(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル〜」とは、「アクリル〜」および「メタクリル〜」の双方を包括する概念である。また、「〜(メタ)アクリレート」とは、「〜アクリレート」および「〜メタクリレート」の双方を包括する概念である。
【0018】
1.固体電解質膜形成剤
本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤は、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位(A1)を有する重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有する。以下、本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0019】
1.1.重合体(A)
本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤(以下、「SEI膜形成剤」ともいう。)に含まれる重合体(A)は、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位(A1)を有する。重合体(A)は、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位(A1)を有することで、初期充電過程において活物質表面で迅速に電解架橋などし、活物質表面の全面上に緻密な固体電解質膜(以下、「SEI膜」ともいう。)を形成すると考えられる。そして、重合体(A)から形成されたSEI膜は、緻密且つ堅固な膜となるから、蓄電デバイスの充放電が繰り返されても崩壊し難く、蓄電デバイスの寿命が向上し、充放電容量の経時的な減少が抑制される。また、重合体(A)から形成されたSEI膜は、緻密且つ堅固でありながらリチウムイオンの拡散抵抗は低いため、蓄電デバイスの電極抵抗を低い値に維持することができる。
【0020】
1.1.1.繰り返し単位(A1)
上記繰り返し単位(A1)は、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来するものである。上記繰り返し単位(A1)は、上述したようなSEI膜形成能を重合体(A)に発現させるための主構造である。上記繰り返し単位(A1)は、(ポリ)エーテル型の鎖状エーテル構造部位を有するため、蓄電デバイスに用いられる液状媒体(B)との親和性を向上させることもできる。
【0021】
鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートは、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0022】
式(1)中、R
5は水素原子またはメチル基を表し、収率よく重合体を合成する観点から水素原子であることが好ましい。式(1)中、R
6は単結合または2価の有機基を表し、2価の有機基としては炭素数1〜10のアルキレン基が好ましい。
【0023】
式(1)中、複数存在してもよいR
7はそれぞれ独立に2価の炭化水素基を表し、2価の炭化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状又は分岐状の2価の炭化水素基が挙げられる。これらの中でも、液状媒体(B)との親和性が高くなることから、R
7はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキレン基であることが好ましい。
【0024】
式(1)中、R
8は水素原子または1価の有機基を表し、1価の有機基としては炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基であることが好ましい。炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基等を挙げることができる。アリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基が挙げられる。液状媒体(B)との親和性が高くなることから、R
8は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。また、式(1)中、xは1以上の整数であり、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
【0025】
上記鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートは、下記一般式(1−1)で表される化合物であることがより好ましい。下記一般式(1−1)で表される化合物に由来する繰り返し単位は、一般的に非水電解液に使用されているカーボネート系溶媒やラクトン系との親和性が高く、非水電解液と活物質の間のリチウムイオンの移動を妨げない。その結果、蓄電デバイスの電極抵抗を低い値に維持することができる。
【化4】
(式(1−1)中、R
5は水素原子またはメチル基を表し、R
10は単結合または2価の
有機基を表し、複数存在するR
11はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基を表し、R
8は水素原子または1価の有機基を表す。)
【0026】
上記式(1−1)中、R
5は上記一般式(1)中のR
5と同義である。R
8は、上記一般式(1)中のR
8と同義である。R
10は単結合または2価の有機基を表し、2価の有機基としては炭素数1〜10のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、R
10は単結合であることが好ましい。
【0027】
複数存在するR
11はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基を表し、1価の有機基としては炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、上記R
8の説明で例示列挙したものを挙げることができる。これらの中でも電解液との親和性が高くなることから、R
11はそれぞれ水素原子であることが好ましい。また、式(1−1)中、xは1以上の整数であり、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
【0028】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
重合体(A)は、上記繰り返し単位(A1)を有するものであれば特に限定されるものではなく、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートの単独重合体であってもよいし、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートと他のモノマーとの共重合体であってもよい。重合体(A)が共重合体である場合には、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれの構造であってもよい。
