特許第5896129号(P5896129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896129
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】車両用燃料タンクのリザーバカップ装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20160317BHJP
   F02M 37/18 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   F02M37/00 301T
   F02M37/18 A
   F02M37/00 311A
   F02M37/00 P
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-26637(P2012-26637)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-163992(P2013-163992A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】木全 康之
(72)【発明者】
【氏名】小林 義光
【審査官】 赤間 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−184685(JP,A)
【文献】 特表平11−506816(JP,A)
【文献】 特開2009−235960(JP,A)
【文献】 特表2007−506890(JP,A)
【文献】 特開平07−259675(JP,A)
【文献】 特開平08−042419(JP,A)
【文献】 実開昭59−036817(JP,U)
【文献】 実開昭63−150071(JP,U)
【文献】 特開2009−127514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00〜37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内に配設したリザーバカップ内の燃料を燃料ポンプにより汲み上げて燃料フィルタを介して車両のエンジンに供給し、該エンジンで消費されなかった余剰燃料を上記リザーバカップ内に回収する一方、上記リザーバカップの燃料をジェットポンプ内に流通させて負圧を発生させ、該負圧を利用して吸入ポートを経て上記燃料タンク内の燃料を上記リザーバカップ内に流入させて該リザーバカップ内の燃料液面を高めるようにした車両用燃料タンクのリザーバカップ装置において、
上記ジェットポンプの吸入ポート内に配設されて、上記燃料の温度が該燃料中にパラフィンを析出させるパラフィン析出温度域にあるときに、バイメタルの変形に応じて閉弁方向に作動して、上記ジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限する開閉弁を備えたことを特徴とする車両用燃料タンクのリザーバカップ装置。
【請求項2】
燃料タンク内に配設したリザーバカップ内の燃料を燃料ポンプにより汲み上げて燃料フィルタを介して車両のエンジンに供給し、該エンジンで消費されなかった余剰燃料を上記リザーバカップ内に回収する一方、上記リザーバカップの燃料をジェットポンプ内に流通させて負圧を発生させ、該負圧を利用して吸入ポートを経て上記燃料タンク内の燃料を上記リザーバカップ内に流入させて該リザーバカップ内の燃料液面を高めるようにした車両用燃料タンクのリザーバカップ装置において、
上記燃料フィルタに内蔵され、上記燃料の温度が該燃料中にパラフィンを析出させるパラフィン析出温度域にあるときに作動するヒータと、
上記ジェットポンプの吸入ポート内に配設されて、上記燃料フィルタのヒータの作動と連動して閉弁方向に作動して、上記ジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限する開閉弁と
