特許第5896241号(P5896241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5896241リチウムイオン二次電池用正極とその製造方法及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許5896241-リチウムイオン二次電池用正極とその製造方法及びリチウムイオン二次電池 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896241
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極とその製造方法及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20160317BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20160317BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20160317BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20160317BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20160317BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20160317BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/1391
   H01M10/0525
   H01M10/0568
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-62506(P2013-62506)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-160635(P2014-160635A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年2月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-9971(P2013-9971)
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】大島 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−520867(JP,A)
【文献】 特開2007−280917(JP,A)
【文献】 特開2007−134279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/1391
H01M 4/36
H01M10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層はLiNiCoMnO、LiCoMnO、LiNiMnO、LiNiCoO及びLiMnO(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と該集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆する有機無機コート層と、からなり、
該有機無機コート層は、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属と、を含み、
前記選択ポリマーはポリエチレンイミンであり、
前記選択金属のイオンは、前記ポリエチレンイミンに配位していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記有機無機コート層の厚さは10nm以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質粒子はLiNiCoMnOである請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記有機無機コート層は、カーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
前記有機無機コート層の表面に第二の有機コート層を有する請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項6】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層はLiNiCoMnO、LiCoMnO、LiNiMnO、LiNiCoO及びLiMnO(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と該集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆する有機無機コート層と、からなり、
該有機無機コート層は、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属と、を含むリチウムイオン二次電池用正極を製造する方法であって、
LiNiCoMnO、LiCoMnO、LiNiMnO、LiNiCoO及びLiMnO(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と結着剤を含むスラリーを集電体表面に塗布し乾燥して正極活物質層を形成する工程と、
アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属を有する硝酸塩又は酢酸塩と、が溶媒に溶解した混合溶液を該正極活物質層に塗布し乾燥して有機無機コート層を形成する工程と、を行い、
前記選択ポリマーはポリエチレンイミンであり前記混合溶液中に0.1〜5質量%含まれていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項7】
集電体と該集電体に結着された正極活物質層とを含み、
該正極活物質層はLiNiCoMnO、LiCoMnO、LiNiMnO、LiNiCoO及びLiMnO(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と、該正極活物質粒子どうしを結着するとともに該正極活物質粒子と該集電体とを結着する結着部と、少なくとも該正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆する有機無機コート層と、からなり、
該有機無機コート層は、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属と、を含むリチウムイオン二次電池用正極を製造する方法であって、
LiNiCoMnO、LiCoMnO、LiNiMnO、LiNiCoO及びLiMnO(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と結着剤を含むスラリーを集電体表面に塗布し乾燥して正極活物質層を形成する工程と、
アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属の化合物と、が溶媒に溶解した混合溶液を該正極活物質層に塗布し乾燥して有機無機コート層を形成する工程と、を行い、
前記選択ポリマーはポリエチレンイミンであり前記混合溶液中に0.1〜5質量%含まれていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶液を前記正極活物質層に塗布する工程はディッピング法にて行う請求項6又は7に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項9】
前記選択金属の化合物は、前記選択金属を有する硝酸塩又は酢酸塩からなる請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載の前記リチウムイオン二次電池用正極を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
