(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896304
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂構造体
(51)【国際特許分類】
B60N 2/68 20060101AFI20160317BHJP
A47C 7/46 20060101ALI20160317BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
B60N2/68
A47C7/46
A47C7/40
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-558103(P2012-558103)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2012082486
(87)【国際公開番号】WO2013089227
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-275796(P2011-275796)
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃司
(72)【発明者】
【氏名】清水 信彦
(72)【発明者】
【氏名】木本 幸胤
【審査官】
宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−152938(JP,A)
【文献】
特開2004−211760(JP,A)
【文献】
特開平8−121520(JP,A)
【文献】
特開昭62−289450(JP,A)
【文献】
特開2005−334364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/68
A47C 7/40
A47C 7/46
B29C 70/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他部材への連結具が挿入される孔を有する繊維強化樹脂構造体であって、前記連結具からの荷重が作用する前記孔の内面部位における、該孔の内面部位に作用する前記連結具からの荷重が増大しないでも該孔の内面部位の変位が増大し始めるときの応力として表されるベアリング強度が、前記構造体のその部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいことを特徴とする繊維強化樹脂構造体。
【請求項2】
前記連結具が挿入される孔が貫通孔からなる、請求項1に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項3】
前記連結具がピンまたはボルトからなる、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項4】
前記構造体の前記連結具からの荷重が作用する前記孔の内面部位における繊維強化樹脂の強化繊維が、他の部位よりも多く配されている、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項5】
前記構造体の前記連結具からの荷重が作用する前記孔の内面部位に、前記孔の内面部位の変位の開始の起点となるトリガが設けられている、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項6】
前記トリガが、前記孔の内面部位に形成された切欠きからなる、請求項5に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項7】
前記トリガの設置部を除く前記孔の周辺部に、連続強化繊維が配置されている、請求項5または6に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項8】
前記連続強化繊維として、前記孔の周辺部を構成する繊維強化樹脂に用いられる強化繊維とは異なる種類の強化繊維が用いられている、請求項7に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項9】
前記構造体を構成する繊維強化樹脂が炭素繊維を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項10】
車両用部品に用いることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項11】
車両用シートのシートバック用フレーム構造体からなる、請求項10に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項12】