を備えたことを特徴とする車両用燃料タンクのリザーバカップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用燃料タンクのリザーバカップ装置に係り、詳しくは低温時において燃料中に析出したパラフィンによる燃料フィルタの目詰まりを防止するためにリザーバカップ内の燃料を迅速に昇温可能なリザーバカップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載された燃料タンク内の燃料液面は車両の加減速や旋回などに応じて常に揺動しているため、燃料の貯留量が少なくなると燃料ポンプによる燃料の吸い上げが途切れる不具合を生じる。そこで、例えば特許文献1に記載された技術では、燃料タンク内の底部に配設したリザーバカップ内の燃料を燃料ポンプで汲み上げて燃料フィルタを経てエンジンに供給すると共に、燃料タンク内の燃料をリザーバカップ内に常に流入させることにより燃料液面を高めて、上記した燃料の吸い上げ不良を防止している。
【0003】
なお、リザーバカップ内への燃料流入にはジェットポンプが用いられており、燃料ポンプから吐出された燃料の一部をジェットポンプ内に流通させ、発生した負圧を利用して燃料タンク内の燃料をリザーバカップ内に流入させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−127514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ディーゼルエンジンに使用される軽油やバイオディーゼル燃料は低温時にパラフィンを析出させる性質があり、析出したパラフィンは燃料フィルタを目詰まりさせてエンジン不調を引き起こすという問題がある。そこで、上記特許文献1の技術などでは燃料フィルタにヒータを内蔵させ、燃料の低温時にはヒータを作動させてパラフィンを溶かす対策を実施している。
【0006】
燃料中のパラフィンの析出量は燃料温度や燃料性状などに応じて変動するが、条件によってはパラフィンの析出量がヒータの融解能力を上回る場合もあり、このような状況では燃料フィルタの目詰まりを解消できなかった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、低温環境下においてリザーバカップ内の燃料を迅速に昇温でき、もって燃料中に析出したパラフィンによる燃料フィルタの目詰まりを未然に回避することができる車両用燃料タンクのリザーバカップ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、燃料タンク内に配設したリザーバカップ内の燃料を燃料ポンプにより汲み上げて燃料フィルタを介して車両のエンジンに供給し、エンジンで消費されなかった余剰燃料をリザーバカップ内に回収する一方、リザーバカップの燃料をジェットポンプ内に流通させて負圧を発生させ、負圧を利用して吸入ポートを経て燃料タンク内の燃料をリザーバカップ内に流入させてリザーバカップ内の燃料液面を高めるようにした車両用燃料タンクのリザーバカップ装置において、ジェットポンプの吸入ポート内に配設されて、燃料の温度が燃料中にパラフィンを析出させるパラフィン析出温度域にあるときに、バイメタルの変形に応じて閉弁方向に作動して、ジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限する開閉弁を備えたものである。
【0008】
請求項2の発明は、燃料タンク内に配設したリザーバカップ内の燃料を燃料ポンプにより汲み上げて燃料フィルタを介して車両のエンジンに供給し、エンジンで消費されなかった余剰燃料をリザーバカップ内に回収する一方、リザーバカップの燃料をジェットポンプ内に流通させて負圧を発生させ、負圧を利用して吸入ポートを経て燃料タンク内の燃料をリザーバカップ内に流入させてリザーバカップ内の燃料液面を高めるようにした車両用燃料タンクのリザーバカップ装置において、燃料フィルタに内蔵され、燃料の温度が該燃料中にパラフィンを析出させるパラフィン析出温度域にあるときに作動するヒータと、ジェットポンプの吸入ポート内に配設されて、燃料フィルタのヒータの作動と連動して閉弁方向に作動して、ジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限する開閉弁とを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように請求項1の発明の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置によれば、燃料の温度がパラフィン析出温度域にあるときに、バイメタルの変形に応じて閉弁方向に作動する開閉弁によりジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限するようにした。従って、パラフィン析出温度域ではバイメタルにより開閉弁が閉弁方向に作動して吸入ポートを流通する燃料を制限し、燃料タンク内の低温の燃料のリザーバカップ内への流入量が減少するため、リザーバカップ内の燃料温度を迅速に上昇させて燃料中のパラフィンを速やかに融解でき、もってパラフィンによる燃料フィルタの目詰まりを未然に回避することができる。
