特許第5896105号(P5896105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896105
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】pH測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20160317BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   G01N27/46 353F
   G01N27/26 381C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-154107(P2011-154107)
(22)【出願日】2011年7月12日
(65)【公開番号】特開2013-19804(P2013-19804A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆之
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−525772(JP,A)
【文献】 実開平04−131764(JP,U)
【文献】 実開平06−076854(JP,U)
【文献】 特開平10−014402(JP,A)
【文献】 特開平04−132948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定液のpH測定感度が時間と共に変化するガラス電極型pHセンサの測定値を入力するpH変換演算手段に対して、所定の時間間隔または随時に実行される基準pHの校正液による校正作業で取得される校正感度データを渡して前記pH測定感度を補正させるpH測定装置において、
経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力する感度係数推論手段と、
被測定液のpH測定中に前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンスを測定して測定値をオンラインで前記感度係数推論手段に与えるインピーダンス検出手段と、
を備え、
前記感度係数推論手段は、前記の校正感度データの取得から次回の校正感度データの取得までの間における校正感度を予測し、前記pH変換演算手段に校正感度データとして渡すことを特徴とするpH測定装置。
【請求項2】
前記感度係数推論手段は、オフライン状態において前記経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力し、推論のアルゴリズムを学習することを特徴とする請求項1に記載のpH測定装置。
【請求項3】
前記感度係数推論手段は、オンライン状態において前記経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力し、推論のアルゴリズムを学習することを特徴とする請求項1または2に記載のpH測定装置。
【請求項4】
前記感度係数推論手段は、ニューラルネットワークにより構成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のpH測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定液のpH測定感度が時間と共に変化するガラス電極型pHセンサの測定値を入力するpH変換演算手段に対して、所定の時間間隔または随時に実行される基準pHの校正液による校正作業で取得される校正感度データを渡して前記pH測定感度を補正させるpH測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のpH測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。測定装置10において、pHセンサ11による測定液12の測定値Xは、pH変換演算手段13入力され、演算されてpH値に変換される。
【0003】
pHセンサの測定感度をa、ゼロ点を示すバイアス値をbとしたとき、pH変換演算手段13の出力pHは、pH=aX+bとなる。しかしながら、pHセンサの測定感度aは、稼動時間と共に変化する。
【0004】
この感度変化を補うために、所定の時間間隔または随時に実施されるpHセンサ11の校正によって取得される校正感度a´(t)により、感度補正手段13aで補正演算した、pH=a´(t)X+bを出力させる処理を必要とする。バイアス値bが時間と共に変動する場合にも校正を必要とするが、説明の簡単のため、ここでは固定定数として説明する。
【0005】
校正装置20は、pH値が既知の校正液22を備える。所定の時間間隔または随時にpHセンサ11によりこの校正液22を測定した離散的に求められる測定値Xを、pH変換演算手段23に入力して得たpHの変換演算出力pH=a´(t)X+bを、校正感度抽出手段24に渡し、校正感度a´(t)を抽出する。
【0006】
校正感度抽出手段24で抽出された離散的に得られる過去の校正感度a´(t)は、校正履歴保存手段25に保存される。感度変化曲線予測手段26は、校正履歴保存手段25に保存されるトレンドデータを読み出して、校正実施日とその時点での感度の履歴データから、平均的な時間経過対感度変化近似曲線である感度変化曲線を導く。この感度変化曲線は、実際の感度変化により近い曲線を導くことが目的である。