【0030】
重合体(A)が共重合体である場合、重合体(A)中における繰り返し単位(A1)の含有割合は、繰り返し単位(A1)およびその他の繰り返し単位の合計量を100mol%としたときに繰り返し単位(A1)が、60mol%以上であることが好ましく、60〜90mol%であることがより好ましく、65〜85mol%であることが特に好ましい。重合体(A)中における繰り返し単位(A1)の含有割合が前記範囲にあれば、初期充電過程において活物質表面上に緻密且つ堅固な固体電解質膜を形成することができる。
【0031】
1.1.2.繰り返し単位(A2)
重合体(A)は、環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位(A2)をさらに有することにより、ゲル電解質の作製に利用することができるようになる。すなわち、上記繰り返し単位(A2)の環状エーテル構造を開環させることで架橋構造を構築することができ、これによりゲル電解質のマトッリクスが形成されるのである。
【0032】
上記環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートは、環状エーテル構造が開環して架橋することができるものであれば特に限定されないが、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
【0033】
上記式(2)中、R
1は水素原子またはメチル基を表すが、重合体(A)の耐酸化性の観点からメチル基であることが好ましい。
【0034】
上記式(2)中、R
2は2価の連結基を表し、例えば単結合、炭素数1〜20の2価の鎖状炭化水素基、炭素数3〜20の2価の環状の飽和若しくは不飽和の炭化水素基、又はこれらとエーテル基、エステル基若しくはカルボニル基とを組み合わせた2価の基を挙げることができ、このような2価の連結基は置換基を有していてもよいが、好ましくは単結合または炭素数1〜4のアルキレン基である。
【0035】
上記式(2)中、R
3は水素原子または1価の有機基を表し、1価の有機基としては炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基等が挙げられる。これらの中でも、容易に架橋することができるように、R
3は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0036】
上記式(2)中、複数存在するR
4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基を表し、1価の有機基としては炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましい。炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基、1−メチルプロピル基、t−ブチル基等を挙げることができる。これらの中でも、容易に架橋することができるように、R
4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましい。また、mおよびnは0以上の整数であり、m+n≧1であるが、容易に反応でき、しかも重合体の安定性が良好となるため、上記式(2)中、m+nは2以上であることが好ましく、m+nは2であることがより好ましい。
【0037】
上記環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートは、下記一般式(2−1)で表される化合物であることがより好ましい。下記一般式(2−1)で表される化合物に由来する繰り返し単位は、非水溶媒中でリチウムイオンにより容易に開環架橋することができる。このため、たとえば本願発明の固体電解質膜形成剤を含有する電解液を用いてゲル電解質を作製する場合、後述する電解質(C)としてリチウムイオンを含有する電解質を用いることにより、容易に開環架橋し、しかも電気伝導性に優れたゲル電解質を作製することができる。この場合、ゲル電解質を作製するにあたり電解液の加熱処理は必須ではないが、ゲル強度の良好なゲル電解質を作製する観点から、活物質を劣化させない低温での加熱処理を行うことが好ましい。
【化6】
(式(2−1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、R
9は単結合または2価の有機基を表し、R
3は水素原子または1価の有機基を表し、複数存在するR
4はそれぞれ独立に水素原子または1価の有機基を表す。)
【0038】
上記式(2−1)中、R
1、R
3及びR
4については、上記式(2)と同義である。上記式(2−1)中、R
9は単結合または2価の有機基を表し、2価の有機基としては炭素数1〜10のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、R
9はメチレン基であることが好ましい。
【0039】
環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位(A2)を有する重合体(A)と、後述する液状媒体(B)と、後述する電解質(C)と、を混合して作製された電解液を用いて作製されたゲル電解質は、繰り返し単位(A2)が有する環状エーテル構造を開環させて架橋させているため、強固な重合体ネットワーク構造を構築することができ、ゲル強度に優れたゲル電解質となる。
【0040】
環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−メチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−エチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−ブチル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−ヘキシル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(3−エチル−オキセタン−3−イロキシ)エチル(メタ)アクリレート、(3−エチル−オキセタン−3−イロキシ)ブチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、(3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレートおよび(3−アルキル−3−オキセタニル)メチル(メタ)アクリレートを好ましく用いることができる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
重合体(A)中における繰り返し単位(A2)の含有割合は、繰り返し単位(A1)および繰り返し単位(A2)の合計量を100mol%としたときに繰り返し単位(A2)が、10〜40mol%であることが好ましく、15〜35mol%であることがより好ましい。重合体(A)中における繰り返し単位(A2)の含有割合が前記範囲にあると、電解液中に含まれるリチウムイオン等の金属イオンを触媒として、温和な条件で加熱することにより容易に架橋反応(カチオン重合)が起こり、共存する電極や電解液の劣化を引き起こすことなくゲル電解質を作製することができる。また、十分に架橋させることもできるので、ゲル電解質の機械的強度を確保することもできる。