前記シートバック用フレーム構造体の下部に他部材への連結具が挿入される少なくとも2つの孔が設けられており、そのうちの少なくとも一方の孔が、前記繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいベアリング強度の内面部位を有する孔からなる、請求項11に記載の繊維強化樹脂構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂構造体に関し、とくに、他部材への連結具が挿入される孔を有する繊維強化樹脂構造体、例えば、車両用部品、中でも車両用シートのシートバック用フレーム構造体等に適用して好適な繊維強化樹脂構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、とくに高強度特性、軽量特性が要求される種々の分野に繊維強化樹脂からなる構造体が用いられている。繊維強化樹脂は、極めて高い強度、剛性を発現することが可能であるが、衝撃荷重に対しては脆性的な破壊を生じることから局部的な破断が生じ、そのような破断が望ましくない分野では、脆性破壊が生じる荷重よりも低い荷重で、付加機構、例えばその繊維強化樹脂構造体を他部材へ連結する部材が先に変形や破壊を生じるように、あるいはその付加機構で衝撃エネルギーを吸収できるように設計することにより、繊維強化樹脂構造体自体の破断を防止するようにしていた。すなわち、繊維強化樹脂構造体以外に、安全に破壊したり、衝撃エネルギーを吸収したりする機構を別に設けていた。
【0003】
例えば、繊維強化樹脂構造体への適用には限られていないが、自動車用部品に対して、衝撃エネルギーを吸収できるような外部機構を設ける構造(例えば、特許文献1)や、接着剤層での剥離を利用して衝撃エネルギーを吸収できるようにした構造(例えば、特許文献2)等が知られている。
【0004】
しかしこのような付加機構を設ける構造では、付加的な部品が必要になったり、付加的な組立工程が必要になったりし、とくに部品点数や組立工程の面で製造コストの増加を強いられることとなる。
【0005】
一方、特許文献3には、繊維強化樹脂シート材の積層体に形成された自動車用部品の締結部において、締結具が積層されたシート材の層間に食い込んでいくように構成し、積層体に層間剥離を生じさせて衝撃荷重を吸収させるようにした構造が開示されている。
【0006】
しかしこの特許文献3に開示の構造では、繊維強化樹脂構造体において通常最も強度的に弱くなるおそれの高い層間剥離方向の変形や破壊を前提としているため、繊維強化樹脂構造体に本来目標としている高い機械特性を発揮させることが難しくなるおそれがある。すなわち、本来目標としている高い機械特性を犠牲にした構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−179753号公報
【特許文献2】特開2009−208578号公報
【特許文献3】特開2007−253733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、部品点数や組立工程の増加を招くことなく、本来目標としている高い機械特性を容易に発揮させながら、自身の破断を伴うことなく必要な局部的部位の変形や変位のみで、衝撃エネルギー等の外部から加わる荷重を極めて効率よく吸収可能な繊維強化樹脂構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、他部材への連結具が挿入される孔を有する繊維強化樹脂構造体であって、前記連結具からの荷重が作用する前記孔の内面部位における、該孔の内面部位に作用する前記連結具からの荷重が増大しないでも該孔の内面部位の変位が増大し始めるときの応力として表されるベアリング強度が、前記構造体のその部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいことを特徴とするものからなる。
【0010】
このような本発明に係る繊維強化樹脂構造体においては、連結具が挿入される孔の内面部位におけるベアリング強度がその部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいので、連結具からの荷重が該孔の内面部位に作用し、その荷重が上記ベアリング強度よりも大きくなった際、その部位やその周囲の部位を構成する繊維強化樹脂は破断することなく、孔の内面部位の変位が増大し始める。つまり、孔の面積が拡大し始め、例えば丸孔であった元の孔形状が荷重作用方向に伸びた長孔形状へと変形される。この変形では、例えば、孔の内面を形成している繊維強化樹脂部位が、連結具から作用する荷重によって、孔の内面から該内面から遠ざかる部位に向かって逐次に局部破壊が進行していく様相を呈し、その逐次破壊の進行に伴って孔が拡大されていく。この変形に伴って、孔内面に作用していた荷重のエネルギーが孔の変形に消費されることになり、外部荷重によるエネルギーが適切に吸収されることになる。したがって、繊維強化樹脂構造体の局部的な破断を伴うことなく、孔周りの局部的な変位、変形のみで、衝撃エネルギー等の外部から加わる荷重が効率よく吸収される。繊維強化樹脂自身の破断を伴うことなく特定の局部的部位の変形や変位のみでよいので、他部材との間に付加的な機構を設ける必要はなく、部品点数や組立工程の増加を招くことはない。また、孔形状の変形のために繊維強化樹脂における層間剥離を利用することはなく、むしろ、孔の内面部位の繊維強化樹脂を補強することが可能であるので、繊維強化樹脂構造体に、容易に、繊維強化樹脂を採用したことによる本来目標としている高い機械特性を持たせることができる。
【0011】
