【文献】
野田善之、寺嶋一彦,高速・高精度自動注湯ロボットにおける制御システム,精密工学会誌,日本,精密工学会,2010年10月 5日,vol76,No.4,p390-394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、
目標注湯流量を設定し、
取鍋から流出する溶湯の流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、
溶湯の取鍋からの注湯流速を推定する流速推定処理と、
溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋が、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを注湯中に減じるように取鍋の搬送軌道を生成する取鍋搬送軌道生成処理と、
を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
前記取鍋搬送軌道生成処理は、あらかじめ設定された前記取鍋と前記物体との衝突モード1−3と、その衝突モードに対応して算出される取鍋の動作切替条件と、に基づいて、各衝突モードに対応した搬送軌道を生成することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、
目標注湯流量を設定し、
取鍋から流出する溶湯の流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、
溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、注湯中には出湯口の高さを変化させず、出湯口を仮想の回動軸として取鍋が傾動するように搬送する取鍋の搬送軌道であって、あらかじめ設定された取鍋と取鍋の可動範囲に存在する物体との衝突モード1−3に基づいて、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さが、取鍋が前記物体と衝突しないような最小の高さとなる搬送軌道を生成する搬送軌道を生成する第2の取鍋搬送軌道生成処理と、
を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、フィードフォワード制御により取鍋から流出した溶湯の落下位置を制御するものであり、特許文献2に記載の技術は、特許文献1に示す落下位置制御で取鍋から流出する溶湯の落下位置が目標位置からずれた際に補正するように取鍋を前後動させる落下位置制御である。しかし、特許文献1及び2に記載の技術では、取鍋出湯口と鋳型内湯口を上下方向で接近させないために、高位置での注湯動作になることがあり、取鍋から流出した溶湯の自由落下時間の長期化による溶湯の温度低下や取鍋から流出した溶湯の鋳型内湯口接触時の流速が早くなるため、接触後に飛散する恐れがあった。取鍋出湯口と鋳型内湯口を接近させるためには取鍋を上下動させることが必要であるが、上下動の際に鋳型や注湯装置の台座などへ衝突する恐れがあった。
また、特許文献3に記載の技術は、鋳型を移動させる装置であり、新たな設備が必要になることや鋳型以外の周辺台座への衝突を回避することを補償していないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、取鍋を鋳型や周辺の台座など取鍋の可動範囲に存在する物体に衝突させずに、取鍋出湯口と鋳型内湯口を接近させ、取鍋から流出する溶湯を鋳型内湯口へ精度良く注湯することができる傾動式自動注湯装置における注湯制御方法及び記憶媒体を提供することを目的とする.
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、上記目的を実現するために、請求項1に記載の発明では、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御方法であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の
流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する工程と、溶湯の取鍋からの注湯流速を推定する流速推定工程と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋が、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを
注湯中に減じるように取鍋の搬送軌道を生成する取鍋搬送軌道生成工程と、を備え、
前記取鍋搬送軌道生成工程は、あらかじめ設定された前記取鍋と前記物体との衝突モード1−3と、その衝突モードに対応して算出される取鍋の動作切替条件と、に基づいて、各衝突モードに対応した搬送軌道を生成し、注湯中に取鍋が前記物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを減じるように取鍋の動作を制御し、鋳型に注湯する、という技術的手段を用いる。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができるとともに、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突しないように取鍋の搬送軌道を生成し、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを減じるように取鍋の動作を制御し、鋳型に注湯することができる。これにより、注湯中に取鍋出湯口と鋳型内湯口を接近させない従来の注湯制御方法に比べ、取鍋から流出した溶湯の自由落下時間を短縮し、溶湯の温度低下を抑制することや溶湯が鋳型へ接触する際の流速を抑えて衝突後の飛散を抑えることができる。
取鍋搬送軌道生成工程においては、取鍋の形状や取鍋と取鍋の可動範囲に存在する物体との位置関係などを考慮し、あらかじめ設定された取鍋と当該物体との衝突モードと、その衝突モードに対応して算出される取鍋の動作切替条件と、に基づいて、衝突モードに対応した搬送軌道を生成することができる。
【0010】
請求項
2に記載の発明では、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御方法であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の
流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する工程と、溶湯の取鍋からの注湯流速を推定する流速推定工程と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、
注湯中には出湯口の高さを変化させず、出湯口を仮想の回動軸として取鍋が傾動するように搬送する取鍋の搬送軌道であって、あらかじめ設定された取鍋と取鍋の可動範囲に存在する物体との衝突モード1−3に基づいて、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さが、取鍋が前記物体と衝突しないような最小の高さとなる搬送軌道を生成する搬送軌道を生成する第2の取鍋搬送軌道生成工程と、を備え、注湯中に取鍋が前記物体と衝突せずに、取鍋の出湯口を仮想の回動軸とするように取鍋の動作を制御し、鋳型に注湯する、という技術的手段を用いる。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
【0011】
請求項
2に記載の発明によれば、溶湯落下位置を制御することにより、取鍋から流出する溶湯を正確に鋳型内湯口へ注ぐことができるとともに、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さが最少となるように取鍋の搬送軌道を生成し、出湯口を仮想の回動軸として取鍋の動作を制御し、鋳型に注湯することができる。これにより、簡便な制御により、取鍋から流出した溶湯の自由落下時間を短縮し、溶湯の温度低下を抑制することや溶湯が鋳型へ接触する際の流速を抑えて衝突後の飛散を抑えることができる。また、注湯中に出湯口の高さが一定であるので、外乱の影響を受けにくいとともに、取鍋を搬送するための動力を小さくすることができる。
第2の取鍋搬送軌道生成工程においては、取鍋の形状や取鍋と取鍋の可動範囲に存在する物体との位置関係などを考慮し、あらかじめ設定された取鍋と当該物体との衝突モードに基づいて、取鍋の出湯口の位置を設定することができる。
【0014】
請求項
3に記載の発明では、コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の
流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、溶湯の取鍋からの注湯流速を推定する流速推定処理と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋が、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを
注湯中に減じるように取鍋の搬送軌道を生成する取鍋搬送軌道生成処理と、を実行するためのプログラムが記憶された
コンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、前記取鍋搬送軌道生成処理は、あらかじめ設定された前記取鍋と前記物体との衝突モード1−3と、その衝突モードに対応して算出される取鍋の動作切替条件と、に基づいて、各衝突モードに対応した搬送軌道を生成することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体、という技術的手段を用いる。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
【0015】
請求項
4に記載の発明では、コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の
流量の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、
注湯中には出湯口の高さを変化させず、出湯口を仮想の回動軸として取鍋が傾動するように搬送する取鍋の搬送軌道であって、あらかじめ設定された取鍋と取鍋の可動範囲に存在する物体との衝突モード1−3に基づいて、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さが、取鍋が前記物体と衝突しないような最小の高さとなる搬送軌道を生成する搬送軌道を生成する第2の取鍋搬送軌道生成処理と、を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体、という技術的手段を用いる。
衝突モード1:取鍋の前方下端の端部が鋳型上面に最接近する場合
衝突モード2:取鍋の前方側面部が鋳型の端部に最接近する場合
衝突モード3:取鍋の前方下端の端部が取鍋傾動式自動注湯装置の台座の上面に最接近する場合
【0016】
請求項
3、請求項
4に記載の発明のように、本発明の注湯制御方法は、当該制御方法をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の注湯制御方法について、図を参照して説明する。
【0019】
本発明の注湯制御方法を採用する傾動式自動注湯装置の一例を
図1に示す。傾動式自動注湯装置1は、溶湯が保持される取鍋10と、取鍋10のθ軸を軸とした軸回り方向に回動する傾動、Y軸方向への前後動、Z軸方向への上下動を可能にするサーボモータ11、12、13とを備えている。
【0020】
サーボモータ11、12、13にはそれぞれロータリーエンコーダが設けられており、取鍋10の位置や傾斜角度を計測することができるとともに、コンピュータによって制御指令信号が与えられるように構成されている。ここで、「コンピュータ」とは、パソコン、マイコン、プログラマルロジックコントローラ(PLC)及びデジタルシグナルプロセッサ(DSP)などのモーションコントローラを言う。
【0021】
傾動式自動注湯装置1は、上述の構成により、サーボモータ11、12、13を制御して、取鍋10を所定の軌道で搬送することにより、出湯口10aより溶湯を排出し、鋳型内湯口20aより鋳型20内部に溶湯を注湯することができる。
【0022】
図1に示す傾動式自動注湯装置に対して、取鍋10が、鋳型20及び傾動式自動注湯装置1の台座14などの取鍋10の可動範囲に存在する物体に衝突せず、取鍋10の出湯口10aが鋳型20の鋳型内湯口20aへ接近し、鋳型内湯口20aへ高精度に注湯する取鍋位置
図2に示す制御システムを構築する。サーボモータへの制御指令信号から取鍋10から流出する溶湯の水平方向落下位置までの数理モデルを以下に示す。
【0023】
図2に示すP
fは、取鍋10が傾動することで,取鍋10から流出する溶湯の注湯プロセスである。
【0024】
図3には、取鍋10の注湯時の縦断面図を示す。取鍋10の傾動角度をθ[deg]、取鍋10の出湯口10aより下部の溶湯体積をV
s(θ)[m
3]、出湯口10aに対する水平面の面積をA(θ)[m
3]、出湯口10aより上部の溶湯体積をV
r[m
3]、上部溶湯の高さをh[m]、取鍋10から流出する溶湯の流量をq[m
3/s]とすると、注湯時における時刻t[s]からΔt[s]後の取鍋内溶湯の収支式は式(1)で表される。
【0026】
式(1)を溶湯体積V
r[m
3]についてまとめ、Δt→0とすると式(2)となる。
【0028】