【0007】
従って、この曲線は直線であっても次数の多い多次曲線であってもかまわない。近似曲線を導くにあたり、その手法は、直近の2回の校正データを用いて直線近似を行う、あるいは直近の3個以上の校正データにより最小二乗近似法を用いて直線近似を行うなど、演算の手法はいくつか考えられる。
【0008】
測定装置10のpH演算変換手段13は、感度変化曲線予測手段26により予測される感度変化曲線より連続的に求められる感度補正値a″(t)を入力し、感度補正手段13aにより感度補正した、pH=a″(t)X+bを演算して出力する。
【0009】
図7は、図6に示した従来のpH測定装置の感度変化曲線を示す特性図である。稼動開始時刻t1での校正感度a1より実際の感度変化曲線を点線F1で示す。時刻t2、t3で実施された校正により取得された校正感度をa2、a3で示す。
【0010】
校正により得られた感度曲線を実線F2で示す。F2は、時刻t1よりt2までは、t1で取得した校正感度a1を維持し、時刻t2よりt3までは、t2で取得した校正感度a2を維持し、以下同様に校正毎にステップ変化する離散的なデータとなる。
【0011】
感度変化曲線予測手段26によって予測される感度変化曲線は、太線の実線で示すF3である。図に示す感度変化曲線F3は、時刻t2で得られる校正感度a2と時刻t3で得られる校正感度a3を結んだ直線で近似されている。
【0012】
予測される感度変化曲線F3と実際の感度変化曲線F1は近接しているので、次の校正タイミング前の時刻t4で発生する感度偏差Δa´は、離散データで示される最大偏差Δaよりも小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−164736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来構成のpH測定装置では、離散的な校正データの補間機能として、蓄積された校正データから近似式を用いて校正データを予測している。この手法では、pHセンサとしてガラス電極型pHセンサを用いた場合、その劣化要因であるインピーダンス変化、測定溶液の温度変化などが考慮されていないために、実際の感度変化曲線と感度予測曲線間の偏差を縮小することに限界がある。即ち、蓄積データによる近似となるため、校正作業自体をなくすことは難しい。
【0015】
本発明の目的は、従来の感度変化の前方予測機能の偏差をより小さくし、校正回数の大幅な削減、または校正レスを可能とするpH測定装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような課題を達成するために、本発明は次の通りの構成になっている。
(1) 被測定液のpH測定感度が時間と共に変化するガラス電極型pHセンサの測定値を入力するpH変換演算手段に対して、所定の時間間隔または随時に実行される基準pHの校正液による校正作業で取得される校正感度データを渡して前記pH測定感度を補正させるpH測定装置において、
経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力する感度係数推論手段と、
被測定液のpH測定中に前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンスを測定して測定値をオンラインで前記感度係数推論手段に与えるインピーダンス検出手段と、
を備え、
前記感度係数推論手段は、前記の校正感度データの取得から次回の校正感度データの取得までの間における校正感度を予測し、前記pH変換演算手段に校正感度データとして渡すことを特徴とするpH測定装置。
【0017】
(2)前記感度係数推論手段は、オフライン状態において前記経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力し、推論のアルゴリズムを学習することを特徴とする(1)に記載のpH測定装置。
【0018】
(3)前記感度係数推論手段は、オンライン状態において前記経過時間、前記pH変換演算手段のpH測定値、前記測定液の温度測定値、前記ガラス電極型pHセンサのインピーダンス測定値を学習データとすると共に、前記校正作業で取得される校正感度データのバックデータを教師データとして入力し、推論のアルゴリズムを学習することを特徴とする(1)または(2)に記載のpH測定装置。
【0019】
(4)前記感度係数推論手段は、ニューラルネットワークにより構成されることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載のpH測定装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、次のような効果を期待することができる。
(1)pHセンサの劣化要因を学習データとし、校正実績データを教師データとする、ニューラルネットワークなどで実現可能な感度係数推論手段により感度変化の前方予測を行うことで、実際の感度変化との偏差をより小さくすることができる。
【0021】
(2)また、バックデータの精度が確保できる場合、設置された環境、アプリケーションを覚えるために数回の校正を行えば、その後は校正レスで感度予測していくことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明を適用したpH測定装置の一実施例を示す機能ブロック図である。
