(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第1の面から上記突起部の頂部までの高さは、0.3mm以上2.0mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の注入器具。
上記変形部は、上記第1の面から上記突起部の頂部までの高さをL(mm)としたときに、上記第1の面から0.3mm以上L+1mm以下の範囲内で、上記流体圧力に応じて上記張り出す方向に向けて変形することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の注入器具。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の細部について記載される。しかしながら、かかる特定の細部がなくても1つ以上の実施形態が実施できることは明らかであろう。他にも、図面を簡潔にするために、周知の構造及び装置が略図で示されている。
【0009】
「中空型針状体」
本実施形態の注入器具を構成する中空型針状体10は、
図1に示すように、板状の基板11の第1の面11Sに複数の突起部12を備え、各突起部12には、突起部12の先端から基板11のもう一方の第2の面11Tに貫通する貫通孔13が形成されている。貫通孔13は、薬剤注入用の通路となり、第2の面11Tより第1の面11Sの突起部12の先端に向けて薬剤が案内される。
【0010】
図1では、基板11に複数の突起部12が形成されている場合を例示しているが、1つの基板11に1つの突起部だけを形成しても良い。中空型針状体10は、1つの基板11上に突起部を複数立設し、その複数の突起部をアレイ状に配列することが好ましい。突起部12を複数設けることにより、1回の穿刺の際の薬剤投与量の増加が見込まれる。また、投与量が規定されている場合には複数本にすることで、より短時間で投与することができる。ここで、「アレイ状」とは、各突起部12が並んでいる状態を示すものであり、平面視で例えば、格子配列、最密充填配列、同心円状に配列、ランダムに配列などのパターンを含む。なお、突起部12の高さLは、0.3mm以上2.0mm以下の範囲内であることが好ましい。突起部12の高さLが上記数値の範囲内であれば、突起部12は、真皮層の神経細胞に到達しないため、皮膚への穿刺時に、患者が感じる痛みを低減することができる。
【0011】
突起部12の形状は、先端に向けて横断面積が小さくなる錐体形状などであることが好ましい。具体的には、円錐、角錐といった錐体形状が例示される。また錐体形状と、円柱、角柱といった柱状形状を組み合わせた鉛筆形状(胴体部が柱状であり、先端部が錐形状のもの)等の形状も選択することができる。なお、突起部12の側面には、適宜、括れや段差が形成されていても構わない。また、
図1においては突起部12の頂部に貫通孔13の出口が形成されているが、貫通孔13の出口は突起部12の側面に形成されていても構わない。
【0012】
中空型針状体10の材料としては生体適合性を有するものが望ましい。例えば、生体適合性を備える材料としては、ステンレス鋼、チタン、マンガン、シリコン等の金属、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、医療用シリコーン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート等の樹脂などが挙げられる。
なお、中空型針状体10は、各種の公知技術を用いて製造することが可能である。例えば材料として樹脂を使用する場合には、射出成形、押出成形、インプリント、ホットエンボス、キャスティング等の成形技術で貫通孔のない、または、非貫通の孔を備える中空型針状体10を形成した後、マイクロドリル、レーザー等で貫通孔13を形成することができる。また、例えば、射出成形、押出成形、インプリント、ホットエンボス、キャスティング等の成形の際に貫通孔を形成することもできる。
【0013】
「注入器具」
次に、本実施形態の注入器具について説明する。
本実施形態の注入器具は、
図2に示すように、上記説明した中空型針状体10、及びホルダー21、外周側部材22を備える。また、注入器具は必要に応じて各所に液密部材を備えても良い。