取鍋10の傾動角速度ω[deg/s]は式(3)で表される。
【0030】
式(3)を式(2)に代入すると、式(4)が得られる。
【0032】
また、出湯口より上部の溶湯体積V
r[m
3]は式(5)で表される。
【0034】
ここで、面積A
s[m
2]は、出湯口水平面からの高さh
s[m]における溶湯水平面積を示す。
【0035】
面積As[m
2]を出湯口水平面の面積A[m
2]と面積A[m
2]に対する面積変化量ΔA
s[m
2]に分割すると、溶湯体積V
r[m
3]は式(6)で表される。
【0037】
一般的な取鍋(扇形や円筒形など)において、面積変化量ΔA
s[m
2]は出湯口水平面の面積A[m
2]に対して微小であるから、下記の式(7)が得られる。
【0039】
したがって、式(6)は式(8)とすることができる。
【0041】
よって、式(8)より式(9)が得られる。
【0045】
また、ベルヌーイの定理を用いて、出湯口10aより上部の溶湯高さh[m]から溶湯流量q[m
3/s]までを下記の式(11)で示す。
【0047】
ここで、h
b[m]は
図4に示すように取鍋内溶湯表面からの水深、L
f[m]は出湯口幅、g[m/s
2]は重力加速度、cは流量係数である。
【0048】
以上より、注湯プロセスP
fは式(10)及び(11)により表される。
【0049】
図2に示すP
mは取鍋10を傾動させるサーボモータの動特性であり、次式で表わされる。
【0052】
ここで、ω[deg/s]は傾動角速度、u[V]は入力電圧、T[s]は時定数、K[deg/s/V]はゲイン定数である。
【0053】
次に出湯後の溶湯の落下位置推定方法について述べる。
【0054】
図2に示す溶湯の液体流出プロセスモデルP
oにおいて、溶湯の水平方向の落下距離Sv[m] は流出速度v
f[m/s]と落下時間T
f[s]の積から求めることができ、v
f[m/s]と溶湯到達位置からの高さS
w[m] の式として表わされる。流出速度v
f[m/s] は溶湯の流量をq[m
3/s]を出湯口10aにおける溶湯の断面積A
p[m
2]で除したものを用い、縮流の影響を考慮し一次関数で表すこととした。
【0060】
ここで、v
f0[m/s]は
図5に示すように取鍋10内の溶湯が出湯口ガイド10bへ侵入する際の流速である。α
0、α
1は、取鍋10から流出する溶湯が出湯口において、重力の影響により溶湯断面が収縮し、流速が増大する際の影響係数である。
【0061】
式(15)〜(18)における示すθ
a[deg]は出湯口10aの先端の水平面に対する傾斜角である。取鍋10が垂直状態での水平面に対する出湯口先端傾斜角φ[deg]とし、取鍋傾動角度をθ[deg]とすると次式で表される。
【0063】
L
g[m]は
図5に示す出湯口ガイド10bの長さ、v[m/s]は溶湯が出湯口ガイド10bを流れ出る際の流速、v
f[m/s]は出湯口ガイド10bを流れ出る際の流速の水平成分、T
f[s]は出湯口10aから出た溶湯の落下時間である。S
w[m]は、
図6に示す出湯口10aからの垂直距離、S
v[m]は出湯口10aからの水平距離を示す。鋳型20の鋳型内湯口20a上面から出湯口10aまでの垂直距離をS
w[m]とすることで、出湯口10aからの水平方向落下位置S
v[m]を求めることができる。
【0064】
上述の数理モデルを基に、溶湯の落下位置を推定し、落下位置制御を行う制御システムを構築する。式(11)式より、目標注湯流量q
ref[m
3/s]を実現する出湯口上部の溶湯高さh
ref[m]は次式より求めることができる。
【0066】
出湯口上部溶湯高さh
ref[m]を実現する取鍋傾動角速度ω
ref[deg/s]は、式(4) に式(9)及び(20) を代入して整理し次式で表され、注湯プロセスP
fの逆モデルである流量推定逆モデルP
f−1が得られる。
【0068】
目標注湯流量q
ref[m
3/s]を実現するためのサーボモータへの入力電圧u[V]は式(12) で表される取鍋10を傾動させるサーボモータ11の動特性P
mの逆モデルP
m−1から導出される。P
m−1は、式(12)より次式のように求めることができる。
【0070】
式(20)〜(22)を順に求めることにより、目標注湯流量q
ref[m
3/s]を実現するサーボモータへの入力電圧u[V]を得ることができる。
【0071】
続いて、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋10が鋳型20や台座14などに衝突せずに、取鍋10の出湯口10aが鋳型20の鋳型内湯口20aへ接近し、正確に注湯することが可能な取鍋搬送の軌道生成を行う取鍋搬送軌道生成ブロックD