【0042】
なお、一般的には、ゲル電解質を作製する際にゲル化を促進させるための熱酸発生剤や光酸発生剤等の添加剤を添加する必要がある。この添加剤がゲル電解質中に残存してしまうと、蓄電デバイスにおいて充放電特性の経時的劣化を招くことがある。しかしながら、本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤を含有する電解液は、このような添加剤を必須とせず、加熱のみでゲル化することができるため、上述のような充放電特性の経時的劣化を
抑制できる点で優れている。
【0043】
1.1.3.繰り返し単位(A1)と繰り返し単位(A2)との比率
本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤に含まれる重合体(A)は、繰り返し単位(A1)および繰り返し単位(A2)の合計量を100mol%としたときに、前記繰り返し単位(A2)の量(M2[mol%])に対する前記繰り返し単位(A1)の量(M1[mol%])の比率(M1/M2)が1〜10の範囲内にあり、1.5〜8の範囲内であることが好ましく、2〜6の範囲内であることがより好ましい。M1/M2の値が前記範囲にあると、活物質表面の全面上に緻密なSEI膜を形成することができると共に、良好な保液性と十分なゲル化特性とを両立させることができる。
【0044】
1.1.4.製造方法
本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤に含まれる重合体(A)は、上記鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートと、必要に応じて上記環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートと、をラジカル重合開始剤および任意的に分子量調節剤の存在下、反応溶媒中でラジカル(共)重合させることにより容易に作製することができる。これにより得られる重合体(A)が共重合体である場合には、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれの構造であってもよい。
【0045】
上記反応溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水、アルコール、エステル、カーボネート、ケトン、ラクトン、エーテル、スルホキシド、アミドなどを挙げることができる。
上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノールなどを;
上記エステルとしては、例えば酢酸エチル、プロピオン酸メチル、酢酸ブチルなどを;
上記カーボネートとしては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを;
上記ケトンとしては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトンなどを;
上記ラクトンとしては、例えばγ−ブチルラクトンなどを;
上記エーテルとしては、例えばトリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどを;
上記スルホキシドとしては、例えばジメチルスルホキシドなどを;
上記アミドとしては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを、それぞれ挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0046】
上記反応溶媒としては後に例示する液状媒体(B)に含まれ得る溶媒の少なくとも1種であることが好ましく、固体電解質膜形成剤に実際に使用する溶媒と同種の溶媒であることがより好ましい。液状媒体(B)に含まれ得る溶媒の少なくとも1種を使用することで、重合体(A)を重合した後の溶液をそのまま固体電解質膜形成剤の調製に供することができ、プロセスを簡略化することができる。この場合、液状媒体(B)に含まれ得る溶媒を反応溶媒としてラジカル重合させることにより、液状媒体(B)の保液性により優れたゲル電解質を作製することも可能となる。なお、固体電解質膜形成剤に実際に使用する溶媒と同種の溶媒を反応溶媒として用いると、得られる重合体(A)と液状媒体(B)との親和性が非常に良好となるので、固体電解質膜形成剤の調製が容易になると共に、この固体電解質膜形成剤を含有するゲル電解質の保液性が非常に良好となる。
【0047】
液状媒体(B)については後述するが、反応溶媒としては、カーボネート、ラクトン、
エーテルおよびスルホキシドから選択される1種以上を使用することが好ましく、これらのうち固体電解質膜形成剤に実際に使用する液状媒体またはその混合物を使用することが最も好ましい。驚くべきことに、反応溶媒中で重合を行った後に溶媒置換を行っても、保液性向上の効果は維持されることが明らかとなっている。
【0048】
重合体(A)を製造する際の溶媒の使用割合は、単量体の合計100質量部に対して、100〜1,000質量部とすることが好ましく、200〜500質量部とすることがより好ましい。
【0049】
上記ラジカル(共)重合では、通常、ラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルN,N’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ系開始剤;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物系開始剤が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、全単量体100質量部に対して、0.1〜5質量部添加するとよい。
【0050】
上記分子量調節剤としては、例えばクロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素;n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドテジルメルカプタン、チオグリコール酸などのメルカプタン化合物;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイドなどのキサントゲン化合物;ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマーなどのその他の分子量調節剤を挙げることができる。分子量調節剤の使用割合は、単量体の合計100質量部に対して、5質量部以下とすることが好ましい。
【0051】
