【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明のバイオマスの接触分解方法及びそれに用いる脱炭酸・水素化接触分解触媒は、以下の構成を有している。
請求項1に記載のバイオマスの接触分解方法は、
MgO及び水素化触媒が担体の炭素に担持された脱炭酸・水素化接触分解触媒を350℃〜475℃に加熱した1〜10気圧の水素雰囲気の反応容器中でバイオマスと接触させ前記バイオマスから炭素数10〜20の炭化水素を主として生成する構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)脱炭酸・水素化接触分解触媒を収容した反応容器に水素を導入しながら接触分解を行うので、MgOによるバイオマスの脱炭酸分解反応が進行するとともに、水素化触媒により不飽和脂肪酸や不飽和炭化水素が水素化されるので、過分解による分解生成物の低分子化が起こり難く、炭素数10〜20のディーゼル油留分の回収率を向上させることができる。
(2)MgOの脱炭酸分解反応によって、分解油の酸価やヨウ素価が低下し、水素化触媒の水素化により、直鎖の飽和炭化水素が得られるとともに、接触分解によって炭化水素が異性化し、一部iso体の炭化水素が得られるので、高セタン価で流動点の低く、高品質なバイオディーゼル燃料を得ることができる。
(3)大気圧下で不飽和脂肪酸や不飽和炭化水素の水素化を行うことができるので、高圧下での反応に比べて安全性に優れる。
(4)反応容器内を高圧にしないので制御が簡単で、消費する水素量が少なく、省資源性に優れる。
【0008】
ここで、原料となるバイオマスとしては、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものであり、具体例としては、搾油して得られた菜種油,パーム油,パーム核油,オリーブ油,大豆油,エゴマ油,ひまし油,ヤトロファ油,コーン油等の植物油、テルペン類、魚油,豚脂,牛脂等の動物脂等、ある種の藻類から採取された油脂やこれらの混合物を用いることができる。また、天ぷら油等の廃食用油を用いることもできる。常温で固化する豚脂,牛脂等の油脂は、加熱された触媒や予熱により融けて液状化するため、油脂は液状,固形状のいずれも用いることができる。また、油脂等から分離される遊離脂肪酸からなるダーク油、も原料として用いることができる。
【0009】
更にバイオマスとして、アブラヤシの果肉や種子,ココヤシの胚乳,菜種,オリーブの果実,エゴマやトウゴマ等の種子,ナンヨウアブラギリ(ヤトロフア)やコウヒジュの種子等の搾油前の植物の果実や種子等の搾油原料を用いることができる。またある種の藻類は油脂を細胞内に蓄えることが知られており、この藻類を脱水して濃縮したものを用いることもできる。搾油原料は乾燥させた後に用いるのが好ましい。水分を除去して加熱効率を高めるためである。また、MgOによる分解効率を高めるため、搾油原料は、粉砕若しくは破砕して表面積を広くしたものを用いるのが好ましい。圧搾等によって搾油された後の廃搾油原料も用いることができる。これらは搾油後であっても、まだ多くの油脂が残存しているためである。また、同様の理由で油脂や搾油原料と鉱物油との混合物として、ヘキサンなどの鉱物油によって熱的に搾油した後の搾油原料なども使用できる。
なお、搾油原料の殻等のセルロースは、炭化して反応容器内に残留するため、残留した炭化物は必要に応じて反応容器内から抜き出せば良い。
搾油原料や廃搾油原料を350℃〜475℃でMgOに接触すると、搾油原料の内の殻等のセルロースが炭化されるとともに、搾油原料の油脂成分が溶出してMgOに接触して油脂成分中の脂肪酸のエステル結合部分が開裂され、触媒による脱炭酸分解反応が起こり、バイオ燃料を得ることができる。
【0010】
MgOと同等の作用を有する触媒としては、ほかに、CaO,SrO,BaO等のアルカリ土類金属酸化物、La
2O
3,Th
2O
3等のランタノイド,アクチノイドの酸化物、ZrO
2やTiO
2等の金属酸化物、アルカリ土類金属等の金属炭酸塩、SiO
2−MgO,SiO
2−CaO等の複合酸化物、RbやCs等のアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンで交換したゼオライト、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を添加し部分的あるいは全面的に被毒したFCC触媒やFCC廃触媒、Na,K等のアルカリ金属が蒸着されたNa/MgO,K/MgO等の金属蒸着金属酸化物、KF/Al