上記本発明に係る繊維強化樹脂構造体においては、上記連結具が挿入される孔としては、繊維強化樹脂構造体の厚み方向に貫通しない孔の形態を採ることも可能であり、貫通孔の形態を採ることも可能である。通常の連結形態を考えると、貫通孔の方が、加工、連結操作の面から好ましいことが多い。
【0012】
また、上記連結具の形態は特に限定されず、通常のピンまたはボルト等を使用すればよい。ボルトを使用する場合には、ボルトのねじ締結部を他部材側に設け、繊維強化樹脂構造体の孔の内面部位には、ボルトの非ねじ部の円柱外周面が当たるように構成し、その非ねじ部外周面からの荷重が孔の内面部位に作用するように構成することが好ましい。ピンを使用する場合には、他部材側との接合方法は、接着、溶接、リベット締結、勘合などがあり、溶接が最も安価で好ましい。溶接の方法には、ガス溶接、酸素アセチレン溶接、アーク溶接、自動アーク溶接、半自動アーク溶接、ティグ溶接、プラズマ溶接、被覆アーク溶接、サブマージアーク溶接、ミグ溶接、炭酸ガスアーク溶接、セルフシールドアーク溶接、エレクトロスラグ溶接、電子ビーム溶接、レーザービーム溶接、抵抗溶接、重ね抵抗溶接、スポット溶接、プロジェクション溶接、シーム溶接、突合せ抵抗溶接、アプセット溶接、フラッシュ溶接、バットシーム溶接、摩擦圧接、テルミット溶接、ろう接 ろう付け・はんだ付けなどがある。樹脂の変形を抑制ならびに孔径を拡大させるために、カラーを使用して締結孔を強化する方法もある。カラーは直接埋め込んでも、成形後に圧入してもよい。
【0013】
また、上記繊維強化樹脂構造体の孔の内面部位において、繊維強化樹脂の破断強度を極力高くしつつ、孔の内面部位におけるベアリング強度を、その部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度よりも小さくするためには、上記構造体の上記連結具からの荷重が作用する孔の内面部位における繊維強化樹脂の強化繊維が、他の部位よりも多く配されている構造を採用することができる。この場合、孔の内面部位における強化繊維は、孔の内周面に沿う方向に延びるように配されていることが好ましい。このように強化繊維を配することにより、作用する荷重は強化繊維の配列方向と垂直の方向に作用することになるので、繊維強化樹脂の層間剥離を伴うことなく、その部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度を適切に高め、かつ、孔の内面部位におけるベアリング強度を目標とする強度に容易に設定することが可能になる。
【0014】
また、孔の内面部位の変位をより容易に所望の方法に生じさせるために、上記構造体の上記連結具からの荷重が作用する孔の内面部位に、孔の内面部位の変位の開始の起点となるトリガが設けられている構造を採用することもできる。トリガを適切な形態で適切な部位に設けておくことにより、所望の孔の内面部位の変位を確実に開始させることができ、かつ、開始後にも、望ましい変位を続行させることが可能になる。
【0015】
このようなトリガとしては、上記孔の内面部位に形成された切欠きから形成することが可能である。トリガは、孔の内面部位の変位の開始の起点になりさえすればよいので、あまり形状の大きなものは必要ない。トリガの形状が大きくなりすぎると、その部位の繊維強化樹脂の強度を弱めてしまうおそれがある。
【0016】
また、繊維強化樹脂の強度を向上させ、孔の内面部位のベアリング強度を相対的に低下させるために、孔の周辺部に連続強化繊維を配置することもできる。連続強化繊維を配置する場所は、孔周辺部であれば、特に限定しないが、特に上記のようにトリガを設ける場合には、トリガの設置部を除く上記孔の周辺部に、連続強化繊維が配置されている形態が好ましい。このような連続強化繊維は、孔を有する構造体の周囲部であれば、容易に配置することが可能である。
【0017】
また、上記のような連続強化繊維としては、上記孔の周辺部を構成する繊維強化樹脂に用いられる強化繊維とは異なる種類の強化繊維を用いることもできる。異なる種類の強化繊維を用いることで効率よくその部位の相対的な強度の向上を図ることができる。
【0018】
また、本発明における上記構造体を構成する繊維強化樹脂の強化繊維の種類はとくに限定されないが、繊維強化樹脂の機械特性を高く保つこと、および、本発明におけるベアリング強度を精度よく所望の値に設定することを考慮すれば、強度、剛性が高く、かつ、設計を行いやすい炭素繊維を含むことが好ましい。もちろん、ガラス繊維やアラミド繊維などの他の強化繊維を使用することもでき、炭素繊維と他の強化繊維とのハイブリッド構成も可能である。上記構造体を構成する繊維強化樹脂のマトリックス樹脂としては、とくに限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、これらの組み合わせのいずれも使用可能である。
【0019】