【0011】
請求項2の発明の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置によれば、燃料の温度がパラフィン析出温度域にあるときに、燃料フィルタのヒータの作動と連動して閉弁方向に作動する開閉弁によりジェットポンプの吸入ポートを流通する燃料を制限するようにした。従って、パラフィン析出温度域ではヒータの作動と連動して開閉弁が閉弁方向に作動して吸入ポートを流通する燃料を制限し、燃料タンク内の低温の燃料のリザーバカップ内への流入量が減少するため、リザーバカップ内の燃料温度を迅速に上昇させて燃料中のパラフィンを速やかに融解でき、もってパラフィンによる燃料フィルタの目詰まりを未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置を示す全体構成図である。
図2】同じくジェットポンプの詳細を示す部分拡大断面図である。
図3】第2実施形態の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置を示す全体構成図である。
図4】同じくジェットポンプの詳細を示す部分拡大断面図である。
図5】第3実施形態の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化した車両用燃料タンクのリザーバカップ装置の第1実施形態を説明する。
図1は本実施形態の車両用燃料タンクのリザーバカップ装置を示す全体構成図、図2はジェットポンプの詳細を示す部分拡大断面図である。
【0016】
車両に搭載された燃料タンク1内の底部にはリザーバカップ2が配設され、これらの燃料タンク1及びリザーバカップ2の内部には燃料が貯留されている。本実施形態の車両は燃料として軽油を使用するが、これに代えてバイオディーゼル燃料を使用してもよい。リザーバカップ2は上方に開口する有底円筒状をなし、その下面2aと燃料タンク1の底面1aとの間に僅かな間隙を形成した状態で図示しないブラケットにより固定されている。リザーバカップ2内には燃料ポンプ3が配設され、燃料ポンプ3はストレーナ4を介してリザーバカップ2内の燃料を吸い上げて燃料供給管路5を経てディーゼルエンジン(以下、エンジンという)6に供給するようになっている。燃料タンク1外において燃料供給路5には燃料フィルタ7が介装され、燃料フィルタ7は燃料供給路5を流通する燃料を濾過してエンジン6の燃料系の目詰まりを防止している。
【0017】
燃料供給路5を経て供給された燃料の一部はエンジン6で消費されず、余剰燃料として燃料回収路8を経てリザーバカップ2に回収されるようになっている。この余剰燃料はエンジン6の燃料系を循環することによりエンジン6から受熱して昇温しており、昇温後の余剰燃料が回収されることでザーバカップ2内の燃料温度は次第に上昇する。
また、燃料タンク1内において燃料供給路5からは燃料調圧路9が分岐し、燃料調圧路9の先端はリザーバカップ2内に位置して後述するジェットポンプ10が設けられている。燃料調圧路9には燃圧レギュレータ11が介装され、燃圧レギュレータ11の設定圧に基づき燃料供給路5の燃料の一部が調圧燃料として燃料調圧路9側に適宜逃がされることにより、エンジン6への供給燃料が設定圧に調整される。従って、燃料調圧路9内には燃圧レギュレータ11を経た調圧燃料が流通し、その調圧燃料はジェットポンプ10を経てリザーバカップ2内に排出される。
【0018】
ジェットポンプ10は調圧燃料の流通により発生した負圧を利用して、燃料タンク1内の燃料をリザーバカップ2内に流入させる役割を果たす。このためにジェットポンプ10内には内部を流通する燃料の流速を高めるための絞り部10aが設けられ、この絞り部10aと対応する位置に吸入ポート10bの一端が接続されている。吸入ポート10bの他端はリザーバカップ2の下面2aを介して燃料タンク1内、詳しくはリザーバカップ2の下面2aと燃料タンク1の底面1aとの間の間隙内に開口している。
