特許第5896412号(P5896412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5896412保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した回路保護素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896412
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した回路保護素子
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/48 20060101AFI20160317BHJP
   H01H 85/02 20060101ALI20160317BHJP
   H01H 37/76 20060101ALI20160317BHJP
   H01H 69/02 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   H01H85/48
   H01H85/02 S
   H01H37/76 P
   H01H69/02
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-113369(P2012-113369)
(22)【出願日】2012年5月17日
(65)【公開番号】特開2013-239405(P2013-239405A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2014年8月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300078431
【氏名又は名称】エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 亨
(72)【発明者】
【氏名】前田 憲之
【審査官】 段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−144821(JP,A)
【文献】 特開2009−170698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 85/48
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の高融点ベース材と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の低融点被覆材とを積層した複合金属材を用いた保護素子用ヒューズ素子であって、前記低融点被覆材は保護素子との接合部分に対向した前記高融点ベース材の表面全体を被覆し、接合前における前記複合金属材の板厚に対して前記低融点被覆材の厚みが1%以上20%以下の前記複合材からなることを特徴とする保護素子用ヒューズ素子。
【請求項2】
前記複合金属材は、183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない可融性金属からなる前記高融点ベース材の表面に、該接合作業温度において溶融可能な可融性金属からなる前記低融点被覆材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の保護素子用ヒューズ素子。
【請求項3】
前記複合金属材は、積層面に予め接合フラックスを内蔵させたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の保護素子用ヒューズ素子。
【請求項4】
前記高融点ベース材は、20Sn−80Au合金、55Sn−45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb−Sn合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載の保護素子用ヒューズ素子。
【請求項5】
前記低融点被覆材は、Sn−Ag合金、Sn−Bi合金、Sn−Cu合金、Sn−Zn合金、Sn−Sb合金、Sn−Ag−Bi合金、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag−In合金、Sn−Zn−Al合金、Sn−Zn−Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載の保護素子用ヒューズ素子。
【請求項6】
絶縁基板と、前記絶縁基板の表面に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続したヒューズ素子と、このヒューズ素子の上部を覆ったキャップ状蓋体とを備え、前記ヒューズ素子は、接合作業温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と、前記接合作業温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いた回路保護素子であって、前記低融点被覆材は前記パターン電極との接合部分に対向した前記高融点ベース材の表面全体を被覆し、接合前における前記複合金属材の板厚に対して前記低融点被覆材の厚みが1%以上20%以下の前記複合金属材からなることを特徴とする回路保護素子。
【請求項7】