2O
3,LiCO
3/SiO
2等のアルカリ金属塩等を用いることができる。これらの混合物を用いることもできる。また、加熱されるとMgOとCaOの混合物となるドロマイト等の鉱物も好適に用いることができる。
【0011】
水素化触媒としては、周期表第8B族、Cu、Re等を用いることができる。また、Co,Ni,Cr,Zn,W等は酸化物又は硫化物、Rh,Ru,Ir,Pt,Co,Cr,Ti等の錯体も用いることができる。
【0012】
バイオマスは、脱炭酸・水素化接触分解触媒に接触させる前に、350℃以下の温度で予熱することもできる。脱炭酸・水素化接触分解触媒と接触した後、速やかに加熱されるようにして、分解効率を高めるためである。
【0013】
反応容器中の
脱炭酸・水素化接触分解触媒の加熱温度が350℃より低くなると、脱炭酸分解反応の進行が遅くなり未分解成分が多くなるとともに、MgOが再生しなくなる傾向がみられる。また、475℃より高くなると、ガスやコークの生成量が増加し、炭素数10〜20の炭化水素を主成分とする生成物の生成量が低下する傾向がみられるため、いずれも好ましくない。
【0014】
反応容器としては、例えば、脱炭酸・水素化接触分解触媒が収容された反応容器と、反応容器内の脱炭酸・水素化接触分解触媒を加熱する加熱装置とを備えたものが用いられる。反応容器は、固定床方式、流動床方式、ロータリキルン方式、撹拌方式等を用いることができる。なかでも、撹拌方式が好ましい。操業中に反応条件等が悪化すると、脱炭酸・水素化接触分解触媒の表面に
油脂等の分解物(芳香族化合物等)が重合して付着し、その重合物によって複数の脱炭酸・水素化接触分解触媒が結合して反応容器内で塊状化して操業できなくなることがあるが、撹拌によって機械的に解砕し局地的コーキングを防止できるからである。
【0015】
脱炭酸・水素化接触分解触媒を加熱し反応温度に達したら、搾油原料や廃搾油原料・
油脂等のバイオマスを噴霧,噴射,滴下,散布等によって反応容器内に導入し、脱炭酸・水素化接触分解触媒と接触させる。連続式に処理を行なっても良いし、バッチ式に処理を行っても良い。
また、水素を連続的に導入することにより、接触分解により生成された分解生成物を系外に排出させるキャリアガスとして作用させることができるとともに、水素化触媒に吸着した水素分子は水素原子に解離し、不飽和炭化水素の二重結合を水素化するので、不飽和炭化水素の過分解による分解生成物の低分子化を防ぐことができる。排出された分解生成物は冷却されバイオディーゼル燃料として回収される。
水素に加え、窒素ガス,ヘリウムガス等の不活性ガスや水蒸気等を同時に導入しても良い。水素の導入量は、原料中の不飽和結合を水素化するのに十分な量が導入されれば良い。
【0016】
脱炭酸・水素化接触分解触媒と接触したバイオマスの反応の一例を示すと、活性コークスに担持されるMgOを用いた場合、MgOは脂肪酸と反応することで炭酸マグネシウムとなる。生成された炭酸マグネシウムは350℃以上で分解して脱炭酸が起こりMgOとなるため、反応容器の加熱温度内で脱炭酸後のMgOは繰り返しバイオマスの分解に寄与することができる。
【0017】
反応容器内の圧力は、1〜10気圧が選択されるが、大気圧乃至は2〜3気圧程度に維持するのが好ましい。バイオマス等の脱炭酸分解により軽油や灯油等の可燃性ガスが生成されるため、負圧であると反応容器内に空気が導入され、反応容器に導入した水素や生成された可燃性ガスに着火し爆発する可能性があるからである。
【0018】
脱炭酸分解工程において、バイオマスの脱炭酸・水素化接触分解触媒(体積)に対する1時間当たりの投入量(体積)を示す液空間速度は0.05〜2.0h
-1、好ましくは0.15〜1.0h
-1が好適に用いられる。液空間速度が0.05h
-1未満であると、処理効率が低い上に2次的な分解により生成油分が軽質ガス成分が増加して、灯・軽油分の収率が低下する傾向にあり好ましくない。また2.0h
-1を超えると、触媒と油脂等のバイオマスとの接触時間が短くなり
バイオマスの分解率が低下するとともに、ケトン等が多いので酸価が高くなる傾向にあり好ましくない。
【0019】