充電時の電池電圧が4.3V以上である請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の前記リチウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解液とを含み、該電解液にはLiBFを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法により製造された前記リチウムイオン二次電池用正極を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法
【請求項14】
請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法により製造された前記リチウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解液とを用い、該電解液にはLiBFを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる正極とその製造方法、及びその正極を用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、充放電容量が高く、高出力化が可能な二次電池である。現在、主として携帯電子機器用の電源として用いられており、更に、今後普及が予想される電気自動車用の電源として期待されている。リチウムイオン二次電池は、リチウム(Li)を挿入および脱離することができる活物質を正極及び負極にそれぞれ有する。そして、両極間に設けられた電解液内をリチウムイオンが移動することによって動作する。リチウムイオン二次電池には、正極の活物質として主にリチウムコバルト複合酸化物等のリチウム含有金属複合酸化物が用いられ、負極の活物質としては多層構造を有する炭素材料が主に用いられている。
【0003】
しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池の容量は満足なものとはいえず、更なる高容量化が求められている。これを達成するためのアプローチとして、正極電位の高電圧化が検討されているものの、高電圧での駆動時に、繰り返し充放電後の電池特性が極端に悪化するという大きな問題があった。この原因として、充電時に正極近傍で電解液、電解質の酸化分解が生じるためと考えられている。
【0004】
すなわち、正極近傍における電解質の酸化分解によってリチウムイオンが消費されることで、容量が低下し、また電解液の分解物が電極表面やセパレータの空隙に堆積し、リチウムイオン伝導に対する抵抗体となるために出力が低下すると考えられている。したがって、このような問題を解決するには、電解液、電解質の分解を抑制することが必要である。
【0005】
そこで特開平11-097027号公報、特表2007-510267号公報などには、正極表面にイオン伝導性高分子などからなる被覆層を形成した非水電解質二次電池が提案されている。被覆層を形成することによって、正極活物質の溶出、分解などの劣化を抑制できるとされている。
【0006】
ところがこれらの公報には、4.3V以上の高電圧で充電した場合の評価が記載されておらず、そのような高電圧駆動に耐え得るのか不明であった。また被覆層の厚さも実質的にμmオーダーであり、リチウムイオン伝導の抵抗となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-097027号公報
【特許文献2】特表2007-510267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高電圧駆動に耐え得るリチウムイオン二次電池用の正極を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のリチウムイオン二次電池用正極の特徴は、集電体と集電体に結着された正極活物質層とを含み、正極活物質層はLixNiaCobMncO2、LixCobMncO2、LixNiaMncO2、LixNiaCobO2及びLi2MnO3(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と、正極活物質粒子どうしを結着するとともに正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆する有機無機コート層と、からなり、
有機無機コート層はアミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属と、を含むことにある。
【0010】
そして本発明のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法の特徴は、LixNiaCobMncO2、LixCobMncO2、LixNiaMncO2、LixNiaCobO2及びLi2MnO3(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む正極活物質粒子と結着剤を含むスラリーを集電体表面に塗布し乾燥して正極活物質層を形成する工程と、
アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属の化合物と、が溶媒に溶解したポリマー溶液を正極活物質層に塗布し乾燥して有機無機コート層を形成する工程と、を行うことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、LixNiaCobMncO2、LixCobMncO2、LixNiaMncO2、LixNiaCobO2及びLi2MnO3(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体からなる正極活物質粒子の少なくとも一部表面に有機無機コート層を形成している。この有機無機コート層は正極活物質粒子を被覆するため、高電圧駆動時に正極活物質粒子と電解液との直接接触を抑制することができる。
【0012】
そして有機無機コート層は、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつ選択ポリマーと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属とを含む。窒素(N)やカルボキシル基を含む選択ポリマーは、非共有電子対を有するため選択金属イオンが配位し易い。またエーテル基を含む選択ポリマーは、アルカリ金属などと錯体を形成し易い。したがって有機無機コート層は均一かつ緻密な被膜となり、しかも選択金属イオンによって抵抗の上昇を大きく抑制することができるとともに、プロトンを選択金属イオンに置換することでプロトンによる電池内での悪影響を回避することができる。また有機無機コート層の厚さがnmオーダー〜サブミクロンオーダーであれば、リチウムイオン伝導性の抵抗とならない。したがって高電圧駆動によっても電解液の分解を抑制することができ、高容量であるとともに繰り返し充放電後も高い電池特性を維持できるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0013】
またディッピング法を用いて有機無機コート層を形成できるので、ロールトゥロールプロセスが可能となり生産性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1に係るリチウムイオン二次電池の正極に含まれる正極活物質のTEM像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、集電体と集電体に結着された正極活物質層とを含む。集電体としては、リチウムイオン二次電池用正極などに一般に用いられるものを使用すれば良い。例えば、アルミニウム箔、アルミニウムメッシュ、パンチングアルミニウムシート、アルミニウムエキスパンドシート、ステンレススチール箔、ステンレススチールメッシュ、パンチングステンレススチールシート、ステンレススチールエキスパンドシート、発泡ニッケル、ニッケル不織布、銅箔、銅メッシュ、パンチング銅シート、銅エキスパンドシート、チタン箔、チタンメッシュ、カーボン不織布、カーボン織布等が例示される。