前記絶縁基板は、さらに抵抗発熱素子を設けたことを特徴とする請求項6に記載の回路保護素子。
【請求項8】
前記高融点ベース材は、20Sn−80Au合金、55Sn−45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb−Sn合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の回路保護素子。
【請求項9】
前記低融点被覆材は、Sn−Ag合金、Sn−Bi合金、Sn−Cu合金、Sn−Zn合金、Sn−Sb合金、Sn−Ag−Bi合金、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag−In合金、Sn−Zn−Al合金、Sn−Zn−Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金の群から選択された少なくとも1つの可融性金属を用いたことを特徴とする請求項6ないし請求項8の何れか1つに記載の回路保護素子。
【請求項10】
接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いたヒューズ素子およびパターン電極を有する絶縁基板を準備する準備工程、前記絶縁基板に接合フラックスを塗布する接合フラックス塗布工程、その後前記絶縁基板の前記パターン電極と前記ヒューズ素子の前記低融点被覆材とを互いに接触させて前記絶縁基板に載置するマウント工程、前記ヒューズ素子を載置した前記絶縁基板を183℃以上280℃未満の接合作業温度で前記低融点被覆材を溶融させてパターン電極に一括接合させる接合工程、接合した前記ヒューズ素子に動作用の溶断フラックスを塗布する溶断フラックス塗布工程、前記溶断フラックスを塗布した前記絶縁基板上の前記ヒューズ素子をキャップ状蓋体で覆ってパッケージングするパッケージング工程により組み立てられた回路保護素子の製造方法であって、前記低融点被覆材は前期パターン電極との接合部分に対向した前記高融点ベース材の表面全体を被覆し、接合前における前記複合金属材の板厚に対して前記低融点被覆材の厚みが1%以上20%以下になるように前記複合金属材を成形したことを特徴とする回路保護素子の製造方法。
【請求項11】
前記接合工程において前記パターン電極と前記ヒューズ素子の金属材表面の酸化膜等を除去し接合表面を活性化する水素還元炉または蟻酸還元炉による活性化手段を用いたことにより、前記接合フラックス塗布工程を省略したことを特徴とする請求項10に記載の回路保護素子の製造方法。
【請求項12】
積層面に予め接合フラックスを内蔵させた前記ヒューズ素子を用いたことにより、前記接合フラックス塗布工程を省略したことを特徴とする請求項10に記載の回路保護素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属材からなる保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の回路保護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル機器など小型電子機器の急速な普及に伴い、搭載する電源の保護回路に実装される保護素子も小型薄型のものが使用されている。例えば、二次電池パックの保護回路には、表面実装部品(SMD)のチップ保護素子が好適に利用される。これらチップ保護素子には、被保護機器の過電流により生ずる過大発熱を検知し、または周囲温度の異常過熱に感応して、所定条件でヒューズを作動させ電気回路を遮断する非復帰型保護素子がある。該保護素子は、機器の安全を図るために、保護回路が機器に生ずる異常を検知すると信号電流により抵抗素子を発熱させ、その発熱で可融性の合金材からなるヒューズ素子(ヒューズエレメントとも言う)を溶断させて回路を遮断するか、あるいは過電流によってヒューズ素子を溶断させて回路を遮断できる。例えば、特許文献1および特許文献2には、異常時に発熱する抵抗素子をセラミックス基板などの絶縁基板上に設けた保護素子と、この保護素子を利用してLiイオン二次電池の過充電モードで電極表面に生成したデンドライトによる性能劣化などに起因する発火事故を防止する保護装置が開示されている。
【0003】
従来、上述したチップ保護素子のヒューズ素子を構成する可融性合金材は、セラミックス基板など絶縁基板の上に形成したパターン電極にレーザー溶接などの接合手段により取り付けられていた。レーザー溶接は、個片のヒューズ素子をパターン電極に確実に接合するために適した工法ではあるが、高価なレーザー溶接機を必要とし、個々の接合箇所にレーザーを局部照射しながら作業するため、複数のヒューズ素子を一括接合することができず、作業時間を要し必ずしも生産効率の高い方法ではなかった。また、特に平板状のヒューズ素子を絶縁基板のパターン電極と接合する場合には、レーザー照射熱によってヒューズ素子全体が溶融してしまわないようにヒューズ素子の周縁部にレーザーをポイント照射する必要があり、ヒューズ素子板の中央部分はパターン電極が在ってもこれを接合に利用することが難しい。このためヒューズ素子とパターン電極との接触面全面を接合面とすることができず、電気抵抗や接続強度の観点から最適とは言えない。
【0004】