このような本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、他部材への連結具が挿入される孔を有するあらゆる繊維強化樹脂構造体に適用できる。パソコン、ディスプレイ、O A 機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルM D 、携帯用ラジオカセット、P D A ( 電子手帳などの携帯情報端末) 、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体及びトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、パネルなどの建材用途、二輪車関連部品、部材および外板やランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、エレベーター、フェイリング、リブなどの航空機関連部品、部材および外板などが挙げられる。特に、自動車部品として、モーター部品、オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、I C レギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、サスペンション部品、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係、排気系または吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、各種アーム、各種フレーム、各種ヒンジ、各種軸受、燃料ポンプ、ガソリンタンク、C N G タンク、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべイン、ワイパーモーター関係部品、ディストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、バッテリートレイ、A T ブラケット、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング、ハンドル、ドアビーム、プロテクター、シャーシ、フレーム、エネルギー吸収部品、メンバー、アームレスト、ホーンターミナル、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ノイズシールド、ラジエターサポート、スペアタイヤカバー、シートシェル、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ホイール、フェンダー、フェイシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スポイラーおよび各種モジュールなどに適用でき、とくに、安定的な破壊が必要な車両用部品に適用でき、その中でもとくに、後述の実施形態に示すように、車両用シートのシートバック用フレーム構造体として有効である。
【0020】
本発明に係る繊維強化樹脂構造体を車両用シートのシートバック用フレーム構造体として構成する場合には、例えば、シートバック用フレーム構造体の下部に他部材への連結具が挿入される少なくとも2つの孔が設けられており、そのうちの少なくとも一方の孔が、上記繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいベアリング強度の内面部位を有する孔からなる構造とすることができる。とくに、2つの孔のうち一方がシートバック用フレーム構造体の回動支点として機能可能な構造の場合には、他方のモーメント荷重がかかる孔を、繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいベアリング強度の内面部位を有する孔に構成すればよい。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に係る繊維強化樹脂構造体によれば、部品点数や組立工程の増加を招くことなく、繊維強化樹脂構造体に本来目標としている高い機械特性を発揮させながら、構造体に外部から大きな荷重が加わった際に自身の破断を伴うことなく孔周り部位の変形や変位のみを局部的に望ましい条件で発生させることができ、衝撃エネルギー等の外部荷重を極めて効率よく吸収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の繊維強化樹脂構造体の一実施態様に係るシートバック用フレーム構造体の概略斜視図である。
【
図2】
図1のシートバック用フレーム構造体の概略側面図(A)、そのシートバック用フレーム構造体に荷重が加わる場合の概略側面図(B)および(B)の状態においてシートバック用フレーム構造体部分のみを表示した概略側面図(C)である。
【
図3】繊維強化樹脂に加わる荷重と、荷重が加わった繊維強化樹脂の孔の内面部位の変位との一例を示す関係図である。
【
図4】孔の周囲部の局部的な逐次破壊の例を示す孔の概略正面図(A)および概略側面図(B)である。
【
図5】本発明におけるベアリング強度の測定方法の一例を示す試験装置の正面図(A)および側面図(B)である。
【
図6】
図5の試験装置により測定したベアリング強度の一例を示す試験片の荷重―変位特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
図1、
図2は、本発明の一実施態様を示しており、とくに、本発明に係る繊維強化樹脂構造体を車両用シートのシートバック用フレーム構造体として構成した場合について示している。
図1、