【0016】
集電体がアルミニウムを含む場合には、集電体の表面に導電体よりなる導電層を形成し、その導電層の表面に正極活物質層を形成することが望ましい。このようにすることで、リチウムイオン二次電池のサイクル特性がさらに向上する。これは、高温時に電解液中に集電体が溶出するのが防止されるためと考えられている。導電体としては、グラファイト、ハードカーボン、アセチレンブラック、ファーネスブラックなどのカーボン、ITO(Indium-Tin-Oxide)、錫(Sn)などが例示される。これらの導電体から、PVD法あるいはCVD法などによって導電層を形成することができる。
【0017】
導電層の厚さは特に制限されないが、5nm以上とするのが好ましい。これより薄くなると、サイクル特性向上の効果の発現が困難となる。
【0018】
正極活物質層は、正極活物質からなる無数の正極活物質粒子と、正極活物質粒子どうしを結着するとともに正極活物質粒子と集電体とを結着する結着部と、少なくとも正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆する有機無機コート層とを含む。正極活物質は、LixNiaCobMncO2、LixCobMncO2、LixNiaMncO2、LixNiaCobO2及びLi2MnO3(但し0.5≦x≦1.5、0.1≦a<1、0.1≦b<1、0.1≦c<1)から選ばれるLi化合物又は固溶体を含む。これらのうち一種であってもよいし、複数種が混合されていてもよい。複数種の場合には、固溶体を形成していてもよい。また、Ni、Co及びMnをすべて含む三元系の正極活物質の場合、a+b+c≦1であるのが望ましい。中でもLixNiaCobMncO2が特に好ましい。これらのLi化合物又は固溶体の一部表面は改質されていてもよく、また一部表面を無機物が被覆していてもよい。この場合、改質された表面や被覆した無機物を含めて、正極活物質粒子として称する。
【0019】
また、これらの正極活物質はその結晶構造中に異種元素がドープされていてもよい。ドープされる元素と量は限定されないが、元素としてはMg、Zn、Ti、V、Al、Cr、Zr、Sn、Ge、B、As及びSiが好ましく、その量は0.01〜5%が好ましい。
【0020】
結着部はバインダーが乾燥することで形成された部位であり、正極活物質粒子どうしを、或いは正極活物質粒子と集電体とを結着している。有機無機コート層はこの結着部の少なくとも一部にも形成されていることが望ましい。このようにすることで結着部が保護されて結着強度がより高まるため、高温高電圧という厳しいサイクル試験後にも正極活物質層のクラックや剥離を防止することができる。
【0021】
正極活物質層には一般に導電助剤が含まれているが、有機無機コート層は導電助剤の少なくとも一部にも形成されていることが望ましい。このようにすることで導電助剤を保護することができる。
【0022】
有機無機コート層は、アミノ基、アミド基、イミノ基、イミド基、マレイミド基、カルボキシル基及びエーテル基の少なくとも一つをもつポリマーから選ばれた少なくとも一種の選択ポリマーを含む。この選択ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリアニリン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリアクリルイミド、ビスマレイミドトリアジン樹脂、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン、りん酸エステルポリマーなどが例示される。これらのポリマーは少なくとも一種含まれていればよく、複数種含まれていてもよい。
【0023】
有機無機コート層は、選択ポリマーに加えてアルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一種の選択金属を含む。アルカリ金属としてはLiが特に望ましく、アルカリ土類金属としてはMgが特に望ましく、希土類元素としてはLaが特に望ましい。有機無機コート層における選択金属の含有量は、0.1〜90質量%の範囲が好ましく、1〜50質量%の範囲が特に望ましい。選択金属の含有量が0.1質量%未満では含有させたことによる効果が発現せず、90質量%を超えると均一なコート層の形成が困難となる場合がある。
【0024】
有機無機コート層を形成するには、CVD法、PVD法などを用いることも可能であるが、コストの面から好ましいとはいえず、金属元素を含ませるのも容易でない。そこで本発明の製造方法では、選択ポリマーと選択金属の化合物とが溶媒に溶解した混合溶液を正極活物質層に塗布し乾燥して有機無機コート層を形成している。選択金属の化合物としては、溶媒に溶解するものであれば特に制限されず、硝酸塩、酢酸塩などを用いることができる。
【0025】
また混合溶液の溶媒としては、選択ポリマーと選択金属の化合物の両方を溶解できる有機溶剤又は水を用いることができる。有機溶剤には特に制限はなく、複数の溶剤の混合物でも構わない。例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、DMF、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンとエステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n-ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)あるいはグライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)の混合溶媒などを用いることができる。有機無機コート層から容易に除去できる沸点が低いものが望ましい。
【0026】
混合溶液の塗布にあたっては、スプレー、ローラー、刷毛などで塗布してもよいが、正極活物質の表面を均一に塗布するにはディッピング法にて塗布する事が望ましい。ディッピング法にて塗布すれば、正極活物質粒子どうしの間隙に混合溶液が含浸されるので、正極活物質粒子のほぼ表面全体に有機無機コート層を形成することができる。したがって、正極活物質と電解液との直接接触を確実に防止することができる。
【0027】
ディッピング法で塗布する方法として二つの方法がある。先ず、少なくとも正極活物質とバインダーとを含むスラリーを集電体に結着させて正極前駆体を形成し、その正極前駆体を混合溶液に浸漬し、引き上げて乾燥させる。必要であればこれを繰り返して、所定の厚さの有機無機コート層を形成する。
【0028】
このディッピング法を用いる場合には、正極前駆体を混合溶液に2分間以上浸漬するのが好ましい。また減圧雰囲気下で浸漬することも好ましい。このようにすることで、正極活物質層内に混合溶液が十分に含浸され、正極活物質の表面に有機無機コート層をさらに確実に形成することができる。
【0029】
もう一つの方法として、正極活物質の粉末を先ず混合溶液に混合し、それをフリーズドライ法などによって乾燥させる。必要であればこれを繰り返して、所定の厚さの有機無機コート層を形成する。その後、有機無機コート層が形成された正極活物質を用いて正極を形成する。
【0030】
ディッピング後には、適切な溶媒で洗浄するのが好ましい。洗浄が不十分であると、コート時の残渣が正極表面に生じるため初期抵抗が上昇したり、残渣が電解液中に流出するためと考えられサイクル時の容量低下が生じる。また、ディッピング法により形成された有機無機コート層は、熱処理を行うことが望ましい。熱処理温度は80〜140℃、熱処理時間は10分〜3日とすることができる。また熱処理雰囲気は、真空雰囲気、非酸化性ガス雰囲気とするのが望ましい。
【0031】