中空型針状体10の基板11は、
図3に示すように、円板形状となっていて、第1の面側(下面側)の外周縁部が薄肉となって段差が形成されている。
【0014】
ホルダー21は、円柱形状のホルダ本体21Aを有する。そのホルダ本体21Aの中空型針状体10と対向する側とは反対の反対面(上面)には、ホルダ本体21Aよりも小径の筒体からなる接続部21Bが同軸に一体形成されている。ホルダ本体21A及び接続部21Bの中心部には軸方向に貫通する薬剤用流路21Cが形成されている。ホルダ本体21Aの外径は、中空型針状体10を受け入れる為に中空型針状体10の外径よりも僅かに大きな径となっている。
【0015】
接続部21Bは、一般的な接続部材との接続を想定しており、例えば
図4のような、接続部材としての注射器41の注射針取り付け突起42が着脱可能な構造となっている。接続部21Bは、接続部材側から薬剤用流路21Cを介し体内注入液体(薬剤)をホルダ本体21Aと基板11との間に形成された室30に導くことが出来る。より具体的な事例として、接続部21Bは、ルアーロック規格のテーパ形状を有していることが好ましい。
ホルダ本体21Aの外径面には雄ねじ21Aaが形成されている。
【0016】
外周側部材22は、
図2及び
図3に示すように、肉厚の筒状部材からなる。外周側部材22の中空型針状体10側の下端部には内向きフランジ部22cが形成され、その内向きフランジ部22cが相対的に基板11外周に形成された段部11aに嵌め込み可能となっている。段部11aに嵌め込んだ状態では、基板11の第1の面11Sと外周側部材22の下端面とが面一となることが好ましい。ここで「面一」とは、基板11の第1の面11Sと外周側部材22の下端面とが同一平面上に位置することを意味する。
外周側部材22の内径面の径は、上側から中空型針状体10を挿入可能なように、中空型針状体10の外径よりも僅かに大きな径となっていると共に、ホルダ本体21Aの雄ねじ21Aaを螺合する雌ねじ22aが形成されている。
【0017】
そして、
図2及び
図3に示すように、外周側部材22に、上側から中空型針状体10を装着した後に外周側部材22にホルダ本体21Aを取り付ける。ホルダ本体21Aと中空型針状体10との間には、例えば、O−リングなどの液密部材28が介装されている。すなわち、
図2のように外周側部材22にホルダ本体21Aを組み付けることで、接続面を液密にすることが可能となる。ホルダ本体21Aと外周側部材22を着脱可能に配置する構造は、上述のような雌ねじ22aと雄ねじ21Aaとの組み合わせで可能であるが、これ以外の公知の種々の着脱可能な配置構造としても良く、例えばスナップ結合構造や独立した固定ねじや独立した固定ねじと押え板との組み合わせ等が着脱可能な配置構造に含まれる。又、液密部材28は、中空型針状体10が外周側部材22の軸方向(上方)に変位することを規制する役割も持つ。
【0018】
また、外周側部材22には、流体の流入により形状を変化させることが可能となる変形部25、および変形部25へ流体を流入するための加圧用流路26が設けられている。
外周側部材22の下端面には、リング状態の凹部22bが基板11と同心に形成され、その凹部22bには、その凹部22bの延在方向に沿って延びる変形部25が取り付けられている。変形部25は例えば、弾性力を有する膜材体から構成され、上面側が流体を受けることが可能となっている。
【0019】
また加圧用流路26は、外周側部材22内を上下に延びて下端開口部が上記凹部22b内に臨むように開口している。加圧用流路26は複数形成されていても良い。符号27は、流路内の流量を調整するためのバルブである。このバルブ27は無くても良い。加圧用流路26に供給する流体は、外周側部材22の外に別途設けた不図示のポンプ等により強制的に吸引排出される機構と組み合わせて使用しても良い。そして、加圧用流路26を介して凹部22bに流体が供給されると、その流体の流体圧力に応じて変形部25が弾性変形し、変形部25が下方に張り出す。これによって、流体圧力に応じた分だけ変形部25が下方に張り出すようになる。
【0020】
ここで加圧用流路26は、薬剤用流路21Cの外周側に形成することで、変形部への流路の配置の自由度が高い。