さらに、保護素子のヒューズ素子や基板電極を含む基板などの接合部品の小型化・薄型化の進展に伴い、より薄板のヒューズ素子を用いた場合には、レーザー熱によって溶接後のヒューズ素子が過熱変形したり、レーザー照射部位が過度に盛り上がって局部的に厚くなったりしてエレメント取付の出来ばえが悪くなる欠点があった。このため後工程で基板上のヒューズエレメントをキャップ状蓋体で覆って被覆する際、ヒューズ素子の変形が著しい場合には、キャップ状蓋体を絶縁基板に水平に取り付けることができなかったり、所定の取り付け位置からずれたりして蓋体の載置作業が妨げられ組立不良の原因となるなど好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
特許文献1:特開2008−112735号公報
特許文献2:特開2011−034755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、上述の問題点を解消するために提案されたものであり、生産効率を向上でき、保護素子のヒューズ素子やパターン電極を含む基板など接合部品の小型薄型化に対応可能な複合金属材からなる保護素子用ヒューズ素子およびそれを利用した電気・電子機器の回路保護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の高融点ベース材と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の低融点被覆材とを積層した複合金属材を用いたことを特徴とする保護素子用ヒューズ素子が提供される。前記ヒューズ素子は、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる平板状または棒状の高融点ベース材の表面に、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる低融点被覆材を設けた複合金属材であり、高融点ベース材が平板状の場合は、ベース材板面の少なくとも片側に低融点被覆材を設け、高融点ベース材が棒状の場合は、ベース材の周壁面に低融点被覆材を設ける。
【0008】
本発明の別の観点よると、上記様態のヒューズ素子を利用した回路保護素子が提供される。本発明に係る回路保護素子は、前記ヒューズ素子とパターン電極を有する絶縁基板とを準備する準備工程、絶縁基板に接合フラックスを塗布する接合フラックス塗布工程、接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極とヒューズ素子の低融点被覆材とを互いに接触させて絶縁基板に載置するマウント工程、ヒューズ素子を載置した絶縁基板を183℃以上280℃未満の接合作業温度で低融点被覆材を溶融させてパターン電極に一括接合させる接合工程、接合したヒューズ素子に動作用の溶断フラックスを塗布する溶断フラックス塗布工程、溶断フラックスを塗布した絶縁基板上のヒューズ素子をキャップ状蓋体で覆ってパッケージングするパッケージング工程により組み立てられたことを特徴とする。すなわち、本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、絶縁基板の表面に設けたパターン電極に接合され、回路保護素子のヒューズエレメントとして使用される。該ヒューズ素子は、予め接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極とヒューズ素子の低融点被覆材とを互いに接触させて絶縁基板に載置され、前述の接合作業温度で低融点被覆材を溶融させることによりパターン電極に一括接合される。溶融した低融点被覆材は高融点ベース材とパターン電極とを接合させる。高融点ベース材は、接合作業温度で溶融しないので形状を保ったままパターン電極に固着され、所定の動作温度を損なうことなく所定条件で溶断するヒューズエレメントとなる。その後、固着したヒューズ素子に溶断フラックスを塗布し、基板上のヒューズ素子をキャップ状蓋体で覆ってパッケージングされて回路保護素子を形成する。
【0009】
本発明に係る回路保護素子は、絶縁基板と、該絶縁基板の表面に設けた複数のパターン電極と、このパターン電極に電気接続したヒューズ素子とを備え、ヒューズ素子は、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いたことを特徴とする保護素子が提供される。該保護素子の絶縁基板には必要に応じて抵抗発熱素子を設けてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のヒューズ素子を用いることで、多数のヒューズ素子をリフロー工法により赤外線方式、熱風方式、VPS(ベーパーフェーズソルダリング)方式を含む各種リフロー炉、高温バッチ炉、温風ヒータ、ホットプレートなどを用いて一括接合することができ、生産効率を高めてより経済的に回路保護素子を生産することが可能となる。同時にヒューズ素子とパターン電極との接触面全面を接合できるので、接合面(接合代)をより広く取ることができ、接合面積を広くして電気抵抗を低減するとともに接合強度を向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る保護素子用ヒューズ素子を表し、(a)は単層の高融点ベース材と単層の低融点被覆材とを積層した平板状ヒューズ素子10を示し、(b)は高融点ベース材の上下面に低融点被覆材を積層した三層複合金属材からなる平板状ヒューズ素子20を示し、(c)は高融点ベース材からなる芯材の表面を単層の低融点被覆材で被覆した棒状ヒューズ素子30を示す。