有機無機コート層の厚さは、0.1nm〜100nmの範囲であることが好ましく、0.1nm〜10nmの範囲であることがさらに好ましく0.1nm〜5nmの範囲であることが特に望ましい。有機無機コート層の厚さが薄すぎると、正極活物質が電解液と直接接触する場合がある。また有機無機コート層の厚さがμmオーダー以上となると、二次電池とした場合に抵抗が大きくなってイオン伝導性が低下する。このように薄い有機無機コート層を形成するには、上記したディッピング溶液(混合溶液)中の選択ポリマーと選択金属の濃度を低くしておき、繰り返し塗布することで、薄くかつ均一な有機無機コート層を形成することができる。
【0032】
有機無機コート層は、正極活物質粒子の少なくとも一部表面を被覆すればよいが、電解液との直接接触を防ぐためには、正極活物質粒子のほぼ全面を被覆することが好ましい。
【0033】
混合溶液中の選択ポリマーの濃度は、0.001質量%以上かつ5.0質量%未満とすることが好ましく、0.1質量%〜1.0質量%の範囲が望ましい。この範囲内では、濃度が高くなるほどサイクル後の容量維持率が向上し、抵抗上昇が抑制される。またこの範囲で塗布すれば、有機無機コート層の厚さは0.2nm〜4nmの範囲となる。この範囲を外れて濃度が低すぎると正極活物質との接触確率が低くコートに長時間要するようになり、濃度が高すぎると正極上での電気化学反応を阻害する場合がある。
【0034】
有機無機コート層の内部に、カーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物をさらに含むことも好ましい。カーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物をさらに含むとは、カーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物を内包することを指す。このようなリチウム化合物をさらに含むことで耐電圧性がさらに向上し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。ここで酸化反応電位とは酸化反応が始まる電位、すなわち分解開始電圧を意味する。このような酸化反応電位はリチウムイオン二次電池に用いられる電解液の有機溶媒の種類によって異なる値を有し、本発明では、電解液の有機溶媒としてカーボネート系溶媒を用いて酸化反応電位を測定した時に表われる値を意味する。
【0035】
カーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物としては、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、LiBF4、LiCF3SO3などが例示される。有機無機コート層におけるリチウム化合物の含有量は、10〜80質量%の範囲が好ましく、40〜60質量%の範囲が特に望ましい。リチウム化合物の含有量が10質量%未満では含有させたことによる効果が発現せず、80質量%を超えるとリチウム化合物を内包させるコート層の形成が困難となる場合がある。
【0036】
有機無機コート層に上記リチウム化合物を含ませるには、例えば上記リチウム化合物が溶媒に溶解した溶液に有機無機コート層が形成された電極を浸漬し、引き上げて乾燥することで容易に行うことができる。
【0037】
有機無機コート層の表面に、第二の有機コート層を形成することも好ましい。第二の有機コート層によって高電圧駆動時に正極活物質粒子と電解液との直接接触をさらに抑制することができる。しかし有機無機コート層と第二の有機コート層との合計層厚が大きくなると、リチウムイオン伝導性の抵抗が増大してしまう。そこで第二の有機コート層に含まれるポリマーとして、下層の有機無機コート層を構成するポリマーのゼータ電位とは正負が逆のゼータ電位をもつものを用いることが好ましい。このようにすれば、下層の有機無機コート層と第二の有機コート層とがクーロン力によって強固に接合されるので、下層の有機無機コート層と第二の有機コート層とを共に薄膜に形成することができ、有機無機コート層と第二の有機コート層とからなるコート層の総厚をnmオーダーとすることができる。
【0038】
なお第二の有機コート層を形成した場合には、有機無機コート層と第二の有機コート層とからなるコート層の総厚が0.1nm〜100nmの範囲であることが好ましく、0.1nm〜10nmの範囲であることがさらに好ましく0.1nm〜5nmの範囲であることが特に望ましい。また第二の有機コート層には、上述した選択金属及び/又はカーボネート系電解液より高い酸化反応電位をもつリチウム化合物を含んでもよい。この場合、第二の有機コート層に含まれる選択金属及び/又はリチウム化合物は、有機無機コート層に含まれる選択金属及び/又はリチウム化合物と同じでもよいし異なっていてもよい。選択金属及び/又はリチウム化合物の添加量は、有機無機コート層の場合と同様である。
【0039】
本発明の正極に用いられる正極活物質粒子(主にリチウム遷移金属酸化物を指す)は、電解質を入れていない状態の水もしくは有機溶媒に分散させた場合、ゼータ電位を測定すると負になることが判明している。この現象から、例えばポリエチレンイミンなどのゼータ電位が正のカチオン性ポリマーを有機無機コート層に用いるのが好ましい。こうすることで、正極活物質とポリマーとがクーロン力によって強固に結合する。そしてポリアクリル酸などのゼータ電位が負のアニオン性ポリマーを用いて第二の有機コート層を形成するのが好ましい。
【0040】
なお本発明にいうゼータ電位は、顕微鏡電気泳動法、回転回折格子法、レーザー・ドップラー電気泳動法、超音波振動電位(UVP)法、動電音響(ESA)法にて測定されるものである。特に好ましくはレーザー・ドップラー電気泳動法によって測定されたものである。(具体的な測定条件を以下に説明するが、この限りではない。先ず、DMF、アセトン、水を溶媒とし、固形分濃度0.1wt%の溶液(懸濁液)を調製した。測定は温度25℃で3回の測定を行い、その平均値を算出して求めた。またpHについては中性条件とした。)
こうして形成された有機無機コート層は正極活物質との接合強度が高いため、高電圧駆動時に正極活物質と電解液との直接接触を抑制することができる。また有機無機コート層と第二の有機コート層とからなるコート層の総厚がnmオーダーであれば、リチウムイオン伝導性の抵抗となることも抑制できる。したがって高電圧駆動によっても電解液の分解を抑制することができ、高容量であるとともに繰り返し充放電後も高い電池特性を維持できるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0041】
正極活物質層に含まれる結着部を構成するバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylidene DiFluoride:PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、変性ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が例示される。正極用バインダーとしての特性を損なわない範囲で、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリブロックイソシアナート、ポリオキサゾリン、ポリカルボジイミド等の硬化剤、エチレングリコール、グリセリン、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルオリゴマー、フタル酸エステル、ダイマー酸変性物、ポリブタジエン系化合物等の各種添加剤を単独で又は二種以上組み合わせて配合してもよい。
【0042】
有機無機コート層を構成する選択ポリマーは、結着部に対する被覆性が良好であるものが望ましい。したがってバインダーのゼータ電位とは正負が逆のゼータ電位をもつ選択ポリマーを用いることが好ましい。例えばバインダーにポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のゼータ電位はマイナスであるので、カチオン性の選択ポリマーを用いるのが好ましい。
【0043】