加圧用流路26に供給される流体としては、気体および液体を用いることができる。気体としては、例えば、圧力縮空気、窒素ガス、酸素ガス、アルゴンガスの他、各種産業用ガスを用いてよい。液体としては、例えば、純水、水溶液、アルコール類、オイル類の他、有機溶剤各種を用いてよい。
また、注入される流体によって温度制御を行っても良く、これにより皮膚の弛緩を促進する作用を付与することができる。より具体的には、温度25度から50度の加温媒体、もしくは24度から−10度の冷却媒体の流体を用いて良い。
【0021】
外周側部材22の構成材料を破損させず、なおかつ穿刺対象物に対し害をなさない範囲で、加圧用流路26に対し、媒体を加温もしくは冷却した後に流入させることを含むものである。また、加温媒体、冷却媒体を交互に流入させて使用する場合をも含む。
加圧用流路26に流入される流体が加温媒体の場合は、皮膚の弛緩を促進することができる。したがって、液体を注入した際の皮膚の膨張を促進することができる。一方、加圧用流路26に流入される流体が冷却媒体の場合は、皮膚を緊張させる作用を備える。したがって、本発明の注入器具を皮膚に穿刺する際に、穿刺を確実なものとすることができる。
【0022】
変形部25の構成としては、伸縮性を有する材料を用いることが好ましく、具体的には各種のエラストマーを用いて良い。ただし、変形部25内に流体を流入させる際に変形部25が均一な構成からなる場合には、変形部25は縦横均一に膨張してしまい必要とする方向への伸縮が十分に得られない形態となる可能性がある。したがって設計による形状の差異や材質の差異を設けることなどにより非対称の構造にすることで任意方向へ伸縮を促すことが可能である。より具体的には選択的に一部分を厚くする、もしくは伸張を抑制したい部位に伸縮性の低い材料を用いることで可能となる。また、変形部25の表面には粘着体が担持されていてもよく、これにより穿刺時に穿刺対象物への密着性を高めることが可能となる。
【0023】
変形部25の構成としては、伸縮性を有する材料を用いる以外にも、低伸縮性材料を蛇腹構造に織り込んでおくことでも構成を満たすことができる。要は、変形部25は、加圧用流路26に流入する流体の流体圧力によって変形して下方に張り出す構成であればよい。変形部25は流体圧力に応じた圧力を有して下方に張り出すこととなる。
本発明の注入器具を構成する材料は特に限定されない。例えば、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属、エラストマー等が挙げられるが、特にプラスチックであればポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、アクリル、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。エラストマーであれば天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、シリコーンゴム等を用いても良い。
【0024】
液密部材28は、ホルダ本体21Aと中空型針状体10との中に格納された環状の部材であり、例えば上述のようにO−リングといった弾性体からなる部材やガスケットと呼ばれる部材により提供される。また、液密部材28は、中空型針状体10の上記他面における複数の中空型針状体10の複数の前述した貫通孔13の全ての開口を取り囲んでいる。
また、注射器41の外筒の内部空間中に、注射針取り付け突起42の貫通孔13を介して所望量の体内注入液体(例えば、人を含めた動物の皮内層中に注入しようとする薬液又はワクチン)が吸入され保持されて使用されてよい。一般の注射器は安価に容易に入手可能である。一般の注射器の外筒は内部に保持した体内注入液体の量を外部から視認出来るよう実質的に透明であり、しかも外筒の外表面には上記量を明確に示す目盛が付けられている。このため、一般の注射器を使用することにより一般の注射器の外筒の内部空間中に保持する体内注入液体(薬剤)43の量を容易に精密に変更することが出来る。
この形態において、体内注入液体43に接する部分は体内注入液体43を変質させない物質又は体内注入液体により変質されない物質により被覆されているか、又はそのような物質で形成されている必要がある。