以上のようにして得られる重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、1000〜100万であることが好ましく、1000〜10万であることがより好ましく、1万〜10万であることが特に好ましい。重合体(A)の数平均分子量(Mn)が10万以下であると、極板への含浸性が向上するため、得られる蓄電デバイスの電気特性(充電レート特性、DC−IR特性、サイクル特性)がより良好となる傾向がある。さらに、重合体(A)の数平均分子量(Mn)が5000以上10万以下であると、得られる蓄電デバイスのサイクル特性がとりわけ良好となる傾向がある。なお、重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定された標準ポリスチレンの溶出時間と分子量との関係から換算することにより求めることができる。
【0052】
1.2.液状媒体(B)
本実施の形態に係る固体電解質膜形成剤に含まれる液状媒体(B)としては、後述する電解質を溶解させることができるものであれば特に限定されるものではない。
【0053】
液状媒体(B)としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(PMC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン(GBL)、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;スルホラン等を使用することができる。上記例示した液状媒体(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
これらの中でも、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンが好ましく、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとを混合した液状媒体が特に好ましい。
【0055】
2.電解液
本実施の形態に係る電解液は、上述の固体電解質膜形成剤と、電解質(C)と、を含有し、さらに必要に応じて添加剤を含有する。
【0056】
2.1.電解質(C)
上記電解質(C)としては、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等を例示することができる。これら電解質は、1種単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0057】
また、本実施の形態に係る電解液のイオン伝導性を高める観点から、Li以外の電解質を用いることも可能である。このような電解質としては、例えば、(FSO
2)
2N
−、BF
4−、PF
6−、SbF
6−、NO
3−、CF
3SO
3−、(CF
3SO
2)
2N
−、(C
2F
5SO
2)
2N
−、(CF
3SO
2)
3C
−、CF
3CO
2−、C
3F
7CO
2−、CH
3CO
2−、(CN)
2N
−等のアニオンとカチオンとの組合せからなる塩が挙げられる。
【0058】
上記カチオンとしては、N、P、S、O、C、Siのいずれかもしくは2種類以上の元素を構造中に含み、鎖状または5員環、6員環等の環状構造を骨格に有する化合物が挙げられる。鎖状構造を骨格に有する化合物の例としては、アルキルアンモニウム等が挙げられる。環状構造を骨格に有する化合物の例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピリジン、オキサゾ−ル、イソオキサゾ−ル、チアゾ−ル、イソチアゾ−ル、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロリジン、ピペリジン等の複素単環化合物;ベンゾフラン、イソベンゾフラン、インドール、イソインドール、イソドリジン、カルバゾール等の縮合複素環化合物が挙げられる。
【0059】
上記例示した電解質(C)の中でも、LiPF
6またはLiBF
4を用いた場合には、リチウムイオンがカチオン重合開始剤として作用することができる。したがって、重合体(A)が上記繰り返し単位(A2)を有する場合には、他のカチオン重合開始剤を用いなくてもゲル電解質を作製できる点で好ましい。また、LiPF
6を用いた場合には、得られる蓄電デバイスの低温における放電容量保持率が良好となる点で特に好ましい。
【0060】
本実施の形態に係る電解液は、通常、電解質濃度として0.1〜5mol/L、特に有利に0.5〜2mol/Lとすることが好ましい。
【0061】
2.2.添加剤
上記添加剤としては、従来から電解液に使用されてきた添加剤が挙げられ、具体的にはイオン伝導度を向上させたり、電極表面に保護膜を形成させたりするための成分を使用することができる。たとえば、アザインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾジチオール、ベンゾフラン、ベンゾチアゾール、1−ベンゾチオフェン、1H−ベンゾトリアゾール、ベンジルカプトン、1−ブロモ−3−フルオロベンゼン等の含窒素・含硫黄系化合物;ビニレンカーボネート、ビニルアクリレート、ビニルブチレート等のビニル系化合物;ショ糖脂肪酸エステル類が挙げられ、その添加量は10質量%以下、好ましくは3質量%以下である。また、これらの添加剤は、1種単独で用いてもよく2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0062】
また、重合体(A)が上記繰り返し単位(A2)を有する場合には、得られるゲル電解
質の保液性を向上させ、また架橋密度を上げて機械的強度を向上させる観点から、本実施の形態に係る電解液に環状エーテル化合物をさらに添加することができる。このような環状エーテル化合物としては、炭素数6〜28のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数6〜28のアルキル基を有するアルキルグリシジルエーテル、炭素数6〜28のアルキル基を有する脂肪酸グリシジルエーテル、炭素数6〜28のアルキル基を有するアルキルフェノールグリシジルエーテル等がより好ましい。これらの中でも、炭素数6〜28のアルキル基を有するアルキルグリシジルエーテルが特に好ましい。なお、これらの環状エーテル化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
また、上記環状エーテル化合物は、分子中に2個以上の環状エーテル基を有することも好ましい。分子中に2個以上の環状エーテル基を有する環状エーテル化合物を添加することにより、架橋密度をさらに高めることができるため、ゲル電解質の機械的強度をより向上できる。このような環状エーテル化合物としては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、アリサイクリックジエポキシ−アジペイド、1,6−ビス(2、3−エポキシプロポキシ)ナフタレン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、1,2:8,9−ジエポキシリモネン、3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン等が挙げられる。