図2】本発明に係る回路保護素子の部品部材を分解した斜視図を示す。
図3】本発明の実施例1の回路保護素子10であり、(a)は(b)のd−d線に沿ってキャップ状蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。
図4】本発明の実施例2の回路保護素子20であり、(a)は(b)のd−d線に沿ってキャップ状蓋体を切断した平面図を示し、(b)は(a)のD−D線に沿った断面図を示し、(c)はその下面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、図1に示すように、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の高融点ベース材11と、接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも単層の低融点被覆材12とを積層した複合金属材を用いたことを特徴としている。この保護素子用ヒューズ素子には、高融点ベース材11として183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない可融性金属、例えば20Sn−80Au合金、55Sn−45Sb合金、Pbを80質量%以上含有したPb−Sn合金などの合金材が好適に利用できる。そして平板状または棒状の前記高融点ベース材11の表面に、該接合作業温度において溶融可能な可融性金属、例えばSn−Ag合金、Sn−Bi合金、Sn−Cu合金、Sn−Zn合金、Sn−Sb合金、Sn−Ag−Bi合金、Sn−Ag−Cu合金、Sn−Ag−In合金、Sn−Zn−Al合金、Sn−Zn−Bi合金または前記Sn基合金にAu、Ni、Ge、Gaをさらに添加した合金材などの低融点被覆材12を固着した複合金属材によって本発明に係る保護素子用ヒューズ素子を構成する。高融点ベース材11が平板状の場合は、該ベース材板面の少なくとも片側に低融点被覆材12を層状に設け、高融点ベース材11が棒状の場合は、該ベース材の外周面に低融点被覆材12を設ける。なお、上述の高融点ベース材11の表面に低融点被覆材12を設ける手段は、特に限定されず高融点ベース材11に低融点被覆材12を固着できればよい。例えば、低融点被覆材12はクラッド、めっき、溶融コート、圧着、ロジンなどの可融性樹脂による接着などの手段で高融点ベース材11の表面に固着できる。また、本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、積層面に予め接合フラックスを内蔵させた複合金属材としてもよい。
【0013】
さらに、上述した本発明に係る保護素子用ヒューズ素子は、図2に示すように、耐熱性の絶縁基板23の表面に設けた導電性部材からなるパターン電極24に溶融接合され回路保護素子のヒューズエレメント25として使用される。本発明に係る保護素子用ヒューズ素子がヒューズエレメントとして正常に機能するためには、接合前におけるヒューズ素子25の総厚または直径に対して低融点被覆材22の厚みが1%以上20%以下になるようにヒューズ素子25を成形しておく必要があり、より好適には前記厚みが5%以上15%以下になるようにヒューズ素子25を成形しておくとよい。さらにヒューズ素子25を搭載する回路保護素子の小型化・薄型化の観点から、接合前におけるヒューズ素子25の総厚または直径は64μm以上300μm以下とするのが望ましく、より好適には前記総厚または直径が85μm以上115μm以下となるようにヒューズ素子25を成形しておくとよい。例えば、接合前におけるヒューズ素子25の板厚が総厚100μmの場合には、低融点被覆材22の合計の厚さが5μm〜15μmの範囲となるように形成しておくのが好ましい。前記厚みが20%を超えると、ヒューズエレメント25を構成する高融点ベース材21の溶融温度や内部抵抗値などが変動したり、過剰に残留した低融点接合層や電極食われ現象によってヒューズエレメント25が接合剥離したりして回路保護素子の信頼性に悪影響をおよぼす。また、前記厚みが1%未満であると、高融点ベース材21をパターン電極24に充分に接合することができない。
【0014】
本発明に係る回路保護素子は、接合作業温度で溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材と接合作業温度で溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材とを積層して成る複合金属材を用いたヒューズ素子およびパターン電極を有する絶縁基板を準備する準備工程、絶縁基板に接合フラックスを塗布する接合フラックス塗布工程、接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極とヒューズ素子の低融点被覆材とを互いに接触させて絶縁基板に載置するマウント工程、ヒューズ素子を載置した絶縁基板を183℃以上280℃未満の接合作業温度で低融点被覆材を溶融させてパターン電極に一括接合させる接合工程、接合したヒューズ素子に動作用の溶断フラックスを塗布する溶断フラックス塗布工程、溶断フラックスを塗布した絶縁基板上のヒューズ素子をキャップ状蓋体で覆ってパッケージングするパッケージング工程により組み立てられる。例えば、該ヒューズ素子25は、予め接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極24とヒューズ素子25の低融点被覆材22とを互いに接触させて絶縁基板23に載置され、183℃以上280℃未満の温度プロファイルに設定されたリフロー炉に通し低融点被覆材22を溶融させることによりパターン電極24に一括接合される。溶融した低融点被覆材22は、高融点ベース材21およびパターン電極24に相互拡散され高融点ベース材21とパターン電極24とを接合させる。高融点ベース材21は、リフロー温度で溶融しないので形状を保ったままパターン電極24に接合される。その後、接合したヒューズ素子25に動作用の溶断フラックスを塗布し、絶縁基板上のヒューズ素子25をキャップ状蓋体26で覆ってパッケージングし回路保護素子とする。