【0025】
(使用例その他)
次に、前述した如く構成されている実施形態に従った注入器具の使用手順について
図5、
図6を参照しながら説明する。
図5及び
図6は同一の注入器具を図示しており、加圧用流路26内への流体の流入前後の形態を示している。本実施形態の注入器具は、加圧用流路26内へ流体を流入させることで、変形部25が膨らみ穿刺の方向に対する相対位置が変更可能となる。
図5の注入器具にあっては、流体の注入が全く無い状態であり変形部25の変形量が最も小さい状態を示している。また
図6の注入器具は、流体の注入後の状態であり、変形部25の変形量が最も大きい状態を示している。
【0026】
本実施形態の注入器具にあっては、変形部25の変形距離が距離H1と距離H2の間で変更可能なことを特徴としている。H1およびH2は中空型針状体10の第1の面11Sと穿刺対象物51との距離を示している。つまり、
図5は、H1=0mmの状態を示している。そして、当該距離H1からH2までの距離の変更は、流体の流入量の制御により行われる。
このように本実施形態の注入器具にあっては、変形部25への流体の流入による流体圧力によって中空型針状体10の突起部12と穿刺対象物(例えば皮膚)との距離を制御することができる。したがって、注入器具の中空型針状体10の突起部12先端を皮膚に穿刺した後に、穿刺状態を維持しながらその突起部12の穿刺対象物に対する穿刺深さを容易に変更することが可能となる。
【0027】
「別の実施形態」
図7及び
図8に、本発明の別の実施形態を示す。
本発明の別の実施形態は、
図7及び
図8のように、基板11の第1の面11Sの下部に変形部25が配置される構成を例示している。この形態においては、
図7のように、ホルダ本体61Aに流路が形成されている。この形態では、ホルダ本体61Aと上述の外周側部材とが一体成形され、また、上述の内向きフランジ部22cの部分が別体に形成され、変形保持部62を構成する。この例では、ホルダ本体61Aが流路形成部及び流体圧力付加部を有する。
【0028】
変形保持部62はリング状の板状部材であり、その変形保持部62の下面に形成された凹部22bに変形部25が取り付けられている。各変形部25は、ホルダ本体61Aに形成された流路に接続する。ここで、例えばホルダ本体61Aの下端部に形成した雌ねじに変形保持部62の外周面の雄ねじが螺合されることで、変形保持部62はホルダ本体61Aに対して着脱可能となっている。この形態では、中空型針状体10は下側から装着することとなる。
変形部25は、上述の如く、突起部12の形成領域の外側であって且つ基板11の外周側若しくは基板11の第1の面11Sの前側に配置される。このため、確実に突起部12の突出方向に張り出すことが可能と共に、複数の突起部12の形成領域と穿刺対象物との離隔量を精度良く行うことが可能となる。
変形保持部62は、空孔(貫通孔)が設けられており流路26と変形部25を接続する。ホルダ本体61Aの下端部に形成した雌ねじに変形保持部62の外周面の雄ねじが螺合される場合、螺合した状態(締められた状態)で、流路26と変形部25が接続されるように、変形保持部には空孔(貫通孔)が設けられる。
【0029】
ここで、本発明者らは、液詰まりおよび液漏れが発生する原因の一つは、中空型針状体10を穿刺した際に皮膚に押し付けられるために薬剤投与に伴う皮膚の膨張が抑制されることであることを確認した。そして、液漏れを抑制するにあっては皮膚が中空型針状体10の第1の面11Sおよび突起部12により押し込まれた状態を解消することが重要であり、そのためには一旦穿刺した中空型針状体10を穿刺した状態を維持したまま一定の距離を皮膚表面から浮かすことが有効であることを見出し、本発明に到った。そして、本実施形態の注入器具は、穿刺した状態を維持したまま、変形部25を変形させることで、穿刺深さを浅くすることが可能であり、薬剤を注入した際に皮膚が膨張することが可能となり液詰まりおよび液漏れを防ぐことができる。
【0030】
本実施形態の注入器具の使用者は、中空型針状体10の突起部12を皮膚に穿刺後、バルブ27の開閉をすることにより、容易に中空型針状体10の突起部12のミリオーダーもしくはサブミリオーダーの移動を制御することができる。