【0064】
本実施の形態に係る電解液に環状エーテル化合物を添加する場合、該環状エーテル化合物は、重合体(A)中の繰り返し単位(A2)に含まれる環状エーテル基とは異なる員数の環状エーテル基を有することが好ましい。たとえば、繰り返し単位(A2)に含まれる環状エーテル基がオキシラニル基である場合、添加する環状エーテル化合物はオキセタニル基を有することが好ましい。一方、繰り返し単位(A2)に含まれる環状エーテル基がオキセタニル基である場合、添加する環状エーテル化合物はオキシラニル基を有することが好ましい。このように添加する環状エーテル化合物が繰り返し単位(A2)に含まれる環状エーテル基とは異なる員数の環状エーテル基を有することにより、より効果的に架橋させることができ、ゲル電解質を作製する際の加熱温度をより低下させることができる。これにより、加熱に伴う電極や電解液の劣化を抑制できる。また、架橋密度を向上させることができるので、機械的強度に優れたゲル電解質を作製することができる。
【0065】
本実施の形態に係る電解液に環状エーテル化合物を添加する場合、環状エーテル化合物の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、0〜50質量部の範囲で含有されることが好ましい。
【0066】
2.3.電解液の調製方法
本実施の形態に係る電解液を調製する際には、上述の固体電解質膜形成剤、電解質(C)および必要に応じて添加剤を添加して十分に攪拌し、電解質(C)を液状媒体(B)中に完全に溶解させればよい。また、上述の固体電解質膜形成剤に含まれる重合体(A)が上記繰り返し単位(A2)を有する場合には、40〜60℃程度に加熱しながら十分に攪拌するとよい。これにより、液状媒体(B)中に重合体(A)を完全に溶解させることができる。なお、かかる場合に加熱温度を70〜100℃まで上げてしまうと、ゲル電解質が形成されてしまう場合があるため注意を要する。
【0067】
なお、上述の固体電解質膜形成剤に含まれる重合体(A)が上記繰り返し単位(A2)を有する場合、本実施の形態に係る電解液は室温付近では安定であり、ゲル化することはない。このため、蓄電デバイスの筐体に液体状の電解液を注入し、その後加熱することでゲル電解質とすることができるため、保存安定性や蓄電デバイス作製工程の自由度を向上させることができる。
【0068】
以上のように、重合体(A)が上記繰り返し単位(A2)を有する場合には、本実施の形態に係る電解液は、加熱するだけでゲル電解質を作製できるため、一般的なゲル電解質とは異なり、ゲル電解質作製の際に用いられる熱酸発生剤や光酸発生剤等の添加剤を含有しないことができる。このため、蓄電デバイスの充放電に伴って、熱酸発生剤や光酸発生剤が分解して生じ得る充放電特性の経時的な劣化を抑制することができる。
【0069】
また、ゲル電解質作製の際の加熱温度を70〜100℃(好ましくは75〜95℃、より好ましくは80〜90℃)とすることができるので、蓄電デバイスの活物質層の劣化を抑制することができる。また、開環して架橋するために、重合体の体積変化が小さく、密閉した状態でゲル化させても活物質層の剥離など蓄電デバイスの構成に与えるダメージを抑制することができる。
【0070】
このようにして得られるゲル電解質は、柔軟性に富むゲルであり、しかも熱可逆性がない。そのため、加熱や過充電による電池の異常膨張を防止することができ、薄膜加工等の作業性が良好となる。
【0071】
3.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、上述の電解液を備える他、公知の構成、材料を使用することができる。
【0072】
電極材料としては、リチウムイオンの挿入、脱離が可能であるものであれば特に制限されるものではない。電極としては、例えば集電体の表面に正極/負極活物質層が形成されたものを使用することができる。
【0073】
正極活物質としては、例えば、CuO、Cu
2O、MnO
2、V
2O
5、CrO
3、MoO
3、Fe
2O
3、Ni
2O
3、CuO
3等の金属酸化物、Li
xCO
2、Li
xNiO
2、Li
xMn
2O
4、LiFePO
4等のリチウムと遷移金属との複合酸化物や、TiS
2、MoS
2、NbSe
3等の金属カルコゲン化物、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性化合物等が挙げられる。特に本発明では、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄等の遷移金属から選ばれる1種類以上とリチウムとの複合酸化物が好ましく、その具体例としては、LiCoO
2、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiNi
xCo
(1−x)O
2、LiMn
aNi
bCo
c(a+b+c=1)、LiFePO
4等が挙げられる。また、これらのリチウム複合酸化物に、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄などの元素をドープしたものでもよい。
【0074】
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、Al、Mg、Pt、Sn、Si,Zn、Bi等のリチウム吸蔵金属;Al−Ni、Al−Ag、Al−Mn等のAl系リチウム合金;SbSn、InSb、CoSb
3、Mi
2MnSb等のアンチモン系リチウム合金;Sn
2M(M=Fe、Co、Mn、V、Ti)、Sn
5Cu
6、Sn
3V
2、Sn
12Ag
13、SnSb
0.4等のSn系リチウム合金;SnO
2、Sn
2P
2O
7、SNPBO
6、SnPO
4Cl等のSn酸化物;Si−C複合系、Si−Ti複合系、Si−M薄膜等のSi系リチウム合金;Sn、Si等のナノ複合材料;Sn、Co、炭素等のアモルファス合金材料;Sn−Ag、Sn−Cu等のSn系メッキ合金;Si系アモルファス薄膜等が挙げられ、炭素材料としてはアモルファスカーボン、メソカーボンマイクロビーズ、グラファイト、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等があり、これらの炭素材料の表面修飾物等が好適材料として挙げられる。
【0075】
上記電極材料には、さらに導電剤を用いてもよい。導電剤としては、電池性能に悪影響
を及ぼさない電子伝導材料であれば使用することができる。通常、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンウイスカー、気相成長炭素等の炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン、導電性セラミック材料等を使用してもよく、これらは2種類以上の混合物として含ませることができる。
【0076】