【0015】
前記接合工程に適用される加熱手段は特に限定されず、絶縁基板に載置したヒューズ素子を前記作業温度に一括加熱できれば、どのような方法、装置を用いても差し支えない。例えば、高温バッチ炉を用いた加熱、ホットプレートを用いた加熱、リフロー炉を用いた加熱などが好適に利用できる。また、前記接合フラックス塗布工程は、接合工程の加熱下においてパターン電極とヒューズ素子の金属材表面の酸化膜等を除去し接合表面を活性化する目的で予め接合フラックスを塗布するもので、パターン電極とヒューズ素子の金属材表面を活性化できるのであれば、他の活性化手段を代替使用でき、接合フラックス塗布工程を省略または代替することができる。例えば、水素還元炉、蟻酸還元炉など活性化ガスを用いたリフロー炉を用いる場合には、接合フラックス塗布工程を省略しても差し支えない。また、ヒューズ素子の積層面に予め接合フラックスを内蔵させた場合も、接合フラックス塗布工程を省略して差し支えない。
【0016】
本発明に係る保護素子は、前記保護素子用ヒューズ素子を利用した保護素子であり、図2に示すように、絶縁基板23と、該絶縁基板23の表面に設けた複数のパターン電極24と、このパターン電極24に電気接続したヒューズ素子25と、このヒューズ素子25の上部を覆ったキャップ状蓋体26とを備え、ヒューズ素子25は、183℃以上280℃未満の接合作業温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材21と、該接合作業温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材22とを積層して成る複合金属材を用いたことを特徴とする。この保護素子の絶縁基板23は、耐熱性の絶縁基板、例えば、ガラスエポキシ基板、BT(Bismaleimide Triazine)基板、テフロン(登録商標)基板、セラミックス基板、ガラス基板などからなり、該絶縁基板23の片面に必要に応じて抵抗発熱素子を設けてもよい。該抵抗発熱素子は必要に応じて絶縁コーティングを施す。前記キャップ状蓋体26は、絶縁基板23およびヒューズ素子25の上部を覆って所望のキャビティ空間を保持できればよく、形状、材質を制限するものではないが、例えば、キャップ状蓋体26には、ドーム状樹脂フイルム材、プラスチック材、セラミック材などが好適に利用できる。
【実施例】
【0017】
本発明に係る実施例1の保護素子用ヒューズ素子10は、図1(a)に示すように、第1の融点温度が280〜290℃の87Pb−13Sn合金板からなる厚さ90μmの高融点ベース材11と、第2の融点温度が220℃のSn−3Ag−0.5Cu合金板からなる厚さ10μmの低融点被覆材12とをクラッドにより張り合わせた複合金属材で構成される。
【0018】
本発明に係る実施例2の保護素子用ヒューズ素子20は、図1(b)に示すように、280〜290℃の第1の融点温度を有する厚さ90μmの87Pb−13Sn合金板からなる高融点ベース材11の上下面に、227℃の第2の融点温度を有する厚さ5μmのSn−0.7Cu合金材からなる低融点被覆材12を電気めっきにより設けた三層複合金属材で構成される。ヒューズ素子20は、高融点ベース材11の上下面に低融点被覆材12を設けることで表裏の方向性が無く、回路保護素子の組立工程おいてヒューズ素子板の誤載置を防止することができる。
【0019】
本発明に係る実施例3の保護素子用ヒューズ素子30は、図1(c)に示すように、280〜290℃の第1の融点温度を有する直径280μmの87Pb−13Sn合金からなる高融点ベース材11の芯材の外周表面に、221℃の第2の融点温度を有する厚さ10μmのSn−3.5Ag合金材からなる低融点被覆材12を、被覆伸線により圧着させた複合金属材で構成される。特に図示しないが、棒状の該ヒューズ素子30をさらに板状に圧延して用いてもよい。また、ヒューズ素子の直径が300μmを超える場合でもヒューズ素子の直径に対して低融点被覆材12の厚みを1%以上20%以下になるように棒状ヒューズ素子30を成形し、これを厚さ300μm以下の板状に圧延して用いることができる。
【0020】
実施例1ないし実施例3の保護素子用ヒューズ素子は、それぞれ、図2に示すようなアルミナ・セラミックスの絶縁基板23の表面に設けたAg合金パターン電極24に接合されて、以下に示す実施例4または実施例5の回路保護素子を形成する。該ヒューズ素子は、予め接合フラックスを塗布した絶縁基板のパターン電極とヒューズ素子の低融点被覆材とを互いに接触させて絶縁基板に載置され、温度プロファイルを余熱温度180〜190℃で滞留時間45秒、225℃以上の滞留時間30秒ピーク温度235℃に設定したリフロー炉に通し低融点被覆材を溶融させることによりパターン電極に一括接合した後、接合したヒューズ素子に溶断フラックスを塗布し、絶縁基板上のヒューズ素子を耐熱プラスチック製のキャップ状蓋体で覆って、キャップ状蓋体と絶縁基板とをエポキシ系樹脂で固定して回路保護素子とする。