バルブ27のスイッチ機構としては、図示しない駆動部材を図示しない付勢力発生源からの付勢力に抗して移動を停止させておく公知の掛け金機構(掛け金を解放することにより上記付勢力を解放する機構)、又は引き金機構(引き金を引くことにより上記付勢力を解放する機構)又は押し金機構(押し金又は押し釦を押すことにより上記付勢力を解放する機構)、又は図示しない駆動部材に対する圧力縮空気を含む圧力縮ガス供給源からの圧力縮ガスの供給を選択的に行うことが出来る手動又は電磁駆動オン−オフ弁であることが出来る。
【0031】
本実施形態の注入器具にあっては、変形部25の変形によって制御できる距離(H2−H1)が、0.3mm以上であることが好ましい。変形部25の変形によって制御できる距離(H2−H1)が、(中空型針状体10の針高さL+1mm)以下の範囲内であることが好ましい。距離(H2−H1)が、0.3mmに満たない場合、薬剤を注入した際に皮膚の膨張が不十分となり液漏れが発生する場合がある。一方、距離(H2−H1)が(中空型針状体10の針高さL+1mm)を超える場合、中空型針状体10が皮膚から抜けてしまう恐れがある。なお、距離(H2−H1)が中空型針状体10の針高さLよりも大きくなったとしても、1mmであれば皮膚が中空型針状体10に追従することにより抜けることはない。
【0032】
前述した形態以外にも、各種の穿刺補助器具や体内注入液体の供給補助装置91(
図9を参照)を用いた導入が行われても良い。このような供給装置は、注射器筐体もしくはそのプランジャー、ホルダ本体21Aや外周側部材22の外表面に例えば固定ねじやクリップを含む図示しない公知の固定手段により着脱可能に固定されることが出来、
図9中に示されている如く突出位置に配置されているプランジャーの外部露出端を選択的に押圧力するよう構成されて良い。このような構成は、プランジャーの外部露出端に当接又は接近させた図示しない駆動部材と、この駆動部材にプランジャーの外部露出端に向かう付勢力を発揮する図示しない付勢力発生源と、図示しない付勢力発生源による付勢力の発生を選択的に行わせるスイッチ機構と、を含むことが出来る。
【0033】
より具体的には、例えば図示しない付勢力発生源としては圧力縮ばね又は引っ張りばね又は弾性材料又は磁石又は圧力縮空気を含む圧力縮ガスの供給源の中から選択することが出来る。さらに、スイッチ機構としては、図示しない駆動部材を図示しない付勢力発生源からの付勢力に抗して移動を停止させておく公知の掛け金機構(掛け金を解放することにより上記付勢力を解放する機構)又は引き金機構(引き金を引くことにより上記付勢力を解放する機構)又は押し金機構(押し金又は押し釦を押すことにより上記付勢力を解放する機構)、又は図示しない駆動部材に対する圧力縮空気を含む圧力縮ガス供給源からの圧力縮ガスの供給を選択的に行うことが出来る手動又は電磁駆動オン−オフ弁であることが出来る。
【0034】
図10に、本発明の別の形態に係る注入器具の模式断面図を示した。
図10にあっては、基板に複数の突起部が形成されている中空型針状体10と、外周側部材22、ホルダーが一体形成された中空型針状体(一体型)100を備える。中空型針状体(一体型)100は、注射器41に接続される。そして、注射器41が筒体からなる穿刺補助装置103に固定され、穿刺補助装置103が、変形部25を備える。
【実施例】
【0035】
[実施例]
以下、本発明の注入器具の実施例について説明する。
図4に示すような構造の以下の注入器具を用意した。
すなわち、基板11に対し錐形状の高さ2mm、本数9本の突起部12を備え、外径10mmのポリカーボネートからなる中空型針状体10と、中空型針状体10を保持するためのポリカーボネートからなるホルダー21と、ポリカーボネート製の筐体内に流路と天然ゴム製の変形部25を有する外周側部材22と、を用意した。また、中空型針状体10とホルダ本体21Aとの間にシリコーン製のO−リングを用いることで液密構造及び室30を形成した。外周側部材22に流入される流体としては圧力縮空気を用い、大気圧力下で外周側部材22内に110kPaの圧力条件下で1分間流入させることでH2は1mmに伸張可能であった。