図2において、1は、本発明に係る繊維強化樹脂構造体の一例としての車両用シートのシートバック用フレーム構造体を示している。シートバック用フレーム構造体1は、強化繊維として炭素繊維を用いた繊維強化樹脂構造体の一体成形体に構成されている。シートバック用フレーム構造体1の下部の両側には、それぞれ、他部材、例えば、シートフレーム3の一部を構成する回動調整部材4へ連結するための連結具(例えば、ボルト)が挿入される、略水平方向に配列された2つの孔2a、2bが設けられている。本例では、図に示すように、例えば、車両後突時にシートバック用フレーム構造体1の上部に車両後方に向けて加わる衝撃荷重(F)を例にとってみると、孔2bは荷重(F)が加わった際の回動支点として機能し、孔2aの内面に、連結具としてのボルトからの荷重が加わることになる。すなわち、荷重(F)によって腕の長さをd1とするモーメントが孔2b周りに発生し、それに対抗するように、腕の長さを孔2a、2bの中心間距離d2とするモーメントが反対方向に発現し、それに伴って、孔2aの内面には、下向きの荷重S1が加わることになる。
【0024】
そして、とくに孔2aの内面部位における、該孔2aの内面部位に作用するボルトからの荷重S1が増大しないでも該孔2aの内面部位の変位が増大し始めるときの応力として表されるベアリング強度Sが、シートバック用フレーム構造体1のその部位を構成する繊維強化樹脂の破断強度よりも小さくなるように設定されている。すなわち、
図3に、繊維強化樹脂に加わる荷重と、荷重が加わった繊維強化樹脂の孔の内面部位の変位との関係を例示するように、孔2aの内面部位に荷重が増大しないでも該孔2aの内面部位の変位が増大し続ける荷重を(より正確にはそのときの応力を)ベアリング強度Sとし、そのベアリング強度Sが、孔2aの内面部位やその周囲部を構成する材料としての繊維強化樹脂の破断強度よりも小さくなるように設定されている。
【0025】
孔2aの内面部位のベアリング強度Sが繊維強化樹脂の破断強度よりも小さいので、衝撃荷重等が加わった際、孔2aの周囲部において構成材料としての繊維強化樹脂が引きちぎられて破断に至ることはなく、例えば
図4に示すように、連結具としてのボルト6からの荷重がかかる孔2aの内面方向(面圧方向)に孔2aの周囲部に局部的に逐次破壊が生じ(逐次破壊部5)、孔2aが逐次長孔へと拡大変形されていく。この局部的な逐次破壊の過程で、加わっていた荷重のエネルギーが消耗、吸収されていく。したがって、シートバック用フレーム構造体1を構成する繊維強化樹脂自身の破断を伴うことなく、孔2a周囲の局部的変形により、衝撃エネルギーが効率よく吸収されていくことになる。
【0026】
孔2a周囲に所望の局部的変形を生じさせるだけであるから、別部材、別機構は不要であり、基本的に部品点数や組立工程の増加は招かない。また、繊維強化樹脂の破断強度は低く設定する必要は全くないので、繊維強化樹脂構造体に本来目標としている高い機械特性を持たせることができる。つまり、繊維強化樹脂構造体には望ましい高い機械特性を発揮させながら、衝撃エネルギー等の外部荷重を繊維強化樹脂構造体自体で(とくに繊維強化樹脂構造体自体を特定の構造に設計することにより)適切に吸収できるようになる。
【0027】
孔2a周囲の設計については、前述の如く、繊維強化樹脂の強化繊維が他の部位よりも多く配されている構造や、孔2aの内面部位の変位の開始の起点となるトリガ(例えば、切欠き)が適宜設けられている構造を採用することができる。
【0028】
本発明において、繊維強化樹脂構造体の他部材への連結具が挿入される孔の内面部位におけるベアリング強度は、例えば、
図5に示すような試験装置によって測定することができる。
図5に示す試験装置11においては、板状の試験片12の孔13に、該孔13の内径(例えば、内径10.5mm)と略同じか若干小さい外径(例えば、外径10mm)のピン14が貫通されて挿入される。試験片12は、両面側から挟み込み治具15で挟まれ、試験片12の両面側におけるピン14の2部位にて均等に、押圧治具16により、ピン14の上面に荷重が加えられていき(例えば、インストロン試験機を用いて荷重が加えられていき)、ピン14を矢印の方向に変位させて孔13の内面部位(下面側部位)のベアリング強度が求められる。
【0029】
上記のようにピン14に荷重が加えられていくと、孔13の内面部位(下面側部位)が局部的に変位していき(つまり、孔13が長孔状に変形していき)、その変位がピン14の変位として測定され、例えば
図6に示すような荷重―変位特性図が得られる。この荷重―変位特性図において、荷重が増大しないでも変位が増大し始めるときの応力がベアリング強度として求められる。このように求められるベアリング強度を用いて、本発明に係る繊維強化樹脂構造体が設計される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、他部材への連結具が挿入される孔を有するあらゆる繊維強化樹脂構造体に適用でき、とくに、安定的な破壊が必要な車両用部品として好適であり、中でも車両用シートのシートバック用フレーム構造体として好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 繊維強化樹脂構造体としてのシートバック用フレーム構造体
2a、2b 孔
3 シートフレーム
4 回動調整部材
5 逐次破壊部
6 ボルト
11 試験装置
12 試験片
13 孔
14 ピン
15 挟み込み治具
16 押圧治具