【0021】
本発明に係る実施例4の回路保護素子は、前記実施例1ないし実施例3の何れかの保護素子用ヒューズ素子を利用した回路保護素子であり、図3に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板33と、この絶縁基板33の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極34と、該パターン電極34と電気接続され該絶縁基板33の下面に設けた抵抗発熱素子38と、該絶縁基板33の上面のパターン電極34に電気接続したヒューズ素子35と、このヒューズ素子35の上部を覆って該絶縁基板に固着した液晶ポリマー製のキャップ状蓋体36とを備え、ヒューズ素子35は、183℃以上ピーク温度280℃未満のリフロー温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材31と、該リフロー温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材32とを積層した複合金属材からなり、パターン電極34は、基板上下面のパターン電極34を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール37を有する。特に図示しないが、実施例4の抵抗発熱素子の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。
【0022】
本発明に係る実施例5の回路保護素子は、前述の実施例4の回路保護素子を変形したもので、前記実施例1ないし実施例3の何れかの保護素子用ヒューズ素子を利用した回路保護素子である。図4に示すように、アルミナ・セラミックスの絶縁基板43と、この絶縁基板43の上下面に設けた複数のAg合金製パターン電極44と、該パターン電極44と電気接続され該絶縁基板43の上面に設けた抵抗発熱素子48と、この抵抗発熱素子48に当接して該絶縁基板43の上面のパターン電極44に電気接続したヒューズ素子45と、このヒューズ素子45の上部を覆って該絶縁基板43に固着した液晶ポリマー製のキャップ状蓋体46とを備え、ヒューズ素子45は、183℃以上ピーク温度280℃未満のリフロー温度において溶融しない第1の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの高融点ベース材41と、該リフロー温度において溶融可能な第2の融点温度を有する可融性金属からなる少なくとも1つの低融点被覆材42とを積層した複合金属材からなり、パターン電極44は、基板上下面のパターン電極44を電気接続するAg合金のハーフ・スルーホール47を有する。特に図示しないが、実施例5の抵抗発熱素子の表面はガラス材のオーバーグレーズを施している。
【0023】
なお、実施例4および実施例5の回路保護素子は、絶縁基板上下面のパターン電極を電気接続する配線手段は、ハーフ・スルーホールに替えて該基板を貫通した導体スルーホールや、平面電極パターンによる表面配線に変更してもよい。
【0024】
次に、表1に本発明に係る実施例の回路保護素子と比較例の回路保護素子の内部抵抗値および溶断時間を比較した結果を示す。供試回路保護素子は、室温25℃で内部抵抗値(搭載後のヒューズ素子の抵抗値)と発熱抵抗値(発熱抵抗素子の抵抗値)を測定電流100mAで四端子法を用いて測定し、次に各回路保護素子の抵抗発熱素子に10W印加してヒューズ素子が動作するまでの時間を測定し両者を比較した。実施例と比較例のヒューズ素子は共に2.0mm×2.4mm角のものを適用し、実施例には、実施例1の保護素子用ヒューズ素子10を搭載した実施例4の回路保護素子を用い、比較例には、厚さ100μmの87Pb−13Sn合金板のみからなる従来のヒューズ素子を実施例4と同じ絶縁基板にレーザー溶接機で接合した回路保護素子を用いた。実施例の保護素子は、内部抵抗値が比較例より小さい値を示し電力損失を低減できるようになっている。また、実施例の保護素子は、動作時間についても接合面積を広く取ることで熱伝導性が改善され、比較例より動作するまでの時間が短縮され動作性能が向上しているのが分かる。
【0025】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の複合金属材からなる保護素子用ヒューズ素子は、リフローなど全体加熱溶融により回路保護素子に組込み搭載できる。さらに、該ヒューズ素子を用いた本発明の回路保護素子は、他の表面実装部品と共に再びリフロー・ソルダリングにより電気回路基板にはんだ付け実装されて、電池パックなど2次電池の保護装置に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
10、20、30・・・保護素子用ヒューズ素子、
11、21、31、41・・・高融点ベース材、
12、22、32,42・・・低融点被覆材、
23、33、43・・・絶縁基板、
24、34、44・・・パターン電極、
25、35、45・・・ヒューズ素子(ヒューズエレメント)、
26、36、46・・・キャップ状蓋体、
27、37、47・・・ハーフ・スルーホール、
38、48・・・抵抗発熱素子。
図1
図2
図3
図4