【0036】
体内注入液体(薬剤)の代替として青色に染色した水を用意し、加圧用流路26への流入が無い状態で人工皮膚に2kgfの荷重により穿刺し、続いて荷重の緩和後に圧力縮空気を流入させ中空型針状体10の第1の面11Sと人工皮膚との距離が0.5mmとなるまで中空型針状体10を浮き上がらせた。このとき、中空型針状体10の突起部12は人工皮膚から抜けてしまうことは無かった。
次に、ピストンを押すことにより人工皮膚に青色の液体を注入した。注入後、顕微鏡観察をおこなった結果、人工皮膚表面において注入した液体の漏れは確認されなかった。
【0037】
[比較例]
上述の[実施例]と同じ注入器具を用意した。
ただし、外周側部材22は、動作しないものとした。すなわち加圧用流路26に流体を流入せずに流体圧力を発生させない場合である。
体内注入液体の代替として青色に染色した水を用意し、人工皮膚に2kgfの荷重により穿刺した。次に、[実施例]と同じ強さでピストンを押すことにより人工皮膚に青色の液体を注入しようとしたが、内部抵抗によりピストンを押すことができなかった。さらに、力を加えてピストンを押したところ、人工皮膚表面への液体の漏れが確認された。また、表面に漏れた液体を拭き取り人工皮膚表面について顕微鏡観察をおこなったところ、青色の液体は人工皮膚にほとんど注入されていないことが分かった。
【0038】
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態の種々の変形例とともに本発明の別の実施形態も明らかである。従って、請求の範囲は、本発明の範囲及び要旨に含まれるこれらの変形例または実施形態も網羅すると解すべきである。
また、上述の各実施形態に係る注入器具であれば、本発明が解決しようとする課題を解決し得る。ここで、前述した本発明が解決しようとする課題の詳細について説明する。
【0039】
ワクチンなどの薬剤を注射により体内に投与することは広く定着している。注射は安全性の高い投与方法であるが、その多くは皮下組織への薬剤投与のために注射針を体内深くまで穿刺するため強い痛みを伴うことがある。また、特に発展途上国では注射針の再利用による感染や針刺し事故などが絶えない。
そこで、注射に代わる薬剤の投与方法として、特許文献1に記載のようなミクロンオーダーの多数の針状体からなるアレイ部品を用いて皮膚に穿孔し、皮膚内に直接薬剤を投与する方法が注目されている。この方法によれば、針状体の長さを真皮層の神経細胞に到達しない長さに制御することにより、皮膚への穿刺時にほとんど痛みを感じることをなくすことが可能である。
【0040】
さらに、針状体を用いてワクチンを皮内投与する場合には、抗原提示細胞が豊富に存在する皮膚内へ投与されるため、皮下注射に比べて使用するワクチンの量を低減できる可能性がある。
針状体の形状は、皮膚を穿孔するための十分な細さと先端角、および皮内に薬液を浸透させるための十分な長さを有していることが必要とされる。このため、針状体の直径は数十μmから数百μm、長さは皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ神経層へ到達しない長さ、具体的には数百μmから数mm程度であることが望ましいとされている。
【0041】
針状体を用いた薬剤の皮内投与方式としては、針状体を皮膚に穿刺する前または後に皮膚表面に薬剤を塗布する方式や、薬剤が表面に予め塗布された針状体を皮膚に穿刺する方式、さらに貫通孔が設けられた中空型針状体を皮膚に穿刺し、当該貫通孔を通して薬剤を皮膚内に投与する方式等が検討されている。
貫通孔を備える中空型針状体を用いた投与方式は他の方式に比べて、現行の皮下注射と同様に薬剤を利用できることや、薬剤投与量の調整が簡便であるといった利点がある一方で、投与中に薬剤の一部が皮膚表面に漏れることがある。
【0042】
この液漏れ対策として、例えば特許文献2には、ニードルと、ニードル挿入深さをコントロールするためのリミッターと、ニードル挿入部付近の組織の歪み、圧力縮、または薄化を防ぐためのリジットスタビライザーとから構成される注入薬物送出装置が提案されている。但し、この装置は、ニードル本数を複数とすることが困難であるために薬剤投与量に限界がある、という課題がある。