集電体としては、構成された蓄電デバイスにおいて悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば特に制限されない。例えば、正極集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス銅、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性硝子等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。負極集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性硝子、Al−Cd合金等の他に接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。これらの集電体材料は表面を酸化処理することも可能である。これらの形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチまたはエキスパンドされた物、硝子体、多孔質体、発砲体等の成型体も用いられる。
【0077】
上記正極/負極活物質を集電体に結着させるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン(HFP)やパーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)及び、テトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体などのポリフッ化ビニリデン共重合体樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂やスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、スチレン−アクリロニトリル共重合体などのポリマーが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の多糖類、ポリイミド樹脂等の熱可塑性樹脂などを併用することができるが、これらに限定されるものではない。また、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。その添加量としては、活物質量に対して0.2〜30%が好ましく、更に0.5〜10%がより好ましい。なお、LiFePO
4のように表面を炭素被覆した正極活物質については、カルボン酸変性したポリフッ化ビニリデンまたはSBRの水系バインダーも好ましい材料として挙げることができる。
【0078】
セパレータとしては、多孔性の膜が使用され、通常多孔性ポリマーフィルムや不織布が好適に使用される。本発明においては特に、非導電性多孔質材料と電気絶縁性の粒子からなるものが好適である。非導電性多孔質材料は、ポリアクリロニトリル、ポリエステル(PET)、ポリイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ガラス、セラミック等から選択される。特に、平面状の柔軟な基材に、電気絶縁性の無機皮膜を有する不織布が好適であり、ポリエステル(PET)、ポリアミドが特に好ましい。
【0079】
セパレータに使用される絶縁性の粒子としては、無機材料としては少なくとも一種類のアルミナ、チタニア、珪素及び/又はジルコニアなどの無機酸化物、有機物材料としてはフッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂などのポリマー粒子などが用いられる。
【0080】
上記セパレータは、さらにセパレータ又はセパレータ中に、所望の遮断温度で溶融する極めて薄いワックス粒子層、又はポリマー粒子層の遮断粒子が存在することでシャットダウンメカニズムを有することができる。この遮断粒子を形成するのに有利な材料としては、天然または人工のワックス、ポリオレフィンなどの低融点ポリマーがあり、この粒子が所望の遮断温度で溶融し、かつセパレータの細孔を閉鎖することで、電池の異常作動時の更なる電流を抑制することができる。
【0081】
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、円筒形、コイン型、角型、ラミネート型、その他
任意の形状に形成することができ、蓄電デバイスの基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更し実施することができる。
【0082】
本実施の形態に係る蓄電デバイスの具体的な製造方法としては、例えば、負極集電体に負極活物質を塗布してなる負極と、正極集電体に正極活物質を塗布してなる正極とを、セパレータを介して捲回した捲回体を筐体に収納し、前述のゲル電解質形成用組成物を注入し上下に絶縁板を載置した状態で密封し、加熱処理することにより得られる。
【0083】
なお、本実施の形態に係る蓄電デバイスを作製する場合、選択した電極活物質により初回の充電時に多量のガスが発生し、セル性能に影響があるような場合には、前述のゲル電解質形成用組成物をプレ電池に注入後、前処理として充電または充放電の処理を行った後、加熱処理を行ってもよい。
【0084】
4.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0085】
4.1.実施例1
4.1.1.固体電解質膜形成剤の作製
十分に乾燥した容器に、メトキシエチルアクリレートを52g(モノマー含有比率;74質量%、80mol%に相当)、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートを18g(モノマー含有比率;26質量%、20mol%に相当)、反応溶媒としてエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:7(体積比)を211g、N,N’−アゾビスイソブチロニトリルを0.71g(モノマー総質量100質量部に対して1質量部)を加え、乾燥窒素雰囲気にて60℃に加熱し、6時間反応させ、その後室温まで冷却した。冷却した溶液をヘキサンに投入し、得られた沈殿物をろ別により回収した。回収した沈殿物を60℃で12時間減圧乾燥することにより数平均分子量20万の重合体P1を得た。次いで、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:7(体積比)中に得られた重合体P1を添加して攪拌することにより、重合体P1を固形分濃度で6質量%含有する固体電解質膜形成剤を調製した。
【0086】
4.1.2.電解液の調製
得られた固体電解質膜形成剤中に、1mol/Lの濃度となるようにLiPF
6を添加して十分に攪拌することによりLiPF
6を完全に溶解させ、固体電解質膜形成剤を6質量%含有する電解液を調製した。
【0087】
4.1.3.蓄電デバイスの製造および評価
(1)正極の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に電気化学デバイス電極用バインダー(株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」)4.0質量部(固形分換算)、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3.0質量部、正極活物質として粒径5μmのLiCoO
