面サファイアは3回対称であることから、ストライプの側面は30度おきにm面とa面がある。この結晶の対称性が今回の結果に結果に反映していると考えられる。今回、0度〜90度の範囲でストライプの長手方向を変化させたが、110度〜130度、170度〜190度、230度〜250度、290度〜310度、350度及び360度では厚膜GaNを成長させた場合にその表面がm面となり、90度及び100度、140度〜160度、200度〜220度、260度〜280度、320度〜340度では厚膜GaNを成長させた場合にその表面がa面となることが容易に予測できる。
【0049】
厚膜GaNの表面がm面となる場合(0度、10度、50度〜70度)と厚膜GaNの表面がa面となる場合(20度〜40度、80度、90度)とで面内配向を確認する為に、Φスキャンを行った。
厚膜GaNの表面がm面となる場合については、GaNの(10−11)面とサファイア基板の(11−23)面のΦスキャンを行った。結果は
図16のように、GaNのc軸とサファイア基板のa軸が平行であった。
厚膜GaNの表面がa面となる場合については、GaNの(10−10)面とサファイア基板の(11−23)面のΦスキャンを行った。結果は
図17のように、GaNのm軸とサファイア基板のm軸が平行であり、3つのドメイン構造を有するという結果となった。
【0050】
〔実施例6の考察〕
一般的に、(0001)c面を主面とするサファイア基板上には、直接、又はバッファ層を介してGaNを成長させた場合、基板主面、つまり、サファイアの(0001)c面と平行に(0001)c面GaNが成長する。
【0051】
m軸にストライプの長手方向が略一致し、凹凸側面がサファイアの(11−20)a面、又は(11−20)a面からオフした面となる場合、即ち、加工したc面サファイア基板の側面が(11−20)a面、又は(11−20)a面からオフした面の場合、基板主面、つまり、サファイアの(0001)c面と平行に(10−10)m面GaNが成長する。これは、以下のように説明できる。
a面サファイア基板上には、c面GaNが成長することは公知の事実である。その面内配向は、サファイア基板のc軸方向とGaNのm軸方向が平行となる関係である。ちょうど
図18のような関係となる。
今回c面サファイア基板を加工して形成した側面(11−20)a面、又は(11−20)a面からオフした面に、(0001)c面GaNが成長し、上記公知事実のような配向関係(下の図のような配向関係)となり、基板主面、つまり、サファイアの(0001)c面と平行に(10−10)m面GaNが成長した。
【0052】
a軸にストライプの長手方向が略一致し、凹凸側面がサファイアの(10−10)m面、又は(10−10)m面からオフした面となる場合、即ち、加工したc面サファイア基板の側面が(10−10)m面、又は(10−10)m面からオフした面の場合、基板主面、つまり、サファイアの(0001)c面と平行に(11−20)a面GaNが成長する。これは、以下のように説明できる。
Appl. Phys. Lett. 92, 092121 (2008)で、R. Armitage and H. Hirayama らが、m面サファイア基板上には、(10−10)m面GaN、又は、(11−22)面GaN、又は、混在した結晶が成長するという報告がある。また、Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 47, No. 5 (2008)では、T. WEIらが、m面サファイア基板上には、(10−10)m面GaN、又は、(10−13)面GaNが成長すると報告している。
m面サファイア上にm面GaNが成長する場合、その面内配向は、サファイア基板のc軸方向とGaNのc軸方向が直交することが公知事実から解っている(
図19)。しかし、今回の場合、サファイアの等価な方向である3つの<10−10>m軸方向とGaNの[10−10]m軸方向が同一である方向であり、3つのドメイン構造を有していることから、単にm面サファイア上にm面GaNが成長するのみでは説明できない。
m面サファイア上にGaNの(10−13)面が平行となるように成長する場合、(10−13)面GaNのc軸方向と(10−10)m面サファイアのm軸方向は約32度の角を成す(
図20)。つまり
図19と
図20、さらに
図20のGaNが180度回転したGaNが同時に存在したとき、サファイアの(0001)c面に平行に、(11−20)a面GaNが成長し、
図17のX線回折結果(Φスキャン)のような3つのドメインを持つ(11−20)a面GaNとなり、今回の結果に近い形となる。
今回c面サファイア基板を加工して形成した側面(10−10)m面、又は(10−10)m面からオフした面に、(10−10)m面と(10−13)面GaNの3つが同時成長したと考えられ、3つのドメインを有するが、基板主面、つまり、サファイアの(0001)c面と平行に(11−20)a面GaNが成長したと考えられる。
【0053】
〔各実施例のまとめ〕
アルカリエッチングの結果から、(11−20)a面サファイア基板を加工して形成した側面 (0001)c面に(0001)c面が平行となるようにGaNが成長する場合が、その成長方向は−c軸方向である。
(11−20)a面サファイア基板を加工して側面にサファイアの(0001)c面を形成した場合、主面である(11−20)a面よりも側面である(0001)c面に、GaNが優先的に成長する。
(0001)c面サファイア基板を加工して側面にサファイアの(11−20)a面を形成した場合、主面である(0001)c面よりも側面である(11−20)a面に、GaNが優先的に成長する。a面かc面のどちらか一方の方がGaN成長し易いと考えると、これらの結果は矛盾する。従って、a面、c面のどちらが成長し易いという考え方では無く、加工した側面が成長し易いと考える方が自然である。選択的な成長を起こさせるのに最適な条件が、本発明の加熱処理と窒化処理である。
(0001)c面サファイア基板を加工して側面にサファイアの(10−10)m面を形成した場合、主面である(0001)c面よりも側面である(10−10)m面に、GaNが優先的に成長する。主面である(0001)c面に平行に(11−20)a面GaNが成長する。
(10−10)m面サファイア基板を加工して側面にサファイアの(11−20)a面を形成した場合、主面である(10−10)m面よりも側面である(11−20)a面に、GaNが優先的に成長する。主面である(10−10)m面に平行に(10−10)m面GaNが成長する。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、膜厚方向(エピタキシャル成長により異なる組成の層を積層する際の境界に垂直な方向)がm軸となるIII族窒化物系化合物半導体素子の形成が容易となる。これにより、組成の異なる層間でピエゾ電界の発生しない発光素子、HEMT等の形成が容易となる。
【符号の説明】
【0055】
A:マスクである六角形の向かい合う2つの辺の間隔
B:2つのマスクの向かい合う2つの辺の間隔
h:凸部の高さ