またバインダーと選択ポリマーとの電位差は大きいほど好ましい。したがってバインダーにポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた場合には、有機無機コート層にカチオン化し易いポリエチレンイミン(PEI)を用いてゼータ電位が+20mV以上となるように溶媒を選ぶことが好ましい。
【0044】
また正極活物質層には、導電助剤を含むことも好ましい。導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて添加することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、活物質100質量部に対して、2〜100質量部程度とすることができる。導電助剤の量が2質量部未満では効率のよい導電パスを形成できず、100質量部を超えると電極の成形性が悪化するとともにエネルギー密度が低くなる。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の正極を備えている。負極及び電解液は、公知のものを用いることができる。負極は、集電体と、集電体に結着された負極活物質層とからなる。負極活物質層は、負極活物質とバインダーとを少なくとも含み、導電助剤を含んでもよい。負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボン、ケイ素、炭素繊維、スズ(Sn)、酸化ケイ素など公知のものを用いることができる。中でもグラファイト、ハードカーボンなどのカーボンからなる負極活物質を用いると、サイクル後の抵抗が大きく低下し、サイクル後に出力が向上するという特異な効果が発現される。
【0046】
また負極活物質として、SiOx(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物を用いることもできる。このケイ素酸化物粉末の各粒子は、不均化反応によって微細なSiと、Siを覆うSiO2とに分解したSiOxからなる。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0047】
一般に、酸素を断った状態であれば800℃以上で、ほぼすべてのSiOが不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性のSiO粉末を含む原料酸化ケイ素粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことで、非結晶性のSiO2相および結晶性のSi相の二相を含むケイ素酸化物粉末が得られる。
【0048】
またケイ素酸化物として、SiOxに対し炭素材料を1〜50質量%で複合化したものを用いることもできる。炭素材料を複合化することで、サイクル特性が向上する。炭素材料の複合量が1質量%未満では導電性向上の効果が得られず、50質量%を超えるとSiOxの割合が相対的に減少して負極容量が低下してしまう。炭素材料の複合量は、SiOxに対して5〜30質量%の範囲が好ましく、5〜20質量%の範囲がさらに望ましい。SiOxに対して炭素材料を複合化するには、CVD法などを利用することができる。
【0049】
ケイ素酸化物粉末は平均粒径が1μm〜10μmの範囲にあることが望ましい。平均粒径が10μmより大きいと非水系二次電池の充放電特性が低下し、平均粒径が1μmより小さいと凝集して粗大な粒子となるため同様に非水系二次電池の充放電特性が低下する場合がある。
【0050】
負極における集電体、バインダー及び導電助剤は、正極活物質層で用いられるものと同様のものを用いることができる。
【0051】
上記した正極及び負極を用いる本発明のリチウムイオン二次電池は、特に限定されない公知の電解液、セパレータを用いることができる。電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム金属塩を溶解させたものである。電解液は、特に限定されない。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒、たとえばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等から選ばれる一種以上を用いることができる。少なくともフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含むことが望ましい。また、溶解させる電解質としては、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiI、LiClO4、LiCF3SO3等の有機溶媒に可溶なリチウム金属塩を用いることができる。
【0052】
例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒にLiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3等のリチウム金属塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。中でもLiBF4を用いることが望ましい。有機無機コート層をもつ正極を用いるとともにLiBF4を電解液中に含むことで、電解質が分解しにくくなる効果が相乗的に得られるため、高電圧駆動における繰り返し充放電後もさらに高い電池特性を維持することができる。
【0053】
セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い微多孔膜を用いることができる。また、これらの微多孔膜は無機物を主とする耐熱層が設けられていてもよく、用いられる無機物としては酸化アルミニウムや酸化チタンが好ましい。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池は、形状に特に限定はなく、円筒型、積層型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極にセパレータを挟装させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後、この電極体を電解液とともに電池ケースに密閉して電池となる。
【0055】
なお本発明のリチウムイオン二次電池は、初期に使用電圧に充電した状態で高温保持するエージング処理を行うことが望ましい。こうすることで初期容量の低下と初期抵抗の増大を抑制することができる。使用電圧としては4.3V以上、特に4.5Vが望ましく、エージング処理条件としては、35℃〜90℃の温度で1時間〜240時間保持すればよい。
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0057】
<正極の作製>
正極活物質としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2が94質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)が3質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)が3質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて約40μmの厚さの正極活物質層を形成した。
【0058】
エチルアルコールに硝酸ランタンを2.5mmol/Lとなるように溶解させ、さらにポリエチレンイミン(PEI)を濃度1質量%となるように溶解させて、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記正極前駆体を25℃で10分間浸漬後にエタノールで洗浄し、ポリアクリル酸が0.2質量%溶解したエタノール溶液に浸漬した。この一連の操作を二回繰り返し、120℃で12時間真空乾燥して正極を得た。この正極には、第一の有機無機コート層と第二の有機コート層とが形成されている。以下、第一の有機無機コート層と第二の有機コート層の全体を単にコート層ということがある。
【0059】
その後取り出して風乾させた後、120℃で12時間真空乾燥してコート層をもつ正極を得た。
【0060】