yzについて説明する。本実施形態では、矩形状の取鍋を用いた場合について説明する。
【0072】
逆流量モデルP
f−1P
m−1を用いたフィードフォワード注湯流量制御システムにより、目標流量パターンに実際の注湯流量が追従して、目標注湯流量q
ref[m
3/s]が実現される。この目標注湯流量q
ref[m
3/s]と流速推定ブロックE
fにおいて推定される溶湯の流速とを用いて取鍋10から流出する溶湯の落下位置を推定することができる。そして、推定された落下位置が目標位置である鋳型20の鋳型内湯口20aとなるように取鍋10を搬送することにより落下位置制御を行う。
【0073】
ここで、相対落下位置S
v[m]は出湯口10a先端を基準とした水平方向落下位置、絶対落下位置S
y[m]は鋳型20の上面における鋳型内湯口20aの中心を座標原点とした水平方向落下位置である。
【0074】
注湯中の取鍋10の可動範囲内に存在し、取鍋10と衝突する可能性がある物体、ここでは、鋳型20及び台座14の位置関係を
図7に示す。取鍋10の搬送軌道を求めるにあたり、基準となるy−z座標の原点を鋳型20の上面での鋳型内湯口20aの中心と定めた。y
f,z
f [m] は出湯口先端の座標、y
b,z
b[m] は取鍋底部の端部Pの座標である。L
s[m] は取鍋の前方側面部10cの長さ、γ[deg] は垂直線に対する取鍋の出湯口側の傾斜角である。また、d
m[m]は端部Pから鋳型内湯口20a中心までの長さ、d
f[m]はy 軸上の溶湯落下距離、d
p[m]は出湯口10a先端をy軸上に投影した点と端部Pをy軸上に投影した点との距離、d
h[m]は鋳型20上面と台座14上面との高さの差である。
【0075】
取鍋10が鋳型20もしくは台座14に接近する際の位置関係は、
図7に示すような3つのモードに分けることができる。モード1は、取鍋10の前方下端のが端部Pが鋳型20の上面に最接近する場合である。モード2は、取鍋10の前方側面部10cが鋳型20の端部に最接近する場合である。モード3は、取鍋10の前方下端の端部Pが台座14の上面に最接近する場合である。本実施形態では、安全のため、上面から距離ε未満の領域を進入禁止領域として設定し、進入禁止領域には取鍋10が進入しないように搬送することとした。
【0076】
それぞれのモードはコンピュータに記憶された取鍋10と鋳型20、台座14などの周辺環境との位置関係に基づいて算出される下記の条件で遷移し、それぞれのモードに対して取鍋10の動作が切り替わり、取鍋10が鋳型20や台座14などに衝突せず出湯口10aが鋳型内湯口20aに接近し正確に注湯する取鍋位置[y
f,z
f]が導出される。ここで、添字の1〜3はそれぞれモード1〜3に対応する。なお、式(23)の条件は、矩形状の取鍋を用いた場合の条件であり、取鍋の前方側面部の形状に応じて設定される条件である。
【0078】
ここで、d
f及びd
pはつぎのように示される.
【0081】
それぞれのモードでの取鍋位置は以下のように導出される。
【0082】
<モード1>
モード1では、端部Pが鋳型20の上面から距離εを保った状態で搬送される。取鍋上下方向位置Z及び取鍋前後方向位置Yはそれぞれ次のように得られる。
【0085】
<モード2>
モード2では、傾動角度に応じて端部Pの高さが常に変化し、端部Pが原点よりも低い位置にあるときに出湯口10a先端を最も低い位置に搬送することができる。
取鍋の上下方向位置はつぎの式を満たすz
fを求めることで得られる。
【0087】
式(28)はニュートンラフソン法などの数値解法による数値解で得られる。また、取鍋形状によっては解析解を得ることもできる。ここで、ニュートンラフソン法による取鍋上下方向位置の導出を示す。式(28)に式(17)〜(19)を代入すると次式のようになる。
【0089】
式(29)のz
fに対する微分はつぎのようになる。
【0091】
従って、次式を反復計算することでz
fnが収束する。
【0093】
ここで、式(31)の反復計算における初期値z
f0は1サンプリング前に求解された取鍋上下方向位置を用いる。そして,得られた取鍋上下方向位置z
fをモード2における取鍋上下方向位置z
f2として次式に代入することで,取鍋前後方向位置y
f2が得られる.
【0095】
<モード3>
モード3では、端部Pが台座14の上面から距離εを保った状態で搬送される。モード2により取鍋上下方向位置はつぎのように得られる.