【0019】
燃料調圧路9からの調圧燃料はジェットポンプ10内の絞り部10aにより絞られて流速を高められた後、ジェットポンプ10の先端10cからリザーバカップ2内に排出される。これにより吸入ポート10bの接続箇所には負圧が発生し、燃料タンク1内の燃料が吸入ポート10bに吸い上げられて調圧燃料と共にリザーバカップ2内に流入する。
リザーバカップ2内の燃料は燃料供給路5を経てエンジン6で消費される一方、ジェットポンプ10の吸入ポート10bを経て燃料タンク1内から流入するが、通常のエンジン運転域では、前者の消費量よりも後者の流入量の方が大となる。このため図1に示すように、燃料タンク1内の燃料液面が低下した状態であっても、リザーバカップ2内の燃料液面は上昇してリザーバカップ2の上部から燃料が溢流し続け、リザーバカップ2の上部に相当する燃料液面が常に保持される。
【0020】
リザーバカップ2の下面2aにはワンウェイバルブ12が設けられ、ワンウェイバルブ12はリザーバカップ2から燃料タンク1への燃料流出を阻止し、燃料タンク1からリザーバカップ2への燃料流入を許容する。何らかの要因によりジェットポンプ10が機能しない場合、リザーバカップ2内の燃料液面はエンジン6の燃料消費に応じて次第に低下する。しかし、ワンウェイバルブ12を介して燃料タンク1から燃料が逐次流入することから、リザーバカップ2内は燃料タンク1内とほぼ等しい燃料液面に保持される。
【0021】
ところで、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、軽油は低温時にパラフィンを析出させる性質があり、バイオディーゼル燃料も同様の性質を有する。燃料中にパラフィンが析出する温度域(パラフィン析出温度域)は燃料の種別や仕向地などで相違するが、例えば−2〜−10℃未満の温度域をパラフィン析出温度域と見なすことができる。そして、リザーバカップ2内の燃料中に析出したパラフィンは燃料フィルタ7を目詰まりさせ、燃料フィルタ7に内蔵されたヒータだけでは不具合を解消できない場合がある。
【0022】
本発明者は、リザーバカップ2内の燃料の熱的な収支を検討した結果、リザーバカップ2内の燃料に対して、エンジン6から受熱した余剰燃料の回収は温度を上昇させる方向に作用し、ジェットポンプ10による燃料タンク1からの燃料の流入は温度を低下させる方向に作用することに着目した。
例えば低温環境下でエンジン6を始動させると、燃料タンク1及びリザーバカップ2内の燃料は共にパラフィン析出温度域にあることからパラフィンが析出する。燃料タンク1内の燃料温度がほとんど上昇しないのに対して、リザーバカップ2内の燃料温度は暖機中のエンジン6から受熱した余剰燃料が回収されて次第に上昇する。ところが、これと並行してリザーバカップ2内にはジェットポンプ10により燃料タンク1内の低温の燃料が流入する。しかも、余剰燃料の流入に伴ってエンジン6から受熱した余剰燃料の一部がリザーバカップ2から溢流するため、その熱がリザーバカップ2内の燃料温度の上昇に貢献することなく無駄に捨てられてしまう。このため、リザーバカップ2内の燃料温度の上昇が緩慢になってパラフィンの融解が妨げられてしまう。
【0023】
一方で、エンジン始動直後は高負荷運転を避けるためエンジン6の燃料消費量が少なく、また、必然的に車両の急激な加減速や旋回を控える傾向となる。これらの要因は、低温環境下では燃料タンク1内の燃料液面に比較して必ずしもリザーバカップ2内の燃料液面を上昇させる必要がないことを意味する。
以上のような知見に基づき、本発明ではリザーバカップ2内の燃料温度がパラフィン析出温度域にあるときに、迅速な昇温のためにジェットポンプ10の機能を一時的に停止させる対策を実施しており、以下、当該対策について詳述する。
【0024】
本実施形態では、ジェットポンプ10を機能停止させるために、図2に示すようにジェットポンプ10の吸入ポート10b内に網状部材13(燃料流入制限手段)を配設している。網状部材13は金属ワイヤを等間隔の角目状や菱目状に編み込んで平板状をなすように製作され、吸入ポート10bの上流側と下流側とを区画するように燃料流通方向に対して直交する姿勢で配設されている。以下に述べるように網状部材13は、燃料中に析出したパラフィンを捕捉して意図的に目詰まりすることで吸入ポート10bを閉塞する役割を果たし、このために網状部材13の網目はパラフィンを捕捉可能な程度に細かく設定されている。