なお上記混合溶液を調製する際に、先ずエチルアルコールに硝酸ランタンを溶解させ、次いでポリエチレンイミン(PEI)を溶解したところ、溶液が一瞬白濁した後に透明となった。この混合溶液を粒度分布測定器(「NANO PARTIVLE ANALYZER SZ-100」、HORIBA社製)を用いて分析したところ、2nm±0.3nmの極めて狭い範囲に粒径をもつ微粒子が存在することがわかった。無機物の微粒子ではこのようにシャープな粒度分布は生じないので、この微粒子はランタンイオンがポリエチレンイミンに配位したものと推察される。
【0061】
透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「H9000NAR」)を用い、加速電圧200kV、倍率205万倍にて測定した正極のTEM像を図1に示す。図1には、正極活物質粒子を覆う厚さ約0.8nmのコート層が観察される。なお前述の粒径2nm±0.3nmは溶媒で膨潤した高分子の粒径であり、約0.8nmのコート層は乾燥後の厚さである。
【0062】
<負極の作製>
先ずSiO粉末(シグマ・アルドリッチ・ジャパン社製、平均粒径5μm)を900℃で2時間熱処理し、平均粒径5μmのSiOx粉末を調製した。この熱処理によって、SiとOとの比が概ね1:1の均質な固体の一酸化ケイ素SiOであれば、固体の内部反応によりSi相とSiO2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。
【0063】
このSiOx粉末32質量部と、天然黒鉛50質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)8質量部と、結着剤としてのポリアミドイミド10質量部を混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に約15μmの厚さで負極活物質層をもつ負極を作製した。
【0064】
<リチウムイオン二次電池の作製>
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジメチルカーボネート(DMC)を4:26:30:40(体積%)で混合した有機溶媒に、LiPF6を1モルとLPFO(組成式:LiPF2(C2O4)2)を0.01モルの濃度で溶解したものを用いた。
【0065】
そして上記の正極および負極の間に、セパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン積層フィルムを挟装して電極体とした。この電極体をポリプロピレン製ラミネートフィルムで包み込み、周囲を熱融着させてフィルム外装電池を作製した。最後の一辺を熱融着封止する前に上記の非水電解液を注入し、電極体に含浸させて、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
[比較例1]
コート層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様の正極を用い、他は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
[比較例2]
硝酸ランタンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様の混合溶液を用いて正極を作製し、この正極を用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0068】
<試験例1>
実施例1、比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、初期の初回放電IRドロップを測定した。初回放電IRドロップは、測定温度25℃、1CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、2.5時間保持した後、0.33CのCC放電(定電流放電)で放電させ、放電開始から10秒後における正極の抵抗値をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0069】
次に、実施例1、比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、それぞれ温度25℃、1CのCC充電の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、10分間休止した後、1CのCC放電で3.0Vにて放電し、10分間休止するサイクルを100サイクル繰り返すサイクル試験を行った。サイクル試験後の各リチウムイオン二次電池を用い、初期と同様にしてサイクル後の初回放電IRドロップを測定した。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1,2に比べて100サイクル後も抵抗の上昇が僅かであり、これは有機無機コート層にランタンを含んだことによる効果であることが明らかである。
【0072】
<試験例2>
実施例1、比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、それぞれ温度60℃、1CのCC充電の条件下において4.32Vまで充電し、10分間休止した後、1CのCC放電で3.26Vにて放電し、10分間休止するサイクルを200サイクル繰り返すサイクル試験を行った。100サイクル目及び200サイクル目における放電容量維持率をそれぞれ測定し、結果を表2に示す。放電容量維持率は、Nサイクル目の放電容量を初回の放電容量で除した値の百分率((Nサイクル目の放電容量)/(初回の放電容量)×100)で求められる値である。
【0073】
【表2】
【0074】
また初回、100サイクル目及び200サイクル目において50℃におけるSOC20%放電抵抗をそれぞれ測定し、抵抗上昇率を求めた結果を表3に示す。抵抗上昇率は、Nサイクル目の放電抵抗から初回の放電抵抗を差し引いた値を初回の放電抵抗で除した値の百分率((Nサイクル目の放電抵抗−1サイクル目の放電抵抗)/(初回の放電抵抗)×100)で求められる値である。
【0075】
【表3】
【0076】
比較例2のリチウムイオン二次電池は、比較例1に比べて放電容量維持率が高く、抵抗上昇率が低い。これはポリエチレンイミンとポリアクリル酸とからなるコート層を形成した効果である。しかし実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例2に比べても放電容量維持率が高く、抵抗上昇率が低い。これは有機無機コート層にランタンを含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例2】
【0077】
<正極の作製>
正極活物質としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2が94質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)が3質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)が3質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて約40μmの厚さの正極活物質層を形成した。
【0078】
エチルアルコールに硝酸マグネシウムを2.5mmol/Lとなるように溶解させ、さらにポリエチレンイミン(PEI)を濃度1質量%となるように溶解させて、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記正極前駆体を25℃で10分間浸漬し、その後取り出して風乾させた後、120℃で12時間真空乾燥して有機無機コート層をもつ正極を得た。
【0079】
<リチウムイオン二次電池の作製>
この正極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
<試験例3>