【0043】
(本実施形態の効果)
(1)上記課題を有する従来技術に対し、本実施形態に係る注入器具は、基板11の第1の面11Sに1又は2以上の突起部12を有し、各突起部12には突起部12の先端側から基板11の第2の面11Tに貫通する貫通孔13が形成された中空型針状体10と、突起部12が形成された領域の外側に配置されて、突起部12が形成された第1の面11Sと面一の面位置よりも突起部12の突起方向へ張り出すように変形可能な変形部25と、変形部25に流体によって流体圧力を付加する加圧用流路26と、を備えている。また、変形部25を、流体圧力に応じて突起部12の突起方向に向けて変形させる。
【0044】
このような構成であれば、注入器具を構成する中空型針状体10を皮膚へ穿刺した後に、変形部25を変形させることで中空型針状体10を皮膚から適当な距離だけ浮かせることが可能となる。そのため、皮膚の膨張を抑制しない状態で薬剤を投与することができ、その結果、薬剤の皮膚表面への漏れを抑制して皮内に確実に薬剤を投与することが可能となる。
また、上記各実施形態に係る注入器具であれば、中空型針状体10に複数本の突起部(針構造)12を設けることができるため、薬剤投与量の増加が可能となる。
【0045】
(2)また、本実施形態に係る注入器具は、基板11の第2の面11T側に対し突起部12を通じて注入される薬剤を誘導する薬剤用流路21Cを有するホルダー21、61を備えてもよい。また、加圧用流路26を薬剤用流路21Cの外周側に配置してもよい。
このような構成であれば、変形部25への流路26の配置の自由度を高めることが可能となる。
(3)また、本実施形態に係る注入器具は、変形部25を、基板11の外周側若しくは基板11の第1の面11Sの前側に配置してもよい。
このような構成であれば、確実に突起部12の突出方向に張り出すことが可能と共に、複数の突起部12の形成領域と穿刺対象物との離隔量を精度良く行うことが可能となる。
【0046】
(4)また、本実施形態に係る注入器具は、流体圧力を、加温媒体の流体で発生させてもよい。
このような構成であれば、皮膚の弛緩を促進することが可能となる。したがって、液体を注入した際の皮膚の膨張を促進することが可能となる。
(5)また、本実施形態に係る注入器具は、流体圧力を、冷却媒体の流体で発生させてもよい。
このような構成であれば、皮膚を緊張させることが可能となる。したがって、本実施形態の注入器具を皮膚に穿刺する際に、穿刺を確実なものとすることが可能となる。
【0047】
(6)また、本実施形態に係る注入器具は、中空型針状体10を、生体適合性を有する材料で形成してもよい。
このような構成であれば、仮に中空型針状体10が破損して体内に残留した場合であっても、人体への影響を最小限に抑えることが可能となる。
(7)また、本実施形態に係る注入器具は、第1の面11Sから突起部12の頂部までの高さを、0.3mm以上2.0mm以下の範囲内としてもよい。
このような構成であれば、突起部12は、真皮層の神経細胞に到達しないため、皮膚への穿刺時に、患者が感じる痛みを低減することが可能となる。
【0048】
(8)また、本実施形態に係る注入器具は、変形部25を、第1の面11Sから突起部12の頂部までの高さをL(mm)としたときに、第1の面11Sから0.3mm以上L+1mm以下の範囲内で、流体圧力に応じて突起部12の突起方向に向けて変形させてもよい。
このような構成であれば、穿刺深さを浅くすることが可能であり、薬剤を注入した際に皮膚が膨張することが可能となり液詰まりおよび液漏れを防ぐことが可能となる。
薬剤の皮膚表面への漏れを抑制して皮内に確実に薬剤を投与するための注入器具を提供する。本発明の一態様に係る注入器具は、基板(11)の第1の面(11S)に1又は2以上の突起部(12)を有し、各突起部(12)には貫通孔が形成される中空型針状体(10)と、1又は2以上の突起部(12)の外周側に配置されて、第1の面(11S)から張り出す方向に変形可能な変形部(25)と、変形部(25)に流体圧力を付加する加圧用流路(26)と、を備え、変形部(25)は、流体圧力に応じて第1の面(11S)から突起部12の突起方向へ変形する。