反応容器に収容される脱炭酸・水素化接触分解触媒の量は、5vol%〜60vol%、好ましくは20vol%〜50vol%が選択される。脱炭酸・水素化接触分解触媒の量が、20vol%よりより少なくなるにつれ、該触媒に接触できるバイオマスの比率が下がり、加熱により熱分解するバイオマスの比率が上がるので、分解生成物中の軽質ガスの量が増え、バイオ燃料の回収率が下がり、5vol%より少なくなるにつれ、この傾向が顕著となり好ましくない。また、50vol%より多くなるにつれ、撹拌効率が悪かったり、搾油原料等の嵩の大きい原料を投入した場合に触媒と接触が悪く加熱によって熱分解される原料が増え、残渣が増える傾向にあり、60vol%より大きくなるにつれ、この傾向が顕著となり好ましくない。
また、失活した脱炭酸・水素化接触分解触媒は、必要に応じて反応容器内で若しくは反応容器から抜き出した後、再生することができる。
【0020】
上記のバイオマスの接触分解方法で用いられる接触分解装置は、350℃〜475℃に加熱した脱炭酸・水素化接触分解触媒とバイオマスを接触させ1〜10気圧の水素雰囲気下で前記バイオマスの接触分解が行われる反応容器と、前記反応容器に配設され前記バイオマスを供給する供給部と、前記反応容器を加熱する加熱部と、前記反応容器に配設され水素を導入する水素導入部と、前記反応容器に配設され分解生成物が水素によって排出される導出部と、前記導出部に連設し前記分解生成物中の分解油を回収する分解油貯蔵部と、を備えていることを特徴とする。
反応容器としては、前記〔0014〕欄に記載の反応容器、
脱炭酸・水素化接触分解触媒としては、前記〔0010〕
欄に記載のMgOや〔0011〕欄
に記載の水素化触媒が用いられる。
この構成により、以下の作用が得られる。
(1)搾油原料や油脂等
のバイオマスが加熱された
脱炭酸・水素化接触分解触媒によって加熱されると同時に脱炭酸分解反応が進行するとともに水素化反応も同時に進行するので、コークス等の発生が少なく、回収率が高いとともに、
脱炭酸・水素化接触分解触媒の効果を維持しつつ、水素化触媒によって炭化水素の不飽和結合が熱分解等を起こす前に水素化するため、搾油原料や油脂等のバイオマス由来の炭素数10〜20の炭化水素を選択的に回収することができる。
【0021】
本発明の請求項2に記載の脱炭酸・水素化接触分解触媒は、請求項1に記載の
油脂の接触分解方法に用いる脱炭酸・水素化接触分解触媒であって、炭素に担持されたMgО及び水素化触媒を有し、前記炭素に対して、5〜50wt%の前記MgОが担持されている構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)MgОと水素化触媒の両方を備えているので、MgОの脱炭酸分解反応により、
油脂由来の炭素数を主成分とする炭化水素が生成するとともに、水素化触媒が不飽和炭化水素や不飽和脂肪酸中の二重結合を水素化し、飽和炭化水素にするので、過分解を抑え、分解生成物における原料
油脂由来の炭素数10〜20の炭化水素の選択性を向上することができる。
(2)MgOと水素化触媒を炭素に担持させているの
で、接触分解の分解効率を高めることができる。
(3)MgОが所定の割合で炭素に担持されているので、水素化触媒の担持量にかかわらず、水素化触媒によって脱炭酸分解反応が阻害されることなく、分解生成物中の分解油を高い回収率で得ることができる。
(4)MgОが担持されていることにより、バイオマスが熱エネルギーで分解されて生成される脂肪酸に対する脱炭酸分解反応が促進され、効率よく油脂が分解されるので、分解油
の回収率を増すことができるとともに、残渣の量を減量させることができる。
(5)MgОは、脱炭酸分解反応後に炭酸マグネシウムとなるが、350℃以上で分解し、脱炭酸されることでMgОに戻る。そのため、使用する際の加熱温度によっては、繰り返し脱炭酸分解反応に寄与することができる。
接触分解において、MgОは、油脂が分解して生成される脂肪酸を直接脱炭酸することにより、脂肪酸由来の炭素数−1の炭化水素を生成するとともに、脂肪酸をケトン化し、更にケトンが分解することにより、アセトンと原料由来の脂肪酸の炭素数−2の炭化水素を生成する。MgОは、これらの脱炭酸分解反応を促進する効果があることを確認したので、触媒の脱炭酸効果を高めることができる。
また、接触分解により直鎖状の炭化水素の一部が分枝状の炭化水素に異性化するので、分解生成物中の分解油の流動点の低下が期待される。
【0022】