実施例2と比較例1,2のリチウムイオン二次電池について、試験例1と同様のサイクル試験を行った。サイクル試験前(初期)と100サイクル後のインピーダンス特性を評価した。具体的には、温度25℃、電圧3.51Vにおいて0.1Hz−1,000,000Hzまで周波数を変化させ、0.1Hzにおける抵抗絶対値(/Z/)値をインピーダンス値とした。結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
<試験例4>
実施例2と比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、試験例2と同様の試験を行った。放電容量維持率の測定結果を表5に、抵抗上昇率の測定結果を表6に、それぞれ示す。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
放電容量維持率に関しては、いずれも大差ないが、実施例2のリチウムイオン二次電池は各比較例に比べて抵抗上昇率が低い。これは有機無機コート層にマグネシウムを含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例3】
【0086】
正極活物質としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2が94質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)が3質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)が3質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて約40μmの厚さの正極活物質層を形成した。
【0087】
エチルアルコールに酢酸リチウムを0.23mol/Lとなるように溶解させ、さらにポリエチレンイミン(PEI)を濃度1質量%となるように溶解させて、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記正極前駆体を25℃で10分間浸漬後にエタノールで洗浄し、ポリアクリル酸が0.2質量%溶解したエタノール溶液に浸漬した。この一連の操作を二回繰り返し、120℃で12時間真空乾燥して正極を得た。この正極には、有機無機コート層と第二の有機コート層とが形成されている。
【0088】
<リチウムイオン二次電池の作製>
この正極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
<試験例5>
実施例3と比較例1,2のリチウムイオン二次電池について、試験例1と同様のサイクル試験を行った。サイクル試験前(初期)と100サイクル後の放電容量を測定し、容量維持率を算出した。放電容量は、温度25℃において0.2CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、10分間休止した後、0.33CのCC放電(定電流放電)で3.0Vまで放電したときの放電容量を測定した。結果を表7に示す。
【0090】
【表7】
【0091】
表7より、比較例2のリチウムイオン二次電池は比較例1に比べて容量維持率が高い。これは有機無機コート層と第二の有機コート層とからなるコート層を形成した効果である。しかし実施例3のリチウムイオン二次電池は、比較例2に比べても容量維持率が高く、これは有機無機コート層にリチウムを含んだことによる効果であることが明らかである。このメカニズムは明らかではないが、ポリエチレンイミン及び/又はポリアクリル酸にリチウムイオンが配位することによって、元々配位していたプロトンによる悪影響が排除されたためと推察される。
【0092】
<試験例6>
実施例3と比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、試験例2と同様の試験を行った。放電容量維持率の測定結果を表8に、抵抗上昇率の測定結果を表9に、それぞれ示す。
【0093】
【表8】
【0094】
【表9】
【0095】
放電容量維持率に関しては、実施例3が比較例1,3より高いものの、その差は大きくない。しかし実施例3のリチウムイオン二次電池は、各比較例に比べて抵抗上昇率が極めて低い。これは有機無機コート層にリチウムを含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例4】
【0096】
実施例1の正極と同様にして、ランタンを含む有機無機コート層とポリアクリル酸からなる第二の有機コート層とをもつ電極を作製した。リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)を0.04mol/L溶解したエタノール溶液を調製し、この電極を25℃で10分間浸漬した後に取り出し、エタノールで洗浄した後、120℃で12時間真空乾燥して正極を得た。正極におけるLiBETIの含有量は、ランタンに対して質量で4倍量である。
【0097】
<リチウムイオン二次電池の作製>
この正極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0098】
<試験例7>
実施例4と比較例1及び実施例1のリチウムイオン二次電池について、温度25℃において1CのCCCV2.5h(CCCV込み)の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、10分間休止した後、0.33C5hのCCCV放電(CCCV込み)で2.5Vまで放電したときの放電容量(初期容量)を測定した。サイクル試験前(初期)と100サイクル後の放電容量を測定し、容量維持率を算出した。次いで温度25℃において1CのCCCV2.5h(CCCV込み)の条件下において電池電圧4.32Vまで充電し、60℃の炉内にて12日間保持した。その後、初期容量と同様にして保存後の放電容量(保存後容量)を測定した。そして初期容量に対する保存後容量の割合(容量維持率)を算出し、結果を表10に示す。
【0099】
【表10】
【0100】
実施例4のリチウムイオン二次電池は、実施例1に比べても容量維持率が高い。これはコート層にランタンに加えてリチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)を含んだことによる効果であることが明らかである。このメカニズムは明らかではないが、以下のように推察される。高電圧(電池電圧が4.3V以上)での60℃保存試験時に、電解質であるLiPF6が分解することが知られている。本実施例では、耐電圧に優れたLiBETIがPEIに配位し、そのアニオンによってPF6-イオンの近接が抑制され、LiPF6の分解が抑制されたと考えられる。
【0101】
<試験例8>
実施例4と比較例1,2のリチウムイオン二次電池を用い、試験例2と同様の試験を行った。放電容量維持率の測定結果を表11に、抵抗上昇率の測定結果を表12に、それぞれ示す。
【0102】
【表11】
【0103】
【表12】
【0104】
比較例2のリチウムイオン二次電池は、比較例1に比べて放電容量維持率が高い。これはポリエチレンイミンからなるコート層を形成した効果である。しかし実施例4のリチウムイオン二次電池は、比較例2に比べても放電容量維持率が高く、抵抗上昇率が著しく低い。これは有機無機コート層にランタンとLiBETIを含んだことによる効果であることが明らかである。
【実施例5】
【0105】
<正極の作製>
正極活物質としてのLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2が94質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)が3質量部と、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)が3質量部と、を含む混合スラリーをアルミニウム箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥させて約40μmの厚さの正極活物質層を形成した。
【0106】