図2】ニューラルネットワークによる学習動作を説明する模式図である。
図3】ニューラルネットワークによる稼動中での予測動作を説明する模式図である。
図4】ガラス電極pHセンサのインピーダンス測定回路図である。
図5】本発明によるpH測定装置の感度変化曲線を示す特性図である。
図6】従来のpH測定装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図7】従来のpH測定装置の感度変化曲線を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明を適用したpH測定装置の一実施例を示す機能ブロック図である。図6で説明した従来構成と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0024】
図6に示した従来構成の測定装置10に追加される本発明の特徴部は、pH変換演算手段13の感度補正手段13aに渡す感度係数a″(t)を前方予測するための感度係数推論手段100を設けた構成にある。
【0025】
感度係数推論手段100としては周知のニューラルネットワークを採用することが可能であるが、これに限定されるものではなく、多数のプロセス値から直接計測が困難なプロセス性状を予測する、実用化されている周知の多変数モデル予測制御パッケージなどの採用が可能である。以下、ニューラルネットワークを用いた実施例を説明する。
【0026】
ニューラルネットワークによる感度係数推論手段100は、経過時間t、pH変換演算手段の出力pH値,測定液12の温度測定値T、pHセンサ11のガラス電極インピーダンス測定値Zなどのパラメータを劣化要因の学習データとして入力すると共に、校正履歴保存手段25から得られる感度データのバックデータa´(t)を教師データとして入力し、予測される感度係数a″(t)を出力し、感度補正手段13aに渡す。
【0027】
ガラス電極インピーダンス測定値Zは、インピーダンス検出手段14により定周期処理で測定される。温度測定値Tは。測定液12に接する温度センサ15を用いた温度検出手段16で測定される。
【0028】
図2は、ニューラルネットワークによる学習動作を説明する模式図である。ニューラルネットワークによる感度係数推論手段100は、学習データのパラメータとして経過時間t、pH変換演算手段の出力pH値,測定液12の温度測定値T、pHセンサ11のガラス電極インピーダンス測定値Zを入力すると共に、感度データのバックデータa´(t)を教師データとして入力し、推論のアルゴリズムを最適化するための学習をする。
【0029】
ニューラルネットワークの学習方法としては、開発時にオフライン状態において入力パラメータである経過時間、pH測定値、温度測定値、インピーダンス測定値等に対する感度変化のバックデータを測定し、その感度変化のバックデータを教師データとして学習する。
【0030】
このバックデータはなるべく多くのデータで学習されることが望ましい。また、オンラインで稼働中もユーザが校正する度にその校正データにより学習させ、そのアプリケーションに特化した環境にも対応できるようにする。
【0031】
図3は、ニューラルネットワークによる稼動中での予測動作を説明する模式図である。ニューラルネットワークによる感度係数推論手段100への入力データとしては、オフラインでの学習データと同じ経過時間t、pH変換演算手段の出力pH値,測定液12の温度測定値T、pHセンサ11のガラス電極インピーダンス測定値Zをオンラインで入力すると共に、感度データのバックデータa´(t)をオンラインの教師データとして入力し、出力データとして予測感度係数a″(t)をオンラインで算出し、感度補正手段13aに渡す。
【0032】
図4は、ガラス電極pHセンサのインピーダンス測定回路図である。ガラス電極pHセンサの等価回路は、液アースとガラス電極間に接続された、起電力VgとインピーダンスZの直列回路で表記できる。pH測定の直流の起電力に影響しないようにCPUからの指令で100Hzの方形波信号Vを液アース側に印加し、電極側では、測定したいインピーダンスZと固定抵抗Rの分圧Vinをサンプルホールドした電圧VoをAD変換してCPUに入力する。
【0033】
図5は、本発明によるpH測定装置の感度変化曲線を示す特性図である。図7に示した従来構成の予測による感度変化曲線F3と、本発明の予測による感度変化曲線F3´との対比で明らかなように、時刻t4における感度偏差Δa´はより小さくなり、予測の精度が向上している。
【0034】
本発明の手法によれば、実際の感度変化曲線F1に対し、予測感度変化曲線F3´を高精度で近似させることが可能となる。これにより、校正の頻度を従来構成に比較して少なくすることができ、所定期間の学習を実行した後に校正レスの運転に移行することも可能となる。
【符号の説明】
【0035】
10 測定装置
11 pHセンサ
12 測定液
13 pH変換演算手段
13a 感度補正手段
14 インピーダンス検出手段
15 温度センサ
16 温度検出手段
20 校正装置
22 校正液
23 pH変換演算手段
24 校正感度抽出手段
25 校正履歴保存手段
100 感度係数推論手段
図1
図2
図3
図4
図6
図5
図7