【0025】
なお、網状部材13の材質や形状は上記に限ることはなく任意に変更可能であり、例えばその材質を合成樹脂に変更したり、網目形状を変更したりしてもよい。また、網状部材13の設置場所についても吸入ポート10b内に限定されることはなく、例えばリザーバカップ2の下面2aに吸入ポート10bの開口箇所を閉塞するように配設してもよい。
次に、以上のように構成した車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置の作用を説明する。
【0026】
上記のように低温環境下では燃料タンク1及びリザーバカップ2内の燃料がパラフィン析出温度域にあり、それぞれの燃料中にパラフィンが析出する。このため、リザーバカップ2内の燃料と共にパラフィンが燃料ポンプ3により吸い上げられ、パラフィンは燃料フィルタ7に次第に捕捉される。燃料フィルタ7はある程度大きな濾過面積を有しており、また低温環境下ではヒータが作動して十分ではないとしてもパラフィンを融解させるため、燃料フィルタ7が早期に完全な目詰まりを生じることはない。よって、燃料供給路5及び燃料回収路8を経てリザーバカップ2とエンジン6との間で燃料の循環が継続され、暖機中のエンジン6から受熱した余剰燃料が回収されることによりリザーバカップ2内の燃料温度は次第に上昇する。
【0027】
一方、これと並行して燃料タンク1内の燃料と共にパラフィンがジェットポンプ10の吸入ポート10bに吸い上げられ、パラフィンは網状部材13に捕捉されて目詰まりさせる。網状部材13は吸入ポート10bの通路断面積に相当するごく狭い領域でパラフィンを捕捉するため、網状部材13の目詰まりは早期に発生する。このため、エンジン始動のほとんど直後から吸入ポート10bが閉塞されて、燃料タンク1内の低温の燃料のリザーバカップ2への流入が中断される。また、この流入中断に伴ってリザーバカップ2からの燃料の溢流も中断されるため、エンジン6から受熱した余剰燃料の熱は無駄なくリザーバカップ2内の燃料温度の昇温に利用される。従って、リザーバカップ2内の燃料温度が迅速に上昇して燃料中のパラフィンが速やかに融解される。また、この時点で既に燃料フィルタ7が部分的に目詰まりしている場合でも、温度上昇した燃料の供給によりパラフィンが融解されて目詰まりが解消される。
【0028】
なお、このように吸入ポート10bは遮断されるが燃圧レギュレータ11の機能は妨げられていないため、エンジン6への供給燃料の圧力調整は何ら問題なく継続される。
また、ジェットポンプ10が機能停止することにより、リザーバカップ2内の燃料液面はエンジン6の燃料消費に応じて次第に低下する。しかしながら、上記のようにワンウェイバルブ12を介して燃料タンク1から燃料が逐次流入することから、リザーバカップ2内は燃料タンク1内とほぼ等しい燃料液面に保持されてエンジン6への燃料供給が継続される。
【0029】
但し、本発明においてワンウェイバルブ12は必ずしも必要な要件ではない。例えば予め実施した試験に基づき、ジェットポンプ10の機能停止によりリザーバカップ2内の燃料が消費され尽くす以前に、燃料温度が上昇して網状部材13のパラフィンが融解することが確実な場合には、必ずしもワンウェイバルブ12を設ける必要はなく、これを省略してもよい。
【0030】
このようにして燃料フィルタ7の目詰まりを防止しながらエンジン6の運転が継続される。そして、リザーバカップ2内の燃料温度が上昇してパラフィン析出温度域を超え、さらにリザーバカップ2の表面からの受熱により燃料タンク1内の燃料温度もある程度上昇した時点で、吸入ポート10bの網状部材13に捕捉されたパラフィンが融解する。従って、吸入ポート10bの閉塞が解消されてジェットポンプ10により燃料タンク1内の燃料がリザーバカップ2内に流入し始め、これによりリザーバカップ2内の燃料液面が上昇して上部からの溢流が開始される。よって、以降は本来のリザーバカップ2による機能、即ち燃料の液面揺動に起因する吸い上げ不良を防止する機能が得られる。
【0031】