エチルアルコールに硝酸ランタンを2.5mmol/Lとなるように溶解させ、さらにポリエチレンイミン(PEI)を濃度1質量%となるように溶解させて、混合溶液を調製した。この混合溶液に上記正極前駆体を25℃で10分間浸漬後にエタノールで洗浄し、120℃で12時間真空乾燥して正極を得た。
【0107】
<負極の作製>
グラファイト97質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)粉末1質量部と、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)の混合物(質量比1:1)よりなるバインダ2質量部を混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ18μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、銅箔上に約15μmの厚さで負極活物質層を形成して負極を得た。
【0108】
<リチウムイオン二次電池の作製>
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)とジメチルカーボネート(DMC)を4:26:30:40(体積%)で混合した有機溶媒に、LiPF6を1モルの濃度で溶解したものを用いた。
【0109】
そして上記正極と上記負極を用い、実施例1と同様にして、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【実施例6】
【0110】
<正極の作製>
実施例5と同様にして正極活物質層を形成した。次にエチルアルコールに硝酸ランタンを2.5mmol/Lとなるように溶解させ、さらにポリエチレンイミン(PEI)を濃度0.005質量%となるように溶解させて、混合溶液を調製した。正極活物質層をもつ正極前駆体をこの混合溶液に25℃で10分間浸漬後にエタノールで洗浄し、ポリアクリル酸が0.5質量%溶解したエタノール溶液に浸漬した。この一連の操作を二回繰り返し、120℃で12時間真空乾燥してコート層をもつ正極を得た。
【0111】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記正極と実施例5と同様の負極を用い、実施例1と同様にして、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【実施例7】
【0112】
ポリエチレンイミン(PEI)の濃度が0.05質量%の混合溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にして正極を作製し、この正極と実施例5と同様の負極を用い、実施例1と同様にして、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【実施例8】
【0113】
ポリエチレンイミン(PEI)の濃度が0.1質量%の混合溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にして正極を作製し、この正極と実施例5と同様の負極を用い、実施例1と同様にして、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【実施例9】
【0114】
ポリエチレンイミン(PEI)の濃度が1.0質量%の混合溶液を用いたこと以外は実施例6と同様にして正極を作製し、この正極と実施例5と同様の負極を用い、実施例1と同様にして、本実施例のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0115】
[比較例3]
コート層を形成しなかったこと以外は実施例6と同様の正極を用い、他は実施例5と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製した。
【0116】
<試験例9>
実施例5〜9と比較例3のリチウムイオン二次電池について、それぞれ温度60℃、1CのCCCV充電の条件下において電池電圧4.32Vまで充電し、10分間休止した後、1CのCC放電で3.26Vにて放電し、10分間休止するサイクルを200サイクル繰り返すサイクル試験を行った。サイクル試験前(初期)と200サイクル後の放電容量を測定し、容量維持率を算出した。放電容量は、温度25℃において0.2CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、10分間休止した後、0.33CのCC放電(定電流放電)で3.0Vまで放電したときの放電容量を測定した。結果を表13に示す。
【0117】
また各リチウムイオン二次電池について、初期と200サイクル後の10秒抵抗をそれぞれ測定し、抵抗上昇率を算出した。結果を表13に示す。なお10秒抵抗は、温度25℃においてSOC20%に充電した後、3Cの条件で10秒間の放電を行い、以下の式に基づいて算出した。
【0118】
10秒抵抗=10秒間での電圧降下量/3Cの電流値
【0119】
【表13】
【0120】
負極活物質にグラファイトを用いた場合においても、有機無機コート層を正極に有することでサイクル試験後の特性が向上することが明らかである。また混合溶液中のポリエチレンイミン(PEI)の濃度が高くなるにつれて、容量維持率が向上するとともに抵抗上昇率が低下していることもわかる。すなわち0.1質量%以上の濃度でポリエチレンイミン(PEI)を含む混合溶液を用いて有機無機コート層を形成することで、初期抵抗よりサイクル試験後の抵抗が大きく低下する。これは、サイクル試験を行うことによって電池出力が向上することを意味している。
【0121】
<試験例10>
実施例9と比較例3のリチウムイオン二次電池について、それぞれ温度60℃、1CのCCCV充電の条件下において電池電圧4.32Vまで充電した後、60℃で12日間保存した。そして保存前と保存後のリチウムイオン二次電池について、試験例9と同様にして放電容量を測定し、容量維持率を算出した。また試験例9と同様にして抵抗上昇率を算出し、それぞれの結果を表14に示す。
【0122】
【表14】
【0123】
負極活物質にグラファイトを用いた場合においても、有機無機コート層を正極に有することで60℃で12日間保存後の特性が向上することが明らかである。
【実施例10】
【0124】
実施例9と同様にリチウムイオン二次電池を作製し、先ず25℃にて初期充放電を行うコンディショニング処理を行い、不可逆容量を安定化させた。次に温度60℃、1CのCCCV充電の条件下において電池電圧4.32Vまで充電した後、60℃で12時間保持するエージング処理を行った。
【実施例11】
【0125】
エージング処理を行わなかったこと以外は実施例10と同様にして、実施例11のリチウムイオン二次電池を得た。
[比較例4]
【0126】
比較例3と同様のリチウムイオン二次電池を用い、実施例10と同様のエージング処理を行った。
【0127】
<試験例11>
実施例10,11、比較例3,4のリチウムイオン二次電池について、温度25℃において0.2CのCCCV充電(定電流定電圧充電)の条件下において電池電圧4.5Vまで充電し、10分間休止した後、0.33CのCC放電(定電流放電)で3.0Vまで放電したときの放電容量を測定し、結果を初期容量として表15に示す。また試験例9と同様にして10秒抵抗を測定し、結果を初期抵抗として表15に示す。
【0128】
【表15】
【0129】
一般には、エージング処理することで高温保存性や高温サイクル特性が向上するが、比較例4のように高電圧駆動に対応したエージング処理を行うと、初期容量が低下したり抵抗が上昇するという問題があった。しかし本発明の有機無機コート層を形成した正極をもつリチウムイオン二次電池をエージング処理すれば、この問題を回避できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動用、パソコン、携帯通信機器、家電製品、オフィス機器、産業機器などに利用されるリチウムイオン二次電池用正極として有用であり、そのリチウムイオン二次電池は特に、大容量、大出力が必要な電気自動車やハイブリッド自動車のモータ駆動用に最適に用いることができる。
図1