脱炭酸・水素化接触分解触媒の担体である炭素としては、コークス、活性コークス、活性炭が用いられるが、炭素の粒子サイズは、用いる反応容器が固定床の場合は1〜3mm,反応容器が撹拌型の場合は0.1〜3mmが好適に用いられる。
固定床の場合、粒子サイズが1mmより小さくなるにつれ、コーキングによる反応系の閉塞が置き易くなる傾向にあり好ましくない。また粒子サイズが3mmより大きくなるにつれて、触媒間に空間ができるので、油脂が通ることができるが、粒子が大きい分、単位体積当りの表面積が小さいので、接触効率が悪くなる傾向にあり好ましくない。撹拌型の場合、粒子サイズが0.5mmより小さくなるにつれ、飛散する触媒の量が増す傾向にあり好ましくない。また、3mmより大きくなるにつれ、単位体積当りの表面積が小さいので、接触効率が悪くなる傾向にあり好ましくない。
また、細孔容積が0.1cm
3/g以上,比表面積が200m
2/g以上の物が好適に用いられる。
細孔容積が0.1cm
3/gより小さくなるにつれ、担持できるMgOや水素化触媒の量が少なくなり、分散度が下がるので、脱炭酸分解及び水素化の効率が下がる傾向にあり好ましくない。
比表面積が200m
2/gより小さくなるにつれ、MgOや水素化触媒の分散度が下がるとともに、原料との接触面積が小さくなるので、分解効率が低下する傾向にあり好ましくない。
尚、細孔容積と比表面積の上限は、担体の形状による。
【0023】
炭素にMgO及び水素化触媒を担持させる方法としては、含浸法、沈殿法、ゾルゲル法、共沈法、イオン交換法、混練法、蒸発乾固法等の通常の方法によれば良く、特に限定されるものではないが、含浸法が好ましい。
また、炭素にMgO及び水素化触媒を担持させる時は、触媒の種類によってはどちらを先に担持させても良いが、水素化触媒が表面に担持されるようMgOを担持させた後に水素化触媒を担持させる方が好ましい。触媒の混合溶液を用いて一度に担持させても良い。
【0024】
【0025】
炭素に担持されるMgOの割合は5〜50wt%、好ましくは5〜15wt%が好適に選ばれる。MgOの割合が5wt%より低くなるにつれ、脱炭酸分解反応が不十分となり、生成物中に含酸素化合物が増える傾向にあり好ましくない。また、50wt%より高くなるにつれ、シンタリングが起こり易く、表面積が小さくなるので、脱炭酸分解反応効率が低下する傾向になり好ましくない。
【0026】
請求項
3に記載の脱炭酸・水素化接触分解触媒の発明は、請求項2において、前記炭素に対して、0.3〜20wt%の前記水素化触媒が担持されている構成を有している。
この構成により、請求項2で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)水素化触媒が所定の割合で炭素に担持されることにより、脱炭酸分解反応に加え、不飽和結合の水素化も過不足無く行われるので、分解生成物における原料油脂由来の炭素数10〜20の炭化水素の選択性を向上させることができる。
【0027】
活性コークスに担持される水素化触媒の割合は、0.3〜20wt%が担持される。水素化触媒の割合が0.3wt%より低くなるにつれ、二重結合の水素化が十分に行われず、過分解される不飽和炭化水素の割合が増え、炭素数10〜20の飽和炭化水素の選択性が減少する傾向にあり好ましくない。また、20wt%より高くなるにつれ、シンタリングが起こり易く、表面積が小さくなるので、水素化反応効率が低下する傾向にあり好ましくない。
【0028】
【0029】
【0030】
請求項
4に記載の脱炭酸・水素化接触分解触媒の発明は、請求項2
又は3において、前記水素化触媒が、Pd,Ni,Fe,Ru,Ptのいずれか1以上である構成を有している。
この構成により、請求項2
または3のいずれか1で得られる作用に加え、以下のような作用が得られる。
(1)Pd,Ni,Fe,Ru,Ptは、炭素の重結合を単結合に水素化する反応に優れるので、水素圧等を高圧にしなくてもよく、不飽和炭化水素の重結合部分が分解される前に素早く水素化し過分解を防ぐことができるため、炭素数10〜20の飽和炭化水素の選択性を向上することができる。
【0031】
水素化触媒には、目的とする水素化反応に応じて触媒が選択され、水素圧や反応温度も選択性に大きな影響を与える。
Pd,Ni,Fe,Ru,Ptは、炭化水素中の炭素の二重結合や三重結合を単結合に水素化する反応性に優れるが、中でもNi,Feは、金属として比較的安価であるので、触媒を安価に提供できるので好適である。