【0097】
そして、得られた取鍋上下方向位置z
f3を次式に代入することにより取鍋前後方向位置y
f3が得られる。
【0099】
式(23)〜(34)で得られたy
fとz
fをそれぞれy
ref及びz
refとして、取鍋前後搬送システムG
y、取鍋上下搬送制御システムG
zに与えることにより取鍋10が鋳型20や台座14などに衝突せずに、出湯口10aが鋳型内湯口20aに最接近し、鋳型内湯口20aへ正確に注湯する注湯制御方法が実現する。
【0100】
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。つまり、コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、溶湯の取鍋からの注湯流速を推定する流速推定処理と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋が、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さを減じるように取鍋の搬送軌道を生成する取鍋搬送軌道生成処理と、を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体に適用することができる。
【0101】
(変更例)
ここで、フィードフォワード制御に加えて、フィードバック制御により位置誤差を補償して更に落下位置を正確に制御することもできる。例えば、傾動式自動注湯装置1の側方に、撮像装置としてのビデオカメラを設置し、取鍋10の出湯口10aから流出する溶湯の落下位置を計測する。カメラ座標内に目標位置を与え、目標位置と落下位置との位置偏差を求め、取鍋搬送軌道生成ブロックD
yzにおいて位置偏差分を補正するようにフィードバック制御を行い、取鍋10を移動させる。これにより、落下位置推定に誤差が生じた場合においても落下位置のフィードバック制御により補償されるので、注湯位置を高精度に制御することができる。
【0102】
[第1実施形態の効果]
本発明の注湯制御方法によれば、溶湯落下位置を制御することにより、取鍋10から流出する溶湯を正確に鋳型内湯口20aへ注ぐことができるとともに、取鍋10の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口20aから見た取鍋10の出湯口10aの高さを減じるように取鍋10の搬送軌道を生成し、取鍋10の動作を制御し、鋳型20に注湯することができる。これにより、注湯中に取鍋10の出湯口10aと鋳型内湯口20aを接近させない従来の注湯制御方法に比べ、取鍋10から流出した溶湯の自由落下時間を短縮し、溶湯の温度低下を抑制することや溶湯が鋳型20へ接触する際の流速を抑えて衝突後の飛散を抑えることができる。
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
【0103】
[第2実施形態]
第1実施形態では、注湯中に取鍋10の出湯口10aの高さを減じるように取鍋10の動作を制御したが、本実施形態では、あらかじめ設定された取鍋10と取鍋の可動範囲に存在する物体との衝突モードに基づいて、取鍋10の出湯口10aの出湯口の高さが最小となる取鍋10の搬送軌道を生成し、注湯中には、出湯口10aの高さを変化させず、出湯口10aを仮想の回動軸として取鍋10が傾動するように搬送する。
【0104】
第1実施形態では、注湯中に取鍋10の出湯口10aの高さが変化する動的条件下においてその高さが最少となるような搬送軌道を生成するが、本実施形態では、静的条件下において取鍋10が周囲の物体と衝突しないような最少の高さ、搬送軌道を算出し注湯初期位置を決める。
【0105】
取鍋10の出湯口10aが鋳型内湯口20aへ接近させる取鍋10の注湯初期位置決めは、次のように行う。まず、目標注湯流量q
refに対して、式(20)〜(22)を用いて、サーボモータへの入力電圧u[V]及び取鍋傾動角度θ[deg]を求める。得られた入力電圧u[V]と取鍋傾動角度θ[deg]を式(10)〜(18)に与えて取鍋10からの溶湯の水平方向の相対落下位置S
v[m]を求める。そして、相対落下位置S
v[m]の最頻値Mo(S