2(ハヤシ化成株式会社製)100質量部(固形分換算)、N−メチルピロリドン(NMP)36質量部を投入し、60rpmで2時間攪拌を行った。得られたペーストにNMPを投入し、固形分を65%に調製した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「泡とり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1800rpmで5分間、さらに真空下において1800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、電極用スラリーを調製した。厚み30μmのアルミニウム箔よりなる集電体の表面に、調製した電極用スラリーを、乾燥後の膜厚が80μmとなるようにドクターブレード法に
よって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥処理した。その後、電極層の密度が3.0g/cm
3となるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、正極を得た。
【0088】
(2)負極の製造
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)中に増粘剤(商品名「CMC2200」、ダイセル化学工業株式会社製)1質量部(固形分換算)、負極活物質としてグラファイト(日立化成工業株式会社製、製品名「SMG−HE1」)100質量部および水68質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。その後ここに、SBRバインダー組成物(JSR株式会社製、商品名「TRD2001」)を、重合体に換算して2質量部加え、60rpmでさらに1時間攪拌してペーストを得た。得られたペーストに水を追加投入し、固形分を50質量%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間および1,800rpmで5分間、さらに絶対圧25kPaの減圧下において1,800rpmで1.5分間攪拌、順次に混合することにより、負極用スラリーを調製した。厚み20μmの銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製した負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が150μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜の密度が1.5g/cm
3となるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、負極を得た。
【0089】
(3)リチウムイオン二次電池セルの組立て
グローブボックス内でアルミニウムからなるフィルム状の外装アルミシール上に、50mm×25mmに切り出した前記負極に負極端子を取り付けて載置した。次いで、この負極上に、54mm×27mmに切り出したポリプロピレン製の多孔膜からなるセパレータ(セルガード社製、商品名「セルガード#2400」、厚み25μm)を載置し、その後、48mm×23mmに切り出した前記正極に正極端子を取り付けて、前記セパレータ上に載置した。そして、この正極上に、上記外装アルミシールと同様の外装アルミシールを載置した。このようにして、外装アルミシール、負極、セパレータ、正極、及び外装アルミシールからなる積層体を得た。その後、この積層体の3辺の外装アルミシールを加温シーリング装置で2つの外装アルミシールの外周縁部を互いに接合させ封止した。そして、各層の間に空気が入らないように上記で得られた電解液をさらに注入して、さらに減圧脱気した後、減圧下で、負極端子と正極端子が外装アルミシールの外部に露出するようにして4辺目を封止して密閉した。このようにして得られた封止後のラミネートセルを80℃で30分間オーブンで加熱することにより2極式単層ラミネートセルからなる二次電池(電気化学デバイス)を作製した。
【0090】
(4)放電レート特性の評価
上記で製造した二次電池セルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになるまで充電した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cでの放電容量を測定した。
【0091】
次に、同じセルにつき、25℃で定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになるまで充電した。次いで、定電流(2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、2Cでの放電容量を測定した。
【0092】
上記の測定値を用いて、0.2Cでの放電容量に対する2Cでの放電容量の割合(百分率%)を計算することにより放電レート(%)を算出した。上記の電解液を使用して作製された二次電池セルの放電レートを「A」、LiPF
6を1mol/L含有するEC:DEC=3:7(体積比)の電解液を使用して作製された二次電池セルの放電レートを「B」とした時、下記式(3)で表される放電レート特性が0.7以上であれば良好であると
評価することができる。
放電レート特性=A/B ・・・・・(3)
【0093】
なお、測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値のことを示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、10Cとは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0094】
(5)低温特性の評価
上記で製造した二次電池セルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになるまで充電した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、25℃での放電容量を測定した。
【0095】
次に、同じセルにつき、0℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになるまで充電した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0℃での放電容量を測定した。
【0096】
上記の測定値を用いて、25℃での放電容量に対する0℃での放電容量保持率(百分率%)を低温特性の指標とした。上記の電解液を使用して作製された二次電池セルの0℃での放電容量保持率を「C」、LiPF
6を1mol/L含有するEC:DEC=3:7(体積比)の電解液を使用して作製された二次電池セルの0℃での放電容量保持率を「D」とした時、下記式(4)で表される低温特性が0.8以上であれば良好であると評価することができる。
低温特性=C/D ・・・・・(4)
【0097】
(6)内部直流抵抗値(DC−IR)の評価