以上のように本実施形態の車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置によれば、ジェットポンプ10の吸入ポート10b内に網状部材13を配設して、燃料中にパラフィンが析出する低温環境下では、パラフィンにより網状部材13を意図的に目詰まりさせて吸入ポート10bを閉塞し、これによりジェットポンプ10を一時的に機能停止させている。このため、燃料タンク1内の低温の燃料のリザーバカップ2への流入を中断してリザーバカップ2内の燃料を迅速に昇温でき、もって燃料中に析出したパラフィンによる燃料フィルタ7の目詰まりを未然に回避することができる。
【0032】
ここで、以上の作用効果を得るには、燃料中に析出したパラフィンにより網状部材13を早期に目詰まりさせることが重要であり、そのために本実施形態では、吸入ポート10b内に網状部材13を配設して吸入ポート10bの通路断面積に相当するごく狭い領域でパラフィンを捕捉させている。例えば特許文献1に記載された技術でも、撥水性フィルタを介して燃料タンク1内の燃料をリザーバカップ2内に流入させており、この撥水性フィルタは燃料から水分を濾過する目的のため、その特性が相違(パラフィンの捕捉と撥水との相違)することは当然であるが、それに加えて大きさが全く相違する。
【0033】
即ち、特許文献1の撥水性フィルタは、燃料タンク1内の水面が上昇しても流通抵抗を増加させることなく燃料を吸い上げる必要があるとの観点の下に、リザーバカップ2の下部より上方に向けて延設された非常に大きな濾過面積に形成されている。言うまでもないが、この撥水性フィルタに倣って本実施形態の網状部材13の面積を拡大すれば、パラフィンを捕捉しても目詰まりが発生せず、ジェットポンプ10を機能停止できないことは明らかである。このように本実施形態では網状部材13の面積を狭い領域に制限しているが故に、燃料中に析出したパラフィンにより網状部材13を早期に目詰まりさせてジェットポンプ10を機能停止でき、もってリザーバカップ2内の燃料を迅速に昇温できるのである。
【0034】
次に、本発明を別の車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置に具体化した第2実施形態を説明する。
本実施形態のリザーバカップ装置の基本的な構成は、図1に基づき述べた第1実施形態のものと同様であり、相違点は、第1実施形態の網状部材13に代えてバイメタル式の開閉弁21(燃料流入制限手段)を用いた点にある。そこで、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点である開閉弁21の構成及び作用効果について詳述する。
【0035】
図3は本実施形態の車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置を示す全体構成図、図4はジェットポンプ10の詳細を示す部分拡大断面図である。
図3に示すように、第1実施形態の網状部材13に代えて吸入ポート10bの途中には開閉弁21が配設されている。図4に示すように開閉弁21は、ジェットポンプ10の吸入ポート10b内に設けられた弁座22、弁座22を開閉する弁体23、及び操作ロッド24を介して先端25aを弁体23に連結され、基端25bを図示しないブラケットに固定されたバイメタル25から構成されている。
【0036】
周知のようにバイメタル25は、熱膨張率が異なる2種の金属を貼り合わせて製作され、温度変化に応じて湾曲状態を変化させる性質を有する。本実施形態では、バイメタル25を常にリザーバカップ2内の燃料に浸漬させて、燃料温度が低下するほどバイメタル25が湾曲して弁体23を下方に変位させるようになっている。このため、燃料温度がパラフィン析出温度域よりも高いときには、弁体23が弁座22から離間して吸入ポート10bを開放し、一方、燃料温度がパラフィン析出温度域まで低下すると、弁体23が弁座22に着座して吸入ポート10bを閉塞する。
【0037】
従って、低温環境下でリザーバカップ2内の燃料がパラフィン析出温度域にあるときには、吸入ポート10bの変速によりジェットポンプ10が機能停止し、燃料タンク1内の低温の燃料のリザーバカップ2への流入が中断される。このため、重複する説明はしないが第1実施形態と同じく、エンジン6から受熱した余剰燃料の回収によりリザーバカップ2内の燃料を迅速に昇温でき、もって燃料中に析出したパラフィンによる燃料フィルタ7の目詰まりを未然に回避することができる。