v)を求め、これらの値を式(23)〜(34)に示す取鍋搬送軌道生成に与えて、注湯初期における取鍋位置を導出する(請求項3に記載の第2の取鍋搬送軌道生成工程に相当)。取鍋10は注湯中には出湯口10a先端を仮想の回動軸として傾動する。従って、注湯初期よりも鋳型20や台座14と離れることになるため衝突の危険性はない。これにより、簡便な制御により、取鍋10が鋳型20や台座14に衝突することなく、取鍋10の出湯口10aを鋳型内湯口20aに接近させることができる。また、注湯中に出湯口10aの高さが一定であるので、外乱の影響を受けにくいとともに、取鍋10を搬送するための動力を小さくすることができる。なお、相対落下位置Sv[m]の最頻値Mo(Sv)ではなく、相対落下位置Sv[m]の中央値や平均値を取鍋搬送軌道生成に与えて、注湯初期における取鍋位置を導出することもできる。
【0106】
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。つまり、コンピュータを、取鍋の動作を前後動、上下動及び傾動で制御可能に構成された取鍋傾動式自動注湯装置における注湯制御手段として機能させるためのプログラムを記憶した記憶媒体であって、目標注湯流量を設定し、取鍋から流出する溶湯の数理モデルの逆モデルと取鍋を傾動させる傾動モータの逆モデルとから目標注湯流量を実現するための傾動モータへの入力電圧を生成する処理と、溶湯の落下位置を推定し、当該落下位置が目標位置となるようにするとともに、取鍋が、取鍋の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、取鍋の出湯口を仮想の回動軸とし、鋳型内湯口から見た取鍋の出湯口の高さが最小となる取鍋の搬送軌道を生成する第2の取鍋搬送軌道生成処理と、を実行するためのプログラムが記憶されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体に適用することができる。
【0107】
[第2実施形態の効果]
本実施形態の注湯制御方法によれば、溶湯落下位置を制御することにより、取鍋10から流出する溶湯を正確に鋳型内湯口20aへ注ぐことができるとともに、取鍋10の可動範囲に存在する物体と衝突せずに、鋳型内湯口20aから見た取鍋10の出湯口10aの高さが最少となるように取鍋10の搬送軌道を生成し、出湯口10aを仮想の回動軸として取鍋10の動作を制御し、鋳型20に注湯することができる。これにより、注湯中に取鍋10の出湯口10aと鋳型内湯口20aを接近させない従来の注湯制御方法に比べ、簡便な制御により、取鍋10から流出した溶湯の自由落下時間を短縮し、溶湯の温度低下を抑制することや溶湯が鋳型20へ接触する際の流速を抑えて衝突後の飛散を抑えることができる。そして、注湯中に出湯口10aの高さが一定であるので、外乱の影響を受けにくいとともに、取鍋10を搬送するための動力を小さくすることができる。
また、本発明は、上記制御をコンピュータによって実行可能とする注湯制御プログラム、このプログラムをコンピュータによって読み取り可能に記憶した記憶媒体にも適用される。
【実施例】
【0108】
本発明の注湯制御方法の有用性を示すために、注湯中に取鍋出湯口と鋳型内湯口を接近させない従来の注湯制御方法(従来法)と取鍋の搬送軌跡を比較した。初期条件は、初期傾動角度θ
0=20[deg]、鋳型の湯口中心から側部までの長さd
m=0.25[m] とした。また、目標流量を
図8に示すようなベル型で与え、定常部の流量をmax(q
ref)=3.5×10
−4[m
3/s]とした。
【0109】
図9に従来法の取鍋の搬送軌跡を、
図10に本発明の注湯制御方法による取鍋の搬送軌跡を、
図11に取鍋出湯口先端と底部の搬送軌跡の比較を示す。出湯口先端の軌道を見てみると、本発明の注湯制御方法では注湯動作中の姿勢に応じて出湯口の高さが低くなっており、従来法と比較して最大150[mm] 低い地点での注湯を実現することができた。また、底部の搬送軌跡を見てみると、従来法では注湯が進むにつれて取鍋と鋳型との間隔が広がっているが、本発明の注湯制御方法では取鍋が鋳型に沿った動作をしており、このことからも低位置での注湯が実現されていることがわかる。更に、底部の軌跡が鋳型の上面・側部に沿っていることから、鋳型との衝突が回避されていることが確認できた。