25℃に設定した恒温槽に、上記にて作製した二次電池セルを配置し、定電流(0.2C)にて50%DOD(3.8V)まで充電した。その後、定電流(0.5C)にて10秒間充電を行った際の電圧変化を読み取り、1分間休止した後、さらに定電流(0.5C)にて10秒間放電を行った際の電圧変化を読み取った。電流値を0.5Cから1.0C、2.0C、3.0C、5.0Cに変更した以外は同様の方法で充放電時の電圧を読み取った。印加した電流値(A)を横軸、電圧値(V)を縦軸としたグラフを作成し、充放電各時において、プロット点を結んだ直線の勾配値を算出した。その勾配値をそれぞれ充電時および放電時の内部直流抵抗値(DC−IR)とした。上記の電解液を使用して作製された二次電池セルのDC−IRを「E」、LiPF
6を1mol/L含有するEC:DEC=3:7(体積比)の電解液を使用して作製された二次電池セルのDC−IRを「F」とした時、下記式(5)で表されるDC−IR特性が2.5以下であれば良好であると評価することができる。
DC−IR特性=E/F ・・・・・(5)
【0098】
なお、測定条件において、「DOD」とは、充電容量に対する放電容量の割合を示す。たとえば、「50%DODまで充電する」とは、全容量を100%とした場合、50%の容量だけ充電することを示す。
【0099】
(7)25℃サイクル特性の評価
上記「(6)内部直流抵抗値(DC−IR)の評価」の評価後、25℃に設定した恒温槽に同じ二次電池セルを配置し、定電流(2.0C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとな
った時点を充電完了(カットオフ)とした。その後、定電流(2.0C)にて放電を開始し、電圧が3.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、1サイクル目の放電容量を算出した。このようにして100回充放電を繰り返し、50サイクル目の放電容量を算出した。このようにして測定した50サイクル目の放電容量を、1サイクル目の放電容量で割った値を50サイクル放電維持率(%)とした。上記の電解液を使用して作製された二次電池セルの50サイクル目の放電容量維持率を「G」、LiPF
6を1mol/L含有するEC:DEC=3:7(体積比)の電解液を使用して作製された二次電池セルの50サイクル目の放電容量維持率を「H」とした時、下記式(6)で表される放電レート特性が0.7以上であれば良好であると評価することができる。
サイクル特性=G/H ・・・・・(6)
【0100】
4.2.実施例2〜
27、比較例1
〜5
モノマー組成、配合量および反応溶媒を表1または表2に記載のものに変更した以外は、上記実施例1と同様にしてP2〜P22を作製した。また、重合体(A)、液状媒体(B)および電解質(C)の種類や含有割合を表3〜表4に記載のものに変更した以外は、上記実施例1と同様にして実施例2〜
27および比較例1
〜5で使用した電解液を作製した。このようにして得られた電解液を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2〜
27および比較例1
〜5で作製した蓄電デバイス特性の評価を行った。なお、表3〜表4における添加剤の含有割合は、固体電解質膜形成剤100質量部に対する添加剤の含有量(質量部)を表している。作製した重合体P1〜P22のモノマー組成、配合量および反応溶媒を表1〜表2に示し、各実施例および
各比較
例で使用した固体電解質膜形成剤の組成、配合量および評価結果を表3〜表4に示した。
【0105】
表1〜表4中の略称は、それぞれ以下の化合物または製品名を表す。
<鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレート>
・MEA:メトキシエチルアクリレート
・DEGMA:エトキシトリエチレングリコ−ルメタクリレート
・TEGA:エトキシトリエチレングリコールアクリレート
・MTEGA:メトキシテトラエチレングリコールアクリレート
【0106】
<環状エーテル構造を有する(メタ)アクリレート>
・OXMA:(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート
・OXEA:(3−エチル−オキセタン−3−イロキシ)エチルアクリレート
・OXBA:(3−エチル−オキセタン−3−イロキシ)ブチルアクリレート
・GMA:グリシジルメタクリレート
・THFMA:テトラヒドロフルフリルメタクリレート
・OXA:(3−エチル−3−オキセタニル)メチルアクリレート
なお、OXEAは“Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, 2003, 41, 469−475. ”に記載の方法で合成し、OXBAについても同様の方法で合成した。
【0107】
<重合開始剤>
・AIBN:N,N’−アゾビスイソブチロニトリル
【0108】
<(重合)溶媒>
・EC/DEC:エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの体積比3:7の混合溶媒
・GBL:γ−ブチロラクトン
・DG:ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)
・DEC:ジエチルカーボネート
・MEK:メチルエチルケトン
・PC:プロピレンカーボネート
【0109】
<添加剤(環状エーテル化合物)>
・CEL:3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学工業株式会社製、製品名「セロキサイド2021P」)
・EGDG:エチレングリコールジグリシジルエーテル
・DOX:3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン
・OXAL:3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン
【0110】
<その他>
・KF:ポリフッ化ビニリデン樹脂(アルケマ社製、製品名「カイナーフレックス2081」)
【0111】
4.3.評価結果
実施例1〜
27の固体電解質膜形成剤を用いることにより、初期充電過程において活物質表面の全面上に緻密且つ堅固な固体電解質膜が形成されたものと考えられる。これにより、内部直流抵抗値が低く、放電レート特性、低温特性、サイクル特性のいずれも良好なリチウムイオン二次電池を作製できたと考えられる。また、鎖状エーテル構造を有する(メタ)アクリレートを単独重合させた重合体(A)を含有する
比較例2〜5の固体電解質膜形成剤を用いた場合には、初期充電過程において固体電解質膜が形成されやすくなると考えられ、蓄電デバイス特性がとりわけ良好となることが判った。
【0112】
一方、比較例1では、重合体(A)としてポリフッ化ビニリデン樹脂を用いているので、活物質表面に有効な固体電解質膜が形成されず、実施例と比較して蓄電デバイス特性が有意に劣っていることが判った。
【0113】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。