【0038】
なお、本実施形態では開閉弁21のバイメタル25がリザーバカップ2内の燃料に浸漬されているため、その燃料温度がパラフィン析出温度域を超えると、開閉弁21の弁体23が弁座22から離間して吸入ポート10bを開放する。よって、この時点でジェットポンプ10により燃料タンク1内の燃料がリザーバカップ2内に流入し始め、本来のリザーバカップ2による機能が得られる。
【0039】
次に、本発明を別の車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置に具体化した第3実施形態を説明する。
本実施形態のリザーバカップ装置の基本的な構成は、図1に基づき述べた第1実施形態のものと同様であり、相違点は、第1実施形態の網状部材13に代えて電磁式の開閉弁31(燃料流入制限手段)を用いた点にある。そこで、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点である開閉弁31の構成及び作用効果について詳述する。
【0040】
図5は本実施形態の車両用燃料タンク1のリザーバカップ装置を示す全体構成図である。
ジェットポンプ10の吸入ポート10bの途中には電磁式の開閉弁31が配設され、この開閉弁31の開閉に応じて吸入ポート10bが開放・閉塞されるようになっている。開閉弁31は燃料フィルタ7に内蔵されたヒータから制御信号を入力し、ヒータと連動して開閉する。即ち、リザーバカップ2内の燃料温度が低下してパラフィン析出温度域となるとヒータが作動し、そのヒータからの制御信号に基づき開閉弁31が閉弁する。一方、リザーバカップ2内の燃料温度が上昇してパラフィン析出温度域を超えるとヒータが作動中止し、それに応じて開閉弁31が開弁する。
【0041】
従って、低温環境下でリザーバカップ2内の燃料がパラフィン析出温度域にあるときには、開閉弁31が閉弁して吸入ポート10bを閉塞し、ジェットポンプ10が機能停止して燃料タンク1内の低温の燃料のリザーバカップ2への流入が中断される。このため、重複する説明はしないが第1,2実施形態と同じく、エンジン6から受熱した余剰燃料の回収によりリザーバカップ2内の燃料を迅速に昇温でき、もって燃料中に析出したパラフィンによる燃料フィルタ7の目詰まりを未然に回避することができる。
【0042】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら第1〜3実施形態に限定されるものではない。例えば各実施形態では、燃圧レギュレータ11からの調圧燃料をジェットポンプ10内に流通させて負圧を発生させたが、これに限ることはない。例えば特許文献1の技術と同様に、燃料ポンプ3から吐出された燃料の一部をジェットポンプ10内に流通させることで負圧を発生させてもよい。
【0043】
また、上記各実施形態ではリザーバカップ2内に燃料ポンプ3を配設する一方、燃料タンク1内に燃圧レギュレータ11を配設し、燃料タンク1外に燃料フィルタ7を配設したが、これらのレイアウトは適宜変更可能である。例えば燃料ポンプ3をリザーバカップ2外或いは燃料タンク1外に配設してもよいし、燃圧レギュレータ11及び燃料フィルタ7を共に燃料タンク1内に配設したり燃料タンク1外に配設したりしてもよい。
【0044】
また、上記第1実施形態では網状部材13の目詰まりによりジェットポンプ10の吸入ポート10bを完全に閉塞し、第2,3実施形態では開閉弁21,31の閉弁により吸入ポート10bを完全に閉塞したが、これに限定されるものではない。吸入ポート10bを完全に閉塞しなくても、部分的な閉塞により吸入ポート10bを流通する燃料を制限しさえすれば、リザーバカップ2内の燃料温度の上昇は促進される。よって、例えば網状部材13を吸入ポート10b内に部分的に配設したり、開閉弁21,31を全閉させずに閉弁方向に作動させたりして、吸入ポート10b内の燃料流通を制限するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 燃料タンク
2 リザーバカップ
3 燃料ポンプ
6 エンジン
7 燃料フィルタ
10 ジェットポンプ
10b 吸入ポート
13 網状部材(燃料流入制限手段)
21,31 開閉弁(燃料流入制限手段)
25 バイメタル
図1
図2
図3
図4
図5